GUNDAM WAR -Encounter of Fate-
PHASE-12「4大国の戦火」
突如、脅威的な力を発揮したアリカとコーラル。その姿を、エクリプスワンに待機していたアリッサとミユも確認していた。
「コーラルが許容範囲を大きく超えた戦闘能力を発揮。我々のMSを行動不能に陥らせています。」
ミユが淡々と現状を報告していく。
「いかがいたしましょうか?現状、我々の勝率は、41.12%にまで減少していますが・・」
「今回はもういいでしょう。私たちの力は、十分世界に知れ渡ったでしょう・・信号弾、発射。撤退します。」
「了解です、お嬢様。」
アリッサの指示を受けたミユ。エクリプスワンから信号弾が発射される。まばゆき照らされた照明が、シアーズの撤退を指し示していた。
一進一退の攻防を見せているツキヨミとハリー。ツキヨミが誘導プラズマ砲「フレスベルグ」で狙いを定めると、ハリーがドリルに変形させた腕でビームを弾き返す。
お互いに引かない勝負だが、ハリーの鉄棒がツキヨミを突き飛ばしたところで、エクリプスワンから信号弾が発射した。
「信号弾!?・・・撤退・・・!?」
サクヤがシアーズ撤退に眉をひそめる。アカネも戦いを止めて相手の出方をうかがう。
「しょうがない。お兄ちゃんも待ってることだから、とりあえず戻らないと。」
サクヤは1人で呟くと、エクリプスワンへ帰還していった。アカネはあえて追おうとはせず、周囲の行動をうかがうことにした。
シアーズの襲撃から街を守り抜いたアリカ。ひとまず心身を休めて気を落ち着ける。
周囲を見回して追撃に備える彼女だが、シアーズの機体は次々と撤退を始めていた。
「撤退していく・・・ひとまず終わりってところだね・・・」
戦いが終わり、肩の力を抜くアリカ。被弾し損傷したハルカのザクを、ユキノのダイアナが支えていたのが見えた。
“オーブ軍全機に通達。シアーズ撤退、シアーズ撤退。追撃はせず、本艦に帰還せよ。”
クサナギからオーブの各MSに連絡が入る。その指示に従い、アリカたちも帰還していった。
「あーららー。シアーズ負けちゃったんだぁ。」
TVでオーブとシアーズの戦闘を見ていたシホが落胆の表情を見せる。ユウ、マイはシアーズの力を見て当惑を見せていた。
「でも最初はこんなもんかな。これでシホが入ってたら、シアーズが勝ってたかもしれないけど。」
しかしシホはあまり気にしている様子を見せてはいなかった。
「お兄ちゃん、シホはとりあえず戻るね。でも信じてるから・・お兄ちゃんが、絶対シホのところに来てくれるって・・・それじゃあね、お兄ちゃん。」
ユウと別れを告げてきびすを返したシホ。その中で彼女はマイに冷淡な視線を向ける。
その視線にマイの困惑はさらに強める。ユウとマイに見送られる形で、シホはジーザスから去っていった。
「ダークサイドだけじゃなく、シアーズまで相手にしなくちゃなんないなんて・・・もしかしたら、シホちゃんとも・・・」
マイが沈痛の面持ちを見せると、ユウが彼女の肩に手を乗せる。
「気にすんな。シホのヤツ、いつもオレに入り浸ってたからな。多分、お前にオレを取られたと勘違いしてんだよ。」
「えっ・・・ま、まさか!冗談じゃないわよ!アンタみたいなの、こっちから願い下げよ!」
「な、何っ!?こ、こっちだってお断りだ!・・けどアイツ、思い込んじゃうとオレでも聞かねぇからなぁ・・・」
シホのことが気がかりになり、憮然とした面持ちを見せるユウ。
どんな理由であれ、力を見せ付けるためにオーブを襲撃したシアーズにシホを置いておくわけにはいかない。何とかして引き離さなくては。
ユウは胸中でそう思っていたのだった。
「おーい!マイーーー!」
そこへミコトが突然マイに飛び込んできた。そのまま押し倒される形でしりもちをつくマイに、ミコトが満面の笑みを浮かべて彼女の胸にうずくまる。
「ち、ちょっと、ミコト!・・や、やめなさいって・・!」
マイが頬を赤らめてミコトを引き剥がす。ユウは赤面しているのが見えて、マイはムッとする。
「アンタ!ヘンなとこ見ないでよ、変態!」
「バカ言うな!ヘンなもん見せられてるこっちのほうが迷惑だってんだ!」
マイに言われてユウもムッとする。するとミコトがきょとんとした面持ちを2人に見せる。
「マイ、私が来たら迷惑だったか・・?」
「えっ?・・ううん、そんなことないよ、ミコト。でも、ここに何しに来たの?」
「うんっ!私、マイの作ったラーメンが食べたい!」
唐突なミコトの注文に、マイとユウが唖然となる。
「お、おい、ラーメンって・・・」
「あ、うん・・あの子、あたしが作ったインスタントラーメン、気に入っちゃったみたい・・・」
苦笑するユウに、マイも苦笑いを見せる。
「ラーメン♪ラーメン♪」
「あ・・・分かったわ。ジーザスに置いてあるか分かんないけど、あったら作ってあげるわ。」
「本当か!?あはぁ!マイ、やっぱりマイはいいヤツだ!うんっ!」
ミコトは大喜びで駆け回り、マイも少し気が安らいだような心地になっていた。
シアーズの軍隊を退け、ひとまずクサナギに帰還してきたアリカたち。しかしハルカのザクは損傷が激しく、エルスティンに続いて彼女も機体を失うことになってしまった。
「ハルカちゃん、大丈夫?」
「大丈夫よ、心配ないわ。ザクに比べたら私なんてかすり傷よ。」
心配するユキノに微笑んで答えるハルカ。その傍らで、アリカはクサナギのクルーたちに囲まれていた。
「アリカちゃん、すごかったよ!いきなり動きが機敏になっちゃうんだもん!」
「そうだよ!いきなり“ブレイドフォーマーを”って指示してきたときなんて、ビックリしちゃったよ!」
エルスティンとイリーナが歓喜を覚えながらアリカを褒め称える。その賞賛にアリカは戸惑いながら照れ笑いを見せる。
「そ、そんなことないよ。夢中だったから・・」
「無意識に使いはった力、ということなんかいな?」
そこへシズルが現れ、アリカに声をかけてきた。
「あ、シズルさん!・・った、あたたたた・・」
彼女に声をかけようとしたアリカが突如右肩を抑えて顔を歪める。
「あら、どないしはったん、アリカさん?」
「イテテテ・・肩が痛くなって・・・」
「えっ?肩?」
アリカの異変にシズルが眉をひそめる。アリカに近づき、痛がっている肩を診る。
「うーん、骨は折れてないみたいやけど・・一応、医者に診てもろうたほうがいいどすなぁ。」
「そうですか・・・」
少し困り顔を見せるシズルの言葉に、アリカが落胆の吐息をつく。
「お休みと思って、行ってきなはれ。しばらく戦闘もないと思いますし。」
シズルは満面の微笑みを見せて、アリカに休息を与えた。
その横では、アカネが出迎えたカズヤと語り合っていた。
「アカネちゃん、無事でよかったよ・・」
「カズくんが信じてくれたから、私は頑張れたんだよ・・・」
熱い抱擁の後、愛情あふれる姿を振りまくアカネとカズヤ。その姿にムッとしながら、ニナはきびすを返して整備ドックを離れた。
戦線を離れ、街の郊外で着艦していたエクリプスワン。戦闘データを整理しているキョウジとアリスを、アリッサとミユが見守っていた。
その研究室に、兄妹の再会を果たしたシホが入ってきた。ミユが顔色を変えずに、戻ってきたシホに声をかける。
「シホ・ユイット、今までどこに行っていたのですか?我々が戦闘に向かうことは、あなたも知っていたはずです。」
「だってシホ、どうしてもお兄ちゃんに会いたかったから・・でも、シアーズはけっこういいところまで行ってたと思うよ。」
「あなたはシアーズのMSパイロット。あまり勝手な行動は慎むべき・・」
シホを注意しようとするミユを、アリッサが手で制する。
「今回はあなたの行動と真意を問わないことにしましょう。ただし、単独行動に出る場合は、必ずクルーの誰かに伝えておいてください。」
「はい。分かりました。以後、気をつけます。」
アリッサの言葉に、シホが満面の笑みを浮かべて敬礼を送り、研究室を出て行った。
「よろしいのですか、アリッサお嬢様?彼女のあの軽率な行動が続けば、我々全体に危害がかかることもありえます。彼女もエレメンタルガンダムの搭乗者なのです。」
「分かっています。でも今は捨て置きましょう。それよりも今は、アルテミスのエネルギー充填を急ぎましょう。」
「そうですね・・分かりました。」
アリッサの言葉にミユが頷く。
「それではアリスさん、キョウジさん、アルテミスの出撃準備、お願いします。完了次第、エクリプスワンは発進します。」
「分かりました、アリッサ様。それまでお休みください。」
アリッサに答えてアリスは一礼する。そしてアリッサとミユは研究室を後にした。
彼女たちが立ち去ったのを見送ってから、アリスは安堵の吐息をつく。
「大変ですね、アリスさん。アリッサちゃんとミユさんが注文をつけてこないのは幸いですけど。」
そこへキョウジがアリスに気さくに声をかけてきた。
「そんなことないわ。私は仕事を楽しむように心がけてるから。それよりもキョウジくん、サクヤちゃんに会わなくていいの?お兄ちゃんがいなくて寂しがってるんじゃないの?」
「アイツは強いですからね。僕がいなくても頑張れますから・・それよりもアリスさん、あなたはいいんですか?娘さん、会いたがってるんじゃないんですか?」
キョウジが訊ねると、アリスは沈痛の面持ちを浮かべる。
「あの子は私が死んでいると思っているわ。仮に私が生きていると信じていても、私がシアーズに所属していると知ったら、どれほど心を痛めてしまうことか・・・」
「アリスさん・・」
アリスの返答にキョウジは戸惑う。
「大丈夫ですよ。親子なんですから。そう簡単に絆が断ち切れるはずがないですよ。」
「キョウジくん・・・そうね・・私も会いたい・・会ってあの子に謝りたい・・・でもそれは、アレのシステムを完成させてからよ・・・」
微笑を浮かべた後、真剣な面持ちになるアリス。
「そうですね・・世界に本当の平和をもたらすには、アレがどうしても必要だと、僕も考えています・・・」
キョウジもアリスの言葉に同意する。2人は密かに、真の平和への活路を見出そうとしていた。
ダークサイド、アルタイ王国。ハイネの殉死とナオ隊の帰還を知らされた黒曜の君、レイト・バレルは、王座に腰を下ろしていた。
「ほう・・ハイネが死に、シアーズが戦場に赴いてきたか・・・」
「まさかハイネがやられちゃうなんて、ガッカリだなぁ・・」
淡々と呟くレイトと、ため息をついて肩を落とすナギ。その王座の間にセルゲイが入ってきた。
「それで、これからどうするつもりですか?このまま手をこまねいて見ているわけではないでしょう?」
気さくな態度で声をかけるセルゲイに、レイトが不敵な笑みをこぼす。
「もちろん我々も出るさ。だが、その前に・・」
レイトは王座から立ち上がり、ナギとセルゲイに視線を向けていく。
「あの機体の封印を解き、戦場に駆り出す。」
「まさかアレを出すつもりなんですか!?しかしまだ適合者が見つかっていません!レイト様でさえ、あの機体を操るには・・・!」
声を荒げるセルゲイだが、レイトは不敵な笑みを崩さない。
「私も完全とはいかないが扱えない代物ではない。ナギ、ついて来い。鍵を使って封印を解くんだ。」
「我が君の仰せのままに。」
レイトが指示を送り、ナギが微笑んで一礼する。
「セルゲイ、まだ少し時間がある。出撃まで好きにするがいい。」
「分かりました、レイト様。陛下もお気をつけて・・」
去っていくレイトとナギに一礼するセルゲイ。
(さて、オレもそろそろいくか・・・)
王に仕える職務から一時的に解放されたセルゲイは、王城を飛び出し、宇宙(そら)に飛び立った。
ライトサイドの城下町、ヴィントブルム。そこにそびえ立つヴィントブルム城に、ミドリは足を踏み入れていた。
傭兵たちに断りを入れて王城に入り、マシロとフミのいる広間に辿り着いた。
「お待ちしていました、ミドリさん。」
「私もずい分と待った気がしてるわ・・単刀直入に言うわ。あなた、一体何者なの?」
いつもの気さくな態度ではなく、鋭い視線と声音をぶつけるミドリ。しかしマシロもフミも全く動じない。
「私もこれでも古代科学の研究者の端くれでね。その関係なのか、あなたのことを見つけてね。」
ミドリの語りだす指摘でも、マシロは真剣な面持ちを保っている。
「数年前、このヴィントブルム城に侵入した者がいる。どこの何者の仕業なのか今も断定はできてない。その事件であなたは重傷を負わされたけど、1年後に再び国民の前に元気な姿を見せた。」
「・・はい。その通りです。」
「でも事実は違ってた。あなたは重傷なんかじゃない。殺されたのよ・・・!」
ミドリが口にした真実にフミは固唾を呑むが、マシロは全く顔色を変えない。
「どういうことかはまだ分かんないけど、あなたは事件が起きた日の姿のまんまだってことは確かよ。今なら、もう15、6歳ぐらいになっているはずよ・・・」
不敵に笑ってみせるミドリ。追い詰められているにも関わらず、冷静さを保ち続けるマシロは、少女とは思えない大人びた雰囲気を放っていた。
つかの間の休息を得たマイは、ユウ、ミコトを連れてヴィントブルムの病院を訪れていた。タクミの見舞いとドナーの確認のためだった。
マイが作ったインスタントラーメンを食べて、ミコトは上機嫌だった。満面の笑みを浮かべて、マイの腕にすがり付いていた。
「ミコト、そろそろ放してくれないかな?お医者さんとお話してこなくちゃいけないから・・」
「う、うん。分かったぞ・・」
困り顔のマイの言うことを聞いて、ミコトはきょとんした面持ちで頷いた。そしてマイは面会の受付を済ませて病室へと向かう。
「コラ、ミコト、あんまり病院内で走り回らないの。」
マイが注意をするが、ミコトは気にせずに廊下を駆けては、興味を示したものをじっと見つめていた。
「何だかなぁ。見てると姉妹か親子だな、お前ら。」
2人の様子を見ていたユウが気さくに声をかける。少しムッとするも、マイはミコトとのやり取りに対して笑みをこぼしていた。
そして3人は病室に辿り着き、ノックをしてドアを開ける。
「あ、お姉ちゃん、ユウさん、こんにちは。」
「タクミ、調子はどう?お医者さんの言うこと聞いてる?」
マイが気さくに声をかけると、タクミは照れ笑いを見せる。
「もう、お姉ちゃんったら。僕はそこまで子供じゃないよ。」
元気そうに微笑む彼を見て、マイは胸中で安堵していた。
「お姉ちゃんもユウさんもいいことがあったみたいですね。まるで恋人みたい。」
「バ、バカなこと言わないの、タクミ!あたしとユウはそんなんじゃ・・!」
タクミの言葉に赤面するマイだが、何かおかしいと思って眉をひそめる。
「あれ?・・そういえば、ミコトの姿が見えないんだけど・・・」
「えっ?・・そういや、アイツの姿が見えないな・・・まさか・・!?」
ユウが思い立つと、マイが頭に手を当てて呆れ果てる。
「もう、あの子ったら!ちょっと眼を放すとどっか行っちゃうんだから・・ユウ、タクミをお願いね。」
マイは慌てて病室を飛び出し、ミコトを探しに廊下を見回した。しかし周辺にミコトのいる様子は見られない。
「もう。こんなんじゃいつまでたっても子供ね。なーんて、愚痴言ってても仕方がないか。」
独り言を口にしながら、マイはさらに病院内を探し回った。そして彼女は受付前の広場に出てきていた。
「ここにもいない・・どこに行っちゃったのよ・・・」
ミコトを見つけられず、肩を落とすマイ。
「骨は折れてないですよね!?入院ってことはないですよね!?」
そのとき、その広場にかん高い声が響いてきた。マイが足を止めて振り返ると、広場のすぐそばの診察室から聞こえてきていた。
「えっ!?大丈夫ですか!?よかったー。折れてたらどうなるかと思いましたよー。」
診察室にいる少女が安堵の声を上げる。
「でもムリは禁物ですよ。悪化したらそれこそ大変ですからね。それと、病院ではあまり大声は出さないように。」
「・・はい・・・」
医者にいろいろと注意され、少女が弱々しく返事をする。そして右腕を包帯で巻いた少女が診察室から出てくる。
そこでマイと眼が合い、少女は足を止める。お互い、魅入られたように見つめあい、その場を動けなくなっていた2人。
しばし続いた沈黙を破ったのは微笑んだマイだった。
「大きな声出してたね。大丈夫だった?」
「えっ?あ、あれ?聞こえちゃってました?」
マイが訊ねると、少女は照れ笑いを見せる。
「実は肩が外れちゃって・・骨が折れてなかったからよかったけど、これでしばらく動けなっちゃうね・・アハハ。」
「でもケガはしっかり治しておいたほうがいいよ。」
「はい。ところであなたもどこかケガしたんですか?」
「え?ううん、あたしは見舞いに来てるだけだから。」
「そうなんですか・・その見舞いの相手の人、お大事に。」
「ウフフ、あなたもね。えっと・・」
名前を呼ぼうとしてマイが口ごもる。すると少女は満面の笑みを見せて答える。
「私はアリカ。アリカ・ユメミヤです。あなたは?」
「あたしはマイ・エルスター。よろしくね、アリカちゃん。」
互いに自己紹介をし、マイが左手を差し出す。アリカが右腕をケガしているのを考慮しての握手の求め方だった。
アリカはこれに応え、左手を出す。握手を交わし、2人は笑顔を見せあった。
これが、2人の運命の出会いだった。
次回予告
対面した2人の少女。
解き放たれた闇の巨人。
羽ばたく黄金の翼。
ミドリが追い求めるマシロの死の真相。
4大国が入り乱れる戦況の中で、運命は拍車をかけて動き出す。
淀む真実、解き明かせ、ジーザス!