GUNDAM WAR -Encounter of Fate-
PHASE-11「戦線への介入」
シアーズの挑戦を受けたオーブ。クサナギの作戦室にて、集まっていたクルーたちの前に、シズルが姿を見せた。
作戦室にはアリカ、ニナ、ハルカ、ユキノの他、合流を果たしたアカネが待機していた。パイロットたちを見渡してから、シズルは口を開いた。
「もうすぐ、シアーズの旗艦がうちらの前に現れるさかい。うちらも戦いに備えますえ。」
「はいっ!精一杯頑張ります!」
シズルがクルーたちに指示を送ると、アリカが意気込みを見せ付けてきた。
「えらく張り切ってますなぁ、アリカさん。せやけど、焦りは禁物どす。少し落ち着いていきましょうか。」
「えっ・・あ、はい・・」
シズルに優しく言いとがめられて、アリカは気恥ずかしげに黙り込む。からかいたくなる性分を抑えて、シズルは真剣な面持ちに戻る。
「できるなら、戦いは避けたいものどす・・せやけど、このまま何もせずに黙ってやられるわけにもいきまへん。」
オーブの理念を込めたシズルの言葉に、クルーたちが各々の決意を秘めて頷く。
そんなクサナギに向けて、再び通信が入ってきた。相手はアリッサである。
“オーブ旗艦、クサナギに通達いたします。これより、私たちはあなたたちへの武力行使を行います。”
アリッサの淡々とした声が、クサナギの作戦室に響き渡る。
“ただし、あなたたちがもし武器を捨て、私たちシアーズに降伏するのであれば、こちらも手荒な行為は控えましょう。”
「降伏ですって!?冗談じゃないわ!一方的に通信で呼びかけてきて、武力で脅して降伏を要求するっての!?我々がそんな要求をのむと思ってるの!?」
その言葉を受けてハルカが苛立ちを見せる。ユキノが彼女を慌しくなだめると、シズルがユキノに近づき微笑む。
「通信回線、向こうに回してくれますか?」
「えっ?あ、はい。」
シズルに言われるまま、ユキノはシアーズの旗艦、エクリプスワンに向けて通信回線を開いた。
「私はオーブ首長、シズル・ヴィオーラ。あなた方の言葉、耳に入れさせてもらいました。」
シズルも淡々とした口調でシアーズに呼びかける。
「残念ながら、我々はあなた方の要求を受け入れる意思はありません。他国を侵略せず、他国に侵略されず、他国の争いに介入しない。それが世界の平和を志すオーブの理念でもあり、クサナギにいる全員の考えでもあります。」
「シズルさん・・・」
シズルの出した答えにアリカが安堵の笑みを見せる。
「このまま下がるならよし。もしも攻撃を開始するならば、我々はオーブ防衛のために行動を開始しやす。」
シアーズに呼びかけて、シズルは周囲を見渡す。オーブのパイロットたちは彼女の考えに賛同し、この決意を変えようとはしなかった。
「いきなりで堪忍な。せやけど事態が事態やさかい、あんじょう頼みますわ。」
「了解!」
シズルの言葉にアリカたちが敬礼を送り、それぞれの機体に向かって動き出した。
「第一級戦闘配備!本艦はシアーズの攻撃に備え、発進します!」
シズルの号令を受け、クサナギは上空へと浮上していった。
「クサナギ飛行開始。オーブ軍、動き出しました。」
オーブの動きをレーダーでうかがっていたミユが、アリッサに現状を告げる。
「そうですか。なら、こちらも行くとしましょう。」
アリッサはミユに答えて振り返る。移した彼女の視線の先には、数人の人間が立っていた。彼女はその中の藍色の長髪の女性に近づき、微笑んで告げる。
女性の名はアリス・クライン。シアーズ研究団をまとめている科学研究者で、シアーズMSの整備も行っている。
「アリスさん、MSの調子はいかがですか?」
「はい。最終調整完了。いつでも出撃できます。しかし、アルテミスはエネルギーが不安定なため、戦闘に出すにはあまりにも危険です。」
「そうですか。でも構いません。今回はあくまで宣戦布告が主な目的。アルテミスは本番に出すことにしましょう。」
アリスの状況報告に動じることなく、アリッサは笑みを崩さずに頷く。そして周囲にいるパイロットたちを見渡していく。
両手を組んで祈りを捧げている女性、ユカリコ・シュタインベルグ。メガネをかけた少し年下に見られがちな雰囲気を持っているキョウジ・ミルキーズ。彼の妹で、ピンクの長い髪をなびかせているサクヤ・ミルキーズが待機していた。
「お兄ちゃん、私、一生懸命頑張るからね。」
「おいおい、サクヤ。あんまりくっつくなよ。」
サクヤに抱きつかれて、苦笑いを浮かべているキョウジ。2人の姿を見つめて微笑むと、アリッサはミユに視線を向けつつ口を開く。
「それでは、ユカリコ、サクヤ両名、それぞれエレメンタルガンダムで出撃。私たちの力を披露して差し上げてください。」
アリッサの言葉にサクヤは頷くが、ユカリコはどこか後ろめたい面持ちを浮かべていた。アリッサは彼女の様子を気にせず、話を続ける。
「MSにて待機している全パイロットに通達。黄金の時代を迎えるため、道を切り開け、と。」
彼女のこの言葉が、シアーズの戦闘開始の合図だった。サクヤ、ユカリコも自分の機体に向かって駆け出していった。
「どういうことだよ、シホ・・・シアーズの軍に入ったって・・・!?」
ユウがシホに対して動揺を隠せなくなっていた。シホがシアーズに属していることが信じられないでいたのだ。
「どうしてって・・シホ、お兄ちゃんを守ってあげたいと思ったから、シアーズに入ったんだよ。」
「ユウを、守る・・・!?」
「うん。お兄ちゃんはシホをかばってケガをして、結果離れ離れになっちゃった。今度は力を持ったシホがお兄ちゃんを守ってあげるの。もうお兄ちゃんが辛くならないように・・」
当惑するマイにも淡々と言ってのけるシホ。そして歯がゆい心地になっているユウに向けて、彼女は手を差し伸べる。
「一緒に行こう、お兄ちゃん。シアーズに行けば、戦争も終わってみんな幸せになれるから。シホもお兄ちゃんもみんな・・・」
「シホ・・オレは・・・」
シホの誘いに対して、ユウは頑なに拒んでいた。彼女は今、偽りの平和にすがってしまっていると思えてならなかったのだ。
ライトサイドもオーブも平和のために日々全力を挙げている。だがシアーズの詳細を理解していないので、安直にシアーズに赴くのは軽率すぎると判断していたのだ。
「シホ・・ワリィ・・オレはライトサイド、ジーザスの軍人なんだ。そう簡単にシアーズってとこに行くわけにはいかねぇんだ・・・」
「どうして・・・ライトサイドなんてすぐに脱退してさ、早くシアーズに行こうよ。シホ、お兄ちゃんがそばにいてくれたら、シホの力でも世界を平和にしてみせるから・・」
拒むユウにシホが笑顔を作って言いとがめる。しかしユウの気持ちは揺るがない。
「お前の考えてる平和って、いったい何なんだよ・・・!?」
「お兄ちゃん・・・?」
「オレは、オレみたいに辛い思いをするヤツがいなくなってほしいと思ってるから、ライトサイドで戦っているんだ。敵と見た相手をブッ潰して手に入れた平和なんて、ホントの平和だとはオレは思わねぇ・・・!」
ユウは自分の考えを率直にシホに伝えた。シホは次第に困惑し、顔を強張らせる。
「そんな・・・お兄ちゃん、そんな・・・!?」
「けどシホ、お前のしたいことまで否定するつもりはねぇよ。お前の人生だ。お前が決めろ・・・」
妹を追い込むような気分を感じ、後ろめたい気持ちになるユウ。ところが、シホは始めは悲痛さに打ちのめされるものの、すぐに笑みを取り戻した。
「今ね、シアーズの軍隊がオーブを攻めに行ってるの。シアーズの力を世界中に見せ付けるためにね。」
「何!?オーブに!?」
シホが口にした言葉に、ユウとマイが驚きをあらわにする。
「どういうことだ、シホ!?平和と中立を理念としているオーブは、同じ考えを持っているシアーズと協定できるはずだ!そのオーブをお前は、シアーズは攻撃するってのか!?」
憤りをあらわにするユウだが、シホは悠然とした態度を崩さない。
「シアーズは偽りの平和を振りかざしてる偽善者よ。お兄ちゃんにも見せてあげる。黄金の時代を開く、シアーズの力をね。」
シホが見上げた建物のTVには、シアーズのオーブ襲撃のニュースを伝えていた。
浮上したクサナギの前に立ちはだかった1機の戦艦。
「あれって・・・!?」
「・・ジーザス・・・!?」
アリカとニナが驚愕し眼を見開く。その戦艦の姿は星光軍旗艦「ジーザス」と瓜二つだった。
これがシアーズ旗艦「エクリプスワン」。ジーザスを模したその姿は、性能・武装も酷似していた。
「シアーズの特殊武装艦、エクリプスワン。おそらく装備もジーザスと酷似するものがあるかと・・」
分析を行っているユキノがシズルに報告する。
「ジーザスと似てるってことは、どう対処したらいいかも大体分かりますね。」
「それはどうですやろ。そう見せかけてうちらがビックリするもんが出てくるかもしれません。」
安堵しているアリカを、シズルは微笑みながら言いつける。
「とにかく、油断天敵ってヤツよ!オーブを守るため、全力で行くわよ!」
「油断大敵だよ・・」
意気込みを見せるハルカにツッコミを入れるユキノ。しかしいきり立っているハルカには届いていないようだった。
「パイロットは各MSで発進してくれやす。」
シズルの指示を受けて、クサナギのパイロットたちが敬礼を送って作戦室を出る。整備ドックに向かい、各々の機体に乗り込んでいく。
その中でアカネも、エレメンタルガンダム、ハリーのシステムチェックを行う。若干の緊張感を覚えつつも冷静さを保つ彼女は、モニターに移ったカズヤに微笑む。
「カズくん、私、頑張るからね。」
“うん。アカネちゃんもムリしないでね。危なくなったらすぐに戻ってくるんだ。”
互いに頷いてみせるカズヤとアカネ。彼女はモニターを切り替え、発進に備える。
「アカネ・ソワール、ハリー、出ます!」
かけ声とともにアカネがアクセルをかける。オレンジカラーの機体が、クサナギの発射口から飛び出した。
「アリカ・ユメミヤ、コーラル、行きます!」
「ニナ・ウォン、ザク、出る!」
「ハルカ・アミテージ、ザク、行くわよ!」
「ユキノ・ジェラード、ダイアナ、発進します!」
アリカたちもそれぞれの機体で出撃していった。
一方、エクリプスワンの整備ドックでは、2体のエレメンタルガンダムを初めとしたMSが出撃に備えていた。
「ユカリコ・シュタインベルグ、ヴラス、行きます。」
「サクヤ・ミルキーズ、ツキヨミ、行くわよ!」
ユカリコ、サクヤのかけ声とともに、2体のエレメンタルガンダム、ヴラスとツキヨミがエクリプスワンから発進していった。続いてザク、グフなどのMSたちが戦場に赴いていく。
彼らの前にオーブのMSたちが立ちはだかる。侵攻と防衛、2つの理念が火花を散らしていた。
「行くよ、ツキヨミ・・」
サクヤに呼びかけられたツキヨミが、巨大鎌「ニーズへグ」を手にする。そして先陣を切り、オーブのMSに切りかかった。
「戦場に出てきたと思ったら、いきなり仕掛けてくるなんて。やってくれるわね・・・!」
ハルカが不敵に笑って、猛威を振るうツキヨミに向けてビームライフルを放つ。ビームに阻まれ、ツキヨミが動きを止める。
「私とツキヨミを倒そうって言うの・・・負けないよ!ツキヨミ!」
次の標的をハルカのザクに変えて、ツキヨミが鎌を振り上げて飛び込んでくる。ハルカがビームライフルで迎撃するが、ビームをことごとくツキヨミにかわされる。
「ハルカちゃん!」
ユキノの操るダイアナが、武装された分離式兵器「ドラグーン」でツキヨミを狙うが、ツキヨミの鎌はザク右腕を切り裂いていた。
「うわっ!」
「ハルカちゃん!」
火を噴きながら落下していくザク。ハルカがうめき、ユキノが叫ぶ。
ツキヨミがそんなダイアナに気付き、間髪置かずに攻め入ってくる。そこへアカネの駆るハリーが割って入ってきた。
「ユキノさん、あなたはハルカさんを!ここは私が押さえます!」
「分かりました、アカネさん!」
アカネに促されて、ユキノがハルカを追って降下していく。ハリーがその機体と同等の長さの鉄の棒を構える。
ツキヨミが鎌を振りかざして攻撃を仕掛ける。それをハリーが棒でしっかりと受け止めていた。
襲撃するシアーズのMSたちを、ウィングフォーマーを装備したコーラルが迎撃していく。相手の武装、メインカメラを狙っていくアリカの前に、ユカリコの乗るヴラスが立ちはだかる。
「これ以上、みなさんに罪を重ねてほしくありません。どうかお許しを・・」
ユカリコが詫びの言葉を口にすると、ヴラスが突如音波を放つ。その行為に眉をひそめ、ヴラスを見据えるアリカ。
「そんなんで私とコーラルは負けたりしないんだから・・・えっ!?」
攻撃に備えるアリカが突然眼を疑った。コーラルのレーダーが乱れ、周囲の機体の反応がつかめなくなっていたのだ。
「ええっ!?どうなってるの!?・・もしかしてあの音波、ジャミングを引き起こしてるんじゃ・・・!」
驚きをあらわにするアリカがモニターに映っているヴラスを見つめる。モニターも音波の影響で画像が乱れ気味になっている。
ヴラスから放たれる超音波は、あらゆる機体や戦艦のレーダーをかく乱させてしまう。エレメンタルガンダムのレーダーさえも影響を及ぼしてしまうほど強力なものだ。
「シアーズのエレメンタルガンダムから音波攻撃を受けています!レーダーに異常!我が軍のMSとの通信も不能!」
クサナギでもヴラスの音波の影響を受けていた。味方の行方をつかめず、迂闊に動くことができなくなってしまった。
その間に、ブラスがビーム砲「ナイツ」を手にして、エネルギーチャージを行っていた。レーダーの混乱で、アリカも身動きが取れない状況にあった。
そのモニターに映ったヴラスの姿を眼にして、彼女は眼を見開いた。
「しまった・・!」
彼女が驚愕の声を上げた瞬間、ナイツが火を噴いた。溜め込まれたエネルギー砲が、コーラル目がけて放たれた。
アリカはアクセルをかけて、間一髪でビームを回避する。しかしその先にある街にビームが命中し、戦火に包まれる。
「あ・・・!」
悲惨な姿へと変わり果てる街を見下ろして、アリカが驚愕する。人々が逃げ惑い、建物が崩壊を引き起こす。
そのオーブの街や人々を、シアーズのMSたちが容赦なく銃口を向ける。
「ダメ!やめて!」
アリカがたまらず街に向かって爆走するが、コーラルの前にシアーズのMSたちが立ちふさがる。
「ちょっと!どいてよ!」
アリカがいきり立ち、コーラルがビームサーベルを振りかざすが、なかなか活路を見出せるまでには至らない。
そんな彼女の眼に、モニターに映し出された、シアーズの機体に狙われた人々の姿が飛び込んでくる。
(ダメ・・・そんなこと、誰かが死ぬなんて・・・!)
「そんなの、絶対ダメッ!」
アリカの感情が最高潮に達したとき、彼女の中で何かが弾けた。彼女の五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになっていく。
周囲を取り囲むMSたちを一気になぎ払い、活路を切り開いて突破する。そして逃げる人々に引き金を引こうとしていた機体を、突進して弾き飛ばす。
「クサナギ、デュートリオンビーム!あと、ブレイドフォーマーを!」
“あ、は、はいっ!”
アリカの突然の的確な指示に、オペレーターが慌しく答える。
“デュートリオンビーム照射!ブレイドフォーマー、発進!”
オペレーターの言葉を受けて、クサナギからビームが放たれ、それを受けたコーラルのエネルギーが回復していく。そして発射口からブレイドフォーマーが発進し、コーラルのウィングフォーマーと換装されていく。
ブレイドフォーマーに装備されている対艦刀を引き抜き、街を襲撃しているMSたちをなぎ払っていく。そんな中でも、アリカはコックピットへの狙いは避けていた。両足をなぎ払い、機体の動きを完全に止めていた。
これ以上、街の人々を辛い思いをさせるわけにはいかない。これ以上命を失わせるわけにはいかない。今のアリカの心は、街や人々を守りたいという一心だった。
危機感を覚えたMSたちが街への襲撃をやめ、撤退していく。アリカはこれらを追わず、街の被害を食い止めようとしていた。
ヴラスを駆るユカリコが、躊躇を秘めながらコーラルに向かっていく。そして再びエネルギーを充填したナイツの引き金を引く。
放出された高出力のビームだが、コーラルはそれを対艦刀で弾き飛ばし、さらに刀をヴラス目がけて投げつける。
対艦刀はナイツを、そしてヴラスの右腕を木っ端微塵に粉砕する。戦闘能力が著しく劣っているヴラスには、今のコーラルの力強い攻撃はひとたまりもなかった。
(これで、これでよろしいのですね・・・神よ・・この手を血でけがしたことを、お許しください・・・)
沈痛の面持ちを浮かべながら、戦場に赴いてしまった自分を呪うユカリコ。損傷したヴラスはそのまま地上へと落下していった。
マイに続いてバーサークを発動させたアリカ。無我夢中に力を振るう彼女は、拍車のかかる運命に巻き込まれることになるのだった。
次回予告
シアーズのオーブへの攻撃。
それは世界を震撼させていた。
それぞれの迷い。それぞれの戸惑い。
移ろいゆく世界の中で、2人の少女がついに、運命の出会いを果たす。
高まる鼓動、奮い立て、ハリー!