GUNDAM WAR -Encounter of Fate-

PHASE-09「覚醒の狼煙」

 

 

 ヴィントブルムへの進撃を開始したナオ・ハイネ合同部隊。その彼らの前に、ライトサイドのエレメンタルガンダムたちが立ちはだかる。

「ほう。あれがライトサイドのエレメンタルガンダムか。」

 ハイネが眼前に迫ってくる4体のエレメンタルガンダムを見据えて、不敵に笑う。

「さすがのナオも、こんだけ機体が揃ってると手に負えないか。」

「気楽でいいわね、アンタ。人のことばっか言っておいて、寝首をかかれないようにしないとね。」

 ナオがあざけるように言い返すが、ハイネは気にしていなかった。

「見せ付けてやろうぜ。ダークサイドのホントの力ってヤツを。」

 いきり立ったハイネが先行して、ライトサイドのMSに向けてビームライフルを放つ。その数機が武装を撃ち抜かれて、戦闘不能に陥る。

「へぇ。やるじゃないの。それじゃ、あたしも混ぜてもらっちゃおうかな。」

 ナオが微笑んで、ジュリアをMS形態に変形させて参戦した。

 

「さすがハイネ隊隊長様のグフ・イグナイテッドね。動きも武器もそれなりに威力があるわ。」

 ハイネの力量を目の当たりにして、ミドリは感嘆とも思える高揚感を覚えていた。

「ここは私にやらせてくれ。このデュランで撃ち抜いてやる。」

 ナツキが言い放ち、デュランを駆って先攻する。

「あっ!ナツキちゃん!・・もう、しょうがないわね。それじゃ、他の面々は他のMSを押さえるわよ!」

 半ば呆れながら、ミドリが気持ちを切り替えて指示を送る。ジーザスのMSたちが、ダークサイドのMSを迎え撃つ。

 ガクテンオーのハルバートが、ゲンナイの短刀が、スラッシュザクファントムのビームアックスが次々と敵機体をなぎ払っていく。

「な、何て動きなんだ・・・追いつけない・・!」

「取り囲め!動きを封じてしまえば、こちらに優位になる!」

 様々な声が飛び交いつつも、ジーザスのMSを追い込むべく新たな陣形を組むナオ隊とハイネ隊。しかし即興の陣形など、エレメンタルガンダムの性能の前では気休めにもならなかった。

「死にたくなかったら、尻尾を巻いてさっさと逃げなさい。」

 相手を哀れむような心地で、ミドリが戦闘不能に陥っていくMSたちを見送った。

 そのとき、どこからかビームが放たれ、光と闇の戦いに割って入る。ミドリたちがビームの飛んできたほうに振り向くと、別部隊のMSたちが向かってきていた。

「あの機体・・オーブ軍のお出ましのようね。」

 新たなる部隊、オーブ軍の登場に、ミドリは安堵の笑みを浮かべる。

 ライトサイドとオーブは、平和への意向の合致により、友好関係を持っている。ただしオーブはあくまで平和と平等を主張しているため、戦争の鎮圧と終幕のための軍の出撃を行っていた。

“ライトサイド、ダークサイドに告ぐ。私はオーブ首長、シズル・ヴィオーラ。”

「シズル・・!?」

 開かれたクサナギの通信回線からシズルの声が響き、ナツキが動きを止める。

“あなた方が行っている戦闘は、双方の侵攻ばかりでなく、ヴィントブルムへの危害を及ぼしかねません。直ちに戦闘を中止し、即刻立ち去りなさい。”

 シズルが星光軍、黒曜軍に向けて戦闘中止を警告する。彼らは双方に加担するつもりは毛頭ない。

 他国を侵略せず、他国に侵略されず、他国の争いに介入しない。オーブの理念に基づいてのシズルの言動だった。

“我々オーブは中立を志す国家。ライトサイドとダークサイドの戦いに介入する理由はありません。ただし、もしその戦いのために関係のない人々に危害を加えるのならば、私たちはそれを見過ごすことはできません。武力をもってしても、この戦闘を停止させます。”

 淡々と自分たちの考えを伝えていくシズル。彼女の友人であるナツキが、小さな笑みをこぼす。

“もしも人の心があるならば、命の重さと尊さを知っているのなら、武器を収めなさい。”

「わざわざ出てきて武力もって止めるだって?・・中立振りかざしてるくせに、言ってることがムチャクチャじゃないの。」

 しかしナオはシズルとオーブの意向をあざ笑い、戦闘をやめようとはしなかった。左手の発射口からビームサーベルを放ち、ライトサイドのMSを攻撃して戦闘を続けた。

 

「ふう。やはり簡単に聞いてくれはりませんね・・」

 鎮圧しない戦闘を見て、シズルが残念そうな顔でため息をつく。しかしすぐに気持ちを切り替えて、オーブ軍に指示を出す。

「仕方ありまへん。本艦及び全MS、第一級戦闘配備。これより、戦闘停止に向けての武力行使を行います。ただしあくまで戦闘停止を目的にするさかい。コックピットへの攻撃は避けてくれやす。」

「了解!」

 彼女の指示にクサナギのクルーたちが返事をする。ニナ、エルスティン、ハルカ、ユキノ、そしてアリカが、戦闘をやめさせる戦闘を始めるのだった。

 

「もう。そんなこと言っても、全然戦いが終わる気配がないじゃないの・・・!」

 オーブの忠告を無視して戦闘を続行するダークサイドを見て、マイが困惑を口にする。やむなく自分も戦闘に向かおうとしたそのとき、彼女の眼にコーラルが飛び込んだ。

「あの機体・・また・・・でも、今度は・・・」

 マイは次第にいきり立ち、コーラルに向かってカグツチを発進させる。戦闘停止を行っているコーラルに向けて、双刃のビームサーベルを振りかざす。

「えっ・・!?」

 迫りくるカグツチに気付き、アリカが迎え撃つ。接続されているウィングフォーマーからビームサーベルを引き抜き、カグツチの攻撃を受け止める。

 2つの光の刃が激突し、火花を散らす。負けじとマイとアリカが力押しするが、一進一退の力比べが続く。

 やがて2つの刃が弾かれ、距離を取ることとなる2人。そんな中で体勢を崩さず、2体の機体が幾度となく刃を交える。

「もう負けられない・・あたしには、みんなを守らなくちゃいけないのよ!」

 いきり立つマイが攻め気をかき立てる。しかしこの感情の傾きは、逆に攻を焦る形となってしまう。

「どうしても戦うっていうなら、私も仕方がない!」

 アリカが向かってくるカグツチの突進をかわし、ビームライフルの引き金を引いて反撃に転ずる。

 撃ち込まれたビームはカグツチに命中するも、核エネルギーと耐久性の高い装甲の前に大したダメージを与えない。だがその衝撃は確実にコックピットにいるマイを揺さぶっていた。

 体勢を崩され、落下するカグツチ。そこへコーラルが立て続けにビームライフルを撃ち込む。ただしコックピットを狙わず、あくまで戦闘不能に陥らせようとしていた。

 

 一方、ハイネの操るグフ・イグナイテッドの前に立ちはだかったデュラン。ナツキが狙いを定めて砲撃するが、ハイネはそれをことごとくかわしていく。

「なんて動きだ・・私とデュランの攻撃をかわすなんて・・・!」

「ザクとは違うんだよ、ザクとは!」

 毒づくナツキに向けて、ハイネが勝ち誇るかのように言い放つ。そしてデュランのビーム砲をかいくぐり、ヒートロッドをデュランの銃身の1つに巻きつける。

「はっ!」

 ハイネが叫ぶと同時に、ヒートロッドから電流が放たれ、デュランを攻撃する。その電撃と衝撃がナツキをも揺さぶる。

「ぐあっ!」

 悶えながらも、ナツキはデュランを駆り、巻きつかれていない銃身でグフ・イグナイテッドを狙う。

「ロードクロードカートリッジ!」

 弾丸を装てんし、間髪置かずに発射する。真っ直ぐに飛んできた弾丸を回避するハイネだが、ヒートロッドがデュランから離れる。

「ちっ!このぉっ!」

 苛立ったハイネがいきり立ち、剣を抜いてデュランに攻め入る。接近戦に持ち込み、優勢を得ようとしていた。

 

 ライトサイドだけでなく、オーブに対しても敵意を見せつけるナオとジュリア。ビームサーベルと電撃鞭でMSをなぎ払い、ブレイズザクファントム、ガナーザクウォーリアに迫る。

「ただのザクが、あたしとジュリアに勝てるはずないわよ。」

 ナオはあざ笑い、電撃鞭を振りかざす。ザク2体がビームライフルとオルトロスで迎え撃つが、ジュリアによって弾かれて攻め込まれる。

「平和ほざいてるくせに・・うざいんだよ、アンタたち!」

 いきり立ち、ビームライフルでブレイズザクファントムを襲撃するナオ。パワー、スピード、機動性、あらゆる面で劣るニナが歯がゆさを覚える。

 ついに電撃鞭でビームライフルを巻き取られ、電撃を受けて破壊されるブレイズザクファントムの腕。

「くっ!」

 毒づくニナに、容赦なくジュリアが迫る。

「ニナちゃん!」

 そこへエルスティンのガナーザクウォーリアが割って入ってくる。しかしジュリアのビームサーベルは、彼女が盾にしたオルトロスさえも切り裂き、機体の頭部を貫く。

「エルス!」

 叫ぶニナの前で落下し、機体を損傷させていくエルスティン。

「ニナさん!エルスティンさん!」

 そこへハルカのザクがビームライフルを放って、エルスティンを狙うジュリアを阻む。

「ちっ!うざいのが!」

 ナオが苛立ちをあらわにしながら、標的をハルカに変えてビームサーベルを振りかざす。ハルカは牽制しながらジュリアの攻撃を回避していく。

「ハルカちゃん!」

 そこへ突如ダイアナが姿を現し、クローを振り下ろす。ミラージュコロイドを駆使して、密かにジュリアに接近していたのである。

 ジュリアがこの攻撃をビームサーベルで受け止める。2体の機体の各々の武器が衝突し、火花を散らす。

 そこへジュリアがビームサーベルを電撃鞭に変形させ、ダイアナを捕らえる。そして自分に引き寄せ、決定打を浴びせようとする。

「ユキノさん!」

 そこへニナのブレイズザクファントムがジュリアを再び阻む。オーブの数機のMSに立ちはだかれて、ナオは次第に憤りを募らせていった。

 

 コーラルの攻撃を受けて落下していくカグツチ。そのコックピットで、マイは心身ともに満身創痍に陥っていった。

 落下の衝動を受ける彼女の脳裏に、親しい人々の顔や姿が蘇る。

 心臓が弱く、病院で病と闘っているタクミ。

 レストランでともに仕事をしてきた仲間たち。

 そしてともに戦うジーザスの仲間たち。

(ここで負けたら・・ここで負けたら、みんなが・・・)

 みんなが傷つくことになる。

「あたしは、あたしは負けなくない!」

 そのとき、マイの中で何かが弾けた。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

 とっさにアクセルをかけて落下を踏みとどまり、コーラルに向けて一気に飛翔する。そしてビームサーベルを引き抜いて、すかさず振りかざす。

「えっ!?」

 突然のカグツチの突進に驚くアリカ。彼女の眼前で、カグツチが素早い動きでコーラルの腕ごとビームライフルをなぎ払う。

 カグツチはその勢いを止めることなく転回し、さらにビームサーベルを振り下ろす。左腕に装備されたシールドで防ごうとするコーラルだが、カグツチは力任せに刃を叩きつけ、コーラルはそのまま突き飛ばされる。

「くうっ!」

 何とか地上への落下を避けることはできたアリカ。しかしコーラルはこれ以上の戦闘を行うことができず、クサナギへの帰還と損傷した腕の換装を余儀なくされていた。

 マイは間髪置かずに、他のMSに向けて加速する。そして交戦している機体のうち、ダークサイドとオーブのMSの武装と頭部を徹底的に破壊していく。五感が研ぎ澄まされたマイも、的確な狙いとそこを射抜く技量を解放していたのだ。

「ちょっと!何だって言うのよ!」

 カグツチの脅威的な機動性に気付いたナオが驚愕する。ジュリアの周囲にいたMSたちも、その機動性に動きを止める。

 左手に握ったビームライフルでも、次々とMSの戦闘を止めていくマイ。

 彼女は負けられないという気持ちに駆り立てられていた。だが、誰かの命を奪いたいという殺意は持ち合わせていなかった。武装を破壊し、戦闘不能に陥らせ、戦いを止めるに踏みとどまっていた。

 そしてカグツチの矛先が、いきり立っているジュリアに向けられた。

「あんまり調子に乗るんじゃないよ、白い機体!」

 ナオが叫びながらカグツチに接近する。振り向いたカグツチに向けて、ビームサーベルを振り下ろす。

 カグツチはそれをビームサーベルで受け止め、逆にジュリアを弾き飛ばす。そしてビームを放っている左腕を、光の刃で切り裂いた。

「何っ!?」

 驚愕を覚えるナオ。ジュリアはカグツチになす術もなく撃退され、地上に降りて体勢を整えようとする。

「何だよ、あいつは!」

 同様にハイネもカグツチを見据えていた。一進一退の攻防を繰り広げていたデュランとの戦闘を放棄して、カグツチに向かってアクセルを踏む。

 剣を振りかざし、カグツチに向けて攻撃を仕掛けるグフ・イグナイテッド。カグツチはビームサーベルでこれを弾き返す。

「ちっ!このぉっ!」

 毒づいたハイネが再度剣を振り下ろすが、カグツチは上昇して回避し、別のMSを攻撃していた。ハイネの眼には、今のカグツチとそのパイロットの戦闘が、見境をなくした狂戦士の行動に映っていた。

「手当たり次第かよ・・このヤロー、生意気な!」

 憤慨したハイネが武装をビームライフルに持ち替え、カグツチに向けて引き金を引く。しかしカグツチはビームの連射をかいくぐり、双刃のビームサーベルでグフ・イグナイテッドの腕ごとビームライフルをなぎ払った。

「何ぃっ!?」

 驚愕するハイネ。破壊されたグフ・イグナイテッドの腕が火花を散らす。

 それに構わず、カグツチは素早い動きでブレイズザクファントム、ザクウォーリア、ダイアナの武装を次々となぎ払っていく。

 カグツチとマイの攻撃一辺倒になってきた戦況。シズルもニナもハルカも、そして仲間であるアキラもユウもナツキも唖然となっていた。

 

「くそっ!冗談じゃないぜ!」

 完全に追い込まれたハイネ。だが、このまま引き下がる彼ではなかった。

「調子に乗るな!」

 彼は憤慨し、グフ・イグナイテッドの残った左手をうまく使い、強引に剣を握らせる。そして動きを止めたカグツチに向けて突進する。

 敵機の接近をカグツチのレーダーが捉える。マイが気付き背後に振り返ると、グフ・イグナイテッドが剣を振り上げていた。

「マイちゃん!」

 ハイネの奇襲にいち早く気付いていたミドリ。ガクテンオーが四足獣型MAに変形する。

「ガクテンオー!トルネード・ダッシャー!」

 叫びながらミドリがアクセルをかける。ガクテンオーがモーターを全開にして飛翔し、カグツチに迫るグフ・イグナイテッドに突進する。

「ドッカーン!」

「なっ・・!?」

 カグツチへの攻撃に気が向いていたため、ハイネはガクテンオーの突進に備えるのが遅れた。迎撃に転ずる前に、ガクテンオーがグフ・イグナイテッドに突進し、頭部の角がオレンジの機体を穿つ。

「が・・・ぁ・・・」

 爆発と衝撃がコックピット内にまで及び、ハイネがあえぎ声を上げる。ガクテンオーに貫かれたグフ・イグナイテッドが、大爆発を起こして空に消える。

「マイちゃん、大丈夫!?」

「う、うん・・ありがとう、ミドリちゃん・・・」

 ミドリの呼びかけを受けて、マイが我に返る。一瞬呆然となるも、すぐに頷いて答えた。

 今自分が何をして、どのような戦いをしたのか、マイの記憶の中には存在していなかった。

 

 マイとカグツチの活躍で、光と闇の戦いは鎮圧され、ダークサイドのMSたちが撤退を始めた。オーブも戦闘不能に陥ったため、撤退を余儀なくされていた。

 マイの脅威的な機敏さと的確さを目の当たりにして、ジーザスのクルーたちも当惑するばかりだった。

(この力・・才能がもたらしたのか・・・)

 ナツキもマイのその力に眉をひそめていた。少女の覚醒の狼煙が、新たな戦いの火ぶたを切ろうとしていた。

 

「ライトサイド、ダークサイド、オーブの各MSのデータ分析完了。うち、ハイネ・ヴェステンフルス、及びグフ・イグナイテッドの消失により、これに関するデータを消去します。」

 とあるモニタールームの1室。先ほどの戦況を、とある勢力が観戦、情報収集を行っていた。

「データ収集と再分析への意向はムダではなかったですね、アリッサお嬢様。」

 データ分析を行っていたミユが告げると、横にいたアリッサが微笑んだ。

「カグツチ・・マイ・エルスターの発揮したあの動き。眼を見張るものがあります。エレメンタルガンダムの能力を最大限に発揮しています。」

「我々の中に、これほど機敏な動きをするMSはいないでしょう。ただし、もしもマイさんとカグツチをこちらに引き込むことができたなら・・」

 ミユのこの指摘に、アリッサが満足げな笑みを浮かべる。

「宣戦布告します。まず偽りの平和を奏でるオーブを攻撃します。MSパイロットたちに通達を。」

「了解しました、アリッサお嬢様。」

 アリッサは振り返り、これから仕掛ける戦いに備える。

「新たなる黄金の時代を迎えるのは、私たちシアーズです。」

 民衆に向けて、天使の微笑みを見せるアリッサ。光と闇の戦いに、新たなる勢力が加わろうとしていた。

 

 

次回予告

 

覚醒されたマイとカグツチ。

その脅威を受けて、オーブは劣勢に立たされていた。

満身創痍の彼らに叩きつけられた恐るべき挑戦状。

シアーズの戦士たちを相手に、アリカが飛び立つ。

 

次回・「黄金の天使」

 

偽りの平和、打ち砕け、ヴラス!

 

 

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