GUNDAM WAR -Encounter of Fate-
PHASE-06「戦いの胎動」
ダークサイドの来襲を感知したクサナギ。コーラルガンダムのバスターフォーマーへの換装とエネルギー供給、そしてエレメンタルガンダム、ダイアナと他のMSの出撃準備が着々と進められていた。
「コーラル、エネルギー充填完了。ダイアナ、ザク、出撃準備完了です。」
ユキノがシズルやパイロットたちに報告を送る。シズルは頷いて、遠くを見据えて指示を送る。
「全MS、出撃。ダークサイドが街への攻撃を行った場合、全力でそれを阻止してくれやす。」
シズルの指示がクサナギに響き渡る。再び先行して、コーラルガンダムを駆るアリカが飛び立つ。
彼女に続くように、他のMSも出撃準備を整えていた。
「ニナ・ウォン、ザク、出る!」
「エルスティン・ホー、ザク、出ます!」
二ナの駆るブレイズザクファントム、エルスティンのガナーザクウォーリアがクサナギを発進する。
一方、ハルカもエレメンタルガンダム、ダイアナのシステムチェックを行っていた。元々はユキノの機体だが、攻撃を重点に置く出撃の場合にはハルカが乗り込むことが多い。
ダイアナの最終チェックを、整備士のイリーナ・ウッズも行っていた。アリカたちとは親しい間柄で、時折妙な発明品の開発に没頭することがある。
「ハルカ隊長、ダイアナ、発進準備完了しました!」
「OK、イリーナ!ハッチを開けなさい!」
イリーナの言葉にハルカが笑みをこぼす。ハッチが開き、彼女はその先に広がる空を見据えた。
「ハルカ・アミテージ、ダイアナ、行くわよ!」
ハルカがアクセルをかけると、黄緑をメインカラーとしているエレメンタルがダム、ダイアナがクサナギ飛び出す。そしてしばらく飛翔したところで、突然その姿が消失した。
これがダイアナの特殊能力、ミラージュコロイドである。コロイド状の微細な粒子を展開、磁場形成することで、周囲の視界に対するほぼ完璧な迷彩を発することができる。しかしこれは姿を消すだけのもので、赤外線、熱源、音までは消すことができない。また展開中はフェイズシフトや核エネルギー展開の併用ができない。
あくまで偵察や奇襲攻撃に多用される能力である。
ダイアナのレーダーとモニターが、迫ってくるMS数機を捉える。
(もしも私たちか街、どちらかでも攻撃を仕掛けるなら、こちらも迎撃はやむをえないわ。)
ハルカは相手の出方をうかがいながら、いつでも戦闘に備えられるよう、身構えておく。ダークサイドの機体たちが、続々と街へと向かっていた。
ライトサイドへの攻撃に向けて前進していたナオ部隊。ジュリアを駆るナオが、眼下の街を見下ろして不敵に笑う。
「あの白い機体・・眼にもの見せてあげるわ。」
カグツチへの敵意をむき出しにするナオ。ジュリアが街に向けて左手をかざす。
「街に向けて攻撃!ライトサイドのMSをおびき出すのよ!」
ナオの声を受けて、ダークサイドの機体たちが街に向けて砲撃を開始した。鎮火していたはずの街が再び火の手にさらされた。
(さぁ、出てきなさい!あのエレメンタルガンダム!)
カグツチをおびき出すために、ナオは眼を見開きながら砲撃を行った。
「攻撃!?これ以上街をやらせはしないわ!」
いきり立ったハルカが、オーブのMSの先陣を切って、戦火の真っ只中に飛び込んだ。相手のレーダーの範囲内に飛び込む瞬間、ダイアナはミラージュコロイドを解いて装備した爪を振り下ろす。
奇襲を受けたザク1体が両断され爆散する。この瞬間に他のMSの動きが一瞬鈍る。パイロットが動揺を感じているのだろう。
「先にオーブが仕掛けてきたみたいね。でもいいわ。いい退屈しのぎになるならね!」
不敵な笑みを浮かべたナオが、ジュリアを駆ってダイアナに向かっていく。左手からビームサーベルを出現させてダイアナ目がけて振り下ろす。
それをダイアナがクローで受け止める。しかし他のエレメンタルガンダムに比べ、戦闘における性能が劣っているダイアナは、次第にジュリアに押され始めていた。
「そらそら!もうちょっと力を出してみなさいよ!」
叫ぶナオの眼前で、ジュリアがダイアナを突き飛ばす。体勢を立て直したものの、ダイアナは確実に劣勢を強いられていた。
「あの奇襲はなかなかだったけど、それ以外は大したことないわね。」
ダイアナの力量を見切ったナオがあざ笑う。一方、追い込まれたハルカが無言で毒づく。
「だったらもっと張り合えるようにしてやる。」
そこへニナのブレイズザクファントムが、ジュリアに向けてビームライフルを発砲する。しかしジュリアは機敏な動きでそれを回避する。
「あんまりウジャウジャ来られるとけっこうウザいねぇ。」
不敵に笑うナオが、標的をニナに移す。ビームサーベルを電撃鞭に変え、ニナのザクを捕らえようと迫る。
そこへエルスティンのガナーザクウォーリアが、高エネルギー長射程ビーム砲、ガナーウィザードを放つ。そのビームがジュリアの胴体をかすめる。
「やってくれるじゃないの。気分、サイテーね。」
舌打ちするナオが、電撃鞭を振りかざす。機能、性能ともにザクやダイアナを上回っているジュリアには、数による攻撃は意味を成さなかった。
そのとき、紅い機体がジュリアに勝るとも劣らない動きで飛び込み、ジュリアに向けてハルバートを振り下ろしてきた。機体の乱入に気付いたナオが、これを紙一重でかわす。
「くっ!オーブの新手!?それともライトサイドの・・・!」
突如乱入してきたエレメンタルガンダム、ガクテンオーに毒づくナオ。しかしガクテンオーは追撃をしてこない。
「熱き闘魂をこの柔らかな胸に秘め、ミドリスティールファング、ここに参上!悪に対して迷いはいらない!真実はただひとつ!愛と友情と・・・!」
スピーカーを入れて高らかと名乗りを上げるミドリ。しかしナオは聞く耳を持たず、左の手のひらからビームを放つ。
ガクテンオーはとっさに動いてこれをかわし、ジュリアとの距離を取る。
「コラー!正義の味方が名乗ってるときに攻撃するなんて、卑怯よー!」
抗議の声を上げるミドリだが、その声は全く意味を成さなかった。
そこへ青と白銀の機体が飛び込み、装備している銃砲でダークサイドのMSを数機撃ち抜く。
「おいっ!戦場の中で止まって邪魔をするな!ヒーローごっこならよそでやれ!」
ナツキは無線でミドリに言い放つと、再びダークサイドのMSに向けて銃砲を放つ。彼女の狙いと砲撃の正確性は研ぎ澄まされていて、的確に敵の機体を射抜いていく。
その傍らで、ゲンナイが小太刀とブーメランカッターでMSの動きを止めていく。
そして遅れてマイの乗るカグツチが戦場に現れた。
「やってやるわ・・タクミやみんなのためにも、あたしがやんないと・・・!」
マイは戦いに向けて赴く。しかしその気持ちは焦りとなっていた。
「えっ?あれは・・・」
時を同じくして戦場に赴いていたコーラルガンダムとアリカ。そこで彼女は、遅れて戦場に現れたカグツチを発見する。
「よーし。今度は負けないからね。」
気持ちを引き締めたアリカは、カグツチに向かって加速する。そしてインパルス砲を解き放つ。
それに気付いたマイが、コーラルガンダムの砲撃を飛翔してかわす。眼下のコーラルガンダムを見据えて、彼女は気持ちを引き締める。
「あれはこの前の・・・また・・・!?」
マイが驚きを感じながら、向かってくるコーラルガンダムに対して迎撃を行う。双刃のビームサーベルで、インパルス砲の連射を弾き飛ばす。
そして間髪置かずにコーラルガンダムに飛び込み、ビームサーベルを振りかざす。これをコーラルガンダムは飛翔して回避する。
「かわされた・・なんて速いの・・・!?」
動揺を覚え始めるマイ。コーラルガンダムが再びインパルス砲の銃口を向けてきた。
「今度はこっちが攻撃する番だよ。今度こそ当てる!」
アリカがレーダーとモニターを鋭く見据えて、カグツチへの標準を定める。そしてロックがかかった瞬間、彼女は砲撃の引き金を引く。
「なっ!?」
虚を突かれたマイ。カグツチが回避行動を取りきれず、コーラルガンダムの砲撃がカグツチの左肩をかすめる。
「ぐぅぅっ!」
体勢を崩されて落下するカグツチ。降下の衝撃に体を揺さぶられ、マイが顔を歪める。
何とか体勢を立て直して、地上すれすれで踏みとどまるカグツチ。再び飛翔して反撃に転じようとするが、コーラルガンダムのインパルス砲がカグツチを捉えていた。
マイはとっさに回避して、地上の街から離れていく。しかしコーラルガンダムは砲撃を仕掛けない。
アリカは眼下のカグツチの下に、混乱している街があったことに気付いた。このまま砲撃すれば、街の悲惨をさらに広げることになる。だから砲撃せず、牽制の形を取った。
しかしこのままカグツチを逃がすつもりもなかった。カグツチが街から離れたところを見計らって、インパルス砲を発射する。
「キャッ!」
今度はビームサーベルを持った右手を射抜かれるカグツチ。強い衝撃を受けて、マイが悲鳴染みた声を上げる。
優劣が明確になったカグツチとコーラルガンダム。軍の訓練を受けているアリカと、訓練を受けていないマイ。経験の差が、戦況の優劣を物語っていた。
「このままじゃやられる・・ここは退いたほうがいいかも・・・!」
追い込まれたマイが一時撤退を脳裏によぎらせる。コーラルガンダムも三度銃口を向けてくる。
そのとき、コーラルガンダムのコックピットに警告音が鳴り響く。アリカが周囲とレーダーに気を配ると、ダークサイドのMSが数機向かってきていた。
「加勢しに来たんだね。でもやられたりしないから!」
アリカはインパルス砲の銃口をMSたちに向ける。そしてチャージしていたエネルギーを解き放ち、MSの武装と頭部を撃ち抜き、コックピットへは狙いを向けなかった。
平等と平和。オーブの理念に従って、アリカは戦闘を行っていた。
コーラルガンダムの攻撃で劣勢を強いられたマイ。満身創痍のカグツチに、ナツキの駆るデュランが駆けつけた。
「貴様、こんなところで何をしている・・・!?」
「えっ・・・!?」
ナツキの無線を使っての言葉にマイは困惑する。
「分かったか。これが戦い・・命のやり取りというものだ。お前の覚悟とやらが、ここではどれだけ無力か身に染みたか・・・?」
ナツキの諭すような言葉に、マイは反論できず沈黙する。デュランが銃砲をダークサイドのMSたちに向ける。
「よく眼に焼き付けるがいい。これが本当の戦いだ!」
言い放ってナツキは引き金を引く。二門の銃砲からビームが発射され、MSを射抜く。
あるものは戦闘不能に、またあるものは火花を散らし、虚空に爆散して消えていった。その中でデュランの機敏さと正確さは際立って見えて、他のMSを圧倒していた。
「あんまり調子に乗るんじゃないよ!」
そこへジュリアを駆るナオが飛び込み、デュランに奇襲を仕掛ける。デュランは銃砲の一門を盾にしてこれを受けきるが、その銃砲がわずかながら変形してしまう。
射撃はわずかな銃口のズレが、狙いに大きな誤差を生じてしまう。ナツキにはそれは重々承知のことだった。
(いったん距離を取るしかない!デュランは接近戦には極めて弱い・・・!)
毒づいたナツキが砲撃で牽制しつつ距離を取ろうとする。しかしジュリアはその牽制をかいくぐり、あくまで接近戦に持ち込もうとする。
「逃がしはしないよ!アンタもあたしが始末してやるよ!」
ナオが眼を見開いて、一気にデュランに詰め寄ってビームサーベルを振りかざす。デュランは牽制を続けるばかりで、特殊弾の装てんができないでいた。
「1体にばかり気を向けていては勝機はないぞ!」
そこへ突如、アキラの操るゲンナイが姿を現し、ジュリアに向けてビームサーベルを振り下ろす。
「何っ!?」
虚を突かれたナオだが、何とかこの奇襲をかわす。ゲンナイにもダイアナと同様、ミラージュコロイドが搭載されているのだ。
「受けてみろ!必殺、地獄釜!」
叫ぶアキラ。ゲンナイが武装していた鉄球をジュリア目がけて振り下ろす。
ジュリアはビームサーベルを電撃鞭に変えて弾く。手立てを失い、互いににらみ合う形となった。
だがそれが、ナオにとって命取りとなった。
その隙を突いて、デュランが特殊弾装てんを開始していた。
「デュラン!ロードシルバーカートリッジ!」
白銀の弾が銃砲に装てんされ、銃口がジュリアに向けられる。装てん完了を見計らったアキラが、ナオから離れる。
「しまった!」
油断を突かれたナオ。とっさに回避行動を取ろうとするジュリアに向けて、デュランが特殊弾を発射する。
放たれた白銀の弾丸はジュリアに向かう途中で拡散し、白い無数のビームとなって再び解き放たれる。そしてビームは収束して、後退していくジュリアの胴体をなぎ払っていく。
「ぐああぁぁっ!」
直撃して爆発を引き起こすジュリア。その衝撃でうめくナオ。デュランのシルバーカートリッジは、ジュリアを完全に追い込んでいた。
「くっ!あたしをここまで追い込むなんて・・・ひとまず撤退する!陣形を立て直すわよ!」
危機感を覚えたナオは、部隊に撤退命令を下す。それを受けたダークサイドのMSたちが次々と撤退していく。
追撃しようと考えたナツキだが、銃砲の一門が損傷していたため、あえてそれを踏みとどまった。ジーザスの機体でさえ、無傷というわけではないのだ。
“アリカ、エルス、こっちも引き上げるぞ。”
コーラルガンダム、ガナーザクウォーリアに、ニナからの無線が入る。アリカ、エルスティンは頷き、撤退していった。
治まっていく戦闘の中で、マイはひどく困惑しきってしまっていた。
ダークサイドとの戦闘を終え、ジーザスに帰還してきたエレメンタルガンダムたち。その中で、マイはひどく落ち込んでいた。
五感を最大限に研ぎ澄まし、敵であるものと命のやり取りをする。戦いの厳しさと重さを、彼女はきつく感じていた。
そんな彼女の前にナツキが現れ、鋭い視線を向けてきた。そしてナツキは何も言わずに立ち去っていった。
さらにマイは落ち込み、歯がゆい気持ちを必死に押さえ込もうとしていた。そこへミドリ、ユウがやってきた。
「そんなに落ち込むことないよ、マイちゃん。初陣でこれだけやれればすごいもんだよ。」
「ミドリちゃん・・でも・・・」
「そんなに気にすることないぜ。オレの初陣なんて散々な結果だったぜ。」
ミドリとユウの言葉に励まされるマイ。しかし重く沈んだ気持ちを和らげるには至らなかった。
一方、クサナギに帰還したアリカたち。彼女の周りで、憮然とした面持ちを崩さないニナ、安堵の息をつくエルスティン、ユキノに歓迎されるハルカが眼に留まった。
そんな彼女の前に、シズルとイリーナが近寄ってきた。
「お疲れ様、アリカちゃん。大活躍だったみたいね。」
「ううん、イリーナちゃんがしっかり整備とエネルギー補給をしてくれたからだよ。」
イリーナの言葉にアリカが照れ笑いを浮かべる。するとシズルが笑みを崩さずに、
「と、言いたいとこやけど・・」
「えっ・・・?」
「アリカさんが相手にしてたのはダークサイドのエレメンタルガンダムやあらしまへん。ライトサイドが保管しとったエレメンタルガンダムどす。」
「・・・え、ええっ!?」
シズルの口にしたこの言葉に、アリカは驚きの声を上げた。その後意気消沈した彼女を、エルスティンが必死の思いで励まし続けた。
次回予告
荒々しい初陣を終えたマイ。
つかの間に休息に訪れたいつもの病室。
療養を受ける弟に、いつものように笑顔を送る。
そこで出会った少女。そこで目の当たりにした真実。
新たな運命の歯車が、今まさに動き出そうとしていた。
吹き荒れる業火、解き放て、グフ!