GUNDAM WAR -Encounter of Fate-

PHASE-03「目覚める翼」

 

 

 ユウとマイを乗せたエレメンタルガンダム、カグツチが起動し、半壊する格納庫から飛び出す。そしてそれを奪取するために現れたジュリアの眼前に着地する。

「ねぇ・・何なの、あのMS・・・!?」

 マイが眼前の機体を指差す。ユウはその方向に視線だけを向けて答える。

「あれもエレメンタルガンダムの一種だろうな。機体のデータのいくつかが外に漏れちまって、ダークサイドや他の国の連中に渡っちまった。多分、そこにいるヤツもその1機だろうな。」

「そんな重要で物騒なもの、ちゃんと管理しなさいよ!」

「オ、オレだけのせいじゃねぇよ!」

 責め立てるマイに、感情的な抗議を上げるユウ。しかし気持ちを切り替えて、彼は眼前の機体を見据える。

「とにかく、悠長にしている状況でもなさそうだ。しっかり捕まってろよ!」

 マイに言い放って、ユウはカグツチを突き動かした。

 

「さて、どんな性能のエレメンタルガンダムなのか、じっくりと見させてもらうわよ。」

 ジュリアを駆るナオが不敵な笑みを浮かべる。新たなエレメンタルガンダムを手に入れようとしていた彼女は、その能力と強さを直に確かめようとしていた。

 眼前の白い機体を見据えたジュリアが右手を掲げると、その手のひらからレーザーが射出される。カグツチは飛び上がってこれをかわすが、ジュリアはさらに右手を動かす。すると真っ直ぐに伸びていたはずのレーザーが形を変え、鞭のようにカグツチに襲い掛かっていく。

 これがジュリアの主力武器の1つ、軟式レーザー砲である。手のひらの発射口には、小さな鉄線が数本取り付けられている。そこから放たれる磁場を応用することで、鞭のようなレーザーを放つことが可能となる。

 その電撃鞭が、ビームサーベルを引き抜いたカグツチの足を捉える。ジュリアはそのままカグツチを地上に突き落とす。

「ホラホラ、ちゃんと相手してくれないと、あたしのほうが困っちゃうじゃないの。」

 ナオがよろめいているカグツチを見て、あざけりの笑みを浮かべる。しかしこれで手を緩めるようなことはせず、ビームライフルを手にして、追撃を開始する。

 

「イタタタ・・もう、ちゃんと操縦しなさいよ!簡単に捕まってどうするのよ!」

「文句言うなよ!ただのMSならともかく、エレメンタルガンダムは性能だけじゃなく操縦の難しさもレベルが高いんだよ!」

 文句を言うマイに対して吐き捨てるように返すユウ。エレメンタルガンダムの操縦は、彼にとって困難を極めていた。

「ほら、来たよ!早く立って!」

「分かってる!」

 ユウは声を荒げながら、カグツチを起こして体勢を立て直す。そこへジュリアがビームライフルの引き金を引いてきた。

 カグツチは後退して放たれた光の銃弾を回避する。すかさず間合いを詰めて、ビームサーベルを振り下ろす。

 しかしジュリアは手のひらからの軟式レーザー砲を形質化させたビームサーベルで受け止める。カグツチは押し切れず、ジュリアに弾き返されてしまう。

 そこからジュリアの攻撃が再び開始される。ビームサーベルの猛襲を何とかかわしていくも、ビームライフルの砲弾を撃ち込まれ、体勢を崩される。

「くそっ!アイツのパイロット、かなり戦い慣れてやがる!」

「もう、何やってるのよ!このままじゃやられちゃうじゃない!」

「分かってる!けどコイツを動かすのが難しいんだよ!」

 愚痴をこぼしながらも、ユウは劣勢に焦りを覚えていた。そんなカグツチに、容赦なくジュリアが襲い掛かってくる。

「見てられないわよ!ちょっと、操縦代わって!」

「お、おいっ!」

 見かねたマイの突然の申し出にユウが驚きをあらわにする。彼を押しのけて、代わりに操縦席に座る。

(やっぱり・・ロボットに全然乗ったことないのに、初めてこれを動かすって気がしない・・・)

 奇妙な違和感と高揚感を感じながら、マイはコンピューターパネルを叩き、カグツチの操作システムを改善していく。初めてのMSの操縦でありながら、彼女は操作プログラムを的確に整理していく。

 そしてシステムの改善と構築を完了すると、それはマイだけのシステムロックのかかったカグツチとなっていた。

「すげぇ・・オレ、全然分かんねぇよ・・・」

 マイのあまりの操作技術に、ユウは唖然となっていた。しかしジュリアの接近に気付いて、すぐに我に返る。

「おい、前!攻撃してくるぞ!」

 彼の声にマイが前を見据える。振り下ろされたジュリアの光線の剣を回避し、後退して距離を取る。

「何だよ・・オレなんか動かすのも必死だったのに・・・」

 ユウはマイの感嘆を覚えるばかりだった。

 

「何!?動きがよくなった!?」

 動きが機敏になったカグツチに、ナオが驚きを見せる。簡単に攻め込めていたはずの戦いが、拮抗するほどに持ち直してきていた。

「まぁ、あんまり一方的になりすぎてもつまんないからね。たっぷり楽しませてもらうわよ。」

 すぐに不敵な笑みに戻って、ナオはジュリアのアクセルを入れる。再び突進してビームサーベルを振り下ろすが、カグツチは飛び上がってかわす。

「そっちに行くのは分かってんだよ!」

 しかしナオはその動きを予測していた。ビームサーベルを変形させ、電撃鞭にしてカグツチの右腕を捕らえる。

「つかまえた〜・・なっ!?」

 してやったりという面持ちを浮かべた直後、ナオは引っ張られる感覚に襲われる。モニターを見ると、カグツチが捉えた鞭をつかんで引き込んでいた。

 そしてカグツチは双刃のビームサーベルを手にして、ジュリアが持っていたビームライフルを腕ごとなぎ払った。

「そんなっ!?」

 驚愕するナオ。もがれたジュリアの腕が火花を散らす。

「やってくれるじゃないの・・・こんなことしてただで済むと思ってるかしら?」

 ナオは顔を引きつらせながらも、必死に笑みを作る。しかし憤りを隠しきれてはいなかった。

 破損した腕を切り離して、ジュリアは戦闘機型のMAに変形する。

「この借りは必ず返してやるからね・・・!」

 そしてカグツチの前から、戦線から離脱した。ナオの吐き捨てるようにこぼした言葉を残して。

 

 エレメンタルガンダムのエネルギーを探知して、コーラルガンダムを駆るアリカはその地点に向かっていた。そこで彼女は、悠然とそびえ立つ白い機体を目の当たりにする。

(もしかして、あれがダークサイドのMS・・・)

 アリカはその機体をヴィントブルムを襲撃してきた敵と認識して、コーラルガンダムを加速させた。完全に自分が勘違いしていることに気付かずに。

 

 ジュリアの猛攻を退け、一息つくマイとユウ。

「おい、お前・・軍の訓練でも受けてたのか?オレでもうまく操れなかったカグツチを、こんなにあっさり動かしちまうなんてよ・・・」

 ユウがマイの力量に唖然となっている。するとマイが彼に対してムッとする。

「あたしにはね、マイ・エルスターっていう立派な名前があるのよ。今度から間違えないでね。」

「立派な名前ねぇ。へぃへぃ。」

 これに対しユウは半ば呆れ気味に答える。マイは気持ちを切り替えて、話を戻す。

「あたし、いろいろバイトとか勉強とかして、資格もいくつか取ってるんだけど、軍隊に関することは全然。コンピューターもそんなに詳しくやってなかったし・・・」

 後から苦笑いを浮かべだすマイ。彼女の話を聞いても、ユウは彼女がたやすくエレメンタルガンダムを操れたかが分からないままだった。

「とにかく、早くジーザスに戻ったほうがいいな。いろいろ報告しなきゃなんないことがあるからな。」

 ユウはその疑問を後回しにして、母艦への連絡を告げる。

 そのとき、カグツチのレーダーがMSの高エネルギーを探知して警告音を発する。マイとユウに再び緊張が走る。

「この反応・・ただのMSのエネルギーじゃないな・・・」

 ユウがそのレーダーから相手の位置を探ろうとする。その向かってくる方向に視線を向けたとき、レーダーの感知と警告音が、エネルギーが遠距離から中距離に入ったことを告げてくる。

 カグツチの前に現れた機体は、白と青がメインカラーの標準的な姿のものだった。

「何、あの機体!?・・あれも、エレメンタルガンダム・・・!?」

「分からねぇ。けどあんなもの、ライトサイドのデータにはないぞ・・・」

 マイとユウは眼前の機体に当惑する。その答えを探る時間を与えないかのように、突然白い機体、コーラルガンダムがビームサーベルを引き抜いて飛び込んできた。

「なっ!?」

 虚を突かれたマイとユウ。彼女はとっさにカグツチを後退させ、コーラルガンダムの一閃を回避する。

「い、いきなり襲い掛かってくるなんて!」

「も、もしかして、さっきのヤツの仲間か・・!?」

 驚きを隠せないマイとユウ。眼前のガンダムは、回避を続けるカグツチに追撃を入れようとしていた。

「このままじゃやられちゃう!反撃しないと!」

 危機感を覚えたマイは、双刃のビームサーベルを構える。コーラルガンダムはこれに臆することなく、カグツチに向かおうとする。

 だがそのとき、コーラルガンダムから突然色が消失する。色を失くした鉄の固まりとなった眼前の機体に、マイとユウは再び困惑を浮かべた。

 

「し、しまったぁ・・フェイズシフトダウンしちゃったよぉ・・・」

 力を浪費してしまったコーラルガンダムに、アリカは困り顔を浮かべる。

 従来のガンダムはフェイズシフトと呼ばれるエネルギー装甲が搭載されていることが多い。金属に一定の電圧の電流を流すと金属が高質化するという特性を利用していて、これを発動している間は実体弾による攻撃をほぼ無力化できるようになる。

 コーラルガンダムのエネルギーが尽き、フェイズシフトが解けてしまったのである。再び戦線に加わるためには、母艦への帰還かデュートリオンビームによるエネルギー供給が必要となってくる。

「ダメ・・このままじゃ、いったん戻らないと・・・」

 手立てを失ったアリカは、ひとまず撤退することを余儀なくされた。カグツチに一撃も浴びせることなく、母艦「クサナギ」に帰還していった。

 

「どうしたの・・・色が消えたと思ったら、逃げちゃった・・・」

「あの機体、フェイズシフト装甲を持っていたのか・・・フェイズシフトダウンしたから、退いたんだと思う・・・」

 飛び去っていたコーラルガンダムに、マイは唖然となり、ユウは安堵の息をつく。

「こっちも戻ったほうがよさそうだな。被害がないわけじゃない。」

「そうね。でも、どこへ・・・」

 マイは周囲をうかがいつつ困惑する。いくらなんでも、この機体に乗ったままレストランに戻るわけにはいかない。

 そのとき、カグツチのレーダーが再びエネルギーを感知する。

「このエネルギーは・・・!?」

「これは、ジーザス・・大丈夫、味方だ。」

 緊張を覚えるマイだが、ユウは安堵の笑みを浮かべていた。モニターに映し出されたのは、両翼両尾翼の白い戦艦だった。

 ライトサイドの旗艦「ジーザス」である。

「ジーザス!聞こえるか、ジーザス!こちら、ユウ・ザ・バーチカル!」

 ユウが眼前の母艦に通信を送る。するとノイズのないクリアな声が返ってきた。

“こちら、ジーザス。カグツチ、応答せよ。”

「その声は、アオイか?よかった・・格納庫がひとしきりやられちまった。カグツチの回収を頼む。」

“了解です。”

 ユウの報告を受けて、ジーザスのオペレーター、アオイ・セノーが明るい返答をする。

「それから、民間人が1人中にいるんだけど・・」

“えっ?”

 ユウのその報告に、アオイは動揺の声を返していた。

 

 フェイズシフトダウンを引き起こし、やむなくクサナギに帰還したアリカ。色を失くしたコーラルガンダムが、その船体に着艦する。

「ふぅ。危ないところだったかも・・」

 安堵の吐息をつくアリカに、クサナギのハルカとユキノから通信が入る。

“無事に戻ってこれたようですね、アリカさ・・”

“コラッ!アリカさん、エネルギーの残量には注意しなさいと訓練のときに言ってあったでしょ!?”

 ユキノが安堵を浮かべながら通信を送っているところへ、ハルカが割り込んでアリカに向けて怒鳴る。

「す、すみません。あまりに夢中になってしまったもので・・エヘへ・・・」

 アリカが苦笑いを浮かべるが、逆にハルカの感情を逆撫でする羽目になる。

“緊張が足りません!もう少し真剣になりなさい!次は撃ち落されることだって・・・!”

“まぁまぁ、ハルカさん。アリカさんに先陣を切らせたのはうちやさかい。その辺で堪忍したってや。”

 ハルカの叫び声をさえぎって、シズルが彼女をなだめながら声をかけてきた。

「シズルさん、すみません。任せてもらったのにこんなことに・・・」

“気にせんといて。それより状況はどうなりました?”

「はい。街で暴れているMSを沈黙した後、エレメンタルガンダムと思われる機体を発見。交戦しようというところでフェイズシフトダウンが起きてしまいました。」

“そうどすか。いったん戻りやす。コーラルの整備とエネルギー補給をしとかんと。”

「分かりました。」

 シズルの指示を受けて、アリカはクサナギのドックに向かおうとした。

 そのとき、コーラルガンダムとクサナギのレーダーが、複数のエネルギーの接近を感知する。

「どうしたんですか!?」

“MSです!ザク5機、ゲイツ3機、ジン3機!あと・・エレメンタルガンダムです!”

 ユキノの通信に、アリカは緊迫を覚える。クサナギ内の隊員たちの緊張感が彼女にも伝わってきていた。

「ユキノさん、デュートリオンビームを!あと、バスターフォーマーに換装してください!」

“アリカさん・・・!”

「このまま行きます!今度は注意してやります!」

 戸惑いがこもったユキノに、アリカの真剣さが伝わってくる。気持ちを改めた彼女の真意を感じ取って、シズルは頷いた。

“分かりました。連戦になるけど、気張ってやってくれやす。”

「あぁぁ・・ありがとうございます、シズルさん!」

 シズルの計らいを受けて、アリカが満面の笑みを浮かべた。

 

 クサナギの艦内でアリカとの通信を終えたシズルたち。彼女たちのいる司令室に、ニナ、エルスティンが入ってきた。

「ニナさん、エルスティンさん、あなたたちにも頑張ってもらいやす。」

「出撃ですね。私はいつでも出られます。」

「私も・・・」

 微笑みながら声をかけてくるシズルに、ニナは鋭く見据えながら、エルスティンは少し戸惑った様子でそれぞれ答える。

「もうすぐダークサイドのMSがこちらにやってくるさかい。あなたたちも、気張ってアリカさんを助けてあげてな。」

「・・アリカの援護だけというのは腑に落ちません。彼女と同じ戦線で、ダークサイドのMSを迎撃します。」

 シズルの言葉に眉をひそめながらも、ニナはこれからの戦闘に備える。エルスティンは相変わらずそわそわした面持ちを見せる。

「ほんまに失礼しやした、ニナさん・・これより、本艦はダークサイドの攻撃に備えます!第一級戦闘配備!ニナさん、ハルカさんはアリカに続いて出撃!エルスティンさんとアカネさんは、クサナギの上で待機どす!」

 シズルが真剣な面持ちになって、クサナギのクルーたちに指示を送る。それを受けてクルーやパイロットたちが動き出す。

「ユキノ、ダイアナを借りるわよ!あの性能は効果的だからね!」

「うん。でも、絶対無事に戻ってきてね、ハルカちゃん。」

「分かってるわよ。私は不死身よ!」

 ユキノの心配に、ハルカは自信たっぷりな笑みを浮かべる。

 2人は幼い頃からの親友で、平和のためにオーブに入隊したハルカに、ユキノもついていくことを選んだのだった。

 ユキノの思いを背に受けて、ハルカは戦いに身を投じていくのだった。

 

 

次回予告

 

少女の前に現れる光の使者。

彼女の日常の中で、彼らは闇の戦士と戦っていた。

光の戦士の真意を知ったマイは、密かな決意を秘める。

そして再び、戦いの火ぶたが切って落とされる。

 

次回・「暁の車」

 

立ちはだかる壁、撃ち抜け、デュラン!

 

 

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