GUNDAM WAR

-Destiny of Shinn-

PHASE-47「楽園からの脱出」

 

 

 シンたちのいる議長室のそばに、インパルスが降り立った。インパルスが議長室に向かって左手を伸ばしてきた。

 インパルスの手が窓と壁を破った。兵士たちがギルバートを守りながら、インパルスに向かって銃を発砲する。

 インパルスは撃たれてもものともせずに、さらに手を伸ばす。

「議長、ここは退室を・・!」

「すぐに他の部隊に応援を求めます!」

 兵士たちがギルバートに呼びかけて、別部隊への連絡を取る。

「シン、インパルスに乗って!」

「ルナ!?

 ルナマリアの声が聞こえて、シンがさらに驚く。

「何をやってるんだよ、ルナ!?・・お前はステラのそばにいなくちゃ・・!」

「ステラならここにいるよ・・」

 動揺を膨らませるシンに、ルナマリアが答える。インパルスのコックピットのハッチが開かれて、中にはルナマリアとステラがいた。

「ステラ、どうして!?・・ルナ、何で連れ出したんだ!?

「詳しい話は後よ!今は早くインパルスに!」

 問い詰めるシンを、ルナマリアが必死に呼びかける。シンは腑に落ちないながら、インパルスの手の上に乗った。

「逃がさない・・!」

 レイがシンを狙って発砲するが、インパルスはシンを連れ出して離れていった。

「レジェンドの発進準備を!追撃に出ます!」

 レイが兵士たちに呼びかけて、議長室を飛び出した。

(逃げられはしないよ、シン。我々からも、世界からも。)

 去っていくインパルスを見つめて、ギルバートは笑みを浮かべていた。

 

 ルナマリアとステラを乗せたインパルスが、シンを連れて飛行していく。インパルスは格納庫の前に着地した。

「ルナ、どういうつもりなんだ!?ステラを連れ出して、オレを助けて・・そんなことをしたら、お前も議長に狙われることになるんだぞ!」

 シンが怒鳴って、インパルスから顔を出したルナマリアに駆け寄る。

「シン・・私も自分の気持ちにウソは付けない・・私も、誰かに生き方まで全部決められたくはない・・・!」

 ルナマリアが悲しい顔を浮かべて、自分の正直な気持ちを口にする。

「シンも自分の生き方を自分で決めようとする・・でもそうなると、シンは狙われるんじゃないかって・・」

「だから、オレを助け出そうとしたのか・・だけど、ステラはどうして・・・!?

 ルナマリアの思いに納得するシンが、ステラに目を向ける。

「シンがレイに呼ばれる前に、ステラの様子を見に行ったの・・ステラ、シンのことを心から慕ってた・・・」

 ルナマリアがステラのことを話して、シンが戸惑いを覚える。

「シンがいなくなったら、ステラは生きる希望を失くしてしまう・・シンが必死になって助け出したのに・・・!」

「ステラのことを思って、ルナは・・・」

 ステラを気に掛けるルナマリアに、シンは感謝を感じていた。

「ルナも、ザフトに、プラントに戻れなくなるって分かってたはずなのに・・・!」

 自分のために、平穏を犠牲にしたルナマリアに、シンは涙を見せていた。

「シンがいなかったら、ホントの平和にならないよ・・きっと、ステラも同じ気持ちじゃないかな・・」

「ルナ・・ステラ・・・2人とも、しょうがないんだから・・・」

 想いを貫こうとするルナマリアに、シンは肩を落としてから安らぎを覚えた。

「でもルナ、どうやってインパルスを!?・・グラディス艦長の許可がなくちゃ・・・!」

 シンがルナマリアに、さらに疑問を投げかけていく。

「艦長からの許可はないわ。私が勝手に乗って発進してきたの・・」

「それじゃ、ミネルバは今頃・・!?

 ルナマリアの話を聞いて、シンが驚きを隠せなくなった。

 

 ステラの様子を見に病棟に来ていたルナマリア。メイリンも彼女と一緒に来ていた。

「本当に落ち着いているみたいだね、あの子・・」

 眠り続けているステラを見つめて、メイリンが安心を浮かべる。

「うん・・・彼女、シンのことを頼りにしてる・・もしもシンに何かあったら、生きる希望を見失ってしまうんじゃないかってくらいに・・・」

 ルナマリアが答えて、シンを心配する。レイやギルバートによってシンが危険に巻き込まれるのではないかという予感を、彼女は抱えていた。

「やっぱり・・シンを助けなくちゃ・・このままだとシンが・・・」

 シンが気がかりになったルナマリアが、自身の決意を固めた。

「お姉ちゃん、シンに何かあるの・・・!?

 メイリンが彼女の様子を気にして問いかける。

「シンはデュランダル議長に心から従っているわけじゃない・・デスティニープランに反発して、処罰されてしまうんじゃないかって・・・」

「そんな・・シンが裏切るってこと・・・!?

「議長にそう思われるかもしれない・・・」

 動揺を膨らませるメイリンの前で、ルナマリアが深刻さを募らせていく。

「お姉ちゃん、シンのことが好きなんだね・・・」

「好きっていうか、ほっとけないんだよね・・シン、ホントにムチャばかりするから・・・ほっとけないっていうのも、好きっていうのかな・・」

 メイリンがからかい半分で言いかけるが、ルナマリアはあまり動揺することなく答えた。

「私はシンを助ける・・もちろん、ステラもね・・」

「でもお姉ちゃん、どうやって?・・インパルスやデスティニーはミネルバとそばの格納庫にあって、どっちも艦長の許可がないと・・」

「それでも発進するわ。ドックのハッチを壊してでも・・・」

「お姉ちゃんったら、シンのムチャがうつったんじゃないの?」

 自分の信念を貫くルナマリアに、メイリンが呆れた素振りを見せる。

「分かった。私がハッチを開くから、お姉ちゃんは発進して・・」

 メイリンも覚悟を決めて、ルナマリアに呼びかけてきた。

「そんなことをしたら、メイリンまで・・!」

「シンやお姉ちゃんにだけこんな大変な思いをさせるわけにいかないよ!」

 心配するルナマリアだが、メイリンの意思も変わらない。

「そうだ!いい方法があるよ!」

 思いついたメイリンが、ルナマリアに耳元に囁いた。

「メイリン、そんなこと・・・!?

「でもそうすれば、私がミネルバに残れる・・そうすれば、お姉ちゃんたちをサポートできる・・・!」

 動揺を隠せなくなるルナマリアに、メイリンが助言を送る。

「言う通りにして、お姉ちゃん・・そうすればシンを助けに行ける・・・!」

「メイリン・・・あなたやみんなも無事でいられることも、願っているからね・・!」

 メイリンの思いを受け取って、ルナマリアが真剣な面持ちで頷いた。

「それじゃ行くよ、メイリン・・・!」

「うん・・・!」

 ルナマリアの声にメイリンが頷く。2人は病棟を後にして、ミネルバに戻った。

 

「近づかないで!」

 ミネルバのドックに戻ってメイリンが発進準備を進めている中、そこへ来たヨウランたちにルナマリアが呼びかけた。ルナマリアは手にした銃をメイリンに向けていた。

「近付いたらメイリンの命はないわよ!」

「ルナマリア・・何をやってるんだよ、お前・・!?

 脅しをかけるルナマリアに、ヴィーノが驚きの声を上げる。

「すぐにインパルスの発進準備を!」

 ルナマリアが呼びかけて、メイリンがドックのハッチを開いた。

「ありがとう、メイリン・・・!」

 ルナマリアが小声でメイリンに礼を言う。

「ルナマリア、メイリンを放してこっちへ来い!」

 アーサーもドックにやってきて、ルナマリアに怒鳴ってきた。ルナマリアはメイリンを彼らのいるほうへ突き飛ばした。

 同時にルナマリアが走り出して、コアスプレンダーに乗り込んだ。

「止めろ!絶対に発進させるな!」

 アーサーが呼びかけて、兵士たちがコアスプレンダーに向かって発砲する。

「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」

 ルナマリアが乗ったコアスプレンダーがミネルバから発進した。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットも発進していった。

 メイリンがコアスプレンダーと連動して、3機も続けて発進するようにインプットされていた。

「しまった・・すぐに追跡して止めなくては・・!」

「でも、ここにパイロットがいないです!」

 アーサーが指示を出すが、ヨウランが慌てて言葉を返す。ルナマリアだけでなく、シンもレイも今はミネルバにはいない。

「仕方がない・・他の部隊に連絡して、救援を・・!」

「了解!」

 アーサーが次の指示を出して、兵士たちが近くにいる部隊へ連絡を取った。

(お姉ちゃん・・シンのこと、助けてあげてね・・・!)

 メイリンが心の中でルナマリアたちの無事と幸せを願った。

 

 合体を果たしたフォースインパルスは、ステラのいる病棟に着地した。その音を耳にして、ステラが目を覚ました。

「シン?・・シンが乗ってるの・・・?」

 ステラが体を起こして、インパルスを見つめる。彼女はベッドから降りると、窓を開けてじっと見つめる。

「ステラ、シンが危ないの・・これから私が助けに行くわ・・・!」

 インパルスのコックピットのハッチを開いて、ルナマリアがステラに事情を話す。

「シンが・・・!?

 ステラがシンのことを心配して、動揺を浮かべる。

「ステラも行く・・今度は、ステラがシンを守る・・・!」

「行くのはとても危険なところよ・・私は必ずシンを無事に連れ帰るけど・・・」

「ステラも連れてって・・・危ないのは怖い・・でも、シンがいないと、もっと怖い・・・!」

「ステラ・・・」

 自分の思い、シンへの思いを口にするステラに、ルナマリアは戸惑いを覚えた。

「分かった・・こっちへ来て!」

 ルナマリアが頷いて、インパルスがステラに向かって手を伸ばした。ステラが病室を飛び出して、インパルスの手の上に乗った。

「ステラ、行くよ・・しっかりつかまって・・・!」

「うん・・・!」

 ルナマリアが呼びかけて、コックピットの中に入ったステラが頷いた。ハッチが閉じて、インパルスが病棟から飛び上がった。

 

 ルナマリアから話を聞いて、シンは戸惑いを募らせていた。

「オレのために、ステラもメイリンも・・・!」

「ステラを連れ出したことはゴメン・・でも、ステラの気持ちを無視できなかったから・・」

 ステラに目を向けるシンに、ルナマリアが謝る。

「私もステラも、ここに戻れなくなることを覚悟している・・私たちもシンについていくから・・・!」

「シン・・ステラも、シンと一緒にいる・・・」

 ルナマリアに続いて、ステラもシンへの思いを口にする。

「ルナ・・ステラ・・・分かった・・オレもこのまま行く・・2人と一緒に生きていく・・!」

 シンが頷いて、ドックの中に足を踏み入れた。デスティニーもドックの中で待機していた。

「オレが迎撃をする・・ルナはステラを守ることに専念して、できるだけ戦いは避けるんだ・・」

「シン・・でも、それじゃ・・!」

「インパルスはデスティニーと違って、エネルギーに限りがある・・オレも戦いはしたくはないけど、やられるつもりもないから・・・」

 シンの指示を聞いて、ルナマリアはステラに目を向けてから小さく頷いた。

「ステラ、私たちであなたを守るから・・・」

「オレと君とルナ、3人で安心して暮らせる場所へ行こう・・・!」

 ルナマリアとシンがステラを励ます。ステラが微笑んで頷いた。

 シンがデスティニーに乗り込んで起動させる。デスティニーがドックから出て、シンが空を見上げた。

「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」

 シンのデスティニーが空へ飛翔した。ルナマリアの戻ったインパルスも、デスティニーに続いた。

 

 シンとルナマリアを追跡するため、レイも遅れてドックにたどり着いた。彼はドックの中にあるレジェンドに乗り込んだ。

(何も細工をされていない・・細工を加えれば時間を稼げていたはずなのに・・・)

 レジェンドのシステムチェックをしたレイが、疑問を覚える。

(今は余計なことを考えている場合ではない。シンを追わなければ・・)

 レイは疑問を振り切り、レジェンドを動かしてドックを出た。

「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」

 レイのレジェンドが飛翔して、デスティニーとインパルスを追っていった。

 

 ルナマリアがインパルスで飛び出したことで、ミネルバ艦内も騒然となっていた。ルナマリアがステラを連れて、シンとともに逃亡したことは、タリアにも知らされた。

(シン、あなたはギルバートの作るこの世界に納得できず、脱出するのね・・ルナマリア、あなたも・・・!)

 シンたちの心境を察して、タリアが心の中で呟く。

(でも私はミネルバ艦長として、あなたたちを追って捕まえなければならない・・最悪、あなたたちを討つことになるかもしれない・・・!)

 ザフトの一員としての責務を考えて、タリアも覚悟を決めた。

「ミネルバ、システム、武装、チェック完了しました!」

 アーサーが報告をして、タリアが頷いた。

「本艦はシンとルナマリアの追跡と拘束に向かいます。途中、レイと合流し、同行します。」

 タリアが真剣な面持ちでアーサーたちに呼びかける。ミネルバのクルーたちが発進に備える。

(お姉ちゃん、シン・・私たち、お姉ちゃんたちの敵になるなんて・・・)

 メイリンがルナマリアたちの身を案じて、心を揺さぶられていた。

 

 プラントから脱出して宇宙に飛び出したデスティニーとインパルス。ステラが不安を感じているのを、ルナマリアは感じ取った。

「ステラ、大丈夫・・・?」

 ルナマリアが声を掛けるが、ステラは震えるばかりである。

「私もステラのことを守る・・私がそばについているから・・・!」

「ルナ・・・ステラ、ルナを信じる・・・」

 励ますルナマリアを、ステラは信じた。2人の会話を通信で聞いていたシンも、安らぎを感じていた。

「ルナ、今のうちにインパルスの回復を・・デスティニーからデュートリオンビームを出して、インパルスに送る・・」

 シンがルナマリアに向けて呼びかけて、デスティニーとインパルスが止まる。

「ありがとう、シン・・準備はいいわ。」

 ルナマリアがシンに答えて、デスティニーからデュートリオンビームが放たれて、インパルスの消耗していたエネルギーを回復させた。

「デスティニーはエネルギーが自動で回復するから、こういうこともできるんだね・・」

 シンとデスティニーの力に感心するルナマリア。

「オレにそれができるなら、遠慮なくそうするさ・・ここまで来たら、オレはもう迷わない・・・!」

 シンの揺るぎない決意を聞いて、ルナマリアが戸惑いを感じていた。

 そのとき、デスティニーとインパルスのレーダーが、追跡してきたレジェンドの接近を感知した。

「レイ・・・!」

 シンがレイとの対決を予感して、歯がゆさを覚える。

「ルナは地球へ行ってくれ・・オレもすぐに追いつく・・!」

「シン・・レイや艦長たちと、1人で相手をするつもりなの・・!?

 シンが呼びかけて、ルナマリアが声を荒げる。

「ルナはステラを守ってくれ・・オレは別に、レイたちを倒そうとは思っていない・・・!」

「シン・・・ステラは、私に任せて・・・!」

 シンの意思を聞いて、ルナマリアが頷いた。インパルスが再び移動して、デスティニーがレジェンドを迎え撃った。

(シン・・・ルナマリアとあの少女を先に行かせるか・・・!)

 立ちはだかるデスティニーを見て、レイがシンに対する感情を膨らませていた。

 

 

次回予告

 

分かたれた2つの道は大きく離れた。

絶対の幸福か?意思のある幸福か?

どちらかを選びながらも、その答えを出すことも許されない。

今の、管理された世界の中では。

 

次回・「託される未来」

 

希望の灯、つなげ、ミネルバ!

 

 

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