GUNDAM WAR
-Destiny of
Shinn-
PHASE-46「それぞれの幸福」
シンが目を覚ましてから3日が経った。
デスティニー、レジェンド、ミネルバ。破損していた機体や戦艦は、修復を終えていた。シンたちも傷が治り、激闘の疲労も回復していた。
既に反対勢力はザフトの他の部隊によって鎮圧されていた。今では全ての国がデスティニープランを容認、あるいは黙認していた。
それぞれの国に住む全ての人々の個人情報がプラント、メサイアに送られて、最適な人生を示すためのデータ分析が進められていた。
戦いの起こらない世界。そこに向けての変革を、シンとルナマリアも見届けていた。
「変わっていくね・・管理された世界に・・・」
「デュランダル議長によって、それぞれ合った生き方を示されていく。そうなれば生き方に不満を持つことがなくなって、充実した人生を送れるって・・」
複雑な気分を感じているルナマリアに、シンがデスティニープランによる世界の変革について口にする。
「でも、自分で自分の生き方を選べなくなる・・そんなことをしたら、人生が混迷することになる・・」
「みんな、議長の言われた通りに生きていく・・そこに、自由はない・・・」
ルナマリアとシンが言葉を交わして、複雑な気分を深めていく。
「アスランやラクス・クラインたちのほうが、正しかったのかな・・?」
「いや、アイツらのやり方も間違っていた・・ちゃんとしたビジョンもなく、綺麗事と力ばかりを押し付けようとした・・やり方は、議長とあまり変わらない・・」
アスランたちを気に掛けるルナマリアに、シンがアスランたちへの反発を口にする。自分たちだけの理解で戦いは終わらせられないと、シンはアスランたちへの非難を抱えていた。
「シン・・シンはこのまま、議長のために・・・?」
ルナマリアがこれからのことを聞く。しかしシンは答えようとせず、重く口を閉ざしていた。
「シン・・・」
シンが過酷な選択を強いられる覚悟を決めていると、ルナマリアは察した。それを軽々しく口にできないことも。
ミネルバの艦長室にて、タリアはキラたちとの戦いに関する情報に目を通していた。
(アークエンジェルとフリーダムの暴挙、それに加担したアスランとエターナル、オーブ。彼らの行動を阻止することは、私も正しいと思う・・)
タリアがキラたちの行動と彼らとの戦いを思い返していく。
(この戦いで彼らは全滅。オーブも中央政府が壊滅して、国としての機能が成り立っていない状態・・)
オーブや他の国の情勢についても、彼女は理解していく。
(ジェネシスへの恐怖、武力の差・・どの手を使ってもデスティニープランを止められず、各国は次第に受け入れざるを得なくなっていく・・世界のためと銘打っているものの、これは力による制圧になってしまう・・)
ギルバートのやり方に腑に落ちないタリア。しかし彼女も表立って反対の意思を示すことができなかった。
(たとえ間違っていると思っていても、私はザフトの一員として戦い続けるだけ・・これからも・・・)
ザフトでの戦いに身を投じ、その理念と信念に基づいて行動することを、タリアは誓った。
(ギルバート、たとえあなたと対立することになっても・・・)
このまま永久不変の平和とはいかないことも、彼女は予感していた。
そのとき、艦長室に最高評議会からの通信が入った。タリアは警戒心を抱えながら、通信に応じた。
「ミネルバ、タリア・グラディスです。」
“シン・アスカ、レイ・ザ・バレルの両名を、デュランダル議長がお呼びです。すぐにお伝えください。”
タリアに対して、シンとレイの出頭要請が伝えられる。
「分かりました。すぐに2人に向かわせます。」
タリアが答えて通信を終えて、ミネルバの指令室に通信をつなげた。
「シンとレイはどこ?」
“レイはここにいます。シンはミネルバから出てはいないです。”
タリアの問いかけに、指令室にいた管制官が答えた。
“自分が呼びに行きます。そのまま議長の元へ向かいます。”
続けてタリアに言ってきたのはレイだった。
「分かったわ。シンをお願いね、レイ。」
タリアはレイにシンを任せて、通信を終えた。
(レイはギルバートに心酔している。自分を導いてくれた恩人だから・・シン、あなたはこの世界で、どう生きていくの・・・?)
シンの行く末を気にしながらも、タリアは直接聞くことができなかった。
デスティニーたち機体が収容されているドックに来ていたシンとルナマリア。これからも自分の戦いが待っていることを、シンは予感していた。
「ルナ、アスランたちと戦う前にオレが言ったこと、覚えてるか・・?」
シンはデスティニーを見つめたまま、ルナマリアに声を掛けてきた。
「それは覚えてるけど・・それがホントだったら、シンはもう・・」
「分かってる・・だけどオレにも曲げられないことがあるし、そのためにルナやステラ、他のみんなを巻き込むわけにいかない・・」
ルナマリアが言い返すが、シンは決意を変えない。
「よろしくな、ルナ・・ステラのことも・・・」
「シン・・・」
信頼を投げかけたシンに、ルナマリアは困惑するばかりだった。
「シン、ここにいたか。」
そこへレイがやってきて、シンに声を掛けてきた。
「レイ・・」
「デュランダル議長が呼んでいる。一緒に来るんだ。」
振り向いたシンにレイが呼びかける。
「分かった・・ルナ、オレたち行ってくる。」
シンはルナマリアに声を掛けてから、レイとともに歩き出した。
(シン・・・ゴメン・・私・・・)
シンたちを見送りながら、ルナマリアは彼への想いと正直な思いを心の中で呟く。
(私も、私の戦いをしなくちゃいけないみたい・・私の全部を賭けてでも・・・)
ルナマリアも密かに、自身の決意を固めていた。シンの意思に背いてしまうかもしれないことを覚悟しながら。
レイとともにギルバートの元へ赴いたシン。彼とレイがギルバートに向けて敬礼する。
「デュランダル議長、ただ今参りました。」
「レイ、シン、先日の戦いは見事だった。過酷な戦いになったが、よく切り抜けてくれた。」
レイが挨拶すると、ギルバートが彼とシンに称賛を送った。
「反対勢力も沈静化してほとんどなくなっている。デスティニープランを本格化させることができる。」
「争いの本当の終局を迎えただけでなく、争いの起こらない世界が実現することになります。その世界を守るため、我々はこれからも戦っていきます。世界を脅かす敵と。」
ギルバートが現状を告げて、レイが自分の意思を告げる。レイはギルバートに従う意思を変えていない。
「シン、これからも我々と世界のために、その力を貸してほしい。」
ギルバートがシンに協力を求めた。
「このデスティニープラン、見方を変えれば確かに支配に相当する。しかしこの策により、不満や理不尽がなくなり、戦争も2度と起こらなくなる。コーディネイターもナチュラルも、ともに手を取り合うこともできるようになる。」
「しかしそこに、個人の自由はないんですね・・」
デスティニープランのすばらしさを語るギルバートに、シンが苦言を呈する。
「悲劇を終わらせるには、これ以上の方法はない。自由はなくなるが、我々が導くことでその苦痛を解消できる。」
ギルバートは落ち着きを保ったまま、シンに語りかけていく。
「シン、君の家族の死、兵士として育てられ戦場に駆り出されたステラたち少年少女、キラ・ヤマト、ラクス・クライン、アスラン・・世界の在り方の誤りによって起こってしまった悲劇や過ちも、これからは起こることがなくなる。誰もが幸福な人生を送れるのだ。何の阻害もなく、ね。」
「ですが、オレが軍人になったのは、誰かに言われたからじゃなかった・・力がほしいと願って、オレ自身が決めたことです。ここまで力を貸してくれた議長には感謝していますが、オレが決断しなかったら、ここに立ってもいなかったです・・」
ギルバートに対し、シンもこれまでの自分の生き方を思い返していく。
「ステラを助けようとしたのも、グラディス艦長や他の誰かから言われたわけでなく、オレ自身がそうしたいと思ったからです・・ハイネの思いを受け止めようとしたのも、アスランやキラたちを止めようと思ったのも・・」
「あくまで、自分で決めてきたというのかな?」
「どんなことでも、自分の意思がなければ生きているとは言えません。オレの生き方は、オレの意思で決断します。」
「シン・・それでは、キラ・ヤマトくんやアスランたちと同じ・・我々の言葉に耳を傾けずにエゴを押し付ける世界の敵となってしまう・・」
決意を固めていたシンの言葉を聞いて、ギルバートが苦言を呈する。
「アスランもキラたちも、正しいことをしているとは言えませんでした。自分たちのことしか考えず、綺麗事ばかりでごまかそうとしていたのですから・・」
「君が自分の意思だけに身を任せて、彼らと同じ過ちを犯さない保証はない。確証をもたらすために、正しき道から外れてはならない。」
キラたちへの非難を口にするシンに、ギルバートは注意を送る。
「本当の君を、我々が見出そう。シン、終わることのない平和のために、ともに尽力しよう。」
「これからもオレは戦います。戦いを、戦争を仕掛けてくる敵と・・オレの意思で・・・」
デスティニープランの上で戦士として戦っていくことを求めるギルバートだが、シンの意思は固い。
「君が我々の意思から外れていくなら、君がステラを守ることができなくなってしまうぞ。」
ギルバートが顔から笑みを消して、シンに忠告する。彼がステラを人質にして自分を従わせようとしていると、シンは直感していた。
「彼女の身体について把握し、よりよい療養を受けさせることができるのは、現時点で我々だけだ。シン、君が彼女を守ろうとするなら、君も我らと力を合わせる必要がある。」
「議長・・・ステラの治療は、可能の限り完了しているのですね・・・?」
さらに言いかけるギルバートに、シンが問いかけた。
「あぁ。ひと通り完了したとの報告を受けている。我々と同じように長く生きられる保障はできないが・・」
「そうですか・・・ステラの世話は、これからはオレがします・・これからも、ステラを守る・・・!」
ギルバートの答えを聞いて、シンが改めて決意を口にした。ステラを守ることも、シンの心からの願いの1つだった。
「シン、いい加減にしろ・・いつまでもそんな独断が許されると思っているのか・・!?」
レイがシンの言動への不満を募らせていく。
「お前が心から望んでいた世界。それは議長が実現したこの世界にあった。お前は何があろうと、議長だけを信じろ。」
「レイ・・オレが信じているのは議長だけじゃない・・レイもルナもステラも、オレの仲間や恩人はみんな信じてる・・」
ギルバートが絶対という信念を込めて呼びかけるレイだが、シンはギルバートだけでなく、レイやルナマリアたちにも信頼を向けていた。
「不安要素を持ち続けようとするならば、もはややむを得ない・・・」
ギルバートがため息をつくと、部屋に兵士たちが駆けつけて、シンに向けて銃を構えた。保安部に属している兵士たちだが、ギルバート直属の部下である。
「残念だよ、シン・・君まで世界の敵になってしまうとは・・・」
「あなたの言いなりにならなければ、世界を敵に回すというんですか!?」
肩を落とすギルバートに、シンが声を荒げる。
「正しい道の道しるべは、誰の中にもある。それを我々が見出し示すことで、皆この混迷から抜け出せるのだ。」
「あなたはその神になると・・何もかも自分が正しいと言いたいのですか!?」
「買いかぶりすぎだよ。私は神のように、何もかも思い通りにできるわけではない。だからこそより正しい道を歩み、誰もが幸せであってほしいと願うのは、当然のことだ。」
「それはみんなの理想じゃなくて、あなたの一方的な理想じゃないですか・・・!」
悠然と振る舞うギルバートに対して、シンが不信感を募らせていく。
「運命は切り開けるものばかりではない。私も運命に翻弄されてしまったからね・・」
ギルバートが自分のことを打ち明けてきた。
「私も恋心を持っていた時期があった。しかし我々では子供を作ることができなかった・・一緒にいられるならそれでも構わないと思っていたが、彼女は子供がほしいという気持ちを諦められず、私のほうから身を引いた・・」
「議長・・・」
ギルバートの過去を聞いて、シンが戸惑いを覚える。
「想いがあっても肉体や遺伝子を理由に結ばれないなど、あまりにも理不尽だ。もしも正しい選択を確実に選ぶことができたなら・・」
遺伝子の観点から子供が作れず、それによる結婚の禁止で結ばれることがない。それだけのために恋が実らなかったことが、ギルバートの心の引っかかっていた。
「デスティニープランを実行したのは、自分と同じ思いをする人をこれ以上出さないためでもあったんですね・・」
ギルバートの心境を知って、シンが表情を曇らせる。
「君も私も、誰もが悲劇を体験してきた。悲劇は繰り返してはならない。新しい世界なら、悲劇は2度と起きやしない。我々に力を貸してほしい、シン。君は世界を守る立派な戦士だ。」
ギルバートが改めて、シンに協力を求めた。それでもシンは思いを変えなかった。
「あなたには感謝しています。オレも戦いのない世界のために力を使います・・しかしオレは、誰かの言いなりの人形にはなれない!」
「そうか・・君はここで消えてもらうしかないようだ・・・」
正直な気持ちを口にしたシンに、ギルバートは取り出した銃の銃口を向けた。
「我々や世界を脅かす存在を野放しにするつもりはない。ここで処罰する・・」
「議長・・もう不要ということですか・・・!?」
冷徹になったギルバートに、シンが憤りを覚える。
「シン、議長の邪魔はさせない・・たとえ共に戦った仲でも、議長の意に背くなら・・・!」
レイも銃を取り出して、シンに銃口を向ける。
「レイ・・レイの生き方を、自分で選べなくなるんだぞ・・それでも、議長に従うのか・・・!?」
「議長の示す世界こそが、幸福の世界だ。正しき道は、議長が示してくれる。」
シンが問い詰めるが、レイはギルバートに従う意思を変えない。
「シン、オレはお前の言う通り、残された時間を全力で生き抜く。1日でも長く生きることを諦めない。ただし、この新しい世界の中で・・」
「それが、お前の決めたお前の生き方なんだな・・・?」
レイの口にした言葉に、シンが冷静に聞き返す。シンはレイのこの意思が、彼自身が決めたことだと察していた。
「オレではない。議長が決めてくれる・・」
「そうか・・どうしても議長に従うのか、お前は・・・」
ギルバートを信じきっているレイに、シンはこれ以上は聞かないと判断した。
「ありがとう、シン。今まで力を貸してくれたことには、心から感謝している・・」
ギルバートが微笑んでから、シンを狙って引き金を引こうとした。
そのとき、シンたちのいる議長室が突然大きく揺れ出した。その揺れでレイたちがシンに対する狙いが外れる。
「何だ、この揺れは・・!?」
兵士たちが声を荒げて、ドアを上げて廊下を確かめ、窓から外の様子をうかがった。
「議長、インパルスが!」
「何っ!?」
兵士がギルバートに報告をして、レイが声を荒げる。
「インパルス!?・・まさか!?」
シンが驚きをあらわにして、外にいるフォースインパルスを見つめる。乗っていたのはルナマリアだった。
次回予告
意思や自由を切り捨てても、永久不変の幸福を与える。
そこから抜け出して、自分の意思のある幸福を目指す。
その選択を迫られていたのはシンだけではなかった。
この思い、自分でも止められない。
希望を乗せて、飛び上がれ、インパルス!