GUNDAM WAR
-Destiny of
Shinn-
PHASE-45「戦いのない未来」
シンとデスティニーを収容して、ミネルバがプラントに戻った。レイとレジェンドは捜索隊に収容されて、療養と修復が進められていた。
「負傷者の治療、お願いするわ。」
「了解、グラディス艦長。」
タリアがシンを託して、医療班の医務官が敬礼する。
「艦長、私もシンに同行させてください。」
ルナマリアが来て、タリアに申し出た。
「いいわ。あなたも一緒に手当てを受けてきなさい。」
「はい!ありがとうございます!」
タリアが許可を出して、ルナマリアが感謝して頭を下げた。彼女もシンと救護班についていった。
シンたちを見届けてから、タリアがミネルバのそばで待っていたアーサーたちに振り返った。
「厳しい戦いだったけど、乗り越えることができてよかったわ。あなたたちの力に、私は感謝しているわ・・」
タリアが感謝を告げて、アーサーたちが笑みをこぼした。
(私はザフトとして、これからも戦うことになるわ・・ギルバート、あなたのやり方に納得がいかないとしても・・・)
心の中でギルバートのことを呟いて、タリアが改めて決意を固めていた。
「グラディス艦長、ディランダル議長がお呼びです。」
兵士2人がやってきて、タリアにギルバートからの指示を伝える。
「すぐに向かうわ・・アーサー、みんなをお願いね。」
「分かりました。」
呼びかけを受けたタリアに、アーサーが答えた。タリアは兵士たちとともにミネルバを離れた。
「我々は戦いで疲れている。ミネルバと機体の修理と整備はここの整備士がやることとなった。じっくり休んでくれ。」
アーサーが改めて告げて、ヨウランとヴィーノが安心の笑みをこぼした。
「あのフリーダムやジャスティスに買っちゃうなんて、シンはホントにすごいよ・・!」
ヴィーノがシンの戦いを思い出して、感心する。
「だけど、アスランさんやラクス・クラインが・・・」
メイリンがアスランたちのことを気にして、悲しい顔を浮かべる。
「納得はいかないが、しょうがないと割り切るしかない・・ラクスたちはオレたちの敵になって、アスラン隊長も裏切ったんだから・・・」
「それは、そうだけど・・・」
ヨウランが言いかけるが、メイリンは納得することができない。
「これでやっと戦いが終わったんだ・・もう戦いは起こらないんだ・・・」
「そうだよ・・デュランダル議長のデスティニープランで、みんながいい生き方ができるようになって、争いをすることもなくなるんだから・・!」
平和が戻ってきた、しかも永久不変の平和が訪れたと思い、ヨウランもヴィーノも安心を感じようとしていた。
この戦いも辛いことの連続だった。失った命、非情の出来事も少なくなかった。
それらを乗り越えてようやく戦いを終わらせることができたと、ヨウランたちは実感していた。
シンは意識が戻らないまま医務室に運ばれた。手当てを受けたルナマリアは、医務室の前でシンを待っていた。
「みんなも無事だったようだな・・」
そこへレイもやってきて、ルナマリアに声を掛けてきた。負傷したレイの頭には包帯が巻かれていた。
「レイ・・私、今回はシンに頼るしかなかった・・フリーダムに、全然敵わなかった・・・」
ルナマリアが自分の無力を感じて落ち込む。
「ルナマリアがいなければ、エターナルを止められなかった・・・役に立てなかったのは、オレのほうだ・・フリーダムに敵わず、他の敵も止められなかった・・・」
レイが自身を悔やみながら、ルナマリアを励ます。
「議長のため、この世界のため、オレは勝たなければならなかった・・せめてフリーダムを止めるぐらいはすべきだったのに・・・」
「それだったら私だって・・フリーダムを止められる可能性があったのは、私よりレイのほうが・・・」
自分を責めるレイにルナマリアが言い返す。
「シン、ホントにすごかったね・・フリーダムもジャスティスも倒したんだから・・・」
ルナマリアが医務室のほうに目を向けて、シンのことを思う。
「あぁ・・シンは強くなった・・デスティニーの力を、オレたちが思っていた以上に引き出していた・・」
レイが冷静さを浮かべて答える。
(そんなアイツがギルではなく自分の意思に従うのは、滑稽であり、残念でもある・・)
彼は心の中でシンに対する複雑な気分を感じていた。
「アスラン・・・オーブに戻らなければ・・・」
ルナマリアがアスランのことを考えて、悲しみを募らせていく。
「アスランはオレたちを裏切り、アークエンジェルの面々に賛同した・・ためらっていれば、オレたちがやられていた・・・」
「シンも、アスランのことは気に掛けていたはずだよね・・・それでもシンは迷いを振り切った・・・」
あくまでアスランを敵視するレイと、シンの心境を察するルナマリア。
「シンがいなかったら、私たちは負けていたね・・・」
「あぁ・・アイツはデスティニーとともに強い力を発揮し、フリーダム、ジャスティスという強敵にも勝った。アイツの強さは本物だ・・」
シンへの感謝を口にするルナマリアに、レイが冷静に答える。2人は医務室に目を向けて、シンの安否を気にした。
メサイアからプラントに赴いていたギルバート。彼に呼ばれたタリアが、会議室に来ていた。
「これまでの過酷な戦いを乗り越えたこと、ご苦労だった。本当に感謝しているよ。」
「痛み入ります・・クルーたちには、休息を取るように言ってあります。」
悠然と声を掛けてきたギルバートに、タリアが落ち着きを払って答えた。
「アークエンジェル、フリーダムという脅威は去った。オーブとラクス・クラインが失われたことは、正直胸を痛めているが・・」
「オーブやラクス・クラインの意思よりも、デスティニープランが重要なのですね・・」
語りかけるギルバートに、タリアが懸念を込めて答えた。
「人は正しい道を示すことで、不安や迷いを取り除き、充実した人生を送ることができる。結果、対立もなくなり、戦争も起こらなくなる。」
「はい。それこそ誰もが幸福でいられる、永遠に戦争の起こらない世界・・自分の生き方を選ぶ必要もなくなる・・・」
「腑に落ちないかい?しかし我々が正しい道を示さなければ、人は過ちを犯すことになる。自由意思で正しく生きられるなら1番いいが、この混迷した世界ではそれは望めない・・」
「遺伝子の中に、私たち1人1人の中にある答えを導き出すことで・・」
デスティニープランの必要性を口にするギルバートに、タリアは不信感を募らせていく。しかしそれを表立って示そうとはしなかった。
「それに、未だにプランに反対する者もまだいる。プランは、人類存亡を賭けた最後の防衛策だというのに・・」
未だに混迷が続いている現状に、ギルバートが苦言を呈する。
「攻撃を仕掛けてくる者には、他の部隊が対処している。ミネルバのクルーには体を休めて構わない。」
「分かりました。私もこれで失礼いたします。」
微笑みかけるギルバートに敬礼を送って、タリアは会議室を後にした。
(ザフトにもプラントにも、デスティニープランに対する動揺が広がったままだ。タリア、君もまだ疑問を抱いている・・)
身近なところへの懸念を感じて、ギルバートが深刻さを覚える。
(しかし遺伝子情報を元に、その能力を最大限に生かせる世界に、不満を覚えることはない。この混迷も、時期に解消される。全ての者が、この新しい世界を受け入れることになる。)
自分の築く世界が全ての者に受け入れられると、ギルバートは確信していた。
(シン、君もその世界を守る戦士の1人だ。君はあの少女、ステラ・ルーシェを見捨てることはできない。)
プラントに運ばれていたステラは、手術と治療を経て安静にしていた。彼女はシンたちのいる病院の病室で眠っていた。
「ネオ・・スティング・・アウル・・・シン・・・」
ステラが眠りの中で親しくしていた者、そしてシンのことを思っていた。
シンの医務室で療養を受けて、安静の眠りについていた。体を休めながら、彼は夢を見ていた。
何もない虚無の空間の中を、シンは漂っていた。
(ここは、どこだ?・・オレ、どうなったんだ・・・?)
シンが心の中で呟いて、自分の身に起きていることを確かめようとする。
「シン・・・シン・・・」
そのとき、シンの耳に声が入ってきた。閉ざしていた目を開いた彼の前に、ステラが現れた。
「ステラ・・どうしてこんなところに・・・?」
「ステラ・・シンに、ちょっとだけ会いに来たの・・でもまた会える・・・」
シンが声を掛けると、ステラが微笑んで答える。
「会える・・・それじゃ、元気になったんだね・・・」
「うん・・だからステラ、明日をもらったの・・」
「明日・・・」
「うん・・また、明日・・・」
戸惑いを浮かべるシンに笑顔を見せて、ステラが遠ざかっていく。彼女はシンとともに意識と元気を取り戻して、また会えると信じていた。
(ステラ・・元気になったんだね・・・オレも帰らなくちゃ・・レイもルナもステラも、みんな待ってるんだから・・・)
シンがステラの回復を喜び、自分も生きようと意志を強く持った。彼は意識を取り戻そうとして、右手を前に伸ばした。
医務室で眠っていたシンが、右手を上に向かって伸ばした。閉じていた彼の目も、ゆっくりと開かれた。
「おお、シンくん、気が付いたか・・!」
体を起こしたシンに、医務官が声を上げて笑みを浮かべた。
「こ、ここは?・・・オレ、どうなったんですか・・・?」
シンが周りを見回して、状況を確かめようとする。
「ここはプラントだ。君は救われて、今ようやく目が覚めたんだ。」
医務官が彼に事情を説明する。
「戦闘は!?・・みんなは無事ですか!?」
「戦闘は終わった。ミネルバや機体の損傷は小さくないが、グラディス艦長以下みんな無事だ。」
シンが問いかけて、医務官が現状を伝えた。
「そうですか・・・」
気分を落ち着かせるシンだが、素直に喜ぶことができなかった。自らアスランを討ったことが、シンの心に引っかかっていた。
「レイくんとルナマリアくんも、外で待っているよ。」
「レイとルナが!?」
医務官が言った言葉に、シンが戸惑いを覚える。彼はベッドから飛び起きて、ドアを開けて廊下に出た。
「シン!」
ルナマリアがシンを見て喜びを覚える。
「ルナ・・レイ、無事だったんだね・・・!」
シンがルナマリアに微笑んでから、レイに視線を移す。
「危ういところだったが、捜索隊に救われた・・レジェンドもデスティニーも回収されて、修復が完了しつつある。」
「そうか・・アークエンジェルもエターナルも討てたのか・・」
レイの説明を聞いて、シンが小さく頷いた。
「それからどうなったんだ?・・戦いはもう終わったんだよな・・・?」
「あぁ・・ジェネシスによって、オーブ中央政府は討たれた。」
シンがさらに問いかけて、レイがオーブのことを話す。
「あの金色の機体の妨害によって威力が弱まり、市街地に攻撃が及ぶことはなかった。しかしオーブの機能は停止したと言える。」
「オーブもアスハも、結局何も変わらなかった・・アークエンジェルもキラも・・」
「アスランも、オーブの味方になることを選んでしまった・・・」
レイがオーブのことを話して、シンだけでなくルナマリアも深刻な面持ちを浮かべる。
「シン・・オーブのこと・・・」
「悪いのはオーブだ・・綺麗事ばかり並べて何も分からず、何も変わろうとしなかったアスハだ・・だからオレたちが止めなくちゃならなかった・・アスランやキラたちと一緒に・・・!」
気を遣うルナマリアに、シンがオーブやカガリたちに対する不満を口にする。
「だからオレが止めたんだ・・間違いを改めずに、自分の考えを押し付けようとしたオーブやキラたちを・・オレの意思で・・・!」
「シン・・・」
自分の意思を口にするシンに、ルナマリアが戸惑いを感じていく。
「そうだ・・オレ、行かなくちゃ・・・」
シンが思い立って、ルナマリアたちの前から歩き出す。
「シン、どこに行くの・・・?」
「ステラのところだ・・夢の中で、オレに声を掛けてきた・・・」
ルナマリアが声を掛けて、シンが振り向かずに答える。
「ステラ・・こっちに運ばれていたんだね・・私も行くわ・・」
ルナマリアもステラのことを気に掛けて、シンについていった。
(シン、お前はギルの世界で生きるしかない・・そこから出ることは、あの少女を見捨てることになるからだ・・)
シンが自分とギルバートの思惑通りにしか生きられないと、レイは心の中で呟いていた。
シンとルナマリアが医師から病室の場所を聞いて、ステラのいる病室にたどり着いた。自我を見失って暴れ出すことも想定して、2人の私服の兵士が病室の中で見張りについていた。
シンとルナマリアは廊下との間の窓から、病室の中のベッドで眠っているステラを見つめた。
「ステラ・・・」
シンがステラを見つめて、深刻な面持ちを浮かべた。
「シンくん、ここに来ていたのか・・」
そこへ医師が来て、シンたちに声を掛けてきた。
「手術は終わった。投薬や精神操作による副作用や苦痛は抑えられただろう・・」
「先生・・・」
「しかし副作用を完全に取り除いたわけではない。私たちと同じだけの時間を生きられる保障もない・・持って1年・・それ以上生きられたとしても・・・」
医師の話を聞いて、シンとルナマリアが悲しみを募らせていく。
「このまま療養と精神面のケアは続けていく予定だ。シンくん、君たちも協力してくれるなら幸いだ。」
「それはもちろんです。オレも力になります。」
「私も協力します。」
医師の言葉を効いて、シンとルナマリアがステラのために助力を引き受けた。
「ありがとう、2人とも。デュランダル議長とグラディス艦長にも、このこと、知らせておくよ。」
「はい。」
お礼を言う医師に、シンが微笑んで答えた。
(ステラ・・もう戦いは終わったし、戦いのある場所に君が連れていかれることはない・・安心して暮らせるんだ・・・)
ステラの無事と幸せを信じて、シンは心の中で呟いた。
「では、彼女をお願いします。」
「私たちはグラディス艦長に報告しに行きます。」
シンとルナマリアが敬礼を送って、医師の前から去っていった。
タリアが会議室を後にして程なくしてからだった。ギルバートにレイからの連絡が届いた。
「そうか・・やはりシンはプランには賛同していないか・・」
“しかしシンは、あのエクステンデッドの少女に感情移入しています。つなぎとめる方法はまだあります。”
肩を落とすギルバートに、レイがステラのことを話す。
「このような手を使うのは忍びないが、彼の力を手放すのも惜しい・・」
シンの力を必要とするギルバートが、レイが持ち替えた苦肉の策を使うことにした。
「私がこちらに呼ぼう。レイ、お前も付き合ってくれ。」
“分かりました。”
ギルバートが呼びかけて、レイとの通信を終えた。
(争いの根源は消えた。終わることのない平和が始まった。シン、君もこの平和の大きなカギなのだ。)
シンを自分たちの思い通りにしようと考えるギルバート。彼は自分の目指す世界のため、最悪シンを処分することも念頭に置いていた。
次回予告
戦いが終わり、永久不変の平和が確立した。
その主軸となるのは、それを望んでいた1人の少年。
しかし、今築かれる世界が望んだものだったのか?
シンに、運命の選択が迫られる。
終わりなき平和、守り抜け、ザク!