GUNDAM WAR
-Destiny of
Shinn-
PHASE-44「真の平和へ」
フリーダムが放射したビームをかいくぐり、デスティニーがアロンダイトを突き出した。アロンダイトがフリーダムの胴体を貫いた。
フリーダムの損傷がコックピットにも及んで、キラが爆発に襲われる。メットのバイザーに傷が入り、彼自身も頭から血を流していた。
「僕は・・やられるわけにはいかない・・僕は、まだ・・・!」
キラが諦めずに戦おうとして、フリーダムを動かそうとする。
「諦めろ・・アンタたちは戦いを終わらせるどころか、戦いを起こす存在なんだよ・・・!」
シンが鋭く言って、デスティニーが両手をフリーダムの胴体に当てて、パルマフィオキーナを撃ち込んだ。デスティニーはそのままフリーダムを押し込んでいった。
インパルスとエターナルが交戦を開始し、ビームを撃ち合う。インパルスは加速してビームをかわし、エターナルが艦体にビームを当てられて損傷していく。
「このままではやられてしまいます!離脱しないと持ちません!」
「メサイアを止めなければ、オーブが討たれます・・それは私たちの最悪の結末です・・・!」
ダコスタが声を荒げるが、ラクスはオーブのために戦いを続けようとする。
「オレが出る!ダコスタ、ラクスとエターナルを頼んだぞ!」
バルトフェルドがダコスタに呼びかけて、ブリッジを後にした。
「アンドリュー・バルトフェルド、ムラサメ、出るぞ!」
バルトフェルドの乗り込んだムラサメが、エターナルから発進した。ムラサメがビームライフルを手にして、インパルスを迎え撃つ。
「これ以上はやらせないぞ!」
バルトフェルドが言い放ち、ムラサメがビームライフルを発射して、インパルスをエターナルから遠ざけていく。
「まだモビルスーツを残していたなんて・・!」
ルナマリアが毒づき、インパルスがムラサメを狙う。しかしインパルスの射撃は、ムラサメに回避されていく。
機体の性能はムラサメよりインパルスのほうが上である。しかしインパルスは負傷していて、さらにパイロットの経験や技量はルナマリアよりバルトフェルドのほうが上であるため、インパルスはムラサメを攻め切れずにいた。
(長引けば不利になるのはこっちの方・・エネルギーも少なくなってきたし、ミネルバとすぐに合流できる保障もない・・・!)
現状を痛感し、打開の糸口を探るルナマリア。ムラサメがビームライフルを撃ちながら、インパルスとの距離を縮めていく。
(こうなったら、もうこれしかない・・・!)
1つの手段、1つの賭けを見出したルナマリア。
「ラクスたちに手出しはさせんぞ!」
バルトフェルドが言い放ち、ムラサメがビームサーベルに持ち替えて、インパルスを狙って振りかぶった。
「今!」
ルナマリアが反応し、インパルスが体勢を後ろに反らして、ムラサメが振りかざしたビームサーベルをかわした。インパルスが直後にビームライフルの銃口を、ムラサメの胴体に向けた。
「ぐっ!」
ビームライフルから放たれたビームがムラサメの右わき腹を撃ち抜いて、バルトフェルドがその爆発と衝撃を受けてうめく。
「エターナル・・メサイアには近づけさせない!」
メサイアへ前進するエターナルに気付くルナマリア。インパルスが移動して、エターナルに向けてビームライフルを発射した。
「ラクス!」
バルトフェルドのムラサメがスピードを上げて、エターナルの前まで駆けつけた。ムラサメがエターナルを庇い、ビームに胴体を貫かれた。
「た、隊長!」
致命傷を受けたムラサメに向かって、ダコスタが叫ぶ。
「ダコスタ・・ラクス・・キラ・・・アイシャ・・・」
声を振り絞るバルトフェルドが、爆発を起こしたムラサメとともに宇宙に消えた。
「隊長・・バルトフェルド隊長!」
ダコスタが悲痛の叫びを上げて、ラクスが悲しみを痛感する。
「勝手な理由の戦いは・・私たちがさせない!」
ルナマリアが声を振り絞り、インパルスがエターナルに向けてビームライフルを発射した。ビームの直撃を受けて、エターナルで起こる爆発がラクスたちのいるブリッジにまで及んだ。
「ラクス様、早く脱出を・・!」
これ以上の乗艦は危険と判断したダコスタが、ラクスを連れてブリッジを出ていく。
「あなただけは死んではなりません!あなたが無事なら、まだ希望はあります!」
ダコスタがラクスに呼びかけて、必死にドックを目指す。
「キラ・・・!」
そのとき、ラクスが緊迫を一気に膨らませて、視線を移した。彼女はキラの絶体絶命を感じ取っていた。
次の瞬間、デスティニーに押し込まれたフリーダムが、エターナルの艦体に叩きつけられた。
「ラクス・・・!」
「キラ・・・!」
閃光に包まれた瞬間、キラとラクスは互いの姿を黙認した気がしていた。
「僕たちのしてきたことは、間違っていたのかな?・・どこで間違ってしまったのかな・・・?」
「あなたの思いに偽りも間違いもありません・・夢と平和を望む思いそのものに、間違いはありません・・・ただ・・・」
互いに向かって想いを通わせていくキラとラクス。視線を移した2人の視界に、シンの姿があった。
「彼の思いが、私たちより強かっただけです・・平和と、そのために強くなることへの強さが・・・」
「シン・・・僕たちのできなかった・・僕たちのやらなかったことを、君は・・・」
シンの強さを痛感して、ラクスとキラが言いかける。シンの姿が2人の前から消え、2人も光の中に消えた。
フリーダムとエターナルが爆発を起こし、まばゆい光が宇宙にきらめいた。フリーダムを押し込んでいたデスティニーも、その光に巻き込まれていた。
艦体の負傷のため、戦線から1度離脱していたミネルバ。タリアたちはレイの捜索をしながら、シンたちの戦いにも注視していた。
「シン・・・!」
「デスティニーの行方も捜索して!細大漏らさず情報を集めて!」
アーサーが動揺を膨らませて、タリアが指示を出す。
“艦長、私もシンとレイを捜します!”
ルナマリアが通信でタリアに呼びかけてきた。
「ルナマリア、インパルスもこれ以上動ける状態ではありません。フライヤーとシルエットを送るには離れすぎています・・」
“それならせめてデュートリオンビームを!エターナルは落ちましたが、まだ戦闘は沈静化しきっていません!”
「落ち着きなさい、ルナマリア。無闇に動けば帰還することも不可能になるわよ・・!」
“艦長・・・!”
タリアからなだめられて、ルナマリアが戸惑いを覚える。
“すみません、艦長・・それでも、シンを捜さずに離れるわけにはいかないです・・・!”
ルナマリアが耐えかねて、インパルスは負傷したまま、デスティニーを捜しに動き出した。
「お姉ちゃん・・・!」
シンを想うルナマリアに、メイリンは戸惑いを感じていた。彼女もシンたちの捜索に、さらに集中するのだった。
戦闘はもちろん、自力で動くのもままならなくなっている状態のインパルスを動かして、ルナマリアはシンを捜す。エターナル、フリーダムの爆発した地点を、彼女は重点的に捜索する。
「シン、どこにいるの!?応答して!」
ルナマリアがシンに向かって呼びかける。彼女はレーダーにも目を向けて、デスティニーの位置を探る。
(応答がない・・レーダーにも反応がない・・自分の目で捜すしかない・・・!)
諦めずに捜索を続けるルナマリア。インパルスの周囲には、爆発の残骸が散らばっていた。
(シンは必ず戻ってくる・・この戦いから生きて帰ると、約束したんだから・・・!)
シンとの約束を思い出して、ルナマリアは必死にシンを捜す。
そのとき、ルナマリアがデスティニーの機影を発見した。
「デスティニー・・シン・・!」」
ルナマリアが声を荒げて、インパルスを前進させる。エネルギーの消耗でフェイスシフトが停止していたインパルスだが、デスティニーに向かってゆっくりと進んでいた。
そしてインパルスがデスティニーを受け止めた。デスティニーは手足が破壊されて、フェイズシフトも切れていた。
「シン、大丈夫!?返事をして、シン!」
ルナマリアが呼びかけるが、デスティニーからの応答はない。
「シン・・・外から開けるしかない・・・!」
ルナマリアはインパルスのハッチを開けて外に出て、デスティニーのコックピットのハッチを開けた。中にいたシンは意識を失っていたが、外傷は見られなかった。
「シン!」
ルナマリアがデスティニーのコックピットに入って、シンを支えた。
「シン、目を開けて!シン!」
ルナマリアが呼び続けて、シンをデスティニーから連れ出した。
「ミネルバ、デスティニーとシンを発見しました!今からそちらに帰艦します!」
“シン!・・・分かったわ。ミネルバもそちらへ向かうわ。”
インパルスに戻ったルナマリアが通信を送って、タリアが答えた。
“それと、たった今レジェンドとレイも発見したと、捜索隊から連絡があったわ。レジェンドが損傷していたけど、レイは軽傷だけで助かったわ。”
「レイも無事だったんですね!・・・分かりました・・・!」
タリアからの報告を聞いて、ルナマリアが安心した。彼女とシンを乗せたインパルスが、デスティニーを押してミネルバを目指した。
オーブに残り、政府と軍をまとめていたカガリ。デスティニープランへの反対を表明した彼女たちは、キラたちがギルバートを止めることを信じていた。
その最中、カガリは胸騒ぎを覚えて、自分の胸に手を当てた。
(アスラン・・・!)
アスランの身に何かが起こったと思い、カガリが不安を募らせていく。
(アスランとキラならやれるはずだ・・2年前の大戦も終らせたのだから・・・!)
アスランたちなら戦いを終わらせられると確信していたカガリ。彼女は気分を落ち着かせて、オーブ代表の責務に集中した。
シンたちとキラたちの激闘の終局に関する情報を、ギルバートは耳にしていた。
「エターナルとアークエンジェル、ついに落ちたか・・・争いのない世界の敵に回らなければ、その力、皆から称賛されたはずだった・・・」
ギルバートがひと息ついてから、モニターに映されている地球に目を向けた。
「デスティニーとレジェンドの回収を急ぎ、ジェネシスの射線軸から離脱しろ。予定通り、オーブに向けて発射する。」
「了解。」
ギルバートが指示を出し、オペレーターたちが答えて指示を伝達する。
(あなた方が決めたことだ。人類の敵に回ることを、そのために滅びの道を歩む結末を・・)
ギルバートが心の中で、カガリやオーブの決断に対する皮肉を呟く。
(一方で実に残念に思う・・あなた方に助けられたことも多々あった。共に平和のために尽力できれば、これ以上に喜ばしいことはなかった・・)
オーブと交流を深められなかったことを悔やむギルバート。しかしデスティニープランのため、彼はためらいを捨てた。
「メサイア、ジェネシスの発射位置に到着しました。射線軸にザフト軍はいません。」
「ジェネシスのチャージ、完了しています。」
オペレーターたちがジェネシスの発射準備を整えた。
「目標、オーブ政府。ネオジェネシス、発射。」
ギルバートの号令を受けて、ジェネシスが発射された。集束された砲撃が宇宙を駆け抜け、オーブに向かって飛んでいった。
「こちらに向けて高エネルギー体が飛んできます!」
管制塔からの報告が、カガリのいるオーブ政府に伝わった。
「デュランダル議長が・・・!」
「アカツキを出せ!私が行く!」
緊迫を募らせるキサカと、アカツキで出撃しようとするカガリ。
「いけません!カガリ様が矢面に立たれるなど!」
「撃たれれば回避は不可能!アレからみんなを守れる可能性があるのは、アカツキしかない!」
議員が呼び止めるが、カガリは言い返して議場を飛び出す。彼女は官邸の前に移動させていたアカツキに乗り込んだ。
「カガリ・ユラ・アスハ、アカツキ、発進する!」
カガリの駆るアカツキが発進し、上昇していく。ジェネシスの砲撃が大気圏を突破した。
(このアカツキであの光を食い止める・・・お父様、みんな・・私に力を・・・!)
オーブを守る手立てを見出すカガリ。オーブに向かって飛んできたビームを、アカツキが全身で受け止めた。
ビームを反射することで持ちこたえていくアカツキ。しかしビームの圧力に徐々に押されていく。
(ここで引き下がるわけにはいかない・・この攻撃を通せば、オーブが滅びる・・・!)
オーブを守るため、ジェネシスの閃光に立ちはだかるカガリ。しかしアカツキが反射しきれず、機体が破損していく。
(お父様・・キラ・・みんな・・・アスラン・・・!)
家族やオーブの国民、大切な人のことを思うカガリ。彼女のいるアカツキのコックピットも白んでいく。
アカツキがジェネシスの光線に耐え切れず、爆発を起こして吹き飛んだ。それでもジェネシスの勢いは止まらず、光線はオーブの政府官邸に直撃した。
官邸を中心に爆発が広がり、爆風が市街地にも襲い掛かった。人々が風圧に押されて、飛び散った物や破片で負傷していった。
ジェネシスの砲撃がオーブに直撃したことを、ギルバートたちは確認していた。
「ジェネシスにより、オーブ官邸が消滅。」
「以前にオーブ防衛に出てきた黄金の機体が攻撃を止めようとしましたが、耐え切れず消滅しました。」
オペレーターたちがオーブの状況を報告する。
「あの機体による防衛で、皮肉にもオーブ全体への被害は大きくならなかった。さすがはオーブの姫だ・・賢明な判断をしていれば、すばらしい指導者になれたのに・・・」
カガリへの称賛と皮肉を口にするギルバート。
「他の国の動きはどうなっている?」
「以前は回答に迷いの出ていた各国の首脳ですが、デスティニープラン導入賛同を表明する者が増えています。」
ギルバートの問いかけに、オペレーターが答える。
「しかし、プランに反対を表明する国も増えています。アークエンジェル、エターナルと交戦したことで我々が消耗したと判断して、攻勢を仕掛ける者も・・」
「アークエンジェル勢以外はもはや脅威ではない。レイたちがいなくても十分対応できる。」
オペレーターが続けて報告をして、ギルバートが悠然と答える。
「ミネルバや負傷の激しい部隊は一時撤退。戦闘可能の戦力に迎撃に向かわせろ。」
「はい。」
「負傷者はプラントで治療を。デスティニーもレジェンドも機体を回収し、修復するのだ。」
「分かりました。」
ギルバートが指示を送り、オペレーターが各部隊に通達していく。
(これで全ての脅威が取り除かれ、生きる誰もが幸福になれる世界が実現する。)
ギルバートが目を閉じて、悲願の達成を喜ぶ。
(いや、まだ脅威が1つ残っている。しかし彼が我々の力になってくれるなら、その脅威も心強い味方となる。)
考えていくギルバートが懸念を抱くも、すぐに笑みを取り戻す。
(たとえ拒絶の意思を示したとしても、君も新しい世界で生きる以外にない。君は新しい世界を守る戦士なのだ、シン。)
シンのことを考えるギルバート。自分の信念に基づいて戦ったシンだが、懸念を抱くデスティニープランのために戦うことになった。
(君を引き込む手立てが、こちらにはある・・)
全てが自分の思い通りに進むと、ギルバートは確信していた。シンの意思さえも思い通りになるとも。
次回予告
戦いは終わった。
シンの過去も決着を果たした。
しかし全ての戦いに終止符が打たれたのだろうか?
眠りにつくシンに呼びかけてきたのは・・・?
希望の光、届けろ、ガイア!