GUNDAM WAR
-Destiny of
Shinn-
PHASE-38「新世界へ」
ギルバートが公開し、導入が宣言されたデスティニープラン。
人間には性格や才能など、あらゆる様々な情報を心身に宿している。これまではその全てを、本人も他人も知っているわけではなかった。
デスティニープランはその情報を遺伝子工学の観点から見出し、それを元に職業の適性や将来を見定め導くシステムである。これにより人々は過ちのない充実した生活を送ることができ、結果対立や戦争がなくなるというものである。
戦いのない永久不変の平和。デスティニープランでそれが可能になると、ギルバートは確信していた。
しかし突然のプランの導入・実行に、各国で動揺は広まった。ギルバートのこの提言を素直に受け入れていいか、各国の首脳陣は騒然となっていた。
デスティニープランは適性を把握し将来を定めるもの。平和は保たれるが、情報を掌握する管理世界になりかねないと、首脳陣の多くは考えていた。
デスティニープランに対する動揺は、プラント内でも広まっていた。ザフト内でも、シンたちの中でも。
「デスティニープラン・・議長が、こんな計画を・・・」
自室でギルバートの放送を聞いて、シンは困惑していた。
「お前が驚くこともないだろう、シン。デュランダル議長の目指していた世界がどんなものか、お前も知っていたはずだ。」
レイがシンに向けて言いかける。この状況下でレイは冷静だった。
「それは、オレは分かるけど・・急にそんなこと言われても、みんな慌てるって・・!」
「そうかもしれない。だがそれで諦める議長ではない・・誰もが幸福に生きられる世界。そしてもう2度と戦争など起きない世界。それが議長の目指す世界であり、それを創り上げ守っていくのがオレたちだ。」
「オレたちが・・・!?」
「デスティニーとレジェンドは、そのための力。そのパイロットがオレたちだ。」
ギルバートの築く世界について語るレイに、シンが心を揺さぶられていく。
「しかしそれでも、一筋縄にはいかないだろう。いつの時代でも、変化は必ず反発を生む。それによって不利益を被る者、明確な理由はなくともただ不安から異を唱える者が必ず現れる。議長の仰る通り、無知な我々には明日を知る術がないからな。」
レイが世界の状況や心理についても語っていく。
「人はもう、本当に変わらなければならないんだ。でなければ救われない。お前も、お前が助けたあの少女も・・」
「ステラ・・・!」
レイの話を聞くシンが、ステラのことを思い出す。
「だけどステラは助かった・・キラ・ヤマトが助けてくれたからだけど・・・」
「確かにそうだ。しかしお前と出会う前の彼女が生きてきた境遇は、救われたものだったのか?」
ステラが救われたときのことを思い出すシンだが、レイに問われて困惑を募らせる。
「戦うためだけに育てられ、兵士として他者の命を奪いながら、その命は軽く切り捨てられるような扱いをされる。それも、自らの意思がなく・・そんなことを繰り返さないためにも、デスティニープランはやり遂げなければならない。」
「だけどこれだって、オレたちやみんなの意思が反映されてるのか・・・!?」
「それが、この混沌から人類を救う唯一の方法だ・・」
腑に落ちないシンだが、レイは言い聞かせようとする。
そのとき、レイが突然苦痛を感じて、胸を手で押さえた。
「レイ!?どうしたんだ!?」
「何でもない・・構うな・・!」
心配するシンに、レイが声を振り絞って言い返す。彼は自分の机の引き出しから1つの小さなケースを取り出して、その中から薬を出して口にした。
痛みが和らいで、レイが落ち着きを取り戻していく。
「レイ・・・!」
「・・・驚かせて悪かった・・持病みたいなものだ・・・」
動揺するシンに、レイが呼吸を整えながら言い返す。
「それよりも、オレがさっき言ったことは忘れるな。この先何が起ころうと、誰が何を言おうと、議長だけを信じろ。」
レイがシンに向けて呼びかける。
「世界は変わるんだ。オレたちが変える・・だがそのときには、これまでとは違う決断をしなければならないこともあるだろう。」
「レイ・・・」
「だが、議長を信じていれば大丈夫だ。正しいのは、彼なのだから・・・」
ギルバートを信じ抜くように促すレイに、シンはさらに困惑していた。
「本当にそうなのか?・・議長はそうだと、本気で言い切れるのか・・?」
「もちろんだ。議長に間違いはない。議長の導きがあったから、お前も強くなれた。ロゴスという脅威を討つことができ、戦いのない平和へ近づいている。これからも議長を信じ続けていれば、悲劇が起こることはない。」
シンが疑問を投げかけるが、レイのギルバートに対する想いは変わらない。
「オレは力を求めて軍に入った。敵もだけど、何も守れない自分も許せなかったから・・ここまで導いてくれた議長には感謝しているけど、オレが軍人になろうとしたのはオレの意思だ。」
シンはザフトに入ってからの自分を思い出していく。
「戦いのない世界、ずっと続いていく平和。それを実現しようとする議長の考えに、オレも心を打たれた。そんな世界のためにも、オレも戦ってきた・・」
「ならばこれからも、議長のために動けばいい。平和を乱す敵を、お前は倒せばいい。」
「けど、議長のあのプランが導入されていたら、自分の意思が反映されなくなる・・オレが軍人になろうとしても、プランのためになれなかったかもしれない・・」
「しかし戦いもなく平和も永久不変となる。お前のように悲劇を被ることもなくなり、軍人になろうとする意思も必要なくなる。」
「違う・・デスティニープランなら、確かに戦いはなくなる。そうならないように導いてくれるから・・だけど、そこに意思も考えもない・・」
「混迷の世界よりはいい。議長の示す世界こそ、戦いのない平和への唯一の道だ。」
ギルバートの築く世界を素直に受け入れることができないシンと、ギルバートを信じてその考えを貫こうとするレイ。
「この平和を守れるのは、もはやお前しかいない・・」
「オレしかって・・お前だって、ルナたちだって・・」
レイが切り出した話に、シンが当惑を浮かべる。
「いや、オレはこの任務を続けることはできない。オレの命は長くないからな・・」
「どういうことだよ・・・?」
「テロメアが短いんだ、生まれつき・・オレは、クローンだからな・・」
「何だって・・!?」
レイが打ち明けたことに、シンが驚きを隠せなくなる。
「2年前の大戦で死んだラウ・ル・クルーゼと同じく・・彼は短命の運命を呪い、全てを滅ぼそうとした・・なぜオレたちは、他の者たちのように長く生きられないのか・・・」
レイがラウのことを考えて、自分たちに課せられた運命に対して歯がゆさを感じていく。
「オレたちやステラのような存在も、お前のように家族や友人を失った者も、世界の愚かさが生み出した。だから世界は、変わらなければならない。オレの思いもお前が受け継いでくれると、オレは確信している。」
「だからって、生きるのを諦めるのかよ!?・・決められた未来だからって、生きることさえ諦められるのか・・!?」
全てを託そうとするレイを、シンが問い詰める。
「もしもオレがお前の言うように、あとわずかの寿命だとしても、オレは生きるのを諦めない。たとえ誰から何を言われても・・もしかしたら、長く生きられる希望が見つかるかもしれない・・」
「シン・・・」
「オレは戦いを諦めたわけじゃない。戦わないといけないヤツがまだいるから・・」
シンの意思を聞いて、レイが心を動かされる。思っていた以上にシンが強くなっていたと、レイは理解した。
(しかし、シンはギルの理想に完全に賛同しているわけではない。それではダメだ。不完全だ・・)
シンがギルバートのためだけに戦う戦士になり切れていないことを、レイはよしと思っていなかった。
「オレも命ある限り、戦い続ける。シン、お前は議長を信じるんだ。」
レイが改めてシンに呼びかける。しかしシンは肯定も否定もせず、1人で部屋を出ようとする。
「シン、分かったな・・・!?」
レイが問い詰めるが、シンは答えずに部屋を出た。
(シン、お前もオレもギルの世界のために戦う戦士だ。オレが死んだ後は、お前しか平和を守れないんだぞ・・・!)
心の中でシンに向けて呼びかけるレイ。彼はシンにギルバートのための戦士にすることを諦めていなかった。
ギルバートが提言したデスティニープランについて、各国首脳陣はすぐに決断を下せなかったのがほとんどだった。返答をしたのは2国だけ。
「ハッキリと拒否を表明しているのは、我々をスカンジナビア王国だけか?」
「はい。どこもまだどう判断すべきか決めかねているようで・・」
カガリの問いかけに首長の1人が答える。オーブ政府でもデスティニープランやギルバートのことで議論を交わしていた。
「突然の発表で、各国の政府は冷静な判断が下せなくなる・・それもデュランダル議長の思惑通りなのか・・・!」
ギルバートの手口にカガリが毒づく。
「だがもうこれ以上、世界を彼の思い通りにはさせない!かつてウズミ代表は、連合の侵攻に際して人としての精神への侵略という言葉を使われたが、これはそれよりもなお悪い・・!」
「カガリ様・・・!」
「我が国はデュランダル議長の唱えるこのプランの導入を、断固拒否する!武力や争いはもちろん、精神や思想による侵略に、我々は決して屈しない!」
主張たちが当惑する中、カガリがデスティニープランの拒否を断言する。
「オーブの理念、何としても守り抜く!それが必ず、全てを守ることになる!」
「はっ!」
カガリが檄を飛ばして、首長たちが答えた。カガリたちはオーブの理念を貫いていた。
デスティニープラン導入の放送後、ギルバートは部下たちから各国の情報を伝えられていた。
「“ネオジェネシス”は動かせるか?」
「ただ今チャージ中です。移動は既に始めています。」
ギルバートの問いかけにオペレーターが答える。
「各国の動きはどうなっている?」
「変化は見られません。未だ明確なのは、早々に拒否を表明したオーブと“スカンジナビア王国”のみです。」
ギルバートのさらなる問いに、オペレーターが報告する。
「これに呼応してか、“アルザッヘル基地”に少し動きが見られます。大西洋連邦大統領は各国の首脳同様、議長にコンタクトを取りたいと申し入れもしてきているのですが・・」
オペレーターがレーダーと通信に注意を傾けて、情報を得る。
「なるほど・・彼も大変だな。オーブの姫君のような働きもできないのに、一国のリーダーなどやらねばならんとは。彼らを支持してくれるロゴスももういない・・」
大西洋連邦の大統領に対して皮肉を口にする。
「あのような国にこのような手を打つのは気が引けるが、私とて引くわけにはいかない。まずはアルザッヘルを討つ。オーブはその次だ。」
「はい。」
ギルバートが指示を出して、オペレーターがコンピューターを操作する。
先の大戦でパトリックの指揮の下で使用、発射されたレーザー砲「ジェネシス」。その改良型として、ギルバートは「ネオジェネシス」の開発を指示していた。
ネオジェネシスはジェネシスよりもレーザーをより集束させることで、ジェネシスに勝るとも劣らない威力を発揮できる。レーザーの軌道は直線的だが、位置と出力次第で地球に命中させることも可能となっている。
「私は言ったはずだ。これは人類の存亡を賭けた最後の防衛策だと。なのに敵対するというのなら、それは人類の敵だということだ。」
デスティニープランへの拒絶に対する忠告を口にするギルバート。彼らのいる人工施設「メサイア」が移動して、装備しているネオジェネシスがチャージを進めていく。
「ネオジェネシス、チャージ完了。目標、アルザッヘル。」
オペレーターがネオジェネシスの標準を定めた。
「ネオジェネシス、発射。」
ギルバートの指示で、ネオジェネシスが出力を高めてレーザーを発射した。
レーザーは月面に到達し、そこに点在するアルザッヘルが巨大な閃光に包まれた。直後に爆発と炎を巻き起こして、基地は一気に壊滅状態に陥った。
「アルザッヘルが壊滅!?」
アルザッヘルが攻撃を受けたという知らせを聞いて、アーサーが驚きの声を上げた。
(ギルバート、あなたは本気で、このプランを推し進めようというの・・!?)
タリアもギルバートの取った行動に、緊張を感じていた。
(このようなやり方を取れば、ザフトやプラントへの敵愾心をあおることになる・・それらの敵対勢力を一掃してでも、あなたは・・・!)
強硬手段に打って出ているギルバートに強い疑念を抱くタリア。しかしザフトの一員である彼女に、ギルバートたちへの反論が許されないことも痛感していた。
アルザッヘルが討たれた知らせは、キラたちも耳にしていた。
「プラントが、アルザッヘルを攻撃・・!?」
「えぇ・・デュランダル議長の宣言への反発を理由にして、プラントへの攻撃を考えていたようだけど・・議長はそれを一掃したようね。デスティニープランの反対者への見せしめの意味も込めて・・」
キラが声を荒げて、マリューが状況を説明する。
「あのジェネシスの改良型のようだ・・レーザーを集束させることで、威力と飛距離を伸ばしている・・!」
アスランが状況を確かめて、ネオジェネシスについて考える。
「プラントは、デュランダル議長は巨大な要塞を動かして、搭載されているジェネシスで攻撃したのか・・・!」
「アルザッヘルも壊滅・・これで残っていた連合の戦力もほぼ全滅だわ・・・!」
アスランがメサイアについても告げて、マリューが深刻さを覚える。
「ロゴスのあの兵器ほどの自由度はないが、位置次第でどこでも攻撃ができてしまう・・地球も、オーブも攻撃されてしまう・・・!」
「力で支配しようとするならば、私たちは生きるために戦うしかありません。」
アスランが危機感を募らせると、ラクスが真剣な面持ちで呼びかけてきた。
「夢を見る。未来を望む。それは全ての命に与えられた、生きていくための力です。何を得ようと、夢と未来を封じられてしまったら、私たちは既に滅びたものとして、ただ存在することしかできません。」
ラクスが自分の正直な思いを語っていく。
「全ての命は未来を得るために戦うものです。戦ってよいものです。だから私たちも戦わねばなりません。今を生きる命として、私たちを滅ぼそうとするもの、議長の示す死の世界と・・」
「行きましょう、マリューさん。議長を止めなきゃ・・!」
ラクスの言葉を受けて、キラも呼びかけた。
「キラ、どう戦うべきなのか、もう分かっているな・・?」
「うん・・力ばかりに頼らず、声を掛け続ける・・力を使うのは、言葉でどうしても止めることができないとき・・そのときには、覚悟を決めなければならない・・・」
アスランの問いかけに、キラが真剣な面持ちで答えた。キラはキラなりの答えと覚悟を見出していた。
自室を出てドックに来たシン。ヨウランたち整備士がミネルバと機体のチェックを終えたドックには、ルナマリアも来ていた。
「ルナ・・」
「シン、今、アルザッヘルが攻撃されたって・・!」
足を止めたシンに駆け寄って、ルナマリアがアルザッヘルのことを話す。
「基地でプラントへの攻撃の動きが見られたから、それを迎え撃ったみたい・・前の大戦で出てきたジェネシスに似た兵器を使って・・」
「何だって!?」
ルナマリアからの説明を聞いて、シンが驚く。
「議長はデスティニープランを、必ず実行しようというお考えなのだろう。」
レイもドックに来て、シンたちに声を掛けてきた。
「いいことであっても、何もかもスムーズにはいかない。反対する者、反抗する者が必ず現れる。連合やロゴスのように。プランに反対するオーブやスカンジナビア王国のように。そして・・」
レイの言葉を聞いて、シンとルナマリアが息をのんだ。
「オーブに組するアークエンジェルとエターナルも・・」
「ヤツらとも、アスランともまた戦うんだな・・・!」
レイがキラたちのことを告げて、シンが歯がゆさを見せる。
「迷うな、シン。今のアスランは敵以外の何者でもない。」
「分かっている・・世界を混乱させているアイツらを、オレは止める・・・!」
レイが忠告して、シンが激情を募らせる。
(デスティニープランにはオレは納得していない・・だけど今は、アスランやフリーダムを止めることに専念する・・・!)
シンが心の中で自分の気持ちを整理する。
(オレだけでフリーダムとジャスティスを同時に相手するのが難しいのは、オーブでの戦いで分かってる・・だから今は、レイと一緒に戦う・・・!)
自分が見出した答えを胸に秘めて、シンは決意した。デスティニープランに懐疑的でありながらも、レイと共闘し、キラたちを倒すことを。
次回予告
未来のために討つ。
平和のために守る。
しかしその形はそれぞれ。
シンもまた、自分の見出した答えを胸に、戦場へ赴く。
それぞれの力と決意が、宇宙でぶつかる。
平穏の未来へ突き進め、ミネルバ!