GUNDAM WAR

-Destiny of Shinn-

PHASE-39「争いのない世界へ」

 

 

 ギルバートからの召集を受けて、ミネルバがメサイアに移行した。シンとレイがギルバートのところへ赴き、敬礼をした。

「やぁ、レイ、シン。よく来てくれたね。」

「レイ・ザ・バレル、シン・アスカ、ただ今到着しました。」

 ギルバートがあたたかく迎えて、レイが真剣な面持ちで挨拶する。するとシンが表情を曇らせていることに、ギルバートが気付いた。

「どうしたのかな、シン?突然のことで、いろいろ戸惑っているのかな?」

「え、あ・・はい。いきなりの発表だったので、まだ驚いてます・・」

 ギルバートに問いかけられて、シンが動揺を見せながら答える。

「確かにアーモリーワンでの強奪に始まって、ユニウスセブンの落下、そして開戦からこんな事態にまでなってしまったんだ。誰だって戸惑うだろう。だが、そんなやりきれないことばかり続いた、この戦うばかりの世界も、もう間もなく終わる・・」

 ギルバートがシンとレイに向けて悠然と語っていく。

「私が終わらせてみせる。君たちもどうか力を貸してほしい。」

「もちろんです。我々が戦いを生む者に屈するようなことになれば、世界は再び、混沌と闇の中へ逆戻りです。そうなれば、人々が平和と幸福を求め続けるその裏で、世界はまたも必ずや新たなロゴスを生むでしょう。絶対に世界を、そんなものにはしたくありません・・デスティニープランは絶対に実行されなければなりません。」

 呼びかけるギルバートに、レイが答えていく。

「シン、君はどうかな?君もレイと同じ思いかな?」

 ギルバートがシンに目を向けて、考えを聞いてきた。シンは様々な思いを感じてから、閉ざしていた口を開いた。

「オレは議長の導入しようとしているデスティニープランに対して、ハッキリと答えを出すことができていないです・・ただ、1つだけハッキリしていることがあります。」

 シンが自分の正直な意思を、ギルバートに伝えた。

「戦いを失くすために、倒さないといけない相手がいる。その相手と、ここで決着を付けることになる。それは確かです。」

「アークエンジェルとエターナル、キラ・ヤマトとラクス・クライン、そしてアスランだね。」

 シンの言葉を聞いて、ギルバートがキラたちのことを考える。

「確かにキラくんの行動には疑念を抱かずにはいられない。だが同時に、彼は不幸だったとも思える。」

「不幸、ですか・・?」

「彼も君に勝るとも劣らない資質と力を備えている。モビルスーツのパイロットとして、戦士としての力は指折りと言える。なのに誰1人、彼自身それを知らず、そのためにそう育たずそう生きず、ただ時代に翻弄されて生きてしまった・・あれほどの力、正しく使えばどれだけのことができたか分からないというのにね・・」

 キラの力に評価をしているギルバートに、シンは複雑な気分を感じた。

「もっと早く自分を知っていたら、君たちのようにその力と役割を知り、それを活かせる場所で生きられたら、彼自身も悩み苦しむこともなく、その力は称えられて、幸福に生きられただろうに・・」

「ヤツのような人間を出さないためにも、デスティニープランは必要不可欠です。アークエンジェルの面々を討つことは、単にヤツらの暴挙を阻止するだけでなく、この不条理な世界を生きてきた我々の責任でもあります。」

 ギルバートの話を受けて、レイが自分たちの使命を口にした。シンはキラたちを倒すことを心に決めながらも、ギルバートたちの意志に賛同できないでいた。

「議長、あなた宛てに通信が入っています。」

 そのとき、メサイアにいるオペレーターの1人が、ギルバートに報告をしてきた。

「エターナル、ラクス・クライン様からです。」

「何っ・・!?

 その報告を聞いて、シンが驚きを見せる。

「つないでくれ。私が応答しよう。」

 ギルバートは落ち着きを保って、オペレーターに呼びかける。

「しかし・・」

「構わん。彼らがどのような言動をしようと、この平和を覆すことはできない。」

 戸惑いを見せたオペレーターに、ギルバートが悠然と答えた。オペレーターが通信に対応して、モニターにエターナルのブリッジが映し出された。

「ラクス・クライン・・・」

「あれは、あのときの・・・!?

 レイがラクスを見て呟き、シンがキラを見て驚きを覚える。

“いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす・・・!”

 オーブの慰霊碑の前でキラ、ラクスと会ったときのことを、シンが思い出す。

“こちらはエターナル、ラクス・クラインです。デュランダル議長、あなたの提言するデスティニープランの導入、および各国への攻撃の中止を要求します。”

 ラクスが真剣な面持ちで、ギルバートに呼びかける。

“正しい道を示すことで人々に過ちをさせないようにするデスティニープラン。確かにこれで戦争が起こることはなくなるでしょう。しかしプランの上で成り立つ世界には、自分の意思も自由もありません。ただ議長と世界の言いなりになるだけ。それでは生きていることにはなりません。”

「それは違いますよ、ラクス・クライン。争いのない世界、それは世界中に住む者の共通の願いです。その願いを打ち砕かれ、命を奪われ、その死を悲しむ家族や友人が後を絶たない。その悲劇は終止符を打たなければならない。そのためのデスティニープランです。」

 ギルバートが冷静にラクスに反論していく。

「プランは我々個人が行うものではない。世界の願いが望んで生まれたものです。過ちが、悲劇が繰り返されてはならない。デスティニープランは、それを確実に叶えることができる・・平和を願う歌姫のあなたも、同じ願いを持っているはずです。」

“あなた方と私たちの願いは違います。たとえ争いがなくなっても、そのために生きる自由と正義を封じられることを、私たちは望みません。”

 デスティニープランの必要性を告げるギルバートだが、ラクスはプランへの疑念を消さない。

“私たちは真の意味での、生きるための戦いをします。誰の中にも、未来を選ぶ権利があります。”

「その選択を間違わせないために、デスティニープランは必要なのです。正しい選択をしなかった、できなかった者たちのために、これまでの争いと悲劇が生まれた。それが2度と生まれてほしくないと、あなた方は思わないのですか?」

 自分たちの意思を貫こうとするラクスに、ギルバートは悠然と問答をしていく。

「あなた方では世界を導くことはできない。平和についての何のビジョンも持たず、武力で武力を鎮圧し、自分たちだけの理想を他者に強いる。明確な形、明確な策を示している我々と違って・・」

 ギルバートのこの指摘に対し、ラクスは言葉を詰まらせる。

「そんな君たちが我々に刃を向ける。世界の目指すべき平和を認めないというだけで・・そんな君たちが我々を討てば、世界はまた混迷の闇に逆戻りとなる。」

“そうなのかもしれません・・でも僕たちは、そうならない道を選ぶことができるんだ・・それが許される世界なら・・”

 ギルバートの言葉に言い返してきたのはキラだった。

「何を勝手なことを言ってるんだ、アンタは!?・・アンタたちのやったことで、ハイネやたくさんの人が死んでいったんだぞ!それを許してもらえるなんて、都合のいいことを考えるな!」

 シンがキラの言葉に反発して、鋭く言い放つ。

「だが誰も選ばない。人は忘れ、そして繰り返す。こんなことは2度とないと、こんな世界にしないと、一体誰が言えるんだね?誰にも言えはしないさ。無論君たちにもね・・」

 ギルバートが悠然さを崩さずに、キラたちに告げる。

「争いは繰り返されるばかり。そのことを分かる者はほんのわずか。君たちにも止めることはできない。戦いに囚われた者は、その過ちを変えようとすらしない。」

“でも僕たちはそれを知っている。分かっていけることも、変わっていけることも。”

「君たちが知っているところで何だというのだ?誰もが知らなければ意味はない・・誰もが己を知り、正しき道を進むことができる。それがデスティニープランだ。」

“確かに正しく生きられる・・でもそれだと人間として生きていることにならない・・自由も明日もない・・”

 ギルバートが告げる世界の混迷とデスティニープランの必要性に対し、キラが言葉を返していく。

“明日がほしいんだ・・どんなに苦しくても、変わらない世界はイヤなんだ・・!”

「さすが最高のコーディネイター。わがままを持ち出して自分の考えを押し通そうとするとは、傲慢だな・・」

“傲慢なのはあなただ!自分の考えを押し通して、逆らうものを排除しようとするなんて!”

「争いのない世界は、平和を望む者全員の願いだ。それに逆らい、平和を壊そうとするものは排除されなければならない。これは私だけでなく、世界の人々の意思なのだ。」

 自分たちの思いを口にするキラに対し、ギルバートは冷静さを崩さない。

「自分たちが特別だと考えているから、君たちは本当の事実が見えないのだよ。」

“それは違う!僕たちはただの人間だ!他とどこも変わらない、みんなと同じ人間なんだ!だから、みんなの生き方を封じるあなたのプランを止めなくちゃいけないんだ!”

 ギルバートが投げかけた非難に、キラが反発する。

「そうして自分の考えを力とともに押し付け、議長に反発する。自分たちが特別だと考え、それをそうでないと思い込む・・やはりお前は傲慢だ、キラ・ヤマト・・・!」

 レイが鋭く言って、その反発を一蹴する。

「君たちが求める世界と私の示す世界、皆が望むのはどちらかな?今ここで我々を討って、再び混迷する世界を、君たちはどうするつもりなのだ?」

“覚悟はある・・僕たちは戦う・・みんなが心から生きられるようになるために・・・!”

 ギルバートから問い詰められて、キラが自分の意思を貫こうとする。ラクスもキラと同じ気持ちでいた。

「アンタたちは、何も変わらないのか・・綺麗事や屁理屈をこねて、自分の力や考えを押し付けるだけ・・オレたちや他のヤツのことを考えようとしない・・自分たちが加害者になってるのに、被害者面してごまかそうとする!」

 シンがキラたちの態度に憤りを募らせていく。

「オレはアンタたちを討つ・・綺麗事で自分たちの間違いをごまかそうとする・・アンタたちもオーブも、これ以上好き勝手にはさせない!」

“だからお前は、議長の示すプランに賛同するのか、シン・・!?

 決意を口にしたシンに言い返してきたのは、アスランだった。

“シン、オレも議長は平和のために尽力していると信じていた・・しかし議長が提唱しているこのプランは、世界の全てを殺すものだ!”

「確かに、生きていることにならないのかもしれない・・でもだからって、アンタたちのように、綺麗事ばかりでごまかすやり方が正しいことにはならない!」

 呼びかけるアスランだが、シンはデスティニープランを信じない意思を持ちながら、アスランたちにも反発していた。

「アスラン、キラやアークエンジェルのしたことが分からないのか!?戦いを止めると言っておきながら、みんなの事情も聞かずに一方的に攻撃して、状況を混乱させて、それを悪いとも思ってないんだぞ!」

“確かにキラたちは間違っていた。正義の名の下に戦うことの意味を見誤っていた・・だけどそんな過ちはさせない。繰り返そうとしてしまったら、そのときはオレが止めるからだ。”

 キラたちを非難するシンに、アスランが考えを告げた。キラたちも自分たちのしたことを見つめ直したが、シンたちは信じていない。

「自分たちが納得できないってだけで、今度も一方的に戦いをしようとする・・それで心を入れ替えたと、みんなが信じると思っているのか!?

“生き方を誰かに決められる世界を認めるわけにいかないのは、オレも同じだ・・未来を歪められる世界になってしまったら、みんな生きていることにならなくなる・・!”

 シンが問い詰めて、アスランが反論する。

「未来を歪められているのは、戦争の犠牲になっているオレたちや今を平和に生きようとする人々だ・・その悲劇の連鎖は断ち切らなければならない。議長の示す世界ならば、それが可能となる。」

 レイもアスランたちに反発して、ギルバートへの賛同の姿勢を示す。

「このデスティニープランは、人類存亡を賭けた最後の防衛策だ。プランへの反抗は、生きとし生ける者全てを敵に回すことになる。」

“生きる希望と自由がなければ、たとえ命があっても生きていることにはなりません・・私たちは戦います。生き方を強いるあなた方の世界と・・”

 警告を送るギルバートだが、ラクスは彼の意志に立ち向かう考えを貫こうとする。

「残念だ・・平和を願うプラントの歌姫と正面から対立することになるとは・・・」

 ラクスたちの変わらない意思に、ギルバートがため息をついた。

「アルザッヘルに続き、攻撃を行う。目標はオーブ。抵抗するアークエンジェル、エターナルも攻撃対象だ。」

 ギルバートがラクスたちに対して宣戦布告をした。

「我々とあなた方は分かり合うことはできない。互いを相容れないのだから・・」

 ギルバートは苦言を呈して、ラクスたちとの通信を終えた。

「おそらくこれが最後の戦いとなるだろう。君たちの力、頼りにさせてもらうよ。」

「ありがとうございます。議長の世界、我々が必ず守ります。」

 信頼を送るギルバートに感謝して、レイが敬礼する。

「ミネルバに戻り、アークエンジェルとエターナルを迎え撃ちます。」

「ジェネシスをエネルギーチャージしながら、オーブ攻撃圏内まで移動させる。敵殲滅ももちろんだが、ジェネシスにヤツらを近づけさせるな。」

 レイに対して、ギルバートが指示を出す。

「オレも行きます。議長、申し訳ありませんでした。」

 シンも敬礼をしてから、先にミネルバに戻っていった。

「まさかシンが、デスティニープランに拒否の意思を示すとは・・」

「申し訳ありません。議長からの信頼を受けたことで、シンはデスティニープランを受け入れると思ったのですが・・」

 呟きかけるギルバートに、レイが謝罪した。

「いかがいたしますか?戦闘に紛れて射殺することも可能ですが・・」

「今はその時ではない。シンの力は、キラ・ヤマトたちとの戦いに不可欠だ。裏切り者としてすぐに始末してしまえば、デスティニープラン実行に影響が出てしまう。」

 レイが投げかけた問いに、ギルバートは落ち着いたまま答える。

「それに、処罰しなくても、シンを引き込む術はまだある。」

 ギルバートはシンに対する手当てを念頭に置いていた。

「今は敵の排除に集中するんだ。レイ、頼むぞ。」

「はい。」

 ギルバートの言葉を受けてから、レイもミネルバに戻っていった。

 

 シンとレイが戻ってきたと同時に、ミネルバにギルバートからの指令が届いた。

「ジェネシスを防衛しつつ、アークエンジェルとエターナルを討つ・・これが私たちの戦闘よ。」

「艦長・・・!」

 タリアの告げた指令に、アーサーが緊張を募らせる。

「これがおそらく、私たちにとって最大の戦いになるわ。敵はアークエンジェルとオーブだけでなく、ラクス・クラインの乗るエターナルもよ。」

「あ、あのラクス・クラインと・・!?

「ラクス様、本気で私たちのことを・・・」

 タリアがさらに告げて、アーサーとメイリンが動揺を浮かべる。

「前の大戦で戦争を終わらせたとはいえ、ラクス・クラインはプラントに敵対している。そして今も・・ためらいは命取りになる。気を引き締めるのよ。」

「はいっ!」

 タリアが檄を飛ばして、アーサーたちクルーが答えた。

「シン、オーブもアスランも、本気で私たちを・・・」

 ルナマリアが深刻な面持ちを浮かべて、シンに声を掛ける。

「デスティニープランは生きる自由を奪うって・・でもアイツらのやり方で、戦いがなくなるわけじゃない・・・」

 シンがキラたちの考えを口にして、その反発を見せる。

「議長の示す世界を守るのが、オレたちザフトの役目だ。ヤツらを倒し、本当の平和を築くんだ。」

 レイが真剣な面持ちで、シンとルナマリアに呼びかける。

「本艦はアークエンジェル、エターナル撃墜のため、発進します。総員、戦闘準備を。」

 タリアが指示を出して、メイリンたちがミネルバの発進に備える。

「オレたちも出撃の準備をするぞ。今度こそヤツらを討つ。」

「あぁ。分かってる・・」

 レイが告げて、シンが小さく頷いた。先にレイがドックに向かったところで、シンがルナマリアに声を掛けた。

「ルナ、この戦いの後に、オレに何かあったら・・・」

 シンが小声で、ルナマリアだけに伝えた。それを聞いて彼女が目を見開いた。

「シン、あなた・・・!?

 言い返そうとしたルナマリアだが、シンもドックへ歩き出した。

(シン、あなたは私を信じて、私だけに・・・!)

 シンの思いに困惑しながら、ルナマリアも出撃に備えた。

 

 

次回予告

 

揺るぎない平和を守る者。

生きる自由を求める者。

どちらが正しいのか?

どちらの世界が、この世の地獄か?

不条理の争いの中で出たシンの答え。

 

次回・「最後の戦い」

 

未来を目指し、飛び上がれ、アークエンジェル!

 

 

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