GUNDAM WAR

-Destiny of Shinn-

PHASE-37「相容れない正義」

 

 

 アスランからシュミレーション対戦を申し込まれたキラ。困惑を抱えたまま、彼は対戦に臨んだ。

 マリューもドックに足を運んで、ラクスとともにアスランとキラの対戦を見守っていた。

「キラ、シュミレーションだからこそ、全力で戦ってくれ。オレも全力を出す。」

「アスラン・・・」

 アスランが真剣に言って、キラが困惑を募らせる。

(どうして、僕とアスランが・・・!?

(キラ、もう1度見つめ直すんだ・・その力の使い方を・・自分が何をすべきなのかを・・!)

 キラとアスランが心の声を上げる。それぞれの思いを抱えて、2人は対戦を開始した。

「ラミアス艦長は、アスランの申し出を了承したのですね。」

「アスランくんが心から望んだものと判断したから、私は許可を出したわ・・ラクスさんも、反対はしていないようね。」

 ラクスが言いかけて、マリューが微笑んで頷いた。

「これはこれからに向けて大切なことになります。キラにとっても、アスランにとっても・・アスランはこのことを分かって、この戦いを申し込んだのです。」

 ラクスが真剣な面持ちで、アスランとキラの対戦を見守る。シュミレーションの中で、アスランのジャスティスとキラのフリーダムが動き出した。

 ジャスティスとフリーダムがビームライフルを手にして、ビームを発射する。2機が互いのビームを素早くかわしていく。

「さすがね、この2機は。キラくんたちの操縦もあって、速く強く正確・・」

「ですがキラには迷いが見られます。アスランも勝つこと以外に思っていることがあるみたいです。」

 マリューがキラたちの戦いに感嘆する中、ラクスは2人の心境を察して表情を曇らせていた。

 ビームの撃ち合いを演じていくジャスティスとフリーダム。苦悩を深めるキラに対し、1つの信念を持っていたアスランは冷静だった。

(アスランは本気だ・・でも、僕は負けるわけにいかない・・ここで負けたら、戦いを止めることもできなくなる・・・!)

 キラは迷いを振り切ろうとして、集中力を高める。

 フリーダムが両翼からドラグーンを射出して、ジャスティスを包囲する。フリーダムにもドラグーンが装備されていた。

 アスランが反応して、ドラグーンからのビームをジャスティスが正確にかわす。

「これでは今のザフトには勝てない。デスティニーには、シンには勝てないぞ。」

 アスランが冷静さを崩さずに、キラに言いかける。

 フリーダムが両手にそれぞれビームサーベルを手にして、ジャスティスに向かっていく。ジャスティスもビームサーベルを手にして、フリーダムのビームサーベルとぶつけ合う。

「アスラン、どうして僕たちがこんな全力の戦いをしなくちゃならないんだ!?僕たちが戦う必要なんてないのに・・!」

 アスランと戦うことに納得できず、キラが声を荒げる。

「戦う必要はある・・お前たちの介入で混乱が起きている・・お前は戦いを止めるつもりになっていて、状況を混乱させているんだ・・!」

 アスランがキラを咎めて、ジャスティスがフリーダムを押し返す。

「お前は、お前たちは平和を取り戻すことや戦いを止めることだけに囚われて、状況や他の勢力の事情や考えを聞こうともせず、力ずくで武力を削ぐだけ・・オーブを守ることだけに固執して、結果的にロード・ジブリールを逃がすことになった・・!」

 キラたちのしたことを問い詰めるアスラン。

「でも僕は、カガリやラクスを悲しませたくなかった・・オーブが焼かれたくなかった・・・!」

「大切なものを守りたい気持ちは、誰だって同じだ!戦う者にはみんな、それぞれ正義を持っている!」

「でもだからって、誰かが傷ついていいことにはならないよ・・!」

「それが、お前の正義なんだな・・・!?

 思いを曲げないキラに、アスランが呼びかけていく。

「戦いを止めたい、戦争を終わらせたい。それはオレやお前たちだけじゃなく、みんなも思っていることだ。戦いをするしかなくなっても、思いを伝えようとした者だっている・・」

 アスランは語りながら、これまで自分が経験してきた戦いや、その中で会った人物や交わした言葉を思い返していく。

「だがお前はそれを伝えるために何をした?お前やカガリが戦いをやめろと言って、やめなかったときは・・?」

 アスランの投げかけた問いに、キラが反論できずに口ごもる。

 自分やカガリが説得を呼びかけても、ザフトも連合も、連合と同盟を結んでいたときのオーブ軍も戦いをやめなかった。そのときにキラはフリーダムを駆り、武装を削いで力ずくに戦いを止めた。そのために戦況は混迷し、ハイネたちも命を落とすことになった。

「そんな人間や力に納得できる人がいるわけがない・・いずれ、お前を倒す戦いも起きてしまう・・」

「そんな・・・!」

「その相手も問答無用に攻撃して、武器を壊して黙らせるつもりなのか・・!?

「アスラン・・僕は・・・」

 アスランの言葉に言い返そうとするも、キラはうまく答えることができない。

「それでも僕は、みんなに死んでほしくないし、オーブを守りたいんだ・・・!」

「ちゃんとした理由もやり方も見つめ直さず、わがままのようにそれを押し通すのか・・・!」

 自分の思いを貫こうとするキラに、アスランは歯がゆさを覚える。

「ならばキラ、お前の正義を通すなら、その正義と力で、オレを倒してみせろ・・!」

 アスランが鋭く言って、ジャスティスがビームサーベルを構えてフリーダムに向かっていく。

 フリーダムがレールガンを発射するが、ジャスティスは軽々とビームをかわす。2機がビームサーベルを振りかざして、激しくぶつけ合う。

 その直後、ジャスティスがビームブレイドを発した右足を、フリーダム目がけて振りかざしてきた。フリーダムが左腕にビームシールドを発して防ぐが、その衝撃で押される。

(それ以外に方法はない・・武器を壊して戦いを止めるしか、誰も傷つかない結末はない・・・!)

 誰も死なせない、オーブを守りたい。その気持ちを貫こうとするも、その方法が間違っている。この事態にキラは苦悩を深めていた。

(たとえアスランでも、カガリやオーブを傷付けるなら・・・!)

(これからも力だけで思いを押し付けるなら・・・!)

 キラとアスランが心の中で感情を高ぶらせる。

(僕は君を・・)

(オレがお前を・・)

(討つ!)

 キラとアスランの中で何かが弾けた。2人の感覚が研ぎ澄まされ、フリーダムとジャスティスの動きがより速く、より正確になった。

 フリーダムがレール砲とカリドゥスを同時に発射する。ジャスティスがファトゥムからビームを発射して。フリーダムのビームと相殺させた。

 フリーダムとジャスティスがまたビームサーベルをぶつけ合う。先ほどよりも激しい衝突と衝撃が生じていた。

 蓄積された衝撃にフリーダムもジャスティスも押される。2機はすぐに体勢を整えて、ビームサーベルを構えた。

「キラ!」

「アスラン!」

 アスランとキラが叫び、ジャスティスとフリーダムが加速してビームサーベルを振りかざした。ビームの刃は互いの左腕を切り裂いた。

 フリーダムがドラグーンを操作して、ビームを連射する。ジャスティスがビームの雨をかいくぐり、フリーダムに詰め寄りビームサーベルを振りかざす。

「ぐっ!」

 キラが毒づき、フリーダムが後方に下がる。ジャスティスがフリーダム目がけて、ファトゥムを射出する。

 フリーダムが上昇して、ファトゥムをかわした。だがその先にジャスティスが回り込んで、左足のビームブレイドを繰り出してきた。

 フリーダムがビームサーベルでビームブレイドを受け止めた。ビームサーベルが弾かれて、フリーダムが押される。

(僕がこの力で戦いを止めるしかない・・それなのに、戦いを止めるどころか、憎しみや悲しみが増えていく・・・!)

 自分の願いと裏腹に悲劇に拍車がかかることに、キラが苦悩を深めていく。

(誰かが死んでいいことにはならない・・みんなだって、そう思っているはずなのに・・・!)

 迷いが大きくなっていく彼が、迷いを振り切ろうとする。

(僕がやってもやらなくても、戦いは終わらない・・・!?

 希望を見失い、キラが動揺を隠せなくなる。

 ファトゥムを戻したジャスティスがフリーダムに向かって加速する。フリーダムが右手にビームライフルを手にして、ドラグーンを含めた全ての銃砲を一斉に発射した。

 ジャスティスは「ビームキャリーシールド」からビームブーメランを引き抜いた。ジャスティスがシールドとビームブーメランを投げつけて、フリーダムのビームを食い止めた。

 ビームとシールドが爆発して、視界が遮られる。その煙からジャスティスが飛び出して、フリーダムとの距離を詰めた。

 ジャスティスが突き出したビームサーベルが、スーパースキュラの発射口に突き刺さった。同時にキラがドラグーンを操作して、ビームを発射してジャスティスの胴体を貫いた。

 フリーダムとジャスティスが致命傷を負って、ともに爆発した。

「あ・・相打ち・・・!」

 キラとアスランの戦いを見て、マリューが当惑を浮かべる。

 2人のシュミレーションの対戦は、引き分けに終わった。アスランは冷静さを失わなかったのに対し、キラは困惑を隠せなくなっていた。

「勝負は互角でしたが、精神面ではキラが追い詰められてしまったようです・・」

 ラクスがキラとアスランの様子を見て、沈痛の面持ちを浮かべていた。

「キラ、オレは討つことをためらわなかった・・いや、迷いはあったが、それを振り切ることができたと言ったほうがいい・・」

 アスランがキラに顔を見せて、正直に話す。

「僕がこの戦いをしても、戦いが止まるどころか、僕が誰かを傷付けてしまう・・誰も傷ついてほしくない気持ちは、絶対に間違っていないはずなのに・・・!」

 キラがアスランに対して苦悩を口にする。

「僕はどうしたらよかったんだ・・戦いを止めるには、他にどんな方法があったんだ・・・!?

「他にもやり方があったはずだ。お前のように力があるなら・・」

 疑問を投げかけるキラに、アスランが諭していく。

「オレはお前のこと、よく知っているし。正しい答えと方法を一緒に見つけられると思っている。オレとお前が、心から力を合わせるのならな。」

「アスラン・・僕たちに力を貸してくれるの・・・?」

 手を差し伸べてきたアスランに、キラが戸惑いを覚える。

「もしもお前たちが間違いをしそうになったら、オレがまた止めてやるからな・・」

「アスラン・・・ありがとう・・・」

 微笑むアスランに、キラが礼を口にする。彼も手を差し伸べて、握手を交わした。

「すれ違っていた2人の心が、やっと1つになりましたね。」

「えぇ。アスランくんがキラくんの心を動かしたわね。」

 ラクスとマリューがキラとアスランの和解を喜ぶ。しかしマリューの表情がすぐに曇った。

「私たちも反省しないといけないわね・・平和のために戦うことだけに囚われていて、大切なことを見失っていたわ・・・」

「ですが私たちはそれを見つけました。もう迷いはありません。私たちもキラもアスランも・・」

 マリューとラクスも自分たちのやるべきこと、その術を見つめ直していた。

「討たれたら討ち返し、また討ち返されるという戦いの連鎖を、私たちには終わらせる術がありません。誰もが幸福でありたい、なりたい。そのためには戦うしかないのなら、私たちは戦ってしまうのです・・」

 自分たちの在り方を語っていくラクス。

「議長はおそらく、そんな世界にまったく新しい答えを示すつもりなのでしょう・・」

「その世界ならおそらく、戦いが起こることもなくなる・・しかしそれはきっと、議長の思惑通りの世界。彼に反する存在は、その世界の正義の名の下に淘汰されることになる・・」

 ラクスとアスランがギルバートの目指す世界について考える。

「おそらくそこに戦いはありません。戦っても無駄だと、誰もが思っているので・・」

「それは平和だとは思えない。支配だ・・議長がなぜそのようなことをするのか、オレには分からない・・・」

 ラクスの言葉に答えて、アスランが深刻な面持ちを浮かべる。

「もしも議長が強硬策に出るなら、オレは戦うことになる。最悪、ザフトと、シンたちとも・・」

「そのときは止めよう、アスラン・・」

 アスランが意思を告げて、キラが頷いた。2人の心が今、1つになっていた。

 

 レクイエムの破壊から3日が経った。シンたちは十分に体を休めて、ミネルバもデスティニーたちも整備を終えていた。

 しかしプラントは復興の目途が立っておらず、人々は悲しみと不安を抑えることができないままだった。

 プラントに到着したギルバートにも、プラントやその周辺、各国の情報が逐一届いていた。

「まだ落ち着いていないか・・」

「申し訳ありません。救護班が総動員で救助とケアに当たっているのですが・・」

 現状に対して深刻さを感じていくギルバートに、兵士が頭を下げる。

「いや、構わん。それよりも予定通り発表する。この状況下では動揺が大きくなるだろうが、こればかりは猶予はない。」

「分かりました。直ちに放送の準備を。」

 指示を出すギルバートに、兵士が答える。ギルバートの発表を伝える放送の準備が整った。

「プラント最高評議会、ギルバート・デュランダルです。この場にて、プラントにて被害に遭われた人々に対し、哀悼の意を表します。」

 ギルバートが挨拶をして、プラントの人々への思いを告げる。

「今、私の中にもみなさんと同様の悲しみ、そして怒りが渦巻いています。なぜこんなことになってしまったのか、考えても既に意味のないことと知りながら、私の心もまたそれを探してさまよいます。」

 世界に向けて沈痛さを訴えていくギルバート。

「2年前、私たちは大きな戦争を経験しました。そしてそのときにも誓ったはずでした。こんなことはもう2度と繰り返さないと。にもかかわらずユニウスセブンは落ち、努力も虚しくまたも戦端が開かれ戦火は否応なく拡大して、私たちはまたも同じ悲しみ、苦しみを得ることとなってしまいました・・」

 彼がこれまでの戦争と悲劇について語っていく。

「本当にこれはどういうことなのでしょうか、愚かとも言えるこの悲劇の繰り返しは。先にも申し上げたとおり、1つは間違いなくロゴスのです。敵を作り上げ恐怖を煽り戦わせて、それを食い物としてきた者たち。長い歴史の裏側にはびこる彼ら、死の商人です。だが我々はようやく、それを滅ぼすことができました。」

 ジブリールを討ってロゴスを倒したことを、ギルバートが報告する。

「だからこそ今あえて私は申し上げたい。我々は今度こそ、もう1つの最大の敵と戦っていかねばならないと。そして我々はそれにも打ち勝ち、解放されなければならないのです。」

 ギルバートが世界に向けて進言をしていく。

「みなさんにも既にお分かりのことでしょう。有史以来、人類の歴史から戦いのなくならぬわけ。常に存在する最大の敵。それは、いつになっても克服できない我ら自身の、無知と欲望だということを・・!」

 彼の語気が徐々に強まっていく。

「地を離れ宇宙(そら)を駈け、その肉体の能力、様々な秘密までも手に入れた今でも、人は未だに人を分からず、己を知らず、明日の見えないその不安。より多くより豊にと飽くなき欲望に限りなく伸ばされる手。それが今の私たちです・・争いの種・・問題は全てそこにある・・!」

 ギルバートの演説の放送に、彼の進言を示す画像と映像も映し出された。

「だがそれももう、終わりにするときが来ました!我々はその全てを、克服する方法を得たのです!全ての答えは、皆が自身の中に既に持っている!それによって人を知り、自分を知り、明日を知る!これこそが、繰り返される悲劇を止める唯一の方法です!」

 ついにギルバートは、戦いのない世界の実現に向けた考案を発表した。

「私は人類存亡を賭けた最後の防衛策として、“デスティニープラン”の導入・実行を、今ここに宣言いたします!」

 

 

次回予告

 

戦いのない世界。平和な日々。

議長の指し示す世界が、取るべき道なのか?

レイが揺るぎない意思を持って、思いを託す。

錯綜する思いの中、シンが出した答えは?

 

次回・「新世界へ」

 

示される道へ導け、レジェンド!

 

 

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