GUNDAM WAR

-Destiny of Shinn-

PHASE-36「レイ」

 

 

 ジブリールが討たれ、プラントを脅かす脅威は消えた。ミネルバは修繕と補給、休息のため、プラントに戻っていた。

「ふぅ・・一時はどうなることかと思ったよ〜・・」

「プラントが壊滅するかどうかの瀬戸際だったな・・だけどこれでも、今までで最悪のプラントの被害だそうだ・・・」

 安堵の吐息をつくヴィーノと、プラントの現状に深刻さを感じているヨウラン。

 レクイエムの1射目を受けただけでも、プラントは甚大な被害を受けた。各コロニーの膨大な避難活動は、沈静化の見通しも立っていない。

「今はプラントのために、オレたちにできることはほとんどない。できるのは、ミネルバとデスティニーたちの修理と整備だけだ。」

「オレもシンたちみたいな凄腕のパイロットになれたらなぁ〜・・」

 ヨウランが口にする言葉を聞いて、ヴィーノが自分の無力を感じてため息をついた。2人は修繕の作業に戻っていった。

 

 ジブリールを討ち、ロゴスとの戦いに終止符を打ったシン。しかし彼の気分は晴れやかではなかった。

 プラントの悲惨さを痛感しているだけではない。アークエンジェル、エターナルとの戦いへの意識、アスランとの敵対心が、シンの中にあった。

 ミネルバの艦上から外を見ていたシンに、レイが近づいてきた。

「何か考えていたのか、シン?」

 レイが声を掛けて、シンが振り向いた。

「レイ・・オレ、ホントにみんなを守れたのかな・・プラントのこの様子を見てると、そう思えなくなりそうで・・・」

 シンがレイに答えて、自分に戦いを終わらせた実感のないことを告げる。

「確かにジブリールによって、プラントは甚大な被害を被った。しかしお前やオレたちがそれ以上の悪い事態を阻止したのも事実。」

「だけど、オレにもっと力があれば・・・」

「どれだけ力を持っていても、救えない命がなくならないわけじゃない。しかし、戦う力を持っていなかったときよりは、救える命は確実に増えた。シン、お前もそれが分かっているはずだ。」

 レイの投げかける言葉を聞いて、シンが戸惑いを覚える。

 戦闘やパイロットの経験のなかったシン。戦争に巻き込まれて両親とマユを失ったとき、シンは悲しみと怒りの中で力を欲した。

 ザフトに所属してパイロットとなって、シンは自分で命を守れるようになった。ステラを死なせずに済んだが、ハイネは命を落としてしまった。

「死んだ人たちのことを気にするなというわけじゃない。だが今の力を誇っても、咎められることはない。」

「ありがとう、レイ・・オレ、強くなれたんだ・・・」

 レイに励まされて、シンは自信を取り戻した。

(そうだ。お前は強くなれ。ギルの築き上げる世界のために戦うのが、お前の成すべきことだ。)

 戦士として、ギルバートの描く世界を守る者としてシンが強くなることを、レイは心の中で確信していた。

 

 ルナマリアもメイリンとともに自室で休息を取っていた。ルナマリアはシャワーを浴びて、汗を流していた。

「すごかったよ、お姉ちゃん。インパルスを動かすだけじゃなくて、プラントを守ったんだから。」

「シンとレイがいたから、あそこまでできたのよ。ホントにすごいのはあの2人よ・・」

 感心するメイリンに、ルナマリアが答えて肩を落とす。

「確かにすごい機体に乗って、それを自由に動かしてるんだもんね。でもお姉ちゃんだって2人に負けてないよ。シンとレイがすごすぎるだけなんだから・・」

「どっちにしても、私はまだまだってことね。シンたちと比べて・・」

 称賛するメイリンだが、ルナマリアは素直に喜べなかった。

「お姉ちゃんだってここまで強くなったんだもん。デスティニーみたいな機体に乗れるときがきっと来るよ。」

「・・そうね。ロゴスとの戦いは終わったけど、まだまだ精進しなくちゃね。」

 メイリンの言葉に励まされて、ルナマリアが気を引き締めなおす。彼女は再びシャワーを浴びてから、風呂場から出た。

 体を拭いて髪を乾かすルナマリアと入れ違いに、メイリンが風呂場に入った。

「私、ちょっと外に出てくるわね。」

「あっ!お姉ちゃん、ずるいよー!」

 声を掛けたルナマリアに、メイリンが不満の声を上げる。彼女を部屋に残して、ルナマリアは1人で外に出た。

 

 月面での戦闘と現状の報告を、ギルバートに向けてしていたタリア。彼女の話を聞いて、ギルバートが安らぎを覚えて微笑んだ。

“本当に感謝しているよ。ミネルバが駆けつけてくれなければ、プラントは確実に壊滅させられていただろう。”

「はい。しかしオーブでジブリールを拘束していれば、プラントの被害は一切出なかったはずです・・これは、私たちの落ち度です・・」

 称賛を送るギルバートだが、タリアはプラントの被害に対して責任を感じていた。

“私も多くの命が失われてしまったことは辛いと思っている。しかし君たちが自身を責める必要はない。賛美されて然るべき活躍をしたのだから・・”

「しかし、それもアークエンジェルとエターナルに助けられての功績でした・・敵対関係にある者たちに助けられることになるとは・・」

“目的が同じだったのか・・しかもエターナルも行動をともにしていることも気にかかる。先の大戦でも共闘していたが、今は状況が違うことは、彼女も分からないはずはない。”

「アークエンジェルの面々との対立も、未だに解消されてはいません。エターナルとも、オーブとも・・」

 キラたちの動向について、深刻さを感じていくギルバートとタリア。

「ラクス・クラインは先日のオーブの中継で、議長の行動を支持していないと言っていました。彼女とも敵対関係になるのは・・」

“彼女はプラントの歌姫だ。人々の心をつかんでいる彼女がオーブと共闘しているというのは、人々に不安を与えかねない。”

 ラクスに対する懸念を抱えて、タリアもギルバートも深刻さを募らせていく。

“彼女やアークエンジェルの動向については、こちらのほうで調査する。君たちは十分休養を取ってくれ。度重なる戦いでくたくただろう。”

「お心遣い、感謝いたします。今のプラントの状況を考えると、心から羽を伸ばすのは難しいでしょうけど・・」

“私も宇宙へ上がる。例の連合の少女を治療のために運ぶことになり、同じ目的地ということで同行させることにした。”

「分かりました。シンにもそう伝えておきます。」

 ギルバートに感謝して、タリアは通信を終えた。

「すぐに休息がとれるといっても、整備班は艦と機体にかかりっきりになってしまうでしょうが・・」

 アーサーが苦笑いを浮かべて、タリアが微笑んだ。

「整備班にもムリをしないように伝えるようにね・・私たちが言えたものではないけれど・・」

「分かりました。伝えておきます。」

 タリアが気遣って、アーサーが敬礼をして答えた。

 

 シンと別れたレイが、ギルバートとの連絡を取っていた。

「シンは平和のために戦うことを心に決めています。多少思いつめる節がありますが、戦士として申し分ないでしょう。」

“そうか。理想の戦士となっているな、シンは。このまま任務と並行して、シンの動向を見届けて、不安要素があれば修正してくれ。”

 レイが報告をして、ギルバートが満足して頷いた。

“今、連合の少女を連れてプラントに向かっている。確実に成功するとは言い難いが、医療班に尽力してもらう。”

「いいんですか?元々は連合のパイロット。いくらシンが入れ込んでいるからとはいえ・・」

“だからこそだ。下手なマネをして、シンに我々への疑心暗鬼を植え付けるわけにはいかない。”

「確かに・・彼女の件、お任せいたします。」

 ギルバートからステラのことを言われて、レイは聞き入れた。

“永らえることができるなら、そうしたい。そうさせてやりたい。誰もが思うことであり、私もそう思っている・・レイ、君もそう思っているだろう?”

「ギル・・私の命は、既に運命づけられています。」

 ギルバートが投げかけた言葉に対し、レイは冷静に答えた。彼が心の中で引っ掛かりを感じたように、ギルバートには思えた。

“プラントに到着し、体勢を整え次第、実行に移そうと思う。発表するまでは誰にも口外することがないように。”

「もちろんです、ギル。発表後には、オレがシンに・・」

 ギルバートが秘密裏に進めていることを告げて、レイが頷いた。

(そうだ。シン、お前は戦士になることを考えるんだ。ギルと、ギルの築く世界を守る戦士に・・)

 シンが自分やギルバートが望む戦士になることを、レイは思い描いていた。

 

 1人ミネルバ艦内の廊下を進むルナマリア。彼女はシンの部屋の前まで来ていた。

 シンのことを気に掛けていたルナマリアは、部屋のドアをノックした。

「シン、いる・・・?」

 ルナマリアが声を掛けると、ドアが開いてシンが顔を見せた。

「どうしたんだ、ルナ?オレに何か用か?」

「シン・・・言いたいことがあって・・・」

 シンが問いかけると、ルナマリアが思いを打ち明けようとする。

「シンが戦ったから、私たちは生きているし、私も強くなれた・・」

「それは、ルナやレイ、みんながいてくれたから・・・」

 感謝するルナマリアに、シンが言葉を返す。

「シンが強くなったから、みんなのためにがんばってきたから、私もがんばろうって思ったし、ここまでがんばれたと思う・・やっぱり、シンがいたから今の私がいるんだよ・・」

「そんなルナが支えてくれたから、オレはもっと強くなれた気がする・・それでも守れなかった人がたくさんいた・・・」

 互いに支えられたと感じるも、ルナマリアもシンも自分がまだ無力だと思っていた。

「誰だって、何もかも守れるってわけじゃない・・失敗することもたくさんある・・そんなことのないほうがおかしいよ・・・」

「それでもオレはみんなを守りたい・・戦いのない世界になって、みんなが傷つかなくなれば・・」

「シン・・シンがみんなを守るように、私もシンやみんなを守りたい・・一緒に守ることはできないの・・・!?

「ルナ・・そこまでオレを守ろうとしているのか・・・」

 ルナマリアの思いを聞いて、シンが戸惑いを募らせていく。

「一緒に守っていこう・・ルナに何かあったら、すぐに駆けつける・・・!」

「私も、シンに何かあったらすぐに行くからね・・・!」

 シンとルナマリアが決意を告げて、顔を近づけて口付けを交わした。

 どんなことになっても離れたくない。任務や戦いになっても、すぐに合流すると、シンたちは強く誓っていた。

 口付けの最中、シンとルナマリアは互いのことだけでなく、ステラのことも気に掛けていた。

 

 月面クレーター内にある都市「コペルニクス」。ザフト、連合のどちらにも属していないこの都市に、アークエンジェルとエターナルは到着した。

「ここで整備と補給をしながら、羽を伸ばしましょう。」

 マリューが声を掛けて、キラたちが微笑んで頷いた。しかしアスランは表情を曇らせていた。

「どうしたの、アスラン?何か考えていることでも・・?」

 キラが声を掛けるが、アスランは答えない。

「これからラクスの買い物に付き合うんだけど・・アスランは行かない・・?」

「ムリに誘うのはよくないですわ。アスランにはアスランの思いがあるのですから。」

 キラがアスランを誘うが、ラクスが微笑んで制止した。

「ではマリューさん、行ってきます。」

「えぇ。でも十分に気を付けて、2人とも。」

 キラが挨拶して、マリューが答える。キラとラクスがアークエンジェルから降りて、買い物に出かけていった。

「アスランくん、あなたも自由にしていいわよ。そもそも、私たちにはあなたにどうこう言える権利はないけどね・・」

 マリューがアスランに言って、苦笑いを浮かべた。

「ラミアス艦長、あなたもキラやラクスたちのやり方は正しいと思っているのですか?」

 アスランが真剣な面持ちで、マリューに問いかけてきた。

「正直、どうするのが正しいやり方なのかは分かってないわね。私もキラくんたちも。私たちが間違っているかもしれない。それでも世界が混迷に向かうことに納得できないのも、私たちの本心よ。」

 マリューが自分たちの思いを、アスランに向けて告げる。

「艦長は見境なしに、力ずくで戦いを止めるだけで戦争を終わらせられると思っているのですか?キラと同じ考えなのですか・・!?

「私もキラくんも、人殺しをしたいわけじゃない。誰かが死んでほしいわけでもない・・」

「それでもそのために命を落としてしまった人もいる・・あなたたちの介入がなければ、死なずに済んだ者もいるんですよ・・・!」

「私たちがいかなければ、失われる命があった。それを何もせずに見ていることは、私たちにはできなかった・・・」

 マリューもキラと同じ考えを持っていることに、アスランは納得ができなかった。

(キラもラミアス艦長たちも、たた単純に戦いを止めたいという願いはオレと同じだ。戦いを終わらせたいという願いでは、シンたちとも・・)

 キラたちとシンたち、自分の戦う意思について考えるアスラン。

(やり方が間違っているんだ・・キラたちもシンたちも、いや、シンたちを指揮しているデュランダル議長が・・そう考えるオレも、正しいとは言えない・・オレもキラたちとともに、戦況を混乱させたのだから・・)

 どのやり方を取るのが正しい選択なのか、今でも誰も分かってはいない。それでも正しい道を選ぼうと、誰もが必死に手探りをしている。

 アスランは今やるべきことを1つ見出そうとしていた。

「ラミアス艦長、お願いしたいことがあります。」

 アスランがその考えをマリューに伝えた。

 

 買い物を終えて戻ってきたキラとラクス。エターナルに買った物を置いてから、2人はアークエンジェルに来た。

「キラ、付き合ってほしいことがあるんだが・・」

 そこへアスランがやってきて、キラに声を掛けてきた。

「アスラン・・うん・・」

 キラが当惑を浮かべながらも頷いて、アスランについていく。2人が来たのはドック内にある戦闘シュミレーターの前だった。

「アスラン、どうしたの?ここで何を・・?」

「キラ、オレと戦ってくれ。」

 問いかけるキラに、アスランが真剣な面持ちで呼びかけてきた。

「ラミアス艦長に頼んで、シュミレーターにデータを組み込んでもらった。インフィニットジャスティスとストライクフリーダムのな。」

「アスラン・・どうしてそこまで、僕たちが対決しないといけないんだ・・・!?

 アスランからの申し出に、キラが動揺を覚える。

「これからもお前たちもオレも戦いが続くことになる。そのときに備えて、お前の力を確かめておきたいんだ。」

 アスランの考えを聞いて、キラが困惑する。力試しの模擬戦とはいえ、アスランとこれ以上戦うことをキラはよしと思っていない。

「聞いてあげてください、キラ。模擬戦なのでお互い傷つくことはありません。」

 ラクスが微笑んでキラに言いかけた。

「ラクス・・・うん・・・」

 彼女に頼まれる形で、キラはアスランの申し出を受けることにした。2人が全力を出してのシュミレーション対戦が始まろうとしていた。

 

 

次回予告

 

戦いを終わらせる最善の方法とは何か?

敵を滅ぼすことなのか?単純に戦士の力を削ぐことなのか?

それぞれが抱く正義と信念。

戦争終結のために交わすべきは、力だけなのか?

 

次回・「相容れない正義」

 

友の真意、問いただせ、ジャスティス!

 

 

作品集に戻る

 

TOPに戻る

inserted by FC2 system