GUNDAM WAR
-Destiny of
Shinn-
PHASE-35「分かたれる道」
ロゴスの機体と交戦するデスティニーたちの前に、ミーティアを装備したフリーダムとジャスティスが駆けつけた。
「フリーダム・・こんなときまで、戦いをムチャクチャにするつもりか・・・!?」
シンがフリーダムを見ていら立ち、ジャスティスに視線を移す。
「アスラン・・アンタもフリーダムの味方をするのか・・!?」
アスランに対しても憎悪を向けるシン。
「シン、レイ、オレはお前たちと戦うつもりはない。お前たちと同じ、月にある破壊兵器の停止が目的だ。」
アスランがシンたちに事情を話す。ただしキラたちではなく、アスラン個人の意見である。
「お前たちが快く思わないのは、オレも十分分かっている。しかし今は兵器を止めるのが最優先だということは、お前たちも理解しているはずだ。」
「ふざけるな!目的が同じだから、敵でも力を合わせて戦えというのか!?」
状況を告げるアスランだが、シンは憤って反発する。
「裏切り者がのこのこと・・キラ・ヤマトとともに、お前もここで討つ・・!」
レイもアスランに対して敵意を向けていた。
「シン、レイ、あなたたちはロゴスの部隊と兵器の破壊に専念しなさい!」
ミネルバにいるタリアが、シンたちに呼びかけてきた。
「艦長・・・!」
「しかし、ヤツらは敵です。このまま放置することは、今の作戦に影響が出るのは確実です。」
シンが声を荒げ、レイが反論する。
「アークエンジェルと交戦している間にロゴスの2射目が撃たれたら、何もかも終わりよ!向こうも同じ目的だとするならば、協力はできなくても利用しても問題はないわ!」
「それは・・・!」
タリアの下す判断に不満を感じるも、シンは反論できずに言葉を詰まらせる。
「攻撃目標に変更はありません!月面上の破壊兵器の停止と、妨害する勢力の排除に尽力すること!アークエンジェル、およびエターナルは標的から除外!ただし彼らの行動次第では、適切な対応を取ること!」
タリアがシンたちに向けて指示を出す。シンは腑に落ちないながらも従うことにして、レイもタリアの指示通りにした。
フリーダムとジャスティスに続いて、アークエンジェルとエターナルも月に到着した。ザフトがキラたちを攻撃対象から外していることを確認して、マリューとバルトフェルドが束の間の安堵を覚えた。
(グラディス艦長・・あなたの賢明な判断と心遣い、感謝します・・・)
マリューがタリアに感謝して、ロゴスとの戦闘に備えた。
「私たちは破壊兵器を止めるため、その地点へ前進します。」
「ザフトもオレたちと同じ目的で行動している。争っている間にプラントが討たれたら、みんなに合わせる顔がないぞ。」
ラクスとバルトフェルドが進言して、アークエンジェルとエターナルもレクイエムへ急ぐ。エターナルからヒルダ、マーズ、ヘルベルトの乗ったドム3機が発進した。
「プラントを守るのがラクス様の願い。」
「それを邪魔するヤツらをオレたちがブッ倒す。」
「全ては、ラクス様のために!」
ヘルベルト、マーズ、ヒルダが言い放ち、ドムたちが正面からロゴスの部隊に向かっていく。
「出し惜しみはなしだ!一気に蹴散らすよ!」
「おう!」
「遅れたら置いてけぼりだな!」
ヒルダ、マーズ、ヘルベルトが声を掛け合う。
「ジェットストリームアタック!」
ドムたちがスクリーミングニンバスを起動して、ビームバズーカとビームライフルを連射する。ウィンダムたちを撃退して、アークエンジェルとエターナルの活路を開く。
「よし!このまま全速前進だ!」
バルトフェルドが檄を飛ばして、エターナルがアークエンジェルとともに加速していった。
タリアの指示を受けて、シンとレイはロゴスの機体との交戦に専念する。キラとアスランも戦闘に加勢する。
「オレはアンタたちを信用していない・・アスランは生きていて、アンタはステラを助けてくれたけど、ハイネのことがあるからな・・!」
「たとえ信じてもらえなくても、誰かが死ぬかもしれない今を、黙って見ているなんてできない・・・!」
不信感を抱えているシンに、キラが自分の思いを口にする。
「それでこれからも好き勝手に攻撃して、綺麗事ばかり並べてムチャクチャにするつもりなのかよ!?」
「違う!それは・・!」
「結局アンタは自分の考えを押し付けて、それを綺麗事でごまかしてるだけなんだ!・・アンタと心から手を取り合うことはできない!」
言い返そうとするキラへの反発を強めて、シンがロゴスとの戦いに専念する。キラはシンに言い返すことができないまま、フリーダムを動かす。
「アスラン、もはやお前は我々の敵だ・・たとえアークエンジェルの面々と考えが違うと言い張ったところで、オレたちのこの意思は変わらない。」
レジェンドとジャスティスがロゴスの機体への攻撃を続ける中、レイもアスランに対して不信感を抱いていた。
「オレがザフトに戻らなかったのは、今のザフトに、いや、デュランダル議長のやり方にも疑念があったからだ・・議長は平和の実現のためと銘打っているが、シンや世界の人々の心を掌握しているように思えてならない・・!」
アスランも自分の考えをレイに向けて告げる。アスランはギルバートに対する不信感も抱いていた。
「議長を信じず、彼のやり方に反発するなら、やはりお前はオレたちの敵だ・・」
「レイ、お前も議長の言葉を鵜呑みにするのはやめろ!お前も世界の破滅に加担するつもりなのか!?」
「議長は正しい世界、戦いのない世界を築こうとしている。それを阻む敵と戦うのが、オレたちの使命だ。」
「目を覚ませ、レイ!議長の言いなりになるな!お前もお前自身で考えろ!」
「議長の築く世界こそ、オレ自身が望んでいること。自ら考えて決めたことだ。」
「レイ・・・!」
頑なに考えを変えないレイに、アスランはこれ以上呼びかけることができなくなる。
「今はジブリールを討つのが先だ。その後でお前たちも倒す・・」
レイはアスランに告げて、レジェンドがジャスティスから離れて前進する。
(レイもシンも、自分で決意して戦いをしている・・議長に踊らされているとしても・・・!)
シンたちの意思と戦いに、アスランが歯がゆさを覚える。善し悪しがあれどそれぞれ正義を持っていることを、彼は痛感させられていた。
(キラ、お前にはシンたちのような決意はない。あるのは力だけだ・・・!)
心の中でキラへの苦言を呟いて、アスランも戦いに集中した。
シンたちの援護を受けたルナマリアのインパルスが、レクイエムの砲門に向かって加速する。彼女もキラたちの加勢に気付いて驚きを感じたが、レクイエムの破壊遂行に意識を戻した。
(アスランに言いたいことはあるけど、今はアレを止めないと・・プラントをこれ以上撃たせない・・!)
ルナマリアが自分に言い聞かせて、インパルスが迫り来るウィンダムとゲルズゲーをケルベロスとレール砲「デリュージー」でなぎ払っていく。
「どうしてもアレを発射するつもりね・・そんなこと、絶対にさせない!」
ルナマリアが言い放ち、インパルスがさらにビームを撃ってウィンダムたちをなぎ払う。だがその前にザムザザーが立ちふさがった。
「あれは!」
ルナマリアが声を荒げて、インパルスがケルベロスを発射する。しかしザムザザーの陽電子リフレクターにビームが防がれる。
「やっぱりビームが通じない・・ミネルバでも突破できない・・・!」
ルナマリアが毒づき、インパルスがデファイアントを手にした。しかし射撃、砲撃が主体のインパルスが、強力なハサミを備えたザムザザーに接近戦を挑むのは無謀である。
インパルスとザムザザーが同時に飛び出した。
「ルナ!」
そのとき、ルナマリアの耳にシンの声が入ってきた。インパルスが突撃を止めると、アロンダイトを手にしたデスティニーが突っ込んできた。
デスティニーが突き出したアロンダイトが、ザムザザーを陽電子リフレクターごと貫いた。
「シン!そっちは片付いたの!?」
「アイツらは、フリーダムとジャスティスが相手をしているようだ・・オレたちを先に行かせたつもりなんだろうけど・・・!」
ルナマリアが声を掛けて、シンが歯がゆさを浮かべて答えた。彼はキラたちと共闘することに納得していないが、そうしなければプラントを守る可能性が低くなるとも考えていた。
「オレが援護する!ルナは先に行け!」
「シン・・ありがとう!」
呼びかけるシンにルナマリアが感謝する。デスティニーがアロンダイトを振りかざして、他のザムザザーたちを切りつけていく。
インパルスが加速して、レクイエムの中継ステーションの中に飛び込んだ。
インパルスの中継ステーションへの侵入の知らせは、すぐにジブリールたちに伝えられた。
「何をしている!?敵モビルスーツを追い払え!」
「フリーダムとジャスティスの攻撃で、機体の多くが行動不能となっていて、救援に向かうことができません!」
司令官が怒鳴ると、オペレーターが慌てて状況を報告する。
「レクイエムのチャージはまだか!?」
「稼働率、61%!まだプラントに届くエネルギーではありません!」
司令官のさらなる問いかけに、オペレーターが答える。
「構わん!レクイエム、発射だ!」
ジブリールが目つきを鋭くして、命令を下す。
「しかし、チャージが十分でなく、プラントを撃つにはまだ・・!」
「フルパワーでなくてよい!狙いは眼前のザフトだ!ヤツらをなぎ払うのだ!」
声を荒げるオペレーターに、ジブリールが呼びかける。レクイエムがデスティニーたちを一掃するため、発射体勢に入る。
「撃たせない!絶対に!」
シンとルナマリアが同時に叫ぶ。そのとき、シンの中で何かが弾けて、彼の感覚が研ぎ澄まされた。
デスティニーとインパルスがビーム砲とケルベロスを発射した。出力の高まった2機のビームが、レクイエムの砲門の中を貫いて破損させた。
「ダメです!これでは発射しても、次のチャージが不可能となります!」
レクイエムの機能の弱体化に、オペレーターが動揺を隠せなくなる。
「それでもいい!撃て!その隙に私は脱出する!」
「ジブリール様!?」
ジブリールの告げた言葉に、司令官が驚愕する。
「私が生きてさえいれば、まだいくらでも道はある!最悪、ヤツらをここと運命を共にさせる!」
ジブリールはそういうと、脱出のためにシャトルへ向かった。彼の言動に司令官は愕然となっていた。
フリーダムとジャスティスもミーティアでの攻撃を続けながら前進する。2機のミーティアからの巨大なビームソードが、デストロイやザムザザーたちをなぎ払っていく。
(戦いを終わらせたい・・それは僕もみんなも同じ願いなのに・・分かり合えるはずなのに・・・)
思いは同じなのに分かり合えないことに、キラは辛さを感じていた。
(オレも何のために戦うのかをハッキリさせないといけない・・キラ、お前もこの決断を決めないといけないぞ・・・!)
アスランが自分の覚悟とキラに対して呟く。アスランも自分の正義を見出そうとしていた。
フリーダムとジャスティス、ドムたち、アークエンジェル、エターナル、ミネルバの攻撃によって、ロゴスの機体は全滅寸前まで追い込まれることとなった。
レクイエムの発射口への攻撃を続けるデスティニー、インパルス、レジェンド。被害が大きくなっているが、レクイエムは発射体勢のままである。
「アイツら、まだ・・どうしてそこまで、オレたちを滅ぼそうとするんだよ!」
シンが憤りを募らせ、デスティニーがビーム砲で発射口の奥を撃つ。インパルスもケルベロスで奥を破壊して、レジェンドはドラグーンを操作して周囲の壁を撃つ。
レクイエムが機能停止となり、エネルギーが失われて発射もできなくなった。
「そんな・・そんなバカな・・うわあっ!」
驚愕するオペレーターたちのいる指令室が、レクイエムの爆発に巻き込まれた。デスティニーたちが爆発するレクイエムから脱出した。
「やった・・これでもう、プラントは撃たれないわ・・・!」
炎上するレクイエムを見て、ルナマリアが安堵を覚える。
「ジブリールはどこだ?・・この爆発に巻き込まれたのか・・!?」
「分からない。まだ油断はできないぞ。これ以上ヤツを逃がすわけにはいかない・・」
シンとレイが声を掛け合い、月から発進する機体やシャトルがいないか探る。ミネルバ、そしてフリーダムたちもデスティニーたちと合流した。
「あれは!」
そのとき、シンが浮上するシャトルを発見した。シャトルにはジブリールと司令官が乗っていた。
「ジブリール・・もう逃がさないぞ!」
シンがデスティニーを駆り、シャトルを追いかける。
「待って!命を奪うのは・・!」
キラがシンを呼び止めるが、フリーダムの前にレジェンドが立ちはだかる。
「シンの邪魔はさせない・・!」
レイが鋭く言って、キラは足止めをされる。
「おのれ、ザフトめ・・・!」
レクイエムを用いてもプラントを討てずに逃亡を余儀なくされたことに、ジブリールがいら立ちを募らせる。
「し、司令官!」
操縦士が声を荒げて、ジブリールと司令官が前に目を向ける。デスティニーがシャトルに詰め寄り、アロンダイトを振り上げた。
「ロード・ジブリール、オレはお前を許さない!」
シンが怒りを込めて、デスティニーがアロンダイトを振り下ろした。
「ギャアアァァァ!」
シャトルが真っ二つにされて、ジブリールたちが爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。デスティニーの眼下に落下して、シャトルが吹き飛んだ。
「これで、ジブリールを討てた・・この兵器も破壊できたし、もうプラントが攻撃されることはない・・・」
プラントの完全な壊滅が免れたことに、シンは安堵していた。しかし彼は警戒心を解いてはいなかった。
デスティニー、レジェンド、インパルスがフリーダムたちに振り返った。
「アンタたちも戦いに参加したから、ジブリールを討てたかもしれない・・だけどオレたちに戦いを仕掛けてくるなら、アンタたちはオレたちの敵だ!」
キラたちを信じず、シンが敵意と信念を示す。
「君たちも僕たちも、戦いを終わらせるために動いている・・思いが同じなら、僕たちは分かり合えるはずだよ!」
「同じじゃない!オレたちは戦いを終わらせるためにやっているが、アンタたちはそう言っておきながら、戦場を引っ掻き回してムチャクチャにしてるだけじゃないか!」
呼びかけるキラに、シンが反発する。
「オーブやアスハと同じだ・・綺麗事ばかりいって、自分が正しいと思い込んでいる!しかも力ずくで思い知らせようとするから、なおさら性質が悪い!」
「違う!僕たちは・・!」
「違うと思ってるのはアンタだけだ!・・こっちの事情も分かってないのに、一方的に自分の思い通りにする・・そんなアンタを、オレたちは認めない!」
言い返そうとするキラに、シンが怒りをぶつけた。
「キラ、今は引き上げましょう。いつか彼らと分かり合えるときが来ます。」
ラクスがキラに向かって呼びかけてきた。キラは辛さを噛みしめながらも、シンたちから離れていく。
「ラクス・・うん・・・」
キラが小さく頷いて、フリーダムがエターナルとともに後退していく。
「シン、オレもお前たちとまた力を合わせられたらと思っている。しかしデュランダル議長やお前たちの出方次第で、オレはお前たちと戦う覚悟がある・・」
アスランが自分の意思をシンたちに告げる。
「綺麗事だともわがままだとも言われるのは分かっている・・しかしそれでも、オレはオレ自身を曲げることはできない・・!」
「それが議長の理想を認めない理由か?・・アスラン、お前は完全に裏切り者だ・・オレたちが討つべき敵だ・・!」
苦悩しながら声を振り絞るアスランだが、レイの彼への敵意に変わりはない。
「オレもお前たちもキラたちも、頑なである限り、分かり合うことはできないのか・・・!?」
アスランが歯がゆさを感じながら、ジャスティスはフリーダムとともに引き上げる。ドムたちもエターナルに帰艦し、アークエンジェルも撤退していった。
「このまま戦っても、消耗戦となって共倒れになる危険が高い。オレたちも1度引き上げるぞ。」
「あぁ・・・」
レイが冷静に判断して、シンが落ち着きを取り戻して頷いた。
「また、シンたちに助けられちゃったね・・・」
ルナマリアが自分の力がシンとレイに及ばないことを痛感して、気落ちする。
「いや、ルナがいたから突破できたんだ。オレたちはルナを援護しただけだ。」
「シン・・私も、みんなを守れたってことだよね・・・?」
「あぁ、守れた・・オレも、ルナに救われたんだ・・・」
「シン・・ありがとう・・・」
シンに励まされて、ルナマリアは安らぎを感じていた。
「全機、帰還して。月の施設の調査は別部隊が行うことになったわ。」
タリアが呼びかけて、シンたちが頷いた。デスティニー、レジェンド、インパルスがミネルバに帰艦した。
シンたちの活躍とジブリールの最期を、ギルバートも見届けていた。
「ありがとう、ジブリール・・そして、“さようなら”だ・・」
ギルバートが部屋の天井を仰いで、笑みをこぼした。彼はロゴスとの戦いに終止符を打ったと同時に、戦いのない真の世界の誕生を実感していた。
次回予告
プラントは守られた。
しかし戦いは終わったのか?
残された脅威について知らされるシン。
戦士たちが足を踏み入れる、本当の戦い。
示される世界へ導け、レジェンド!