GUNDAM WAR
-Destiny of
Shinn-
PHASE-34「月面決戦」
ジブリームによって発射されたレクイエムからの巨大ビーム。コロニーを通ることで歪曲されたビームは、プラントに直撃。甚大な被害と犠牲をもたらした。
「ヤヌアリウス・・ディセンベルも・・・月の裏側から、まさかこんな方法で・・・!?」
「くそ・・くっそー!」
ディアッカが驚愕を隠せなくなり、イザークが悔しさと怒りを覚えて、コックピットの壁に握った拳を叩きつけた。
「ディアッカ、このビーム砲を落とすぞ・・また撃たれるようなことになれば、プラントはおしまいだ・・・!」
イザークが声を振り絞って、ディアッカに呼びかける。
「まずはこのコロニーを破壊し、その後ビーム砲の発射地点へ向かう!何が何でもこの兵器を破壊するぞ!」
「了解!」
イザークが命令を出して、パイロットとヴォルテールのクルーたちが答える。ジュール隊によって、そばにあったコロニー1基が破壊され、ビーム湾曲の機能を果たせなくなった。
レクイエムのビームはプラントに命中した。しかし本来の標的であるアプリリウスからそれることとなった。
「ヤヌアリウス1から4、直撃!ディセンベル7、8、ヤヌアリウス4の衝突により崩壊!」
オペレーターがプラントの状況を確認して報告する。
「ヤヌアリウスだと!?アプリリウスは!?」
「アプリリウスは健在です!コロニーの移動が完全でなく、射角がずれた模様です!」
ジブリールが声を荒げて、オペレーターがさらに報告する。
「何ということだ・・アプリリウスを撃ち損じるとは・・・すぐに再チェックと再チャージだ!コーディネイターにここを突き止められる前に、今度こそ討つ!」
ジブリールがいら立ちと憎悪を募らせて、オペレーターたちに命令を下した。
プラントの未曾有の被害に、ギルバードたちプラント評議会もタリアたちのいるミネルバ艦内も騒然となっていた。シンたちもこの事態を知って、驚愕を強く感じていた。
「何なんだよ・・何で、こんなことに・・!?」
「ジブリールの仕業だ。」
ルナマリアとともに動揺しているシンに、レイが来て声を掛けてきた。
「月の裏側から撃たれた。こっちがいつも通り表のアルザッヘルを警戒している隙に・・ダイダロスにこんなものがあったとは・・・」
「裏側からって・・そんなの無理じゃない!どうやって!?」
レイの話を聞いて、ルナマリアが声を荒げる。
「ヤツらは廃棄コロニーに超大型の“ゲシュマイディヒパンツァー”を搭載して、ビームを数回に屈曲させたんだ。」
レイが説明をして、ビーム発射のデータを画面に映した。
「このシステムなら、屈曲点の数と位置次第で、どの標的でもどの角度からでも自在に狙える・・悪魔の技だな・・」
「ジブリール、とんでもないことを・・・!」
レイからの説明を聞いて、シンがジブリールへの怒りを募らせて、手を強く握りしめる。
「オレたちの責任だ・・ジブリールを逃がした・・」
「逃がしたって・・それは、オーブとアークエンジェルが邪魔したから!」
自分たちの責任を口にするレイに、シンが反論する。ジブリールを撃墜できなかった自分を責めて、ルナマリアが困惑する。
「確かにヤツらはジブリールを逃がした。ヤツらが邪魔したから、ジブリールを逃がすことになった・・それでもオレたちが討つべきだった・・・」
「くっ・・・!」
事実を告げるレイに、シンは憤りを募らせるばかりだった。
次にビームが撃たれれば、プラントが壊滅する。それを阻止するにはすぐに宇宙に上がらなければならないと、タリアは判断した。
ギルバートから月へ向かえとの指令が届いたのはその直後だった。クルーたちはそのときには、ミネルバの発進準備を整えていた。
「全艦、発進準備完了です!」
アーサーが報告をして、タリアが頷いた。
「連戦で疲れていると思うけど、正念場よ・・ここで頑張らなければ、帰る家がなくなるわ・・いいわね・・・!?」
「はいっ!」
タリアが声を振り絞るように檄を飛ばし、アーサーたちクルーが答えた。
「機関最大!ミネルバ、発進!」
タリアの号令で、ミネルバが地球を飛び立って、月へ急いだ。
プラントが攻撃された知らせは、アークエンジェルとオーブにも伝わっていた。
「このような方法で、プラントにこれほどの被害を・・・!」
「また撃たれることになれば、プラントは滅ぶことになります・・」
マリューとラクスがこの事態に深刻さを感じていく。
「オレたちもジブリールを討たなければならない・・オレたちは不本意だが、ジブリールを逃がす手伝いをしてしまったのだから・・」
アスランがキラたちに向けて、ジブリールを追うことを進言してきた。
「でも僕たちはオーブを守ろうとしただけだ・・ザフトの攻撃で、オーブを焼かせたくなかった・・・!」
「それが結果的に、オーブがジブリールを守ろうとしたのに協力した、ジブリールを逃がしたことになったんだ・・どんなにいいわけをしても、プラントを危機に陥れた責任を果たさないといけないんだ・・・!」
言い返すキラだが、アスランはさらに咎めた。
「それでも、これ以上争いを広げたくはないんだ・・・」
「オレとお前たちがしたことが、あの悲劇を生んだんだぞ!」
自分の思いを口にするキラに、アスランが感情をあらわにする。彼は自分のしたことへの後悔を噛みしめていた。
「オレはジャスティスで月へ行く。たとえザフトから裏切り者と思われても、オレはプラントを守る。プラントを滅ぼそうとするジブリールを討つ・・!」
アスランが単身プラント防衛に向かおうとする。
「いや、アークエンジェルも月へ向かってほしい。」
するとカガリがアスランとキラたちに進言してきた。
「ユウナたちの勝手な振る舞いが招いたこととはいえ、これはオーブ全体の責任であるといえる。ザフトのオーブへの攻撃は納得できるものでもないが、私たちもこの責任を果たさなければならない・・」
「カガリ・・・」
自分の責任を痛感するカガリに、アスランが戸惑いを浮かべる。
「私は代表としてオーブに残らなければならない。大変なことをみんなに押し付けてしまって、申し訳ないと思うが・・」
「ううん。私たちにできるのは、戦うことぐらいだから・・・」
カガリの言葉を受けて、マリューが微笑んで答えた。
「でも、この戦いに加わっても、戦火を広げるだけだよ・・・」
「そうだとしても、このまま何もしないわけにはいかない!オレも、お前も!」
戦いに向かうことに消極的になるキラに、アスランが鋭く言いかける。
「あの兵器を野放しにすれば、プラントだけじゃない!地球もオーブも狙われることになるんだぞ!」
アスランが口にした言葉を聞いて、キラが心を動かされる。
「これが戦いを終わらせる道なのかは、私たちにも分かりません。ですが私たちには、戦う力も戦おうとする意思もあります。」
ラクスが真剣な面持ちでキラたちに告げる。
「私たちの居場所を守るために戦う。それは私たちも同じです。」
「ラクス・・・」
「キラは命を奪わなくても、戦いを止める方法を知っていますわ。」
ラクスに励まされて、キラが戸惑いを感じていく。
「そのやり方じゃ戦火を拡大するだけだ・・キラもラクスも、もう十分分かっているはずだ・・・!」
アスランがキラとラクスに対して憤りを募らせていく。
「今は戦い方の是非を言い合っている場合じゃない・・一刻も早く月へ行かなければ・・!」
「アスランくん、私たちも行くわ。あなたの言う通り、あのシステムならオーブも十分標的にできるわ・・」
月を目指すアスランに、マリューも自分たちの意思を告げた。
「たとえ周りから認められなくても、大切な人、大切なもの、自分たちの居場所を守るために戦う。それだけよ・・」
真剣な面持ちで言いかけるマリュー。彼女の激励を受けて、キラたちが頷いた。
「ありがとう、みんな・・みんなが戦いを止めてくれると、信じているぞ。」
カガリがキラたちに信頼を送って、マリューと握手を交わした。
「すまない、アスラン・・一緒に行けなくて・・・」
「いや・・カガリはオーブでやらなければならないことがあるからな・・」
謝るカガリにアスランが微笑む。2人は抱擁を交わして、再会を約束する。
「行ってくる、カガリ・・」
「あぁ。信じているよ、アスラン・・」
アスランと挨拶をして、カガリはアークエンジェルを降りた。
「アークエンジェル、発進します!」
マリューの号令とともに、アークエンジェルが発進した。宇宙へ上がるアークエンジェルを、カガリとオーブ軍の兵士たちが敬礼で見送った。
レクイエムによる攻撃で、プラントは騒然となっていた。生き延びた人々が急いで避難しようとして、各コロニー内は混迷を極めていた。
ギルバートたち最高評議会でも、事態の鎮静化と次の砲撃の阻止に追われていた。
「市内はどこもパニック状態です!とても収拾のつくものではありません!」
「分かっている!だがそれを治めるのが仕事だろう!泣き言を言うな!」
議員たちの交わす言葉に、ギルバートが返事をする。かつてない緊急の事態に、彼も語気を荒げていた。
「早く救助と避難を・・!」
「それも分かってはいるが、そうしている間に2射目を撃たれたらどうする!?プラントや人々を救うためにも、ヤツらの兵器の在処を見つけて破壊するのが最重要だ!」
「デュランダル議長、ここは停戦を申し出ては・・最悪、投降も・・!」
「相手は我々を滅ぼすことしか考えていないテロリストだぞ!そんなヤツらとどのような交渉ができるというのだ!?力に屈服しろというのか!?」
動揺を隠し切れないでいる議員たちに、ギルバートが檄を飛ばす。
「ミネルバにも他の部隊にも、兵器の捜索と破壊を急ぐように伝えるのだ!」
ギルバートが指示を出して、議員たちとともに対策の対話を交わしていった。
宇宙へ上がったミネルバは、月へ向かって加速していた。その間にもレクイエムに関する情報が、ミネルバに届いていた。
「1秒でも早く、目標地点へ向かうわよ。あの兵器のパワーチャージサイクルが分からない以上、時間もこの戦いのカギになる・・!」
タリアがアーサーたちに激励を送る。
「厳しい戦いになるけど、絶対に討たなければならない・・いいわね・・!」
「はいっ!」
タリアの言葉にアーサーたちが答えて、月エリアやミネルバ周辺の索敵に尽力した。
その頃、シンたちもミネルバやザフトの攻撃について確認をしていた。
「オレとシンで月に潜伏している敵機を引き付け撃破する。ルナマリアはその隙に兵器の砲門を破壊するんだ。」
レイが作戦の説明をして、ルナマリアに目を向ける。
「お前がこの戦いのカギになる。失敗は絶対に許されない・・」
「分かっているわ・・私だって、やれるんだから・・!」
警告するレイに、ルナマリアが真剣な面持ちで答える。
「だけど単機で砲門を叩くのは危険な役目だ。それはオレかレイがやるべきだ・・!」
「ううん・・敵を引き付けて、多くの敵を相手にするのも、同じくらい危険なことよ・・!」
心配するシンに、ルナマリアが顔を横に振る。
「デスティニーとレジェンドは大勢の相手と戦える。2人が注意を引きつけている間に私が突破するっていう作戦は、私も合っていると思うわ・・」
「ルナ・・・」
冷静に判断するルナマリアに、シンが戸惑いを見せる。
「では行くぞ。この戦いに備えて、万全を期すんだ。」
「あぁ・・・先に行っててくれ・・すぐに行く・・・」
呼びかけるレイに、シンがルナマリアに目を向けて答える。
「すぐに来るんだぞ。」
レイはシンたちに告げると、先にドックへ向かった。
「心配してくれるのは嬉しいわ・・でも私もザフトの一員。どんな任務でもこなさきゃいけないし、私だってやれるんだから・・!」
ルナマリアがシンに向けて決意を口にする。
「だけど、ルナに何かあったら・・・ハイネもアスランもいなくなって・・ステラは助けることができたけど、大切な人をこれ以上失いたくない・・・!」
「シンのその気持ちは、私も同じ・・だから、私は絶対に生きて帰るよ・・大丈夫よ、シン。信じて・・・!」
不安と思いを打ち明けるシンに、ルナマリアが寄り添う。シンがすがりつくように、彼女を抱きしめた。
「信じてるよ・・ルナが無事に戻るって・・でも守りたいって気持ちを捨てることもできない・・・」
「シン・・・」
「ルナもミネルバもプラントも、みんなオレが守る・・オレの力で、みんな守ってみせる・・・!」
想いを告げるシンに、ルナマリアが戸惑いを覚える。2人は互いを守りたいという気持ちに駆られるように、唇を重ねた。
「行こう、シン・・レイやみんなが待ってる・・」
「あぁ・・やってやる・・・!」
唇を離したルナマリアとシンが声を掛け合う。2人も出撃のため、ドックへ向かった。
宇宙へ上がったアークエンジェルは、同じくレクイエム破壊のために動き出していたエターナルと合流した。
「来たか、アークエンジェル。ロゴスの兵器のある地点は既に把握している。」
「ミネルバも他のザフトの部隊もそちらへ向かっているわ。私たちも急ぎましょう。」
エターナルにいるバルトフェルドが、マリューと声を掛け合う。
「アスラン、お前も戦いに出るつもりか?」
ジャスティスに乗るアスランに、バルトフェルドが声を掛ける。
「このままジャスティスで出ます・・バルトフェルド隊長にも言っておきますが、オレはあなたたちのやり方に納得はしていません。ですが今は緊急故、あなたたちと行動をともにします・・」
「そうか・・それで結構だ。今は1人でも戦力が必要な状況だからな。」
アスランの考えをバルトフェルドが聞き入れる。
「キラ、アスラン、お前たちに“ミーティア”を託す!先行して兵器を破壊してくれ!」
「分かりました!」
バルトフェルドの呼びかけにキラが答えた。
「キラ・ヤマト、フリーダム、いきます!」
「アスラン・ザラ、ジャスティス、出る!」
キラの乗るフリーダム、アスランの乗るジャスティスがアークエンジェルから発進した。
「ミーティア、リフトオフ!」
エターナルから大型武装「ミーティア」が2機射出されて、フリーダムとジャスティスがそれぞれ装備した。2機はレクイエムを目指して加速した。
月近くに到着したミネルバ。その先に、ジブリールに組する連合の機体が多く出撃して、レクイエムを守る防衛網を張っていた。
「ロゴス・・何が何でもアレを守ろうとするのか・・!」
シンが機体の軍勢を見て、憤りを覚える。
「オレとシンが敵部隊を分散する。ルナマリアは兵器の地点へ急げ。」
「分かってるわ。1機もこっちに近づけさせないようにね・・」
レイが支持を出して、ルナマリアが答える。
“お姉ちゃん、無事に帰ってきて・・!”
「もちろんよ、メイリン。ありがとうね・・」
メイリンも呼びかけてきて、ルナマリアが微笑んで答えた。
「これより攻撃を開始するわ!全員、気を引き締めなさい!」
「はいっ!」
タリアが檄を飛ばして、シンたちが答えた。
「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、いくわよ!」
レイのレジェンド、ルナアリアのコアスプレンダーがミネルバから発進した。チェストフライヤー、レッグフライヤー、ブラストシルエットが続けて射出されて、コアスプレンダーと合体してブラストインパルスとなった。
(オレはみんなを守る・・ルナもプラントも、ステラのことも・・・!)
「シン・アスカ、デスティニー、いきます!」
決意を固めたシンが、デスティニーで出撃した。
デスティニーとレジェンドが二手に分かれて、モビルスーツたちを分断させた。その中央にできた隙間をインパルスが突っ切る。
デスティニーがビーム砲を展開して、ビームを放つ。ウィンダムやゲルズゲーがビームに撃たれて破損するが、ザムザザーとデストロイが陽電子リフレクターでビームを防いだ。
「コイツらもいるのか・・だったら!」
シンが思い立ち、デスティニーがアロンダイトを手にして突撃する。アロンダイトの一閃がザムザザーを両断し、デストロイを切りつける。
一方、レジェンドもビーム攻撃を仕掛けて、連合のモビルスーツを撃破していく。しかしレジェンドのビームも、デストロイとザムザザーの陽電子リフレクターには通じない。
「やはり正面からは通じないか・・だが・・」
レイが呟いて、レジェンドが背部にあるドラグーンを射出した。遠隔操作されたドラグーンが、陽電子リフレクターの死角に入って、ザムザザーとデストロイを射撃した。
(やはりこの機体、オレに馴染む・・ドラグーンも自在に動かせる・・・!)
思うようにレジェンドを動かせることを実感するレイ。レジェンドがさらにドラグーンを動かして、デストロイたちを攻撃していく。
「ザフトにいいようにさせるな!」
「インパルスがレクイエムに向かっている!」
連合のパイロットたちが声を張り上げ、各機がインパルスを追いかける。しかしデスティニーとレジェンドの攻撃に行く手を阻まれる。
「お前たちの相手はオレたちだ!」
「ここから先へは行かせないぞ・・!」
シンとレイが言い放ち、デスティニーとレジェンドが攻撃を再開する。
「こうなればコイツらから先に始末するしかないな!」
「数で押せば、いくら新型でも倒せないことはない!」
パイロットたちがいきり立ち、ザムザザーがデスティニーとレジェンドに迫ると同時に、デストロイが2機に対してスーパースキュラの発射体勢に入る。
そのとき、デストロイたちがビームに撃たれて爆発を起こした。ビームを撃ったのはデスティニーでもレジェンドでもない。
「今の攻撃は・・!」
シンが目を見開いて、レイとともに視線を移す。その先にいたのは、ミーティアのビーム砲を発射したフリーダムとジャスティスだった。
「フリーダムとジャスティス・・!」
「アスラン・・キラ・ヤマト・・・!」
シンとレイがフリーダムとジャスティスを見て、目つきを鋭くした。キラたちもレクイエム破壊のために駆けつけたのだった。
次回予告
破滅を止める者。
同じ志を持つ者は、味方なのか、敵なのか?
敵を討たなければ終わらない戦いもある。
その先にあるのは、真の平和か?それとも・・・
動乱の世界、突き進め、アークエンジェル!