GUNDAM WAR

-Destiny of Shinn-

PHASE-33「レクイエム」

 

 

 アスランは生きていた。自分たちの敵、オーブを守る戦士として再び現れた彼に、シンもルナマリアも困惑していた。

 ジャスティスとフリーダムの攻撃にデスティニーを負傷させられたシン。ジブリールが乗っていたと思しきシャトルを逃がしてしまったルナマリア。

 2人は無力を痛感して、自分を責めていた。

「オレが動揺したばかりに・・アスランに勝ち切れなかったばかりに・・ジブリールを見つけることができなかった・・・」

「悪いのは私よ・・あのシャトルにジブリールがいたかもしれないのに、それを逃がしたせいで・・・」

 互いに謝るシンとルナマリア。

「今さら悔いたところで取り返しはつかない。自分に責任があるとすれば、それは自分を含めたザフト全員にある。」

 レイが感情を表に出さずに、シンたちに言いかける。

「アスランはあのとき、フリーダムに殺されたわけじゃなかった・・生きていたのは嬉しいけど、オレたちの邪魔をするなんて・・・!」

 シンがアスランのことを考えて、やるせない気持ちを感じていく。

「アスランにはまだオーブに対する感情が残っていたのだろう。それに囚われるあまり、ジブリールを匿っているのも失念して、オーブを守りオレたちに敵対した・・」

 レイが表情を変えずにシンたちに言いかける。

「事情や理由はどうあれ、今のアスランはオレたちの敵だ。倒すべき敵の1人になってしまった・・」

「レイ!」

 アスランを敵視するレイに、シンが声を荒げる。

「オーブやフリーダムだけでなく、アスランの乗ったジャスティスにも邪魔されたんだぞ・・ヤツらのためにジブリールが逃亡するチャンスを与えることになってしまった・・!」

 レイがシンに向けて警告を告げる。レイの指摘に、シンはいら立つも言葉を詰まらせる。

「宇宙に上がったジブリールは、宇宙にいるロゴスや連合軍と合流しているに違いない。そこで強力な兵器が開発されている可能性は十分にある・・最悪の事態が起こるとすれば、それはオレたちの失態も原因の1つになるということだ・・」

 レイが口にした言葉に、シンもルナマリアも困惑を募らせていく。2人ともこれから起こるかもしれない事態への不安を感じていた。

 

 その頃、タリアはギルバートへ、オーブでの戦闘に関する報告をしていた。

“そうか・・ではそのシャトルにジブリールが・・?”

「確証はありませんが、その可能性は高いです。」

 頷きかけるギルバートに、タリアが答える。

“いずれにしろ、ジブリールは捕らえられず、オーブに敗退したというか?”

「はい・・すみませんでした・・・」

 ギルバートに問い詰められて、タリアが謝る。

「フリーダムとジャスティスの介入により状況が不利となり、戦闘続行は消耗戦になるだけだと判断しました・・」

“そうか・・いや、私もこの判断は適切だったと思う。”

「いえ・・」

“シャトルの件はこちらで調べる。それと、オーブとの対話の場を設けたいと考えている。”

「分かりました。こちらも引き続き周辺の捜索を続けます。」

 ギルバートとの通信を終えたところで、タリアがため息をついた。

「艦長・・・」

「引き続きジブリールの捜索と、艦と機体の修繕と補給を。彼の居場所が分かり次第、発進します。」

 当惑を見せるアーサーに、タリアが告げる。

「それと、議長がオーブに向けて声明を出すわ。オーブも私たちに向けて・・」

 タリアはさらに言いかけて、ギルバートの声明の中継に目を向けた。

 

 ジブリール拘束を目的としたザフトのオーブへの攻撃。それについての声明を、ギルバートは中継で行おうとしていた。

「プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです。先日行われたオーブでの戦闘は、ロゴスのロード・ジブリール逮捕のために行動し、オーブが引き渡しを拒否したために起こったものです。プラントとも親しい関係にあったオーブが、何故彼を匿うという選択をしたのか、今以て理解することはできません。プラントに核を放つことも巨大破壊兵器で街を焼くことも、子供を戦いの道具とするこもと厭わぬ人間を、何故オーブは戦ってまで守るのか。オーブに守られた彼を、我々はまた捕らえることができませんでした。」

 ギルバートがオーブへの非難を口にしていく。

「このままジブリールが逃亡し、世界を破滅へ導く策略が発動されることになれば、彼を逃がした我々はもちろんですが、オーブも責任を果たさなければなりません。」

 自分たちの責任と使命を告げながら、ギルバートはオーブに対して責任の追及をしていった。

 

 ギルバートからの声明を受けて、オーブに滞在していたカガリも声明を送った。オーブの中継はギルバートも見ていて、カガリの声明を聞く姿もプラントや地球に流れた。

「オーブ連合首長国代表首長、カガリ・ユラ・アスハです。先日、ロード・ジブリールの身柄引き渡し要求とともに、我が国に侵攻したプラントの最高評議会議長、ギルバート・デュランダルにメッセージを送りたいと思います。」

 カガリがギルバートに向けての声明を口にする。

「ロゴスのメンバー、ロード・ジブリールを我が国が匿ったために、あの戦闘が行われたものと、我々も重々承知しています。ですがあのような愚かしき返答や言動を行ったのは、一部の人間による独断だったことを、ここに弁明します。」

 カガリはユウナの暴走についても触れる。ユウナとウナトはオーブ軍の兵士に連行され、別々に独房へ入れられた。

「しかしこの事態を引き起こしたのは、我が国をまとめられず、オーブ軍やオーブの民を戦火にさらした私の責任。私の至らなさが招いたことです。この償いは必ず果たしますが、その上でデュランダル氏へ進言させていただきます。」

 カガリが自分の意思と責任を告げつつ、ギルバートに向けての声明を続ける。

「力や戦いによって、戦いを終わらせようとする氏の思想に、我々は賛同しかねます。強い力は争いを呼び、戦いによって勝ち取られた平和も新たな戦いを呼びます。過去の憎しみや悲しみに囚われることなく、対話を経て手を取り合わなければなりません。」

 オーブの中立としての理念を貫こうとするカガリ。迷いや揺らぎのない信念を示す彼女に、オーブ軍の兵士やオーブに住む人々は感嘆を感じていた。

 

 しかしプラントの人々や地球にいる人々の多くは、カガリの言葉に納得していなかった。特にシンは不満を募らせていた。

「アスハ・・まだそんな綺麗事を・・・!」

 カガリの言葉にいら立ちを感じて、シンが両手を握りしめる。

「オーブは我々に攻撃された被害者であると訴えているようだが、ジブリールを匿った事実は消すことはできない。世界中の人々は、あのようなオーブではなく、デュランダル議長を支持するのは目に見えている。」

 レイが無表情のまま、情勢について語る。

「オーブの言葉に惑わされることはない。オレたちはオレたちのすべきことをするだけだ。」

「レイ・・そうだな。戦いのない世界を実現するために、オレたちは戦いを仕掛ける敵を倒す・・・!」

 レイの投げかけた言葉に頷いて、シンが改めて決意を固めた。

 

 カガリのギルバートに向けての声明は続く。その中継を、ギルバートも見届けていた。

「戦いのない平和。それは我々だけでなく、多くの者たちが願っているもの。その思いを忘れず言葉を交わせば、それが実現へと向かうのです。」

 カガリが自分たちの思いを告げていく。

「それは彼女も同じです。」

 彼女は言いかけて、後ろに意識を傾けた。そこから姿を現したのは、同行していたラクスだった。

「私はラクス・クラインです。シーゲル・クラインの娘であり、先の大戦ではアークエンジェルと行動をともにしていました。そして今も・・」

 ラクスが微笑んで自己紹介をしていく。

「アスハ氏の申された通り、私も平和を望む1人です。ですが私は、デュランダル議長の言葉と行動を支持しておりません。」

 ラクスが自分の意思を告げた。

「戦う者は悪くない、戦わない者も悪くない、悪いのは全て戦わせようとする者。この議長の仰ることは正しいのでしょうか?それが真実なのでしょうか?ナチュラルでもない、コーディネイターでもない、悪いのは彼ら、世界、あなたではない誰か・・この議長の言葉の罠に、どうか陥らないでください。」

 世界に向けて自分の意思と注意を呼びかけるラクス。

「無論、私はジブリールを庇う者ではありません。ですが、デュランダル議長を信じる者でもありません・・我々はもっとよく知らねばなりません。デュランダル議長の真の目的を・・」

 ギルバートに対する非難と牽制を示したラクス。彼女の言葉に納得して、カガリも頷いていた。

 

 オーブに現れたラクスに、ギルバートは腑に落ちない気分を感じていた。

「まさかここでラクス・クラインが出てくるとは。しかしオーブの姫とともに現れ、私の非難をするとは・・」

 中継を終えたところで、ギルバートが1つ吐息をついた。

「いかがいたしますか、議長?・・ラクス・クラインはプラントでの支持率は高いです。彼女がオーブに賛同し、我々に反旗を翻すのでは・・」

 議員の1人がギルバートに不安を口にする。

「うろたえることはない。世界は真の平和を望んでいて、その敵であるロゴスに立ち向かう思いが増している。たとえ彼女が我々と違う意思を示したとしても、我々の目指す道が閉ざされることはない。」

 しかしギルバートは動揺を見せることもなく、自分の意思を貫こうとしていた。

 

 オーブでのラクスの登場は、プラントでも地球でも動揺を広げていた。ミネルバの艦内もそれは同じだった。

「驚いた・・まさかあのラクス・クラインが出てくるなんて・・!」

 ルナマリアもラクスの登場に驚きを感じていた。

「ラクス・クラインって、そんなにすごいのか・・?」

「えっ!?ラクスさんを知らないの、シン!?

 シンが疑問符を浮かべて、メイリンがさらに驚く。

「あぁ・・オレがプラントに来たのは、その人がTVとかに出なくなった頃じゃなかったか?」

「そういえば、そうだったわね・・前の大戦が終わった後からね・・」

 シンが言いかけて、ルナマリアが頷く。

「でもそのラクスって人までアスハに、オーブに味方するなんて・・あの人も、結局は綺麗事の人なのか・・・!」

 カガリと行動を共にしているラクスにも不信感を抱くシン。

「シン、プラントの歌姫になんてことを・・!」

「だってそうだろうが・・ずっと姿を見せてなくて、久々に姿を現したと思ったら、アスハのように綺麗事ばかり・・・!」

 メイリンが不満を口にすると、シンもラクスへの不満を口にする。

「戦いを終わらせるには、戦いを引き起こしてるヤツを倒すしかない・・ロゴスだけじゃない・・あのフリーダムも・・・!」

 シンはロゴス、ジブリールだけでなく、フリーダムにも怒りを感じていた。

「アスランは、また出てくるのかな・・・?」

 ルナマリアがアスランのことを気にして、シンが当惑を覚える。

「私、アスランとは戦えない・・アスラン、私たちと一緒に戦ってきたじゃない・・・!」

「しかし今はオレたちの敵になっている。迷いはオレたちの命取りになる。」

 苦悩を深めるルナマリアに、レイが冷静に告げる。

「しかも相手はアスランだ。油断しなくても確実に勝てるという確証はない。」

「それでも勝つ・・たとえアスランがオレたちの邪魔をしてきても、オーブやフリーダムの味方をしてきても・・・!」

 忠告するレイに、シンが自分の意思を口にする。シンは迷いを振り切ろうとして、感情が顔や握りしめる手に現れていた。

「シン、焦りは禁物だ。冷静に相手の動きを読めば、たとえフリーダムやジャスティスでも、お前が対処できない相手ではない。」

「レイ・・さっきの戦いは悪かった・・アスランとあんな形で再会して、動揺してしまって・・・」

 なだめるレイにシンが謝る。

「過ぎたことを気にしても仕方がない。問題はアークエンジェルと、ジブリールの動向に備えることだ・・」

「あぁ・・今度こそ、ジブリールを討つ・・オーブやアークエンジェルにも、邪魔はさせない・・・!」

 レイが投げかけた言葉に頷いて、シンが頷いた。彼はアスランやラクスにも惑わされないと心に誓っていた。

 

 ジブリールが宇宙に上がった可能性があるという知らせは、宇宙にいるザフトの部隊にも伝わっていた。イザークの指揮するジュール隊にも。

「地球にいる連中は何をやっているんだ・・ジブリールを拘束できないとは・・!」

 イザークが地球上のザフトに対する不満を口にする。

「オーブもオーブだ!ジブリールを匿うとは!」

「けど久々にオーブのホントの代表が戻ってきたんだ。少しはまともになるんじゃないか?」

 いら立ちを募らせる彼を、ディアッカがなだめる。

「軽口を叩くな!それより、オレたちのやることは、このコロニーの解析と停止だ・・!」

 イザークがディアッカに怒鳴って、眼前に視線を戻す。彼らの操縦するグフやザクたちの進行する先には、1つの巨大なコロニーがあった。

 筒状の巨大な廃棄コロニーのはずである。だがこのコロニーは動いていた。それもコロニーに設備されていたスラスターによって。

「あんなに用意周到にしていて、自然に動いているとは思えないな・・」

「まずはアレを止めるぞ。何かあるのは間違いないからな・・!」

 ディアッカがため息まじりに言って、イザークが呼びかける。グフたちがコロニーを止めようと接近していく。

「スラスターを見つけて破壊しろ!調査はその後だ!」

「了解!」

 イザークが指示を出し、ジュール隊のパイロットたちが答える。グフとザクたちがコロニーに近づき、スラスターを見つけてその1つを破壊したときだった。

 グフたちに向かってウィンダムたちが近づいてきて、ビームやミサイルを発射してきた。

「あれは連合の!コイツはヤツらのものか!」

 イザークが毒づき、グフたちが迎撃に出る。グフのビームガンやザクのビームライフルから放たれたビーム、ウィンダムたちが胴体を貫かれた。

「このコロニー、連合のもののようだ・・!」

「すぐにコロニーを分解しろ!破壊しても構わん!」

 ディアッカが毒づき、イザークがさらに呼びかける。2人は連合やロゴスが何らかの企みをしていることを、悪い事態とともに予感していた。

 

 オーブからの脱出に成功したジブリール。彼を乗せたシャトルは、月にある基地「ダイダロス」に到着した。

「お待ちしておりました、ジブリール様・・!」

 ダイダロスの司令官がジブリールに頭を下げた。

「“レクイエム”の発射準備は?」

「命令を受けてすぐ、発射体勢を整え、現在エネルギーチャージは75%に達しています。」

 ジブリールが問いかけて、司令官が状況を報告する。ダイダロスでは巨大な機械の起動と発射の準備を行っていた。

「1つお聞きしますが、本当にコレを使ってもよろしいのですか?」

「当然だ!そのために私はここへ来たのだからな!」

 司令官が疑問を投げかけて、ジブリールが強気に答える。

「まさか不服ではあるまいな・・!?

「まさか。むしろ感謝しています。我々もここで働いた甲斐があるというものです。」

 問いかけるジブリールに、司令官が苦笑をこぼして答える。

「最近は必要だと巨額を投じて作っておきながら、肝心なときに撃てないという優しい政治家が多いものでね・・それでは我々軍人は一体何なのかと、つい思ってしまうのですよ・・」

「余計な心配だな。私はそいつのような臆病者でも、デュランダルのような夢想家でもない。撃つべきときには撃つ。この世界のためならばな。」

 苦言を呈する司令官に、ジブリールが揺るぎない意思を示す。

「それで、攻撃目標は?」

「プラント首都“アプリリウスだ。これは警告ではない。攻撃だ!」

 司令官が問いかけて、ジブリールが憎悪を込めて言い放つ。

「発射準備完了!目標、アプリリウス!」

 オペレーターがジブリールたちに報告をする。

「よし!トリガーを回せ!」

 司令官が呼びかけて、ギルバートの手に兵器の発射トリガーが握られた。

「さぁ、奏でてやろう、デュランダル!お前たちのレクイエムを!」

 ギルバートたちコーディネイターへの憎悪を込めて、ジブリールがトリガーのスイッチを押した。ダイダロスに設備されている兵器「レクイエム」の発射口から、巨大な閃光が放たれた。

 レクイエムからの閃光は、飛んでいく先にある筒状のコロニーを通ることで方向を変えた。コロニーは複数存在し、移動によって閃光の角度調整を行っていた。

 

“接近するエネルギーあり!巨大なビームです!”

 宇宙に放たれたビームの情報は、すぐにイザークたちに伝えられた。

「まさか、あのコロニーは、ビームの・・!?

「早くコロニーを破壊しなければ!」

 ジュール隊のパイロットが、コロニーを破壊しようと試みる。

「離れろ!ビームが飛んでくるぞ!」

 ディアッカが呼びかけるが、コロニーを止めようとしたザクとグフ数機が、回避が間に合わずにビームにのみ込まれて消えた。

「お前ら!」

「あっ・・!」

 ディアッカが叫び、イザークが目を見開く。ビームはコロニーの中を通って方向を変えて、プラントに命中した。

 ビームはプラントのコロニー「ヤヌアリウス」の1と4に直撃。2つがコロニー「ディセンベル7」に衝突した。コロニーの破壊と衝突に巻き込まれただけでなく、壁が破壊されて空気が外へ洩れ、宇宙に投げされた人々も多数出た。

 プラントを襲った襲撃と悲劇を目の当たりにして、イザークもディアッカも言葉を失くしていた。

 

 

次回予告

 

打ち砕かれた日常。

守れなかった者たち。

この悲劇を繰り返してはならない。

そのために、敵は必ず討たねばならない。

守るだけでは、何も救えない。

 

次回・「月面決戦」

 

平和の敵を討て、ミネルバ!

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system