GUNDAM WAR
-Destiny of
Shinn-
PHASE-29「ルナマリア」
シンのデスティニーの出撃で窮地を脱したミネルバ。ロゴスの部隊を一掃し、ヘブンズベースを制圧したザフトだが、ジブリールを見つけることはできなかった。
別部隊の捜索隊にジブリールの捜索を任せることとなり、ミネルバはジブラルタルに戻ることになった。
デスティニー、レジェンド、インパルスが収容されたミネルバのドックでシン、レイ、ルナマリアがヨウラン、ヴィーノたちから称賛を受けていた。
「すごい!すごいよ、シン!」
「デスティニーにいきなり初めて乗ったのに、あんなにすごい戦いをするなんて・・!」
ヴィーノとヨウランがシンに対して、感動と驚きの声を上げる。
「ヨウランたちがいつでも出せるように整備してくれたからだ・・そうじゃなかったら、オレは出撃できなかった・・」
シンが微笑んで、ヨウランたちへの感謝を口にした。
「それに、ルナとレイが戦ってくれなかったら、オレは間に合わなかった・・・」
「シン・・・」
シンが投げかけた言葉を受けて、ルナマリアが戸惑いを覚える。
「オレたちはオレたちのやるべきことをやっただけだ。シン、お前もな。」
「レイ・・」
レイが言いかけて、シンが戸惑いを見せる。
「オレたちはこれからも戦うんだ・・戦争を終わらせるために、議長の描く平和を実現させるために・・」
「あぁ・・オレたちがやるんだ・・あの新しい力で・・・!」
レイの言葉を受けて、シンが真剣な面持ちで答えた。
その直後、シンが突然ふらついて、ヨウランとヴィーノが慌てて支えた。
「お、おい、シン!」
「まだ完全に回復してなかったんだ・・早く医務室に・・!」
ヴィーノが叫んで、ヨウランが呼びかける。2人がシンを連れて医務室へ向かう。
「あんな状態だったのに、戦っていたなんて・・・!」
ルナマリアがシンのことを考えて困惑する。
「私がもっとうまく戦っていたら、シンに負担を掛けないで済んだのに・・」
「自分を責めるな、ルナマリア。シンも言っていただろう。お前がいなければ、オレたちもミネルバも勝てなかった。シンも助からなかった・・」
落ち込むルナマリアに、レイが言いかける。
「シンだけじゃない。お前の力も確実に上がっている・・お前も、戦いのない世界を実現する1人だ。」
「レイ・・そう言ってもらえると嬉しいわ・・」
レイから励まされて、ルナマリアが落ち着きを取り戻していく。
「オレたちも今のうちに休んでおこう。捜索隊が、すぐにジブリールを見つけるはずだ・・」
「そうね・・シンが完全に回復するまで、また私たちが戦わないと・・・」
レイの呼びかけに答えて、ルナマリアがドックを後にした。
(ルナマリア・・・お前、シンのことを・・・)
ルナマリアがシンに思い入れをしているものだと、レイは考えていた。
ジブラルタルの基地で現状の把握と各地への指示を行っていたギルバート。彼の耳に、ヘブンズベースの制圧とジブリールが逃げられてしまったことも伝わった。
「そうか・・ジブリールには逃げられたか・・・」
「引き続き捜索隊が行方を追っています。各基地にも捜索を要請しています。」
呟きかけるギルバートに、オペレーターの1人が報告する。
「ミネルバが帰還したら、すぐに修繕と補給を行ってくれ。次の発進まで、グラディス艦長たちには休養を取ってもらおう。」
「了解。そのように艦長に通達いたします。」
ギルバートが言いかけて、オペレーターがミネルバに向けて連絡を送った。
(これでロゴスはジブリールのみとなった・・だが、この最後の詰めが、1番の難関になるかもしれないな・・)
ギルバートが心の中で、機体とともに警戒心を強めていた。追い詰められたジブリールは何をするか分からないと、ギルバートは考えていた。
ヘブンズベースの制圧のニュースは、アークエンジェルにも伝わっていた。
「ザフトがロゴスを拘束したのね・・でも、ジブリールだけが逃亡している・・どこにいる可能性が・・・」
マリューがザフトやジブリールの動向について考える。
「地球連合はオーブと同盟を結んでいる。連合を動かしていたジブリールが・・」
「まさか、ヤツがオーブに入るというのか・・!?」
キラが冷静に現状を告げて、カガリが声を荒げる。
「ますます、私たちがオーブに向かわなければならなくなったわね・・・」
「でも、僕にはフリーダムがない・・他の強い力もない・・・僕たちには、ロゴスやザフトから、オーブを守れない・・・」
マリューが深刻さを募らせ、キラが自分たちの無力を痛感する。
「それでもオーブに戻らなければ・・ここで何もせずにじっとしているくらいなら、丸腰でも行かなければ・・・!」
オーブのために命懸けになろうとするカガリ。マリューも彼女の決意に賛同していた。
そのとき、アークエンジェルに連絡が入った。
「ラクスさんからだわ・・キラくんによ・・」
「えっ・・・!?」
マリューが呼びかけて、キラが戸惑いを見せる。
「新しい機体の導入・・動けないのでキラくんをよこしてほしいと・・・」
「僕が・・・周りを警戒して、ラクスたちは大きく動けないんだ・・・」
マリューが送られた文章を読んで、キラが言いかける。
「マリューさん、シャトルは出せますか?」
「小型なら出せるわ・・ラクスさんたちのところへ行くのね・・・」
キラが問いかけて、マリューが答えて微笑みかける。
「バルトフェルド隊長にも知らせておくわ。回収してもらうようにね。」
「ありがとうございます。行ってきます。」
マリューの言葉を受けて、キラも微笑んで頷いた。
「カガリ、行ってくる・・アスランのことを頼む・・」
「もちろんだ。オーブのこともな・・」
キラが言いかけて、カガリが真剣な面持ちを浮かべて頷いた。キラはラクスたちのいる戦艦「エターナル」へ向かうため、ドックへ行った。
キラが乗ったシャトルを医務室の窓から見て、アスランが当惑を覚える。その少し後に、カガリが医務室に入ってきた。
「カガリ、今のは・・・?」
「キラだ。ラクスから連絡を受けて、エターナルへ・・」
アスランが聞いて、カガリがキラのことを話した。
「ラクスたちに何かあったのか・・・!?」
「いや、新しい機体が入ったって・・」
「新しい機体・・・ラクス・・キラ・・・」
カガリからの話を聞いて、アスランが深刻さを覚える。彼はキラとラクスたちの言動に対する疑念を拭えずにいた。
「2人が、いや、ラミアス艦長やバルトフェルド隊長たちが何のために、どのような戦いをしているのか、オレは納得できていない・・戦いを止めようとするなら、そのためにどうすればいいのか、キラたちはちゃんと考えなくちゃならない・・」
「アスランは、何のために戦い、どういう戦いをしようと考えているんだ?・・まだ、オーブと戦おうとしているのか・・!?」
キラたちへの不満を口にするアスランに、カガリが問いかける。
「プラントは戦いを終わらせる戦いをしている。デュランダル議長の理念もそうだと思っている。オーブとも信念を同じにして、力を合わせられると思っていた・・」
アスランが自分の考えを口にする。その言葉には、未だに苦悩が続いていることが込められていた。
「オレは今でもザフトの一員だと思っている・・しかし、もしもザフトとオーブが戦うことになったら・・・」
アスランは迷いを振り切ろうとして、少し間を開けてから答えた。
「ザフトを止めて撤退させる・・オーブはもう、連合ともロゴスとも手を切っている・・少なくとも君と、ここにいるムラサメ隊は・・」
「アスラン・・・あぁ・・今度こそ、オーブ軍に毅然とした態度を示すつもりだ・・ユウナたちの暴挙も、私が止める・・・!」
アスランの言葉を聞いて、カガリも今の自分の決意を告げた。
(シンは日に日に強くなっている・・ミネルバを中心に、ザフトはロゴスを追い込んでいる・・そのシンたちが、オーブにも矛先を向けてきたなら・・・)
アスランはシンたちのことを考えて、彼らに対する不安を感じていた。
ザフトがヘブンズベースを制圧してから一夜が経った。体の疲労で休息を取っていたシンが目を覚まして、医務室を出た。
「シン、大丈夫なの・・・?」
その廊下にルナマリアが来て、シンに声を掛けてきた。
「ルナ・・オレは大丈夫だ・・この後に検査を受けることになるだろうけど・・」
シンが答えて、ルナマリアが安心して微笑んだ。
「ゴメン、ルナ・・君やレイが必死に戦ってたのに、出てくるのが遅れて・・・」
シンが辛さを噛みしめて、ルナマリアに謝る。
「ううん・・いつもシンが私たちを助けてくれた・・だから、シンが大変なときに、力になりたいと思って・・・」
ルナマリアが微笑んで、シンへの感謝を口にした。
「でも、結局はまたシンに助けられた・・私、やっぱりまだまだだよね・・・」
「そんなことない・・むしろ今回は、オレはルナに助けられた・・ルナがいなかったら、今のオレたちはなかった・・」
物悲しい笑みを浮かべるルナマリアに、シンが感謝する。
「オレはこれからも戦い続ける・・戦いのない世界を実現するために・・大切なものを守るために・・・」
シンがこれからのことへの決意を口にする。
両親とマユ、ハイネ。家族や上官と、大切な人を失ったシン。ステラは救い出せたものの、大切な人を失う悲しみと失いたくないという願いを、彼は膨らませていた。
「その大切なものの中に、私も入っているの・・・?」
ルナマリアが戸惑いを感じながら、シンに問いかける。
「もちろんだ・・オレを守ろうとしているルナも、オレは守りたい・・・!」
シンが頷いて、正直に答えた。彼の言葉にルナマリアが戸惑いを浮かべる。
「シン・・・!」
ルナマリアが心を揺さぶられて、思わずシンに寄り添った。シンも突き動かされて、彼女を優しく抱きしめた。
「一緒にやろう、シン・・私も、戦いのない世界のために立ち向かうよ・・ハイネと、アスランのためにも・・・!」
「ルナ・・ありがとう・・立ち向かって、そろって生きて戻ろう・・・!」
呼びかけるルナマリアに、シンが感謝した。2人は抱擁を交わして、互いの絆を深めた。
守りたい、失いたくない、傷つきたくない。その思いと願いが、シンとルナマリアの心をより強く結びつけていた。
その後の検査を受けて、シンは激しい運動や任務に支障はないと判断された。体調の戻った彼を、ヨウランとヴィーノは改めて歓迎していた。
「シン、もう大丈夫なんだな・・!?」
「お前がフリーダムとの戦いの後に倒れてからはヒヤヒヤもんだったぞ・・」
ヴィーノとヨウランがシンに心配の声を掛ける。
「あぁ。これでちゃんと戦える。」
シンが真剣な面持ちで答える。その彼の前にアーサーもやってきた。
「オレはもう大丈夫です。ご心配をおかけしました・・」
シンが言いかけて、アーサーに敬礼をした。
「私も艦長も心配していたぞ・・ムチャしすぎるのも大概にしないとな・・」
アーサーがため息まじりにシンに言いかける。
「シン、デュランダル議長がお待ちだ。行くぞ。」
「議長が・・あぁ・・」
レイが呼びかけて、シンが答える。彼らはギルバートとタリアたちのところへ向かった。
「シン、全快おめでとう。無事で何よりだよ。」
ギルバートがシンをあたたかく迎えて、拍手を送る。
「それに、ヘブンズベースでの戦い、本当にすごかった。万全でない状態で、あそこまで戦い抜けたとは・・」
「いえ、デスティニーの力のおかげです。それに、レイやルナ、ミネルバがいなかったら、自分もあそこまで戦えなかったです・・」
称賛を送るギルバートに、シンがルナマリアたちへの感謝を口にした。
「そのミネルバ、そしてザフトを救ったのは他ならない君だ。その力は称えられて然るべきだ。」
「ヘブンズベース戦での功績を称え、シン・アスカにネビュラ勲章を授与するものとする。おめでとう。」
ギルバートに続いて将校が言いかけて、シンに勲章を差し出した。
「あ、ありがとうございます・・・!」
シンは戸惑いを見せながら、勲章を受け取った。彼をギルバートだけでなく、周りにいた議員たちも拍手を送った。
「ヘブンズベース戦だけでなく、シンとレイは戦闘能力だけでなく、互いに的確な指示を出す指揮能力も高まってる。その点も評価して、2人にこれを渡しておく。」
ギルバートがさらに告げて、シンたちにバッヂを差し出した。それはフェイスのバッヂだった。
「議長・・・!」
シンがフェイスのバッヂを見て、動揺を膨らませる。タリアも驚きを感じながらも、表に出さないようにしていた。
「議長がそこまで評価してくれたことは嬉しいです・・しかしいくらなんでも、フェイスまでとは・・・」
シンがギルバートからの配慮に戸惑いを募らせていく。
「いや、君たちの強さはフェイスに値するまでに飛躍している。我々はそう判断している。」
「議長・・・」
「これは我々が君たちの力を頼みとしている、ということの証だ。どうかそれを誇りとし、今この瞬間を裏切ることなく、今後もその力を尽くしてほしい。」
ギルバートから励まされて、シンは自分の力が確かなものであると感じるようになった。
「ありがとうございます、デュランダル議長・・オレ、これからも頑張ります!」
シンがギルバートに感謝して、フェイスのバッヂを受け取った。
「自分も、ベストを尽くします。」
レイもバッヂを受け取って、シンとともに敬礼をした。
「これから君たちはフェイスの一員となったわけだが、ミネルバのクルーでもある。別命があるまでは、グラディス艦長の指示に従うように。」
「はい。」
ギルバートが続けて告げて、シンとレイが答えた。ギルバートに気遣われる形となったタリアだが、彼のシンたちに対する処遇に納得していなかった。
ギルバートたちの前を後にしたシンたち。フェイスになったシンとレイに、ルナマリアは感嘆も嫉妬もこもった感情を抱いていた。
「ホントにすごいよね、シンとレイ・・まさかフェイスにまでなっちゃうなんて・・・」
「オレもそこまでとは思ってなかった・・いくらデスティニーを乗りこなせたからって・・・」
声を掛けるルナマリアに、シンがまた戸惑いを見せる。
「謙遜しなくていい。シンの強さが本物であることを、議長が認めたんだ。自信を持っていい。」
レイが冷静にシンに告げる。
「私だけ遅れてる・・まだまだなのかな・・」
「ルナマリアも力が上がっている。このまま精進していけば、時期にフェイスになれるはずだ。」
落ち込むルナマリアに、レイが口調を変えずに言いかける。
「そうだ、ルナ。ルナも強くなってるのは、オレもレイも、みんな認めてることなんだから・・」
「ありがとう、シン、レイ・・」
シンも励ましを送って、ルナマリアが微笑んで感謝した。
その頃、腑に落ちないでいるタリアに、ギルバートが歩み寄ってきた。
「シンとレイをフェイスとしたこと、何か一言あると覚悟していたんだがね・・」
「そのことも含めて、迂闊に言えることでもないので黙ってるんです。お察し願います・・」
声を掛けるギルバートに、タリアが表情を変えずに言い返す。彼女の言葉に不満が込められていることを察して、ギルバートが複雑な気分を覚える。
「シンたちのこと、これからも頼む・・」
「もちろん、そのつもりです・・」
ギルバートが言いかけて、タリアが小さく頷いた。彼女が彼の前から去ろうとしたときだった。
「議長、カーペンタリアからの報告です。」
1人の兵士がやってきて、ギルバートに報告してきた。
「ロード・ジブリールの所在が分かりました。」
「何っ?・・場所は?」
「オーブです。」
兵士からの報告を聞いて、ギルバートが目つきを鋭くした。
次回予告
討つべきはジブリール。
世界の敵を庇うオーブもまた、世界の敵に回ったのだろうか?
国、理念、信念。
大切なものを守るため、カガリが立つ。
中立の空へ、輝け、アカツキ!