GUNDAM WAR

-Destiny of Shinn-

PHASE-22「示される道」

 

 

 アークエンジェルの医務室で体を休めていたアスラン。しかしキラたちの言動に納得できず、アスランの気の休まらない時間は続いていた。

 キラが医務室に来て、アスランに目を向けた。

「アスラン・・これでまた、君と話せるね・・・」

「キラ・・・」

 声を掛けてきたキラに、アスランが不信感を覚える。

「お前はオレの話をきちんと聞いてはくれない・・お前はお前自身の考えを貫くことしか考えていない・・」

「アスラン・・今度こそ、アスランの言うことをちゃんと聞ければと思っている・・君の言葉、さっきの戦いのときに響いてきたよ・・」

 不満を口にするアスランに、キラが今の自分の思いを口にする。

「もしも君の言葉を聞いていなかったら、あのザフトのモビルスーツのパイロットの意思を聞いていなかったら、僕は、あの黒い機体のパイロットを傷付けてしまったかもしれない・・」

「キラ・・お前・・・!」

 キラの心境を聞いて、アスランが戸惑いを覚える。

「戦いを止める・・それで誰も死なせないようにする・・それは、僕が直接手を掛けないようにするだけじゃダメなんだ・・」

「キラ・・お前が綺麗事を押し付けようとしたために、ザフトは被害を増やして、ハイネは・・・!」

 自分に言い聞かせようとするキラに、アスランがさらに不満を告げる。

「戦いを止めようというなら、ただ戦闘を止めればいいってわけじゃない・・戦いを引き起こす元凶を叩かなければならない・・!」

「その元凶は地球軍なの?・・もしかしたら、ザフトの、プラントのほうかもしれない・・」

「キラ・・お前、本気で言っているのか・・・!?

「あのラウ・ル・クルーゼも、全てを壊そうとしていた・・そういう人が、ザフトに確実にいないとは言えない・・」

 キラが口にする言葉を聞いて、アスランが彼に対する不信感をさらに膨らませていった。

「キラ、お前がその戦い方と考え方を改めない限り、オレはお前たちを味方だとは思わない・・・」

「アスラン・・・」

 和解しようとしないアスランに、キラは辛さを覚える。かける言葉が見つからず、キラは医務室を後にした。

(どうして、こんなことになってしまったんだろう・・アスランのことも、分からなくなってしまった・・・)

 アスランとすれ違うばかりになってしまったことに、キラが苦悩を深める。

“こんな戦いを続けても、戦いは終わらない・・お前に恨みを持つ者や、お前を倒そうとする者が出てくることになる・・・!”

 彼の脳裏にまたアスランの言葉がよぎり、重くのしかかる。

(僕がみんなにとっての、戦いを引き起こす元凶になってしまったんだろうか・・・)

 自分が悪者となってしまったのではないかとも考えてしまい、キラは迷いを膨らませていた。

 

 応急措置を受けることになったステラと、彼女のことを心配しているシン。2人のことを気にして、ルナマリアも不安を感じていた。

 気持ちの整理がつかないまま、ルナマリアはシンとレイの部屋を訪れた。

「シン、レイ、いる・・?」

 ルナマリアが声を掛けて、部屋のドアを開ける。部屋の中ではシンがシュミレーション練習を続けていた。

「2人とも、シュミレーションを続けてたの・・相手、フリーダムじゃない・・!」

 ルナマリアがシュミレーション映像の中のフリーダムを見て、緊張を覚える。

「フリーダムの対策を立てておかなければ・・このままやられるばかりというわけにはいかないから。」

 レイが映像に目を向けたまま、ルナマリアに答える。

「でもフリーダム、ホントにとんでもないよね・・動きも攻撃力も反応も、今まで出てきたモビルスーツの中で1番かも・・」

 ルナマリアがフリーダムのことを思い出して、滅入って肩を落とす。

「そうだ・・フリーダムはインパルスより性能が上なんだ・・それをここまで動かせるなんて、そのパイロットもレベルが高いってことだ・・!」

 シンがフリーダムとそのパイロットの強さを痛感して毒づく。

「だがシン、お前も強いし、まだまだ強くなりそうだ。フリーダムに敵わないことはない。」

 レイが冷静にシンに励ましを送る。

「そうは言うけど、オレ自身が強くなっても、機体までは・・」

 インパルスに乗っている限りフリーダムに勝てる可能性は低いと思い、シンが毒づく。

(ハイネの言っていた、プラントで開発中の新しい機体に頼るしかないのか・・!?

 ハイネのことを思い出して、シンは焦りを膨らませていく。

「せめて弱点でも分かれば、何とかなると思うんだけどなぁ・・狙いどころとか癖とか・・」

 ルナマリアが考えを巡らせて呟く。

「あのなぁ・・そんなのが分かれば苦労しないって・・・」

 呆れてため息をつくシン。そのとき、レイはルナマリアの言葉を受けて、フリーダムの戦い方を注視する。

「あるかもしれないぞ・・フリーダムの弱点・・」

「えっ!?

 レイが口にした言葉を聞いて、シンとルナマリアが驚きの声を上げた。

 

 デストロイによる攻撃は、地球上の各地域に甚大な被害をもたらした。タリアとアーサーもこの事態を重く捉えていた。

「これだけの被害・・地球連合・・とんでもないことを・・・!」

「早く連合の本拠地を叩く必要があるわ・・あの怪物のような機体をまた出されたら手に負えなくなるわ・・」

 アーサーが憤りを感じて、タリアが現状からの危機感を噛みしめる。

「問題はそれだけじゃないわ。シンが運んできた連合のパイロット・・」

 タリアがステラのことを気に掛ける。

「このことはザフトの他の部隊に知られる前に、デュランダル議長に報告する必要があるわ。余計な混乱をこれ以上増やすのはよくないから・・」

「はい・・シンの申し出も報告するのですか?彼女を死なせないようにしてほしいという・・」

「もちろんよ。連合のパイロットである彼女を快く迎え入れるというのは、難しいでしょうけど・・」

 アーサーの質問に答えて、タリアがステラのこれからを推測する。

「報告をして、議長からの判断を仰ぐことになるわよ。」

 タリアが言いかけて、ギルバートのいるプラント最高評議会へ連絡を取ろうとした。

「デュランダル議長が、プラントから緊急メッセージを発信しています!」

 そのとき、メイリンがタリアたちへ報告をしてきた。

「あらゆるメディアを通して、全世界へ向けられています!」

「艦内に流して。各員、可能な限り聞くように。」

 言いかけるメイリンに、タリアが呼びかける。ミネルバ艦内にギルバートのメッセージが流された。

 

 デストロイによる破壊行為に関する報告を聞いたギルバート。彼はプラントから各地へ放送を流した。

「私はプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルです。我らプラントと地球の方々との戦争状態が解決していない中、突然このようなメッセージをお送りすることをお許しください。ですがどうか聞いていただきたいのです。」

 ギルバートが真剣な面持ちで状況と意志を告げる。

「ご覧いただきたい。この巨大兵器が、今回の甚大な被害をもたらした根源です。」

 放送に映像が映し出された。デストロイの攻撃とインパルスとの戦闘である。

「この兵器は何の勧告もなしに突如攻撃を始め、逃げる間もない住民ごと3都市を焼き払い、なおも侵攻しました。我々はすぐさまこれの阻止と防衛戦を行いましたが、残念ながら多くの犠牲を出す結果となりました。侵攻したのは地球軍。されたのは地球の都市です。ザフトの支配からの地域の解放だと連合は申していますが、これが解放なのでしょうか?住民を都市ごと焼き払うことが、果たして解放と言えるのでしょうか?確かに我々の軍は連合のやり方に異を唱え、その同盟国であるユーラシアからの分離、独立を果たそうとする人々を人道的な立場からも支援してきました。こんな得るもののないただ戦うばかりの日々に終わりを告げ、自分たちの平和な暮らしを取り戻したいと。」

 映像に戦場や惨状も映し出される。悲惨な光景が世界中にも伝えられていく。

「我々と手を取り合い憎しみで討ち合う世界よりも、対話による平和への道を選ぼうとしたユーラシアの人々を、連合は裏切りとして有無を言わさず焼き払ったのです!子供や老人までも、連合は無慈悲に命を奪ったのです!」

 語りかけるギルバートの語気が強まり、感情が込められていく。

「戦いのない真の平和。それは世界に生きる者全ての人々の願いであるはずでした。それなのに、それを邪魔しようとする者がいるのです!それも古の昔から、自分たちの利益のために戦えと!このユーラシアの惨劇も、彼らの仕業であることは明らかです!」

 ギルバートがさらに感情を込めて呼びかけていく。

「間違った危険な存在とコーディネイター忌み嫌うあのブルーコスモスも、彼らが指揮を取っている集団なのです。常に世界に戦争をもたらそうとする死の商人“ロゴス!彼らこそが、平和を望む私たち全ての、真の敵です!」

 ロゴスの存在を世界に公にしたギルバート。

「私が心から願うのは、2度と戦争など起きない平和な世界です!よってそれを脅かす世界の真の敵、ロゴスを倒すことを。私はここに宣言します!」

 ロゴス打倒を宣言したギルバート。彼の発言は、連合の攻撃で荒んでいた人々の心を支える原動力となっていた。

 

 ギルバートのこの宣言は、プラント、地球各地に伝えられた。彼の言葉に、不安に襲われていた人々を突き動かしていた。

 地球上の惨劇を引き起こした張本人がロゴスであることを聞かされて、人々はロゴスに対する不満と敵意、そしてギルバートへの賞賛と支持を抱いた。

 ギルバートに存在を公にされ、人々からも矛先を向けられることになったジブリールたちロゴスの面々。世界の裏でコーディネイター殲滅を画策していた彼らだが、緊迫と危機感を隠せなくなっていた。

“これはどういうことだ、ジブリール!?

“これでは我らは世界を敵に回すことになってしまったぞ!”

“なぜ我々のことが知られてしまったのだ!?

 ロゴスのメンバーが動揺をあらわにして声を荒げる。

「おのれ、デュランダル・・我々を陥れるとは・・!」

 ジブリールもギルバートの言動にいら立ちを募らせていく。

「すぐに移動するぞ!我らにいるこの場所はもちろん、ロゴスに関わりのある場所にも襲撃が及ぶことになる!」

 自分たちの立場が悪化の一途を辿ると予感したジブリールが、慌ただしく移動を始めた。

(我々にこのような恥辱を与えるとは・・デュランダルめ、許さんぞ!・・このまま終わりはせんぞ・・最後に勝つのは我々だ・・!)

 ジブリールがデュランダルへの憎悪を募らせて、コーディネイターを攻め立てる次の手を企んでいた。

 

 ギルバートの放送は、シンたちも視聴していた。ロゴスの存在を知り、シンもルナマリアも動揺を隠せなかった。

「ロゴス・・コイツらが地球軍を動かしていた張本人・・ステラを戦わせたヤツら・・・!」

 シンもロゴスへの怒りを募らせていく。死を恐れるステラを死ぬような場所に送ったロゴスを、彼は許せなかった。

「レイ、落ち着いてるわね・・もしかして、あなたはロゴスのことを知ってたの?」

 ルナマリアがレイに目を向けて、疑問を投げかける。

「いや、ロゴスについては初めて聞いた。議長は余計な混乱を避けるために、オレたちにも明かさなかったのだろうが、連合の攻撃を重く見て、公にすることを決めたのだろう。」

「そうか・・議長は世界のみんなの不安を和らげようとして・・」

 レイの答えを聞いて、ルナマリアが納得する。

「ロゴスを倒すためにも、オレは強くならないといけないのに・・」

 決意を新たにするシンだが、力への渇望とどうすれば強くなれるのかという苦悩に囚われる。

「焦るな、シン。やっとフリーダムを倒す勝機を見つけたばかりだ。あとはシュミレーションを重ねるだけだ。」

 レイが冷静にシンを励ます。

「ありがとう、レイ・・戦わなくちゃならないんだ・・そのために、オレが強くならなくちゃいけないんだ・・・!」

 シンがレイに感謝して、自分に言い聞かせるように決意を口にする。

(シン・・・)

 さらに強くなろうとするシンに、ルナマリアは戸惑いを感じていく。

(あたしも強くならなくちゃ・・シンに頼ってばかりじゃダメ・・シンにばかり負担をかけるわけにいかない・・あたしだって・・・!)

 ルナマリアも決意を固めて、シンとレイのそばを離れた。彼女もシンに置いていかれないよう、強くなろうと考えていた。

 

 ギルバートの宣言を、キラたちも聞いていた。ギルバートの発言で世界が混乱に向かうと予感して、カガリもアスランも動揺を隠せなくなっていた。

「これは、とんでもないことになったぞ・・・!」

「あぁ・・世界中がロゴスを排除しようと突き動かされていく・・各地で暴動が起こるのも目に見えている・・・!」

 カガリとアスランがこれから起こる事態を予感して、不安を募らせる。

「このような報道をすれば過激な事態になることは、議長も分かっているはず・・まさか、こうなることを分かって・・・!?

 ギルバートに対する疑念を抱くようになるアスラン。彼の中にある正義と信念が、ここで揺らぎ始めていた。

 

 ギルバートの報道に、タリアたちも動揺を感じずにはいられなかった。世界の情勢を深刻に考えるも、タリアは冷静に努めようとしていた。

 タリアはギルバートに連絡を入れて、ステラの件を報告した。

“突然のことで驚いていると思う。すまなかった。”

「いえ。そのようには思っては・・それよりも、ご報告があります。」

 謝意を示すギルバートに答えて、タリアがステラのことを伝えた。

“地球軍のパイロット。それもパイロット、戦士とするべく調整した子供か・・シンがその子をミネルバに連れ込んでくるとは・・”

「艦内でも動揺が広がっています。シンは彼女を助けてほしいと進言しています。ですが、連合の人間を迎え入れることは、ザフト内の混乱につながることに・・」

 事情とシンの行為を聞いて呟くギルバートと、不安を口にするタリア。

「医務官からの報告ですと、彼女は複数の種類の薬を投与されています。特に特定の安定剤を定期的に投与しないと精神が不安定になるとのことです。本艦では応急措置も万全にできません・・」

“そうか・・分かった。彼女の治療はこちらで行おう。プラントのほうで私が手配しよう。”

「よろしいのですか!?彼女は連合の・・!」

“彼女は言われるままに戦いに駆り出されていたに過ぎない。討つべきはその根源であるロゴスのほうだ。”

 驚きを覚えるタリアに、ギルバートが冷静に告げる。

“私も1度地球へ向かう。そのときにその子を保護しよう。”

「ご厚意に感謝します。そしてお手数をおかけします。」

 ギルバートの言葉を受けて、タリアが謝意を示す。

“それともう1つ、ザフトに指令を出す。”

 ギルバートが笑みを消して、タリアに告げる。

“戦闘への乱入を繰り返すアークエンジェル、およびそれに属する、フリーダムを始めとした武力の討伐をしてもらいたい。”

 ギルバートから出された命令に、タリアが動揺を覚える。アークエンジェル、フリーダムの撃墜命令が正式に下された。

 

 

次回予告

 

混迷の渦中の大天使の討伐。

信念、感情、使命感が戦場で入り乱れる。

シンとキラ。

2人の戦士の力と意思が、強くぶつかり合う。

 

次回・「衝動と自由」

 

感情のままに立ち向かえ、インパルス!

 

 

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