GUNDAM WAR
-Destiny of
Shinn-
PHASE-21「ステラ」
デストロイを動かしていたのはステラだった。そのことを知ったシンが、驚愕を隠せなくなっていた。
ステラに向けてひたすら呼びかけるシン。デストロイと対峙するインパルスが、完全にスピードを落としていた。
その様子と異変を、ミネルバにいたレイとルナマリアも見ていた。
「シン、どうしたの!?どこかやられたの!?」
ルナマリアが声を上げて、レイが冷静のまま戦況を見据える。
「他に機体があれば、援護に行けるのに・・・！」
「性能の高くない機体に乗っても、あの巨大兵器の格好の的になるだけだ。インパルスとシンだからこそ戦えるのだが・・」
焦りを浮かべるルナマリアに、レイが言いかける。
「こんなときに何もできないなんて・・・！」
自分の無力さを痛感して、ルナマリアが悔しさを噛みしめていた。
デストロイを前にして動きを止めているインパルス。それを見たネオが、インパルスへ攻撃することを決めた。
「どういうことかは知らんが、アイツを討つ絶好のチャンスというヤツだな・・・！」
ネオがウィンダムを動かし、インパルスに向かっていく。ウィンダムの接近にシンが気付き、インパルスが迎え撃つ。
「アイツが・・ステラを戦わせているのか・・・!?」
シンがウィンダムのパイロットがステラを戦わせていると思い、怒りを膨らませる。インパルスとウィンダムがビームサーベルを手にして、同時に振りかざしてぶつけ合う。
「アンタか、ステラを戦わせているのは!?」
「ステラを知っているのか!?・・あの子はオレと同じ部隊の人間。これも任務なのでな。」
問い詰めるシンに、ネオが冷静に答える。
「あの子は死を恐れている！戦わせちゃいけないんだ！それなのにお前たちは・・！」
「それをオレに決める権利はないのでな。」
「それがステラを戦わせていいことになるか！」
「それをオレが決めることはできないのでな！」
感情をむき出しにするシンに、ネオが言い返す。インパルスとウィンダムがビームサーベルをぶつけ合う。
「ネオ！」
インパルスに攻められるネオをステラが見かねて、デストロイがインパルスに向けてスプリットビームガンを発射する。インパルスがウィンダムから離れて、デストロイのビームをかわす。
「やめるんだ、ステラ！コイツは君を戦わせているんだぞ！」
「ネオの邪魔をしないで・・私がネオを守る・・！」
シンが呼びかけるが、ステラはネオのために戦おうとする。
「アンタはステラを・・これ以上、ステラをいいようにさせない！」
ネオに対する怒りを爆発させたシン。彼の中で何かが弾け、感覚が研ぎ澄まされた。
インパルスが加速して、ウィンダムへ攻撃を仕掛ける。ビームサーベルがぶつかり合うが、インパルスがウィンダムを押し切る。
インパルスが立て続けに振りかざしたビームサーベルが、ウィンダムの両腕を切り裂いた。
「何っ!?ギャアッ！」
ウィンダムが落下し、ネオが絶叫を上げる。
「ネオ！」
ネオがやられたことにステラが絶望する。彼女が冷静さを失い、デストロイがインパルスに向かってビームを連射する。
「やめろ、ステラ！もう戦わなくていいんだ！」
「よくもネオを！ネオを！」
シンがさらに呼びかけるが、ステラは完全にインパルスを敵視していた。デストロイのビームは周囲の地面や建物に飛び火していた。
「くそっ！もうやめろ！」
キラが言い放ち、フリーダムがデストロイに向かっていく。フリーダムがレールガンを発射して、デストロイの胴体に命中させた。
「キャアッ！」
デストロイが損傷して、ステラがコックピットにまで及んだ爆発に悲鳴を上げる。
「フリーダム！・・やめろ！」
シンが激高し、インパルスがフリーダムに向かってきた。インパルスがビームサーベルを振りかざして、フリーダムが回避する。
「何をするんだ!?今はあの機体を止めるのが先だ！」
「何にも分かってないくせに！あれは・・！」
呼びかけるキラに、シンが必死に言い放つ。インパルスとフリーダムが同時にビームサーベルをぶつけ合う。
「あれにはステラが、大切な子が乗ってるんだ！」
シンが言い放った言葉を聞いて、キラが当惑を覚える。インパルスのビームサーベルがフリーダムを突き飛ばした。
「ステラ、オレだ！シンだ！シン・アスカだ！」
シンが再びステラに向かって呼びかける。
「もう戦わなくていいんだ！君は、オレが守る！」
「ま・・守る・・・!?」
シンの呼びかけを耳にして、ステラが戸惑いを覚える。
「ステラ・・死にたくない・・死ぬのはイヤ・・・！」
ステラが込み上げてくる感情を口にしていく。
「君は死なない！オレが君を守るから、君は死なない！」
シンの必死の呼びかけに、ステラの心が揺れる。死の恐怖と絶望で満ちていた彼女の心に、安らぎが戻ってきた。
「死なない・・・シン・・・シン！」
落ち着きを取り戻していくステラが、インパルスの中にいるシンを感じ取った。デストロイも砲撃と動きを止めた。
「ステラ、その機体から降りるんだ・・早くこっちへ・・！」
シンが呼びかけて、インパルスのコックピットのハッチを開けた。
「シン・・・！」
ステラがシンのところに行こうと、デストロイから出ようとした。
そのとき、ステラの目にフリーダムの姿が入ってきた。攻撃してきたフリーダムを目の当たりにして、ステラの和らいでいた恐怖と敵意が再び込み上げてきた。
「イヤ・・イヤアッ！来ないで！」
ステラが悲鳴を上げて、デストロイが再び動き出す。デストロイがスーパースキュラを放とうとエネルギーを集める。
「やめろ、ステラ！もう戦わなくていいんだ！」
シンが呼びかけるが、デストロイはエネルギーチャージを止めない。
「イヤ、来ないで！イヤアッ！」
「ダメだ、ステラ！やめるんだ！」
互いに叫ぶステラとシン。対峙するデストロイとインパルスを見て、キラの心が揺れる。
“あれにはステラが、大切な子が乗ってるんだ！”
キラの脳裏にシンの叫びがよぎる。
（戦いを止めるには・・僕は・・！）
キラは動揺を振り切り、フリーダムがビームサーベルを手にしてデストロイに向かっていく。
フリーダムが振りかざしたビームサーベルが、デストロイの足を切りつけた。足が爆発してバランスを崩したデストロイが後ろに倒れていく。
「ステラ！」
スーパースキュラのビームを空に向けて放ちながら仰向けに倒れたデストロイを見て、シンが叫ぶ。
「ステラ・・・フリーダム！」
シンがフリーダムに目を向けて、怒りを増していく。
「今のうちにパイロットを助け出すんだ！」
するとキラがシンに向けて呼びかけた。
「君の大切な人なんだろう!?なら早く助け出すんだ！」
「えっ・・!?」
キラからの思わぬ言葉に、シンが戸惑いを覚える。彼はフリーダムを警戒しながら、インパルスがデストロイのそばに着地する。
シンがインパルスから出てきて、デストロイのコックピットのハッチをこじ開けて、ステラを引きずり出す。
「ステラ、しっかりするんだ！ステラ！」
シンがステラに呼びかける。意識がもうろうとなっていたステラだが、閉ざしていた目をゆっくりと開いた。
「ステラ、もう大丈夫だ・・助かったんだ・・！」
シンは安心の笑みをこぼすと、メットを外して素顔を見せた。
「シン・・・シン・・・」
ステラがシンの顔を目にして微笑みかける。
「ステラ・・よかった・・・もう少しだけ我慢して・・すぐに手当てするから・・・！」
シンが頷くと、ステラを連れてインパルスに乗った。
「あの顔・・あのときの・・・！」
キラがシンの顔を見て、動揺を覚える。彼はシンがオーブで出会った少年と同一人物であることを知った。
インパルスがミネルバに戻り、少し間を置いてからフリーダムもアークエンジェルに戻っていった。
ミネルバに着艦して収容されたインパルスから、シンがステラを抱えて出てきた。
「早く医務室へ！この子の手当てを！」
シンが呼びかけて、ステラを連れて走り出す。
「シン!?」
彼の行動とステラがいたことに、ルナマリアは驚きを隠せなくなる。
（ステラがあの機体のパイロットだった!?・・シンが助け出して、ここまで連れてきたってこと・・・!?）
シンがステラを助け出してミネルバまで連れてきたことに、ルナマリアは複雑な気分を感じていた。
「お、おい、どういうことなんだ、これは!?」
医務室に飛び込んできたシンに、医務官が声を荒げる。
「お願いです！この子を助けてください！早く手当てをしないと・・！」
シンが呼びかけて、ステラを助けてほしいと懇願する。
「ちょっと待て！このパイロットスーツ、地球連合のものじゃないか！敵のパイロットを助けろというのか!?」
「この子は敵じゃない！敵に利用されていただけなんだ！」
怒鳴る医務官にシンが呼びかける。
「どんな事情や理由があろうとも、連合の手にかかったザフトの者や地球の人は大勢いる！たった今、あの黒い機体にこの周辺が蹂躙されたばかりだ！それを犯した連合の者を助けられるわけがなかろう！」
「早く助けろ！もしもこの子に何かあったら、オレは許さないぞ！」
不満の声を上げる医務官に、シンが怒鳴りかかる。彼に鋭く睨みつけられて、医務官と看護師たちが息をのんだ。
医務官は困惑しながら、指令室への連絡を取った。
「グラディス艦長、アスカが医務室に、敵軍のパイロットを運んできました・・！」
医務官はミネルバを指揮するタリアからの指示を仰ぐことにした。
アークエンジェルに帰還したフリーダム。戻ってきたキラだが、動揺を抱えていた。
「キラ、やったな。あの機体を止めることができてよかった・・」
カガリがキラの前に来て、戦いが止まったことを告げて安心を見せた。
「うん・・そうだね・・」
キラが彼女に目を向けて、小さく頷いた。
「どうした、キラ？何かあったのか？」
「う、ううん・・」
カガリが疑問を感じて、キラが首を横に振る。
「また１人で悩みを抱え込むのはなしだぞ。戦いを止めるために必死になっているのは、お前だけじゃないんだから・・」
カガリが真剣な面持ちでキラを励ます。
「僕はあの黒い機体を止めようとした。でもそのために、誰かの大切な人を傷付けようとしていた・・」
「キラ、何を言って・・・」
デストロイとの戦いを思い出すキラに、カガリが言いかける。
「あのザフトの機体のパイロット、黒い機体のパイロットを助けようとしていた。その人の大切な人だって・・」
「シン・・・！」
キラの話を聞いて、カガリがシンのことを思い出す。
「もしかして、僕のしていることは、戦いを止めるどころか、誰かの大切なものを壊しているだけなんじゃないか・・」
「そんなことを言うな！・・お前のおかげで前に戦争を終わらせることができたんだ！今回だって、もしもあの機体を止めてなかったら、被害はもっと広がっていた・・！」
自分の戦い方に迷いを抱くキラに、カガリが呼びかける。
「お前は自分のわがままで戦っているわけでも、全てを滅ぼそうと企んでいるわけでもない！戦いを終わらせるために戦っているんだ！それが間違っているなら、戦いを止めようとしているみんなは、何のために戦っているというんだ！」
「それはそうだけど・・それで悲しみが広がってしまったら、結局は・・・」
激励するカガリだが、キラは迷いを膨らませていた。
「今日はもう休むんだ。これからオーブに向かうと、ラミアス艦長が言っていた・・」
カガリが呼びかけて、キラを連れてドックを後にした。迷いを振り切ろうとしても苦悩が込み上げてきて、キラは冷静さを揺さぶられていた。
医務官からの連絡を受けて、タリアがアーサーを伴って医務室に赴いた。
「事情は分かったわ。ただし、彼女は捕虜として扱うこととします。」
タリアが冷静に判断して、シンに告げる。
「捕虜!?何を言ってるんですか!?ステラは敵に利用されていただけです！」
「理由は何であれ、彼女が連合軍の一員であるのは確かです。彼女に殺されたザフトの者もいる。それを自由に艦内にいさせるわけにはいきません。」
シンが声を荒げるが、タリアは決断を変えない。
「この子は怖いものに怯えていて、それから逃げようとしているだけだ・・それを助けずに傷付けようとすること、認められるわけが・・！」
「彼女を許すことのほうが認められません！あなたは彼女を助けるために、艦のクルーや他のザフトの人たちの感情を逆撫でするようなことをしているのよ！」
ステラを助けようとする一心のシンだが、タリアは認めようとしない。
「私からもお願いします、艦長！」
そこへルナマリアもやってきて、タリアに申し出てきた。
「確かにこの子は、ステラは連合の一員でした・・新型機体を強奪して、私たちに攻撃を仕掛けてきて、許せない気持ちもあります・・でもだからって、苦しんでいるのを見捨てていいことにはならないです・・！」
「ルナ・・・！」
ステラを助けてほしいと言ってきたルナマリアに、シンが戸惑いを覚える。
「自分からもお願いします、艦長。我々ザフトは、たとえ敵であろうと、無抵抗の者の命を奪うような組織ではないです。」
レイもタリアに声を掛けてきた。彼らの意思を聞いて、タリアの決断が揺さぶられる。
「・・・応急措置を行ってください・・ただし、脱走や攻撃を行わないよう、麻酔を忘れないように。徹底して拘束することも・・」
「艦長・・!?」
タリアが口にした指示に、医務官が驚きの声を上げる。
「この件はデュランダル議長にも報告します。シン、これ以上の反論は認めません。」
「艦長・・・はい！ありがとうございます！」
タリアが続けて言って、シンが感謝して頭を下げた。
「ステラ・・よかった・・・」
シンがステラを見つめて、喜びを浮かべる。ステラを心配するシンを見て、ルナマリアは再び複雑な気分を感じていた。
「シン、お前も疲れているはずだ。お前も体を休めるのが先決だ。」
レイが冷静にシンに言いかける。
「あぁ。分かった・・」
シンが頷いてレイ、ルナマリアとともに医務室を出た。
（ステラ・・・）
医務室の前で、シンがステラのことを気に掛ける。ステラは医務官たちからの療養を受けていた。
自分の部屋に戻り、ベッドに横たわっていたシン。彼はステラだけでなく、フリーダムのことを気にしていた。
（フリーダムはなぜ、ステラを助けたんだ？・・いきなり出てきて無差別に攻撃してきたアイツが、なぜ・・!?）
フリーダムがステラを助けた理由や意図が分からず、シンは疑問を膨らませていた。
（ステラは助けてくれたけど、アイツのせいで、ハイネもアスランも・・・！）
シンは記憶を呼び起こして、フリーダムの暴挙への怒りを思い返していく。
（オレがやるしかない・・ミネルバのパイロットで戦えるのはオレしかいないんだから・・・！）
自分に言い聞かせて、気分を落ち着けていくシン。彼はフリーダムを倒す決意を固めていた。
次回予告
世界に刻まれた傷跡。
悲しみと不安が広がる世界に、１つの思いが語られる。
平和を脅かす敵、その名は・・・？
新たなる戦いの火蓋が、切って落とされる。
広がる混迷に立ち向かえ、フリーダム！