GUNDAM WAR

-Destiny of Shinn-

PHASE-19「明けない夜明け」

 

 

 オーブ軍の襲撃、フリーダムの乱入、アスランの撃墜、そしてステラが連合軍のパイロットだったこと。度重なる悲劇に、シンは心身ともに疲弊していた。

(何で・・何でこんなことばかり・・・!)

 シンが苦悩を浮かべて歯を食いしばる。

「今はお前も体を休めたほうがいい。」

 そこへレイがやってきて、シンに声を掛けてきた。

「レイ・・ケガは大丈夫なのか・・!?

「オレのことは気にするな。それよりも今は体を休めておくんだ。現時点で動けるモビルスーツは、インパルスだけなのだから・・」

 心配の声を掛けるシンに、レイが冷静に呼びかける。

「だけど、アスランが戻ってこない・・セイバーから脱出してないのか・・!?

「今、捜索隊が海域を調べている。海に落ちていれば見つかるはずだ。」

 アスランを気に掛けるシンに、レイが答える。

「それに、オレの知り合いが、地球軍のパイロットだった・・」

「何っ・・?」

 シンがステラのことを打ち明けて、レイが眉をひそめる。

「ガイアに乗っていた・・・何でステラが、あんなものに乗って戦っていたんだ!?・・死ぬのが怖かったんじゃないのか・・・!?

 なぜステラが連合のパイロットとして戦っているのか、シンは納得できなかった。

「シン、そのパイロットのことは考えるな。いつ連合やフリーダムが攻撃してくるか分からないのだぞ。」

「だけど、このままステラを見捨てることはできない!・・ステラを討つことは・・・!」

 呼びかけるレイに、シンが感情をあらわにする。

「今の時点でオレたちがそのパイロットにしてやれることは何もない・・次また対面した時までは・・」

 レイに言われて、シンは反論できなくなる。

「今は休んでおくんだ、シン。お前も今回の戦いで疲弊している・・」

「レイ・・分かったよ・・・」

 レイからの指示にシンが頷く。レイの言葉に納得ができなかったシンだが、反論できずに聞き入れるしかなかった。

 

 ファントムペインも甚大な被害に悩まされていた。

 アウルの死、アビスとガイアを始め、多くの機体、武装の損傷。同じく被害の大きいオーブ軍とも連絡が取れない。

「アウル・・お前がこんなことになろうとは・・・!」

 スティングとステラの眠る調整室の前で、ネオがアウルの死を悔やむ。

「今のこの戦力では、ザフトを壊滅させるどころか、まともに戦闘することもままなりません・・隊長、いかがいたしましょう・・!?

 オペレーターがネオに不安の声を上げる。

「やむを得ん・・あの機体の使用の許可をもらうしかない・・」

「あの機体・・まさか、アレを使うのですか・・・!?

 ネオの口にした言葉に、オペレーターが緊張を浮かべる。

「アレ以外にまともに投入できる戦力はカオスとオレのウィンダムぐらいだ。だがそれだけじゃミネルバやアークエンジェルを攻め落とすのは不可能に近い。」

「それは、そうですが・・・しかし、パイロットは・・・!?

 歯がゆさを浮かべるネオに、オペレーターが声を荒げる。

「既に適性を調べて選別されている。向こうからロシアに向かえとも命令も出ている・・」

 ネオが語りかけて、直前に届いていた指令を思い出す。

「最低限の修理を終えた後、ロシアへ急行する。」

「了解です・・!」

 ネオの命令を受けて、オペレーターが緊張を浮かべたまま答えた。ファントムペインは一路、ロシアへと向かうこととなった。

 

 生き延びたオーブ軍はユウナを別部隊に預けて、地球軍から離れてアークエンジェルと合流していた。

「申し訳ありません、カガリ様・・あなたに背くばかりか、矢を向けるようなマネを・・・!」

 オーブの軍人たちがカガリに深々と頭を下げる。

「もう気にするな・・お前たちはこうして、私たちの前に戻ってきたのだから・・」

「カガリ様・・・!」

 あたたかく迎えるカガリに、軍人たちが戸惑いを覚える。

「私も至らないところが多く、お前たちに辛い思いをさせてしまった・・謝っても許されないことは分かっているが、謝らせてほしい・・・!」

 カガリが自分を責めて、軍人たちに謝罪して頭を下げた。

「そんな、カガリ様!顔を上げてください!」

「全ては我々の過ちなのですから!」

 軍人たちがカガリに弁解を入れる。

「みんな、すまない・・我々みんなで、オーブを立て直していこう・・!」

 カガリが答えて、軍人たちとともに互いに敬礼を送った。

「これでまた、カガリさんとオーブはまた新しいスタートを切れるわね。」

 マリューがカガリを見て安心の笑みをこぼす。

「僕は、アスランを力ずくでしか止めることができなかった・・・」

 キラがアスランのことを考えて悔やむ。彼の様子を気にして、マリューとカガリが表情を曇らせる。

「気に病むな、キラ・・お前のおかげで、アスランが戻ってきたじゃないか・・!」

「あのときは戦いの最中で落ち着いて話し合うどころじゃなかったけど、今はそれができるわ。」

 カガリとマリューがキラを励ます。

「そうですね・・またゆっくりと話ができる・・」

 キラが微笑んで頷いて、アスランと向き合えることを喜んだ。

(そのときまで僕がやらなくちゃ・・そうだよね、アスラン、ラクス・・)

 アスランとラクスのことを思って、キラは改めて決意を固めた。戦いを止めるために自分の力を使うことを。

 

 手当てを受けて医務室に移っていたルナマリア。彼女のいる医務室に、シンが訪れた。

「ルナ、ケガは大丈夫なのか・・・?」

「大丈夫なわけないでしょ・・ザクは大破。あたしもこの有様なんだから・・」

 シンが心配の声を掛けると、ルナマリアが不満げに答えて、包帯に巻かれている腕を見せた。

「アスランも落とされて・・・私たち、どうすればいいっていうの・・・!?

 度重なる悲劇に押しつぶされそうになり、ルナマリアが苦悩して震える。

「もうオレが戦うしかない・・ミネルバには、オレとインパルスしかないから・・・!」

 シンが感情を押し殺して、自分の意思を告げる。

「そして今度こそ、ステラを助け出す・・・!」

「ステラ!?・・あのときの子がどうしたのよ・・!?

 シンが口にした言葉を聞いて、ルナマリアが問い詰める。するとシンが思いつめてから答えた。

「敵のパイロットの中にいたんだ、ステラが・・ガイアに乗ってた・・・!」

「そんな!?・・あんな子が、何でモビルスーツのパイロットに・・!?

 シンが説明をして、ルナマリアが疑問を募らせていく。

「分からない・・とにかく、今度見つけたら、オレが連れ出す・・あんなこと、あの子にさせちゃダメだ・・死ぬのが怖いのに、死ぬようなところにいて、死ぬようなことをしてたら・・・!」

 死ぬことを怖がるステラの姿を思い出して、シンは彼女を救うことで頭がいっぱいになっていた。

「オレも今は休むよ・・それじゃ・・」

 シンはルナマリアに弱々しく言いかけると、医務室を後にした。

「シン・・・ステラ・・・」

 ルナマリアもシンとステラのことを気にして、辛さを噛みしめていた。

 

 それから一夜が過ぎ、アスランを捜索していた部隊からミネルバに連絡が入った。

「戦死!?・・見つからなかったのですか・・・!?

“はい。海域もその下の海中もくまなく捜索したのですが、手がかり1つ見つかりませんでした・・”

 アーサーが声を荒げて、隊員が困惑しながら報告する。

「分かったわ・・ありがとう。」

 タリアは謝意を示してから、捜索隊との連絡を終えた。

「アスランの遺品を回収して・・」

 タリアが低い声でアーサーに呼びかける。

「艦長、それではアスランが・・・!」

「分かっているわ・・でも、私たちは割り切らなくてはいけないのよ・・・!」

 声を荒げるアーサーを、タリアが感情を押し殺して言いとがめる。

「分かりました、艦長・・・シンたちにも伝えます・・・!」

 アーサーは渋々聞き入れて、指令室を出ていった。

「本艦の状態と各機体の状態は?」

「本艦の修復は8割方完了しています。武装の使用に問題はありません。モビルスーツはザクは2機とも大破。出撃可能なのはインパルスだけです。」

 タリアが問いかけて、メイリンが状況を報告する。

「頼みの綱はシン・・負担を背負わせないよう、私たちが援護しないといけないわね・・」

 シンのことを考えて、タリアが気を引き締めなおした。

 

 アスランが戦死と認定されたことが、アーサーを通じてシン、レイ、ルナマリアにも伝えられた。

「そんな・・近くに生き延びた可能性は・・・!?

 ルナマリアが驚きをあらわにして、問い詰める。彼女の腕の包帯はまだ取れていなかった。

「周辺の捜索も行われたが、アスランは見つからなかった・・もしもどこかで生き延びていたなら、彼のことだ・・連絡はしてくるはずだ・・」

 アーサーに言われて、ルナマリアが悲しみを覚える。

「今はオレたちだけで任務を遂行するんだ・・アスランとハイネがここにいたら、オレたちがいつまでも悲しんでいるのをよしとは思わないはずだ。」

「レイの言う通りだ。連合とオーブ軍、アークエンジェルの襲撃に備えておくんだ。」

 レイが冷静に告げて、アーサーも続けて呼びかける。

「やってやりますよ・・連合もオーブも・・今度こそフリーダムも・・・!」

 シンが意気込みを見せて、敵への憎悪を噛みしめる。

「シン、モビルスーツ戦ができるのは、今はお前だけだ。頼むぞ・・」

「はい・・!」

 アーサーに言われて、シンが答えて敬礼した。

「自分たちもできる限りのサポートをしていきます。」

 レイもアーサーに言いかけて、敬礼を送る。

「ルナマリアは今は体を治すことに専念するんだ。」

「分かりました・・役に立てなくて、すみません・・」

 アーサーに言われて、ルナマリアは元気なく答えた。

「心配するな、ルナマリア。ケガが治ったら戻ってきてくれ。」

 レイもルナマリアに向けて呼びかける。シンも小さく頷いて、ルナマリアは彼の心境を察して聞き入れた。

 

 ファントムペインは地球連合の上層部だけでなく、ある組織の命令で行動していた。

 「ロゴス」。ブルーコスモスのメンバーも含む幹部たちで構成されており、「死の商人」とも称されている。

 そのロゴスのメンバーの1人、ロード・ジブリールが、これまでのファントムペインとザフト、プラントの動向と戦闘を確認していた。

「ザフト、プラント、コーディネイター・・ヤツらにここまで手こずるとは・・・!」

 ジブリールがファントムペインの任務が成功しないことに、いら立ちを感じていた。

「だがヤツらを滅ぼす兵器が、ついに完成した。データを照合し、パイロットにふさわしい者も選出してある。これでコーディネイターを根絶やしにできる・・」

 プラント壊滅を確信して、ジブリールが笑みを浮かべる。

“ファントムペイン、ただ今基地に到着しました。”

 ジブリールに連合の軍人からの通信が届いた。

「よし。直ちに出撃させろ。コーディネイターどもを滅ぼし、我々の力を世界中に見せつけるのだ!」

 自分たちの野心を浮かべて、ジブリールが高らかに言い放った。

 

 ロシアの連合の基地に到着したネオたち。スティングもステラも調整によって精神が安定していた。ただし調整の中、2人はアウルに関する記憶を消されていた。

「ノアローク大佐、お待ちしておりました。」

 基地配属の兵士が、ネオに敬礼する。

「例の新兵器はどこだ?」

「ご案内します。」

 ネオが聞いて、兵士が案内する。ネオ、スティング、ステラが彼についていく。

 ネオたちがたどり着いた先に、1機の巨大な機体があった。

「“デストロイ”。ノアローク大佐にはこの機体を使い、ユーラシアに点在するザフト基地を進攻せよとのご命令です。」

 兵士の説明を聞いて、ネオが頷いてステラに目を向けた。

「ステラ、これがお前の、新しい機体だ。」

「ステラの・・新しい・・?」

 ネオが呼びかけて、ステラがデストロイを見上げる。

「ステラもこれでまた、戦わないとな・・でないと、怖いものが来て、オレたちを殺す・・」

「殺す?・・ステラも?・・ネオも・・・!?

「そうだ・・・」

「イヤ!・・そんなのイヤ・・・!」

 深刻な面持ちで言いかけるネオの言葉を聞いて、ステラが怯える。

「ならやらないとな・・怖いものはみんな、失くしてしまわないと・・・」

「怖いもの・・失くす・・・うん・・・」

 ネオに投げかける言葉に、ステラ落ち着きを取り戻しながら、小さく頷いた。

(こうして敵を倒さないと、上の者に首を切られてしまうからな・・)

 ジブリールたちのことを気にして、ネオは深刻さを募らせていく。ステラがデストロイに乗って、操縦方法を確かめる。

「何でオレじゃなくてステラなんだよ!?・・オレも動かしたいのに・・!」

 スティングが自分ではなくステラがデストロイを動かすことに納得いかず、不満を見せる。

「文句を言うな、スティング。お前よりステラのほうが相性がいいんだ。それにお前にはまだカオスがあるだろ?」

 ネオがため息まじりに言って、スティングをなだめる。

「アレ、1機だけで終わりってことはないだろ?オレも乗りたいぜ・・!」

 それでもスティングは諦めきれず、愚痴をこぼしていた。

「デストロイ、発進準備完了です!」

 兵士がデストロイの起動を確認して、ネオたちが離れる。

「よし!オレたちも出るぞ!スティング、いいな!?

「分かったよ、ネオ!」

 ネオが呼びかけて、スティングが渋々聞き入れる。2人もそれぞれの機体に乗り込んだ。

「ネオ・ノアローク、ウィンダム、出るぞ!」

「スティング・オークレー、カオス、発進する!」

 ネオのウィンダム、スティングのカオスが発進する。ステラの乗ったデストロイも基地から動き出した。

「スティング、ステラ、このまま真っ直ぐだ!」

 ネオがスティングたちに指示を出す。他のウィンダムたちも基地から発進していく。

 ザフトの管轄する施設を、ネオたちが目にした。

「撃つ・・・!」

 ステラが目つきを鋭くして、デストロイがフライトユニットに搭載されているエネルギー砲「アウフプラール・ドライツェーン」を発射する。放たれたビームが施設に直撃し、その場にいた人諸共吹き飛ばした。

「すごい・・これがデストロイの力・・・!」

「ものすごい威力だ・・・!」

 ウィンダムのパイロットたちがデストロイの攻撃を目の当たりにして息をのむ。

「怖いもの・・・失くす・・・!」

 ステラが声を振り絞り、デストロイがプラズマ複合砲「ネフェルテム」を発射して、施設をさらに攻撃する。デストロイとウィンダムたちが進攻を続ける。

「やっつけなきゃ・・怖いもの、全部・・・!」

 自分たちに死をもたらすと思っているものを消そうとするステラ。デストロイによる地球への蹂躙が今、開始された。

 

 

次回予告

 

再びすれ違っていた友情。

アスランとの和解を望みながらも、キラは戦いの空へ飛ぶ。

そしてシンも様々な感情を抱えながらも、連合の脅威に立ち向かう。

2人の少年、そして死から逃れようとする少女の交錯の先にあるのは?

 

次回・「慟哭の星空」

 

灼熱の雪原へ、飛び立て、フリーダム!

 

 

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