GUNDAM WAR

-Destiny of Shinn-

PHASE-18「散華の海」

 

 

 キラのフリーダムによって、アスランのセイバーは破壊された。その直前、キラはセイバーから出たアスランを救出していた。

 しかしその瞬間は周りには見えていなかった。

「そんな!?・・アスラン・・アスランまで・・・!?

 空に散ったセイバーを目の当たりにして、シンが愕然となる。彼の動揺は、アークエンジェルに合流するフリーダムへの怒りに変わった。

「アイツ・・フリーダム!」

 激高したシンの中で何かが弾けた。彼の感覚が研ぎ澄まされて、インパルスの動きが機敏になる。

 インパルスがフリーダムを追おうとするが、アビスが放つビームに妨害される。

「逃がすかよ!お前の相手は僕だぞ!」

 アウルが強気に言って、アビスがさらにビームを放って、インパルスを狙う。

「コイツらも・・!」

 シンがいら立ちを募らせ、インパルスがビームをかわして、ビーム砲で反撃する。アビスは水中を駆け回り、ビームをかいくぐる。

「今日こそ落とす!」

 アウルが言い放ち、アビスが海上に飛び出して、インパルス目がけてビームランスを振り下ろす。シンが反応し、インパルスが紙一重でビームランスをかわす。

 インパルスがデファイアントを手にして、アビスが続けて振りかざすビームランスを受け止める。

「いい加減に見飽きてんだよ、その顔!さっさとやられちゃいなよ!」

 アウルもいら立ちを膨らませて、アビスがインパルスを押し切ろうとする。インパルスが体勢を崩して、海上で押される。

「もらった!」

 アビスがビームを一斉発射する。インパルスもビーム砲を発射するが、2機のビームはすれ違い、互いに砲門に命中させられる。

 シンが目つきを鋭くして、インパルスがとっさにデファイアントをアビス目がけて投げつける。

「アウル!」

 そこへステラのガイアが飛び込み、ビームブレイドでデファイアントを弾いた。

「くっ・・メイリン、フォースシルエットを!」

“はいっ!”

 シンが呼びかけて、メイリンが答える。ミネルバから射出されたフォースシルエットと、インパルスがブラストシルエットと入れ替える。

「コロコロ姿を変えたところで!」

 アウルがあざ笑い、アビスがビームランスを構える。

「アイツ、倒す・・怖いもの、なくす・・・!」

 ステラも言いかけて、ガイアもビームライフルを手にして、インパルスを狙撃する。シンが反応し、インパルスが加速してビームをかわす。

 インパルスがビームライフルを連射して、ガイアのビームライフルを破壊した。

「そんな!?

 簡単に負傷されたことに、ステラが驚愕する。

「私を・・私をよくも!」

 ステラがいきり立ち、ガイアがビームサーベルを手にしてインパルスに飛びかかる。インパルスもビームサーベルを振りかざして、ガイアとサーベルをぶつけ合う。

「お前たちも許せないが・・アイツも・・フリーダムも許せない!」

 シンが怒りを募らせて、インパルスがガイアのビームサーベルを押していく。

「ぐっ!」

 ガイアが突き飛ばされて、ステラが衝撃に揺さぶられてうめく。

「ステラ、お前だけにやらせるかよ!」

 アウルが言い放って、アビスがビームを発射する。インパルスは素早く動き、アビスのビームをかいくぐって突き進む。

「さっさと落ちろってんだよ!このヤロー!」

「お前たちは、人間の命を何だと思ってるんだ!?人の体を弄んででも、戦争して、何もかもムチャクチャにしたいのか!?

 怒鳴るアウルにシンが怒りをぶつける。

「ヘッ!何をワケ分かんないことを!」

 アウルがさらにあざ笑い、アビスがビームランスを振りかざす。インパルスがビームサーベルを振り下ろして、ビームランスを押す。

「子供を使って兵器のようにして戦わせて・・人間のすることじゃない!」

「兵器のように!?・・あの場所・・・!」

 シンの怒号を耳にして、アウルが動揺を覚える。彼の脳裏に昔の記憶がよみがえってきた。

「かあ・・さん・・母さん・・!?

 アウルが込み上げてきた記憶に動揺を覚える。

「母さんはどこなんだ!?・・母さん!」

 記憶の中に現れた女性への感情を隠せなくなるアウル。彼の動揺はアビスの動きにも影響した。

 アビスがインパルスに突き飛ばされて、海に落ちる。追撃に向かうインパルスを、ガイアが阻む。

「アウルは守る・・怖いもの、私が失くす・・!」

「お前も、いつまでこんなことを続けるつもりだ!?

 声を振り絞るステラに、シンが怒鳴りかかる。

 インパルスとガイアがビームサーベルを何度もぶつけ合う。インパルスが力任せに攻めて、徐々にガイアを押していく。

「人の体を弄んで、さらに戦いを広げていく・・それがいいことだと本気で思ってるのか!?

 シンが怒鳴り、インパルスがビームサーベルを振りかざす。ビームサーベルを持つガイアの腕が切り裂かれた。

「お前たちのしていることで、どれだけの人が死ぬと思っているんだ!?

 問い詰めるシンの言葉を聞いて、ステラが目を見開いた。

「死ぬ・・死ぬ!?

 死への恐怖に襲われて、ステラが体を震わせる。

「死ぬのはイヤ・・死んじゃうはダメ・・・!」

 体を震わせて自分を見失うステラ。ガイアの動きも鈍って、攻撃をかわすこともままならなくなっていた。

 シンは戦意を強めたまま、インパルスがビームサーベルを振りかざした。インパルスの一閃が、ガイアのコックピットのハッチを切り裂いた。

 シンがガイアにとどめを刺そうとした。そのとき、シンの視界に、コックピットの中にいるステラの姿が入った。

「なっ・・!?

 ステラがガイアを操縦していたことに、シンは目を疑った。インパルスもガイアへの攻撃が止まった。

(ステラ!?・・どうして君が・・・!?

 シンもステラを見つめたまま、動揺を隠せなくなる。

「いや・・死ぬ・・死ぬ・・イヤアッ!」」

 頭を抱えて悲鳴を上げるステラ。

「どうしてそんなものに乗ってるんだ!?君は、地球軍のパイロットだったのか!?

 感情を込めて問い詰めるシンだが、ステラは死の恐怖に駆られて悲鳴を上げるばかりになっていた。

 

 アウルとステラが混乱状態に陥っていることに、ネオも気付いた。

「2人とも危険な状態だ・・すぐに2人を連れ戻せ!」

「ムリです!戦況が大きく混乱しています!」

 ネオが呼びかけて、オペレーターが状況を報告する。

「私が出て連れ戻していく。全機、全艦は援護しつつ撤退の準備を!」

「了解!」

 ネオがさらに指示を出し、オペレーターが答える。ネオはウィンダムに乗り発進。ガイアとアビスのところへ向かう。

「ステラ、アウル、すぐに戻れ!」

「ネ・・ネオ!」

 ネオが呼びかけて、ステラが我に返る。

「アウル、お前もだ!」

「イヤだ・・僕は、母さんの所に行くんだ・・!」

 ネオが続けて呼びかけるが、アウルは聞こうとしない。

「それを邪魔するアイツは・・アイツだけは!」

 アウルが感情をむき出しにして、アビスがインパルスに向かっていく。シンもアビスに気付き、インパルスがアビスを迎え撃つ。

「よせ、アウル!・・完全に冷静さを失っている・・!」

 呼び止めも聞かずに戦おうとするアウルに、ネオが毒づく。

「まずはステラを連れ戻す・・すぐにアウルを連れ戻すぞ・・!」

 ネオはまずステラを連れ戻すことに専念した。ウィンダムがガイアを連合の母艦に連れ戻すと、アビスを連れ戻しに向かった。

 

 ウィンダム、ムラサメをミネルバに近づけさせまいとする2機のザク。アスランの撃墜に、ルナマリアも動揺を隠せなくなっていた。

「アスランが・・アスランがやられるなんて・・・!」

「今は戦いに集中しろ・・ミネルバが落とされれば、オレたちは終わりだ・・!」

 冷静さを揺さぶられているルナマリアに、レイが呼びかける。

「この戦いに駆り出された時点で、もはや我らの命はない・・!」

「だがオーブの未来のため、我らはこの命を捧げるのみ!」

 ムラサメのパイロットたちが声を振り絞る。ムラサメが戦闘機形態となって、ミネルバに向かって加速する。

「お前たち!」

 特攻を仕掛けるムラサメたちを目にして、カガリが叫ぶ。

「ダメだ、お前たち!やめろ!」

「ご武運を、カガリ様・・我らの涙と意地、とくとご覧あれ!」

 カガリの声を聞き入れることなく、オーブ軍がミネルバに向かっていく。

「近づかせない!」

 ルナマリアのザクがビーム砲を発射する。突っ込んできたムラサメの数機が狙撃されて爆発したが、ビームをかいくぐった生き残りがそのままミネルバに向かう。

「そんな!?

「ミネルバ、覚悟!」

 驚愕するルナマリアと、絶叫を上げるパイロット。ムラサメの1機がルナマリアのザクに突っ込んだ。

「うわあっ!」

 ムラサメが爆発し、ザクが損傷してミネルバのドックになだれ込んだ。

「ルナマリア!」

「お姉ちゃん!」

 レイとメイリンが叫ぶ。ミネルバ内では消火活動と同時に、ルナマリアの救出を急いでいた。

「たとえ刺し違えても、この艦、必ず沈める!」

 パイロットが叫び、ムラサメが突撃する。

「これ以上はやらせん!」

 レイが言い放ち、ザクがビーム突撃銃を発砲する。しかしムラサメを全機撃ち落とすことができず、残りの1機がザクに突っ込んだ。

「ぐっ!」

 ムラサメの爆発にザクが巻き込まれて、レイがうめく。ザクもミネルバの艦上で倒れて動かなくなった。

 

 ムラサメたちの特攻を見ていたユウナが、優勢を感じて喜びを見せていた。

「よーし!この調子でミネルバを落とすんだよ!」

 ユウナがミネルバを指さして、高らかに呼びかける。

「ユウナ様、ミネルバ撃墜の任務、ここからは私のみで果たさせていただきます。」

「何っ!?

 艦長が告げた言葉に、ユウナが驚きの声を上げる。

「ちょっと待て!オーブの勝利が目前なのに、僕にここから降りろって言うのか!?手柄を独り占めするつもりか!?

「ミネルバを撃墜するためには、ムラサメ隊だけでは足りません。タケミカヅチも攻め込まなければなりませんが、ユウナ様が危険にさらされることもあってはなりません。」

 文句を言うユウナに、艦長が語りかける。

「ユウナ様を連れて、総員脱出だ!」

 艦長は軍人たちに指示を出すと、ユウナに拳を叩き込んだ。ユウナが昏倒して意識を失った。

「しかし、現在のオーブに従った以上、もはや我らに戻る場所はありません!」

「我らも艦長と同行させていただきます!」

 軍人たちが艦長に付いていこうとする。

「ならん!」

 すると艦長が怒鳴って、軍人たちに命令を出す。

「既にない命と思うならば、生き残った者たちを連れて、アークエンジェルへ向かえ!真の指揮官の待つ艦へ!」

「艦長・・・了解しました・・・!」

「艦長、ご武運を・・・!」

 艦長の言葉を受けて、軍人たちが答えて敬礼を送った。軍人たちは艦長を残して、ユウナを連れてタケミカヅチを脱出した。

 艦長は1人タケミカヅチを操縦し、ミネルバに向かって前進した。

 

「オーブ艦、本艦に向けて進行!体当たりしてくる模様!」

 アーサーがタケミカヅチを見て声を上げる。

「本艦にぶつかる前に撃墜するのよ!突進されたら終わりよ!」

 タリアが檄を飛ばして、アーサーとメイリンが頷く。

「タンホイザー起動!敵戦艦を撃ち抜く!」

「ダメです!チャージ完了前に突撃されます!」

 アーサーが呼びかけるが、メイリンがタンホイザーの発射が間に合わないことを告げる。

「くっ・・イゾルデ、発射!本艦との衝突は絶対に避けて!」

 タリアが毒づきながら、アーサーたちに指示を出す。ミネルバが迎撃しながらタケミカヅチから後退していった。

 

「ミネルバが・・オーブ!」

 タケミカヅチがミネルバに迫っているのを見て、シンが怒りを膨らませる。

「これ以上・・これ以上やらせるか!」

 シンが叫び、インパルスがタケミカヅチに向かっていく。

「逃がすか!」

 アウルが怒鳴り、アビスがインパルスを追う。シンがアビスに気付き、インパルスがビームサーベルでビームランスを受け止める。

「お前をやっつけて、僕は母さんのところへ行く!」

「何をワケの分からないことを!」

 絶叫するアウルに、シンが怒鳴り返す。インパルスが突き出したビームサーベルが、アビスの左肩に突き刺さった。

「ぐっ!このっ!」

 うめくアウルがさらに絶叫する。

「メイリン、ソードシルエットを!一気に叩き切る!」

“はいっ!”

 シンが呼びかけて、メイリンが答える。インパルスがフォースシルエットと分離して、ミネルバから射出されたソードシルエットと合体する。

「これで終わりだ、オーブ!」

 シンが言い放ち、ミネルバに向かうタケミカヅチに向かって、インパルスが降下してエクスカリバーを振り下ろす。

 インパルスの一閃が、艦長のいるブリッジに叩き込まれた。タケミカヅチが爆発を起こして動きを止めた。

「これで終わりだよ!」

 そこへアウルのアビスがインパルスに向かって突っ込んできた。シンが気付き、インパルスが身をひるがえしてビームランスをかわす。

 インパルスがとっさにエクスカリバーを突き出した。その刃がアビスの胴体を貫いた。

「がはっ!」

 アビスの致命傷の衝撃がコックピットにも及び、アウルがあえぐ。

「か・・かあ・・さん・・・!」

 声を振り絞るアウルが、力尽きて前に倒れる。エクスカリバーが引き抜かれたアビスが、沈んでいくタケミカヅチの甲板から落ちて、海中で爆発した。

 

 ステラのガイアを連れ戻して戦場に戻ってきたネオのウィンダム。

「アウル・・・!?

 アビスの撃墜を目の当たりにして、ネオが驚きを覚える。

「くっ・・間に合わなかったか・・・!」

 アウルの死を痛感して毒づくネオ。ウィンダムは転進して、連合軍とともに引き上げていった。

 

 地球軍は撤退し、オーブ軍は壊滅的な打撃を被った。キラたちも戦場を後にする中、カガリはオーブの軍人たちの死を悲しみ、泣き叫んでいた。

 ミネルバは窮地を脱したものの、被害は甚大だった。ミネルバ自体も前回の戦い以上の損害を被り、ザク2機は再起不能となってしまった。

「レイとルナマリアは命に別状はなかったです。ルナマリアは安静が必要ですが・・」

 アーサーがタリアに現状を報告する。

「今は乗員の手当てと本艦の修復を急いで。アスランの捜索も。」

「はい・・!」

 深刻な面持ちを浮かべているタリアに言われて、アーサーが答えた。

 

 ミネルバに戻ったシンは、悲しみと怒りを膨らませていた。オーブ軍を半壊させても、彼の怒りは治まらなかった。

(フリーダム・・ハイネだけじゃなく、アスランも・・・!)

 アスランも手に掛けたフリーダムに対して、シンは敵意をむき出しにする。

(許せない・・次に出てきたときは、今度こそオレが・・・!)

 フリーダム打倒の決意を、シンは強く固めていた。

 

 しかしアスランは生きていた。

 キラの駆るフリーダムにセイバーは撃墜された。そのフリーダムに直前に救出されたことを、シンたちは知らなかった。

 

 

次回予告

 

フリーダムによって、大切な人が次々に失われていく。

降りかかる悲劇が、シンの心を揺さぶる。

その最中、ファントムペインではザフト打倒のための切り札を投じようとしていた。

 

次回・「明けない夜明け」

 

立ちはだかるもの、なぎ払え、デストロイ!

 

 

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