GUNDAM WAR

-Destiny of Shinn-

PHASE-17「届かぬ思い」

 

 

 シンたちに告げたアスランの言葉。友と対峙することを決意した彼に、シンは思わず息をのんだ。

「あなたが、フリーダムを倒すかもしれないっていうんですか・・!?

 シンが問いかけると、アスランは小さく頷いた。

「でもアスラン、アークエンジェルはあなたの仲間じゃ・・!?

「よせ、ルナマリア。任務に私情を入れてはならない。」

 アスランに心配を投げかけるルナマリアを、レイがとがめる。

「レイの言う通りだ。そのことで任務や戦いに影響が出たらいけない。まして一方的に攻撃をしてくるなら・・」

 アスランが冷静にルナマリアに言葉を返した。

「相手の事情を聞かずに一方的に戦いを終わらせるやり方は、決して正しいことじゃない。その上で直接撃墜しようとせずに武器だけを削ぐ攻撃方法など・・」

 キラの戦い方への不信感を浮かべるアスラン。シンだけでなく、彼も納得はしていなかった。

「シンは連合軍を攻撃するんだ。レイとルナマリアはミネルバの防衛だ。」

 アスランがシンたちに指示を出す。

「ミネルバは修繕が完了しているとはいえ、万全とは言い切れない状態だ。オレたちでミネルバを守り、突破口を開くぞ。」

「了解です、アスラン。」

 アスランの言葉にレイが答え、ルナマリアも頷く。

「シン、お前もいいな?」

「は、はい・・」

 アスランに言われて、シンも小さく頷いた。

 

 アークエンジェルもミネルバと連合軍の動きをつかんでいた。彼らのいるクレタ沖に、アークエンジェルも向かっていた。

「また戦いが始まるのか・・どうしてこんな・・」

 また戦いが行われることに、キラは苦悩を感じていく。

「だけど、その戦場の中にオーブ軍がいるんだ。彼らが傷つくことになるのを、黙って見ているわけにはいかない・・!」

 するとカガリがオーブへの思いを口にする。彼女は連合とザフトの衝突に関わっていることに、耐え難い苦痛を感じていた。

「カガリ・・うん・・僕が戦いを止めて、オーブを守ってみせる・・これ以上、誰も死なせないために・・・」

 カガリに励まされて、キラが迷いを振り切る。

「しかし、私たちがいることを忘れるなよ。キラは1人で抱え込むときがあるからな。」

「私たちも戦いを止めるために力を尽くすわ。少しでもキラくんを援護できるように。」

 カガリに続いてマリューも自分たちの意思をキラに伝えた。

「カガリ、マリューさん、みなさん・・・はい。」

 キラが微笑んで頷いた。彼はもう命を失わせないことを、自分に言い聞かせていた。

 

 ミネルバを追走するネオたち。彼らがミネルバの位置を突き止めた。

「ミネルバを発見しました!こちらへ向かってきます!」

 オペレーターがネオに報告をする。

「ヤツらも我々に気付いて、先手を打とうとしてきたか。」

 ネオもレーダーに目を向けて呟く。

「こちらもモビルスーツを出すぞ!発進準備!」

「はっ!」

 ネオが呼びかけて、オペレーターが答える。ウィンダムが発進して、ミネルバに向かっていく。

「スティング・オークレー、カオス、発進する!」

「アウル・ニーダ、アビス、出るよ!」

「ステラ・ルーシェ、ガイア、出る・・」

 スティング、アウル、ステラがカオス、アビス、ガイアで出撃した。

「よーし!ムラサメ発進だ!今度こそザフト自慢のミネルバに、引導を渡してやるぞ!」

 タケミカヅチでは、ユウナが高らかにパイロットたちに指示を出していた。ムラサメも続いて続々と発信していった。

 

 シンたちがそれぞれの機体に乗り込み、発進に備える。思いつめていたシンに向けて、アスランが通信を送ってきた。

“シン、いいか?”

「何ですか、隊長?もうすぐ発進だっていうのに・・」

 アスランが投げかけた声に、シンがため息まじりに返事をする。

“オレは隊長としてはまだまだ未熟だ。お前たちに偉そうに言えたものじゃない。だからハイネのように、オレのことも隊長とかじゃなく、名前で呼び捨てにしていい。”

 アスランが投げかけた言葉に、シンが戸惑いを覚える。

“オレもお前たちと一緒に成長して、戦いのない世界を実現したいと思っている。だから、お互い頑張っていこう。”

「あなたは・・・分かりました。一緒に、この戦いを終わらせましょう、アスラン!」

 アスランの考えを受け止めて、シンが答えた。シンはアスランに心を開くようになっていた。

(あの人も戦いを終わらせようとしている。そうですよね、ハイネ・・)

 ハイネのことを考えて、シンが落ち着きを取り戻していく。ハイネが自分とアスランの間にあった溝を埋めてくれたと、彼は思っていた。

「シン、レイ、ルナマリア、行くぞ!」

「はい!」

 アスランが呼びかけて、シンとルナマリアが答えて、レイが頷いた。

「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」

「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」

「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」

「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」

 シンのコアスプレンダー、アスランのセイバー、ルナマリア、レイのザクがミネルバから発進した。コアスプレンダーがブラストシルエット、チェストフライヤー、レッグフライヤーと合体して、ブラストインパルスとなった。

「行くぞ!今度こそお前たちを叩き潰す!」

 シンが言い放ち、インパルスがビーム砲を発射してウィンダムとムラサメを撃ち落とす。

「敵機を近づけさせないで。本艦も迎撃して。」

「了解!トリスタン、イゾルデ、ってぇ!」

 タリアの呼びかけに答えて、アーサーが命令を下す。ミネルバも艦上にいる2機のザクとともに、近づいてくるウィンダムとムラサメを迎え撃つ。

(オーブ軍を引き上げさせるのは、その母艦であるタケミカヅチを退けるしかなさそうだ・・!)

 オーブ軍に対する気遣いを考えるアスラン。母艦を追い詰めれば指揮系統への影響は必至だと、彼は思った。

「シン、まず狙うはオーブ軍の母艦だ!」

「了解!アレさえやれば!」

 アスランが指示を出し、シンが答える。インパルスとセイバーがタケミカヅチに向かって加速した。

 

 クレタ沖を目指して、アークエンジェルがスピードを上げる。キラたちもクレタで戦闘が行われていることを知った。

「オーブ軍が・・早くやめさせないと・・!」

 オーブ軍も戦っていることに、カガリが緊張を膨らませる。

「まず僕が行く。アークエンジェルは援護をお願いします。」

 キラが呼びかけて、ブリッジから出ていった。

「私も行く!オーブ軍をむざむざやらせるわけにはいかない!」

 カガリも続いて飛び出して、ストライクルージュに乗り込んだ。

“まず決める。そしてやり通す。それが、何かを成し遂げる唯一の道です。”

 キラの心にラクスの言葉が響いてくる。

(そうだね、ラクス・・僕がこの道を諦めてしまったら、戦いは止まらない・・この力で、戦いを止める・・・)

 彼が決意を固めて、迷いを振り切った。

「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」

 キラの駆るフリーダムがアークエンジェルから発進した。

「カガリ・ユラ・アスハ、ストライクルージュ、行くぞ!」

 カガリのストライクルージュも続けて発進する。フリーダムが加速して、シンたちが戦っている真っ只中に飛び込んだ。

「フリーダム!・・アイツら、また・・!」

「キラ!」

 ビームを放って双方の行く手を阻んだフリーダムに、シンとアスランが声を荒げる。

「オーブ軍、直ちに戦闘を止めろ!」

 さらにストライクルージュも駆けつけて、カガリがオーブ軍に呼びかけてきた。

「こんな戦いをしても、何も守れはしない!地球軍の言いなりになるな!オーブの理念を思い出せ!」

「カ、カガリ様・・!」

 必死に呼びかけるカガリに、ムラサメのパイロットたちが当惑を覚える。このまま戦闘を続けていいのか、彼らは迷いを感じていた。

「アンタは・・どこまでも勝手なことをしておきながら・・そんな綺麗事を、いつまでも!」

 シンがカガリの言葉に怒りを覚える。インパルスがストライクルージュに向かってビーム砲を発射する。

 キラがとっさに反応し、フリーダムもストライクルージュの前に出てクスィフィアスを発射して、インパルスのビームと相殺した。

「お前も、ふざけるな!」

 シンがフリーダムに対しても怒りを膨らませる。

「待て、シン!」

 そこへアスランが呼びかけて、セイバーがインパルスとフリーダムの間に割って入ってきた。

「お前は連合の攻撃を止めろ!フリーダムは、キラはオレが止める!」

「アスラン・・はい!」

 アスランの呼びかけにシンが答える。セイバーがフリーダム、ストライクルージュと対峙する。

「キラ、やめろ!なぜお前たちがこんなことを!?

「その機体に乗っているのは、アスランなのか・・!?

 アスランが呼びかけて、カガリが驚きの声を上げる。

「どういうことなんだ!?・・お前はオーブ軍に攻撃しようとしてるんだぞ!」

「カガリ・・しかし今のオーブは、地球連合と同盟を結んでいるんだ・・ザフトの敵になっているんだぞ!」

 困惑しながら問い詰めるカガリに、アスランも反論する。

「でもだからって、お前も以前はオーブにいたじゃないか!それなのにお前は、オーブを討つというのか!?

「そうさせないためにも、カガリ、お前は何としてでも同盟を結ばせないようにすべきだった!それなのに・・!」

 怒鳴りかかるカガリに、アスランが責任を追及する。彼の言葉にカガリが困惑して、言葉を詰まらせる。

「はっ!お前たち、まとめて仕留めてやるよ!」

 そこへスティングのカオスが飛び込んできて、セイバーたちに向かってビームを放ってきた。セイバーたちが横に動いてビームをかわす。

 キラは感覚を研ぎ澄ませて、フリーダムが加速してビームサーベルを振りかざして、すれ違いざまにカオスのボッドと両手を切り裂いた。

「な、何だとっ!?

 スティングが愕然とする中、カオスが機動力を失って海に落ちた。

「おのれ、フリーダム!」

 連合のパイロットたちがいら立ちを膨らませて、ウィンダムたちが迫る。キラが気付き、フリーダムがビームライフルとバラエーナを発射して、ウィンダムの腕と武装を撃ち抜いていく。

「キラ、お前もよせ!」

 アスランが呼びかけて、セイバーがフリーダムの前に来る。

「なぜお前がこんな!?・・今のお前たちは、ただ戦況を混乱させているだけだ!」

 アスランがキラに向けて呼びかける。

「ただ戦いや破壊を目的としている連中ばかりじゃない!戦いを終わらせるために戦っている者もいる!それが分からないお前じゃないだろう!」

「分かっているけど、それでもみんなに傷ついてほしくない・・誰にも討たせたくないんだ・・失った命は、2度と戻らないから・・・」

 アスランからの不満に、キラが言い返す。

「自分だけ分かったような綺麗事を言うな!お前の手だって、既に命を奪ってるんだぞ!この前だって、お前が乱入しなければハイネは・・!」

 アスランがキラに対して、さらに不満をぶつける。

「それでも、討ちたくない・・みんなを討たせたくないんだ・・!」

「キラ!」

 あくまで自分を貫こうとするキラに、アスランが怒りを爆発させた。セイバーが振りかざしてきたビームサーベルを、フリーダムもビームサーベルで受け止めた。

 

 アスランとキラの対立に困惑するカガリが、ミネルバを攻撃しようとするムラサメに対しても気が気でなかった。

「やめろ、ムラサメ隊!こんな戦いをしてはいけない!」

 カガリが呼び止めて、ストライクルージュがムラサメたちの前に立ちはだかる。

「カ、カガリ様!?

 ムラサメのパイロットたちがカガリの登場に驚愕する。

「オーブ軍は連合とともに戦うのをやめろ!あの艦を、ミネルバを討つ理由がどこにある!?

 カガリがオーブ軍に向けて呼びかける。

「討ってはならない!オーブの敵でないものを、オーブは討ってはならない!」

「いいえ・・ミネルバは、ザフトは我らの敵です・・!」

 カガリの言葉に、ムラサメのパイロットの1人が反発してきた。

「これは命令なのだ・・ミネルバを、ザフトを討てという・・現在の我が軍の司令官、ユウナ・ロマ・セイラン様の!」

「ならばそれがオーブの意志!我らオーブ軍はそれに従うのみ!」

 別のムラサメのパイロットも、続いてカガリに意志を言い放つ。

「たとえ過ちだと知りながらも、この任務、果たさねばならぬのです!」

「ならば過ちを繰り返すな!退くも勇気だ!軍を退くことは恥ではない!」

 パイロットたちに対して、カガリが必死に呼びかける。

「もはや我らに退路はない・・おどきください、カガリ様!」

「我らの行く手を阻むならば、たとえあなたでも容赦は致しません!」

 パイロットたちが鋭く言い放ち、ムラサメたちがストライクルージュに向かって加速する。ムラサメの1機が突っ込み、ストライクルージュを突き飛ばした。

「うあっ!」

「カガリさん!」

 悲鳴を上げるカガリに、マリューが叫ぶ。ストライクルージュがアークエンジェルの艦上に落ちて、事なきを得た。

「カガリさん、大丈夫!?応答して、カガリさん!」

 マリューがストライクルージュに向かって呼びかけるが、カガリからの返事はない。彼女は悲しみを膨らませて、コックピットの中で泣いていた。

 どれだけ呼びかけても止まらないオーブ軍に、カガリは身を引き裂かれる思いに襲われていた。

 

 アスランのセイバーとキラのフリーダムが、ビームサーベルの激しいぶつけ合いを演じていく。そんな中、アスランは激情に駆り立てられる。

「仕掛けてきたのは地球軍だ!ヤツらと手を組んでいるオーブ軍も、ミネルバを討つことに専念している!」

 アスランが言い放ち、セイバーがビーム砲を発射する。フリーダムが加速して、ビームをかわす。

「オーブ軍を助けたいなら、オーブ軍を引き上げさせるべきだ!地球軍と同盟を締結させてはいけなかったんだ!」

「でも今オーブ軍は、ザフトと戦って討たれようとしているんだ・・だから・・!」

「だからお前たちはオーブ軍を下がらせず、地球軍やオレたちを攻撃するのか!?討ちたくないと言いながら、何だお前は!」

「でも、オーブが討たれたら、カガリが悲しむから・・・!」

 怒鳴りかかるアスランに、キラが言い返す。

「分かるけど・・君の言うことも分かるけど・・でもカガリは、今泣いているんだ!」

 キラが止まらないオーブ軍に涙しているカガリに目を向ける。

「こんなことになるのがイヤで、オーブが傷つくのがイヤで、今泣いているんだぞ!なぜ君はそれが分からない!?

「こんなことになったのもオーブの首脳陣や軍自身だ!同盟を破棄せず、軍を引き上げさせず・・それなのにただ泣いているだけで、オーブを止められるのか!?

 感情をぶつけ合うキラとアスラン。

「だからオーブが討たれてもいいと、全てオーブとカガリのせいだと、そう言って君は討つのか!?カガリが守ろうとしているものを!」

「それを危険にさらしているのは、カガリたち自身じゃないか!」

 カガリを思うキラと、彼女を責めるアスラン。

「オレはザフトとして戦う・・オーブが軍を退かずに攻め続けるなら、オレたちは、ミネルバは戦い続ける・・!」

「どうしてもオーブを討つというなら・・僕は・・君を討つ!」

 ザフトの一員としての責務を果たそうとするアスランに対し、キラが戦意を強めた。フリーダムとセイバーがビームライフルを発射して、ビームをぶつけ合う。

 フリーダムが加速して、ビームサーベルを振りかざす。セイバーもビームサーベルを手にして振りかざし、激しくぶつけ合う。

 フリーダムがもう1本ビームサーベルを手にして、セイバーの右腕を切り裂いた。

「ぐっ!」

 セイバーが損傷して、アスランがうめく。フリーダムがセイバーの残る手足を、ビームサーベルで切り裂いた。

「くそっ!」

 アスランが毒づき、セイバーがビーム砲を発射する。フリーダムが左肩をビームで負傷した。

 キラが目つきを鋭くして、フリーダムがバラエーナを発射して、セイバーのビーム砲も破壊した。

「キラ!」

 アスランが叫ぶ中、フリーダムがさらにビームサーベルを振りかざした。セイバーの胴体を切りつけて、コックピットのハッチを引き剥がした。

「アスラン!」

 キラがコックピットの中にいるアスランを目撃した。フリーダムが手を伸ばして、ふらついて前に倒れたアスランを受け止めた。

「キラ・・お前たちは・・どうして・・・」

 声を振り絞るアスランが、フリーダムの手の上で意識を失った。フリーダムが離れたところで、落下したセイバーが爆発を起こした。

 

 

次回予告

 

戦いを止めるための戦い。

その思いと裏腹に、血で血を洗う攻防は繰り返される。

カガリの悲痛とシンの怒り。

2つの叫びが戦場にこだまする。

 

次回・「散華の海」

 

母が待つ地を目指し、駆け抜けろ、アビス!

 

 

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