GUNDAM WAR

-Destiny of Shinn-

PHASE-16「罪の在処」

 

 

 ステラとの出会いと別れを経て、シンはルナマリアとともに町に戻ってきた。

「さ、早くミネルバに戻るわよ、シン。」

「そんなに急かすなって、ルナ・・」

 呼びかけるルナマリアに、シンがため息をつく。2人がミネルバを目指して走る。

 その途中、ルナマリアがふと足を止めて、シンも立ち止まった。

「どうしたんだよ、急に・・?」

 シンが不満げに聞くが、ルナマリアは横を向いたまま答えない。シンも彼女が見ている方に振り向く。

 その先にはピンクの髪の少女がいた。彼女は1人で海のほうを見つめていた。

「あの人・・あのときの・・・」

 シンが少女を見て戸惑いを浮かべる。

「この人、ラクスだよ・・ラクス・クライン・・!」

 ルナマリアが少女、ラクスを見て驚きを浮かべる。2人に気付いたラクスが、微笑んで自分の口元に人差し指を当てた。

「あの人があのラクスだったのか・・」

「気付かなかったの?・・シンって、そういうのには疎いんだから・・」

 呟きかけるシンに、ルナマリアが呆れる。

「ところで、あなたがなぜここへ?もしかして、あたしたちの応援に来てくれた・・ってわけじゃないですよね・・?」

 ルナマリアがラクスに向かって問いかけてきた。

「ごめんなさいね。今はお忍びっていうのかしらね。」

「お忍びでしたら、あなただって気付かれないような格好をしたほうが・・」

 微笑みかけるラクスに、ルナマリアが呆れる。

「ルナ、急いで戻るんだろ?そういう事情なら、連れて帰るわけにいかないだろ・・」

「シン・・・ラクス・クライン、ここは連合やオーブ軍が攻めに来る可能性があります。安全とは言えませんので、早く戻ったほうがいいですよ・・」

 シンの呼びかけに肩を落としてから、ルナマリアがラクスに注意を呼びかける。

「ご親切にありがとうございます。でも私はもう少し、ここにいますわ。」

 ラクスが笑顔を見せてルナマリアに答える。

「そうですか・・シン、行きましょう。」

 ルナマリアが当惑を見せてから、シンとともに走り出した。2人を見送ってから、ラクスは表情を曇らせた。

(互いに討ち合う。この悲劇を止めるために、戦いを引き起こすものに、立ち向かわなければなりません・・)

 ラクスが戦争の悲劇に悲しみを感じて、胸に手を当てる。

(早く戻ったほうがいい・・そうですね。私も戻らなくてはならないようですね・・・)

 1つの決意を固めてから、彼女もこの場を後にした。

 

 科学施設の跡地に、タリア、アーサー、アスランも足を踏み入れていた。具合を悪くしたレイは諜報部員の1人に連れられて、ミネルバに戻っていた。

 そこへシンとルナマリアが戻ってきて、レイの様子を見て緊張を覚える。

「レイ・・どうしたんだ・・大丈夫か・・!?

「あぁ・・問題ない・・・」

 シンが心配の声を掛けて、レイが答える。

「連合のものと思われる施設を発見した。今、艦長たちが中に入っている。」

「連合の施設・・!?

 レイが説明をして、ルナマリアが施設のほうに目を向ける。

「2人とも、制服に着替えて戻ってくるんだ・・」

「あ、あぁ・・!」

 レイの呼びかけにシンが答えて、ルナマリアとともにミネルバの中に入る。2人はそれぞれの自室で制服に着替えて、施設の前に来た。

「艦長、アスラン。」

 ルナマリアがシンとともに施設の中に入り、タリアたちに声を掛けた。

「2人も来たか・・この施設、何らかの実験も行われていたようだ。それもおそらく、人間を強化するための人体実験を・・」

 アスランがシンたちに答えて、施設について口にする。

「人体実験って・・どういうことなんですか・・・!?

 シンが動揺を覚えて、たまらず声を荒げる。

「連合の施設での人体強化・・兵士やパイロットとして育てていたのでしょうね・・」

 タリアは平静を保ちながら語りかける。

「遺伝子操作を嫌う連合、そしてブルーコスモス。彼らが薬の投与や調整などを使って作り上げた、生きた兵器“エクステンデッド”・・実験に耐え抜き、殺し合いに生き残った者だけを選別し、そうでない者は切り捨てられる・・ここはそういう場所なのね・・」

 タリアがエクステンデッドについて語っていく。

 遺伝子操作によってナチュラルよりも身体能力が高いコーディネイター。彼らを憎む連合やブルーコスモスは、調整を施した強化人間を戦闘に投入していた。

「今はここにあるデータを細大漏らさず収集することが先決よ。」

「分かりました。研究チームにも知らせておきます。」

 タリアが言いかけて、アーサーが答えて敬礼した。

「本当に・・何なんですか、ブルーコスモスは・・!?

 シンがいら立ちを感じて、不満の声を上げる。

「コーディネイターは自然に逆らった間違った存在とか言っておきながら、自分たちはこれですか!?遺伝子操作は間違ってて、これはいいっていうんですか!?

 声を荒げて疑問を投げかけるシンに、ルナマリアとアスランも深刻さを隠せなくなっていた。

「アイツらも人のことが言えないじゃないか・・それなのに自分たちが正しいと思い込んで・・・!」

「シン・・・」

 いら立ちで体を震わせるシンに、ルナマリアは困惑していた。

(こんなヤツらに地球もプラントもかき乱されているなんて・・そんなヤツら、オレが叩き潰してやる・・・!)

 シンの中にある連合、そしてブルーコスモスに対する怒りがさらに強まった。

(そのためにもっと強くならないと・・ハイネ、オレ、もっと強くなってみせます・・・!)

 ハイネにも自身の思いを伝えるシン。彼の力を求める感情がさらに強まっていた。

 

 シンたちと別れたラクスは自分の居場所に戻ってきた。それはアークエンジェルだった。

「ラクス!」

 アークエンジェルのそばにいたキラが、ラクスに駆け寄る。

「どこに行ってたんだ、ラクス・・心配してたんだよ・・・!」

「もしもお前に何かあったら・・・!」

 キラと男、アンドリュー・バルトフェルドがラクスを心配する。

「ごめんなさいね。でも私はこうして無事でしたので・・」

 笑顔で謝るラクスに、キラもアンドリューも言葉が出なくなる。

「キラ、バルトフェルド隊長、お話があります。カガリさんとラミアス艦長にも・・」

 真剣な面持ちを浮かべて、ラクスがキラたちに思いを打ち明けた。3人はアークエンジェルに戻り、ラクスはカガリ、そしてアークエンジェル艦長であるマリュー・ラミアスに話を切り出した。

「プラントに戻る!?

「えぇ。現在プラントがどのような動きをしているのか、確かめに参りますわ。ギルバート・デュランダル議長のことも、よく知っておく必要もありますし。」

 カガリとマリューが驚きの声を上げて、ラクスが自分の考えを告げた。

「僕も行くよ、ラクス・・ラクスだけを行かせるわけには・・・!」

 キラがラクスを心配して声を荒げる。

「私なら大丈夫です。それにキラはアークエンジェルにいてください。キラにやることがあるように、私にもやるべきことがあるのですから・・」

「でも・・・!」

 ラクスが笑顔で思いを伝えるが、キラは気が気でなかった。

「だったらオレがラクスと一緒に行く。“エターナル”を拠点として、デュランダル議長とその身辺を調査してみる。」

 するとアンドリューがラクスとの同行を申し出てきた。

「バルトフェルドさん・・!」

「キラ、お前はアークエンジェルに残れ。アークエンジェルとカガリ、オーブを守るのがお前のやるべきことだ。」

 戸惑いを見せるキラに、アンドリューも呼びかける。キラがラクスに視線を戻すと、彼女は微笑んで頷いた。

「ラミアス艦長、後のことは頼みましたよ。」

「分かりました。ラクスさん、バルトフェルドさん、2人とも気を付けて。」

 アンドリューが声を掛けて、マリューが微笑んで頷いた。

「ラクス・クラインどの、あなたも有名人なのですから、移動するときはそれなりの変装をしなくてはなりませんぞ。」

 アンドリューが突然お目付け役のような素振りを見せる。彼の態度にラクスがきょとんとなった。

 

 アークエンジェルを離れ、近くのシャトルターミナルに赴いたラクスとアンドリュー。2人の格好は今、普段の2人からかけ離れたラフなものだった。

「何だか落ち着けませんわ、この格好・・」

「向こうにつくまでの我慢だ。お前を支持している者もいれば、敵視している者もいないとはいえない。この状況下だ。その可能性も高い・・」

 当惑を見せるラクスに、アンドリューが注意を投げかける。

「シャトルで宇宙に上がって、ダコスタくんの用意した小型艇に移って、エターナルまで行く。」

「はい。参りましょう、バルトフェルド隊長。」

 アンドリューの言葉を受けて、ラクスが言いかける。2人は一般旅行者を装って、プラントへ向かうシャトルに乗った。

 

 フリーダムの武力介入により損害を被った連合とオーブ軍。機体と戦艦の修繕を終えて、彼らはミネルバへの攻撃を再開しようと考えていた。

「あの時は突然の乱入者によって混乱を来たしてしまったが、今度はそうはいかんぞ。たとえまたヤツらが現れようと、我らにとってもはや想定の範疇にある。」

 ネオが現状を告げて、連合の軍人たちに呼びかける。

「先日の戦闘、不甲斐ないところを見せてしまい、申し訳ありません。そちらも突然のことで驚かれたでしょう。」

 ネオがユウナたちのいるオーブ軍母艦「タケミカヅチ」に向けて連絡を取る。

“えぇ。さすがの私もあのときは驚かされましたけど、ご心配なく。あの連中も敵だということはハッキリしているのですから。”

 ユウナが自信満々の口調で、ネオに答える。

“今度こそ我らオーブ軍が、ミネルバを打ち倒してみせよう。”

「頼もしい限りです。我々もその頼もしさに負けぬよう、尽力させていただきます。」

 宣言するユウナにネオが称賛を投げかける。ユウナとの通信を終えたところで、ネオがため息をついた。

「オーブの現代表の尊大な振る舞いには頭が下がるな・・あの態度をいつまでも見ないためにも、今度こそザフトとの決着を着けねば・・」

 ネオの呟きを聞いて、近くにいたオペレーターたちが深刻な面持ちを浮かべる。

「出撃準備が完了次第、ミネルバを包囲する。アークエンジェルの接近にも注意しろ。」

「了解!」

 ネオの命令にオペレーターたちが答えて、レーダーを注視する。

「スティングたちの様子は?」

「調整は完了しています。ただステラの精神状態が、以前と比べて変化が生じています。」

 ネオの問いかけに軍人が答える。

「変化?」

「はい。脳波にも違いが出ています。戦闘面で悪影響が出なければよいのですが・・」

 ネオの投げかける疑問に、軍人が深刻さを込めて答える。

「予定通り、3人を出撃させる。問題が見られたら呼び戻せ。万が一の時は、オレも出撃して連れ戻す。」

「了解しました。そのように致します。」

 ネオの指示に軍人が答えた。

(1人になったときに何かあったのだ。それがステラに影響を及ぼすことに・・)

 ステラの異変を気に掛けるネオ。

(足かせにしかならない記憶は、戦いの邪魔になるだけだ・・そう。空っぽの私としても・・)

 心の中で自分に言い聞かせて、ネオも迷いを振り切った。

「ノアローク大佐、全艦、全機体の修復、完了しました。いつでも出撃できます。」

 別の軍人がやってきて、ネオに報告をしてきた。

「よし!我々はこれからミネルバの追撃に向かう!」

「はっ!」

 ネオが指示を出して、軍人たちが返答する。連合の部隊がミネルバを追って動き出した。

 

 調査チームが施設を訪れ、さらなる調査が行われた。調査を彼に託して、タリアたちはミネルバや機体の整備に専念することになった。

 自分の部屋に戻ったシンは、強くなろうとする意思を高めていた。

(もっと強くなってやる・・連合やオーブを倒して、フリーダムも止められるくらいに・・!)

 力への渇望を募らせるシンが、シュミレーション練習を続ける。しかしフリーダムが他の機体と比べて一線を画す性能ということを実感していたため、普通の練習では強くなるのは望めないと思って、シンはいら立ちを募らせていた。

 不満を抱えたまま、シンは自分の部屋を出た。そのとき、彼は部屋に戻ろうとしていたレイと鉢合わせになる。

「レ、レイ・・・!」

「シン・・どうしたんだ?」

 動揺を見せるシンに、レイが疑問を投げかける。

「いや・・ちょっとイライラがたまってしまって・・」

「落ち着け、シン。どんなことも、冷静さを欠いては成功しない。」

 気まずさを見せるシンに、レイが言いかける。

「シン、お前ならできる。強くなることも、どんな困難を乗り越えることも。」

「レイ・・ありがとう。ハイネも、オレは強くなれるって言ってくれた・・・」

 レイに励まされて、シンが落ち着きを取り戻していく。

「もうこんな戦いは終わりにする・・連合にもオーブにも、フリーダムにも好きにはさせない・・・!」

 決意と共に敵への敵意を強めるシン。彼の意思を見て、レイが小さく頷いた。

 2人のこの会話を、この廊下を歩いていたアスランが耳にした。フリーダム、キラも敵視されていることに、アスランは苦悩を深めた。

“コンディションレッド発令。パイロットはドックへ集合してください。”

 そのとき、メイリンからの伝令がミネルバの艦内に響き渡った。

「シン、レイ!」

 アスランが呼びかけて、シンたちが彼に目を向ける。

「アスラン、出撃ですね。」

「あぁ。パイロットスーツに着替えて集合だ。」

 レイが言いかけて、アスランが呼びかける。3人は1度部屋に戻り、パイロットスーツに着替えてドックに向かった。

「連合がこちらへ向かっている。オーブ軍とともに。ザフトが調査しているあの施設を、奪還しようと考えている可能性が高い。」

 アスランがシンたちに状況を説明する。

「施設の近くで戦闘をするわけにはいかない。そこでミネルバが移動し、クレタ沖の海上で迎え撃つことになった。」

 アスランの言葉を受けて、レイとルナマリアが真剣な面持ちで頷く。

「連合軍を施設に近づけさせてはならない。防衛ラインを絶対に死守するぞ。」

「はい!」

 アスランの指示にルナマリアが答える。

「アスラン、フリーダムとアークエンジェルについてですが・・」

 レイが投げかけた言葉に、アスランが一瞬当惑を浮かべる。

「先日の戦闘・・再びヤツらが乱入する可能性は十分考えられます。一方的にやられるわけにはいきません。」

「迎え撃つっていっても、フリーダムは強すぎるわよ・・」

 レイに続いて、ルナアリアがフリーダムに対する不安を口にする。

「今度はやられない・・今度は返り討ちにしてやる・・・!」

 シンがフリーダムに対する敵意を見せる。深刻さを募らせるアスランが、沈黙を置いてから話を切り出した。

「フリーダムのことだが・・オレが呼びかけて、戦いをやめさせる・・」

「やめさせるって、フリーダムをですか・・!?

 アスランが口にした言葉に、ルナマリアが声を荒げる。

「フリーダムのパイロット、キラ・ヤマトはアスランの親友でしたね。あなたの言葉なら聞き入れるかもしれないですね。」

「信用できるものか・・いきなり攻撃してきた連中なんだぞ・・・!」

 レイが冷静に言いかけるが、シンは不満を絶やさない。

「アスラン、もしあなたの説得に応じなければ・・?」

 レイが表情を変えずに、アスランに問いかける。

「そのときは、オレがアイツを討つ・・・!」

 アスランがシンたちに向けて、決意と覚悟を告げた。

 

 

次回予告

 

ザフト、連合、オーブ、そしてアークエンジェル。

様々な勢力が、血塗られた海で入り乱れる。

シンの怒り、アスランの正義、キラの意思。

それぞれの思いの交錯と衝突の果てにあるものは?

 

次回・「届かぬ思い」

 

強き友へ立ち向かえ、セイバー!

 

 

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