GUNDAM WAR
-Destiny of
Shinn-
PHASE-15「深海の孤独」
フリーダムの乱入により、戦況は大きく混乱した。ハイネもフリーダムの手にかかり、命を落とした。
ミネルバは近くの軍港に入港して、修繕を急ぐことになった。
各モビルスーツはセイバーを除いて損傷を被り、ミネルバはタンホイザーの破壊により艦首に大きな被害が起こっていた。
「資材はすぐにディオキアから回してくれるそうですが・・」
「とにかく急ぐしかないわ。この状態で攻撃を受けたら、ひとたまりもないわ・・」
言いかけるアーサーに、タリアが深刻な面持ちで答える。
(フリーダムはあのとき、私たちや連合やオーブの機体や戦艦の武装だけを破壊するようにしていた。武器を壊せば戦いが続くことはないと考えていたというの・・!?)
タリアがフリーダムの行動に疑問を感じていく。
(そんなのは仮に止められたとしても、一時的なものでしかない。それどころか、さらに被害が拡大することになる・・戦う術をもがれた機体は、敵勢力の格好の的になるだけなのに・・)
フリーダムのこの戦い方では、戦いを止めるどころか戦火を拡大することになる。タリアもフリーダムに対する不信感を募らせていた。
フリーダムに対する疑心暗鬼は、パイロットたちの間でも膨らんでいた。同時にシンたちの心に、ハイネの死が重くのしかかっていた。
「フリーダム、アークエンジェル・・何なんだよ、アイツらは・・!」
シンがフリーダムに対する怒りを募らせて、壁に握った手を叩きつける。
「アスハもアスハだ!連合と手を組んだ自分の軍に、いきなり現れて戦闘を止めろとか・・ホントに何考えてるんだ・・!?」
「そうよね・・もう、ゴチャゴチャって感じ・・あたしたちも向こうも見境なしなんだから・・・!」
シンに続いてルナアリアも不満を口にする。
「アスラン、あなたは先の大戦で、フリーダムやアークエンジェル、オーブと行動を共にしていましたが・・」
レイがアスランにキラたちのことを聞いてきた。
「オレの仲間だった・・それなのに、なぜあのようなこと・・・!?」
アスランもキラたちに対する疑念を感じずにいられなかった。
「オレとアイツの思いは同じだったはずだ・・それなのに・・・!」
「同じ!?あれのどこが同じ思いなんですか!?こっちの事情も知らずに攻撃してきて!」
キラたちを信じようとするアスランに、シンが怒鳴りかかる。
「違う!・・キラはオレの仲間・・敵じゃないんだ・・!」
「アイツらが余計なことをしてこなきゃ、ハイネは死ななかったんだ!」
言い返そうとするアスランに、シンがさらに言い放つ。この言葉を聞いて、アスランが言葉を詰まらせる。
「許せない・・好き勝手に攻撃してきたフリーダムも、アイツらを止められなかったオレ自身も・・・!」
「シン・・・」
フリーダムだけでなく自分の無力さも呪うシンに、ルナマリアが当惑を覚える。シンはいら立ちを抱えたまま、アスランたちから離れていく。
「シン!」
ルナマリアが慌ててシンを追いかける。シンを気に掛けるアスランだが、キラたちのことも気がかりになり、動くことができなかった。
戦いをやめるよう呼びかけたカガリだが、オーブ軍は戦闘を再開した。戦いを止めなかった自軍に、カガリは辛さを禁じ得なかった。
フリーダムを駆り戦いを止めようとしたキラだが、ハイネを手に掛け、シンの怒りを買うことになってしまったことに、苦悩を感じていた。
「辛そうな顔をしてらっしゃいますね、キラ・・」
そこへラクスがやってきて、キラが顔を上げて振り向く。
「僕は、戦いを止めようとした。でも僕は命を奪って、憎しみを広げてしまった・・・」
キラがラクスに自分の悩みを打ち明ける。彼は戦いを止めることに迷いを抱くようになってしまった。
「僕のやっていることが、馬鹿げていることだとしたら・・・」
「キラは、悲しいことを多く抱えています。ですが、今ここにいるあなたが、全てですわ。」
落ち込むキラをラクスが励ます。
「まず決める。そしてやり通す。それが、何かを成し遂げる唯一の道です。」
「ラクス・・・」
ラクスに励まされて、キラが戸惑いを覚える。
「ありがとう、ラクス・・戦いを止める。そのために僕はこの力を使う・・」
キラはラクスに感謝して、迷いを振り切る。彼は戦いを止める戦いを続けることを心に決めた。
ミネルバや機体の修繕が続くため、シンたちパイロットは待機状態にあった。シンは私服に着替えて近くの町に向かって出かけていく。
「シン、ちょっと待ってよ・・今はミネルバで待機してなくちゃ・・!」
ルナマリアが追いかけて、シンを呼び止める。
「別にいいだろ・・ルナマリアには関係ないことだし・・」
シンが不満げに答えて歩き続ける。
「今はミネルバは大変なときなの・・もしまた連合とか攻めてきたらどうすんのよ・・!」
ルナマリアがさらに呼び止めるが、シンは聞かずに町外れのほうへ歩いていく。ルナマリアも不満を浮かべて、彼を追いかける。
「ついてくるなよ、ルナ・・オレがどうしようとオレの勝手だろうが・・」
「そうはいかないわよ。シンを連れ戻してこなくちゃ、あたしが責任追及されるんだから・・」
さらに文句を言うシンに、ルナマリアが言いかける。2人は海岸沿いの道路に来ていた。
「もう・・あんまり遠くに行きすぎると、戻れなくなるわよ・・」
ルナマリアがため息まじりに注意する。直後、立ち止まっていたシンの背中に彼女がぶつかる。
「イタタ・・ちょっと、急に止まんないでよ・・・!」
ルナマリアが顔に手を当てながら、シンに向かって注意する。ところがシンは前方の道路の脇を見ていた。
その先には1人の少女がいた。シンは彼女がアーモリーワンで会った少女ということを思い出した。
「あの子は、あのときの・・・」
シンが呟いて、海を見つめている少女、ステラを見つめる。
「シン、知ってるの?」
「あぁ。1回会っただけだけど・・」
ルナマリアが聞いてきて、シンがステラを見たまま答える。ステラは空を仰ぎ見るように、両手を広げた。
そのとき、ステラが崖から足を踏み外して、シンたちの前から見えなくなった。
「えっ!?落ちた!?」
ルナマリアが驚きの声を上げて、シンが慌てて崖へ駆けつける。ステラは崖の壁にすがりついていて、下の海に落ちないでいた。
「いた!・・つかまれ!オレが引き上げる!」
シンが手を伸ばしてステラに呼びかける。ステラは怖さを感じていて、手を伸ばすこともできずにいた。
「早くしろ!このままじゃ海に落ちるぞ!」
シンが声と力を振り絞り、さらに手を伸ばす。彼は怯えているステラの腕をつかんだ。
「やった・・!」
ステラを引き上げることができると思い、シンが笑みをこぼした。
だがその時、シンも崖から足を踏み外して、ステラとともに落下した。
「シン!」
ルナマリアが慌てて伸ばした手も届かず、シンとステラが落下する。シンがとっさに岩の壁を強く蹴って、海のほうへ向かう。
シンとステラが撃の沖に落ちた。横に飛んで沖のほうへ落ちることによって、岩場や浜辺に落ちることなく、衝撃も和らげることもできた。
「シン!」
ルナマリアが崖の上から呼びかける。シンがステラを抱えて、海から顔を出した。
「オレたちは大丈夫だ!すぐに海から出る!」
「シン・・すぐにそっちへ行くわ!」
呼びかけるシンに答えて、ルナマリアが迂回して崖の下に向かった。シンは海から海岸に出て、ステラを抱えてその先の小さな洞窟にたどり着いた。
「おい、しっかりしろ!オレの声が分かるか!?」
シンがステラに向かって呼びかける。ステラがせき込んで呼吸をしていく。
「息を吹き返した・・・おい、大丈夫か!?」
シンが再び呼びかけて、ステラが閉ざしていた目を開く。
「・・・あなた・・誰・・・?」
「誰って・・お前なぁ・・さっきあの上から足を踏み外して落ちたんだぞ・・オレが助けて、今ここにいるんだけどな・・・」
首をかしげるステラに、シンがため息をついてから事情を話す。
「それにしても危なかった・・うまく壁を蹴って、うまく海の奥のほうに落ちてなかったら、危うく死ぬところだった。
「えっ!?・・死・・死ぬ!?」
肩を落とすシンの呟きを聞いて、ステラが目を見開く。彼女は死の恐怖に襲われて、体を震わせる。
「死ぬ・・死んじゃう・・・イヤ・・怖い・・・!」
「お、おい・・どうしたんだよ・・・!?」
ふらつきながら歩き出すステラに、シンが動揺を覚える。
「死ぬのはイヤ・・怖い!・・死んじゃうはダメ・・!」
「何言ってるんだよ!?死ぬところだったのが助かったんだよ!」
海に向かっていくステラを、シンが声を荒げて追いかける。シンがステラの腕をつかんで、海から引き離そうとする。
「やめろって!そっちに行くほうが死んじまうって!」
「イヤッ!死ぬの、怖い!怖いよぉ・・!」
シンが呼び止めるが、ステラはさらに怯えて暴れ出す。それでもシンは彼女を離すまいと必死だった。
「君は死なない!怖いものは何もない!オレが君を守る!」
「し・・死なない・・・守る・・・!?」
シンが必死に呼びかけると、ステラが心を動かされる。彼女の体から徐々に震えが弱まっていく。
「そうだ!死なない!・・さっきだって、オレが君を助けたんだから!」
「死なない・・死なない・・・!」
呼び続けて手を放すシンに、ステラが戸惑いを感じていく。
「大丈夫だ・・もうすぐオレの仲間が助けに来てくれる。それまであそこで待っていよう・・」
「う・・うん・・・」
シンが微笑んで呼びかけると、ステラが小さく頷いた。2人は洞窟に戻るが、シンは自分たちの服が濡れていたことに気付く。
「このままじゃ風邪をひいてしまうな・・」
シンが苦笑いを浮かべてから、近くに落ちている小枝を集めた。彼は携帯していた銃で枝に発砲して、その熱で発火した。
「これで体と服を乾かすんだ・・」
「うん・・」
シンの言葉にステラが頷く。彼女はたき火に手をかざしてあたたまる。
「急いで下まで下りてきたのに、ずいぶんと楽しそうね・・」
そこへ崖を回り道して下りてきたルナマリアが、シンとステラを見て不満げに声を掛けてきた。
「こっちは大変だったんだよ・・海に落ちたから、そのままにしたら風邪ひいてしまうし・・」
シンも不満げに答えて、ステラを心配する。
「ハァ・・しょうがないんだから・・私がこの子の面倒みるから・・」
ルナマリアはため息をついてから、ステラに歩み寄って見つめる。
「あなた、ケガはしていないわね?あたたまったら上に上がりましょう。」
ルナマリアが呼びかけるが、ステラはきょとんとしている。
「そう言えば君、名前は?」
「名前・・?」
シンが訊ねると、ステラが首をかしげる。
「オレはシン。シンだ。」
「シン・・・」
「そうだ。シンだ・・君は?」
「私・・ステラ・・・」
シンとステラが互いの名前を口にする。
「私はルナマリア。ルナって呼んで。」
「ルナ・・・シン・・ルナ・・」
ルナマリアも自己紹介をして、ステラが言いかける。
「この子、何か深い事情があるみたいなんだ・・」
シンが口にした言葉を聞いて、ルナマリアが表情を曇らせる。2人は1度ステラから少し離れて、彼女に聞こえないように小声で話す。
「ステラは死ぬことをものすごく怖がってるみたいなんだ・・死ぬって聞いただけで取り乱して・・・」
「・・もしかしたら、あの子も戦争に巻き込まれて、それが強いトラウマになっているんじゃないかな・・・」
シンがステラのことを話して、ルナマリアが推測する。
「身寄りも知り合いもいないなんてことはないはずよ・・近くにいるのかもしれないわ・・」
「あぁ・・この上でステラを捜してるかもしれないし・・」
ルナマリアが推測を投げかけて、シンが崖上に意識を向ける。
「服が大体乾いたら、上に上がるとするか・・」
シンが言いかけてルナマリアが頷く。話がまとまった2人が、ステラのところに戻る。
「服は乾いたみたいね。そろそろ上に上がるわよ。」
ルナマリアがステラの服を手で触れて確かめる。
「うん・・・」
ステラが頷いて立ち上がり、シン、ルナマリアとともに洞窟から出た。3人はルナマリアが通ってきた道を上がって、元の道路に戻ってきた。
「ここじゃ周りに人がいない・・」
「町のほうに行ってみましょ。そこなら誰がいるはずよ。」
シンが周りを見回して、ルナマリアが言いかけた。
「ステラ!」
そこへ2人の青年が現れて、ステラたちに向かって呼びかけてきた。スティングとアウルである。
「ステラ、こんなところにいたのか・・!」
「スティング・・アウル・・・」
スティングがアウルと共に駆け寄り、ステラが微笑みかける。
「この子の知り合いか?」
「あぁ。途中ではぐれてしまって、捜していたんだ・・」
シンが聞いてきて、スティングが答える。
「ったく、1人で勝手にどっかに行くなっての・・!」
アウルがステラを見て文句を言う。
「ありがとう。ステラを助けてくれて・・」
「危ないところだったけど、助けられてよかった・・」
スティングがお礼を言って、シンが安心を浮かべる。
「シン・・・ルナ・・・」
「ステラ、さよなら・・」
声を発するステラに、シンが別れの挨拶をする。ルナマリアも微笑んで、ステラを見送る。
「ステラ、行くぞ。みんな待ってる・・」
「うん・・・」
スティングが呼びかけて、ステラが頷く。2人とアウルはシンとルナマリアに見送られながら、この場を後にした。
「ステラ・・・」
ステラのことを気に掛けるシン。彼を見てルナマリアが小さくため息をつく。
「私たちも早く戻るわよ。いつまでもミネルバから離れているわけにはいかないんだから・・」
「あ、あぁ・・」
ルナマリアに言われて、シンが頷く。2人もミネルバに向けて引き返す。
(オレは守る・・あのステラという子やみんなを守れるだけの力を、オレは手に入れる・・・)
ステラとの出会いをきっかけにして、シンが改めて決意を固める。
(戦争で誰かが死んだり、ステラみたいに悲しい思いをさせたりしたらいけない・・そうですよね、ハイネ・・?)
悲劇を繰り返してはならない。そのために自分が強くならないといけないと、シンはハイネを思っていた。
その頃、レイは諜報部からの知らせによる任務で、ミネルバが停泊している港の近くにある施設跡地に赴いた。彼は待っていた諜報部員と合流して、施設に入った。
「プラントの施設ではありません。おそらく連合のものでしょう。」
「この施設、研究用の機械や薬品が置かれていた形跡もあります。」
諜報部員がレイに報告をする。3人は施設の中を進み、地下にも足を踏み入れた。
地下には他の種類の機械やカプセルがあった。カプセルのうちの数個の中に、子供の遺体があった。
「な、何だ、ここは・・!?」
「何かの実験場か・・・!?」
諜報部員たちが地下の部屋を見渡して、緊迫を覚える。
そのとき、レイが目を見開いて体を震わせた。
「どうした、レイ・ザ・バレル!?」
諜報部員が呼びかけるが、レイは体を震わせる。床に膝をつく彼は今、冷静さを失っていた。
次回予告
揺るがぬ事実と、そこに秘められた悲劇。
戦うためだけの子の過去が今、明かされる。
プラントの歌姫の出会いと決意。
様々な思いが交錯する中、シンは・・・?
新たなる宇宙へ、はばたけ、アークエンジェル!