GUNDAM WAR
-Destiny of
Shinn-
PHASE-14「混迷の自由」
突如、シンたちとの戦いに乱入してきたフリーダム。ミネルバのタンホイザーを攻撃したのは、フリーダムだった。
「タンホイザー、損傷!使用不能です!」
「消火急げ!ダメージコントロール!」
メイリンが状況を報告し、タリアが指示を出す。炎上しているタンホイザーの消火に、クルーたちが必死になる。
(フリーダム・・あの機体がまた現れた・・・!)
タリアがフリーダムを見て、緊張を膨らませていた。
フリーダムの乱入に、シンたちは緊張を感じていた。特にアスランの動揺は大きかった。
さらに1隻の戦艦が現れ、フリーダムに追いついた。先の大戦で活躍した戦艦「アークエンジェル」である。
「カガリ・ユラ・アスハ、ストライクルージュ、行くぞ!」
アークエンジェルから1機のモビルスーツが発進した。かつてキラが登場していた機体「ストライク」。その同型で赤い体色をしたカガリの専用機「ストライクルージュ」である。
「あ、あれは!」
「アスハ家の紋章・・カガリ様の機体、ストライクルージュです!」
ユウナが動揺をあらわにして、オーブの軍人も声を荒げる。さらわれたはずのカガリが戦場に現れたことに、彼らは驚きを隠せなかった。
「私はオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ!オーブ軍、この戦いは、我らが果たすべき戦いではない!直ちに戦闘を停止し、軍を退け!」
カガリの呼び声がオーブ軍に向けて響き渡る。ストライクルージュに乗っているのは、彼女だった。
「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない!それが我らオーブの理念!地球連合と同盟を結び、このような戦いをすることは、我らの理念に反することとなる!オーブ軍、直ちに戦場から撤退せよ!」
カガリが再びオーブ軍に向けて呼びかける。さらわれたはずの代表が戦闘停止を訴えていることに、ムラサメのパイロットたちや他のオーブの軍人たちにも動揺が広がっていた。
「ユウナどの、これはどういうことですかな?」
ネオがユウナに向けて声を掛けてきた。ユウナの動揺が一気に大きくなる。
「あれは本当に、あなた方の代表なのですか・・?」
「それは・・・!」
「代表は誘拐されたと聞いています。それがなぜ今頃、あんなものに乗って現れて、軍を退けと言い出すのですか?」
「いや、だから、その・・・!」
「事と次第によっては、あなた方も少々面倒なことになってしまいますが・・・」
ネオに忠告を送られて、ユウナが言葉が出なくなる。
「ち・・違う!あれはカガリなんかじゃない!」
ユウナが声を張り上げて、ネオに言い返す。その返答に、オーブの軍人たちが驚きを隠せなくなる。
「ユウナ様、何を仰いますか!?あの機体は紛れもなくストライクルージュ!カガリ様の機体です!」
「我々に向けて呼びかけてきた声も、確かにカガリ様のものです!」
軍人たちがたまらずユウナに向かって呼びかける。
「だからって、本物のカガリだってことにはならない!偽者かもしれないし!」
「ユウナ様!」
「でなければ、操られているんだ!きっと、アークエンジェルの連中に脅されて!・・ホントの、ちゃんとしたカガリだったら、こんなバカげたことをするはずないだろ!」
オーブの戦いを止めようとしているのがカガリだと認めないユウナに、軍人たちは愕然となる。ユウナが自分の保身を優先させていることは、軍人たちの目にも明らかだった。
「アイツらも撃て!ザフト諸共!僕たちは地球連合と同盟を結んでいるんだ!それを今さら、この戦いをやめられるか!」
「あなたという方は・・・!」
命令を下すユウナに、軍人たちは困惑するばかりになった。
「あの偽者に攻撃しろ!ミサイル発射だ!」
「ユウナ様・・・分かりました・・・!」
ユウナの命令に指揮官が答える。
「しかし、それでは・・!」
「ヤツらも我らの敵だ・・ヤツらもせん滅する!」
反論する軍人に言い返して、指揮官がさらに指示を出す。オーブの軍艦がストライクルージュに向けて、ミサイルを発射した。
そこへフリーダムが前に出て、放たれたミサイルに対して全てロックオンして、全ての砲門からビームを一斉発射した。ミサイルが全て狙撃されて爆破した。
正確な迎撃を見せたフリーダムに、ユウナやオーブの軍人たちだけでなく、シンたちも驚きを感じていた。
「な・・何をするんだ、オーブ軍!?」
カガリは驚愕しながら、オーブ軍に向かって呼びかける。しかしオーブ軍は引き下がろうとしない。
「そうだよ!ミネルバもあの連中もやっつけるんだよ!」
ユウナが命令を下して、オーブ軍に攻撃させる。ムラサメがインパルスたちへの攻撃の再開だけでなく、フリーダムたちにも戦闘を仕掛ける。
「その調子でバンバンやってくれたまえ!僕たちは地球軍の味方なんだからね!」
高らかに軍に指示を出すユウナ。彼の態度に不満を感じながらも、オーブ軍はインパルスたちとフリーダムたちへの攻撃を続けた。
「オーブ軍、戦闘をやめろ!私の声が聞こえないのか!?」
カガリがさらに呼びかけるが、オーブ軍は戦闘をやめない。
「オーブ軍、すぐに引き上げろ!こんな戦いをしてはいけない!オーブ軍!オーブ軍!」
「カガリ、もうダメだ・・・」
呼び続けるカガリを呼び止めたのはキラだった。
「残念だけど、もうどうしようもないみたいだね・・」
「そんなことは・・!」
「カガリはもう下がって・・後は僕がやるから・・・」
困惑しているカガリに呼びかけて、キラが戦闘に意識を傾ける。戦闘を再開したインパルスたちと連合軍、オーブ軍に向かって、感覚を研ぎ澄ませたキラの駆るフリーダムが加速した。
「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」
「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」
ルナマリアとレイのザクが発進して、ミネルバの防衛につく。ミネルバに迫る連合、オーブの機体に対して、インパルスたちは防戦一方となる。
「フリーダム・・また、オレたちの前に・・・!」
シンがフリーダムに対する怒りを感じていく。彼の脳裏に、両親とマユが死んだときのことがよみがえる。
「シン、今はミネルバの防衛に専念するんだ!あの状態じゃ反撃もままならないからな・・アスランもいいな!」
そこへハイネが呼びかけてきて、シンが我に返る。
「いいぜ、いいぜ!何だか分かんないけど、このチャンスを利用させてもらうぜ!」
アウルが高らかに叫んで、アビスが海中を進んでミネルバに迫る。シンたちがアビス、そしてカオスたちへの警戒を強める。
そこへフリーダムが駆けつけ、海に向けてレールガン「クスィフィアス」を発射した。クスィフィアスのビームがアビスの両肩のビーム砲を破壊した。
「何っ!?」
アビスの武器を破壊されて、アウルが驚愕する。
「アビス!・・あのヤロー・・!」
スティングがいら立ちを浮かべて、カオスがビーム砲を発射する。キラは即座に反応し、フリーダムがビームをかわして一気にカオスに詰め寄る。
「コイツ!」
スティングが目を見開き、カオスがビームサーベルを手にする。しかしこの瞬間、フリーダムは既にビームサーベルを手にして振りかざしていた。
フリーダムの繰り出した一閃が、カオスの腕を切り裂いた。
「ぐっ・・!」
カオスも損傷し、スティングがうめく。しかしフリーダムはカオスに追撃せず、上昇して離れていった。
「何だとっ!?・・アイツ、とどめを刺さない・・!?」
追撃してこないフリーダムに、スティングがさらに驚愕する。
フリーダムは今度はミネルバを防衛している2機のザクに向かって加速してきた。フリーダムがビームライフルで速射し、ザクのビーム銃とビーム砲を破壊した。
「くっ!」
「そんな!?」
瞬く間に武器を破壊されて、レイがうめき、ルナマリアが驚く。
「アイツ、オレたちも連合も見境なく・・!」
「ったく、冗談じゃないぜ・・!」
フリーダムの行動に、シンとハイネが毒づく。フリーダムは今度はムラサメに攻撃を加えていく。
フリーダムはザフト、連合軍、オーブ軍問わず、この場にいる戦力に無差別に攻撃していく。ただし武装を破壊するだけで、撃墜や完全破壊は避けていた。
「艦長、これはいったい・・!?」
フリーダムへの疑問を感じて、アーサーが声を荒げる。
(どういうことなの!?・・始めはこちらを撃っておきながら・・・!)
タリアもフリーダムの行動を疑問視していた。
(相手構わずに攻撃をしている・・しかも武器だけを正確に破壊している・・まさかただ単に、戦いを止めたいだけだなんて馬鹿げたことじゃないでしょうね・・・!?)
戦いを止めるための戦い方をするフリーダムに、タリアが眉をひそめる。彼女はフリーダムのこの戦い方も不審に思っていた。
「キラ・・・キラ!」
アスランが動揺しながらキラに呼びかける。しかしアスランの声はキラに届いていないのか、フリーダムの攻撃は続く。
「フリーダム・・何を考えてるんだ!」
シンがフリーダムに対して激情を膨らませていく。インパルスがビームライフルで射撃するが、キラは反応し、フリーダムがビームを回避する。
フリーダムが加速して詰め寄り、ビームライフルごとインパルスの左腕を、ビームサーベルで切り裂いた。
「なっ!?」
瞬く間にインパルスがやられたことに、シンが驚愕する。同時に彼はフリーダムに対する怒りを募らせる。
「アイツ・・・アイツ!」
ステラがフリーダムにいら立ちを感じて、ガイアがビームライフルを発射する。フリーダムはビームをかわして、間髪入れずにビームライフルでガイアのビームライフルを狙撃した。
「ぐっ!」
ガイアがビームライフルの爆発の衝撃で体勢を崩して、ステラが揺さぶられてうめく。
「手当たり次第かよ・・このヤロー、生意気な!」
ハイネが激高して、グフもビームガンで射撃する。回避して迫るフリーダムに向けて、グフは続けてビームウィップを振りかざす。
フリーダムはビームウィップもかわして、ビームサーベルでビームガンとビームウィップを腕ごと切り裂いた。
「何っ!?」
手も足も出ずにグフがやられたことに、ハイネも驚愕する。
「お前はどこまで・・オレたちをかき乱せば気が済むんだ!?」
シンが怒りを募らせて、インパルスは損傷したまま右手でビームサーベルを手にして、フリーダムを追いかける。
キラが気付き、フリーダムがインパルスを迎え撃つ。インパルスが振りかざしたビームサーベルを紙一重でかわして、フリーダムがインパルスの右腕を切り裂いた。
「くそっ!」
シンが目つきを鋭くして、インパルスが加速してフリーダムに突っ込む。直後、2機が同時にバルカン砲を発射して相殺する。
「お前の・・お前のようなヤツがいるから!」
「くっ・・!」
怒号を放つシンと、毒づくキラ。フリーダムが両肩のプラズマ収束ビーム砲「バラエーナ」を発射して、インパルスの頭部を破壊する。
それでもインパルスは止まらず、フリーダムを突き飛ばす。さらに突っ込もうとするインパルスに対して、フリーダムがバラエーナを発射する。
フリーダムに向かって突っ込んでいたインパルスは、回避がままならない。
「シン!」
そこへハイネのグフが飛び込み、インパルスを横に突き飛ばした。インパルスを庇ったグフが、ビームに胴体を貫かれた。
致命傷を受けたグフを目の当たりにして、シンが目を見開く。
「な、何で・・・どうして、オレを・・・!?」
「何でだろうな・・どうしても、お前をほっとけなかった・・・」
声と体を震わせるシンに、ハイネが声を振り絞って言いかける。ビームを貫通されたグフの損傷はコックピットにも及び、ハイネも負傷していた。
「シン・・お前なら、無敵のエースになれるはずだ・・だから、迷わずに突き進め・・・」
「早く離脱してください!コックピットから脱出を・・!」
「このザマじゃ、脱出しても助からない・・オレは、お前を助けられて、本望だ・・・」
「死んじゃダメだ!オレが助ける!」
力を入れられず脱出も絶望的となっているハイネに、シンが呼びかける。
「シン・・・オレのこと・・お前に任せたからな・・・」
「ヴェ・・ヴェステンフルス隊長・・・!」
笑みをこぼすハイネに、シンが動揺を募らせていく。
「だから・・“ハイネ”だって・・・」
言いかけるハイネを巻き込んで、グフが爆発を起こした。
「あぁぁ・・・ハイネェ!」
激情の込み上げるシンの悲痛の叫びが戦場にこだました。
「ハイネが・・・キラ・・!」
アスランがキラの行動に対する不信感を募らせていく。
「アンタ・・・よくも・・よくもハイネを!」
ハイネを手に掛けたフリーダムに対して、シンが怒りを爆発させる。彼の中で何かが弾けて、感覚が研ぎ澄まされた。
「メイリン、チェストフライヤーを!早く!」
「は、はいっ!」
シンが呼びかけて、メイリンが答える。ミネルバから新たにチェストフライヤーが射出された。
インパルスが分離してコアスプレンダー、フォースシルエット、レッグフライヤー、もう1機のチェストフライヤーと再合体を果たした。
「フリーダム!」
シンが叫び、キラがインパルスの接近に気付く。インパルスが突き出したビームサーベルをかわして、フリーダムがビームサーベルで反撃しようとした。
だがフリーダムの振りかざしたビームサーベルを、インパルスは紙一重でかわした。この瞬間にキラが一瞬驚きを覚える。
次の瞬間、インパルスが再びビームサーベルを突き出してきた。フリーダムがビームサーベルを掲げて、インパルスの突きを防ぐ。
「お前さえ出てこなきゃ、ハイネは死ななかった!お前が出てこなきゃ!」
シンが怒りの叫びを言い放つ。彼の言葉を聞いて、キラが動揺を覚える。
「だけど・・だけど僕は、戦いを止めたいんだ!」
キラが動揺を振り切ろうとして言い返し、フリーダムがインパルスのビームサーベルを押し返す。フリーダムがビームサーベルを突き出すが、インパルスはまたも回避して反撃を仕掛ける。
2機のビームサーベルが激しくぶつかり合い、火花を散らす。
「見境なくみんな攻撃して命を奪うことが、戦いを止めることだって言いたいのか!?」
「違う!僕は命を奪おうとまではしていない!」
「ふざけるな!お前の攻撃で、ハイネが・・ハイネが!」
キラの反論を押しのけて、シンが怒号を放つ。インパルスが徐々にフリーダムを押し始める。
キラがインパルスの発揮する強さに脅威を覚え、フリーダムが左手のビームサーベルを振りかざす。シンが反応し、インパルスが後ろに下がってサーベルをかわす。
「アイツ・・・私をよくも・・・!」
ステラがフリーダムに対するいら立ちを膨らませる。ガイアが四足型に変形して、フリーダムを狙って飛び出す。
シンがガイアに気付いて、インパルスが迎撃態勢に入る。
「邪魔だ!」
ステラとシンが同時に叫び、ガイアのビームブレイドを発しての突進を、インパルスがビームサーベルで受け止める。衝突が相殺されて、2機が体勢を崩す。
そこへフリーダムがクスィフィアスを発射して、インパルスの腕とガイアのビームブレイドを破壊した。
「ぐっ!」
またしても武器を破壊されて、シンとステラがうめく。フリーダムが後退して、アークエンジェル、ストライクルージュとともに戦場を去った。
「待て、フリーダム!」
シンが叫ぶが、フリーダムたちの姿は見えなくなった。
「フリーダム・・・ハイネ・・・!」
ハイネの死に打ちひしがれて、シンがコックピットを叩く。彼は込み上げてくる怒りを抑えられず、体を震わせていた。
フリーダムの武力介入によって、ミネルバも連合軍もオーブ軍も武装を破壊されて戦闘続行が不可能となった。
連合とオーブはミネルバを討つことができないまま、撤退を余儀なくされた。
シンたちも追撃することもできず、ハイネも戦士に陥った。シンのオーブへの、そしてフリーダムへの怒りはさらに強まった。
次回予告
フリーダムの乱入とハイネの死。
予想だにしない混乱に、シンは心を揺さぶられ、アスランたちも苦悩を深める。
感情を抑えられない少年に訪れた新たな出会い。
それは彼の新たな運命の始まりだった。
悲しみの海、乗り越えろ、ガイア!