GUNDAM WAR
-Destiny of
Shinn-
PHASE-13「舞い降りる自由」
ディオキアに攻め込んできた連合の艦隊に打ち勝ったシンたち。しかしシンは焦りを噛みしめ、アスランもオーブと戦うことへの迷いを膨らませてしまった。
艦隊を撃破して勝利に喜んでいるルナマリアたちの片隅で、シンとアスランはそれぞれ思いつめていた。
再び束の間の休息に入り、シンは自分の部屋に戻ってきた。彼はベッドに腰を下ろしてため息をつく。
(オレだってやれるんだ・・オレはザフトに入って強くなったんだ・・もう何もできなかった無力なオレとは違う・・・!)
自分は強くなったと言い聞かせていくシン。彼のいる部屋にレイが入ってきた。
「敵を倒したというのに、表情がさえないな、シン。」
レイに声を掛けられて、シンが顔を上げる。
「レイ・・オレ・・オレの戦ってきた理由は、間違っているのか・・・?」
シンが自分が今抱えている疑問を、レイに打ち明けた。
「オレは戦いを終わらせるためにザフトに入った・・戦いで苦しんでいる人を助けるためにも・・」
シンが今までの自分たちの戦いを思い返していく。
「けどザラ隊長は勝手な理屈で動くのは悪いって・・それでも、オレはどうして納得できなくて・・みんなを守ることが間違ったことじゃないって・・」
「お前のその考えは間違ってない。しかしアスランの言うことも間違いではない。」
シンの口にする言葉に、レイが言葉を返す。
「ザフトである以上、議長や上官の命令に従うのが基本だ。臨機応変に対応すべきとしても、アスランは先の大戦の英雄の1人。経験に裏付けされての考えは、オレたちが強くなる上でも重要になるはずだ。」
「・・オーブにいたくせに・・・」
「だが今はザフトの一員。しかもフェイスで、オレたちの隊長だ。議長もオレたちも彼の強さは認めている。お前も考えを受け入れないとしても、彼を認めてもいいと思うが・・」
苦悩と不満を浮かべるシンに、レイが励ましの言葉を送る。
「オレたちはデュランダル議長の下で、世界のために戦うザフトだ。今こうして戦うことを誇りとするんだ。」
「レイ・・・あぁ・・そうだな・・・」
レイの言葉を受けて、シンが小さく頷いた。
大西洋連邦との同盟を結んだオーブ。オーブ軍は連合の同盟軍として、本格的にザフトとの交戦に乗り出そうとしていた。
総指揮官としてユウナが同行し、ネオと対面していた。
「はじめまして。オーブのユウナ・ロマ・セイランです。」
「ファントムペインのネオ・ノアロークです。まさかあなたが戦線に赴かれるとは・・」
ユウナとネオが挨拶をして、握手を交わした。
「アスハ代表が誘拐されてしまい、私が代表代理を務めています。代理とはいえ、代表が部下に作戦を任せて、安全な場所でふんぞり返っているわけにはいきませんからね。」
「さすがユウナどの。器が違いますね。」
事情を話すユウナに、ネオが感心を告げる。
「いやぁ、それほどでも・・ありますけどね♪」
自信満々に振る舞って高らかに笑い声を上げるユウナ。調子よくしている彼の様子に、オーブの軍人たちは内心呆れていた。
「しかし、連合の腕自慢の集まりのはずのファントムペインが、ザフト相手に苦戦を強いられているとは・・」
「いや、お恥ずかしい限りです・・ですが、オーブが協力してくれるのでしたら、その心配は無用となるでしょう。」
皮肉を投げかけるユウナに、ネオもおだてを込めた返事をする。
「当然だ。我らオーブが味方になるのだから、もうあなた方が負けを喫することはありませんよ。ハッハッハ!」
ユウナが勝ち誇って笑い声を上げる。
「さぁ来るがいい、ザフト!オーブ軍と連合軍が手を組めば、向かうところに敵はなーし!」
自信満々に振る舞うユウナに、オーブの軍人たちは呆れ果てているのを表に出さないように必死だった。
タリアたちは改めて、ミネルバの次の針路について指令を出された。補給と修繕を終えたミネルバは、ディオキア基地を後にした。
航行中のミネルバの甲板から、アスランは外を眺めながら苦悩を深めていた。その彼のところへハイネがやってきた。
「まだ何か悩み事を抱えてるのか?」
ハイネが声を掛けるが、アスランは答えない。
「そういえばお前、オーブにいたんだったな。あそこはいい国だな。オレもあそこには恩義は感じてるんだけどな・・」
ハイネがオーブのことを話して、アスランがさらに思いつめる。気さくに振る舞っていたハイネが、真剣な面持ちを浮かべる。
「戦いたくないか、あそことは・・」
「あ・・はい・・」
ハイネが口にしたこの言葉に、アスランが初めて答えた。
「だったらお前、どことなら戦いたいんだ?」
「どことならって・・そんなことを考えるのは・・」
ハイネの問いかけに、アスランが口ごもる。
「イヤか。オレもだ。きっとまともなヤツは誰だって同じ気持ちだろうな・・」
一瞬苦笑をこぼすハイネだが、また真剣な面持ちを浮かべる。
「だけど、戦いになっちまったら、ちょっとの油断や迷いが命取りになる。だから、割り切れよ・・でないと、死ぬぞ・・・!」
ハイネからの忠告に、アスランが心を揺さぶられる。迷いが命取りになると自分に言い聞かせようとするも、アスランはオーブへの思いとザフトとしての責務の板挟みにあって、苦悩を深めるばかりになっていた。
一方、シンはミネルバの自室で、インパルスのシュミレーション練習をしていた。しかし気負っている彼は焦りを膨らませて、余計なミスを重ねていた。
「どういうことなんだよ・・この前はクリアできたとこなのに・・・!」
シンが不満を感じて愚痴をこぼす。彼は腰かけている椅子の背にもたれて、ため息をつく。
「何だか荒れてるな、シン。シュミレーション、うまくいってないみたいだな。」
そこへハイネが部屋に入ってきて、シンに声を掛けてきた。
「ヴェステンフルス隊長、ビックリさせないでくださいよ・・」
「“ハイネ”って言えって言ってるだろ・・ま、いきなり入ってきたのは悪かったけどな・・」
不満げに言うシンに、ハイネが言い返す。
「今のシュミレーションといい、この前に戦いといい、闇雲に突っ込みすぎになってるみたいだな。」
「ですが、攻めなくちゃまず勝てないじゃないですか・・」
「そりゃそうだけど、無闇に突っ込んでもやられるだけだぜ。」
ハイネの投げかける言葉に、シンが動揺を浮かべる。
「戦いに迷いや油断は禁物だが、冷静な判断も必要だ。何が起こっても自分を見失わず、臨機応変に対応するのが大事だ。」
「冷静な判断、ですか・・」
「目の前の敵を倒すのはもちろんだ。だけど1番の敵は自分自身だってことさ。」
ハイネの話を聞いて、シンが戸惑いを覚える。
「お前の腕っぷしは強いって、オレも認めてるんだ。だから自分を見失わなければ、無敵のスーパーエースになること間違いなしだな。」
「オレが、スーパーエース・・・!?」
ハイネの激励を受けて、シンが心を動かされる。
「これは秘密にするように言われてるんだけど、シン、お前には話しておいたほうがよさそうだな。」
ハイネがあることをシンに打ち明けることにした。
「実は今の任務が終わったら、新しい特殊部隊に配属されることになっているんだ。そこでオレは、プラントで今開発中の新型機体に乗ることが決まってるんだ。」
「新型機体って・・すごいじゃないですか!」
ハイネの話を聞いて、シンが感動を覚える。
「しーっ!・・これは秘密だって言ったろ・・・!」
ハイネが自分の口に指を当てて、シンに静かにするように言う。
「そのことで、お前もその部隊に配属できるように、デュランダル議長に頼んでおいた。返事はまだいただいていないが、議長からそのことで伝令があったときはよろしく頼む。」
「オレが、新型のある部隊に・・・!」
ハイネが話を続けて、シンが心を動かされていく。
「それと、ないとは思いたいけど、もしオレに何かあったときには、新型をお前に託すようにとも、議長に頼んであるんだ・・」
「何かあったときって・・そんな縁起の悪い・・」
ハイネのこの話に、シンが気まずさを覚える。
「もちろんオレも戦いで死ぬつもりなんて全くない。1番の理想は、新しい部隊でお前やレイたちとまた組んで戦うことだな。」
「オレたちがまた・・ヴェステンフルス隊長と・・・!」
「だから“ハイネ”って呼べって何度言えば分かるんだよ・・」
「でもやっぱり、隊長は隊長ですから・・」
隊長と呼び続けるシンに、ハイネは呆れ果てていた。
「お前ってヤツは・・・そこまで言うなら、もし今度ハイネって呼ばなかったら、フェイスの権限使って、お前にミネルバの掃除を命令するからな!」
「ちょっと、そんな横暴な・・!」
ハイネからの注意に、シンが不満の声を上げる。
「だったらいい加減に慣れることだな、シン。」
言いかけて笑い声を上げるハイネに、シンは滅入って肩を落とした。
「ま、オレたちはこれからも今もザフトの仲間だ。息合わせてバッチリ行こうぜ。」
「は、はい・・!」
ハイネが気さくに呼びかけて、シンが笑みを浮かべて答えた。
“コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機してください。”
そのとき、メイリンからの伝令がミネルバの艦内に響いた。
「また連合のヤツらがおいでなすったか・・シン、行くぞ!」
「はいっ!」
ハイネが呼びかけて、シンが答える。2人はパイロットスーツに着替えてから、ドックへと向かった。そこではアスラン、レイ、ルナマリアが先に来ていた。
「連合軍が待ち伏せして、包囲網を敷いています。増援の中にオーブ軍が含まれています。」
レイが状況をハイネに伝える。
「オーブが来てる!?・・アイツら・・!」
するとシンがオーブに対して怒りをあらわにする。
「連合に味方するなんて、私もちょっと幻滅してしまいましたよ・・」
ルナマリアもオーブに対して不満を感じていた。
「待つんだ、みんな・・オーブは・・!」
「アスラン・・」
苦言を呈しようとしたアスランを、ハイネが呼び止める。
「どうしても戦いたくないっていうなら出ていくな・・フェイスなんだからそう自分で決めても問題はない・・問題は・・・」
ハイネが小声でアスランに言いかける。しかし形式上では問題がなくても、周りからの信用や自分の立場への影響は免れないという忠告を、アスランは投げかけられていた。
「いえ、オレも行きます・・オレもフェイスでザフトですから・・」
アスランは気を引き締めて、ともに出撃することを告げた。
「その意気だ。3人もよろしく頼むぜ!」
「はい!」
笑みを見せるハイネの呼びかけに、シン、レイ、ルナマリアが答える。彼らはそれぞれの機体へ乗り込んだ。
「まずはオレとアスラン、シンで先陣を切る。連合の戦力をそぐ。」
“そして連合艦隊に向けて、タンホイザーを撃ち込み針路を確保するわ。”
ハイネが指示を出して、タリアも通信を送ってきた。
「了解です。発射の直前に退避します。」
アスランが答えて、シンたちとともに発進に備えた。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」
「ハイネ・ヴェステンフルス、グフ、行くぜ!」
シンのコアスプレンダー、アスランのセイバー、ハイネのグフがミネルバから発進した。続けて射出されたフォースシルエット、チェストフライヤー、レッグフライヤーがコアスプレンダーと合体して、フォースインパルスとなった。
「シン、ガムシャラばっかになるなよ。こっちは攻撃するだけじゃなく、アイツらの注意を引き付けることを優先するんだ。」
「はいっ!」
ハイネが呼びかけて、シンが落ち着きを払いながら答える。連合の艦隊からウィンダムだけでなく、オーブ軍のモビルスーツ「ムラサメ」も出撃してきた。
「あれが、オーブ軍か・・!」
「アイツら、本気で連合と・・・!」
ハイネがムラサメたちを見て呟き、シンがいら立ちを覚える。
(ハイネには言われているが、オーブと戦うのはいいとは思えない・・パイロットの命を奪わないようにしないと・・!)
アスランがオーブと対立することへの懸念を抱いて、思考を巡らせていた。
シンたちとの交戦を始めた連合とオーブ軍のモビルスーツを、ネオとユウナが見届けていた。
「ファントムペインの戦い、この目で直に確かめさせてもらいますよ。」
「私もオーブ軍のお手並み、拝見させていただきます。」
ユウナとネオが戦況を確かめながら声をかけ合う。
ムラサメはセイバーのように、戦闘機型と人型の2つの形態を持つモビルスーツである。複数のムラサメが戦隊を組み、緻密な連携を行うこともある。
しかしインパルスやセイバーたちよりは性能が劣り、ムラサメたちも攻めあぐねていた。
「やはり手ごわいですね、ミネルバの連中は・・」
「そんなのん気なことを言ってる場合じゃないでしょ!」
淡々と呟くネオに、ユウナが声を荒げる。
「もう、ムラサメ隊は何をしてるの!?どんどん追い込むんだよ!」
ユウナがムラサメたちに向かって声を張り上げる。落ちつきなく仕切ろうとする彼に、そばにいたオーブの軍人たちが内心呆れていた。
「ではこちらも主戦力を出します・・スティングたちを発進させろ!」
ネオはユウナに言いかけてから、オペレーターに指示を出す。それぞれの機体に乗って待機していたスティング、アウル、ステラが発進準備に入る。
「スティング・オークレー、カオス、発進する!」
「アウル・ニーダ、アビス、出るよ!」
「ステラ・ルーシェ、ガイア、出る・・」
スティングのカオス、アウルのアビス、ステラのガイアが発進する。カオスが飛行して、アビスが海を進んでインパルスたちに迫る。
「新型が出てきたか・・!」
「何が出てきても関係ないぜ!」
アスランが声を上げて、ハイネが不敵な笑みを浮かべる。グフがビームガンを発射してカオスをけん制して、インパルスがビームライフルで射撃する。
セイバーがビーム砲を発射して、アビスが海中をスピードを上げてビームを回避していく。
「すばしっこいヤツだ・・!」
「ムリして撃ち落とすことはない。そろそろ来るぞ。」
毒づくシンにハイネが呼びかける。インパルスたちにカオスたちが近づいて追い詰めようとしているのを、タリアたちは見ていた。
「敵軍が本艦の前方に集まってきました!」
「タンホイザー、起動。目標、敵護衛艦群。」
アーサーが声を上げて、タリアが冷静に指示を出す。ミネルバがタンホイザーを起動して、エネルギーを集めていく。
「始まったか・・シン、離れるぞ!」
「はい!」
アスランが呼びかけて、シンが答える。インパルス、セイバー、グフがタンホイザーの射線軸上から離れる。
「ってぇ!」
エネルギー充填が完了し、アーサーが発射の号令をかけた。
そのとき、一条の光線が飛び込み、タンホイザーの発射口が貫かれて爆発を起こした。
「な、何っ!?」
ミネルバの艦内で揺さぶられるルナマリアが、突然のことに驚きの声を上げる。タンホイザーが損傷して、ミネルバから煙が出ていた。
「ミネルバが撃たれた!?」
「いったい、どこから・・!?」
シンとハイネが声を荒げて、周りに視線を向ける。連合やオーブがミネルバを攻撃した様子はない。
次の瞬間、1機の機体が空から降下してきた。
「あ、あれは・・!」
シンがその機体を見て目を見開く。
「フリーダム・・キラ・・・!?」
アスランも今の瞬間に目を疑っていた。インパルスたちの前に現れたのは、前の戦争の終結に尽力したキラの機体、フリーダムだった。
次回予告
突如現れたかつての英雄。
その強大な力を発揮するフリーダムは、果たして敵なのか、味方なのか?
大きく心を動かされるシンとアスラン。
2人とキラの宿命の糸が絡み合う。
入り乱れる戦場、駆け抜けろ、グフ!