GUNDAM WAR

-Destiny of Shinn-

PHASE-10「揺れる衝動」

 

 

 シンの怒涛の攻めが、またも連合を追い返した。しかし感情に任せて指示以外の行動をとった彼を、アスランは叱責した。

「今回のオレたちの任務は、連合の艦隊を撃退し、ミネルバの針路を確保することだった。近くの連合の施設を攻撃することじゃない。」

「命令に従わなかったのは悪いと思いますが・・けどオレは間違ったことをしたわけじゃない!あそこにいた人たちだって、あれで助かったんだ!」

 注意を告げるアスランにシンが言い返す。すると彼はアスランに頬を叩かれた。

「戦争はヒーローごっこじゃない!自分だけで勝手な判断をするな!」

 怒鳴りかかるアスランを、シンが睨みつける。

「誰かを助け、何かを守るための力でも、使い方を間違えれば、自分が誰かを泣かせることになる!力を持ったなら、力の重さを自覚しろ!」

 アスランはそう告げて、シンの前から立ち去る。シンは納得できず、アスランへの不満を募らせていた。

 

 タリアのいる艦長室に足を運んだアスラン。彼はタリアに連合との戦闘に関する報告をしていた。

「分かったわ。報告ありがとう、アスラン。」

「いえ・・自分もまだまだ至らないことばかりで・・」

 微笑んで頷くタリアに、アスランが言いかける。彼はまだシンの行動と態度を気にしていた。

「あのときのアスランの対応は間違ってはいないわ。私たちの任務はあの海域を突破することであって、連合の施設を破壊することではなかった・・」

「はい。いくら結果として施設に拉致されていた人々を助けたことになったとしても、勝手な行動が許されるわけではありません。」

 弁解を入れるタリアに、アスランが答える。

「もちろん即断即決、臨機応変の対処は必要です。ただし自分で適切な判断を下すことと、勝手な行動は違うものです。」

「シンは大きな力を発揮しているわ。でもまだ経験や判断力は足りない部分もある・・」

 さらに話を続けていくアスランとタリア。

「そこの部分のサポートもお願いしてもいい?シンにも、レイたちにも。」

「はい。オレの経験を、あの3人に少しでも伝えられたらと思っています・・」

 タリアにシンたちの指導を託されて、アスランが聞き入れて敬礼した。

(アスランが入ってきて、シンたちはどう変わっていくか・・)

 シンたちがいい方向に成長していくことを、タリアは願っていた。

 

 自分の部屋に戻っていたシンは、いら立ちを募らせていた。敵である連合を追い払い、理不尽な仕打ちを受けていた人々を助けたことをとがめられたことに、彼は納得できなかった。

 その部屋にレイも戻ってきて、シンが顔を上げた。

「レイ・・お前も、オレが間違ったことをしたと思うか・・・?」

 シンは困惑の面持ちを浮かべて、レイに聞く。

「お前のやったことは間違っていない。だが、ザラ隊長の言い分ももっともだ。」

「それってどういうことだよ・・オレが間違ってないってことは、アイツが間違ってるってことだろ・・・?」

 レイの答えを聞いて、シンが疑問符を浮かべる。

「片方が正しいからもう片方が確実に間違っていることばかりではない。オレたちはザフト、軍人なのだから、上官の命令には従わなければならない。」

 レイは表情を変えずに、シンに語りかけていく。

「お前は士官学校にいた頃から、上官によく反発していた。しかしお前も戦局を左右するパイロットの1人だ。いつまでも反発してばかりとはいかなくなるぞ。」

「でもだからって・・・」

「それに、ザラ隊長はフェイスで、デュランダル議長からそれだけの力を認められている。お前やオレたちを正しく導いてくれるはずだ。」

「だけど、あの人はザフトだったけど、この間までオーブにいたんだぞ・・」

「でも今はザフトだ。他の国に身を寄せていたのを問題とするなら、議長は復隊を認めていないだろう・・」

 レイの投げかける言葉に、シンは言葉が見つからなくなって反論できなくなる。

「ザラ隊長がミネルバに来て、まだ日が浅い。対話と任務を重ねて、それから判断すればいい。」

 レイが告げたこの言葉に、シンは頷くしかなかった。

 

 インド洋を抜けてユーラシア大陸に入ったミネルバ。航行を続けるミネルバの甲板で、シンは外を見ながら考えにふけっていた。

 両親とマユを殺され、シンは戦争とオーブ、無力な自分を呪った。彼はプラントに渡り、ザフトに入隊して戦う力を得た。

 そしてオーブでの連合との戦いで、シンはかつてない力を発揮して連合を退けた。自分の力が敵を追い払い、味方を守れたことに、シンは戸惑いとともに自分が認められたことへの喜びを感じた。

(もう無力なオレじゃない・・オレの力で、あの人たちを助け出せた・・それなのに、アイツ・・・!)

 アスランへの不満を抱えて、シンが体を震わせる。

「シン・・」

 そこへ声をかけられて、シンが振り向く。甲板にアスランも現れて、シンに近づいてきた。

「何をしていたんだ、ここで・・?」

「・・・別に・・・」

 アスランが問いかけるが、シンは冷めた態度を見せる。

「この前のこと、納得してないみたいだな・・」

「・・・殴られて嬉しいヤツなんていないですよ・・・」

 アスランの言葉に、シンが不満げに答える。

「アンタはザフトにいたけど、ザフトを離れてオーブにいた・・綺麗事ばかり言って、みんなを傷つけ死なせたオーブなんかに・・・!」

「だからオレが信じられないと?・・たとえ今の上官でも、かつてオーブにいたから・・」

 自分の考えを告げるシンに、アスランが言い返す。

「確かにオレはオーブにいた・・しかしそれはそうしなければ戦争終結につながらないと思ったからだ・・」

「アンタ、何を言って・・・!?

「しかしザフトを、プラントを裏切ったのは事実だ。だからオレはオーブに留まるしかなかった・・」

「だから許してくれって、自分は悪くないって言うつもりなんですか・・・!?

「そういうわけじゃない。オレにも至らないところがたくさんある・・今も、あのときも・・」

 反論してくるシンに、アスランが自分の考えを告げる。

「オレは戦いを終わらせるためにザフトに入った。しかし戦いが終わるどころか、戦いを拡大させることになってしまった・・」

 アスランが語りかけて、これまでの自分の戦いを思い返していく。

「仲間を失い、友と怒りをぶつけ合い憎しみ合い・・力の使い方や戦う意味を理解できず、オレは過ちを繰り返してきた・・戦いを終わらせるため、大切なものを守るために戦っていたはずなのに・・」

 彼の話を聞いて、シンが戸惑いを覚える。

(もしかして、この人も、オレと同じように・・・!?

 シンはアスランも自分と同じ思いで軍に入ったことに、心を動かされていた。

「結局、力は力でしかない。何かを守る、戦いを止めるとどんなに言い聞かせても、使い方を間違えれば誰かを泣かせたり傷つけたりするものになってしまう・・オレやお前の家族を死なせたように・・・」

 アスランがシンに向けて警告を送る。

「勝手な理屈と正義で、ただ闇雲に力を振るえば、それはただの破壊者だ。シン、オレと同じ過ちを繰り返すなよ・・」

 アスランからの言葉を受けて、シンは彼から目をそらして外の景色に視線を戻した。

(何が正しくて、何が間違ってるっていうんだよ・・・!)

 不満と動揺を拭うことができず、シンはいら立ちを噛みしめた。素直に聞き入れようとしない彼に、アスランも深刻さを感じていた。

 

 その頃、地球近辺の宙域。地球に向けて進んでいる1隻のシャトルがあった。

 そのシャトルに乗っている1人の青年が、連絡を取っていた。

“新しい機体を受け取ったら、そのままミネルバに合流してもらいたい。”

 通信の相手、ギルバートが呼びかける。

「了解です、議長。ただしこの航路では、ミネルバとの合流のほうが先になってしまいますが・・」

“そうか・・分かった。ミネルバには私から連絡する。君はこのままミネルバに向かってくれ。”

「分かりました。ミネルバに合流します。」

 青年答えて、ギルバートとの通信を終えた。

「さて、ミネルバのルーキーたち、どんなヤツらだろうな。」

 青年がミネルバのことを考えて笑みをこぼす。彼を乗せたシャトルが、地球の大気圏に入った。

 

 航行を続けるミネルバの中、アスランは1つの苦悩を抱えていた。それはカガリ誘拐の件と、彼女を連れ去ったのがフリーダムであることだった。

(まさかキラがこんなことをするなんて・・・このままオーブにいさせても、カガリがユウナたちに懐柔されてしまうのを想像するのは難しくない・・だけどキラも、こんなやり方・・・)

 オーブの首脳陣の言動だけでなく、フリーダムを駆るキラの行動にも、アスランは不信感を感じていた。

(オレがザフトに戻り、オーブとプラントが敵対関係にある以上、オレが連絡を取ることは極めて難しい・・このままキラたちが、おとなしくしていてくれたらいいが・・・)

 オーブやキラたちの問題が鎮静化していくことを願い、アスランはザフトの一員としての任務に専念することにした。

 

 インド洋から撤退し、ユーラシア大陸へ移動してきたネオの部隊「ファントムペイン」。ネオは他の連合の部隊と連絡を取り合っていた

「協力、感謝する。そちらが部隊を展開してくれたおかげで、こちらは追跡に専念して包囲できる。」

 ネオが別部隊の司令官に感謝する。

「しかし油断しないでほしい。ミネルバは手ごわい。特に白と赤の新型は。」

“分かっている。我々をここまで手こずらせている相手だ。本気でかからなければ・・”

「こちらのモビルスーツ隊がヤツらを追い込む。私も出る。」

“分かった。ご武運を、ノアローク大佐。”

 司令官との連絡を終えてから、ネオはため息をついた。

「このような戦いは、早く終わらせたいものだ・・特に、厄介な敵との戦いは・・」

 皮肉を口にするネオが気を引き締めなおす。

「スティングたちの様子は?」

「もうすぐ調整が完了します。次の作戦には間に合います。」

 ネオが問いかけて、副官が答える。

「よし。今度こそ終わらせるぞ。ミネルバとの戦いを。」

 ネオが呼びかけて、モニターに映し出された調整室に目を向けた。スティング、アウル、ステラの調整が丁度完了した。

 

 ミネルバの針路の先に連合の部隊が包囲網を敷いていることに、タリアたちも気付いていた。

「このままでは連合と交戦になります。針路を変更して迂回したほうが・・」

 メイリンがレーダーを確認して、タリアに言いかける。

「この周囲の地形は山岳が続いていて、下手に迂回したら危険にさらされるわ。それに連合の部隊もこちらの動きをうかがっていて、迂回してもすぐに回り込んでくるわ。」

 しかしタリアは迂回することに苦言を呈する。

「このまま針路は変更せず前進します。攻撃に出る相手には迎撃します。」

 タリアが指示を出し、ミネルバは方向を大きく変えることなく進行する。やがて左右に岩場のある山岳地帯に差し掛かった。

「これでは左右への逃げ場はないですね・・前後で挟み撃ちにされる危険が・・・!」

「それでも突破するしかないわ。最悪、タンホイザーを使うことも・・」

 不安を口にするアーサーに、タリアが深刻さを込めて言いかける。

「敵勢力の攻撃に備え、こちらも迎撃態勢に入る。パイロットは搭乗機にて待機。」

 タリアがミネルバ艦内に指示を出す。シンたちがパイロットスーツに着替えて、ドックへ来てそれぞれの機体に乗り込んだ。

“勝手な理屈と正義で、ただ闇雲に力を振るえば、それはただの破壊者だ。”

 シンの脳裏にアスランの言葉がよぎる。

(それは連合のほう、オーブのほうだ・・オレじゃない・・オレたちじゃない・・!)

 シンは惑わされまいとして首を横に振る。彼らの乗る機体が発進準備を整えた。

「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」

 シンの乗るコアスプレンダーがミネルバから発進する。続けて発進したブラストシルエット、チェストフライヤー、レッグフライヤーと合体して、ブラストインパルスとなって、ミネルバの甲板の上に着地する。

「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」

「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」

「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」

 レイ、ルナマリアのザク、アスランのセイバーもミネルバから発進する。

「オレが空中から敵の注意を引き付ける。シンとルナマリアはその隙を突いて砲撃。レイは2人を援護するんだ。」

「了解です、隊長。」

 指示を出すアスランに、レイが答える。

「この包囲網を突破するには、オレたち全員の力を合わせなければならない。シン、レイ、ルナマリア、頼むぞ・・!」

「そうやって偉そうに言うだけなら、誰にだって・・!」

 さらに呼びかけるアスランに対して、シンが不満を浮かべる。

「シン、いい加減にわがまま言うのやめなさいって・・」

 ルナマリアが注意するが、シンは不満を浮かべたままだった。

「オレが先行する。3人とも頼むぞ。」

 アスランが呼びかけると、セイバーが先行して前進した。

 

 ミネルバからインパルスが発進して、セイバーが進行してきたことに、連合の部隊の司令官たちも目にしていた。

「全艦、迎撃開始!モビルスーツは直ちに発進しろ!」

「はっ!」

 司令官の命令にオペレーターが答える。部隊の艦が砲撃を仕掛けるが、セイバーはスピードを上げたまま回避していく。

 その間にウィンダムが艦から発進して、セイバーを追撃する。しかしウィンダムのライフルのビームも、セイバーはかいくぐっていく。

「なんて素早い機体だ・・!」

「うろたえるな!連射すれば隙が生まれる!」

「それに、時期に増援も来る!オレたちが踏みとどまれなければ、いい笑い者だぞ!」

 ウィンダムのパイロットたちが声をかけ合う。ウィンダムがビームライフルとミサイルを連射して、セイバーの行動範囲を狭めようとする。

 そのとき、ウィンダムに向けて1つのビームが飛び込んできた。回避が遅れたウィンダム数機が、ビームに当たって爆発を起こす。

 ルナマリアのザクがビーム砲を発射して、ウィンダムたちを狙撃したのである。

「私だってやるときはやるんだからね!」

「ナイス、ルナ!オレだって!」

 自信を見せるルナマリアを褒めて、シンも意気込みを見せる。インパルスが続けてビーム砲「ケルベロス」を発射して、ウィンダムを撃ち抜いた。

「よし。2人ともうまく攻撃している・・!」

 アスランがシンたちの戦いを見て小さく頷く。セイバーも戦闘機型から人型に変形して、ビームライフルを手にして牽制を続けた。

 

 ミネルバを追走していたネオたち。彼らもミネルバが連合の別部隊と交戦しているのを目にしていた。

「よし。追いついたぞ。スティング、アウル、ステラ、出撃だ!」

 ネオがスティングたちに呼びかけて、自らもドックへ向かう。スティングたちは既に発進準備を整えていた。

「スティング・オークレー、カオス、発進する!」

「アウル・ニーダ、アビス、出るよ!」

「ステラ・ルーシェ、ガイア、出る・・」

 スティングのカオス、アウルのアビス、ステラのガイアが発進する。ミネルバは連合の挟撃を受けることとなった。

 

 

次回予告

 

逃げ場のない山々での攻防。

連合軍の包囲網に、シンたちは苦戦を強いられる。

そこへ舞い降りたオレンジの機体。

ミネルバ前進のカギとなるのか?

 

次回・「黄昏の戦士」

 

混沌の戦場、駆け抜けろ、カオス!

 

 

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