GUNDAM WAR
-Destiny of
Shinn-
PHASE-08「戦士の帰還」
奇襲を仕掛けてきた連合軍を撃退したミネルバ。オーブからの脱出に大きな成果をもたらしたシンが、インパルスから降りてきた。
「すごかったわね、シン・・いったいどうしちゃったわけ!?なんか急にスーパーエース級じゃない!?」
「あ、あぁ・・」
驚きの声を上げるルナマリアに、シンが当惑しながら答える。
「連合に追い詰められて、オーブに追い出されて、それで頭に来て、こんなことでやられてたまるかって思ったら、急に頭の中がクリアになって・・」
シンが自分の記憶を思い返して説明する。
「それって、ブチ切れたってヤツ?」
「いや、そういうことじゃないと思う・・連合を討ったのも、よく覚えてるし・・」
ルナマリアからのさらなる疑問に、シンが当惑を募らせていく。
「とにかく、お前の力があったから、オレたちは生き延びることができた。」
レイもシンに向けて声をかけてきた。
「生きているということは、それだけで価値があることだからな。」
レイは告げてからこの場を立ち去る。彼の意味深な言葉に、シンとルナマリアは疑問を感じていた。
「何はともあれ、これで連合軍を追い払って、オーブ軍も振り切ったってことだろ?」
ヨウランがやってきて、シンたちに声をかけてきた。
「マジですごかったよ、シン!あんなすごい戦いしちゃうんだからさー!」
ヴィーノが感動と安心を込めて言いかけて、シンに近寄る。
「いや、ホントに無我夢中みたいな感じだったんだ・・」
シンが戸惑いを感じながら答える。
「おい、シンたちは戦闘で疲れてるんだ。オレたちは立ち話してないで作業に入るぞ。」
「あ〜、ちょっと、ヨウラン〜!」
ヨウランに引っ張られて、ヴィーノが悲鳴を上げながらシンたちから遠ざけられた。
ミネルバが航行を続ける中、シンたちパイロットは束の間の休息を取ることになった。
特務隊、フェイスの一員に任命されたアスランは、さらに新たな機体を与えられることになった。
「“セイバー”ザフトが開発していた新型の1機。これだけ製造が遅れていて、アーモリーワンへ運ぶことはできなかったが、結果的にボギーワンの者たちに奪われることはなかった・・」
ギルバートがセイバーを紹介して、アスランがセイバーを見つめる。
「そして今、完成を果たして新たな戦力となる。アスラン、君の力として。」
「オレの・・・」
「君がかつて乗っていた“ジャスティス”に勝るとも劣らない性能を備えている。君なら使いこなせるはずだ。」
「議長・・ありがとうございます。」
ギルバートの気遣いを受けて、アスランが感謝して敬礼を送る。
「君にはこれからミネルバと合流してもらいたい。君の経験や考えを踏まえて、そこのパイロットたちを強くしてやってほしい。」
ギルバートからの更なる言葉を聞いて、アスランはシンのことを思い出した。
「彼らは力はあるが、ザフトに入ったばかりで経験が浅い。失敗や過ちを犯す可能性も否定できない。だからアスラン、君が彼らを導いてやってくれ。」
「はい・・分かりました・・」
ギルバートに思いを託され、アスランが答えた。
「では早速、オーブへ向かいます。」
「いや、そのことなのだが・・よくない知らせが入った・・」
セイバーに乗ろうとしたアスランを、ギルバートが呼び止めた。
「オーブが大西洋連邦との同盟を結び、我々プラントを敵と見なした。」
「オーブが!?」
ギルバートが口にした話に、アスランが耳を疑った。
(カガリは、首脳陣を止められなかったのか・・・!?)
アスランはカガリを心配して、深刻さを募らせていく。
「ミネルバはオーブから出港して、修繕と補給をしながらインド洋を目指している。そこへ向かってくれ。」
「了解です・・ミネルバを捜索し、合流します。」
ギルバートからの指示を受けて、アスランが落ち着きを取り戻して答えた。彼は改めてセイバーに乗り込み、発進準備に入った。
(もしかしたら、オレはオーブと戦うことになってしまうのか!?・・オレは、オーブを止めるために動けばいいのだろうか・・・!?)
心の中で自分に問いかけながら、アスランは決意を固めようとする。
(オレがやるしかないか・・オーブに戦いを辞めさせることができるのは、オーブにいたオレしか・・!)
「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」
アスランの乗るセイバーが発進して、地球に向けて加速した。
ミネルバがオーブを離れてから1日が経った。
インド洋の方向へ針路を取っていたミネルバ。その艦内でシンはコアスプレンダーのそばにいて、思いつめていた。
ザムザザーや連合の艦隊を撃退したときの力。どのようにすれば使えるものなのかを、シンは考えていた。
「この前の戦いのことを考えているのか、シン?」
そこへレイがやってきて、シンに声をかけてきた。
「レイ・・あぁ。あのときの力、どうやったら使えるようになるかなって・・」
シンが考えを巡らせながら、レイに答える。
「力はそれぞれの中にある。お前があのとき発揮した力はお前だけのものだ。必ずお前自身が使いこなせるときが来る。」
「レイ・・・」
「焦ることはない。お前の力なら、必ずお前に応えてくれる。」
レイに励まされて、シンが落ち着きを取り戻していった。
「あ〜あ・・私もシンやレイみたいにうまくやれたらなぁ・・」
ルナマリアもやってきて、シンたちに声をかけてきた。
「私だって、ホントだったらガイアに乗ってるはずだったのに・・」
「過ぎたことを悔やんでも仕方がない。問題なのはその後どうするかだ。」
肩を落とすルナマリアに、レイが表情を変えずに言葉を返す。
「そうね。新型に頼らなくたってやれるってところを見せる・・そう思うしかないわね。」
ルナマリアがため息まじりに言って、気を引き締めなおす。
「シン、私も負けない活躍をしてみせるからね。」
ルナマリアは強気に言ってから、ガナーザクウォーリアに目を向けた。シンだけでなく、彼女も強くなることを心に決めていた。
「大変だよ!たいへーん!」
そこへヴィーノが声を上げて、シンたちに駆けつけてきた。
「どうしたんだよ、ヴィーノ?そんなに慌てて・・」
息を乱すヴィーノに、シンが半ば呆れた態度で問いかける。
「これ聞いたら慌てるって・・オーブのアスハ代表が、連邦との同盟を記念しての式典にさらわれたって!」
「えっ!?」
ヴィーノが口にした言葉に、ルナマリアが驚きの声を上げる。シンとレイも話を聞いて、目つきを鋭くする。
「オーブの代表がさらわれたって・・世界的に大騒ぎになるじゃない・・!」
「別にアイツがどうなろうと知ったことじゃない。ホントはオレがアイツに思い知らせてやりたかったけど・・」
ルナマリアが動揺を見せると、シンが愚痴をこぼす。
「驚くことはまだあるんだ!そのアスハ代表をさらったのがなんと、あのフリーダムだったんだよ!」
「何っ!?フリーダムだと!?」
ヴィーノがさらに話して、今度はシンが声を荒げる。
「フリーダムが・・フリーダムが出たのか!?」
シンが目を見開いて、ヴィーノに詰め寄る。
「そうだってニュースで聞いただけだよ!」
ヴィーノが言い返して、シンが我に返る。
「悪かった・・ついカッとなって・・・!」
シンが1度肩を落として、ヴィーノたちに背を向けた。
(フリーダムが出てきた・・アイツがまた・・・!)
連合との戦いで家族を死なせたフリーダムを思い出して、シンが怒りを募らせていく。
(もしかしたら、オレたちの前に現れるかもしれない・・そのときは、オレが・・!)
彼は心の中でフリーダム打倒を決意していた。
セイバーで地球へ到着し、ミネルバを追走していたアスラン。彼は補給のために入港していたミネルバを発見した。
「ミネルバ、こちら特務隊所属、アスラン・ザラ。貴艦への着艦の許可を。」
アスランがミネルバに向けて通信を送る。
“了解。着艦、どうぞ。”
メイリンが応答して、セイバーがミネルバに着艦した。収容されたセイバーに、ルナマリアたちが集まってきた。
「あっ!・・あの人・・!」
セイバーから降りてきたアスランを見て、ルナマリアが声を上げる。彼と彼の付けているバッヂを見て、ルナマリアたちが敬礼する。
シンとヨウランも遅れてやってきた。ヨウランはアスランを見て敬礼するが、シンはアスランに対して当惑を浮かべる。
「おい、シン・・!」
ヨウランに小声で注意されて、シンも遅れて敬礼を送った。アスランはシンに気付いて、彼に視線を向けた。
「特務隊、フェイスのアスラン・ザラ。本日よりこのミネルバに同乗させてもらうことになった。」
アスランも敬礼を送って自己紹介をする。
「よろしくお願いします、ザラ隊長。私が艦長のところへ案内します。」
レイが挨拶してアスランを案内する。2人を見送ってから、ルナマリアたちが戸惑いを見せる。
「まさか、あのアスラン・ザラが来るなんて・・!」
「しかもフェイスになってるなんて・・もしかして、オレたちを指揮するってこと!?」
ルナマリアが声を上げて、ヴィーノが動揺を見せる。
(アイツが・・この間までオーブにいたアイツが・・!?)
アスランの登場にシンは不満を感じていた。
「話はデュランダル議長から聞いているわ、アスラン。」
指令室に来たアスランからの話を聞いて、タリアが答える。
「フェイスとしては、あなたと私は対等の立場だけど、このミネルバでは私に指揮権はあることを覚えておいて。」
「分かっています。その上でパイロットたちの指揮を務めるのが、自分の役割ですね。」
タリアと会話を交わして、アスランが確認をしていく。
「それと、オーブの大西洋連邦との同盟についても聞いています。正直、驚きましたが・・」
アスランがオーブのことを口にして、深刻な面持ちを浮かべる。
「私も正直驚かされたわ・・シンがいなかったら、私たちはオーブと連合の挟み撃ちによって沈んでいたところだわ・・」
「えっ・・?」
タリアが語りかけた話に、アスランが当惑を浮かべる。彼はシンのことを思い出していた。
「連合の艦隊をインパルス1機で撃退するとは、本当に驚きものですよ!」
「そうね・・でもあれは鬼気迫るという見方もできる。力や感情を制御できないと、暴走して、民間人や味方にも危害を加えてしまう恐れもあるわ・・」
アーサーが感動の声を上げると、タリアはシンの心身を案じた。
シンに力を備えていることは、タリアも理解していた。しかし経験が豊富でなく、強い力に振り回されて悪い結果を招きかねないと、彼女は不安に思っていた。
「あなたはザフトのエースだった。その経験で、シンたちをうまく指揮してあげて。」
「分かりました。自分nやれることをやってみせます。」
信頼を送るタリアにアスランが答える。彼女に敬礼を送ってから、指令室を後にした。
「あのアスランが我々と一緒に戦ってくれるとは、実に心強いですね!」
「浮かれてはいけないわ、アーサー。連合とオーブ、両方を相手にするという不利な状況は変わっていないのだから・・」
上機嫌になっているアーサーを、タリアが注意する。
「す、すみません・・・」
「シンたちが持てる力を最大限に発揮して、しかもそれを正しく使えるようになることがカギになる。アスランもサポートしてくれることになったけど、私たちも気を引き締めるようにね・・」
謝るアーサーにタリアが注意を投げかけた。彼女は任務を果たせるよう、気を引き締めなおしていた。
オーブに滞在していたアスランがザフトに復隊、しかもフェイスとして自分たちの指揮官になることに、シンは納得していなかった。オーブを許せない彼にとって、アスランに命令されることが我慢ならなかった。
「ザラ隊長のことを考えているのか?」
レイがやってきて、シンに声をかけてきた。
「レイ・・・」
「お前が不満に思うのもムリもない。かつてのザフトの最高峰のパイロットだったが、プラントを離反してオーブに就いたんだ。」
声を上げるシンに、レイが表情を変えずに語りかける。
「しかしザラ隊長はデュランダル議長からフェイスに任命された。それだけの力を持っているという証拠だ。」
「だけど・・・!」
「オレたちはザフトだ。気に入らないというだけで上官に反抗していては、自分の立場を危うくするだけだ・・」
言い返そうとしたシンだが、レイに注意をされて言葉を詰まらせる。
「ザラ隊長なら指揮に関しても的確な指示を出してくれる。お前がそこまで思いつめることはないだろう。」
レイに励まされて、シンは渋々小さく頷いた。
そこへアスランがルナマリアとともにシンたちのところへやってきた。レイがアスランに敬礼を送って、シンも遅れて敬礼した。
「君たち3人がこのミネルバ所属のパイロットだな。」
「はい。レイ・ザ・バレルです。」
「ルナマリア・ホークです。よろしくお願いします、ザラ隊長。」
アスランが声をかけて、レイとルナマリアが挨拶する。
「ちょっと、シン・・・!」
「あ・・シン・アスカです・・」
ルナマリアに小声で注意されて、シンも挨拶する。
(彼がシン・・連合を退けたインパルスのパイロット・・オーブを憎んでいる・・)
アスランがシンを気に掛けて、心の中で呟いた。
「今後の作戦、戦闘ではオレの指揮の下で行動してもらいたい。突然のことで驚いていると思うが、よろしく頼む。」
「了解です。」
アスランが言いかけて、レイが答える。ルナマリアも頷くが、シンは困惑を感じていた。
ユニウスセブン落下事件の後、ネオたちも地球に降下していた。地球連合の一員である彼らは、ミネルバ追撃の命令を受けて行動していた。
「ミネルバ、インド洋に向けて航行中です。」
ネオたちの乗る戦艦のレーダーがミネルバを捉え、オペレーターが報告する。
「よし。我々もインド洋へ向かう。ヤツらを待ち伏せするぞ。」
ネオが命令を出して、艦隊が針路を取る。
「相手はユニウスセブンを破砕し、オーブ領での包囲網も突破したヤツらは、今まで以上に気を引き締めなければ、尻尾巻いて逃げるだけじゃ済まなくなるぞ。」
ネオが警告を告げて、クルーたちが緊張を感じて息をのんだ。
「ネオ、そろそろ出るのかい?」
アウルがスティング、ステラとともにやってきて、ネオに声をかけてきた。
「そうだ。お前たちも準備しておけ。」
「OK!体を動かしたくてウズウズしてたんだ!」
ネオが呼びかけて、アウルが気さくに答える。当惑を見せているステラに、ネオが歩み寄る。
「今度こそ、悪いヤツをやっつけないとな、ステラ・・」
「うん・・ステラ、悪いヤツ、やっつける・・・」
ネオが投げかけた言葉を受けて、ステラが微笑んで頷いた。
「あのような子供にパイロットをやらせるとはな・・」
「それだけの力はあるんだ。腕前に関しては文句はない。腕前はな・・」
オペレーターたちが小声でスティングたちのことを話す。実力はともかく、子供を戦場に送り込むことに、彼らは満足しているわけではなかった。
「アウル、ステラ、いつでも出られるようにするぞ。」
「OK、スティング!」
「うん・・」
スティングが呼びかけて、アウルとステラが頷く。3人はそれぞれの機体の元へ行く。
ネオたちとシンたちの戦いは、地球上へと戦場を移すことになった。
次回予告
新たな指揮官の参戦。
オーブからザフトに戻ったアスランの登場に、シンの感情は揺れる。
憎き敵を討ち人々を守ること。
軍の命令に従うこと。
どちらが尊ぶべき正義か?
紅の海、駆け抜けろ、アビス!