GUNDAM WAR

-Destiny of Shinn-

PHASE-07「紅に染まる海」

 

 

 オーブの大西洋連邦との同盟。家族を死なせた連合と、その事態を引き起こしたオーブが手を組んだことに、シンは憤りを膨らませていた。

「まさか連合と同盟を結ぶなんてね・・中立国が聞いて呆れるわね・・」

 ルナマリアがため息をついて、オーブへの文句を言う。

「私はそこまでオーブのことを気にしてはいなかったけど、さすがに今回はね・・」

 彼女は呟いてから、シンに目を向けた。

 そこへカガリが元気なくやってきて、シンたちを見て動揺を浮かべる。シンが彼女を見て目つきを鋭くする。

「どういうつもりだよ・・・!?

 シンが問い詰めてくるが、カガリは困惑して言葉を返せない。

「オーブを攻めてきた連合と、今度は同盟だと!?あれだけ国を焼かれて、どれだけの人を死なせたのか忘れたのか!?どこまで身勝手でいい加減なんだ、アンタたちは!?

「それは・・・!」

「敵に回るっていうなら、今度はオレが滅ぼしてやる・・こんな国!」

 口ごもるカガリに不満をぶつけて、シンが手を出して突き飛ばす。左肩を押されてカガリが壁にぶつかる。

 ルナマリアも複雑な気分を抱えて、レイは表情を変えることなく、シンを追うようにカガリの前を立ち去った。

 ユウナたちの言い分を止められず、オーブが悪い方向に向かおうとしているのを止められない自分の無力さを呪い。カガリは歯がゆさを感じていた。

(アスラン・・・!)

 プラントへと向かったアスランに申し訳ない気持ちを感じて、カガリは涙が出そうになるのをこらえていた。

 

 修繕と整備を終えたミネルバは、乗員の確認を終えるとすぐにオーブから出港した。このままオーブに居座っても攻撃されるのを待つだけだと、タリアは判断した。

「まさか、我々がオーブに追われることになるなんて・・・!」

「直接手を出してくることはないと思うけど、これからは警戒を怠ってはいけないようね・・」

 不安を口にするアーサーと、危機感を感じていくタリア。ミネルバはオーブを脱して、その先の近海に出た。

「進行方向に戦艦と機体多数!本艦の進行を阻んでいます!」

 そのとき、メイリンがタリアたちに向かって報告する。ミネルバの前方には多くの軍勢がいた。

「あれは地球軍!?なぜこんなところに!?

「オーブと連合は同盟を結んだ・・オーブが連絡して連合が我々を待ち伏せていたとしても不思議じゃないわ・・・!」

 アーサーが声を荒げて、タリアが現状を推測して毒づく。

「連合艦、こちらに砲門を向けています!」

「問答無用に攻撃しようってことなのか・・!?

 メイリンがさらに報告し、アーサーがさらに困惑する。

「落ち着きなさい、アーサー!連合が攻撃を仕掛けようというなら、我々も打って出るしかありません!迎撃し、ここを突破します!」

 タリアはアーサーをなだめて、連合に視線を戻す。

「コンディションレッド発令!インパルス発進!レイ機、ルナマリア機は本艦を防衛!敵機を近づかせないこと!」

 タリアの指示の下、ミネルバが臨戦態勢に入る。シン、レイ、ルナマリアがそれぞれの機体に乗り込む。

(こんなふざけたマネ・・・絶対に許しちゃおかないぞ・・連合も、オーブも・・!)

「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」

 怒りをたぎらせるシンが、コアスプレンダーでミネルバから発進する。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットが発進して、コアスプレンダーと合体してフォースインパルスとなる。

「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」

「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」

 ルナマリア、レイのザクもミネルバから艦上に出た。

 飛行して前進するインパルスを、連合軍のモビルスーツが迎え撃つ。インパルスはビームライフルを手にして発射して、モビルスーツ「ウィンダム」を攻撃する。

「どけ、お前たち!オレが落としてやる!」

 シンが言い放ち、インパルスがさらにモビルスーツを狙撃していく。

「活路を開きます!タンホイザー、起動!目標、前方、連合軍艦隊!」

 タリアが指示を出して、ミネルバがタンホイザーの発射体勢に入る。彼女は砲撃で連合軍を撃退し、その隙間を縫って脱出しようと考えた。

「ってぇ!」

 タリアの号令とともに、タンホイザーが発射された。

 そこへ1機の機体がタンホイザーのビームの前に飛びだしてきた。

「陽電子リフレクター、展開!」

 機体「ザムザザー」の上面から電磁の壁が現れた。電磁の壁にぶつかったビームが弾かれ飛び散った。

「そんな!?

「電磁バリアでビームを弾いたのか・・だが、タンホイザーのビームを弾くとは・・!」

 ルナマリアが驚愕して、レイが毒づく。MA(モビルアーマー)であるザムザザーが陽電子砲を防いだことに、タリアたちも驚きを隠せなかった。

「だったら接近して落とすしかないってことなのか・・!?

「ダメよ、シン!下手に近づけば、落とされるのはこちらよ!」

 いきり立つシンをタリアが呼び止める。

「あの機体のアーム・・パワーを想定すれば、つかまれればインパルスもひとたまりもないわ!」

「くっ・・!」

 タリアに言われてシンが毒づく。ザムザザーにはハサミを持った両腕が備わっていた。

「しかし、アイツに接近されたら、それこそおしまいなのでは・・!?

「そんなことは分かっているわ!・・接近は絶対に許さないで!」

 動揺するアーサーに言い返して、タリアが指示を出す。

「ミネルバはオレたちが援護する!シンはヤツを引き離せ!」

「それだけじゃダメだ!アイツらは全部倒す!」

 レイが呼びかけると、シンが連合への敵意を強める。発進をしたザムザザーを、インパルスが飛行して迎え撃つ。

 インパルスがビームライフルを発射するが、陽電子リフレクターで軽々とビームを弾かれる。

「ビームじゃ攻撃を当てられない・・接近するしかないのか・・!?

 シンが焦りを噛みしめて、インパルスがビームサーベルに持ち替える。ザムザザーが接近して両腕のハサミを伸ばして、インパルスが距離を取ってかわす。

「これじゃ近づけない・・どうすれば・・!」

 悪戦苦闘を強いられて、シンが毒づく。

「これではやられるのは時間の問題だ・・1度オーブに引き返したほうが・・!?

 アーサーが後退を進言したときだった。

「こちらはオーブ海軍。司令官のトダカだ。ミネルバ、貴艦が我が国、我らの領海に入ることは許されない。」

 オーブ軍の司令官、トダカがシンたちに向けて呼びかけてきた。ミネルバの後方、オーブ領海にはトダカの指揮するオーブ艦隊が展開していた。

「もしも貴艦が領海に踏み込むならば、我らは相応の対処をさせてもらう。なお、現在行われている貴艦と地球連合の戦闘に対し、我らは我らの防衛を果たすことになる。」

 ミネルバに対して警告するトダカ。領域に踏み込むならばミネルバを敵視すると、オーブは判断していた。

 

「以前、国を焼いた軍に味方し、懸命に地球を救おうとしてくれた艦を追い払おうとしている・・こういうのを、恩知らずっていうんじゃないだろうか・・」

 トダカが戦況を見ながら皮肉を呟く。

「政治家には無縁のことかもしれんがな・・」

「トダカ指令・・・?」

 彼の呟きにオペレーターたちが疑問符を浮かべる。

「ミネルバが領海に侵入次第、砲撃をする。ただし威嚇に留めろ。艦体には当てるな。」

 トダカが海軍の軍艦に指示を出す。

「しかし指令、命令は撃破では・・・!?

「オレは政治家ではない・・距離があって正確に当てられなかったとでも言い訳しておけ・・!」

 オペレーターが当惑を見せると、トダカは表情を変えずに言いかける。

「り、了解・・!」

 オペレーターが渋々答えて、艦体に指示を伝達させた。

 

 オーブ艦隊が砲門を向けていることに、タリアたちも気付いた。オーブは自分たちの領土にミネルバを入れまいとしていることを、彼女は痛感していた。

「前方には地球軍の待ち伏せ・・後退してもオーブ軍に攻撃される・・艦長、どうすれば・・!?

「慌てないで、アーサー・・了解手前ギリギリまで旋回して!下手に動けたどちらかに落とされることになるわ!」

 動揺を募らせるアーサーに呼びかけて、タリアが指示を出す。ミネルバはザムザザーとの距離を極力離そうとする。

「そんな・・・オーブは、本気でオレたちを・・・!?

 オーブがザフトを敵にしていることに、シンは動揺を隠せなくなる。動きが鈍っていうインパルスに、ザムザザーが迫ってきた。

「くそっ!」

 シンが激情を募らせて、インパルスがビームサーベルを振りかざす。しかしザムザザーの腕のハサミに弾き返される。

「シン、危ない!離れて!」

 ルナマリアが呼びかけて、ザクがビームを構えた。しかし次の瞬間、インパルスが足をザムザザーのハサミに挟まれた。

「しまった!うわあっ!」

 インパルスが引っ張られて、シンが衝撃に押されてうめく。インパルスがビームサーベルを突き出してザムザザーを引き離そうとするが、熱量を持ったハサミにサーベルが弾かれる。

 さらにインパルスの胴体から色が消えた。

 モビルスーツには耐久力を一気に高める「フェイズシフト装甲」を備えたものがある。インパルスもその1機である。

 フェイズシフト装甲は機体のエネルギーが足りなくなるとその効力を失い、機体の色彩も失われることになる。

 インパルスの耐久力が弱くなり、ザムザザーにつかまれていた足がもぎ取られた。力を失ったインパルスが、海へ落下した。

「シン!」

 ルナマリアが叫ぶが、インパルスは沈んだ海から出てこない。海の底へと沈んでいくインパルスの中で、シンは意識がもうろうとなっていた。

 その最中、シンの脳裏に家族との思いで、家族の死の瞬間がよみがえってくる。自分自身が無力を呪って絶叫したときも。

(こんなことで・・・こんなことでオレは!)

 理不尽への怒りが頂点に達したときだった。シンの中で何かがはじけ、感覚が研ぎ澄まされた。

 シンが再び操縦してインパルスが動き出す。インパルスが上昇して、海の上に飛び出した。

「くっ!しぶといヤツめ!」

「今度は胴体を引きちぎってくれる!」

 ザムザザーのパイロットたちが、インパルスに毒づく。ザムザザーがインパルスに向かって前進し、ハサミでつかまえようとする。

 エネルギーがわずかのはずのインパルスだが、ザムザザーの伸ばしたハサミを紙一重でかわした。インパルスがザムザザーに向かってビームサーベルを振り下ろす。

「ムダだ!この機体に傷を付けることは・・!」

 パイロットがインパルスに対して勝ち誇る。ザムザザーの陽電子リフレクターに、インパルスのビームサーベルが突き立てられた。

 次の瞬間、インパルスが胴体を翻して、ザムザザーの下に回り込んだ。インパルスがザムザザーの下部にビームサーベルを突き立てた。

「おわあっ!」

 コックピットにも爆発が及んで、パイロットたちが絶叫を上げた。ザムザザーが落下して、海に落ちた瞬間に爆発した。

「ミネルバ、メイリン、デュートリオンビームを!それからレッグフライヤーとソードシルエットを!」

 シンがメイリンに向けて的確に指示を出す。

「メイリン、言う通りにして!」

「は、はいっ!」

 タリアも呼びかけて、メイリンが動揺を抑えながら指示に従う。スラスターでかろうじて浮遊しているインパルスを、ミネルバが捉えた。

「デュートリオンビーム、照射!」

 ミネルバから光線、デュートリオンビームが放たれて、インパルスの額に照射される。消耗していたインパルスのエネルギーが回復する。

 インパルスには「デュートリオンエンジン」が搭載されている。デュートリオンビームを受けることにより、エネルギーを回復してそのまま活動を継続することが可能である。

「エッグフライヤー、ソードシルエット、射出!」

 メイリンが続けて呼びかけて、ミネルバからチェストフライヤー、ソードシルエットが射出された。インパルスが1度分離して、新たなチェストフライヤー、ソードシルエットと合体してソードインパルスとなった。

 インパルスがエクスカリバーを手にして、連合の艦の1隻の上に着地した。インパルスがエクスカリバーを振りかざして、艦体を切りつけていく。

 インパルスは艦が爆発、撃墜する直前に飛び上がり、別の艦に飛び移る。インパルスは続けてエクスカリバーで、艦を切りつけていく。

「おのれ!これ以上やらせるか!」

「すぐにヤツを落とせ!」

 ウィンダムのパイロットたちが毒づき、ウィンダムたちがインパルスに向かってビームライフルとミサイルを発射してきた。インパルスはジャンプして、ウィンダムを切りつける。

 怒涛の攻めを見せるインパルスとシンに、連合の面々は驚愕し、ルナマリアたちも戸惑いを感じていた。

「司令、このままでは全滅します!撤退の許可を・・!」

 連合のオペレーターが慌ただしく呼びかける。

「し・・仕方がない・・撤退だ!この海域から離脱する!」

 司令がいら立ちを噛みしめて、部隊に指示を出す。連合の艦隊がミネルバから離れていった。

「おぉ・・連合が引き上げていく・・!」

「インパルスを回収!我々もすぐにオーブを離脱する!」

 アーサーが驚きを感じて、タリアも戸惑いを感じながらも指示を出す。スラスターで浮遊しているインパルスを回収すると、ミネルバはオーブから離れていった。

 

 ミネルバが連合軍の奇襲を突破したことに、ユウナたちは唖然となっていた。

「バ・・バカな・・!?

「何やってるんだよ、連合は!?せっかくこっちが知らせてやったっていうのに!」

 ウナトが声を振り絞り、ユウナが不満をあらわにする。

(ミネルバ・・・)

 去っていったミネルバのことを考えて、カガリは困惑を募らせていた。

 

 プラントに戻ってきたアスランは、ギルバートとの面会を果たしていた。

「デュランダル議長、自分のザフトへの復隊の件、ありがとうございます。」

「いや。君が自分にできることがあるかもしれないと考えたように。私も私のできることをしたまでだよ。」

 頭を下げるアスランに、ギルバートが微笑みかける。

「君はザフトを抜けた身でありながら、先の大戦の終結に大きく貢献した1人だ。その君をただの1軍人とするのは忍びない。そこで・・」

 ギルバートが言いかけて、アスランに1つのバッヂを差し出した。

「これは、“フェイス”・・!?

 アスランがバッヂを見て驚きを覚える。

 フェイス。ザフトの特務隊の総称で、個々の行動の自由が命令権がかなり高いものとなっている。フェイスに選ばれるのは、かなり高い評価や実績を有していると認められた少数である。

「フェイス。忠誠を誓うという意味の部隊・・君は、君自身の信念に忠誠を誓ってくれればいい。」

「議長・・・」

 ギルバートの送る言葉に、アスランが戸惑いを見せる。

「君は君の信念に従い、時に戦うことのできる人間だろう?」

「そうでありたいとは思いますが・・」

「ならばこの力を、どうか必要なときに使ってくれ。ザフト、プラントだけでなく、皆が平和で暮らせる世界のために。」

「議長・・・はい。」

 ギルバートに励まされて、アスランが真剣な面持ちで頷いた。彼はザフトの一員として、再び戦場に戻ることとなった。

 

 

次回予告

 

秘められた力を覚醒させた少年。

戦いの場に舞い戻った戦士。

両者の対面が呼び込むものとは?

そして新たな事件が、シンたちを、世界を震撼させた。

 

次回・「戦士の帰還」

 

紅の翼で、舞い戻れ、セイバー!

 

 

作品集

 

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