GUNDAM WAR

Destiny of Shinn-

PHASE-06「交差する意思」

 

 

「タンホイザー、起動!目標、ユニウスセブン!インパルスとザクが射線軸から退避次第、発射します!」

 タリアがアーサーたちに向けて指示を出す。ミネルバでもインパルスとザクの機影を捉えていた。

「インパルス、早くユニウスセブンから撤退してください!」

 メイリンもシンたちに向けて呼びかけていく。

「アスラン・・・!」

 カガリもアスランの安否を心配して、気が気でなくなっていた。

「本艦は降下シークエンスに入ります。議長、アスハ代表はその前にボルテールに移動してください。」

 タリアがギルバートとカガリに避難を呼びかける。

「いや、このまま私だけ安全な場所にいるわけにはいかない。このまま降下して構わん。」

「私もだ。ここまで来て下がるわけには・・!」

 しかしギルバートもカガリもミネルバから離れようとしない。

「分かりました・・本艦はこのまま降下し、ユニウスセブンを破砕します!」

 タリアが頷いて、インパルスとザクの動向を注視した。

 

 インパルスがザクを連れて脱出を試みる。インパルスがスラスターを全開にして加速する。

(こんなところで死ねない・・今のオレには、オレ自身の力で生きられるんだ!)

 力を持った今の自分に自信を持って、シンが集中力を高める。インパルスがザクを連れて、引力圏から脱出してミネルバへ急ぐ。

「インパルス、ザク、射線軸から退避!本艦に着艦しました!」

 メイリンがインパルスたちを確認して報告する。

「タンホイザー、ってぇ!」

 タリアの号令とともに、ミネルバから陽電子砲「タンホイザー」が発射された。半壊しているユニウスセブンに、強力なビームが撃ち込まれた。

 ユニウスセブンが崩壊を起こして砕かれていく。粉々にはなったが、大気圏でも燃え尽きないほどの大きさの岩石が残っていた。

「あれでは地上に落ちる・・・!」

 落下していく岩石を見て、アーサーが絶望する。岩石が大気圏に入って、地上に向かって落ちていく。

 破砕された岩石のほとんどは大気圏を突っ切る際の熱で燃え尽きたが、燃え尽きずに残った岩石は、地球の地上や海へ落下していった。

 

 ユニウスセブンが粉砕された岩石の落下は、地球に被害をもたらした。シンたちの活躍で規模は小さく抑えられたが、それでも深刻な被害が出ることになった。

 少しでも最悪の事態から遠ざけるように尽力したが、本当に最善を尽くしたのか、それともまだできることがあったのだろうかと、シンたちもタリアたちも深刻さを隠せないでいた。

 タンホイザーを発射した直後に、大気圏へ突入したミネルバ。大気圏を抜けて海上で安定飛行に入った。

 そしてミネルバはカガリの進言で、オーブに入国することになった。その軍港にてミネルバは修繕と補給を行い、カガリはオーブ首脳陣との合流を果たした。

「これはこれは、ザフトの皆々様、我がオーブのアスハ代表を保護していただき、誠に感謝しています。」

 オーブの五大氏族の1つ、セイラン家の後継者、ユウナ・ロマ・セイランがタリアたちに挨拶をした。

「デュランダル議長にもお会いしたかったですが、残念です。」

「申し訳ありません。議長はユニウスセブン落下の経緯と情報を議会でまとめるために、プラントに戻りました。」

 言いかけるユウナに、タリアが謝意を示す。オーブに入る前に、ギルバートは別のシャトルに移って、プラントに帰還していった。

「カガリ、心配していたよ。アーモリーワンで戦闘が起こったと聞いて、自分を落ち着かせるのも大変だったよ・・」

 ユウナがカガリに近寄り、囁くように言いかける。

「よせ、ユウナ・・ザフトの前だぞ・・!」

 カガリが不満を投げかけて、ユウナを引き離す。ユウナは気を取り直して、タリアたちに視線を戻す。

「皆様、束の間ではありますがどうぞおくつろぎください。」

 ユウナはタリアたちに軽く頭を下げてから、カガリとアスラン、他のオーブの議員たちとともにこの場を後にした。

「ミネルバの整備と補給を進めて。パイロットには自由時間を設けます。」

 タリアがアーサーに向けて言いかける。

「分かりました。しかしあの一件を考えて気が休まらないでしょうね・・」

「でも気持ちを切り替えないといけないわ。ユニウスセブンの件は徐々に沈静化していくでしょうけど、私たちにはまだ、ボギーワンを追うという任務が残っているのだから・・」

 アーサーが口にした言葉に、タリアが使命を口にする。

 ユニウスセブン落下がもたらした被害と悲劇は小さくはない。しかしいつまでもこの悲しみに囚われているわけにはいかない。タリアはザフトとしての任務を果たすことを考えていた。

 

 自由時間を与えられたシン、レイ、ルナマリア。しかしルナマリアはユニウスセブンの惨事を思い出して、気が重くなっていた。

「地球、これからどうなってくのかしら?・・復興に向かえばいいのだけど・・・」

「地球やプラントでも多くの混乱が起こっている。今を不安視している人も少なくないはずだ。」

 ルナマリアが呟くと、レイが表情を変えずに現状を口にする。

「オレたちはできる限りの最善を尽くした。今は次の任務に備えて待機するだけだ。」

 レイが話を続けて、ルナマリアは小さく頷いた。

「シンはこれからどうするの?」

 ルナマリアが声をかけるが、シンは答えずにこの場から離れた。

「もう。一緒に散歩にでも行こうかなと思ってたのに・・」

 ルナマリアがシンに不満を感じてため息をつく。レイは表情を変えることなく、シンの様子を気に掛けていた。

 

 ユニウスセブンは破砕された。しかし地球の各地で被害が相次ぎ、悲しみが広がっていた。

 その知らせはアスランの耳にも届いていた。彼の中に行動を起こそうとする意思が強まっていた。

(オレは、このままオーブに留まっていてもいいのだろうか?プラントの、ザフトの再興に貢献したほうがいいのではないだろうか・・?)

 アスランが心の中で自分に問いかける。

(今のザフトは平和のために力を注いでいる。ミネルバにいるパイロットも力はある。だけど、前の戦争に参加していない者ばかりで、実戦経験が少ない・・グラディス艦長たちだけでなく、すぐそばで彼らを導ける者がいれば・・・)

 これまでのシンたちの戦いを思い返して、アスランは深刻さを感じていた。

 シンたちが判断を誤り、戦いを終わらせるための力で破壊や混乱を招いてしまう危険が否めない。そうさせないために、指揮の出来るパイロットがいる必要がある。

 アスランの中で決意が固まりつつあった。

「アスラン・・」

 そこへカガリがやってきて、アスランが振り返る。

「カガリ、オレ・・オレは・・」

「ザフトに、プラントに戻りたいっていうのか・・?」

 言いかけるアスランに、カガリが真剣な面持ちで問いかける。するとアスランも小さく頷いた。

「お前は今まで、オーブに身を置いて、戦いのない平和のために力を尽くしてきた。でも今は、プラントでそれを成し遂げたいと思っているのだろう・・?」

「しかし、オレがオーブを離れてしまったら、カガリは・・・」

「私とオーブのことなら心配するな。お前1人いなくても、私でオーブをまとめてみせる。」

「カガリ・・オレのために・・・」

 カガリに後押しされて、アスランが戸惑いを覚える。

「カガリ、オレはプラントに行く。プラントから、本当の平和の実現に関わっていくつもりだ。」

「そうか・・また、オーブに戻ってくるのか・・?」

「全てが終わったら、必ず・・・」

 カガリの投げかけた問いに、アスランが真剣な面持ちで頷いた。

「オーブもプラントも、本当に争いのない時代が来るように、オレも戦う・・お前やみんなのために・・」

 アスランが思いを口にして、カガリを優しく抱きしめた。彼からの抱擁に、カガリは戸惑いを募らせる。

「プラントと連絡を取って出発する・・」

「そうか・・分かった・・・」

 アスランの言葉を聞いて、カガリが頷いた。アスランは1人プラントへ赴く決意を固めた。

 

 私服に着替えてミネルバから1人出かけたシン。彼は軍港から離れた海岸に足を運んだ。

 オーブはシンにとって第2の故郷だった。しかし家族を殺されたシンは、オーブにも怒りの矛先を向けていた。

 海岸から荒れている海を見つめるシン。彼は家族を殺された瞬間、カガリに対して怒りをぶつけた自分を思い返して、体を震わせていた。

 そしてシンは海岸の近くの広場に来た。海沿いのその場所の先には、1つの慰霊碑があった。先の大戦でオーブで亡くなった人たちの名前が記されているものである。

 シンは慰霊碑を見つめて、悲しみと怒りを噛みしめる。荒波を浴びたのか、慰霊碑は濡れて、時間は経っていなかった。

 そこへ1人の青年がやってきて、シンのほうへ近づいてきた。青年も慰霊碑を見つめて、深刻な面持ちを浮かべた。

「このオーブの、慰霊碑なのかな・・・?」

「そうみたいですね・・オレ、この国に来たの、久しぶりだから・・・」

 青年が声をかけて、シンが答える。

「花にも、水がかかってしまったみたいだね・・・」

 青年は周りにも目を向けて、悲しい顔を浮かべる。ユニウスセブンの破片の落下による荒波で、慰霊碑の周りにある草花にも海水がかかって枯れゆく運命にあった。

「海の水で花が枯れる・・戦争で花も焼かれる・・・!」

 戦争への怒りで体を震わせるシンに、青年が戸惑いを浮かべる。

「いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす・・今度も・・・」

「君は・・・!?

 シンが口にした言葉を聞いて、青年が心を揺さぶられる。

「あ、すみません・・変なこと言って・・」

「う、ううん・・」

 我に返って謝るシンに、青年が戸惑いを感じたまま答えた。

「オレ、そろそろ戻らないと・・それじゃ・・」

 シンは青年に小さく頭を下げてから、慰霊碑を後にした。

(もうこんな思いはたくさんだ・・オレは戦う・・戦えるだけの力を、オレは手に入れたんだ・・・!)

 もう自分は無力ではない。戦いを終わらせるために敵と戦うことができる。シンは自分に言い聞かせていた。

(連邦もオーブも、オレは許さない・・あの機体、フリーダムも・・・!)

 シンの脳裏に、連合のモビルスーツと戦う翼のある機体の機影がよぎる。

 「フリーダム」。ザフトが開発した最新鋭のモビルスーツだったが強奪され、同時期に開発された「ジャスティス」とともに戦争終結に貢献されることになった。

 しかしシンにとって、家族を死なせた戦火を拡大させた悪魔でしかなかった。

(アイツも出てきたら、オレが必ず倒してみせる・・・!)

 フリーダムへの怒りもたぎらせて、シンはミネルバに戻っていった。

 しかしシンは知らなかった。今出会った青年が、フリーダムのパイロット、キラ・ヤマトだったことを。

 

 翌朝、アスランは1人、シャトルでオーブを飛び立ち、プラントへと向かった。束の間の休息を終えて、カガリはオーブ首脳陣との議会に赴いた。

 そこでは、カガリの意思に反する議論が交わされていた。

「大西洋連邦との同盟だと!?

 ユウナたちの決断に、カガリが声を荒げる。

「これが何を意味するのか分かっているのか!?大西洋連邦は、ブルーコスモスと大きく関わりがあるのだぞ!」

 カガリが感情をあらわにして、ユウナたちに問い詰める。

 「ブルーコスモス」。反コーディネイターを理念とした集団で、その構成員は出身、種族問わず様々である。

「我々はプラントと友好な関係にある!オーブに移住してきたコーディネイターも少なくなく、数々の援助もある!ザフトは先日のユニウスセブン落下の際は、地球防衛のために尽力してくれた!それなのにその恩を仇で返すマネをしようというのか、お前たちは!?

「そのユニウスセブンの件、犯人もコーディネイターだったと聞いている。」

 必死に語りかけるカガリに、ユウナの父でセイラン家の当主であるウナト・エマ・セイランが言葉を返す。

「世界は今、混迷の一途を辿っている。その争いの根源がコーディネイターであると、我々は判断した。」

「コーディネイター全員が地球に被害をもたらそうと企む者というわけではない!現在、ギルバート・デュランダル議長の下、プラントも平和に向けて変わりつつあるのだ!」

「デュランダル議長や他のコーディネイターが、我々に牙を向けんとも限らないのだぞ。」

「何をバカなことを!?・・そうやって軽々しく疑心暗鬼を向けるのは愚かなことだ!」

 ウナトの投げかける言葉に、カガリが反発する。

「これは父上や僕の個人的な意見ではないのだよ、カガリ。君以外の首脳陣は、みな同じ考えだ。」

 ユウナもカガリに向けて、真剣な顔で言いかける。

「コーディネイターは調整によってナチュラルよりも身体能力が高い。その力を誇示するために、強硬策に打って出ないと、一体誰が言い切れるのかな?」

「ブルーコスモスと地球連合のために、オーブは壊滅的な打撃を受けた!その連合を手を組むなど、正気の沙汰ではない!」

「プラントと協力関係にあるほうがどうかしている。それは我ら全員が同じ意見であり、世界の混乱の鎮静化にもつながる。」

「バカな!私のお父様、ウズミを侮辱するつもりか!?

 ユウナの言葉にカガリが怒鳴りかかる。

 カガリの父であり、オーブの前代表だったウズミ・ラナ・アスハ。オーブの理念を貫き通し、彼は連合の要求を拒み、戦火の中で散華した。カガリや未来を生きる者たちに、自分の思いを託して。

「いい加減に個人的な考え方をするのはやめてもらえないか?」

 ユウナがため息まじりに言って、カガリが言葉を詰まらせる。

「ウズミ様のことはお気の毒ではある。しかし感情任せの判断や決断は、あのときの二の舞を演じることになるのですよ。」

「それは・・・!」

「オーブのために、オーブの理念のためにどのような選択を取るべきか、冷静に考えるのです、アスハ代表殿。」

 口ごもるカガリにユウナが問い詰める。ウナトたち他の議員たちも彼に賛同していた。

 ユウナたちに言い寄られて、カガリは自分とウズミの意志を貫くことができず、反論できなくなった。

 

 オーブの大西洋連邦との同盟は成立した。その知らせは地球の各国に、そしてミネルバにも伝わった。

「そんな・・オーブが、大西洋連邦と、地球連合と同盟を結ぶなんて・・・!?

 タリアも同盟の知らせを聞いて目を見開いていた。

「艦長・・ということは、オーブは・・!?

 アーサーが不安を込めて言いかけて、メイリンが緊張の色を隠せなくなる。

「連合は私たちザフトを、プラントを敵だと完全に認識しているわ・・彼らと同盟を結んだオーブもね・・」

 タリアは現状を呟いて、これから起こるだろう事態を推測する。

「すぐにオーブを発つわよ・・このままオーブにとどまるのは危険よ・・!」

「は、はいっ!」

 タリアの指示にアーサーが答える。ミネルバはオーブからの出港準備に入った。

 

 

次回予告

 

崩壊の序曲に入った中立。

オーブの裏切りにあったミネルバを、新たな脅威が待ち構える。

その力に窮地に立たされるシン。

そのとき、行かれる魂が新たな覚醒を呼び起こした。

 

次回・「紅に染まる海」

 

秘められし力、解き放て、インパルス!

 

 

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