GUNDAM WAR

Destiny of Shinn-

PHASE-04「落ちる墓標」

 

 

 ナチュラルとコーディネイター、地球連合とザフトの戦争が起きるきっかけとなった事件「血のバレンタイン」。コロニー「ユニウスセブン」に核が落とされ、多くの死者が出た。

 現在、廃墟の残骸となったユニウスセブンは宇宙の墓標として漂っていた。

 ユニウスセブンは長年に渡って、地球やコロニーにぶつかることなく漂い続けていた。

 はずだった。

 

「こ、これは・・どういうことなんだ・・・!?

 プラントの観測所にて、観測員が驚きをあらわにする。

「ユニウスセブンが、動いている・・・!?

「しかもこの進路は・・・!」

 観測員たちが驚愕を募らせていく。地球全土を危機に陥れる事態が、今まさに起ころうとしていた。

 

 ユニウスセブンの進路の異変は、修繕を終えたミネルバにも伝わっていた。

「そんなバカな!?・・ユニウスセブンが動いている・・!?

「えぇ。それも、地球に向かっているわ・・・」

 動揺を浮かべるアーサーに、タリアが深刻さを噛みしめて答える。

「このままではユニウスセブンは、数時間後に地球に衝突することになる・・」

「た、大変じゃないですかー!すぐに対策を・・!」

「落ち着きなさい、アーサー。既にジュール隊が急行して、メテオブレイカーで破砕作業を進めているわ。」

 慌てるアーサーをタリアがなだめる。彼女はすぐにミネルバが発進できるように備えて、別名を待った。

 

 ユニウスセブンの異変について、シンたち、そしてカガリとアスラン、ギルバートの耳にも入っていた。そしてカガリはギルバートに事態の解決の協力を申し出た。

「アスハ代表からの要請には感謝しています。しかしわざわざミネルバに同乗する必要はないのですが・・」

「しかしオーブが、地球が危機に直面しているのを、ただ何もせずに遠くから見ているわけにはいかない。何ができるかは分からないが、我々も力にはなれるはずだ。」

 苦言を呈するギルバートに、カガリが自分の意思を伝える。

「アスハ代表もザラ氏も、モビルスーツの操縦もかなりのものだとうかがっています。先の大戦、自ら戦場に赴いて戦いを終わらせた中のお二方です。」

 ギルバートがカガリたちについて語りかけていく。

「しかしミネルバに配備されているモビルスーツは、インパルスとザクです。機能を引き出すのにも、さすがに限界があります。」

「それでも、やはり何もしないわけには・・・!」

 言葉を返すギルバートに、カガリがさらに呼びかける。彼女は地球の危機にいても立ってもいられない心境になっていた。

「落ち着いてください、アスハ代表・・焦りが1番の天敵です・・」

「す・・すまない、議長・・・」

 ギルバートになだめられて、カガリが謝意を見せる。

「分かりました。グラディス艦長に私から進言しましょう。」

「デュランダル議長・・感謝する・・」

 了承したギルバートに、カガリが感謝して一礼した。

「先日のような助言がまた出てくるかもしれないからね、アスラン。」

「は、はぁ・・」

 ギルバートが投げかけた言葉に、アスランは当惑を感じながら答えた。

 

 ユニウスセブンの移動にルナマリア、ヨウラン、ヴィーノも動揺を感じていた。

「動いてるって・・ホント、なのか・・・!?

「あぁ。しかも地球に向かっている。このままでは地球と衝突する。」

 ヴィーノが声を上げて、レイが冷静に答える。

「だけど、あれは100年単位で安定の軌道で、地球やどこのコロニーにもぶつかることはないって・・!」

「おそらく自然の流れで軌道が変わったのではなく、何者かによって軌道を変えられたのだろう。」

 ヴィーノがさらに声を上げて、レイが話を続ける。彼はユニウスセブンの異変が人為的によるものだと推測していた。

「それじゃユニウスセブンの近くに、犯人が潜んでいるってことなのか・・!?

「今、ザフトの別の部隊が破砕作業をしているけど、もしかしたら鉢合わせになっているかも・・・!」

 ヨウランが不安を口にして、ルナマリアが危機感を感じていく。

「このまま地球に落下、衝突することになれば、地球の被害はかなりのものとなる。人々もかなりの人数が巻き込まれることになる・・」

 レイの告げた言葉にルナマリアもヨウランも深刻さを募らせていく。彼らのいる場所に来たカガリとアスランも困惑を覚える。

「でも、地球にいるのはほとんどがナチュラルだろ?オレたちコーディネイターがムキになって出張らなくても・・」

 ヴィーノがため息まじりに言いかける。あまりに緊張感と危機感のない彼の態度に、カガリが怒りをあらわにした。

「お前、何だ、その言葉は!?地球が危機に直面しているというのに、その態度は何だ!?

「ア、アスハ代表!?

 怒鳴ってきたカガリにヴィーノが慌てる。レイたちが敬礼をする中、シンは目つきを鋭くしていた。

「ユニウスセブンが落下すれば、地球は壊滅的な被害が出ることになる!ナチュラルだけでなく、地球で暮らしているコーディネイターも、多くの命が失われることになるのは明らかなのだぞ!」

「は、はいっ!すみません!」

 カガリに怒鳴られて、ヴィーノが動揺して深々と頭を下げる。

「ザフトも、そういう軽率で不謹慎な考えは改めてもらいたい・・!」

「別にそこまで目くじらを立てるほどのことじゃないだろ・・」

 いら立ちを噛みしめるカガリに言い返してきたのは、シンだった。

「ヴィーノだって本気で言ったわけじゃないのに・・そんなことも分かんないのかよ、アンタは・・!?

「冗談だから言っていいことではない・・そんな態度が事態の悪化を招くことになるんだぞ!」

 不満を口にするシンに、カガリがさらに憤りを見せる。するとアスランが彼女の肩に軽く手を乗せてなだめる。

「お前は彼女がアスハの代表だということが分かっているのか?それとも士官学校で礼儀を学ばなかったのか?」

 アスランが険しい表情で、シンに注意を呼びかける。

「君はオーブから来たそうだが、そのオーブが気に入らないようだが・・どういうことなのか、話してくれないか?」

 アスランが問いかけるが、シンはいら立ちを見せたまま黙っている。

「言いたくないことなのか?くだらない理由でそんな態度を取るなら、こちらもそれ相応の対応をさせてもらうぞ・・!」

「くだらない!?・・くだらないだと!?

 アスランが警告を口にすると、シンが怒鳴り声を上げる。

「綺麗事ばかり言うアンタたちに、くだらないなんて言わせるか!アンタたちのしたことで、どれだけの人が傷ついたと思ってるんだ!?

「私たちのしたこと・・!?

「オレの家族は、オノゴロで殺された!オーブの、アスハの理想を信じたのに、戦いに巻き込まれて死んだんだ!アンタたちの勝手な決め事がなければ、オレたちはいつまでも安心して暮らしていけたのに!」

 オーブへの怒りを叫ぶシンに、カガリが動揺を隠せなくなる。

「自分の国の正義のために、どれだけの命が失われることになるのか、ちゃんと本気で考えたのかよ!?・・何にも分かってないくせに、分かったようなこと言わないでほしいね!」

 カガリに不満と憎悪をぶつけて、シンはいら立ったまま廊下へ出て行ってしまった。

「ちょっと、シン!」

 ルナマリアが慌ててシンを追いかけて、レイも小さく一礼してから続く。カガリはシンの言葉に困惑を募らせていた。

 

 カガリへの、オーブへの怒りを叫んだシンに、ルナマリアとレイが追いついた。

「シン、待ちなさいって・・いくら気に入らないからって、あれはまずいって・・!」

 ルナマリアが呼びかけて、シンが廊下の途中で足を止める。

「フリでももうちょっと礼儀を見せたほうがいいわよ、シン・・」

「いくらウソでも、オーブなんかに礼儀なんてしたくない・・勝手なマネをして、オレたちを裏切って傷つけたオーブなんか・・!」

 注意するルナマリアだが、オーブへの怒りを感じていたシンは聞き入れない。

「お前の気持ちも分かる。しかしやはりあのような態度は控えたほうがいい。」

 レイは落ち着いたまま、シンに言いかける。

「オーブのためではなく、ザフトのためにそうしたほうがいい。」

「レイ・・こんなことで、ザフトの話を持ちかけることはないだろうに・・・!」

 レイの投げかける言葉に不満げに答えて、シンは改めて歩き出した。

「シン・・ホントにしょうがないんだから・・・」

 シンの頑なな態度に、ルナマリアが呆れる。レイは表情を変えることなく、シンのことを考えていた。

 

 自分の部屋に戻ったシンは、マユの携帯電話を手にしていた。静寂の部屋の中に、マユの声の留守番ボイスが響いていた。

(マユ・・・父さん・・母さん・・・オーブが自分勝手な信念を貫いたばっかりに・・・)

 シンが悲しみを噛みしめて、体を震わせる。彼の脳裏に、マユと両親を失った悲劇がよぎってくる。

(オレは許しはしない・・オーブも、マユたちを殺した連合も、あの機体も・・・!)

 絶望に苦しむ中で見上げた空での戦闘を思い出すシン。上空では連合のモビルスーツの他、交戦する1機の機体の姿もあった。

 シンはその機体に対しても、怒りの矛先を向けていた。

「シン、集合だ。艦長が呼んでいる。」

 レイが部屋に来て、シンに呼びかけてきた。

「分かった。すぐ行く・・」

 シンはマユの携帯電話をしまうと、レイとともに部屋を出る。

「落ち着いたか?」

「落ち着いてないように見えるか・・?」

 レイが問いかけて、シンが不満げに答える。

「お前もオレもザフトだ。オレたちはザフトとプラントのために、任務を全うする。」

「オレはオーブも連合も許せない・・だからオレはプラントに来て、ザフトに入ったんだ・・」

 レイが呼びかけると、シンは自分の考えを口にする。

「力がないのが悔しかった・・戦争のために誰かが死ぬ・・そんなことをさせないための力を・・・!」

 自分の心境を呟くシンが、両手を握りしめる。彼は家族を奪った戦争や機体だけでなく、無力な自分も呪っていた。

「今のお前には力がある。インパルスという力、そしてお前の中にある力が・・」

「レイ・・うん・・」

 レイが投げかけた言葉に、シンが小さく頷いた。2人はタリアたちのいる指令室に来た。

「2人も来たわね。私たちに急行命令が下ったわ。」

「ユニウスセブンの破砕作業に、何かトラブルが・・・!?

 タリアが告げた話に、ルナマリアが問いかける。

「もしや、ユニウスセブンの犯人が部隊に攻撃を・・?」

「ジュール隊が攻撃を受けて、作業の進行に支障が出ている。このミネルバや他のザフトの部隊に、救援の要請が出たのだ。」

 レイも聞いてきて、アーサーが話を続ける。

「本艦はユニウスセブンに向けて前進。シン、レイ、ルナマリアは発進準備を。」

「はいっ!」

 タリアの呼びかけにシンとルナマリアが答えて、レイとともに敬礼をした。3人は格納庫へ向かって、ぞれぞれの機体に乗り込んだ。

 加速して航行するミネルバが、ユニウスセブンの近くまで来た。ザフト所属の隊長、イザーク・ジュール率いるジュール隊がユニウスセブンの破砕作業を行っているが、正体不明のモビルスーツの攻撃に妨害されていた。

「やはり犯人はモビルスーツに乗って、ユニウスセブンを故意に動かしていたのね。」

 タリアが冷静に状況を確かめる。

「アンノウンのモビルスーツ、ジュール隊への攻撃を続けています。」

 メイリンがユニウスセブンでの状況を報告する。

「コンディションレッド発令。これよりジュール隊の援護、アンノウンの迎撃を開始します。」

「コンディションレッド発令。モビルスーツ、発進スタンバイ。」

 タリアが指示を出して、メイリンが呼びかける。コアスプレンダーと2機のザクが発進体勢に入った。

「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」

「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」

「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」

 シン、ルナマリア、レイがコアスプレンダー、ガナーザクウォーリア、ブレイズザクファントムでミネルバから出撃する。コアスプレンダーがチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットと合体して、フォースインパルスとなった。

「あれが、ユニウスセブン・・!」

 シンがユニウスセブンを見て、戸惑いを覚える。

「敵機は我が隊が迎撃します。その間に作業を進めてください。」

 タリアが戦艦「ボルテール」に向けて呼びかける。

「了解した。援護、感謝するぞ!」

 ボルテールにて部隊の指揮をしていたイザークが応答する。

「お前らは破砕に集中しろ!オレも敵の迎撃に向かう!」

「はっ!」

 緑のガナーザクウォーリアに乗っているパイロット、ディアッカ・エルスマンが呼びかけて、部下のパイロットが答える。

「お前たちも頼りにさせてもらうぜ!」

 ディアッカがインパルスたちを見て、シンたちに呼びかける。

「オレとお前、ガナーで遠距離で援護する。他の2機は接近して敵を落とせ!」

「了解!シン、レイ、後ろは任せてよね!」

 ディアッカの指示に答えて、ルナマリアがシンたちに呼びかける。

「分かってる!すぐに片づけてやる!」

「もちろんだ・・!」

 シンが言い放って、レイも答える。インパルスとザクがアンノウンの機体「ジン」へ向かっていく。

 インパルスたちの接近にパイロットが気付いて、ジンがビームカービンを構えて発射する。インパルスとザクが回避して、ジンに詰め寄る。

 そこへもう1機のジンが駆けつけて、斬機刀を手にして飛びかかってきた。シンが気付き、インパルスがビームサーベルを手にして、ジンが振りかざした斬機刀を受け止めた。

 レイのザクがビームトマホークを手にして、1機目のジンに向かっていく。ジンがビームカービンを発射するが、ザクが回避して詰め寄った。

「お前たちはオレたちが討つ・・お前たちの思い通りにはさせない・・・!」

 レイが低い声音で言いかける。ザクがビームトマホークを振りかざして、ジンの左腕を切り裂いた。

 シンのインパルスもビームサーベルを振りかざして、ジンの斬機刀をはじき飛ばした。

「どうしてこんなことを・・こんなことをして、たくさんの人が死ぬことになるのか分かってるのか!?

 シンが怒りの声を上げて、インパルスがビームサーベルを振りかざす。ジンが回避してビームカービンを撃つが、インパルスは素早く回避する。

 シンが目を見開いて、インパルスが加速してビームサーベルを振りかざす。ジンが胴体を切り裂かれて、落下しながら爆発した。

 戦いで敵であるが命を奪う。その実感を噛みしめるシンだが、戦いを引き起こす敵への怒りのほうが強かった。

 

 ユニウスセブンの落下について、地球連合も情報を集めていた。その中でネオたちのいるガーティルーに、ある指令が届いていた。

「やはりこういう命令が下されるか・・オレたちは上の命令に従うだけだ。」

 ネオが指令を見て、ため息まじりに呟く。

「我々もユニウスセブンに向かうぞ。目標は落下の犯人と、ザフトだ。」

 ネオが指示を出し、ガーティルーもユニウスセブンへ向かって動き出した。彼らに下された命令は、ユニウスセブン落下に乗じてザフトを叩くというものだった。

 

 

次回予告

 

地球へ落下していく墓標。

それは争いの火種なのか?悲しみの報復か?

様々な思惑が交錯する中、シンが、アスランが見たものは?

 

次回・「世界が終わる時」

 

忘れられた悲劇、指し示せ、ジン!

 

 

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