GUNDAM WAR

Destiny of Shinn-

PHASE-03「ファントムペイン」

 

 

 避難のためにミネルバに乗り込んだことを、ギルバートはカガリ、アスランとともにタリアに説明した。

「緊急のため仕方がなかったのは分かりました。しかし本艦はこれから、強奪された新型の追跡に向かいます。」

 タリアが頷いて、これからのミネルバの動向について語る。

「議長、直ちにミネルバから退避してください。3機が逃走した後、アーモリーワンに賊が現れたという情報はありません。」

 タリアがギルバートに退艦を進言する。

「アスハ代表もお願いします。」

「いや、私はここに残ろうと思う。今回のモビルスーツ強奪は私にも責任がある。」

 カガリとアスランにも告げたタリアに、ギルバートが呼びかけてきた。

「私には責任もあれば義務もある。私も行く。許可してくれ。」

「議長・・・」

 進言するギルバートに、タリアが戸惑いを覚える。

「それならば私も同行させてほしい。私だけのこのこと逃げ帰るわけにはいかない・・!」

 するとカガリもタリアに申し出てきた。

「危険になるのは承知している。しかし安全なところでただ状況を確かめるだけでいるわけにはいかない・・!」

「しかしこれは我々プラントの問題。オーブのあなた方が関わる必要は・・」

「それでもこの事態、見て見ぬフリはできない!世界が互いに手を取り合うためにも、私は逃げるわけにはいかないんだ・・!」

 ギルバートの口にした言葉を聞いても、カガリの意思は揺るがない。

「分かりました・・艦長、構わないだろうか?」

「私としては本意ではありませんが、仕方ありませんね・・」

 ギルバートが頷いて、タリアも渋々聞き入れることにした。ギルバート、カガリ、アスランもこのままミネルバに残ることになった。

 

 ガーティルーに戻ったスティング、アウル、ステラは専用の調整装置で精神安定を施されていた。特にブロックワードを耳にして混乱していたステラには、念入りな精神調整が行われていた。

「よくやったな、お前たち・・怖い思いをさせてすまなかったな、ステラ・・・」

 調整室の外からステラたちを見つめて、ネオが呟く。

「しかし解せませんね。いちいちこのように調整を施さなければならないとは・・」

 副官がネオに、スティングたちへの疑問を投げかける。

「仕方がない。この3人は戦うために存在している。そこに意味も理由もない。ただ敵を倒すだけの存在だ。」

「以前は薬を使う必要がありましたが、今はこうして記憶を操作することで安定させることができました。」

 ネオと副官がスティングたちについて話を交わす。

「我々には戦う理由もありますし、意味も理解しています。軍人としての心得も。しかしコイツらにはそれがない・・」

「しかし我々はやるしかないし、この3人にもやらせるしかない。我々は上の命令を受けて行動しているのだから。」

「それが軍人というものですから・・」

「実に悲しいことだがな・・」

 副官の投げかける言葉に、ネオは皮肉を込めて答える。

「報告します!ザフト艦が本艦に近づいてきています!」

 そこへ兵士の1人が駆けつけて、ネオたちに報告してきた。

「分かった。すぐにそっちへ行く。」

 ネオが答えて、スティングたちの様子を改めて見てから歩き出した。

「よし、行こうか。慎ましくな。」

 

 航行していたガーティルーに追いついた。束の間の休息を取って、シンが格納庫に戻ってきた。

「もう、シンったら、オーブの代表にいきなり突っかかるなんて・・」

 ルナマリアが先ほどのシンの態度に対して、ため息まじりに言いかける。

「それが悪いって言いたいのかよ!?・・アイツらのせいで、オレたちは・・・!」

 シンが目つきを鋭くして、コアスプレンダーのコックピットに乗り込んで、チェックを行う。

「シン・・・しょうがないんだから・・・」

「仕方がないことだ。シンはオーブで家族を亡くしている。中立を理念として守ってくれると信じていたオーブに裏切られることになったのだから・・」

 肩を落とすルナマリアにレイが言いかける。2人はシンの事情を聞いていた。

「あの侵入者、許しちゃおかない・・新型を盗んだばかりか、ユンたちまで・・・!」

 ルナマリアがユンのことを思い出して、スティングたちへの怒りを覚える。

「必ず奪還しなければならない。ユンのためにも・・それが不可能だというなら、破壊は絶対に果たす。」

「レイ・・そうね。シンもそのつもりで躍起になっているはずだから。」

 レイが冷静に意思を口にして、ルナマリアが頷く。

「さぁて、もっともっと練習して、あのザクを使いこなせるようにならないと・・!」

 ルナマリアが気を引き締めて、自分の乗るザクのコックピットに向かった。彼女はガナーザクウォーリアの特性と武装を再確認していた。

 

 ミネルバの指令室にてタリア、アーサー、メイリンたちがガーティルーをモニターで確認していた。タリアは奪還にこだわろうとはせず、ガーティルーへの攻撃にためらいを持っていなかった。

「敵は既に新型3機のデータを分析して、自分たちの戦力としているでしょう。よって敵勢力の排除を最優先とします。」

「艦長・・・!」

 決断するタリアに、アーサーが当惑を浮かべる。

「現時点をもって、敵艦を“ボギーワン”と呼称。これより、ボギーワン以下、アンノウンへの攻撃を開始する。」

「コンディションレッド発令。モビルスーツ、発進スタンバイ。」

 タリアが指示を呼びかけて、メイリンがミネルバ艦内に伝達する。ミネルバがガーティルーに向かって進行する。

 ルナマリアの乗ったガナーザクウォーリア、レイのブレイズザクファントムが発進準備を整えた。

「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」

 ガナーザクウォーリアがミネルバが発進した。

「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」

 レイのブレイズザクファントムも続けて発進する。

(父さん、母さん、マユ・・オレは戦う・・綺麗事のない本当の平和を取り戻すために・・・!)

 シンが心の中で決意を強めていた。

「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」

 シンの乗るコアスプレンダーが発進して、続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、第3のシルエットシステム「ブラストシルエット」が射出される。

 4機が合体を果たしてインパルスとなる。ブラストシルエットと合体したインパルスは、遠距離攻撃を得意とする「ブラストインパルス」となった。

「シン、ムチャしないでよ!」

「分かってる!」

 ルナマリアが呼びかけて、シンが不満げに答える。インパルスと2機のザクがガーティルーに向かっていった。

 

 調整を終えたスティング、アウル、ステラはカオス、アビス、ガイアに乗り込んだ。

「あ〜あ、ひと眠りしたと思ったらすぐ出撃かよ。人使いが荒いってもんだ。」

「文句を言うな、アウル。オレたちの役目は敵を倒すことだ。」

 愚痴をこぼすアウルをスティングがなだめる。無表情のステラの元に、ネオからの通信が入る。

“ステラ、気分はどうだ?”

「うん・・もう大丈夫・・・」

 ネオの呼びかけにステラが微笑む。

“ならやってくれるな?オレたちを追いかけてくる悪いヤツをやっつけるのを・・”

「うん・・悪いヤツ、やっつける・・・」

 ネオの呼びかけを聞いて、ステラが小さく頷いた。ガーティルーのハッチが開いて、モビルスーツの発進準備が整う。

「スティング・オークレー、カオス、発進する!」

「アウル・ニーダ、アビス、出るよ!」

「ステラ・ルーシェ、ガイア、出る・・」

 スティングのカオス、アウルのアビス、ステラのガイアがガーティルーから発進した。

「来た来た。今度は痛い目を見せてやるよ!」

 アウルがインパルスたちを見て強気を浮かべる。

「アイツら・・!」

「強奪した新型を実戦投入してきたか・・・!」

 シンが怒りを噛みしめて、レイが目つきを鋭くする。

 インパルスがビーム砲を構えて、カオスを狙って発射する。スティングが反応して、カオスがビームをかわす。

 カオスが複相ビーム砲で反撃する。インパルスも再びビーム砲を発射して、2機のビームが相殺する。

「あの新型もいただいてやるんだよ!ザコは引っ込んでな!」

 インパルスの相手をブレイズザクファントムに阻まれて、アウルが不満を言い放つ。

「その3機はお前たちよりオレたちのほうがよく知っている。性能が上だと思って甘く見るな。」

 レイは冷静に告げて、ザクがビームトマホークを手にする。

「調子に乗って・・そんなにやられたいなら、望みどおりにしてやるよ!」

 アウルがいら立ちを募らせて、アビスがビームランスを持って飛びかかる。アビスが振りかざしたビームランスを、ザクが胴体をかがめてかわした。

「何っ!?

 アウルが驚くと、ザクが振り向き様にビームトマホークを振りかざしてきた。アビスがビームランスを掲げて、ビームトマホークを防いだ。

「何よ、アンタたちは!?

 ガナーザクウォーリアがガイアと交戦して、ルナマリアが言い放つ。

「あたしたちが乗るはずだったのに・・この泥棒が!」

 彼女が怒りの声を上げて、ザクがビーム砲を発射する。しかし素早く動くガイアに回避される。

「本艦はこのままボギーワンの追撃に向かいます。」

「はっ!」

 タリアが指示を出し、アーサーが答える。離れていくガーティルーを、ミネルバが加速して追跡する。

 ガーティルーがデブリの1つのくぼみに入り込み、ミネルバもそのまま向かった。

「今だ!」

「ゴットフリート、前方の岩場に向けて撃て!左右の岩場へアンカー射出!」

 ネオが呼びかけて、副官が指示を出す。ガーティルーが火砲「ゴットフリート」を発射して前方の岩場を攻撃し、同時に左右の岩場にロケットアンカーを射出して打ち込んだ。

 アンカーに引っ張られて円を描くように、ガーティルーはミネルバの上を通って後ろに回り込んだ。

「何っ!?

 敵艦の思わぬ動きに、アーサーが驚く。

「よし!相手の艦に集中攻撃だ!」

 ネオが呼びかけて、ガーティルーがミネルバに向けて砲撃を仕掛ける。後ろを取られた上に前方の崩れた岩が船体にのしかかったため、ミネルバは身動きが取れずに攻撃を受ける一方となった。

「岩が邪魔して動けない・・艦長、どうすれば・・!?

「落ち着きなさい、アーサー・・打開の糸口を見つけなければ、私たちは終わりよ・・!」

 動揺するアーサーをタリアがなだめる。

(でもどうすれば!?・・まずは艦の上の上をどかさないことには・・!)

「右舷のスラスターは動かせますか!?

 タリアが思考を巡らせていたところで、アスランが問いかけてきた。

「それは可能だけど・・どうしようというの・・!?

「右舷の砲門から右側の岩場を撃つんです・・その反動で動くと同時にスラスターを噴射して、船体にのしかかっている岩を退けながら脱出するのです・・!」

 答えるタリアにアスランが説明をする。

「しかし、岩場を撃ったらさらに岩がのしかかってきて、それこそ脱出不可能になってしまうかもしれない・・!」

「このままでは敵艦の格好の的です!それこそ脱出不可能、撃墜になります!」

 アーサーが言い返すと、アスランがさらに呼びかける。タリアは彼の言葉を聞いて、判断を下す。

「分かったわ・・一か八かやってみましょう・・!」

 アスランの助言を聞き入れることにしたタリア。ミネルバのクルーでないアスランにミネルバの作戦行動に干渉する権利はなかったが、タリアは彼の言葉に賛同した。

「トリスタン1番砲、発射準備!目標、右方向!発射と同時に右舷スラスター全開!」

 タリアの指示の下、ミネルバの両舷にあるビーム砲「トリスタン」。右舷の1番砲が展開される。

「トリスタン、ってぇ!」

 アーサーの掛け声で、トリスタンが発射される。トリスタンのビームの圧力と、撃たれた岩場の爆発の風圧に、ミネルバが押される。

「右舷スラスター、全開!」

 同時にタリアが呼びかけ、ミネルバの右舷スラスターが噴射される。のしかかっている岩を押しのけて、ミネルバの船体が岩場の外へ押し出された。

「脱出しただと!?

 ミネルバに抜け出されたことに、ネオが驚きの声を上げる。

「ボギーワンに向けて、ミサイル発射!」

 タリアが指示を出して、ミネルバが反転した状態からガーティルーに向けてミサイルを発射した。ミサイルはガーティルーの前方上部に命中して、砲門を損傷させた。

「くっ・・敵艦のクルーは侮れないようだな・・!」

 ネオがミネルバの反撃に毒づく。

「敵殲滅は断念する!この宙域から離脱する!」

 彼は歯がゆさを噛みしめて、撤退を呼びかける。

「しかし、このまま攻撃すれば、敵艦を仕留めることができるのに・・!」

「これ以上やっても、敵のモビルスーツにやられるだけだ・・敵艦もダメージを負っているから、確実に振り切れるさ・・!」

 副官が反論するが、ネオが状況を口にする。

「了解です・・本艦は現宙域を離脱!モビルスーツ、本艦に帰艦しろ!」

 副官がネオの言葉を聞き入れて、クルーやスティングたちに呼びかけた。

「チェ!まだアイツらを倒してないってのに!」

 アウルがこの命令に不満の声を上げる。

「文句を言うな、アウル!ステラも引き上げるぞ!」

「うん・・・」

 スティングがアウルをなだめて呼びかけて、ステラが頷く。カオス、アビス、ガイアがインパルスたちとの戦闘を中断して、ガーティルーに戻っていった。

「逃がすか!」

“ダメよ、シン!あなたたちも本艦に引き返すのよ!”

 シンが追おうとするが、タリアに止められる。

“このまま追いかけても仕留めきれないわ・・残念だけど、私たちも体勢を整えるしかないわ・・!”

「く・・くそっ!」

 タリアの言葉を聞き入れながらも、シンはスティングたちを倒せなかったことへのいら立ちを隠せなかった。

 インパルス、ザクたちもミネルバに戻っていく。ミネルバは修繕のため、1度アーモリーワンに戻ることとなった。

 

 アスランの助言で危機を脱したミネルバ。しかしタリアたちは彼に対する様々な思惑を感じていた。

 アスランはかつてはプラントにいて、ザフトに所属していた。しかしザフトを離反してオーブに移り、先の大戦では戦いを止めた1人となっている。

 プラントからは裏切り者と見る者がいなくなったわけでなく、アスランは複雑な気分を抱えていた。

「今回は君に助けられたね、アスラン・ザラくん。」

「いえ、私はそんな・・」

 微笑みかけるギルバートに、アスランが当惑を見せる。

「かつてザフトに身を置き、モビルスーツパイロットとしても数々の功績を上げてきただけのことはある。私としては、その経験を再びザフトで活かしてほしいと思っているのだが・・」

 ギルバートがアスランに誘いを投げかける。彼をザフトに戻そうと、ギルバートは考えていた。

「デュランダル議長、アスランはオーブの一員です。あなたの一存で決めてもらっては困ります。」

 そこへカガリが出てきて、ギルバートに苦言を呈する。

「アスハ代表、申し訳ない。あくまで私個人の見解だ。」

 弁解するギルバートだが、カガリは不満を拭えなかった。

(オレが、ザフトに・・・)

 アスランは心の中で1つの思惑を感じていた。彼の中でザフトに対する思いがくすぶっていた。

 

 

次回予告

 

戦火を再び広げようとする影。

それは邪な野心か?悲劇の戦士の復讐か?

宇宙に散った数々の命。

それが今、破滅の業火と化す。

 

次回・「落ちる墓標」

 

世界の危機に、立ち向かえ、ザク!

 

 

作品集

 

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