GUNDAM WAR
–Destiny
of Shinn-
PHASE-02「偽りの中立」
スティングたちがカオスたちを強奪する少し前だった。オーブから代表がアーモリーワンへ来訪していた。
カガリ・ユラ・アスハ。亡き父、ウズミ・ラナ・アスハの跡を継ぎ、オーブの代表首長に身を置いていた。
今回、カガリはあることを問いただすためにアーモリーワンに来ていた。それはそこで新たな兵器が開発されていることへの非難だった。
「なぜこのように兵器の開発と量産を続けるのだ!?我々は争いをすることなく、平和の中で対話と交流を進めていくと誓ったはずだ!」
カガリがザフトの兵器開発について問い詰める。その相手は新たにプラントの最高議長に就任したギルバート・デュランダルである。
「お言葉ですが代表、戦争終結に至っていますが、未だに戦争の傷は癒えていません。条約に納得していない者もいないとはいえません。その脅威に対して、何の備えもしていなければ被害を拡大することになりかねません。」
ギルバートが冷静にカガリに答える。
「しかしだからといって・・強すぎる力は、また戦いを呼ぶ!無意味な争いを呼び込むことになるぞ!」
「いえ、アスハ代表、戦いがなくならないから、力が必要なのです。」
声を荒げるカガリだが、ギルバートは微笑んで答えた。彼の確信の込められた言葉に、カガリは言葉を詰まらせて反論できなくなった。
そのとき、ドックのほうで爆発が起こった。カガリたちの耳にも、侵入者がカオスたちが強奪された知らせが入った。
「まさか、新型が狙われるとは・・・!?」
ギルバートがドックのほうを見て目を見開く。
「カガリ、ここは避難したほうがいい・・デュランダル議長も、早く避難をお願いします・・!」
カガリに付き添っていた青年、アスラン・ザラが呼びかける。3人と他の軍人たちが避難用シェルターを目指した。
しかしカガリたちの行く先の道に、ビームが飛んできて爆発を起こした。
「そんな!?」
「これではシェルターに行けない・・・!」
カガリが驚愕して、アスランが焦りを見せる。
「やむを得ない・・ここからだとシェルターよりもあそこに行くしかなさそうだ・・!」
「あそこ・・・!?」
ギルバートが口にした言葉に、アスランが言葉を返す。するとギルバートが視線を移す。
「ミネルバだ・・・!」
ギルバートはカガリとアスランに、軍港に停泊しているミネルバに向かうことを告げた。
シンの乗るインパルスがカオス、ガイア、アビスとの攻防を繰り広げていた。ガイアが振りかざしたビームサーベルを、インパルスがエクスカリバーで防いだ。
「何よ、アンタ!?そいつももらう!」
「こんなマネをして、また戦争を引き起こそうっていうのか!?」
ステラとシンが互いに言い放つ。
「アンタたちのやることでまた人が死ぬことになるんだぞ!」
怒りの声を放つシン。そのとき、彼のこの言葉を聞いたステラが目を見開いた。
「死・・死ぬ・・死ぬ!?・・・イヤ・・イヤアッ!」
ステラが頭を抱えて体を震わせる。動きの鈍ったガイアが、インパルスに突き飛ばされる。
「ステラ!?」
「まさか、あの言葉を聞いちまったのか!?」
アウルが声を上げて、スティングが毒づく。
スティングたちには聞いてはならない言葉「ブロックワード」がそれぞれに存在している。ステラのブロックワードは「死」。ブロックワードを耳にした途端に情緒不安定になり、錯乱状態に陥ってしまう。
「死ぬのはイヤ・・怖い・・怖いよ!」
ステラが悲鳴を上げて、彼女の操縦の誤りでガイアがふらつく。
「アウル、ステラを連れて離れろ!オレがヤツを食い止める!」
「OK!・・ったく、世話の焼けるヤツだぜ!」
スティングの呼びかけに答えるアウルが、ステラに対して愚痴をこぼす。
カオスがインパルスに向かってビームライフルを発射して、シンの注意を引き付ける。その間にアビスがガイアを抱えて上昇した。
「このままじゃ逃げられる・・!」
シンが毒づき、アビスたちを追いかけようとする。しかしインパルスの進行をカオスに阻まれる。
「いただけないなら、ここで撃破してやる!」
スティングが言い放って、カオスがビームサーベルを振りかざす。インパルスがビームサーベルを受け止めるが、ガイアとアビスが遠ざかっていく。
そこへ大きなビームが飛び込んできて、カオスがインパルスから離れてビームをかわした。
「な、何だ!?」
スティングが驚いて、ビームの飛んできたほうに目を向ける。その先の倉庫の1つの屋上の上に、赤い機体がいた。
ザフトが新たに導入した量産型の機体の1種「ザクウォーリア」。その赤い機体は、換装型兵装「ウィザードシステム」の1つ「ガナーウィザード」を装備した「ガナーザクウォーリア」である。
「またザフトの新型が現れたのか!?」
スティングがザクを見て毒づく。
「シン、大丈夫!?ケガはない!?」
「ルナ!?そのザクに乗ってるのはルナか!?」
呼びかけるルナマリアに、シンが声を荒げる。赤いザクに乗っていたのはルナマリアだった。
「せっかく新型に乗れると思っていたのに、それを盗まれるなんて!」
ルナマリアが不満を口にして、ザクがビーム砲を構えてカオスに銃口を向ける。彼女は乗るはずだった新型を盗まれたことに腹を立てていた。
「わざわざ遊び相手になる必要はない!」
スティングが言いかけて、カオスが上昇してアーモリーワンへの脱出を図る。
「待て!」
シンが叫んで、インパルスとザクが追いかける。しかしザクが持っていたビーム砲に振られて、うまく飛行できない。
「ルナ、何やってるんだよ!?」
「だってこの機体に慣れてないし、コレがうまく持てなくて・・!」
シンが怒鳴り、ルナマリアが不満の声を上げる。彼女はザクの操縦は経験しているものの、ガナーザクウォーリアに乗ったのは初めてで、ビーム砲を持ったザクを移動させることに手を焼いていた。
「くっ・・ソードインパルスじゃスピードが出ない・・!」
飛翔したカオスに追いつけずに、シンがいら立ちを噛みしめる。
「スティング!」
そこへガイアを送り届けたアビスが戻ってきて、インパルスたちに向かってビームを放ってきた。
「このっ!」
ルナマリアがいきり立って、ザクがビーム砲を構えて発射して、アビスのビームとぶつけ合った。
「アウル、ステラは!?」
「ちゃんと送ったよ!だからこうして戻ってきたんじゃないか!」
スティングが問いかけて、アウルが不満げな素振りで答える。
「2機だけじゃさすがに不利だ・・ダメージを与えて振り切るぞ!」
「いいぜ・・オレ、そういうのは好きな方だ!」
スティングの呼びかけに笑みを浮かべて答えるアウル。カオスとアビスがインパルスとザクに向かって、離れた位置からビームを撃ってくる。
「これじゃ追いつくどころかやられてしまう・・!」
ルナマリアが劣勢に立たされたことに声を荒げた。
「まずはお前だ・・さっきの借りを返してやる!」
スティングがいきり立って、カオスがビームサーベルを手にしてザクに飛びかかる。ザクがビーム砲を構えようとするが、迎撃に間に合わない。
そこへ白い機体が飛び込んできて、斧「ビームトマホーク」を振りかざしてきた。カオスが機体の一閃をかわして、ザクからも離れた。
「ルナマリア、シン、体勢を整えろ。」
「そのザクに乗ってるのは、レイか!?」
白い機体「ブレイズザクファントム」のパイロット、レイの呼びかけにシンが驚きの声を上げる。続けてミネルバが発進して上昇して、インパルスたちの前に現れた。
「シンは新型の後を追いなさい!ただし外に母艦が待ち構えている可能性があるから、注意して!」
「グラディス艦長!・・母艦!?」
タリアの呼びかけにシンが声を上げる。
「フォースシルエットを射出!インパルスを先行させます!」
「はい!フォースシルエット、射出!」
タリアの指示にメイリンが答える。ミネルバから「フォースシルエット」が射出されて、インパルスが飛び上がる。
インパルスの背中に装備されていたソードシルエットが外れて、フォースシルエットが装備された。赤がメインカラーとなっていたインパルスに、青色が入った。
インパルスはシルエットシステムを切り替えることで、全部で3種の形態になることができる。ソードシルエットを装備した「ソードインパルス」から、フォースシルエットの「フォースインパルス」となった。
機動力が向上したインパルスが、カオスとアビスを追跡する。
「コイツ、姿が変わりやがったぞ!?」
「変わったのは姿だけじゃなさそうだぞ・・!」
アウルとスティングがインパルスを見て驚く。
インパルスが飛行してビームライフルを手にする。ライフルから放たれるビームを、カオスとアビスが回避する。
「飛行もできるのか・・アウル、下がるぞ!外で迎え撃つ!」
「しょうがないけど、そうするしかないみたいだな!」
スティングが呼びかけて、アウルが渋々聞き入れる。カオスとアビスがアーモリーワンから宇宙へ脱出する。
シンは慎重になろうとしながら、インパルスでカオスたちを追った。宇宙に飛び出したところで、シンが周囲に注意を向ける。
「逃がさないぞ・・新型は必ず取り返してやる・・!」
シンが怒りを噛みしめて、インパルスがカオスたちを追走する。
そのとき、インパルスに向かって1機の機体が加速してきた。その機体「エグザス」がインパルスに向かってビームを発射してきた。
シンがとっさに反応して、インパルスがビームをかわす。インパルスもビームライフルを手にして発射するが、エグザスのスピードを捉えることができない。
「なんて速いヤツだ・・!」
「さすがの新型も、コイツのスピードにはついてこれないようだな。」
シンが毒づく中、エグザスのパイロットがインパルスに対して笑みをこぼす。操縦していたのはガーティルーにいたネオだった。
エグザスに乗ってガーティルーから発進したネオは、スティングたちの援護のため、シンのインパルスの足止めに乗り出していた。
「このままじゃ、機体を持っていかれる・・!」
「アイツらに代わって、私がその機体ももらい受けるとしよう。」
緊迫を覚えるシンと、インパルス強奪を図るネオ。エグザスがインパルスに向かっていき、ビームを発射しようとした。
そこへレイのザクが駆けつけて、ミサイルを発射した。インパルスの前方に弾幕と爆発が現れて、エグザスが行く手を阻まれる。
「レイ!」
「シン、大丈夫か!?」
シンが声を上げて、レイが呼びかける。爆炎が晴れて、インパルスとザク、エグザスが対峙する。
そのとき、レイとネオが互いに対して奇妙な感覚を感じた。
(な、何だ・・!?)
(この感覚は・・!?)
ネオとレイがこの感覚に不思議を覚える。この違和感に囚われながらも、2人は戦闘を開始する。
ザクがビームライフルを撃つが、エグザスに軽々とかわされる。エグザスが直後にビームを放つが、ザクは正確に回避した。
(これは、どういうことだ・・!?)
(ヤツが攻撃してくるタイミングが分かる・・!?)
互いの攻撃をかわせていることに、ネオもレイも動揺を募らせていた。自分たちの判断力や機体のスピードとは違う何かによるものだと、2人は直感していた。
(厄介な相手が向こうにはいるようだ・・・新型を奪うという作戦は成功した。長居は無用だな・・)
ガーティルーに目を向けて、ネオは撤退を決断する。エグザスが反転して、インパルスとザクから離れていった。
「待て!・・くそっ!なんて速さだ!・・他のヤツらも見失ってしまった・・!」
叫ぶシンがエグザスもカオスたちも見失ってしまったことに毒づく。
(何だったのだ、今の感覚は!?・・何かがつながったような・・・!?)
レイが奇妙な感覚に対する動揺を募らせていく。
「レイ・・レイ・・!?」
シンに呼びかけられて、レイが我に返る。
「すまない・・1度ミネルバに戻るぞ。アーモリーワンからこの宙域に出てきている。」
レイがシンに答えて、視線を移す。インパルスとザクの前にミネルバが航行してきた。
ミネルバには正式なクルーたちの他に乗っていた者がいた。避難してきたカガリとアスラン、ギルバートだった。
「まさかギルバート・デュランダル議長が、ミネルバに乗ってくるなんて・・・!」
「しかもオーブのアスハ代表も一緒だぜ・・・!」
ヨウランとヴィーノがギルバートたちを見て、緊張しながら小声で言いかける。
「いきなり乗り込んでしまってすまなかったね。シェルターまでの道がふさがれてしまって・・」
「いえ。緊急事態でしたので。議長が無事で何よりです。」
謝意を示すギルバートに、レイが落ち着いた面持ちで答える。インパルスとザクはミネルバに帰艦して、シンたちはコックピットから出ていた。
「グラディス艦長にも事態を説明しておこうと思う。アスハ代表、あなた方も艦長に挨拶をお願いします。」
ギルバートはカガリたちに告げて、指令室に向かおうとする。
「その前に聞いておきたいことがある。デュランダル議長、あなたはこの状況にどう責任を取るつもりですか?」
カガリがギルバートに向かって声をかけてきた。
「今回起こった戦闘と被害は、暗躍した人物だけでなく、あなたが必要だと言った力によって起こったものだ。」
カガリが呈する苦言に、ギルバートが深刻さを感じていく。
「議長、あなたは争いがなくならないから力が必要だと仰った・・だがその力のためにアーモリーワンが、プラントが被った被害についてどう考える!?」
ザフトの戦力の増強を進めているギルバートを、カガリが非難する。
「そもそもなぜ今さら必要なのだ、そのような力が!?我々は誓ったはずだ!悲劇は繰り返さないと!互いに手を取って歩む道を選ぶと!」
「さすが綺麗事は、アスハのお家芸だな!」
そのとき、カガリに向かって反発の声が飛んできた。近くにいたシンが彼女に鋭い視線を向けていた。
「綺麗事だと!?・・それはどういうことだ!?」
「そんなことも分かんないのかよ、アンタは!?・・自分たちのしてきたことをよく思い出してみろ!」
声を荒げるカガリに、シンが怒りの声を上げた。強い憎悪の込められたシンの鋭い視線に、カガリが動揺を覚える。
「シン、ちょっと、まずいって・・!」
「カガリ、落ち着くんだ・・!」
ルナマリアがシンを、アスランがカガリを止めに入る。シンはいら立ちを募らせたまま、この場から歩き出す。
「もう、シンってば・・・!」
「失礼しました。」
ルナマリアが不満げにシンを追いかけて、レイがギルバートたちに敬礼をしてから2人を追いかけた。
「どういうことでしょう・・彼はザフトに所属してはいますが、オーブからの移民者でもあるのです・・」
「えっ・・!?」
シンの言動にギルバートが首をかしげて、カガリが当惑を覚える。
「アスハ代表に敬意や尊敬といった思いを持っていると思っていたのですが、まさかあのようなことを言い出すとは・・本当に申し訳ない・・」
ギルバートもカガリたちに対して謝意を示す。シンの怒りの言葉が胸に突き刺さり、カガリは困惑していた。
「ではアスハ代表、艦長に話を・・」
「あ、あぁ・・」
ギルバートに呼びかけられて、カガリは改めて指令室に向かうことになった。
カガリ、オーブへの怒りを抱えたまま、シンは私室に戻った。彼はベッドに腰を下ろすと、1つの携帯電話を机から取り出した。
携帯電話からは声が流れた。その声の主、携帯電話の持ち主はシンの妹、マユだった。
(父さん・・母さん・・マユ・・・!)
家族への思いと悲しみを膨らませて、携帯電話を抱きしめるシン。戦争で家族を失った彼の心の傷は深かった。
次回予告
平和の静寂を引き裂く脅威。
その正体は?そしてその名は?
追跡に出るシンたちの前に、強奪された新型が待ち構える。
さらに必殺の罠も張り巡らされていた。
星屑の戦場、突き進め、ミネルバ!