GUNDAM WAR

–Destiny of Shinn-

PHASE-01「戦火は再び」

 

 

 C(コズミック).E(イラ).71

 従来の人種である「ナチュラル」と、遺伝子操作を施された種族「コーディネイター」。

 互いに相容れぬ両者の対立は戦争にまで発展し、日に日に過激になっていった。

 

 二分化している情勢の中、中立を貫いている国「オーブ」。

 非戦を訴えている中立国でナチュラル、コーディネイター問わず、難民の受け入れも行っていた。

 だが、ナチュラルの軍「地球連合」の要請を拒んだオーブにも、戦いの火の手が回った。

 

 オーブ国内の島「オノゴロ」。その林道を必死に走る家族がいた。

「速く走って!急いで!」

「もう少しで港だ!」

 母と父の呼びかけを聞いて、少年が大きく頷く。彼らが外へ出る船のある港を視界に入れた。

「あっ!マユの携帯!」

 そのとき、少年の妹、マユが持っていた携帯電話を落としてしまう。

「ダメよ、マユ!」

「イヤッ!携帯が!」

 母が呼び止めるが、マユは携帯電話を取りに行こうとする。

「オレが行く!先に行ってて!」

 少年が携帯電話を拾いに飛び出して、坂を下りていった。彼は坂の下まで落ちていった携帯電話を拾った。

「やった!マユ、すぐ戻・・!」

 少年が笑みをこぼして戻ろうとした。

 そのとき、林に爆発が起こって、少年が吹き飛ばされて転がる。流れるように舞う土煙が弱まったところで、彼が顔を上げる。

 視界に入れた光景に、少年は目を疑った。林道は吹き飛ばされて木や土から火が燃えて、その中で両親とマユが倒れて動かなくなっていた。

「父さん・・母さん・・マユ・・・!?

 少年が声を振り絞るが、両親もマユも全く動かない。少年がマユに近づくが、彼は彼女が死んでいることを思い知らされる。

「ウソだ・・ウソだ、こんなの・・・!」

 目の前の現実を受け止められず、少年が体を震わせる。激しい慟哭に襲われた彼が、上空で戦闘を繰り広げている機体、モビルスーツに目を向けた。

 少年が空に向かって叫び声を上げた。彼の悲しみと怒り、自分の無力さへの呪いが込められていた。

 これが少年、シン・アスカの悲劇だった。

 

 C.E.73。ナチュラルとコーディネイターの戦争が終結してから1年が経った。

 プラントの軍事組織「ZAFT(ザフト)」では、士官学校を経ての入隊が続いていた。

 プラントの軍事施設「アーモリーワン」にて、新たな兵器、戦艦の完成、配備が完了し、新たな部隊が編成されることになった。

「“ミネルバ”の副官であるアーサー・トラインだ。今日からお前たちは、このミネルバの乗員及びパイロットとして、私と艦長の指揮下に入ってもらう。」

 男、アーサーが毅然とした態度で呼びかける。彼の前には3人の男女がいた。

 レイ・ザ・バレル、ルナマリア・ホーク、ユン・リョウガ。士官学校を上位成績で卒業した3人で、新型モビルスーツのパイロットとしてミネルバに乗艦することになった。

「ん?シンはどうした?」

 アーサーが周りに目を向けて声をかける。ミネルバに乗艦するパイロットがもう1人いるのだが、この場に姿がない。

「それが・・ヨウケンとヴィーノの買い物に連れてかれて・・・」

 するとユンが苦笑いを浮かべて事情を話す。

「あの2人・・パイロットには機体チェックもあることが分かっているはずなのに・・!」

 アーサーが不満を口にして、大きく肩を落とす。

「シンには自分が伝えますので・・それより、我々が乗ることになる機体について・・」

 レイが冷静な表情のまま、アーサーに言いかける。

「そうか・・お前たち3人の乗る機体はドックで最終チェック中だ。もう1機はミネルバに既に移送してある。」

 アーサーが気を取り直して、ミネルバに収容される機体について説明する。

「分かりました。我々も機体のチェックに携わります。」

「その途中でシンたちを見つけてきます。」

 レイとルナマリアが言いかけて、ユンとともにドックを目指した。

「やれやれ・・オーブからわざわざ代表がこちらに足を運ばれてるときだというのに・・」

 アーサーが肩を落としてため息をついた。今、オーブの現代表がアーモリーワンを来訪していた。

 

 ミネルバに配属されることになったメカニックの少年の2人、ヴィーノ・デュプレとヨウラン・ケントに買い物に付き合わされることになったシン。

「ハァ・・まだ買い物するつもりなのか?もう集合時間すぎてるぞ・・」

 シンがため息をつきながら、ヴィーノたちに文句を言う。

 1年前、オーブにて家族を亡くしたシンはプラントに渡った。自分の無力を責めていた彼は、軍人になることを志願し、士官学校を経てザフトに入隊した。

 レイ、ルナマリア、ユンは士官学校の同期で、共にミネルバに配属することになった。

「もうちょっと待ってくれ、シン!」

「もうすぐオレらの会計の番だからー!」

 ヨウランとヴィーノが店の中から呼びかける。2人は会計待ちの列に引っかかっていた。

 シンは2人をほっといて先に戻ろうと考えたときだった。

 シンの前を1人の少女がやってきた。薄い金色の髪の少女は、踊るように歩いて無邪気に振る舞っていた。

 そのとき、少女が足をつまずいて倒れそうになった。

「危ない!」

 シンがとっさに飛び出して、少女を後ろから受け止める。倒れずに済んだ彼女は、ただただ呆然となっていた。

「だ・・大丈夫・・君・・・?」

 シンが声をかけるが、少女は答えない。彼女が見ている下のほうに、シンも目を向ける。

 そのとき、シンは少女の胸に手を当てていたことに気付いた。

「うわあっ!・・ゴ、ゴメン・・!」

 慌てて少女から手を放して、シンが動揺を見せる。少女は顔を赤くしているシンを見て、きょとんとしているだけだった。

「おーい、ステラー!早く行くぞー!」

 そこへ声がかかって、少女、ステラ・ルーシェが顔を上げた。ステラは小さく頷いて走り出すと、シンにちょっとだけ視線を向けた。

 シンは去っていくステラを、何も言わずに見送るだけだった。

「見たぞ、シン・・」

「今、胸、触ってたな・・!?

 そこへヨウランとヴィーノが声をかけて、シンに対してにやけてきた。

「お前たち、やっと買い物が終わったのか・・」

 シンがヨウランたちに振り返ってため息をつく。

「終わったのかじゃないよ、このラッキースケベ。」

「ドサクサでしっかり胸触りやがって・・!」

 ヴィーノがふくれっ面を浮かべて、ヨウランがシンを睨みつけてくる。

「何、ふざけたことを言ってるんだよ・・あれは不可抗力だって・・」

 シンが大きくため息をついて、軍港に向かって歩き出す。

「いい加減に戻るぞ・・お前らのせいで大目玉食らうんだからな・・」

「お、おい、シン、待ってくれって!」

 シンは不満げに言って、ヴィーノがヨウランと一緒に彼を追いかけていった。

 

 アーモリーワンのドックに、新型のモビルスーツが収容されていた。

 「カオス」、「ガイア」、「アビス」。プラント防衛のための戦力として開発された当たらなモビルスーツのうちの3機である。

 カオスたちのいるドックに、シンたちを捜しに来たユンがやってきた。

「みんな、こっちにミネルバのクルーは来てないか?」

 ユンがドックにいた整備員たちに問いかける。

「いや、こっちには来てない。今日は君が初めてだけど・・」

「そうか・・もしも来たらすぐにミネルバに戻るように言っておいてくれ。」

 整備員の1人が答えると、ユンが彼らに呼びかけた。

 そのとき、1人の金髪の少女がユンたちのいるドックに入ってきた。

「ん?何だ、この子・・?」

 ユンが少女を見て眉をひそめる。整備員の1人が少女に近づいた。

「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。危ないからここから出ていくんだ・・」

 整備員が少女に注意を呼び掛けた。次の瞬間、少女がナイフを手にして、整備員を切りつけてきた。

「なっ!?

 突然のことに他の整備員が驚き、ユンが身構える。

「あ、あなたは新型の中に!」

「は、はいっ!」

 整備員が呼びかけて、ユンがアビスに乗り込もうとした。

「ぐふっ!」

 そのとき、ユンが胸を撃たれて顔を歪める。彼の視線の先に、1人の少年が銃を構えていた。

「お、お前たちは・・・!」

 胸を押さえてうめくユンが、目の前にいる少年、アウル・ニーダを視界に入れたまま倒れた。

「そいつに乗るのはアンタじゃなくてオレらだ。」

 アウルがユンを見下ろして、ステラに目を向けた。

「は、早くみんなに知らせないと!」

 他の整備員たちが警報を鳴らそうとした。しかしもう1人の少年、スティング・オークレーがドックに入ってきて、持っていた銃で射撃してきた。

「ぐっ!」

 ドックの中にいた整備員が全員倒れて、血をあふれさせた。

「早く乗り込め。ザフトのヤツらが来るぞ。」

「分かってるって!」

 スティングが呼びかけて、アウルが気さくに答える。2人とステラがドックにある3機のモビルスーツに、それぞれ乗り込んだ。

 3機の機体が起動して動き出す傍らで、かすかに生きていた整備員の1人が、力尽きる直前にスイッチを叩いて警報を鳴らした。

 

 アーモリーワンに警報が鳴り響いた。そこにいた人々が足を止めて、警戒心を強める。

 次の瞬間、扉が吹き飛ばされてドックからカオス、アビス、ガイアが出てきた。

「まずはハンガーを潰す!モビルスーツが出てくるぞ!」

「OK!ステラ、お前は左!」

「分かった・・」

 スティング、アウル、ステラが声をかけ合う。カオスたちが周囲の格納庫に攻撃を仕掛けた。

 

 ミネルバに向かって急ぎ足だったシン、ヨウラン、ヴィーノだが、警報を聞いてさらに足を速めた。ミネルバ艦内に入ってきた3人に、アーサーが気付いて振り返った。

「お前たち、どこへ行ってたんだ!?ユンたちはお前たちを捜しに出ていったんだぞ!」

「すみません、副長!すぐに発進準備に入ります!」

 叱ってきたアーサーにシンが頭を下げる。

「ヨウラン、オレ行くから!」

「おわっ!シン!」

 シンに持っていた荷物を押し付けられて、ヨウランが慌てる。シンがミネルバの廊下を走って、格納庫に来た。

「シン、行けるのか!?

「はいっ!」

 整備士に呼びかけられて、シンが答える。シンは戦闘機「コアスプレンダー」に乗り込んだ。

“シン、新型機のうち3機がアンノウンに強奪されたわ。正体はまだ不明だけど、このまま逃走されるわけにはいかないわ。”

 ミネルバ艦長、タリア・グラディスが通信でシンに呼びかけてきた。

“絶対にアーモリーワンから外に出さないで。そして破壊せずに奪還するのよ。”

「そんな器用なこと、やってみなければ分からないですよ!」

“やらなければ戦いが拡大するわ!あの3機を必ず奪還するのよ!”

 不満げに言い返すシンに、タリアが呼びかける。

(やってやる・・あんなこと、2度と繰り返させるか・・!)

 戦争への怒りを噛みしめて、シンは新たな戦いに赴くのだった。

 

 周囲の施設や兵器を破壊しながら、スティングたちはアーモリーワンからの脱出を図っていた。

「そろそろ出るぞ!これ以上は追手に引っかかる!」

「OK!」

 スティングが呼びかけて、アウルが答える。カオスとアビスが移動しようとするが、ガイアは足を止めていた。

「おい、行くぞ、ステラ!・・何見てんだよ!?

「あそこ・・・」

 アウルが呼びかけて、ステラが答える。ガイアが向いている方に、アウルも目を向けた。

 カオスたちのいる場所の上空を飛んできたのは、シンの乗ったコアスプレンダーだった。

 

「ソードシルエット、射出。続いてチェストフライヤー、レッグフライヤー、射出。」

 ミネルバに配属の管制官、メイリン・ホークが呼びかけて、ミネルバから「ソードシルエット」「チェストフライヤー」、「レッグフライヤー」が発進する。3機はコアスプレンダーを追走するように飛行して、4機が変形を始める。

 そして4機は合体を果たして、1体のモビルスーツとなった。機体はカオスたちの前に着地して、大剣「エクスカリバー」を構えた。

「どうしてこんなことを・・また戦争がしたいのか、アンタたちは!」

 スティングたちに向かって言い放つシン。再び戦いを引き起こした敵に、シンは怒りを燃やしていた。

「くっ・・他の新型か!・・パイロットが乗って出てくるとはな・・!」

「だったら取り囲んで倒してやろうぜ!そいつもいただけりゃ大儲けだけど、撃破しても別にいいだろ!?

 シンの乗るモビルスーツ「インパルス」を見て、スティングが毒づき、アウルが自信を込めた笑みを浮かべる。

「このまま邪魔されても面倒だ。返り討ちにするが、こっちがやられないようにしろよ。」

「OK!」

「分かった・・」

 スティングが呼びかけて、アウルとステラが答える。

「先手必勝!オレがやらせてもらうよ!」

 アウルが言い放って、アビスが槍「ビームランス」を手にして、インパルス目がけて振りかざす。インパルスがエクスカリバーを振りかざして、ビームランスを受け止めた。

「ぐっ!」

 ビームランスがエクスカリバーに押し返されて、アウルが揺さぶられてうめく。

 カオスとガイアがビームライフルを手にして、インパルス目がけてビームを発射する。インパルスがジャンプしてビームをかわす。

「何っ!?

 スティングが驚き、ステラとともにとっさに反応して、カオスとガイアが外れたビームを回避した。

「アイツ、速い・・!」

「オレたちが機体をうまく扱えていないのを入れても、なかなかの力があるな、あの機体とパイロットは・・!」

 ステラが声を上げて、スティングがインパルスとシンに毒づく。

「こっちは3機だ!数で攻めりゃ1機ぐらい軽い!」

 アウルがいきり立って、アビスが両肩のビーム砲を展開して発射する。インパルスがまたジャンプしてビームをかわして、アビスに詰め寄る。

 アビスがビームランスを振りかざすが、インパルスが振りかざしたエクスカリバーに弾き返された。

「何っ!?

「アウル!」

 アウルが驚き、スティングが叫ぶ。

「アウル!」

 ステラが叫んで、ガイアがビームサーベルを手にしてインパルスに飛びかかる。インパルスがエクスカリバーを掲げて、ビームサーベルを受け止める。

「何よ、アンタ!?そいつももらう!」

「こんなマネをして、また戦争を引き起こそうっていうのか!?

 ステラが言い放って、シンが怒りの声を上げた。平和の静寂が、1つの企みによって破られることになった。

 

 アーモリーワンから少し離れた宇宙空間に、1隻の艦が止まっていた。艦ではアーモリーワンでの状況を監視していた。

「新型のうち3機の強奪に成功。しかしザフトのモビルスーツに足止めされています。」

 管制官が報告して、仮面を着けた男が頷いた。

「さすがに全て都合よくわけではないか・・引き上げを急ぐように伝えろ。こちらも状況に応じて援護に出る。」

「了解。」

 仮面の男の指示を受けて、管制官が答えた。

「さぁ行こうか。慎ましくな。」

 仮面の男、ネオ・ノアロークが言いかけて、戦艦「ガーティルー」が発進した。

 

 

次回予告

 

戦いの火蓋は再び切られた。

ザフトの一員となっていたシンは、新たなる脅威と対峙する。

彼の中にある、戦争に対する怒り。

その矛先はスティングたちだけでなく・・・

 

次回・「偽りの中立」

 

新たな戦場へ飛び込め、インパルス!

 

 

作品集

 

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