GUNDAM WAR –Complication of Thought-
PHASE-07「運命」
キオのAGE-FXがザナルドのザムドラーグに追い込まれていた。それは戦闘能力の差や戦況ではなく、キオが攻撃に踏み切らないことが原因となっていた。
「せめて反撃したらどうだ!?まさか私を侮辱しているのか!?」
ザナルドが怒鳴り、ザムドラーグがAGE-FXに迫る。Cファンネルでけん制するAGE-FXだが、ザムドラーグにかわされていく。
「ファンネルやビットの攻撃も、多用しても見切れないものではない!ましてや攻撃に出ないようではな!」
ザナルドが言い放ち、ザムドラーグがビームバルカンを連射する。AGE-FXが回避とCファンネルによる防御で回避していく。
そしてついに、ザムドラーグがAGE-FXの背後に回り込み、巨大な両手で捕まえてきた。
「しまった!」
声を上げるキオ。だがAGE-FXはザムドラーグの腕を振り払うことができない。
「前のように串刺しにしてくれる!今度はコックピットを狙って、完全に息の根を止めてくれる!」
ザナルドが言い放ち、ザムドラーグが押さえているAGE-FXをビームスパイクで突き刺そうとした。
「やめろ!」
そこへ声が飛び込んできて、ザナルドが周囲に注意を向ける。AGE-FXを捕まえているザムドラーグに向けて、ディーンの駆るジルスベインがビームサーベルを突き出して突っ込んできた。
ザナルドが気付いて、ザムドラーグがAGE-FXを放して後退して、ジルスベインのビームサーベルをかわす。
「間に合った・・大丈夫か、キオ!?」
「ディーン・・・どうして・・・!?」
心配の声をかけるディーンに、キオが困惑する。
「ダメだよ、ディーン!艦に戻らないと死んでしまう!」
「オレだって、キオに死んでほしくなんかないんだ!」
呼びかけるキオにディーンが言い返す。
「オレはルウのために軍に志願した・・だけど今のオレはそのためだけにいるんじゃない!キオ、友達のお前を守るためだ!」
「ディーン・・・」
「オレはヴェイガンを裏切った・・もうオレにはお前しか大切な人がいないんだよ!」
自分の正直な気持ちを言うディーンに、キオが戸惑いを感じていく。
「キオと比べたら、オレにできることは少ないかもしれない・・それでもオレはお前を・・!」
ディーンが言い放ち、ジルスベインがビームサーベルを構える。その前にザムドラーグが立ちはだかる。
「裏切り者・・ここで姿を現すとは・・丁度いい。まとめて私が葬り去ってくれる!」
ザナルドが言い放ち、ザムドラーグがAGE-FXとジルスベインに迫ってきた。
「キオ、今は戦うしかない!傷つけたくないなら、せめて武器だけでも・・!」
「ディーン・・それでも僕は、戦わないで戦いを止めないといけないんだ!戦ってしまったら、戦いは絶対に止められない!戦争は終わらない!」
呼びかけるディーンだが、キオはそれでも攻撃に踏み切ろうとしない。
「いい加減にしろ!いつまでもそんなことを言っているから、戦火が広がることになるんだ!」
「でも、ディーン・・!」
「そんな考えのせいで、誰かが死んでしまったらどうするんだよ!?」
困惑するキオにディーンが怒鳴る。ジルスベインがビームサーベルを振りかざすが、ザムドラーグの硬い胴体に弾かれる。
「その程度の攻撃で私を止められると思うとは、滑稽だな!」
ザナルドが言い放ち、ザムドラーグが尻尾「ザムドラーグテイル」を振りかざしてきた。ジルスベインがとっさに回避するが、尻尾をザムドラーグの手につかまれる。
「うわっ!」
ジルスベインがザムドラーグに振り回されて、その衝撃にディーンがうめく。
「ディーン!」
キオが叫び、AGE-FXがCファンネルを飛ばす。だがザムドラーグは上昇して、Cファンネルをかいくぐり、さらにジルスベインを放り投げる。
「ぐっ!」
ジルスベインが体勢を崩されて、ディーンがさらにうめく。
「ディーン!」
キオが呼びかけて、AGE-FXがジルスベインに向かっていく。だがザムドラーグが発射したビームバルカンに行く手を阻まれる。
「臆病者は引っ込んでいろ!すぐにアイツの後を追わせてやる!」
ザナルドがキオに言い放つと、ザムドラーグがザムドラーグキャノンを発射する。ようやく体勢を整えたジルスベインだが、ザムドラーグキャノンにビームサーベルごと右腕を吹き飛ばされてしまった。
「ディーン!」
追い込まれるディーンに声を上げるキオ。AGE-FXがビームサーベルを手にして、ザムドラーグに向けて振りかざして、ジルスベインから遠ざける。
「そうまでして処罰されたいなら、望みどおりにしてやるぞ!」
ザナルドが不敵な笑みを浮かべ、ザムドラーグが接近してビームスパイクを発する。AGE-FXがビームサーベルでビームスパイクを受け止めて、Cファンネルを操作して迎撃しようとした。
(ダメだ・・傷つけてしまったら・・殺してしまったら・・・!)
戦うこと、倒すことに躊躇を抱いてしまい、キオが攻撃を切り出せなくなってしまう。
「うわっ!」
AGE-FXがザムドラーグに押されて、キオがうめく。
「ここまで私と戦おうとしないか!見下げ果てたな!」
ザナルドがいら立ちを感じて、ザムドラーグがAGE-FXを押し込む。突き飛ばされたAGE-FXを狙って、ザムドラーグが追撃に出る。
「これでとどめだ、ガンダム!」
ザナルドが勝ち誇り、ザムドラーグが飛び込んで、AGE-FXをビームスパイクで串刺しにしようとした。
ザムドラーグの出しているビームの棘は装甲を突き刺していた。だがそれはAGE-FXではなく、2機の間に飛び込んできたジルスベインだった。
「ディ、ディーン・・・!?」
「キオ・・無事か・・・」
目を疑うキオに、ディーンが被害の及んでいるコックピットから声を振り絞って言いかける。
「何度も言わせるなよ・・今度はオレが・・お前を守る番だって・・・」
「ディーン・・・!」
微笑みかけるディーンの声に、キオが心を揺さぶられる。
次の瞬間、ザムドラーグが串刺しにしていたジルスベインを持ち上げる。胸部から発せられた光が強まっていく。
「何をするつもりなんだ・・・やめろ・・・!」
キオが声を振り絞り、AGE-FXが止めに入ろうとした。だがAGE-FXの手が届くことなく、ザムドラーグキャノンがジルスベインを吹き飛ばした。
キオを庇ったディーンが、ザナルドの手にかかり、宇宙に消えていった。
キオを助けにデスティニーを駆るシン。だがデスティニーが駆けつけたときには、ディーンとジルスベインがザムドラーグの手にかかっていた。
「ディーン・・ディーンが・・・!?」
シンのディーンの死に目を疑った。ジルスベインを破壊したザムドラーグがデスティニーに振り返ってきた。
「また来たか、アンノウンのガンダム。貴様もすぐに葬ってくれる。あの裏切り者のようにな。」
「お前が・・お前だけは!」
不敵に言いかけるザナルドに、シンの怒りが爆発した。彼の感覚が鋭くなり、視界がクリアとなる。
デスティニーがビームソードを構えて、光の翼を広げながらザムドラーグに突っ込んできた。
「いくらその剣でも、このザムドラーグの体を切り裂くことは・・!」
ザナルドが強気に言い放ったとき、デスティニーが振り下ろしてきたビームソードが、ザムドラーグの左腕を切り裂いた。
「何っ!?」
ザムドラーグが負傷させられたことに、ザナルドが驚愕を覚える。シンの駆るデスティニーの力が一気に飛躍していた。
「バカな!?・・この強度な機体に傷を負わせただと・・!?」
搭乗機を傷つけられたことに、ザナルドは感情を揺さぶられる。デスティニーが振りかざしてきたビームソードを、ザムドラーグがスピードを上げてかわした。
「今のあのMS・・ザムドラーグを上回る強さを発揮している・・・!」
デスティニーの力にザナルドが緊迫を覚える。彼は完全に気圧されていた。
「この私が、完全に臆しているとは・・!」
ザナルドがシンとデスティニーに追い込まれていた。冷静さを失った彼の乗るザムドラーグを、デスティニーがさらに攻め立ててきた。
「お前だけは許さない!命を奪って平気で笑っているお前は、どの世界にもいたらいけないんだ!」
シンがザナルドに向けて言い放つ。
「オレがお前を倒す!許すもんか!」
シンの怒りを込めて、デスティニーがビームソードをザムドラーグに向けて振りかざす。ザムドラーグがデスティニーから離れて、ビームバルカンを連射する。
「逃げるな!」
シンが怒鳴り、デスティニーが素早く動いてビームをかいくぐっていく。そしてデスティニーが左手を突き出して、パルマフィオキーナでザムドラーグの顔を攻撃した。
「まずい!このままでは撃墜される!」
ザナルドが危機感を募らせ、ザムドラーグがデスティニーに向けてザムドラーグキャノンを発射する。デスティニーもビーム砲を発射して、ぶつけ合って相殺する。
ビームの衝突の閃光で一瞬目をくらませるザナルド。その瞬間に彼はデスティニーを見失っていた。
「しまった!・・ヤツはどこに・・!?」
ザナルドが目をレーダーでデスティニーの行方を追う。そしてザムドラーグのレーダーが熱源を捉えた瞬間だった。
一気にスピードを上げて、デスティニーがザムドラーグに突っ込んできた。デスティニーが突き出してきたビームソードが、ザムドラーグキャノンの発射口に突き刺さり、そのままザムドラーグのボディを貫いた。
「ぐはあっ!」
ザムドラーグの爆発と衝撃が、コックピットとザナルドにも襲い掛かる。激痛にさいなまれて、ザナルドが絶叫を上げる。
(イゼルカント様・・あなたの悲願・・叶えることが・・・)
イゼルカントへの思いを抱えたまま、ザナルドが爆発を引き起こしたザムドラーグとともに宇宙に散った。
「・・・ゴメン・・オレがもっと早く来てたら・・・!」
ディーンを助けられなかった自分を責めるシン。彼は激情を抱えたまま、キオに呼びかけた。
「いい加減にしろよ・・アイツが命を落としたのはあのヴェイガンのヤツだけじゃない・・お前が戦いから逃げてばかりで、力を使おうとしなかったせいだ・・・!」
声を振り絞るシンの言葉に、キオが困惑していく。彼はディーンを守れなかった自分を責めていた。
「守るためでも戦いたくないっていうなら、戦いのないところへ行ってろ・・戦わないといけない相手は、オレが戦ってやる・・・!」
「シンさん・・・」
「大切な人を守るために、戦いを終わらせるために、オレは戦う・・たとえそれが悪いことだと言われても・・・!」
決意を言い放つシンに、キオは戸惑いを覚える。
“そんな考えのせいで、誰かが死んでしまったらどうするんだよ!?”
キオの脳裏にディーンの言葉がよぎってくる。守るために力を使うこともしなかった自分に、彼は強い罪の意識を感じた。
(僕が・・みんなを守ればいいはずだったのに・・・ディーン・・僕のせいで、君を・・・)
胸を締め付けられるような気分に駆られて、キオが辛さを浮かべる。
「アセムのところへ戻らないと・・苦戦しているはずだから・・・!」
シンがゼハートと交戦しているアセムのところへ戻ろうとするシン。そのデスティニーにキラのフリーダムがやってきた。
「シンは大丈夫みたいだね・・キオも・・」
「あぁ・・だが、ディーンが・・・!」
声をかけてきたキラに、シンが歯がゆさを込めて言葉を返す。それを聞いてキラも深刻さを覚える。
「アセムがヴェイガンのMSと戦ってる・・戻らないと・・!」
“その前にコイツを受け取りな!”
シンに向けて通信が飛び込んできた。バロノークからだった。
バロノークからあるものが射出されてきた。シンが気付き、デスティニーはそれを受け取った。
それはアロンダイトビームソードだった。形状、色、ビームの出力。今まで使っていたものと同じだった。
「これ、いつの間に作ったんだ・・・!?」
“ちょっくら調べさせてもらった!まぁ、おめぇらの武装は、おめぇらのMSでしか扱えねぇ代物だからな!オレらが直接使うなんてできねぇよ!”
「そうだったのか・・ありがとう!助かったよ!」
バロノークの計らいにシンが感謝する。デスティニーが受け取ったビームソードを右背部に搭載した。
「アスランは?・・アスランはどうしたんだ・・・!?」
「じいちゃんもいない・・見かけない・・・!」
キラとキオがアスランとフリットを探して、周囲を探索する。
「2人が一緒にいたのは見かけたけど、それっきりだ・・それからけっこう時間たってる・・・!」
シンも言いかけて、アスランとフリットを探す。
「アスラン!・・どこにいるんだ、アスラン・・・!?」
キラが通信をつなげて、アスランとの連絡を試みる。
“キラ・・キラか・・・”
するとアスランからの応答が返ってきた。
「アスラン!どこにいるんだ、アスラン!?」
“今、ディーヴァに向かっている・・オレは平気だが、ジャスティスがすぐに戦いに戻れるような状態じゃない・・”
呼びかけるキラにアスランが状況を説明する。
“ヴェイガンを完全に殲滅しようとしたアスノ司令を、オレは止めようとした・・オレも司令も無事だが、どっちも機体が損傷してしまった・・”
「じいちゃん・・・」
アスランの話を聞いて、キオが困惑を感じていく。
“キラ、シン、お前たちで戦いを止めてくれ・・もうオレに、この戦いを止める力はない・・”
「アスラン・・アンタに言われなくても、そのつもりだ・・!」
正義を託してくるアスランに、シンが声を振り絞るように言い返す。彼の駆るデスティニーがダークハウンドとレギルスの交戦の場に戻っていく。
「僕もセカンドムーンへ行くよ・・キオ、君はディーヴァかバロノークに戻ったほうが・・」
「ううん・・僕も行きます・・・」
キラが呼びかけると、キオが首を横に振って答える。
「僕も勇気を出さないと・・覚悟を決めないと・・でないとディーンが何のために僕を守ってくれたのか、ディーンがやってきたことの意味が分からなくなってしまう・・」
あふれてくる涙を拭って、キオがディーンの思いを実感していく。
「僕は戦いを止めるために動く・・そのために、僕はこの力を使う・・・!」
「キオ・・・分かった・・一緒に行こう・・・!」
キオの決意を聞いて、キラが微笑んで頷いた。
「はい!セカンドムーンへ急ぎましょう!」
「うん。戦いを止めよう。」
キオの声にキラが答える。AGE-FXとフリーダムはセカンドムーンに向かっていった。
セカンドムーンにある培養施設。その中にあるカプセルにて1人の青年が眠っていた。
ゼラ・ギンス。イゼルカントのクローンであり、彼の後継者となるはずだった。だが病状の悪化のため、彼の権限はゼハートに引き継がれることになった。
地球連邦との決戦の最中、ゼラは目を覚ました。カプセルから出た彼は研究員たちから現状を聞かされた。
「オレではなくゼハートが・・ならばオレは、ヴェイガンに牙を立てる敵の一掃に専念するだけ・・」
ゼラが自分がすべき使命を認識する。衣服に身を包んでから、彼は出撃に向かう。
「地球連邦のMSや戦艦がこちらに向かってきている他、正体不明のMSも戦闘に介入しています。」
「敵なら何者だろうと関係ない。葬るだけだ。」
整備士の報告を聞いて、ゼラは無表情に言葉を返す。彼はMS「ヴェイガンギア」に乗り込んだ。
「まずは向かってくるMSの迎撃を行う。ゼハートにもオレのことは知らせておけ。」
「了解。」
ゼラの言葉に兵士たちが答える。ハッチが開かれると、ゼラの乗るヴェイガンギアがセカンドムーンから発進していった。
激しい攻防を続けるアセムのダークハウンドとゼハートのレギルス。拮抗した戦況の中、レギルスに向けて通信が入った。
“ゼハート様、ただ今ゼラ様が目覚められて、ヴェイガンギアで出撃されました。”
「ゼラ・ギンスが!?・・セカンドムーンの防衛に回っているのか・・・!」
“はい。接近する連邦の迎撃に当たっています。”
セカンドムーンからの通信に、ゼハートは緊張を感じていく。
「私はこのまま海賊のガンダムの撃破を行う。こちらへの援護は不要だ。」
“分かりました。ゼラ様の援護に回らせていただきます。”
セカンドムーンに指示を出して、ゼハートは通信を切った。
「もうこのような戦いはやめろ、ゼハート!ムダに命を散らせるだけだ!」
アセムがゼハートに向けて呼びかけてきた。
「ムダではない・・ムダに命を散らせるものか!」
「だったら何でこんな戦いを続けてるんだよ、アンタたちは!?」
言い放つゼハートに言い返してきたのはアセムではなかった。シンの駆るデスティニーがダークハウンドとレギルスの前に戻ってきた。
「シン!キオは無事か!?」
「あぁ・・とりあえず無事だ・・!」
アセムの呼びかけにシンが答える。
「どうやらキラと一緒にセカンドムーンに向かってるみたいだ・・!」
「セカンドムーンに・・気を付けろ・・またヴェイガンのMSが出てきたようだ・・!」
シンの言葉を聞いて、アセムが緊張を募らせる。
「ここは、キオとキラに任せるしかないか・・・!」
キオたちにゼラを任せて、アセムはゼハートとの対決に集中する。
「シン、オレは大丈夫だ・・お前もセカンドムーンに行って、キオを援護してくれ・・!」
「いや、オレもコイツと戦う・・オレも、コイツと向き合わないといけないみたいだ・・・!」
アセムが呼びかけるが、シンは今度こそゼハートと対峙する決意を固めていた。
「話は聞いてる・・アンタ、アセムの親友なんだろ!?・・だったら何で戦って、傷つけ合ってるんだよ!?」
シンがゼハートに向けて呼びかけてきた。
「何も知らないお前たちが、分かったようなことを・・!」
「あぁ・・オレはこの宇宙のことを何も知らない・・知らないことばかりだ・・みんなディーヴァのみんなやキオ、アセムたちから聞かされた・・」
苛立ちを見せるゼハートに、シンがさらに呼びかける。
「戦争で失うことの辛さは、オレは十分に分かってる・・妹を、家族を目の前で殺されて、オレは力を求めた・・・!」
シンが自分の経験と決意をゼハートに向けて告げる。
「そしてオレは選んだ・・この力で戦うことを・・戦う運命を背負い、戦う運命を切り開く・・・!」
シンが言い放ち、デスティニーがビームソードを手にして構える。
「この戦いも、オレが終わらせる!」
「それでオレを、オレたちヴェイガンを打ち倒そうというのか・・・!?」
ゼハートがシンに対しても憤りを感じていく。
「オレはイゼルカント様の意思と思い、そして火星圏にいる者たちの命と未来を託されている!彼らのその思いに目を背けることはできない!」
「ゼハート・・・!」
決心を口にするゼハートに、アセムも戸惑いを感じていく。
「戦いを終わらせるには、オレたちと地球種、どちらかが滅びるしかない!」
「ヴェイガンも連邦も関係ない・・戦いで、みんなを苦しめようとするヤツを、オレは倒す!」
シンがゼハートに言い返し、デスティニーがレギルスに向かっていく。レギルスがレギルスビットを放つが、デスティニーは素早くかわす。
「アンタはどっちなんだ!?苦しめるほうなのか、そうじゃないのか!?」
「オレは同士を守るために戦っている!お前たちに同士を手にかけさせるものか!」
言い放つシンとゼハート。デスティニーがレギルスに詰め寄って、左手を伸ばしてパルマフィオキーナを放ってきた。
「ぐっ!」
パルマフィオキーナを胸部に当てられて、レギルスがビームバスターを破壊される。ゼハートが即座にレギルスを動かして、尻尾を振りかざしてレギルスキャノンを発射する。
「ぐあっ」
レギルスキャノンで右翼を攻撃されて、シンが衝撃に襲われる。デスティニーがとっさにビームソードを振りかざして、レギルスの胸部をさらに切りつけた。
「シン!ゼハート!」
アセムが叫び、ダークハウンドが飛び込んで、ビームサーベルを振りかざして、デスティニーとレギルスの間に割って入ってきた。
「もうやめろ、ゼハート!イゼルカントの言いなりになっても、地球も火星の人々も平和にはならない!」
アセムがゼハートに向けて呼びかける。
「連邦もヴェイガンも互いに牙を向け合うのをやめるべきだ・・お前も心のどこかで、それを感じているんじゃないのか・・!?」
「ふざけるな!地球の連中を断罪しなければ、オレたちヴェイガンは地球上から迫害されるだけとなる!そんなこと、火星にいる者たちの希望を打ち砕かれることに他ならない!」
「そうやって滅ぼしあうことしか考えないんだ!?・・お前も、父さんも!」
頑なな意思を示すゼハートに、アセムが憤りを募らせていく。
「オレたちが戦うしかないとしても、もうお前に勝ち目はない・・2対1である上に、お前の機体は負傷している・・!」
「それでも、オレは引くわけにはいかない!オレが諦めることは、滅びの道を選ぶということ!」
アセムの忠告さえもゼハートは振り払う。
「オレは立ち止まれない!立ち止まるわけにはいかない!」
「だったらオレが、お前を止めてやる!いつでも、何度でも!」
ゼハートとアセムが言い放ち、レギルスがダークハウンドに向かっていく。
「友であるオレのこの手で、お前を止める!」
友情を込めた言葉を叫ぶアセム。ダークハウンドが突き出した「ドッズランサー」が、レギルスの左肩に刺さった。
「ゼハート!」
アセムが叫び、ダークハウンドがレギルスに刺さっているドッズランサーに搭載されている「ドッズガン」を発射する。
「ぐあっ!」
レギルスの左肩が爆発を起こして、ゼハートが衝撃に襲われて声を上げる。ダークハウンドに追い打ちをかけられて、レギルスが戦闘がままならないほどにまで損傷が大きくなった。
「もうお前は戦えない・・これ以上やっても、ムダに命を散らせるだけだ・・・!」
アセムが再度忠告を送る。ゼハートが抵抗を見せようとするが、レギルスは彼の思うように動かなくなっていた。
「もう戦いを止めてくれ、ゼハート・・お前たちがこの戦いに勝とうが負けようが、本当の平和はやってこない・・・!」
ダークハウンドが1度構えを解いて、アセムがゼハートに呼びかける。
「何も分かっていないお前が、分かったようなことを言うな!」
「この長い戦争の中で、オレは1つの答えを見出した・・連邦が勝とうとヴェイガンが勝とうと、悲劇が終わることはない・・悲劇を増すばかりだ!」
苛立ちを募らせるゼハートに言葉を返して、アセムが記憶をよみがえらせていく。
「仮初めだとしても、あのときのオレとお前が絆を深めたことは間違いない・・お前には、仲間や家族を大切にする優しさがある・・・!」
「オレが、優しさだと・・・!?」
アセムが口にした言葉に、ゼハートが疑念を感じていく。
「火星圏に住む者たちのために、お前は自分を盾にして戦場に赴いている・・仲間を守ることも頭に入れて、仲間の死を自分の死であるかのように悲しみ苦しむ・・オレはお前が、そんな優しさを持っていることを知っている・・・!」
アセムに言われて、ゼハートが戸惑いを募らせていく。彼の脳裏に自分が体験してきたことが次々によぎってくる。
「オレは・・みんなのことを・・・」
完全に心を揺さぶられて、ゼハートが戦意を失っていく。
「少し待っていてくれ、ゼハート・・キオたちの援護に向かう・・」
アセムはゼハートに呼びかけてから、シンに目を向ける。
「シン、オレたちもセカンドムーンへ向かうぞ・・」
「だけど、コイツは・・!」
アセムに声をかけられるも、シンはゼハートの動向を気にする。
「ゼハートは大丈夫だ・・今はセカンドムーンに行って、向こうの戦いも終わらせることが大事だ・・」
「あぁ・・分かってる・・・!」
アセムに言われてシンが納得する。動きを止めているレギルスとゼハートを気にしながらも、シンもセカンドムーンに向かうことを決めた。
(オレは・・今まで何のために、こうして戦ってきたんだ・・・!?)
戦うことの迷いに完全に取りつかれてしまった自分を、ゼハートは強く責めていた。
“ゼハート様・・・”
そんなゼハートに向けて通信が入ってきた。損傷したフォーンファルシアからフラムが呼びかけてくるが、通信にはノイズが入ってしまっていた。
「フラム、無事だったか・・・!」
“私は大丈夫です・・しかし機体が・・・”
ゼハートの呼びかけにフラムが答える。
「そうか・・私もレギルスをやられた・・まともに戦えそうにない・・・」
“ゼハート様・・・”
「私はセカンドムーンの帰還を試みる・・このままヤツらを野放しにするわけにはいかない・・・!」
“でしたら私も・・”
「いや、私だけでいい・・お前は戦線を離脱しろ・・・」
同行しようとするフラムだが、ゼハートに離脱を言い渡される。
“いいえ・・私も・・!”
フラムがさらに呼びかけるが、ゼハートは彼女からの通信を切った。
(オレはまだ・・倒れるわけにはいかない・・同胞をこれ以上、死なせるものか・・・!)
仲間たちを守るため、ゼハートは戦うこともままならない状態のレギルスを動かして、セカンドムーンに向かっていった。