GUNDAM WAR –Complication
of Thought-
FINAL PHASE「時代」
セリックたちの駆るクランシェたちが、セカンドムーンの前でガフランたちと交戦していた。そこへキラのフリーダムとキオのAGE-FXが駆けつけた。
「アビス隊長、大丈夫ですか!?」
「キオか!」
呼びかけてきたキオに、セリックが声を上げる。キラがセカンドムーンを防衛するガフランたちに目を向けると、フリーダムが2本のビームサーベルを手にして動きだし、腕や武装を切りつけていく。
「もう下がれ!戦いをやめるんだ!」
キラが戦場にいる連邦、ヴェイガンのパイロットたちに呼びかける。フリーダムやAGE-FXの戦闘力を痛感して、ガフランたちのパイロットが威圧されていく。
そのとき、フリーダムたちの前に1機の漆黒のMSが姿を現した。ゼラの駆るヴェイガンギアである。
「力もなく戦意も失った者に用はない・・」
ゼラが無表情で言いかけると、ヴェイガンギアが両手首から刃「ヒートブレード」を出して動き出す。ヴェイガンギアが一気にスピードを上げて、退避しようとしたガフランたちを次々に切り裂いた。
「な、何を!?」
ゼラとヴェイガンギアの行動にキオが驚愕する。
「やめろ!」
キラがたまりかねて、フリーダムがヴェイガンギアに飛びかかる。2本のビームサーベルとヒートブレードがぶつかり合い、激しく火花を散らす。
「アンノウンのMSの1機か。情報通り、機動力と正確性は高いようだ。」
ゼラが呟いて、ヴェイガンギアがフリーダムを突き放して距離を取る。ヴェイガンギアが尻尾を振りかざして、ビーム砲「デルタゲイザー」を放つ。
フリーダムが複相ビーム砲を発射して、デルタゲイザーを相殺する。同時にドラグーンを射出して、ヴェイガンギアのヒートブレードを狙い撃ちする。
AGE-FXが大型砲「スタングルライフル」に大型バレルを組み合わせて「ダイダルバズーカ」にして発射する。高出力の巨大なビームがヴェイガンギアに命中して、両手両足、尻尾を破壊する。
「これがアンノウンのMS、そして連邦のガンダムの力か。」
絶体絶命の窮地に追い込まれながらも、ゼラは顔色を変えずに、フリーダムとAGE-FXの力を実感する。
「もうやめるんだ・・戦いは、戦いを生むだけなんだ・・・!」
キラがゼラに向けて呼びかける。それでもゼラは表情を変えない。
「オレはこの戦いを途中でやめることはない。ヴェイガンの理想を実現させるまでは。」
「違う・・地球人もヴェイガンも関係ない・・未来を決めるのは、他の誰かじゃない・・自分自身だ・・・!」
ゼラが投げかける言葉にキラが言い返す。
「ならばオレが決める。オレの、我々ヴェイガンの未来というものを。」
キラの言葉を聞き入れず、ゼラがあくまで敵意を貫こうとする。
「なぜ戦うんだ・・もう戦うことはできないのに・・・!」
ゼラの言動にキラが歯がゆさを覚える。フリーダムがAGE-FXとともに構える。
そのとき、フリーダムの両腕両足、翼が爆発を起こした。
「ぐあっ!」
「キラさん!?」
突然の爆発にうめくキラに、キオが叫ぶ。
次の瞬間、フリーダムとAGE-FX、ヴェイガンギアの前に巨大な影が姿を現した。大きな昆虫を思わせる鋼鉄の姿をしていた。
「これがシドか。この戦いに現れるとは。」
ゼラが大型MS「シド」の出現に対して身構える。だがヴェイガンギアは損傷していて、退避がままならない。
「キラさん、大丈夫ですか!?キラさん!」
AGE-FXがフリーダムに近寄って、キオがキラに呼びかける。
「僕は大丈夫だ・・だけど、機体が・・・!」
キラは無事で、キオに返事を送っていた。だがステルスシステムで透明化、転移してきたシドの放ったビームの集中砲火を受けてしまい、フリーダムは損傷してしまった。
「キオ!」
そこへアセムのダークハウンドが駆けつけてきた。シンのデスティニーもやってきた。
「キラ!・・何だ、あのバケモノは!?」
キラに呼びかけるシンが、シドの姿を見て声を荒げる。
「あれは、シド!・・倒しきれていなかったのか・・・!」
アセムがシドを見て緊迫を募らせる。彼は以前にシドと交戦し、弱点を突いて打ち倒したことがある。
だがシドは完全に破壊されてはいなかった。シドは自己修復機能を有しており、倒されても復元されて、さらに強化されて復活するのである。
「気を付けろ!シドは無人のMS!敵と判断したものに容赦なく襲い掛かる!そしてヤツは、1度受けた攻撃の耐性も備える!」
「そんな・・性能までバケモノかよ・・・!」
アセムの言葉を聞いて、シンが毒づく。
「今度こそ確実に仕留めなければ、シドは際限なく強化していくことになり、手が付けられなくなる・・!」
「倒してやる・・今度はオレが!」
アセムの言葉を受けて、シンがいきり立ち、デスティニーが構える。
「キラさんは、ここから離れてください・・!」
「キオ・・・僕はもう、離れたほうがいいかもしれない・・・」
キオの呼びかけをキラはやむなく聞き入れることにした。フリーダムがAGE-FXに連れられて離れていく。
「ここはオレたちでヤツを倒すしかない・・2度と復活しないよう、完全に・・!」
「だったらコイツで風穴を開けて・・!」
声を振り絞るアセムと、言い放つシン。デスティニーがビーム砲を展開して、シドに狙いを向ける。
「無闇な攻撃は逆効果だ!ヤツは1度受けた攻撃は通用しなくなるんだぞ!」
しかしアセムに呼び止められて、シンが歯がゆさを募らせる。
出現したシドが狙いを向けたのは、損傷して動けなくなっているヴェイガンギアだった。シドがヴェイガンギアに組み付いて、機体に取り込んでしまった。
「何っ!?」
「ヴェイガンのMSを取り込んだ・・・!」
シンがアセムが驚愕を覚える。ヴェイガンギアを取り込んだシドが更なる進化を遂げようとした。
そのとき、進化のための変化を行っていたシドに異変が起こった。シドの姿かたちにヴェイガンのMSの特徴が表れていく。
「アイツを取り込んで、パワーアップしたっていうのか・・!?」
「いや、違う・・これは、逆に・・・!」
声を荒げるシンとアセム。アセムはシドの変化が純粋な進化でないことに気付いていた。
ヴェイガンギアを取り込んだはずのシドだった、だがヴェイガンギアにいたゼラの意識が逆にシドを乗っ取ったのである。
「私は定める。地球と火星圏、全ての未来の。」
シドからゼラの声が響いてきた。シドが翼から多数の「フェザーミサイル」を発射してきた。
シンとアセムが反応して、デスティニーとダークハウンドが素早く動いてフェザーミサイルをかわす。だがフェザーミサイルが狙っていたのは2機だけではなかった。
フェザーミサイルは交戦している連邦、ヴェイガン双方のMSや戦艦を次々に撃墜していく。シドは見境なく攻撃を仕掛けていた。
「どうしたんだ!?・・何で・・・!?」
「まさか、暴走しているのか・・・!?」
驚愕を募らせるシンとアセム。アセムが思った通り、シドがヴェイガンギアを取り込んだ「ヴェイガンギア・シド」は暴走を起こしていた。
ゼラの精神によって逆に取り込まれたと思われたシド。だがシドからのフィードバックの影響で、ゼラも暴走に陥ってしまった。
シドと一体化したヴェイガンギアは暴走して、勢力問わず見境なく攻撃を仕掛けてきた。
「こんなこと・・これじゃ戦いじゃなくて、ただの破壊じゃないか・・・!」
攻撃を続けるヴェイガンギアとゼラに、シンが怒りを膨らませていく。
「これ以上やらせるか!」
シンがいきり立ち、デスティニーがヴェイガンギアに向かっていく。
「待て、シン!1人では敵わないぞ!」
アセムが呼び止めるが、シンは思いとどまらず、デスティニーがビームライフルを手にして発射する。だがヴェイガンギアの胴体はビームを弾く。
デスティニーに気付いたヴェイガンギアが、フェザーミサイルを発射してきた。シンが反応し、デスティニーが素早く動いてフェザーミサイルをかわしていく。
「くっ!・・こんなのに好き勝手に暴れられたら・・・!」
強化したヴェイガンギアに毒づくシン。
「1度下がれ、シン!体勢を整えたほうがいい!」
「くっ!・・ここは力を合わせるしかないか・・・!」
アセムに呼び止められて、シンがやむなく聞き入れる。デスティニーとダークハウンドが1度ヴェイガンギアから離れていった。
フリーダムを連れてヴェイガンギアから離れたAGE-FXは、ディーヴァに隣接した。そこでは同じく損傷していたジャスティスが滞在していた。
「キラ!?・・大丈夫なのか、キラ!?」
「アスラン・・うん。僕は大丈夫・・でも・・」
呼びかけるアスランに、キラが深刻さを込めて答える。フリーダムもジャスティスもすぐに戦いに出れる状態ではなかった。
「キラさん、アスランさん、僕は戻ります・・今度こそ、みんなを守らないと・・・」
「すまない、キオ・・こんなときに戦うことができなくて・・・」
戦いに戻ろうとするキオに、アスランが謝る。
「大丈夫です・・もう僕は、迷いませんから・・・」
キオは微笑んでから、AGE-FXでディーヴァから離れた。
「キオ・・・!」
キオを見送るキラとアスランの後ろに、フリットが歩いてきた。
「アスノ司令・・・」
彼に気付いたアスランが、キラと一緒に振り返る。
「私は夢を見ていたかもしれない・・私が守れなかった人たちと、私は出会った・・」
フリットがキラたちに深刻な面持ちを見せる。
「もう憎まなくていい・・恨まなくていいと言ってきた・・それではみんなが浮かばれなくなるというのに・・・だがみんなはヴェイガンが滅びることよりも、私の平穏、世界の平和を願っていた・・・」
「アスノ司令・・・」
「ヴェイガンに非情に命を奪われても、私の安息を願い続けていたのか・・・」
大切な人の本当の思いを実感したフリットに、アスランが戸惑いを覚える。
「みんなの願いは、自分たちを殺したヴェイガンが滅びることではない・・ヴェイガンへの憎しみを抑えて、彼らを許すこと・・・」
フリットが大切な人々の思いを胸に秘めて、戦火の広がる宇宙に目を向ける。
「やっと気づけたのに、すぐにこの決意を実行できないとは・・情けない・・・」
「やるせない気持ちは僕たちも感じています・・ここはシンとキオたちを信じましょう・・」
歯がゆさを浮かべるフリットに、キラが言いかける。
「こうして見ていることしかできないのが、こんなに悔しいなんて・・・」
同じく歯がゆさを感じながらも、アスランもシンたちに全てを託していた。
1度ヴェイガンギアから離れたシンとアセム。デスティニーとダークハウンドに、キオのAGE-FXが合流した。
「父さん、シンさん!みんなは・・!?」
「あのヴェイガンのMSとシドが合わさって暴走している・・勢力関係なく攻撃をしてきている・・・!」
キオが声をかけると、アセムが深刻さを込めて答える。
「止めないと・・でないとみんなが・・・!」
「落ち着け、キオ!今のアイツは、いくらガンダムでも1機で止められる相手じゃない!」
飛び出そうとしたキオをアセムが呼び止める。
「このガンダムに備わったバーストモードを使う・・倒すための力だから、本当は使いたくなかったけど・・・!」
キオがアセムに1つの提案を持ちかける。
「FXバーストモード」。AGE-FXの機動性を極限まで高める形態である。大量撃破が可能となる形態だが、倒すことを懸念していたキオはバーストモードの使用を拒んでいた。
「でも僕はこの力を、みんなを守るために使う・・誰1人死なせない、傷つけさせないために・・・!」
「キオ・・戦うんだな、キオ・・・!?」
決意を口にするキオに、シンが問い詰める。キオは真剣な面持ちで頷いた。
「今のシドの中には、あのヴェイガンのMSのパイロットがいるはずだ。ヤツが取り込まれずに共存しているなら、まだシドの中で健在のはずだ・・!」
「だったら突っ込んで、その人を助け出す・・!」
アセムの話を聞いて、キオが意思を強める。
「本気なのか!?アイツは味方まで殺す破壊者になってるんだぞ!」
「それでも助ける!僕が暴走を止める!」
シンが言いとがめるが、キオの決意は固かった。
「そうだな・・考え方が違っても、まずはアイツを止めないとな・・・!」
「あれだけの戦闘力だ・・真っ向勝負を仕掛けて勝てるわけがない・・!」
キオの意思を受け止めるシンと、ヴェイガンギアに対する打開策を模索するアセム。
「武装を削いでいくしかない・・すぐに復元させてくるだろうが、それは少しでも時間がかかることだろう・・!」
「その隙に、ヤツの核となる部分を狙って・・・!」
アセムの言葉を受けて、シンがヴェイガンギアを見据える。
「キオ、助けるつもりなら一発勝負だぞ・・これを逃したら、もう中のヤツを助けるチャンスはないぞ・・・!」
「シンさん・・・分かっています・・・!」
忠告を送るシンに、キオが真剣な面持ちのまま頷く。
「だったら、オレがアイツの注意を引き付ける!キオ、お前は全力で中のヤツを引きずり出せ!」
シンはキオに言い放つと、デスティニーを駆り、ヴェイガンギアに向かっていった。
「キオ、オレもシンとともに行く!」
「父さん!」
続けてダークハウンドで飛び出すアセムに、キオが声を荒げる。デスティニーがビーム砲を発射してヴェイガンギアの注意を引き付け、その直後にダークハウンドがドッズランサーでヴェイガンギアの胴体を切りつけた。
「やはり以前オレと戦ったときの耐性を身に着けている・・!」
ドッズランサーでヴェイガンギアに、シドにダメージを負わせられないことに毒づくアセム。ヴェイガンギアが多量のフェザーミサイルを発射してきた。
「くそっ!」
シンが毒づき、デスティニーとダークハウンドがフェザーミサイルを回避していく。彼らの戦況を見つめて、キオが感情を高まらせる。
「みんな、あのMSにいるパイロットを助けるために、力を貸してください!」
キオが回線を開いて、宙域にいるパイロットやクルーたちに呼びかけた。
「今、あの人は暴走状態にあります!パイロットを救出できれば、MSの暴走は止まるはずです!僕がパイロットを助けます!みなさん、力を貸してください!」
切実に呼びかけるキオ。AGE-FXもヴェイガンギアに向かって動き出す。
「本来ならヴェイガンに力を貸すなど滑稽なことだが・・」
「今はあの怪物の暴走を止めるのが先・・!」
「見境なく攻撃してくるアイツを、野放しはできない!」
連邦のMSパイロットたちが、ヴェイガンギアの攻撃阻止に乗り出してきた。
「ゼラ様を止めなくては・・・!」
「これではヴェイガンの理想までも打ち砕かれてしまう・・!」
「たとえ地球の連中と手を組むことになっても、今はゼラ様を、みんなを助けなければ!」
ヴェイガンのMSパイロットたちも、ヴェイガンギアの暴走を止めるために行動を起こした。
互いを認めても許してもいない。利害が一致しているとも思っていない。そう考えていた連邦とヴェイガンだったが、無意識に力を合わせていた。
「みなさん・・みなさんが、力を貸してくれる・・・!」
力を合わせていく連邦とヴェイガンに、キオは戸惑いを感じていた。
「みなさん、ありがとうございます!」
キオは感謝を見せて、AGE-FXがヴェイガンギアに向かっていく。
ヴェイガンギアが全身から砲門を展開させて、ビームを一斉放射する。雨のようなビームが、次々にクランシェたちやガフランたちを撃ち抜いていく。
「くそっ!そんなこと、もうこれ以上やらせるか!」
シンが怒りをあらわにして、デスティニーがビームライフルを発射する。だがヴェイガンギアのビームでビームライフルを撃たれる。
「ちっ!」
シンが毒づき、デスティニーがエネルギー砲を使おうとした。するとヴェイガンギアが即座にフェザーミサイルを放って、エネルギー砲に命中させる。
「何っ!?」
声を荒げるシン。デスティニーが素早く動いて、ビームとフェザーミサイルをかいくぐっていく。
ダークハウンドもビームバルカンを発射して、さらにビームサーベルを駆使して、フェザーミサイルをなぎ払っていく。
「後手に回れば確実にやられるぞ!」
「そうなるぐらいなら、徹底的に攻め立ててやる!」
声を上げるアセムと、言い放つシン。デスティニーがアロンダイトビームソードを手にして構える。
「あの翼、一気に叩き切ってやる!」
シンがヴェイガンギアを見据えて、デスティニーが光の翼を広げて突撃する。ヴェイガンギアがビームとフェザーミサイルを連射するが、デスティニーは残像を残す動きでかいくぐって前進していく。
「もう失わない・・何も奪わせはしない・・オレが、この手で終わらせる!」
シンが言い放ち、デスティニーがヴェイガンギアに向けてビームソードを振り下ろす。ヴェイガンギアの左翼がビームソードに切り落とされる。
だがヴェイガンギアの右翼にデスティニーが捕まってしまう。
「しまった!」
「シン!」
声を荒げるシンとアセム。ヴェイガンギアがデスティニーをも取り込もうとしてきた。
「このままやられるか!」
シンが感情を高まらせて、デスティニーが左手のパルマフィオキーナをヴェイガンギアの翼にぶつける。ヴェイガンギアの翼に傷がついて、デスティニーがその隙に脱出する。
ヴェイガンギアが右翼をはばたかせて、フェザーミサイルを連射する。デスティニーが右肩のビームブーメランを左手で取って投げつけて、ダークハウンドもビームサーベルでフェザーミサイルをなぎ払う。
「アイツの核をこじ開けるしかない・・デスティニーで一気に突っ込むしかない・・!」
「よせ、シン!確実に死ぬぞ!」
いきり立つシンをアセムが呼び止める。
「オレは死なない・・死んだら悲しむヤツがいるからな・・・!」
しかしシンは思いとどまらずに、ヴェイガンギアに立ち向かおうとした。そのとき、ヴェイガンギアがデルタゲイザーを発射してきた。
「アセム!」
そのとき、ゼハートの声が飛び込んできた。デスティニーとダークハウンドが横に突き飛ばされた。
「お前は!?」
フラムの介入に驚愕の声を上げるシン。
(これで、よろしかったのでしょうか・・・ゼハート様・・・)
ゼハートを想うフラム。彼女のいるフォーンファルシアが、ヴェイガンギアのデルタゲイザーの閃光に包まれた。
(ゼハート様・・どうか・・みんなの、世界の未来を・・・)
ゼハートに自分の思いの全てを託したフラムが、フォーンファルシアとともに閃光の中に消えていった。
(フラム・・オレは、お前を守ることも・・・!)
フラムを思い、ゼハートが歯がゆさと自分の無力を痛感する。
「お前・・お前!」
フラムを殺された怒りを爆発させるシン。デスティニーが左肩のビームブーメランを外して、左手で持ってビームサーベルの要領で構える。
ヴェイガンギアが負傷した部位の復元を行いながら、ビームとフェザーミサイルを発射する。デスティニーがビームソードとビームブーメランを振りかざして、フェザーミサイルをなぎ払っていく。
「シンさん・・僕が・・僕が前に出ないと!」
キオが思い立ち、AGE-FXがCファンネルを射出してヴェイガンギアに向かっていく。Cファンネルが次々にフェザーミサイルを撃破していく。
だがヴェイガンギアの執拗な射撃はとどまることを知らず、Cファンネルの数基が破壊される。
「これではやられる・・ヤツの主砲を封じなくては・・・!」
アセムがシン、キオたちの援護を行おうとする。ダークハウンドがビームサーベルを構えて、ヴェイガンギアに向かっていく。
しかしヴェイガンギアがダークハウンドに気付き、フェザーミサイルを放つ。
「アセム!」
そのとき、ダークハウンドの前にレギルスが飛び込んできて、フェザーミサイルを受ける。
「ゼハート!」
「オレに構うな、アセム・・ヤツを攻撃しろ・・・!」
声を上げるアセムに向けて、ゼハートが声を振り絞る。
「ヴェイガンの未来を切り開くのが、オレの願いであり、イゼルカント様のご意思であった・・その意思をアセム・・お前との友情に託す・・・!」
「ゼハート・・・!」
「未来へ進め、アセム・・進め!」
「ゼハート・・死ぬな、ゼハート!」
ゼハートの意思を受け止めて、アセムが叫びながら意を決する。次の瞬間、レギルスの胴体をヴェイガンギアのビームが貫いた。
「ゼハート!」
「アセ・・ム・・・」
叫ぶアセムにゼハートが微笑みかける。損傷が激しくなり、レギルスが爆発を引き起こした。
ヴェイガンギアが再びデルタゲイザーを発射しようとして、エネルギーを集中させていた。
(ゼハート・・お前の思い、ムダにさせるか・・・!)
レギルスの爆風をかき分けて、ダークハウンドがビームサーベルを投げつけてきた。ビームサーベルはデルタゲイザーの発射口に命中した。
「今だ!」
シンが言い放ち、デスティニーがビームソードを構えてヴェイガンギアに突っ込んだ。ビームソードがヴェイガンギアの胴体の中央に突き刺さり、デスティニーがそのまま胴体を切り裂こうとする。
「キオ、今のうちに助け出せ!」
「シンさん!」
シンの呼びかけにキオが答える。AGE-FXが全身からエネルギーを放出して、ヴェイガンギアに向かって突っ込む。
ヴェイガンギアがビームを放射を仕掛ける。デスティニーが回避が間に合わず、左手と左翼を吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
うめくシンの視界に、AGE-FXが飛び込んできた。ヴェイガンギアのビームやフェザーミサイルが飛び込んでくるが、エネルギーを放出しているAGE-FXにことごとくはじき飛ばされていく。
「僕は助ける・・誰も死なせはしない!」
キオが言い放ち、AGE-FXがヴェイガンギアに突っ込んだ。キオがゼラのいるコアを捉えて、AGE-FXが手を伸ばす。
「あなたも、絶対に助ける!」
キオは自分もAGE-FXのように手を伸ばしているような感覚を覚えた。AGE-FXの右手が、ゼラのいるヴェイガンギアのコアをつかみ取った。
ヴェイガンギアからAGE-FXが飛び出してきた。ヴェイガンギアを貫通したAGE-FXの右手には、ゼラのいるコアが握られていた。
「やった・・助けられた・・・」
暴走に陥っていたゼラを助けられたことに、キオが安堵を感じていた。
「ゼハート・・・お前は、これでよかったのか・・・これが、お前の望んだ選択だったのか・・・」
自分を庇って全てを託してきたゼハートに、アセムは歯がゆさを感じていた。
「結局・・こんな形で、連邦とヴェイガンが力を合わせることになるとはな・・・」
戦いの終局の皮肉を感じて、シンが肩を落としていた。
「でも・・これでよかったんだろうか・・・ルナ・・ステラ・・・」
自分の大切な人を想い、シンは安堵を感じていた。
長きに渡る連邦とヴェイガンとの戦いの終結を、キラ、アスラン、フリットも目にしていた。
「我々とヴェイガンが、手を取り合って補修作業をしている・・・」
連邦とヴェイガンが助け合い、救援を取り合っていることに、フリットは動揺を隠せなくなっていた。
「これが、本当の平和の形かもしれない・・僕たちは、こうして手を取り合うことができるんだ・・・」
「正義や思いはそれぞれだが、平和への願いは同じ・・同じ人間だから・・・」
キラとアスランも緩和していく情勢を見つめて、安堵を感じていく。
「キラ、あれは・・!」
アスランが声を上げて、彼が見ている先にキラも目を向ける。ヴェイガンギアが爆発を起こした地点で、空間の歪みが起こっていた。
「あれは、あのときと同じトンネル・・もしかして、僕たちの世界に通じているんじゃ・・・!」
「確証はないが、元の世界に戻れる可能性も否定できない・・賭けてみるしかないな・・・!」
キラとアスランが声を掛け合って、フリットに振り返る。
「申し訳ありませんでした・・そして、ありがとうございました・・・」
「いや・・謝らなくてはならないのは私の方だ・・すまなかった・・・」
互いに謝意を示すアスランとフリット。
「僕たちは行きます・・これからも、僕たちの世界を守るために・・・」
キラは言いかけると、損傷しているフリーダムに乗り込んだ。アスランもジャスティスに乗って、キラのフリーダムともにディーヴァを発進していった。
「これが、平和のために選ぶべき道だったのだな・・・母さん・・ウルフ・・ルシェル・・・」
宇宙を見上げて、自分の大切な人たちに向けて呟きかけるフリット。彼は今まで戦争と憎悪に囚われていて、その連鎖からようやく解放されたのだと実感していた。
「これからの平和は、我々次第、か・・」
平和を維持するために、かつて憎んでいた相手とも力を合わせなくてはならないことを、フリットは自分に言い聞かせていた。
キオのAGE-FXは暴走するヴェイガンギアの攻撃を受けて損傷の出ていたセカンドムーンに、ゼラを送り届けた。そしてAGE-FXはデスティニー、ダークハウンドと合流した。
「キオ・・お前の答えを、貫き通せたな・・」
「父さん・・うん・・やっとやり通せた気がする・・もっと早く迷いを振り切れたらよかったかもしれない・・・」
アセムが声をかけると、キオが微笑んで頷く。しかしディーンを思ったキオが笑みを消す。
「守るため、助けるために力を使う、か・・そのためでも、戦うことから逃げてはいけないんだ・・・」
自分が見出した答えと、フリット、アセム、キオのそれぞれの思いを胸に秘めるシン。そしてシンは、自分が見出した答えが間違っていないことを、改めて実感していた。
「シン・・・!」
そこへアスランが声をかけてきた。デスティニーの前にフリーダムとジャスティスがやってきた。
「アスラン・・キラ・・」
「また空間の歪みが現れた・・おそらくあの機体の爆発で空間が歪んで、トンネルができたのだろう・・」
声を上げるシンにアスランが呼びかける。彼らは空間の歪みに目を向ける。
「あれは!・・あれで戻るしかないみたいだ・・・!」
「急ごう・・あのトンネルが消えてしまう前に・・・」
シンとキラが声を掛け合う。彼らがキオとアセムに声を投げかける。
「戻るときが来たみたいだ・・」
「オレたちはこの世界の・・お前たちはお前たちの世界の平和のために・・」
シンの言葉にアセムが言いかける。
「僕はこのまま連邦に留まります・・みんなが手を取り合っていくのを見守っていきたいんです・・」
「オレはまだビシディアンの船長だ。その役目に区切りを付けてから、戻ることにする・・」
キオとアセムがそれぞれこれからのことを口にする。
「僕たちも、僕たちの平和を守るために・・・」
「そのためにまた争うことになるかもしれない・・そうなってもオレは・・・」
キラとシンが声を掛け合う。シンは自分たちが見出した答えと平和のためなら、またキラやアスランと対峙することも厭わないでいた。
「とにかく戻るぞ・・あれが消えてしまったら、2度と元に戻れなくなるかもしれない・・・」
そこでアスランが呼びかけて、シンとキラが頷く。デスティニー、フリーダム、ジャスティスが次元のトンネルに向かっていた。
(みなさん・・本当に、ありがとうございました・・・)
シンたちに感謝を送るキオ。彼らに見送られて、シンたちは次元を超えていった。
その直後に、次元の歪みが消えていった。キオとアセムは、それぞれディーヴァとバロノークへ帰艦していった。
次元のトンネルを抜けたデスティニー、フリーダム、ジャスティス。アスランはすぐにレーダーをチェックして、周辺の状況や通信を把握する。
「この宙域はデータにある・・アークエンジェルを発見した。」
ジャスティスのレーダーがアークエンジェルを捉えて、アスランが呼びかける。
「ルナ・・ルナも探してくれてたのか・・・」
同じくシンもレーダーを確認した。
「僕とアスランはアークエンジェルに戻る・・」
「オレは・・オレの戻るところはザフトだ・・・」
キラが言いかけるが、シンは彼らと一緒には戻らず、ザフトに戻っていく。
「キオもアセムもそれぞれの答えを見つけていた・・アスノ司令もきっと、ホントの答えを見つけてるはずだ・・・そしてみんなはきっと、平和な世界を取り戻して、分かち合っているはずだ・・・」
キオたちが平和な世界を作っていくことを信じているシン。デスティニーがフリーダムとジャスティスから離れていく。
(夢か何かみたいだと思ってしまいそうだけど・・あれは夢じゃない・・・)
シンが心の中で、キオたちの世界での時間と戦いを思い返していく。
(オレはあの世界での戦争を終わらせることに貢献できた・・オレたちの世界も、平和を取り戻さないと・・・)
キオたちとの出会いと共闘、対峙を経験したシン。シンは自ら見出した答えをさらに強固なものとした。
(オレが守るんだ・・みんなを・・この世界を・・・!)
戦う運命を背負い、戦いの運命を断ち切る。見出した答えを胸に自らが立ち向かうことを改めて誓うシンだった。