GUNDAM WAR –Complication
of Thought-
PHASE-04「反逆」
ディーンの逃走を引き金にして勃発した地球連邦とヴェイガンの交戦。それをうかがっていたローグは、MS「ティエルヴァ」のコックピットからフリットを探っていた。
そしてローグはついに、AGE-1の居場所をつかんだ。
「見つけたぞ・・オレの手で断罪してやるぞ、フリット・アスノ・・!」
フリット打倒のため、ローグがティエルヴァで出撃していった。
ヴェイガン殲滅のためにキオの願いさえもはねのけたフリット。キオとディーンの思いにも耳を貸さないフリットに、シンが憤りを感じて、ついに敵対にまで発展してしまった。
AGE-1が振りかざしたライフルシールドのビームサーベルを、デスティニーがアロンダイトビームソードで受け止める。デスティニーがビームソードを押して、AGE-1を押し返す。
「シン、何をやっているんだ!?アスノ司令も!」
アスランが2人の様子を見て声を荒げる。だがジャスティスもフリーダムも、ヴェイガンの追撃の迎撃に追われていた。
「キオ、そいつを連れて逃げろ!ヴェイガンやじいさんたちの手が届かないところへ!」
フリットと交戦するシンが、キオに呼びかける。
「でも、じいちゃんとシンさんが・・!」
「お前はそいつを助けたいんだろ!?だったらさっさと行け!」
困惑するキオにシンがさらに呼びかける。AGE-1がライフルシールドからビームを発射して、デスティニーがビームシールドで防いでいく。
「お前たちが離れたらオレもすぐに追いかける!」
「シンさん・・・すみません!」
シンに呼びかけられて、キオが迷いを振り切った。
「ディーン、行くよ!」
「あぁ・・けど、どこへ・・!?」
呼びかけるキオにディーンが動揺を浮かべる。ディーンはヴェイガンだけでなく、地球連邦にも居場所がなくなっている。
「キオ、こっちに来い!」
そこへ声がかかって、キオが目を見開く。次の瞬間、彼らのいる宙域に1隻の艦が姿を現した。やってきたのではなく、突然宙域に姿を現したのである。
黒を基調とした艦体。そのエンジン部にはドクロのマークが張られていた。
「なんだ、あの艦は・・!?」
「あれじゃまるで、海賊船じゃないか・・・!」
黒い艦を見て、アスランとシンが声を上げる。その艦から彼らに向けて声がかかってきた。
「キオ、そいつを連れてこっちに来い!」
「父さん!」
キオにはその声に聞き覚えがあった。黒い艦にはキャプテン・アッシュとして滞在、指揮しているキオの父、アセム・アスノがいた。
「今のそいつはヴェイガンにも連邦にも行き場がない!こっちに連れてくるんだ!」
「父さん・・・ディーン、行こう!」
アセムの呼びかけを聞いて、キオがディーンに呼びかける。AGE-FXとジルスベインが黒い艦「バロノーク」に向かっていく。
「待て、キオ!行くな!」
フリットが呼び止めるが、キオたちは止まることなくバロノークに着艦した。
「どけ!ヴェイガンに逃げられるだけではない!キオまで行ってしまう!」
「ふざけるな!こうなってるのもアンタの身勝手が招いたものだろうが!」
怒鳴りかかるフリットにシンも怒鳴り返す。AGE-1が2本のビームサーベルを手にして振りかざそうとすると、デスティニーが足を出してAGE-1を蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
AGE-1が押されて体勢を崩して、フリットがその衝撃でうめく。後方に下がったデスティニーに、フリーダムがようやく合流してきた。
「キオたちがあの艦に到着した・・後は戦いを止めるだけ・・・!」
「いや、オレはキオと一緒に行く・・フリットの身勝手のせいで苦しんでいるアイツを、放ってはおけない・・!」
呼びかけてきたキラに、シンが自分の考えを口にする。デスティニーもバロノークに向かっていく。
「シン・・僕も行くよ・・!」
キラもキオの心配をして、フリーダムもバロノークに向かう。
「シン、キラ、待て!」
アスランが呼び止めるが、シンもキラも離れていってしまった。ジャスティスもAGE-1もシンたちを追おうとした。
「フリット・アスノ!」
その2機に向かって接近する機体があった。ローグの駆るティエルヴァが飛び込み、AGE-1に向けてビームサーベルを振り下ろしてきた。
「ヴェイガンか!?こんなときに攻撃してくるとは!」
「フリット・アスノ、この手でお前の大罪を償わせてやるぞ!」
声を荒げるフリットに、ローグが怒鳴りかかる。ティエルヴァのビームサーベルを、AGE-1もビームサーベルで受け止める。
「ヴェイガンはもちろん、ヤツらに組するものは全員敵だ!抹殺されるべき存在となる!」
「それでオレの父を、問答無用に殺したというのか、お前は!?」
怒りの言葉を言い放つフリットに、ローグが怒鳴りかかる。
「ギア・パスト!オレの父をお前は、ヴェイガンとつながりがあったというだけで処刑した!お前のヴェイガンへの憎悪が、オレに憎悪を植え付けたのだ!」
「ヴェイガンは邪悪の権化だ!それに味方するなど、万死に値する大罪!その断罪に反抗することなど言語道断!」
「それが当然だと言い張るなら、オレに一方的に倒されることもまた当然となる!」
それぞれの怒りをぶつけ合うフリットとローグ。ティエルヴァが2基の「Tビット」を射出して、AGE-1に向けてビームを放つ。
「大切なものを一方的に奪う!ヴェイガンの行為に組する貴様も、我々の敵だ!」
「大切なものを一方的に奪っているのはお前だ!自分の愚かさを棚に上げて、自分の罪をオレたちに押し付けるな!」
ヴェイガンへの憎悪に駆り立てられるフリットと、彼によって父や全てを失ったローグ。ティエルヴァの操作するTビットがドリルのように回転して、AGE-1を狙う。
「2人とも、怒りと憎しみをぶつけ合っている・・・!」
激しく交戦するフリットとローグに、アスランが困惑を募らせていく。
「このままじゃ、オレたちみたいに・・・!」
彼の脳裏に自分たちの戦いと衝突がよみがえってくる。
互いに仲間を殺されて、その怒りをぶつけ合ったキラとアスラン。ステラを殺された怒りをキラにぶつけたシン。
怒りと憎しみをぶつけた先に何もないと、アスランは痛感していた。
「フリット・アスノ、お前は絶対に生かしてはおかない!今ここで引導を渡す!」
「我々の使命を阻むことを、私は許してはおかん!ヴェイガン共々お前も倒す!」
ローグとフリットが怒りをぶつけ合う。向かってきたティエルヴァが振りかざしたビームサーベルをライフルシールドで受け止めて、AGE-1がビームサーベルを突き立てる。
「くっ!」
ビームサーベルがティエルヴァの左肩に突き刺さり、ローグがうめく。次の瞬間、TビットがAGE-1を狙って飛んできた。
フリットが回避を取るが、Tビットはビームサーベルを持っていたAGE-1の左腕を貫いた。双方機体を損傷されるも、ローグとフリットの怒りは治まらない。
「オレはやられはしない・・お前を地獄に叩き落とすまでは!」
「もうよせ!戦闘を停止しろ!」
ローグが叫んだところで、アスランが呼び止めてきた。ジャスティスがAGE-1とティエルヴァの間に割って入ってきた。
「アスノ司令、ここで戦闘を続けている場合ではないでしょう!キオとキラたちを追いかけなくては・・!」
「今、目の前に敵がいるのに、野放しにするわけにはいかん!」
アスランが呼びかけるが、フリットはローグとの戦いをやめおうとしない。
「それにヤツらは海賊風情だが、ヴェイガンに拉致されるよりはマシだろう!ここにいるヴェイガンを始末してから、救出に向かえばいい!」
「今あなたがやっているのは戦争ではない!憎しみをぶつけているだけだ!」
「敵を倒すことが、平和への唯一の道だ!」
さらに呼びかけるアスランだが、フリットのヴェイガン打倒の意思は変わらない。
「邪魔をするなら、お前もフリット・アスノとともに打ち倒す!」
そこへローグが言い放ち、ティエルヴァがAGE-1とジャスティスに向かってきた。ティエルヴァが振りかざしてきたビームサーベルを、AGE-1とジャスティスが回避する。
「逃がすか!」
ローグが怒りを募らせて、ティエルヴァがTビットを飛ばして、それぞれAGE-1とジャスティスに向かわせる。
「もうやめろ、お前も!怒りと憎しみをぶつけて、お前はそれで満足になれると思っているのか!?」
アスランがローグに呼びかけて、ジャスティスがTビットをかわしてティエルヴァに向かっていく。
「オレはフリット・アスノによって父を殺され、全てを奪われた!その怒りを押し殺すことは、オレ自身を殺すことになる!」
ローグがアスランに向けても怒りの叫びを上げる。
「本当の平和は、フリット・アスノが存在するだけで崩れ去る!それはオレが認めない!」
「・・お前も、平和を望んでいる・・・!?」
ローグにもローグなりの正義があると、アスランは実感する。シン、キラ、キオ、そして自分自身にそれぞれの正義があることをアスランは思い返していた。
「邪魔をするなら、お前もここで倒す!」
ローグがアスランにも敵意を向けて、ティエルヴァがビームサーベルを構えてジャスティスに向かっていく。ジャスティスも2本のビームサーベルを連結させて「アンビデクストラス・ハルバード」として身構える。
次の瞬間、突然ビームが飛び込んで、ティエルヴァが貫かれた。AGE-1がシールドライフルからのビームで、ティエルヴァを撃ったのである。
「フリット・アスノ・・お前・・・!」
「敵は倒す・・邪悪の権化は、1人たりとも生かしてはおかない・・・!」
うめくローグに対して、フリットが鋭く言いかける。
「邪悪の権化は・・お前だ!」
声と力を振り絞るローグ。ティエルヴァが損傷している胴体を強引に動かして、AGE-1に向かっていく。
「くっ!」
ティエルヴァが突き出したビームサーベルが、AGE-1の頭部を貫いた。だが同時にAGE-1のライフルシールドの先端がティエルヴァを捉えていた。
「お前の犯した反逆の大罪、死で償え・・!」
「フリット・・フリット・アスノ!」
憎悪を向けるフリットと、絶叫を上げるローグ。
「よせ!やめろ!」
アスランが叫ぶ前で、AGE-1がライフルシールドからのビームでティエルヴァの胴体を貫いた。AGE-1から吹き飛ばされたティエルヴァが爆発を引き起こし、ローグがその炎の中に消えた。
「ヴェイガンに組するとは、愚かなことだ・・そしてキオ・・ヴェイガンのたわごとに耳を貸してしまうとは・・・!」
ヴェイガンへの憎悪とキオの考えへの歯がゆさを噛みしめるフリット。彼の行為にアスランも憤りを抑えるのに必死になっていた。
「ヴェイガンの部隊は撤退を始めました。みなさん、本艦に撤退してください・・」
ディーヴァからナトーラの指示が伝えられる。シンたちもバロノークも見失い、アスランもフリットもやむなくディーヴァに引き返すことにした。
ローグの戦いとてん末、そしてアセムの登場と介入をゼハートはフラムとともに目撃していた。
「ここでアセムが介入してくるか。新型のガンダムやあの3機のMSのうちの2機を引き入れるとは・・」
「私たちが出ても消耗戦になるだけですが、いかがいたしましょうか・・?」
呟くゼハートにフラムが問いかける。ゼハートは戦況を見計らってから、再び口を開いた。
「一時撤退する。セカンドムーンまで後退する。」
「分かりました、ゼハート様・・」
「それに今、ディーヴァのMSは仲間割れをしているようだ・・同士討ちで自滅する可能性も否定できない・・」
頷くフラムにゼハートが言いかける。彼はフリットとローグの対立と、フリットの言動に不満を感じていたアスランの行動を目撃していた。
ディーンを助けるためにディーヴァを離れて、バロノークに移ることになったキオ、シン、キラ。3人はバロノークのドックで、ディーンの無事を確かめた。
「ディーン、大丈夫!?どこもケガとかしてない!?」
「あ、あぁ・・キオに声が届いてよかった・・・」
心配の声をかけるキオに、ディーンが微笑みかける。
「だけどキオ、これでよかったのか?・・オレのために、ディーヴァを出ていって・・」
ディーンが心配の声をかけると、キオが困惑を浮かべる。
「ディーヴァを離れたのはまずいと思うけど・・君まで一方的に攻撃するじいちゃんのやり方をどうしても受け止められなくて・・・」
キオが自分の気持ちを正直に言う。彼はヴェイガンを強く憎み、そのためにディーンさえも手にかけようとしたフリットに納得できなかった。
「確かにオレも納得できなかった・・いくら憎いからって、孫があれだけ呼びかけてるのも聞かずに・・・!」
シンもフリットへの不満を口にする。納得できなかったため、彼はフリットに反逆した。
「ごめんなさい・・じいちゃんのために、あなたたちまでこんなことに・・・」
「気にしなくていいよ。どうしても納得できないことなら、こういうことも仕方のないことだよ・・」
謝るキオにキラが励ましの言葉を送る。しかしキオは笑顔を取り戻すことができないでいた。
「またここに来たなキオ・・」
そこへ1人の男が声をかけてきた。黒服と金髪が特徴の男である。
「父さん・・・!」
キオがその男、アセムを目の当たりにして声を上げる。彼を見て笑みをこぼすアセムだが、シンとキラを見て真剣な面持ちを浮かべる。
「最近正体不明のMSが現れたと聞いていたが、それはお前たちのことか・・?」
「そういうことになっていますね・・」
声をかけてきたアセムにキラが返事する。
「あなたが、キオの父親だっていうのか・・・?」
シンがアセムに対して疑問を投げかけてきた。
「あぁ。オレはアセム・アスノ。ここでの名はキャプテン・アッシュだ。」
「オレの名はラドック。宇宙海賊“ビシディアン”の副キャプテンだ。」
アセムに続いて、顔を出してきたひげ面の男、ラドックも自己紹介をしてきた。
「僕はキラ・ヤマトです。」
「オレはシン・アスカ・・」
キラとシンも自己紹介をする。
「お前らのことを聞きたいところだが、まずは今の状況を整理しておかないとな・・」
アセムがシンたちから、彼らが今経験したことを聞く。ヴェイガンに憎悪するフリットからディーンを守ったキオ。シンもキラも彼らのために行動したことを。
「なるほど・・父さんの考えに、お前たちも納得がいかなくなってきたか・・」
「敵だと思った相手を滅ぼせば平和になると、アスノ司令は思っているんです・・でも、そうやって戦火が広がっていって、結局は・・・」
アセムが小さく頷くと、キラがフリットの行為に対する懸念を口にする。
「アイツが敵を許せないのは分からなくもないけど、だからって、他のヤツや家族の言葉にも耳を貸さないなんて・・・!」
シンもフリットへの不満を口にしていく。2人の話を聞いて、アセムがフリットに対してやるせなさを覚える。
「このままディーヴァに戻っても、このヴェイガンのパイロットのことでもめることは間違いないだろう・・ここに身を隠したほうがよさそうだ・・」
「父さん・・ゴメン・・ありがとう・・・」
ディーンとともに受け入れることを告げたアセムに、キオが謝意を見せた。
「お前からも話を聞かせてもらうぞ。キオの親友とはいえ、お前はヴェイガンだ。それなりの事情があるのだろう・・?」
「あぁ・・オレの話せることは話すよ・・」
アセムの問いかけに、ディーンが深刻な面持ちを浮かべる。彼が打ち明けた話に、アセムたちやキオだけでなく、シンとキラも耳を傾けた。
「お前たちは何を考えているのだ!?」
ディーヴァに戻った途端、フリットがアスランにつかみかかってきた。
「お前の仲間のせいでヴェイガンを見逃しただけではない!キオが海賊のところへ行ってしまったではないか!」
フリットがアスランに不満をぶつけていた。フリットはヴェイガンであるディーンの撃破を妨害したシンたちに、強い憤りを感じていた。
「確かにキラとシンの行動には、オレも納得できないことがあります・・だがそれも、ヴェイガンを滅ぼそうとして、キオの言葉にすら耳を傾けなかったあなたの憎しみが招いたことです!」
「ふざけるな!ヴェイガンを倒すことが平和への道!お前たちはそれを遠ざけて、さらにキオをも遠ざけてしまった!」
アスランの言い分にも憤るフリット。ヴェイガンに対する怒りを抑えれなくなり、彼はそれをアスランにまでぶつけていた。
「私はヴェイガンが存在することすら許さん!ヤツらは1人残らず処罰する!」
「その怒りと憎しみが、守ろうとしている大切な人たちをも傷つけているのが分からないんですか!?」
「ヴェイガンは我々から何もかも奪った!家族を、仲間を、大切な人を殺した!だから、我々が受けてきた苦しみと悲しみを、処刑という形で分からせてやる!」
「そんなやり方で平和が来ると思っているのか!?あなたの大切な人や、命を落とした人が喜ぶと思っているのか!?」
ヴェイガンへの憎悪をむき出しにするフリットに、アスランも激高する。アスランは憤りを噛みしめて、声を振り絞る。
「殺したから殺されて、殺されたから殺して・・それで本当に、最後は平和になるのか・・・!?」
アスランが口にした言葉に、フリットが眉をひそめる。
「これはオレの知り合いの受け売りですが、オレもそう思います・・憎しみをぶつけ合った先に、いいものは何もない・・胸を締め付けられるような辛さに駆られることになる・・」
語りかけていくアスランの脳裏に、自分たちが経験してきた戦い、戦争の光景がよみがえってくる。
「私はそんなことは絶対にない・・ヴェイガンがいなくなれば、2度と平和が脅かせることはない!」
「その行為で、あなたたちを憎む人が出てきたとしても・・・!?」
「それはヴェイガンに加担するのと同じ大罪!それさえも裁かれる対象になる!」
「その考えは、自分に逆らうものは全て敵だという考え方だ・・その先に平和があるということは、絶対にない!」
ヴェイガン打倒の意思を貫くフリットと、彼の考えに反発するアスラン。アスランの中でやるべきことが定まりつつあった。
「今はもう1度、キラたちが戻ってくるのを願うだけです・・そのときに合流します・・」
「ムダだ・・あの2人は我々に反逆した。元々連邦の一員でなかったとしても、敵と認識する・・!」
自分の考えを口にするアスランだが、フリットはよしとしない。
「お前も行動次第では敵と断定する・・・!」
「同じセリフを返しておきます・・もしもあなたが、その見境のない憎しみのために戦うのでしたら、オレはあなたの敵に回ることもためらわない・・・!」
フリットの忠告に言い返して、アスランは彼の前から立ち去っていった。2人の姿にロディたちは困惑を隠せなくなっていた。
フリットとの確執を決定的にして、アスランは部屋に戻ってきた。ドアが閉まったところで、彼は込み上げてくる憤りを抑えきれず、そばの壁に握り拳をぶつける。
(キラもシンもキオも、どうして!?・・・確かにアスノ司令の考えには納得いかないが、こんなことをしたら混乱を広げるだけになるのに・・・!)
シン、キラ、キオの行動にも不満を感じていくアスラン。感情に任せてディーンを助けてディーヴァを離れた3人に、アスランも納得できていなかった。
(もしかしたら、またキラやシンと戦うことになるかもしれない・・でもその前に、オレはアスノ司令と戦うことになるかもしれない・・・)
シンたちとフリットのことを考えて、苦悩を深めていくアスラン。
「あ、あの・・いいですか・・?」
そこへ声がかかって、アスランが我に返る。彼のいる部屋にナトーラが入ってきた。
「エイナス艦長・・」
「アスランさんの気持ち、分かるような気がします・・あなたも、本当は戦いたくないと考えているのではないでしょうか・・・?」
戸惑いを見せるアスランに、ナトーラが切実に訊ねていく。
「私も、本当は戦いたくないのが本音です・・傷つけたくないというよりも、怖いからなのかもしれませんが・・・」
「怖い、か・・本当はオレも、戦うこと、敵を作ることを恐れているのかもしれません・・」
ナトーラが正直な気持ちを口にすると、アスランも自分の気持ちを確かめて、物悲しい笑みを浮かべる。
「敵を作ることがなければ、戦うこともなかった・・まして友や仲間と争い合うこともなかったはずです・・でも実際に敵はいる・・それは避けては通れないことなのでしょうね・・」
「アスランさん・・・」
「大切なのは、相手に思いを伝えること・・それが伝わらず、結局は争うことになるとしても・・・」
自分が見出そうとしている答えを口にするアスラン。真剣な面持ちに彼に、ナトーラが戸惑いを覚える。
「エイナス艦長、事前に言っておきたいことがあります・・」
「えっ!?あ、はい!」
アスランから声をかけられて、ナトーラが動揺して声を荒げる。
「オレはこのままディーヴァに乗艦して、ヴェイガンとの戦いに臨むつもりです。おそらくキラもシンもそこに現れるはずです・・ですがもしかしたら、あなた方の敵に回るかもしれません・・」
アスランが告げた言葉に、ナトーラは困惑を隠せなくなる。彼女はアスランから裏切りの示唆を告げられて、冷静さを保てなかった。
「もしそうなったときは、本当に申し訳ありません・・・」
「アスノ司令のことですね・・・?」
謝意を見せるアスランに、ナトーラが訊ねる。するとアスランが深刻さを募らせる。
「アスノ司令の言動には、私も承服しかねるところがあります・・・確かにヴェイガンは地球に侵攻して、私たちに悲劇をもたらしているのは事実です・・ですが、アスノ司令が秘めている感情が全く正しいとは・・・」
「エイナス艦長・・この艦の艦長であるあなたが、それを言っては・・」
自分の本音を言おうとするナトーラを、アスランが口止めする。
「この裏切りの罪を背負うのはオレだけでいい・・あなたは艦長としての責任を果たしてください・・」
「アスランさん・・・」
言いかけてくるアスランにナトーラが戸惑いを見せる。彼女はアスランだけにこの負担を背負わせることを後ろめたく思っていた。
「ですが、それではアスランさんが・・・!」
「気にすることはないです・・オレは自分の意思を貫くために、2度も軍を脱走したことがあるのですから・・・」
不安を見せるナトーラに、アスランが自分のことを打ち明ける。
「残念ですが、オレはまた裏切りの罪を犯すことになりますね・・アスノ司令の言動には、どうしても賛同することができない・・」
アスランはナトーラに告げると、部屋を出ていった。
「アスランさん・・・」
困惑を募らせるあまり、ナトーラはアスランを追いかけることができなかった。彼女が気持ちを落ち着けて部屋を出たのは、少し時間を置いてからだった。
ディーンから事情を聞いて、シンとキラは複雑な気分を感じていた。
「妹の墓を地球に、か・・そのためにヴェイガンの軍に・・」
「でも自分たちの思いが、ヴェイガンとすれ違って、それで脱走を・・・」
シンとキラがキオと一緒にいるディーンを見て呟く。
「妹のためだっていうなら、オレはアイツをなおさらほっとけない・・オレがアイツを、アイツの中にある妹への思いを守る・・・」
シンは自分の考えを口にすると、キオたちのところへ行く。すると同時にアセムも歩み寄ってきた。
「ディーン、君にも言っておく。オレたちは海賊だ。ヴェイガンにも連邦にも組せず、己の信念で行動する存在だ。」
アセムからの言葉に、ディーンも真剣な面持ちで聞く。
「オレたちはお前をどうこうするつもりはない。ヴェイガンだったからとか、事情がどうとかはそこは関係ない。」
「父さん・・・」
「キオの父としては、お前を助けたキオのことを大事にしてほしいところだ・・そしてキオのことを思うなら・・」
キオが戸惑いを見せる前で、アセムがディーンに呼びかける。
「極力戦場に出ないほうがいい・・そうすれば命を落とす危険が減ることになる・・」
「父さん・・・ディーン・・・」
ディーンに向けて忠告を送るアセムに、キオは戸惑いを感じていく。
「1度は軍に入っていた実績がある。相応の実力があるのは分かっている。だがキオを悲しませないと思うなら、自分が生きることを第一に考えるんだ・・」
「キオにイヤな思いをさせたくないのは分かってる・・だけど、オレが軍に入ったのは妹のためでもあったんだ・・・」
ディーンがアセムに自分の思いを告げる。
「オレは妹の墓を地球に立てて、手向けたいんだ・・・」
「それならばなおさら、お前は戦争で死んではいけない・・キオのために、妹のために、お前自身のためにも・・」
アセムはディーンに告げると、彼の前から去っていく。
「お、おい・・!」
その彼をシンが追いかけていく。
「ディーン・・・」
歯がゆさを浮かべるディーンに、キオは困惑を募らせる。2人の様子を目の当たりにして、キラも複雑な心境を抱えていた。