GUNDAM WAR –Complication of Thought-
PHASE-02「自由」
地球と宇宙の平和を取り戻すためにヴェイガンを倒す。それがフリットたち地球連邦軍の使命だった。だが彼の孫、キオは戦うことに否定的になっていた。
「どうしたんですか、彼は?・・何かあったのですか・・?」
キラが深刻な面持ちでフリットに問いかけた。するとフリットも深刻な面持ちを見せてきた。
「キオは1度、ヴェイガンに捕まったことがある。救出されてから、キオの様子がおかしくなってしまった・・」
「おかしくなった?」
「戦争や戦いをしてはならないと言い出してきた。戦い方も武装の破壊など、最小限の破損に留めている。そんな戦い方をしては我々にも大きな影響を及ぼしかねない・・」
眉をひそめるシンに、フリットがさらに語りかける。
「おそらくヴェイガンに何か吹き込まれたのだろう。でなければキオがあのようなことを言うはずがない・・」
フリットの話を聞いて、シンたちがキオのことを気にする。特にキラはキオと自分を重ねていた。
「今のキオのことは気にしないでくれ。我々の目的はヴェイガンを倒し、地球と宇宙に平和を取り戻すことだ。」
フリットがシンたちに自分たちの意思を告げる。
「君たちも力を貸してほしい。君たちにも、平和を願う心があるはずだ。」
助力を頼んできたフリットに、シンたちは困惑を覚える。彼らは素直に首を縦に振ることができなかった。
艦長室を後にして、休憩所の近くの部屋で、シンたちは休息を取ることになった。そこで彼らは自分たちの考えを交わしていた。
「オレたちはオレたちがいた宇宙とは別の宇宙に来ている可能性がある。はっきりしているのは、この宇宙の地球連邦軍がヴェイガンという軍隊と交戦状態にあるということだ・・」
アスランがシンとキラに向けて状況を口にしていく。
「2人はどう思う?この艦の人たち、特にアスノさんのことを・・」
「僕は正直のところ、素直に聞き入れることができない・・あの人がヴェイガンと戦っているのは、連邦軍の任務だからだけじゃないように思える・・」
「オレにもそう思えた・・あのキオってヤツのことも気になる・・」
アスランの問いかけに、キラとシンが自分の気持ちを口にする。
「ヴェイガンと戦ってる連邦軍の艦に乗ってて、そのMSで前線に出てるみたいなのに、戦うことを嫌がっていた。フリットさんの言う通り、何かなきゃそんなことは言いそうにない・・」
「全てに賛同しているわけじゃないが、今はこのディーヴァのみんなと行動をともにしたほうがよさそうだ。ヴェイガンが地球に攻め込んできているのも間違いないからな・・」
シンに続いてアスランが意見を口にする。シンとキラが彼の言葉に頷くが、3人ともフリットや連邦軍の言い分を鵜呑みにしてはいなかった。
突然の見知らぬMSの戦闘介入とそれによるディーヴァとガンダムの形勢逆転は、ヴェイガン司令部にすぐさま報告されていた。
「謎のMS?地球連邦軍のものか?」
「分かりません。明確なのは、3機とも攻撃力、スピード、武装、どれをとっても高性能ということです。」
「そうか・・いずれにしろ、我々に敵意を向けてくるならば、地球種同様、我々の敵だ。」
ヴェイガンの上層部と兵士たちが会話を交わす。ヴェイガンは地球に住む人類だけでなく、シンたちも敵だと認識した。
「全部隊に通達。この3機のMSも敵である。ゼハートたちにも知らせておけ。」
「了解です。」
上層部からの命令に兵士が答えた。ヴェイガンが地球侵攻に向けて本格化させた。
ヴェイガンの部隊を退けたディーヴァ。フリットたちは補給を終えてから、ヴェイガンが拠点としている火星圏に向かっていた。
「2機のガンダムの他、有力な3機のMSも参戦してくれた。彼らに甘えるつもりではないが、心強い味方を得たと思っている。」
フリットが現状と自分たちの状況を口にしていく。
「我々が火星圏に近づく前に、ヤツらは攻撃を仕掛けてくることだろう。それを突破して、我々はヴェイガンを叩く。」
彼はナトーラたちとともにディーヴァ周辺の宙域の警戒を強める。
ドックでも各MSのチェックと整備が行われていた。デスティニーたちのチェックもシンたち立会いの下で行われた。
「いやぁ、ホントにすっごいMSだよ〜!これをチェックさせてくれないなんて、何だかもったいないなぁ〜!」
整備士の少年、ウットビット・ガンヘイルがデスティニーたちを見て感動を覚える。
「あなたの機体、詳しいことが分からなくても、遠距離でも近距離でも戦えるってことは分かりますよー!」
「すごくほめてくれてるけどさ、力があっても、何もかも思い通りにできるわけじゃないんだ・・」
声を上げるウットビットに、シンが深刻な面持ちで言いかける。
「戦争はあってはいけない・・戦争を終わらせるために、力が必要になってくる・・その力をどう使うのかという理由も・・」
「そうですか・・司令はいつもヴェイガン打倒を掲げてるけど・・」
自分が見出した答えを口にするシンに言いかけて、ウットビットがAGE-FXの前で立っているキオに目を向ける。
「ここ最近のキオ、敵を倒さないで話し合おうみたいなことをしてて・・そんなことをしたって、アイツらは聞く耳も持たないって言うのに・・」
「・・・そうだな・・考え方が違っても、戦うべきときには戦わないと・・誰1人、自分さえも守れない・・」
ウットビットの言葉を聞いて、シンが自分の意思を口にする。彼はフリットだけでなく、キオの考えも素直に受け入れることができないでいた。
(そうだ・・オレはオレが見つけた答えを抱えて戦う・・オレが運命を背負って、運命を切り開く・・・)
シンは心の中で決意を口にする。自分自身が見出した答えを。
(もしもエイナス艦長の言ったように、ここが別の宇宙で、オレたちがそこに飛び込んでしまったとしたら・・帰る方法が見つかるまで、オレたちはこのディーヴァにいて、ヴェイガンと戦うしかないな・・)
そしてシンは自分がすべきことに対して割り切ろうとしていた。彼はヴェイガンから地球を守ることに専念しようとしていた。
ヴェイガン打倒に向けて先陣を切ったディーヴァ。フリットやナトーラたちに、他の地球連邦軍の部隊も続こうとしていた。
「ディーヴァやアスノ司令は当てにしているが、彼らばかりに任せるつもりもない。」
「ヴェイガン打倒は連邦全体の使命だ。今こそその使命を果たす時。」
連邦の軍人たちがヴェイガン打倒の意思を強固にしていく。
「それでは困るんだよ・・」
そこへ声がかかって、軍人たちが振り返った。次の瞬間、彼らは次々に射撃を受けて昏倒していった。
「オレが許せないのはヴェイガンではない。ヴェイガンの人間を庇っただけで父を処刑に追いやったあの男、フリット・アスノだ・・・」
男は憎悪の言葉を口にして、発砲した銃をしまって立ち去った。彼、ローグ・パストはヴェイガンを庇った父までも問答無用に処刑に追いやったフリットに激しい憎悪を抱いていた。
火星圏の外側に敷かれているヴェイガンの防衛線。その地点の前線基地にディーヴァは接近しようとしていた。
「ここか。ここを叩けば、ヴェイガンの防衛線を一気に崩すことになる。」
フリットがモニター越しの宙域に目を向けて、真剣な面持ちで言いかける。彼に目を向けられて、ナトーラも頷いた。
「第一級戦闘配備。パイロットは発進準備を。」
ナトーラがディーヴァ艦内に向けて指示を出す。フリットも指令室を出てドックに向かった。
戦闘配備の警報はシン、キラ、アスランの耳にも届いていた。気を張り詰めている彼らの前に、パイロットスーツ姿のフリットが現れた。
「君たちは我々の部隊の一員ではない。よって我々に君たちへの命令権はないが・・」
「いえ、オレたちも出ます。ヴェイガンが攻撃を仕掛けるなら、オレたちはそれを止めなければなりません。」
声をかけてきたフリットにアスランが自分たちの意思を伝える。
「そうか・・ヴェイガンは倒さなければならない敵だ。共に平和を取り戻そう・・」
フリットはシンたちに呼びかけてから、AGE-1に乗り込んだ。
「戦いを終わらせる。そのために、オレが戦うんだ・・!」
シンは自分の意思を口にして、デスティニーに乗り込んでいった。
「僕たちも行こう。」
「あぁ・・」
キラに声をかけられて、アスランが小さく頷く。2人もフリーダム、ジャスティスに乗り込んで発進に備える。
「フリット・アスノ、ガンダムAGE-1グランサ、出るぞ!」
フリットがAGE-1でディーヴァから出撃した。
「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
「アスラン・ザラ、ジャスティス、出る!」
シン、キラ、アスランもデスティニー、フリーダム、ジャスティスで出撃していった。
(戦ったらダメだ・・傷つけあったらダメだ・・呼びかけて、戦いをやめさせないと・・)
AGE-FXに乗っていたキオが1人で、戦いを止めることを心に決めていた。彼の見据えるハッチが開放される。
「キオ・アスノ、ガンダムAGE-FX、行きます!」
キオの駆るAGE-FXもディーヴァから発進していった。
接近してきたディーヴァと、発進してきたMSたちを、ヴェイガンは把握していた。ヴェイガンの最高責任者の地位を託された青年、ゼハート・ガレットにも、その知らせは伝わっていた。
「あれがアンノウンのMS3機か。確かに侮れないな。」
モニターに映し出されているデスティニー、フリーダム、ジャスティスを見据えて、ゼハートが呟く。
「何者かは知らないが、我々に敵対するなら倒すだけだ・・ガンダムレギルスの発進準備をしろ。私が直接相手をする。」
「ゼハート様自ら、ヤツらと戦うのですか・・・!?」
指示を出していたゼハートに、彼の部下、フラム・ナラが声を荒げる。
「情報が少ない上に高い戦闘力を備えている。下手に戦力を送り込んでも撃墜されるだけに終わる危険が高い・・」
「ですが・・・!」
「お前たちはガンダムたちの始末を任せる。これ以上ヤツらの好きにさせるな。」
「ゼハート様・・かしこまりました・・」
ゼハートが出してくる命令に、フラムは目を閉じて聞き入れた。しかし彼女はゼハートの身を案じていた。
ヴェイガンの前線基地を叩くため、先陣を切るフリット。その後をシンたちが続く。
「ヴェイガンはディーヴァがフォトンブラスターを基地に向けて撃ち込んでくるのを警戒しているだろう。それを逆手に取り、ディーヴァに注意を引き付ける。」
フリットがキオたちに指示を送る。
「その間に連中の喉元に、プラズマダイバーミサイルを撃ち込む。」
「プラズマダイバーミサイル・・?」
フリットが告げる作戦に、アスランが疑問を投げかける。
「ヴェイガンを倒す切り札だ。ここでヴェイガンの戦力を一気に削ぐ。」
「ですが、それは命を容赦なく奪う兵器ではないんですか!?・・そんなので戦いを終わらせても、また新たな戦いを生むだけ・・!」
説明をするフリットにキラが言い返す。キラは無慈悲に命が奪われることを強く懸念していた。
「ヴェイガンを倒さなければ、本当の平和はありはしない!ヤツらは命を弄ぶ悪魔だ!」
しかしフリットはキラの言葉を聞き入れず、ヴェイガンに対する怒りをさらにあらわにする。彼の言動にキラもアスランも困惑を感じていた。
「攻撃の邪魔をさせるな。一気にヴェイガンを追い込む。」
「ヴェイガンのMS、戦艦をできるだけ集中させる。うまく注意を引き付けるんだ。」
フリットとセリックが指示を出して、AGE-1とクランシェたちがさらにスピードを上げた。
「じいちゃん、ダメだ・・こんなことをしても、絶対に平和になんてならないよ・・・!」
戦いをすることを辛く感じるキオ。だが彼の悲痛の声もフリットたちには届かなかった。
「接近するMSあり!これは・・!」
クランシェのパイロットの1人が声を荒げる。前線基地から出てきたのは、ゼハートの駆るが「ガンダムレギルス」だった。
「そこのMS、お前たちの力、私が直接確かめる・・・!」
ゼハートがデスティニー、フリーダム、ジャスティスに向けて言いかける。レギルスが「レギルスライフル」で射撃するが、デスティニーたちは素早くかわす。
「アイツ、他のヴェイガンのヤツらよりも強力みたいだ・・!」
「おそらくあの機体が隊長機だろう。2人とも油断しないほうがいい・・!」
「分かっているよ・・気を付けて・・・!」
シンが声を上げて、アスランとキラが呼びかける。レギルスがスピードを上げて、レギルスライフルでさらに射撃をしていく。
「機動力は確かに高い。レギルスに勝るとも劣らない・・だが、私とレギルスに敗北はない・・・!」
デスティニーたちの力量を分析しながら、ゼハートが意思を強める。レギルスが光の球状の武器「レギルスビット」を射出する。
「光の球!?・・ドラグーンの一種なのか・・!?」
シンが声を荒げながら、レギルスのビットの動きに反応する。デスティニーが素早い動きでビットをかわしていく。
「ドラグーンとは少し違うみたいだけど・・・!」
キラが呟いて、フリーダムが翼から「スーパードラグーン」を射出する。
「ドラグーンシステム」は攻撃端末を射出して、様々な角度からビームを放つオールレンジ攻撃を行う武装である。ドラグーンによる射撃と回避は相応の能力がなければ困難となる。
フリーダムのドラグーンが展開されて、レギルスに向けてビームを放つ。が、レギルスの操作するビットにドラグーンのビームが弾かれる。
「あれはビットではない。ファンネルか・・だがレギルスには通用しない!」
ゼハートが言い放ち、レギルスが胸部にある「ビームバスター」からビームを放つ。フリーダムも腹部にある「複相ビーム砲」を発射して、レギルスのビームを相殺する。
レギルスがすかさずビームサーベルを手にして飛びかかる。フリーダムも2本のビームサーベルを手にして振りかざし、レギルスとビームサーベルをぶつけ合う。
「お前たちは何者だ!?地球種なのか!?」
「僕は、戦いを止めたいんだ!戦いは、戦いを生むだけなんだ!」
ゼハートが問いかけ、キラが自分の考えを口にする。ビームサーベルを弾いて、レギルスとフリーダムが距離を取る。
「戦いを止める?笑わせる。我々ヴェイガンと地球種との戦いは70年も続いている。いくら腕の立つMSとパイロットだろうと、お前たちだけで出てきて簡単に止められるものか!」
「それでも、それでも僕たちは・・!」
あざ笑ってくるゼハートにキラが言い放つ。フリーダムが両腰のレール砲「クスィフィアス」を発射して、レギルスがそのビームをかわす。
そこへさらにビームが飛び込んできた。ゼハートは反応して、レギルスがビームを回避する。
シンの駆るデスティニーが高エネルギー長射程ビーム砲で、レギルスを狙い撃ったのである。
「アンタ、まだそんな勝手な理屈を・・そんな言い分でみんながムチャクチャになったのを忘れたのか!?」
シンがキラに対して憤りを言い放つ。
「オレはアスノ司令の考えに納得はしていない!だけどアンタが言うように戦いを止めるんだったら、戦っているヤツらを倒すしかないだろ!力ずくでも!」
「だけど、それじゃ・・!」
「オレは決めたんだ!戦いを終わらせるために戦う!その運命を背負い、運命を切り開く!」
言い返そうとするキラに、シンが自分の決意を言い放つ。その2人をゼハートがあざ笑ってくる。
「とんだ茶番だな。戦いを止めるどころか、自分たちで言い争いをするとは。」
「アイツ・・!」
ゼハートの言葉にシンがいら立ちを覚える。
「我々ヴェイガンは火星圏の移住計画に利用され、見放されたかつての地球人だ。愚かな地球種からエデンたる地球を取り戻し、未来を生き抜く人類を導き出す。」
ゼハートがシンたちに語りかけて、レギルスがビームサーベルの切っ先をデスティニーたちに向ける。
「私は戦う・・地球、そして宇宙の未来のために!」
ゼハートが決意を言い放ち、レギルスがビットを操作しながら飛びかかり、ビームサーベルを振りかざす。デスティニーとフリーダムが素早く回避する。
「アイツら・・自分たちが生き抜くために・・・!」
シンがゼハートの心境を痛感して、困惑を覚える。自分たちが生き抜き、仲間や大切なものを救うために戦っていることを、彼は聞かされた。
「今の地球種の味方でないとするなら、我々に力を貸してもらいたい。強き者として、人類の選別に選ばれることは間違いないだろう。」
「人類の選別・・自分たちの都合で誰かの命を切り捨てるっていうのか・・・!?」
ゼハートが次に口にした言葉に、シンが憤りを募らせる。
「アンタたちも、命を弄ぶというというのか!?」
シンが言い放ち、デスティニーがアロンダイトビームソードを手にして構える。飛び交うビットを素早くかいくぐって、デスティニーがレギルスに詰め寄ってビームソードを振りかざす。
ビームサーベルを振りかざすレギルスだが、デスティニーのビームソードに右腕ごとなぎ払われる。
「くっ!このMSはパワーが高い・・まともにくらえば、レギルスが・・!」
デスティニーのパワーを痛感して、ゼハートが焦りを覚える。
「だが私は、我々は負けるわけにはいかない・・ヴェイガンと、地球と宇宙の未来のために!」
ゼハートが自分たちの意思を言い放ち、レギルスがビットを操作してデスティニーとフリーダムを攻め立てる。
そこへジャスティスが飛び込んできて、ビームブレイドを発した右足をレギルスに振りかざしてきた。ゼハートは反応して、レギルスがビットでビームブレイドを受け止めつつ、ジャスティスとの距離を取る。
「まだ私は、ヤツらを見くびっていたということか・・・」
ゼハートが歯がゆさを浮かべてから、周囲の戦況も確かめる。
フラムの搭乗する「フォーンファルシア」はキオのAGE-FXと拮抗していた。その要因にはキオが攻撃をせず、戦いをやめることを呼びかけていたためだった。
「もうやめてよ!戦いなんてやったって、何の意味もないよ・・・!」
「何を言っている!?そんな世迷言、私たちが聞き入れると思っているの!?」
呼びかけるキオだが、フラムは聞き入れようとしない。
「地球種と私たちヴェイガンの戦争は長い!それだけ憎しみと悲しみが強いの!戦いをやめて、それを無意味にしてしまうことなど、できるわけがない!」
「それでも、戦って傷つけ合うことがいいことだなんて、絶対にないよ!」
「何も分かっていないくせに、勝手なことを言うな!」
さらに呼びかけてくるキオに、フラムが怒りをあらわにする。フォーンファルシアがビットを飛ばして、AGE-FXを追い込む。
さらにフォーンファルシアが「フォーンファルシアバトン」を手にして、先端からビームを発射する。AGE-FXがビットとビームを素早くかわしていくが、キオは反撃をしようとしない。
「憎しみも悲しみも、みんなで力を合わせて和らげて、消していけばいいよ!ぶつけ合っても、憎しみも悲しみも増えるだけだよ!」
「憎しみと悲しみを消すには今地球にいる連中を絶滅させなければならない!それ以外に戦いを終わらせる方法はないのよ!」
キオの呼びかけはフラムには届かない。フォーンファルシアが徐々にAGE-FXを追い込んでいく。
そこへクランシェ数機が駆けつけてきて、ビームライフルを発射して、フォーンファルシアの行く手を阻んだ。
「何をやっているんだ、キオ!?反撃しないと的にされるぞ!」
クランシェカスタムがAGE-FXに駆け寄って、セリックがキオに呼びかける。
「ですがアビス隊長・・!」
「敵を倒さないやり方は何の解決にもならない・・オレたちが守るのは仲間であり、味方だ・・敵まで守ることはないんだ・・!」
「でも・・・!」
忠告を送るセリックだが、キオは聞き入れることができなかった。
(戦況は明らかにこちらが不利・・ここまでか・・・!)
自分たちが劣勢に立たされていることを痛感するゼハート。彼はAGE-1が前線基地にプラズマダイバーミサイルの発射の機会をうかがっていることにも気づいていた。
「全部隊、撤退する!この宙域の基地を放棄、離脱する!」
ゼハートがヴェイガンの部隊に向けて命令を下した。
「ゼハート様、しかしそれでは地球のヤツらに・・!?」
「このまま戦闘を続けてもこちらが優勢になることはない。体勢を立て直す。」
フラムが抗議の声を上げるが、ゼハートに言いとがめられる。
「・・・了解しました・・・!」
フラムは歯がゆさを浮かべながらも、ゼハートの命令に従う。
「このまま逃がすものか・・ヤツらを追撃するんだ!」
フリットがセリックたちに支持を出し、自分は改めてプラズマダイバーミサイルの発射に備える。その彼らに向けて、ヴェイガンの前線基地から投降の信号が送られてくる。
「それでお前たちの罪が許されると思っているのか!?・・お前たちは今ここで・・・!」
ヴェイガンに対する憎悪と敵意を募らせていくフリット。投降を聞き入れず、彼はプラズマダイバーミサイルを発射しようとした。
そこへビームが飛び込んできて、即座に気付いたフリットが回避する。
「まだ逃げていないヤツがいたのか・・!?」
フリットが感覚を研ぎ澄ませて、周囲に注意を向ける。AGE-1の前に現れたのは、キラの駆るフリーダムだった。
「何のつもりだ!?邪魔をするな!」
「彼らは投降して、あなたたちに従おうとしている!その人たちの命を奪うなんて・・!」
怒鳴りかかるフリットにキラが呼びかける。
「ヴェイガンは滅ぼさなければならない存在なのだ!ヤツらの罪は、死を持ってでしか償うことはできない!」
「そのやり方は、あなたが憎んでいる人たちがやっているのと同じです!怒りや憎しみをぶつけても、また新たな憎しみを呼んでしまうんだ!」
「我々はヴェイガンとは違う!憎しみや悲劇の根源は絶たれなくてはならないのだ!」
「そのためにあなたが守ろうとしている人たちを傷つけることになってもいいと・・!?」
「それはヴェイガンのほうだ!ヤツらの非情な行為は、我々が止める!」
キラの呼びかけに応じず、フリットは前線基地への攻撃に踏み切ろうととする。
「やめてください、アスノさん!」
そこへAGE-1とフリーダムの間にジャスティスもやってきて、アスランもフリットに呼びかけてきた。
「あなたが今やろうとしているのは、正義でも救済でもない・・自分の理屈を押し付けるだけのただの破壊です・・!」
「違う!これは破壊ではなく、地球と宇宙を守るための・・!」
アスランの呼びかけさえもはねつけようとするフリット。
「もうやめてよ、じいちゃん!」
さらにAGE-FXも駆けつけて、キオも呼びかけてきた。
「もう向こうは戦う意思を見せてない・・それなのに攻撃するなんて・・!」
「ヴェイガンを倒さなければ、本当の平和は戻ってこない!キオ、お前もその救世主なんだぞ!」
「何が救世主だよ!憎い相手を一方的に滅ぼすのが、救世主のやることなの!?」
怒鳴りかかるフリットにキオがさらに呼びかける。
「どけ、キオ!このままではヴェイガンを逃がすことになる!」
「ダメだよ、じいちゃん!これ以上悲しみを増やすわけにはいかない!」
プラズマダイバーミサイルを構えるAGE-1に対して、AGE-FXが大小計14基の攻撃端末「Cファンネル」を展開して立ちふさがる。
「これ以上戦いを起こさせない!僕が止める!」
「血迷ったか、キオ!?なぜヴェイガンを守ろうとする!?」
互いに頑なな意思を示すキオとフリット。キラもアスランもフリットの言動に納得がいかず、シンも困惑を抱えていた。
「ヴェイガンのMSは撤退して、基地の解放にも成功しました。みなさん、ディーヴァに帰艦してください。」
そこへディーヴァからナトーラの通信が入ってきた。フリットがやむなく攻撃を思いとどまるしかなかった。
「キラ、シン、オレたちも引き返すぞ・・」
「うん・・」
「あぁ・・」
アスランの呼びかけに、キラとシンが困惑を抱えたまま答える。キオも歯がゆさを抱えたまま、ディーヴァに戻っていった。
「お前たち、どういうつもりだ!?」
ディーヴァに戻って早々、フリットがキラたちに怒鳴りかかってきた。
「もう少しでヴェイガンの戦力を一気に削ぐことができた!それを邪魔するとは・・!」
「あなたがやっているのは正義でも戦いでもない!ただの破壊です!」
怒りをあらわにするフリットにアスランが言い返す。
「ヴェイガンは倒さなければならない敵だ!ヤツらのためにどれだけの悲しみや苦しみが生まれたことか!」
「ヴェイガンの人たちも苦しい状況の中で一生懸命生きてるんだよ!大切なものを失う悲しみが分かるなら、話し合って分かり合うこともできるよ!」
フリットにキオも呼びかけてきた。しかしフリットはそれでも怒りを抑えない。
「ヴェイガンは悪魔だ!私はヤツらを絶対に許しはしない!」
「じいちゃんは憎しみに駆られているだけじゃないか!そんなのが救世主だっていうなら、僕は絶対にならない!」
「キオ、お前・・・!」
呼びかけてくるキオにもフリットが憤る。彼はキオにもヴェイガンに対する怒りをぶつけていた。
「今は次の戦いに備えるのが先決です、アスノ司令。」
そこへセリックがやってきて、フリットたちに声をかけてきた。
「ヴェイガンの前線基地を押さえた。戦いに打ち勝つときも目前です。」
「くっ・・・!」
セリックに言われて、フリットは憤りを抱えたままドックを後にした。
「じいちゃん・・・!」
キオもフリットに対する不信感を募らせていた。
フリットとキオの確執を目の当たりにして、シン、キラ、アスランも困惑を隠せなくなっていた。