GUNDAM WAR –Complication of Thought-
PHASE-01「異界」
それぞれの平和のため、ぶつかり合ってきた力と思い。
様々な思惑の中で、戦争は繰り返されてきた。
だが、戦いや戦争が行われていたのは、この宇宙だけではなかった。
従来の人類「ナチュラル」が住む地球と遺伝子調整が行われた人種「コーディネーター」の国家「プラント」、中立国「オーブ」。
3国の思惑と理念がぶつかり合った戦争は、プラント軍「ZAFT」の機動要塞「メサイア」の崩壊を最後に集結した。
それから3国は停戦条約を結ぶこととなった。しかし激しい戦争による爪痕は、簡単に消えるものではなかった。
さらにこの停戦条約をよしとしない一部の勢力が、暗躍と襲撃を行っていた。各軍はその襲撃者の追撃と迎撃にも追われていた。
ザフト所属のモビルスーツパイロット、シン・アスカもその任務に駆り出されていた。
「すぐに出撃できる艦やロケットはなし。大気圏を突破できるのはオレとデスティニーだけなんて・・」
専用機「デスティニー」のコックピットで、シンが愚痴をこぼす。
デスティニーは「デュートリオンエンジン」と核エンジン「ニュートロンジャマーキャンセラー」を合わせたハイブリットエンジン「ハイパーデュートリオンエンジン」で起動している。ニュートロンジャマーキャンセラー搭載機の特徴である大気圏の突破も可能としている。
シンは地球付近の宇宙に出現したアンノウンの捜索を命じられた。ザフトの中で他にすぐに出撃できる機体や戦艦がなかったため、彼が先陣を切ることになった。
「この辺りのはずだが・・いったいどこに・・・?」
シンが宙域を見渡して、アンノウンを捜索する。しかしデスティニーのいる宙域は静寂に包まれていた。
「来る前にいなくなったっていうのか?・・もうちょっとだけ調べて、いなけりゃ引き返すか・・」
シンが改めて捜索を行おうとした。
そのとき、デスティニーのレーダーが熱源を捉えた。
「いた!こっちに近づいてきたか・・!」
シンが目つきを鋭くして、レーダーが捕捉した場所に向かう。その先の宙域に1体の機体がいた。
「アイツか!・・・何だ、あの機体は・・!?」
シンが目の当たりにした機体の姿に驚く。
「見たことない姿だ・・どこの部隊のヤツなんだ・・!?」
現れた機体に疑問を感じていくシン。機体の姿は完全な人型とは言い切れず、恐竜や怪獣のような類にも見えた。
「おい、何者なんだ!?どこの部隊だ!?」
シンがその機体に向けて呼びかける。しかし機体からの応答がない。
「誰も乗っていないのか?それとも・・」
シンがもう1度呼びかけようとした。そのとき、機体が振り返って、右の手のひらからビームバルカンを発射してきた。
「何っ!?」
シンがとっさに反応して、デスティニーが素早くビームをかわす。
「オレたちの敵だっていうのかよ、アンタは!」
シンが言い放ち、デスティニーもビームライフルを手にして反撃する。最初は回避していた機体だが、すぐに被弾する。
「今度こそ話を聞かせてもらうぞ・・!」
シンが警戒したまま、デスティニーが機体に向かってゆっくりと近づいていく。
そのとき、上方からビームが飛んできて、デスティニーがすぐに回避する。
「くっ!仲間がいたのか!」
毒づくシンの視界に別の機体が飛び込んできた。デスティニーが追い込んでいた機体と同じ形状の機体だった。
「同型の機体が全部で4体か・・だけど、オレとデスティニーは負けない!」
シンが即座に反応して、デスティニーがビームライフルを発射して他の機体を狙い撃つ。
そのとき、けん制してデスティニーの後ろに回り込んでいた機体「バクト」が尻尾を振りかざしてきた。
「そんなものに当たるか!」
シンが反応して、デスティニーが素早く動いて尻尾をかわした。だが尻尾の先からもビームが放たれた。
「何っ!?」
予想していなかった攻撃に焦りを覚えるシン。とっさに発したビームシールドで防いだものの、デスティニーが押されて体勢を崩す。
その隙を狙って、他の機体「ガフラン」2機と「ドラド」がデスティニーに迫ってきた。
「このままやられてたまるか・・・!」
抵抗しようとするシンだが、ガフランたちの射撃にデスティニーの回避が間に合わない。
そのとき、ガフランの1機の両腕と尻尾にビームが撃ち込まれて爆発を起こした。突然のことに他の機体がその場を離れる。
「この反応・・まさか・・!」
デスティニーのレーダーが捉えた熱源に、シンが目つきを鋭くする。デスティニーに向かって2機のモビルスーツが駆けつけてきた。
「ストライクフリーダム」と「∞ジャスティス」。戦争の際にシンのデスティニーと敵対していた高性能な機体である。
「大丈夫か、シン!?」
シンに向けて声が飛び込んできた。ジャスティスのパイロット、アスラン・ザラが呼びかけてきた。
アスランはかつてのシンの上官だったが、ザフトを離反。フリーダムのパイロット、キラ・ヤマトと和解して、シンと敵対することとなった。
「アスラン、キラ、アンタたちも来たのか・・!」
「うん。戦いを終わらせないといけないからね・・」
声を振り絞るシンにキラが答える。
「何者なんだ・・見たことのない機体だ・・!」
「オレにも分からない・・いきなり襲いかかってきた・・!」
アスランの問いかけにシンが答える。ガフランたちはフリーダムとジャスティスも敵だと認識していた。
「武器を封じるよ。そうすれば向こうの話が聞ける・・」
「オレが注意を引き付ける。シン、お前も援護を・・」
キラの言葉に答えて、アスランがシンに呼びかける。
「今のアンタはオレの上官じゃない。アンタの指図を聞く義理はない!」
しかしシンは聞かずに、デスティニーがビームライフルを構えてガフランたちに向かっていく。
「シン!・・仕方がない!1対1で対応するぞ!」
「仕方ないけど、そうするしかないね・・!」
アスランとキラが気持ちを切り替えて、ジャスティスとフリーダムもデスティニーに続く。デスティニーがバクト、フリーダムがドラド、ジャスティスがガフランを迎え撃つ。
バクトがデスティニーに向けて尻尾を振りかざしてきた。同時に尻尾の先からビームを発射してきた。
「同じ手を食うと思っているのか!」
シンは反応して、デスティニーが素早くビームをかわした。するとバクトが前進の勢いでデスティニーに接近してきた。
そのとき、デスティニーがバクトの頭部に向けて、左手を突き出してきた。手のひらに搭載されているビーム砲「パルマフィオキーナ」が発射されて、頭部を破壊しつつバクトを押し返した。
デスティニーがすかさずビームライフルを発射する。ビームに体を貫かれて、バクトが爆発を起こした。
ドラドが両手からビームを放つが、キラの駆るフリーダムが素早くかわしていく。そしてビームサーベルを手にして、フリーダムがドラドの両腕を切り裂いた。
ガフランがビームサーベルを引き抜いて、ジャスティスに向かっていく。ジャスティスも「シュペールラケルタ・ビームサーベル」を手にして、両端からビームの刃を出してガフランの一閃を受け止める。
「やめろ!オレたちは戦うつもりはない!」
アスランが呼びかけるが、ガフランは攻撃をやめようとしない。アスランがやむなく反撃に転じて、ジャスティスが「グリフォンビームブレイド」を発した右足を振りかざして、ガフランの両腕を切り裂いた。
攻撃を仕掛けてきたガフランたちに対して、シンたちはその攻撃力を封じた。
「もうよせ!オレたちは話を聞きたいだけだ!」
アスランがさらに呼びかけるが、ガフランたちからの反応がない。
「仕方ないけど、このまま連れて行くしかない。みんなと連絡して・・」
キラが呼びかけたときだった。ガフラン2機がドラドを連れてデスティニーたちの前から逃げ出していった。
「待て!」
シンがいきり立って、デスティニーがガフランたちを追いかける。
「深追いするな、シン!」
「1人で追わせるのはいけない。僕たちも追いかけよう・・!」
アスランがシンに呼びかけると、キラがシンを追って、フリーダムが続けて向かっていく。
「キラ!・・仕方がない・・!」
アスランも毒づきながらシンとキラを追いかけた。
逃亡していくガフランたちを追跡していくデスティニーたち。その先の宇宙で歪みが起こっていた。
「な、何だ、アレは!?」
シンがその歪みを凝視する。ガフランたちがその歪みの中に入っていく。
「やはり深追いは危険だ!あの中に入ったら、どうなるか分からないぞ!」
アスランが呼びかけて、キラが思いとどまる。シンも毒づきながらも、追跡を断念して引き返そうとした。
だがそのとき、デスティニーの動きが突然鈍った。
「何だ!?どうした!?」
シンがうめきながら、デスティニーを動かそうとする。だがデスティニーは歪みから離れるどころかだんだんと引き寄せられていく。
「くそっ!言うことを聞かない!」
「シン!」
うめくシンにアスランが声を上げる。歪みに引き寄せられていくデスティニーを、フリーダムとジャスティスが追う。
歪みはブラックホールで、デスティニーだけでなく、フリーダムとジャスティスも引き込んでいた。
「これがブラックホールというヤツか!・・思うように動けない・・・!」
歪みの影響に揺さぶられて、アスランがうめく。シンもキラも思うように動くことができないまま、デスティニーたちはブラックホールを突き進んでいった。
「シン、大丈夫か!?シン!」
意識を失っていたシンが、呼び声を耳にして目を覚ました。デスティニーたちは宇宙を漂っていて、キラとアスランは先に意識を取り戻していた。
「くっ!・・気絶してたのか・・・デスティニーに異常はないか・・」
シンが意識をはっきりさせて、デスティニーの状態をチェックする。機体や武装に異常はなかった。
「あのブラックホールから抜け出たみたいだ。あの機体は見失ってしまったけど・・」
キラが辺りを見回しながら言いかける。
「アークエンジェルに連絡を取ろうとしているが、応答がない。受信範囲から大きく外れてしまったようだ・・」
「それにこの宙域、データにない・・それが1番の疑問だよ・・」
アスランとキラが疑問を募らせていく。デスティニーたちがいる宙域は、彼らの知らない場所だった。
「ここがどこだか分からないが、みんなと離れ離れになったままなのはまずい・・」
「でも、あのトンネル、もう消えてしまったみたいだ・・・」
呼びかけるアスランと、焦りの言葉を口にするキラ。
「だがこのままじっとしていても何にもならない。どこかにトンネルがあるかもしれない・・」
シンが言いかけて、デスティニーを動かして宙域の捜索を始める。
「待て、シン!動きすぎるとそれこそ戻れなくなるぞ!」
アスランが呼び止めるが、シンは聞かずに移動をしていく。
「今は出口を探したほうがいいみたいだ。少しでも早くみんなと連絡を取らないと・・」
「キラ、お前まで・・まだ状況が分かっていないのに・・」
続けて捜索に乗り出すキラにも、アスランはすっかり呆れてしまった。デスティニーたちは地球に戻るため、移動をしていった。
そのとき、デスティニーたちのレーダーに熱源が感知された。
「この反応・・!?」
「この数と動き・・どこかで戦闘が行われているのか・・・!?」
飛び交う数々の反応にシンとアスランが声を荒げる。
「行ってみよう・・戦いが行われているなら、放っておくことはできない・・!」
「待て、キラ!まだオレたちが置かれている状況が分かっていないのに・・!」
キラがフリーダムを駆って交戦の地点に向かう。アスランが呼び止めるが、シンもデスティニーで続いていく。
「2人とも、どうしてこうも勝手な・・・!」
2人の行動に滅入りながらも、アスランもやむなく彼らについていった。
次々にビームを放つガフランたち量産型の機体。その矛先には1隻の戦艦がいた。
宇宙戦艦「ディーヴァ」。ディーヴァはガフランたちと交戦していたが、次第に数に押され始めていた。
そのディーヴァを守るため、ガフランたちを迎撃する機体。ビームによる射撃と砲撃で押し切ろうとするが、ガフランたちは数で攻め立ててきていた。
その戦場にシンたちがたどり着いた。彼らの目にガフランたちに攻撃されているディーヴァが入る。
「アイツら、オレたちを攻撃してきた・・あの艦、攻撃されている・・・!」
「あの艦も見たことない艦だ・・あの機体の味方でないことは間違いないだろうけど、オレたちの味方であるともいえない・・!」
ディーヴァとガフランたちの戦況を見て、シンとアスランが緊張を募らせる。
「ああやって、そこでも誰かが血を流して・・・!」
この戦況を見かねたキラ。フリーダムが2つのビームライフルを手にして、ディーヴァとガフランたちが交戦する戦場に飛び込んだ。
「キラ、待て!」
「アイツ、勝手なことを!」
アスランが声を上げる中、シンがキラの独断にいら立ちを覚えて、デスティニーが続けて飛び出す。
「シン!」
アスランもたまらずジャスティスで2人を追いかけた。ドラドの一気が戦火をかいくぐって、ディーヴァの手前まで接近してきた。
ディーヴァが撃ち込まれそうになったとき、ドラドが上からビームを撃ち込まれて、両腕と尻尾を破壊された。
キラの駆るフリーダムがビームライフルがドラドのビームを封じ、さらなる射撃でドラドをディーヴァから引き離す。
「戦いはやめるんだ!こんなこと、やっていいはずがない!」
キラが呼びかけて、フリーダムが素早く動いて、さらにビームライフルの射撃でガフランたちの武装を的確に狙い撃ちしていく。
「何をやってるんだ、アンタは!?そんなことをして混乱を招いたのを忘れたのか!?」
デスティニーがフリーダムに駆け寄って、シンがキラに怒鳴りかかる。
「それでも、誰かが死んでいくのを黙って見ていることはできない・・!」
「アンタって人は・・こうなってしまったら、もうやるしかないじゃないか!」
自分お考えを口にするキラに不満を抱きながらも、シンもガフランたちと戦うことを心に決めた。
(戦いを終わらせる・・オレが受けてきた悲劇を繰り返させないために・・・!)
心の中で呟いていくシン。彼の脳裏に経験してきた悲劇の光景がよみがえってくる。
家族や大切な人を失う悲しみと怒りを忘れてはならない。シンは込み上げてくる激情に駆り立てられていく。
フリーダムが2本のビームサーベルを手にして飛びかかり、素早く振りかざしてガフランたちの武装を切り裂いていく。デスティニーが左背部に搭載していた「高エネルギー長射程ビーム砲」を展開して発射し、ガフランたちを撃ち抜いていく。
「キラ!シン!・・こうして戦いに介入して・・!」
アスランはいら立ちを噛みしめて、ジャスティスがビームサーベルを手にしてガフランたちを迎え撃つ。
「何だ、あのMSは!?」
「ガンダムタイプ!?・・しかし、ヤツらのものとは違う・・!」
ガフランやドラドのパイロットたちが、見たことのないMSに困惑を覚える。
「ヤツらはディーヴァや連邦のガンダムを守り、我々に牙を向けてきた!敵以外の何者でもない!」
「ヤツらも倒せ!ヴェイガンの平和のために!」
パイロットたちがシンたちも敵と認識して、攻撃を仕掛けた。しかしガフランたちの放つビームを、デスティニー、フリーダム、ジャスティスは素早くかわしていく。
「オレたちもヤツらの敵だっていうなら、全部叩き切ってやる!」
シンが言い放ち、デスティニーが右背部に搭載されている「アロンダイトビームソード」を手にして構える。デスティニーがビームソードを振りかざして、向かってきたガフラン、ドラド、バクトを切り裂いていく。
ガフランたちがジャスティスに迫って、ビームサーベルを振りかざす。ジャスティスは手にしているビームサーベルで防ぐと、右足を振りかざして、ビームブレイドでガフランたちをなぎ払う。
「くっ!・・あのMS、強い・・!」
「これではとても歯が立たない・・・!」
パイロットたちがデスティニーたちの戦闘力を痛感して、危機感を覚える。
「ここは引き下がるしかない・・全機、撤退だ!」
ガフランたちがシンたちやディーヴァから撤退をしていく。シンもキラもアスランも追撃には行かなかった。
だが1機、ガフランたちの追撃に乗り出してきた機体があった。その機体はシールドライフルを発射するが、数機を撃墜するだけだった。
追撃ができないと判断して、機体は射撃を中断した。デスティニーたちをその機体と可変量産型MS「クランシェ」が取り囲んできたが、ライフルなどの銃口は向けていない。
「どうやら、彼らはオレたちを敵だとは思っていないようだ・・」
アスランがディーヴァとクランシェたちの様子を見て状況を判断する。
「オレが交信をしてみる。キラもシンも手を出すな。」
彼はシンとキラに呼びかけてから、オープンチャンネルで連絡を試みた。
「こちらはアークエンジェル所属、アスラン・ザラ。こちらにそちらへの交戦の意思はない。そちらの所属と艦船名を聞かせてもらいたい。」
アスランがディーヴァからの返答を待つ。シンもキラも周囲の出方をうかがっていた。
ディーヴァを指揮していた女性艦長、ナトーラ・エイナスは突然現れたデスティニーたちに当惑を感じていた。彼女は3機の出方と目的を模索していた。
「あのMSは私たちを助けてくれた・・その点では敵でないという見方もできるけど・・」
“艦長の判断に任せます。”
思考を巡らせていたナトーラに向けて、「クランシェカスタム」に搭乗しているセリック・アビスが通信を送ってきた。
“オレとしては情報交換をしても問題はないと思う。警戒を怠らないようにするのが前提だが・・”
「アビス隊長・・・向こうと同じチャンネルをお願いします・・」
セリックの助言を受けてから、ナトーラがアスランからの通信に応じた。
「こちらは地球連邦所属艦“ディーヴァ”。私は艦長のナトーラ・エイナスです。」
ナトーラからの応答に目つきを鋭くするアスラン。彼は彼女の言葉に疑問を感じていた。
「地球“連邦軍”!?・・“連合軍”ではなく・・!?」
たまらず疑問を口にするアスラン。彼の口にした言葉に、ナトーラたちも困惑を覚える。
「何を言っているのですか!?・・それに、アークエンジェルとは・・・!?」
疑問に疑問を返すやり取りになってしまい、アスランもナトーラも困惑を募らせるばかりだった。
「詳しく話をしたほうがよさそうですね・・こちらの指示に従って着艦してください。武装の解除を・・」
「そのほうがよさそうですね・・分かりました。誘導をお願いします。」
ナトーラが持ちかけた提案にアスランが同意する。シンもキラも真剣な面持ちで頷いた。
デスティニー、フリーダム、ジャスティスが武装を収容して、誘導に従ってディーヴァに着艦した。
先に着艦していたクランシェのパイロットたちが警戒を向ける中、シン、キラ、アスランもコックピットから出てきた。兵士の中には彼らに銃口を向ける者もいたが、セリックに制される。
「ここだと落ち着かなくなってしまうだろう。場所を変えて話をしよう。」
そこへ1人の男がやってきて声をかけてきた。年を重ねていて、威厳を兼ね備えていた。
「私はフリット・アスノ。あのガンダムAGE-1グランサに乗っている。」
「ガンダム・・!?」
男、フリットが目を向けたMS「ガンダムAGE-1グランサ」を見て、キラが息をのんだ。
「正直驚いたぞ。我々のもの以外にもガンダムが存在していたとは。我々のとは根本的に違うようだが・・」
「すみません・・僕たちの機体は戦いを止めるためのものです。たとえ同じ目的や理由であっても、使われたり調べられたりするわけにはいかないんです・・」
フリットが訊ねると、キラは頑なな意思を示した。彼は自分の扱う力が自分と違う目的に使われることを危惧していた。
「君たちはヴェイガンを倒し、我々の危機を救ってくれた。その点の配慮は怠ってはならんな・・」
「すみません、こちらの考えを聞き入れてくれて・・」
聞き入れたフリットにキラが謝意を見せる。
「だがせめて整備ぐらいはさせてくれ。万全でない状態で外に出すのは忍びないからな。」
そこへディーヴァの整備士長、ロディ・マッドーナが声をかけてきた。
「どうしても調べられたくないっていうなら、せめて立ち会ってくれ。」
「分かりました。そのときになったら声をかけてください。」
ロディの呼びかけにキラが答える。
「では詳しい話を聞かせてもらおうか。話は私と艦長が立ち会う。」
「みなさんは整備を急いでください。いつまた攻撃をされるか分かりません。」
フリットとナトーラがセリックたちに呼びかける。2人はシンたちと一緒に場所を変えていった。
フリット、ナトーラとともにディーヴァの艦長室に通されたシン、キラ、アスラン。彼らは部屋の椅子に腰を下ろした。
「改めて聞く。君たちは何者だ?どこから来たというのだ?」
フリットがシンたちに質問を投げかける。
「我々と君たちとの間に、情報や認識の違いがある。だがヴェイガンの手の者でもない。何かが根本的に違うのだ・・」
「オレたちは先ほどあなた方が交戦していた機体数体から攻撃をされました。追撃を行ったとき、オレたちは宇宙の歪みに吸い込まれてしまったのです。」
アスランがフリットたちに自分たちの身に起きたことを話した。
「気が付いたら、オレたちは別の場所、この地点から少し離れた場所にいた。オレたちのデータにはない宙域でした・・」
「それであなたたちはどこから・・?」
説明するアスランにナトーラが質問を投げかける。
「おそらく矛盾した話に思われます・・きっとオレたち自身もそう思っているから・・・オレたちは地球から来ました・・」
「地球から!?・・しかし、そんな・・・!?」
アスランが続けて打ち明けた話に、ナトーラが驚きを隠せなくなる。
「私たちは地球連邦軍です。地球で、しかもあなたたちが使っていたMSが制作、稼働していたら、軍が気づかないはずがありません・・!」
「それに、アークエンジェルやオーブとは何なのだ?地球の軍や部隊にそのようなものは存在していない。」
ナトーラに続いてフリットが疑問を投げかける。
「ならザフトは?プラントは?」
シンがさらに言いかけるが、フリットもナトーラも聞き覚えがなかった。
「どういうことなんだ?・・なぜここまで認識の違いが・・・!?」
疑問を募らせるばかりのアスラン。シンたちもフリットたちも困惑するだけになっていた。
「非科学的なことかもしれませんが・・もしかして、パラレルワールドではないでしょうか・・?」
「パラレルワールド?」
ナトーラが切り出した言葉に、シンたちもフリットも疑問符を浮かべる。
「平行世界といって、同じ地球、同じ宇宙、次元を隔てて同じ世界が存在していることです。もしかしたらこの人たちは、別の次元の世界から来たのではないでしょうか・・?」
「だとしても、証明しようがない。そのようなもの、混乱を招くものでしかない・・」
ナトーラが説明するが、フリットは信じていなかった。
「こうでも決めないと、つじつまが合わなくなってしまうけど・・」
キラが呟いて、シンが頭に手を当てる。
「ところであの機体は何なのですか?あなたたちはヴェイガンと呼んでいましたが・・」
アスランが話題を変えて、ヴェイガンのことを訊ねた。するとフリットとナトーラが真剣な面持ちに戻る。
「ヴェイガンは火星圏を拠点とした地球の敵だ。ヤツらは地球人を皆殺しにして、地球を自分たちのものにしようと企んでいる。」
「私たちは地球を守るため、侵略をしてくるヴェイガンとの戦争を続けているのです。」
フリットとナトーラがヴェイガンについてシンたちに話す。
「そうだったのか・・アイツら、地球侵略なんて、そんな勝手なことを・・・!」
2人の話を聞いて、シンが憤りを覚える。彼はヴェイガンが地球を自分たちのものにしようとしていると思い、怒りを感じていた。
「だから、我々はヴェイガンを倒し、地球と宇宙に平和を取り戻さなければならない。ヤツらを野放しにすれば、悲劇が繰り返されることになる・・」
ヴェイガン打倒の意思を告げるフリット。彼の話を聞いて、キラもアスランも深刻さを感じていた。
「もちろん我々はヴェイガン打倒と平和のために戦うつもりだ。その一方で、君たちの力も貸してほしいと思う。」
「オレたちの力も、ですか・・?」
フリットが投げかけてきた申し出に、シンが戸惑いを覚える。
「どういうものなのかは分からないが、君たちの乗ってきたMSは高い性能と武装を備えている。君たちならヴェイガンから地球を救う一員になれるはずだ。」
「本当に、平和のために・・・」
フリットに言われて、シンたちは聞き入れるか考えを巡らせる。
「傷つけあうなんてダメだよ!」
そこへ声が飛び込んできて、シンたちが振り向いた。艦長室のドアの前に1人の少年がいた。
「ヴェイガンと戦うなんてダメだよ!火星にいるヴェイガンの人たちも、みんな生きように必死になっているんだ!」
「キオ・・何を血迷ったことを言っているんだ・・・!?」
呼びかけてくる少年、キオにフリットが鋭い視線を向ける。
「憎み合ったり傷つけ合ったりすることに意味なんてない!悲しみや辛さが増すばかりだよ!」
「ヴェイガンを倒すことは、地球連邦と地球人の使命であり願いだ!平和のため、ヴェイガンは滅ぼされなければならないんだ!」
キオに対して怒りをあらわにするフリット。しかしキオは戦いに対する不満を抑えることができなかった。
「じいちゃん・・話を聞いてもくれない・・・!」
キオは歯がゆさを募らせながら、艦長室の前から駆け出していった。
「じいちゃんって・・あなたの孫なんですか・・・?」
シンが戸惑いを浮かべながら、フリットに問いかけた。
「あぁ・・キオ・アスノ。私の孫であり、ガンダムAGE-FXのパイロットだ。」
フリットが肩を落としながら、シンたちにキオのことを話した。