GUNDAM WAR

-Confusion of SEED-

第5章

 

 

 ルナマリアたちの危機を目の当たりにしながら、タリアたちはタンホイザーの発射を狙っていた。
「確実に当てるしかないわ・・動きが遅くなった一瞬に放つのよ・・・!」
「は、はい・・・!」
 タリアが緊張を膨らませたまま指示して、アーサーが答える。
「しかし、フリーダムのスピードは、本艦のレーダーで捉えられるかどうか・・・!」
 マイは体を震わせて、不安を口にする。
「集中して、マイ!私だって怖いけど、私たちがやらないといけないの・・!」
 メイリンが注意をして、マイが戸惑いを覚える。
「フリーダムの動きに集中して!狙いが定まるときは必ず来るわ!」
「はい、艦長!」
 タリアからも檄が飛び、マイが声を張り上げた。
(ルナマリア、ソラ、ハル、どうか、みんな生き延びて・・・!)
 ルナマリアたちの無事を願い、タリアは千載一遇のチャンスを伺っていた。

 フリーダムによって負傷したインパルスが徐々に後退していく。同時にファルコンがフリーダムの前に立ちはだかる。
「ハル、私に任せて・・また距離を取って隙を作らないと・・・!」
 ソラがハルに操縦の交代を言ってきた。
「遠距離戦も危険だけど、あのフリーダムに接近戦をするわけにはいかないからね・・!」
 ハルが賛成して、操縦をソラに任せた。
「こっちだよ、フリーダム!距離を取る方がまだマシなんだからね!」
 ソラが言い放ち、ファルコンがビームライフルを発射して後方に下がる。キラが反応し、フリーダムがビームをかわして高速でファルコンに近づく。
「ミネルバがタンホイザーを撃とうとしている・・発射の瞬間だけでも、フリーダムの動きを止めないと・・!」
 ソラがミネルバに目を向けて、時間稼ぎを考える。
「私も援護しないと・・ソラたちと、ミネルバを・・・!」
 ルナマリアもフリーダムへの反撃を試みる。
「ミネルバ、チェストフライヤー、フォースシルエットを!」
「はい!」
 ルナマリアが呼びかけて、メイリンが答える。直後にインパルスがビームライフルを発射しながら、フリーダムに向かって特攻を仕掛けた。
「ルナマリアさん、危険です!」
 ハルが呼び止めるが、インパルスはスピードを上げて射撃を続ける。フリーダムがレールガンを発射して、インパルスのビームライフルを撃ち抜いた。
 その瞬間、インパルスが分離して、胴体だけがフリーダムに突っ込んできた。
「同じ手は僕には通じない・・」
 キラが呟き、フリーダムがイペールラケルタを振り下ろして、インパルスの胴体を真っ二つに切り裂いた。
 切り裂かれた胴体は爆発したが、その間に分離したコアスプレンダーとレッグフライヤーが、ミネルバから新たに射出されたチェストフライヤー、フォースシルエットと合体してインパルスとなった。
「ミネルバがいる限り、インパルスは何度でも現れる・・・」
 キラがミネルバに目を向けて、先に落とそうと考える。
「あなたの相手は私たちよ、キラ・ヤマト!」
 ソラが言い放ち、ファルコンとインパルスが同時にビームライフルを撃った。キラは2つのビームの起動を読み、フリーダムが回避してミネルバに向かう。
 ソラが目つきを鋭くして、ファルコンが加速してフリーダムを追う。
「私たちが相手だと言っているでしょ!」
 ソラが叫び、ファルコンがフリーダムとの距離を詰めて、ビームライフルを発射した。フリーダムが振り向き様に左腕からビームシールドを展開して、ビームを防いだ。
 ファルコンが続けてビームライフルを撃つ。フリーダムは素早く回避して、ファルコンとミネルバに2つのビームライフルの銃口を向けた。
「ミネルバはやらせない!」
 ルナマリアが言い放ち、インパルスがビームライフルを発射して、フリーダムのミネルバへの攻撃を阻む。
「艦長、今のうちにチャージを!」
 ルナマリアがタリアたちに呼びかけて、インパルスがビームを連射する。
「タンホイザー、発射準備完了です!」
「私が発射タイミングを判断します!決して聞き逃さないように!」
 メイリンが報告をして、タリアが指示する。タリアもメイリンたちもフリーダムの動きに集中する。
 フリーダムがビームライフルを変則的に発射する。インパルスとファルコンがビームを回避して、動ける範囲を狭められていく。
「ドラグーンを使われているわけじゃないのに、追い詰められる・・!」
「フリーダム・・どこまで厄介なの・・・!?」
 ハルとソラがフリーダムの攻撃に焦りを感じていく。
「でも、フリーダムがインパルスたちに注意が向いています・・!」
 マイがフリーダムの様子を見て、好機だと考える。タリアがフリーダムのスピードが弱まる一瞬を見定める。
(そこよ!)
「ってぇ!」
 タリアが号令を上げて、ミネルバがタンホイザーを発射した。インパルスとファルコンがビームの射線軸から離れた。
 フリーダムが振り向き、イペールラケルタを振り下ろした。タンホイザーのビームがこの一戦で真っ二つに切り裂かれた。
「そんな!?」
「バカな!?タンホイザーの砲撃を切るなど!?」
 マイとアーサーが驚きを隠せなくなり、タリアが言葉を詰まらせた。フリーダムのイペールラケルタは、陽電子砲のビームをも切り裂いてみせた。
「止められない・・もはや、モビルスーツとは思えないバケモノだ・・・!」
「諦めてはならないわ・・諦めたら、私たちは確実に全滅よ・・・!」
 絶望するアーサーに、タリアが声を振り絞って檄を飛ばす。彼女も絶体絶命を痛感しながらも、冷静な判断を下そうとしていた。
「フリーダム・・ここまでになるなんて冗談じゃないわよ・・・!」
 ルナマリアもフリーダムの力に脅威を感じていた。
(レイ、あなたのように身を挺して飛び込まないと、あのフリーダムを止められないの・・・!?)
 レイのことを考えて、ルナマリアは深刻さを募らせていく。命を捨ててもフリーダムを止められるかどうか分からないことを、彼女は改めて痛感していた。
「今度こそミネルバを落とす・・そして、インパルスも・・・」
 キラが呟き、フリーダムがミネルバに振り返る。
(やるしかない・・やらなかったら、ミネルバが・・・!)
「ミネルバ、ソードシルエット!」
 思い立ったルナマリアが、ミネルバに呼びかける。
「お、お姉ちゃん!?」
「いいから早く!」
 驚くメイリンにルナマリアが怒鳴る。
「は、はい!」
 メイリンが突き動かされて、ミネルバからソードシルエットが射出された。同時にインパルスがフリーダムに向かって加速する。
 インパルスがビームライフルを連射しながら、飛んできたソードシルエットからビームブーメランを手にして投げつける。フリーダムは両方を正確に回避する。
 インパルスが続けてビームソード「エクスカリバー」を手にして、フリーダムを狙って突っ込む。
「それも分かっている・・僕には通じない・・・」
 キラが冷静にインパルスの動きを見て、フリーダムがエクスカリバーの突撃を回避した。
「終わりだ・・」
 キラが低い声を発して、フリーダムがイペールラケルタを振り下ろした。インパルスが振り上げたエクスカリバーが、イペールラケルタによって刀身を両断された。
「ルナマリアさん!」
 ソラが叫び、ファルコンがビームライフルを構える。しかしイペールラケルタを構えたフリーダムに対し、ファルコンの射撃が間に合わない。
 そのとき、2つのビームブーメランが飛び込んできた。キラが反応し、フリーダムがインパルスから離れてビームブーメランをかわす。
 続けてフリーダムに向けてビームが飛び込む。フリーダムがビームシールドを展開して防ぐ。
「あれは・・・!」
 ソラがビームが飛んできたほうに目を向ける。フリーダムの前に立ちはだかったのは、シンの駆るデスティニーだった。
「シン!」
「シンさん!」
 シンの登場にルナマリアとソラが声を上げる。デスティニーが降下して、インパルスに近づく。
「大丈夫か、ルナ!?」
「シン・・・その姿、デスティニー・・・!?」
 シンが声を掛けて、ルナマリアが戸惑いを覚える。彼女はそばいる機体が、以前のデスティニーと違うが形状が酷似していることを実感した。
「これが、アンジュさんの言っていたもう1つの新型・・・!」
「マークデスティニー・・デスティニーを発展させた、シンさんのための機体・・・!」
 ハルとソラもデスティニーを見て、心を動かされていた。
「ここはオレに任せてくれ!みんなはミネルバを守るんだ!」
「シン、あなただけでフリーダムの相手は・・・!」
「この中でフリーダムを止められる可能性が1番高いのは、このデスティニーだ・・確実にフリーダムを倒すことに集中させてほしい・・・!」
「シン・・・分かったわ・・・でも、死なないで・・・!」
 シンの呼びかけを聞き入れるルナマリア。インパルスがファルコンと共に離れて、ミネルバの護衛に回った。
「デスティニー・・・前のとは違う姿・・・!」
 キラがデスティニーを見て憎悪を募らせる。
「前より強力になっていても、僕は今度こそ君を・・・!」
 彼は目つきを鋭くして、フリーダムがイペールラケルタを構える。突っ込んできたフリーダムにシンが反応し、デスティニーがスピードを上げてフリーダムの一閃をかわした。
「速い・・あのフリーダムに負けていない・・・!」
「これが、新しいデスティニー・・・!」
 ハルとルナマリアがデスティニーの動きを見て、戸惑いを感じていく。
「お前の思い通りにはさせない・・何もかも自分の思い通りになると思うな、キラ・ヤマト!」
 キラへの怒りを燃やすシンの中で何かが弾けた。彼の感覚が研ぎ澄まされ、視界がクリアになった。
 デスティニーが腰に搭載されている柄を手にした。柄からビームの刃が出て、大きく伸びた。
 アロンダイトの発展型「シュペールアロンダイトビームソード」である。アロンダイトと違い、刀身が完全なビームの刃である。ビームの出力は調整可能で、ビームサーベルほどから以前のアロンダイト以上の大きさまでできる。
「前のデスティニーの剣とは違う・・フリーダムの剣と同じ、高周波が出ている・・・!」
 キラがシュペールアロンダイトの特徴を見定める。
「でも僕は君を倒す・・君たちを倒すために、僕はこの力を使っているのだから・・・!」
 キラがシンへの憎悪を強める。デスティニーとフリーダムが同時に飛び出し、シュペールアロンダイトとイペールラケルタを振りかざす。
 2機の高周波を発するビームの刃がぶつかり合い、激しい衝撃を巻き起こす。
「君が全てを奪った・・僕の大切なものを、全て・・・!」
 キラが低い声音で言って、フリーダムがイペールラケルタを振りかざして、デスティニーを引き離す。
「そうだ・・結果的にオレは、アンタの全てを奪った・・だがアンタたちも、オレやみんなの全てを奪ってきた!」
 シンもキラに向けて言い放つ。
「オレはアンタを止める!これ以上、アンタに世界を壊されてたまるか!」
 シンが決意を言い放ち、デスティニーがシュペールアロンダイトを構えて飛びかかる。キラがデスティニーの動きを読み、フリーダムがシュペールアロンダイトを回避する。
 直後にデスティニーは背部にある2機のビーム砲を展開して、同時に発射する。フリーダムも腹部のビーム砲「カリドゥス」と2つのレールガンを発射して、デスティニーのビームを相殺する。
 デスティニーが間髪置かずに飛び込み、シュペールアロンダイトを振り下ろす。フリーダムが回避し、右足のビームブレイドを振りかざした。
 デスティニーも同様に右足を振りかざしてきた。その足にもビームブレイドが発せられていた。
「なっ・・!?」
 デスティニーにもビームブレイドがあることに、キラが驚く。
 ビームブレイドの衝突が相殺され、デスティニーが左手を伸ばしてパルマフィオキーナを放つ。キラが反応して、フリーダムがイペールラケルタを分離して、左手のビームサーベルでデスティニーの左腕を切り裂いた。
 その直後、デスティニーがシュペールアロンダイトを振りかざして、フリーダムの左肩から左腕を切り裂いた。
「ぐっ!」
 攻撃を受けたことにキラがうめく。彼は劣勢を痛感し、フリーダムがデスティニーから離れる。
「逃げられた・・でも、あのフリーダムと互角に戦うことができた・・」
 キラを倒せなかったことを悔やむも、シンは手応えも感じていた。
「シンが勝った・・あのフリーダムを追い払った・・・!」
「前よりもものすごいデスティニーですよ・・・私たち、生き残れますよ・・!」
 アーサーとマイがシンとデスティニーに戸惑いと喜びを感じていく。
「ミネルバ、グラディス艦長、無事ですか・・!?」
「え、えぇ・・あなたがいなかったら、危ないところだったわ・・・」
 シンが声を掛けて、タリアが安堵しながら答える。
「ありがとう、シン・・また、助けられたね・・」
 インパルスがデスティニーに近づいて、ルナマリアがシンに感謝した。
「いや、ルナたちもミネルバやみんなを守ってくれた・・ルナたちがいなかったら、みんなやられていたよ・・・」
「シン・・でも、フリーダムには全然敵わなかった・・シンの戦いにもついてこれない・・・」
「そんなことない・・オレだけじゃなく、ルナもソラたちも強くなってる・・勝つって意思と、守ろうっていう思いも・・」
「シン・・・」
 シンに励まされて、ルナマリアが戸惑いを感じていく。
「シンさん・・アンジュから受け取ったんですね、このデスティニーを・・」
 ソラもシンに声を掛けて、デスティニーを見つめる。
「あぁ。アンジュさんがオレに託してくれた・・いきなり戦うことになったけど、問題なく動かせた・・」
 シンがデスティニーをうまく動かせたことを、改めて実感する。全ての性能が前を上回り、操縦技術もさらに高いものを必要としていたが、シンは問題なく戦えた。
「ただホントにいきなりだったから、もっとチェックをしておきたい・・」
「そうですね・・ミネルバ、これより帰艦します。」
 シンがこれからのことを言って、ソラがタリアたちに声を掛ける。
「分かったわ。インパルス、ファルコン、デスティニーはミネルバへ戻って。」
 タリアが答えて、ミネルバがデスティニーたちに近づいてハッチを開いた。
「戻りましょう、みなさん・・体を休めないと・・・」
 ハルが声を掛けて、ファルコンがミネルバに向かう。デスティニーとインパルスも続いて、ミネルバに着艦した。
「シン!」
 デスティニーから降りたシンに、ヴィーノが駆け込んできた。
「すごかったよ、シン!あのフリーダムを追い払うなんて!」
「オレの力じゃなく、このデスティニーの力だ・・これがなかったら、フリーダムを止められなかった・・・」
 感動するヴィーノに言い返して、シンがデスティニーに目を向ける。
「感謝しているよ、ソラ。お前とアンジュさんが新型の制作を進めてくれたんだよな・・」
「はい・・でも、シンさん、体の方は大丈夫なんですか・・・?」
 感謝するシンをソラが心配した。その直後、シンがふらついてヴィーノとハルに支えられた。
「シンさん!・・まだ、アーモリースリーでの戦いの傷が・・・!」
「早く医務室に運ぶんだ!」
 ハルが心配の声を掛けて、ヨウランが呼びかける。ハルとヴィーノがシンに肩を貸して、医務室に向かう。
「シン、目を覚ましてあのデスティニーに乗って、いきなりフリーダムと戦ったんだから、本当にムチャだったよね・・・」
 シンのことを考えて、ルナマリアが悲しい顔を浮かべる。
「それだけじゃないと思います・・このマークデスティニーは、あらゆる面で前のデスティニーを上回っていますが、パイロットへの負担もその分大きいんです・・傷が残った状態で動かすには厳しいはずなんです・・」
 ソラが深刻な面持ちでデスティニーのことを話す。
「アンジュさんはそんなのに乗せたっていうの・・!?」
「アンジュもそのことは伝えたはずです・・それでも乗ったのは、シンさんが決めたことですよ・・」
 驚きを見せるルナマリアに、ソラが話を続ける。
「私もアンジュも、シンさんなら必ず使いこなせると信じていました・・あのデスティニーでフリーダムを、キラ・ヤマトを止められるって・・」
「あなたたちも、シンのことを心から信じてたのね・・・」
 シンへの信頼を示すソラの思いを、ルナマリアが感じ取っていく。
「でも、シンさんが来るまでの間にフリーダムを食い止めたのは、間違いなく私たちですよ・・私たちも、全然フリーダムに敵わないとは言い切れないです・・・!」
「そんなことはないわよ・・運よく時間稼ぎができただけ・・・」
「ルナマリアさんも強くて、前の戦争を切り抜けてきたことは、私たちも分かっています・・今回だって、絶対に弱くはなかったです!」
「ソラ・・・私たちもやれるんだよね・・シンと一緒に・・・」
 ソラに励まされて、ルナマリアはシンやみんなの力になれているのだと考えていく。
「私たちもシンさんのところへ行きましょう。」
「ソラ、あなたは先に行って。私は艦長に報告をしてから行くわ。」
 医務室に向かおうとしたソラに言って、ルナマリアはタリアのところへ向かった。
「ルナマリアさん・・・」
 彼女のことを気にしながら、ソラは医務室に向かった。

 フリーダムがデスティニーの前から去った直後に、タリアはザフトの各方面からフリーダムの動きを細大漏らさずキャッチすることを通達した。キラをサポートしている存在も、彼女は予測していた。
「グラディス艦長。」
 ルナマリアが指令室に来て、タリアに声を掛けた。
「フリーダムの行方を追うように他の部隊に伝えたわ。キラ・ヤマトがメサイアでの戦いから何故生き延びたのか、それで知ることができるかもしれない・・」
「艦長・・はい。やっとフリーダムを追い込むチャンスをつかんだんですから・・」
 タリアが判断を伝えて、ルナマリアが納得する。
「シンたちはまだドックに?」
「いえ・・デスティニーから降りた後に倒れて、医務室に連れていきました・・」
 タリアからの質問に、ルナマリアが深刻な面持ちを浮かべて答えた。
「シンが・・・まだ体が万全とは言えなかったからね・・・」
 タリアもシンを心配しながらも、冷静に現状に対応しようと心掛ける。
「あなたもソラたちもシンと同じく、今のうちに休んでおくのよ。いつまたフリーダムが現れるか分からないから・・」
「はい。私もシンのところへ行きます・・」
 タリアが休息を進言して、ルナマリアが敬礼してから医務室に向かった。
(私たちの・・いいえ、全ての1番の希望はシンということになるわね・・)
 シンの力が自分の想像をさらに上回ったことに、タリアは戸惑いを感じていた。

 倒れたシンはハルたちに医務室に運ばれた。ヨウランとヴィーノは整備に戻ったが、ハルはシンに付き添い、ソラも医務室に来た。
「意識を取り戻してすぐに機体に乗って、プラントから地球に移動してフリーダムと戦闘・・ムチャにムチャを重ねすぎだと、医務官はカンカンでしたよ・・」
 ハルが医務官の言葉を伝えて、ソラが苦笑いを浮かべた。
「でも、命に別状はないとのことです。今度はしっかりと休むようにと・・」
「シンさんに負担を掛けさせたのは、私とアンジュ・・私が付き添ってあげないと・・・」
 ハルの話を聞いて、ソラが責任を感じて落ち込む。
「ソラ・・・」
 彼女の様子を見て、ハルの心は揺れていた。
「シンは大丈夫なの・・?」
 そこへルナマリアも来て、ソラたちに声を掛けてきた。
「はい。今は眠っています。」
「よかった・・・シン・・・」
 ハルが知らせて、ルナマリアが安堵の吐息をつく。
「ルナマリアさん、今は私がそばにいます。ルナマリアさんは休んでください。」
「ううん、私がそばにいるわ・・」
 ソラがシンのお見舞いを続けようとして、ルナマリアも彼のそばにいようとする。
「でも、シンさんをここまで追い込んでしまったのは、私たちのせいですから・・・」
 ソラが責任を痛感していることに、ルナマリアが当惑する。
「分かった。交代でやりましょう。また後で来るから・・」
「はい。ありがとうございます・・」
 ルナマリアが聞き入れて、ソラが感謝した。シンを見つめて心配をしてから、ルナマリアは医務室を出た。
「シンさんには、ルナマリアさんがそばについていたほうがよかったんじゃないかな・・」
 ハルがルナマリアの心境を察して、ソラに言いかける。
「私もそう思うけど・・シンさんを追い込んでしまったと思ったら、私がシンさんのサポートをしないとって思って・・・」
「気持ちは分かるけど、あんまり責任を感じすぎても、今度はソラが参っちゃうよ・・」
「ハル・・でも、私は・・・」
「僕もついているから、自分だけで背負い込まないで・・・」
 自分を責め続けるソラを、ハルが励ます。
「ハル・・・ありがとう・・そこまで、私のために・・・」
 ソラが感謝して、目から涙を流す。
「私たちの1番の希望はシンさん・・私たちで、できる限りのサポートをしなくちゃ・・・」
「それは僕も・・僕たちだってみんなのために戦うんだ・・・」
 ソラとハルが思いを口にして、抱きしめ合って決意を分かち合った。
(ハルは誰にでも気兼ねなく話しかけていた。私が失敗したり不機嫌になったりしても、励ましたり相談に乗ってくれたりした・・私がブルースカイだってことを知った後も・・・)
 ソラがハルの優しさと強さを思い返していく。
(ハルになら何もかも打ち明けられる・・ハルを守って、私も生き残る・・・)
 戦いを終わらせて、ハルと一緒に平和な世界を生きていく。それが今のソラの願いだった。

 シンとの戦いで撤退したキラの行方を、ザフトの各部隊が追っていた。キラに関する情報を、彼らは細大漏らさず収集するように努めていた。
「せっかくミネルバが作ってくれた好機だ・・必ずヤツらの行方をつかむ・・・!」
 艦長が檄を飛ばし、部隊は捜索を続けた。
「それにしても、あのフリーダムを退ける者がいたとは・・・!」
「デスティニーに似た形状の機体とのことです。ザフトの新型でしょうか・・?」
 艦長が思考を巡らせて、オペレーターがデスティニーのことを口にする。
「いや、デスティニーはシン・アスカが持ち出した1機だけのはず・・それもフリーダムとの戦いで大破したはずだ・・・!」
 艦長が戦闘記録を確かめて、疑問を膨らませていく。
「とにかく、その新たな機体に賭けるしかないようだ・・・」
 デスティニーがフリーダムを倒すことを信じるしかないと、艦長は思っていた。

 撤退したキラのフリーダムが、地球から遠く離れた秘密の施設に到着した。隕石に偽装した施設だが、その中では機体を整備する設備が整えられていた。
「大丈夫ですか、キラ様!?」
 フリーダムから降りてきたキラを、1人の男が近づいた。
「はい・・フリーダムが傷ついたので、戻ってきました・・・」
「まさか、アークフリーダムがやられるとは・・新たなるデスティニーめ・・・!」
 キラが答えて、男がデスティニーへの怒りを口にする。
「修理をお願いします・・完了した頃に起きますので・・・」
「はい・・お待ちください、キラ様。」
 キラが休息すると告げて、男が見送った。
「すぐに修理するぞ!全てはキラ様のご意思のままに!」
 男が仲間と共に損傷したフリーダムの修復に取り掛かった。

 施設の私室に来たキラは、そこのベッドの上で仰向けになった。
(もう僕には何もない・・大切な人も、守りたいものも・・・こんな世界は、何もかもなくなってしまえばいい・・・)
 全てを失った絶望に打ちひしがれ、キラが憎悪を募らせる。
(アスラン、カガリ、マリューさん、バルトフェルドさん・・ラクス・・・みんな、何も悪くないのに・・戦いを終わらせようとしていただけなのに・・・)
 仲間のことを思い、さらに絶望感を感じていくキラ。泣きたい気持ちに駆られていた彼だが、目から涙が出ない。
(もう全てが許せない・・僕から全てを奪った世界を・・シンを・・・!)
 再び憎しみを募らせていくキラ。彼はその憎悪に駆られるように、ベッドのシーツを握っていた。
(倒す、シンを・・世界を滅ぼして、悲しみを終わらせる・・・)
 全てを滅ぼすことだけを考えて、キラは眠りについた。次の攻撃に備えて、彼は体を休めた。

 クライン派の生き残りによって、フリーダムの修復が迅速に行われていた。
「キラ様がいつでも出られるように、早く修理するんだ!」
 男たちが互いに檄を飛ばして、作業を進めていく。
(あのメサイアでの戦いで、ラクス様が亡くなり、キラ様も重傷を負った。機械的な手術を行わなければ助からないほどの・・結果、キラ様は一命を取り留め、スーパーコーディネイターとしての高い能力は衰えるどころかさらに高まったと言える。)
 彼らが瀕死のキラを助けたときのことを思い出す。
(もはや我らにキラ様以外の希望はない。キラ様が全てを滅ぼすというならば、我らはそれに従うまで・・)
 自分たちはキラのために命を費やすと、男たちは心から決めていた。
 男たちの作業によって、フリーダムは修復へと向かっていた。

 

 

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