GUNDAM WAR

-Confusion of SEED-

第3章

 

 

 シンのデスティニーを庇い、レジェンドが爆発し、レイが命を落とした。仲間の死を目の当たりにし、シンが愕然となる。
「レイ・・何で・・何でこんなことになるんだよ・・・!」
 悔しさと怒りを膨らませて、シンがコックピットに握った手を叩きつける。しかしデスティニーは損傷し、敵討ちをすることができなかった。
「止められない・・タンホイザーでも、デスティニーでも・・・!」
「あのフリーダム相手じゃ、逃げることもできないです・・・!」
 アーサーとマイがフリーダムに討たれると思い絶望する。
「諦めたらそこで全てが終わるのよ!ギルバート・デュランダルとデスティニーを回収して、全速力で離脱するわよ!」
 タリアが檄を飛ばし、ミネルバがデスティニーに近づく。一方、キラは兵士にジェット機に乗せられたギルバートを目撃した。
「デュランダル議長・・・!」
 キラは憎悪を募らせ、フリーダムが発進したジェット機を追う。フリーダムがレールガンを発射して、ジェット機にビームを当てた。
(私は・・・私はまだ・・・)
 爆発に巻き込まれるギルバートが無念を強くする。ジェット機が落下しながら爆発した。
(ギルバート・・・!)
 ギルバートの死を目撃して、タリアが歯がゆさを感じていく。ミネルバがデスティニーを回収、収容する。
「全速力で現場から離脱!フリーダムを振り切る!」
「はい!」
 タリアの命令にメイリンが答える。ミネルバが加速して、フリーダムから離れていく。
「ミネルバも逃がさない・・・!」
 キラが呟き、振り返ったフリーダムがミネルバを追撃しようとした。
 そこへグフの部隊が駆け付け、フリーダムの行く手を阻んだ。
「たとえ敵わずとも、貴様の暴挙を野放しにするわけにいかない!」
「せめてお前の暴挙をわずかでも阻む!」
 グフのパイロットたちが覚悟を決めて、キラへ言い放つ。
「君たちもみんな、僕が討つ・・・!」
 キラが鋭く言って、周囲のグフたちを同時にロックオンする。フリーダムがドラグーン以外の全ての銃砲を展開し、一斉に発射してグフたちを一掃した。
「次はミネルバ・・シンも逃がさない・・・」
 キラがミネルバを追走しようと考え、フリーダムが加速しようとした。
 そのとき、フリーダムの動きが一瞬鈍ったことに気付き、キラが違和感を感じた。
「フリーダムに傷が・・・あのときに・・・」
 キラが記憶を呼び起こし、フリーダムの左わき腹のかすかな傷は、レジェンドがデスティニーを庇って貫かれた瞬間にデファイアントを当てて付けられたものだった。
「僕としたことが、傷を付けられるなんて・・・」
 負傷した状態での攻撃は危険を伴うと判断し、キラはミネルバを追わずにアーモリースリーを離れた。

 アーモリースリー、そしてシンたちが受けた被害は甚大だった。
 アーモリースリー内の各施設や周囲の機器が破壊され、レイやギルバート、ザフトの兵士たち、コロニー内の人々の多くが命を失った。
 デスティニーも大きく損傷して再起不能となり、シンも負傷して療養を余儀なくされた。
 アーモリースリーの病院、医療施設は負傷者であふれていたため、ミネルバはプラントの首都「アプリリウス」に移動することになった。アプリリウスはプラント最高評議会が置かれている地区である。
 ハルの負傷は軽かったが、ファルコンは激しく損傷していた。
「シンさんでもレイさんでも勝てなかった・・こんなことって・・・!」
 ソラがシンたちの敗北に絶望を感じていく。
「フリーダムがさらに強力になって現れて、無差別に攻撃してきた・・ザフトの強力な機体もみんなやられて・・・」
 フリーダムを止める方法が分からず、マイが頭を抱えて塞ぎ込む。
「諦めたらそれこそ全てが終わる。それは分かってはいるけど・・フリーダムに対抗できる戦力がない・・作り上げようとしても、それまでにフリーダムに世界が蹂躙される・・」
 タリアもキラを止める術を見出せず、苦悩を深めていた。
「あの機体を出せば、あのフリーダムでも止められるはず・・でもそれを動かせるのはおそらくシンさんだけ・・・!」
 ソラがあることを思い出して、希望を見出すもわずかな可能性となっていると考える。
「諦めることはありません!」
 そこへ1人の金髪の女性が現れて、タリアたちに声を掛けてきた。
「アンジュ!?こっちに出てきたの!?」
 ソラが女性、アンジュの登場に驚きの声を上げる。
「フリーダムが現れ、ミネルバが危機だと聞きまして・・さらにこちらに来るとも知りました。」
「あなたは表に出てきたらダメじゃない・・そんなことをしたら・・・!」
「今は緊急の緊急事態です!こうしなければ世界は破滅です!」
「それとこれとは話が別だよ!」
 アンジュとソラが怒鳴り合って睨み合う。
「あの・・ソラ、この人はいったい・・?」
 アーサーが苦笑いを見せながらソラに問いかける。
「無礼者!このお方をどなたと心得ているのですか!?」
 アンジュに怒鳴られて、アーサーが言葉を詰まらせる。
「みなさん、ここにおられるのは・・!」
「ち、ちょちょちょ、待って、アンジュ・・!」
 ソラがアンジュを慌てて呼び止める。しかしアンジュの呼びかけは止まらない。
「ソラ・ブルースカイ!ブルースカイ家代表です!そして私はブルースカイ家親衛隊長にして、ソラお嬢様のお世話役、アンジュ・ブルースカイです!」
「何っ!?ブルースカイだって!?」
 アンジュがソラのことを紹介して、アーサーが驚きの声を上げる。
「ブルースカイって、クライン家と並ぶ資産家ですよ・・ソラ、あなたはブルースカイ家の人だったの・・!?」
 メイリンもソラを見て驚きを隠せなくなる。
「アンジュ、何でみんなにバラしちゃうのよー!?せっかくみんなに秘密にしていたのにー!」
 ソラがアンジュの頬をつまんで引っ張る。
「緊急の緊急事態だと言ったではないですか!だからこだわっている場合では・・!」
「それとこれとは話が違うでしょ!」
 言い返すアンジュに、ソラがさらに怒鳴る。
「2人とも落ち着きなさい。今はフリーダムの対策を練るのが先決よ。」
 タリアが呼び止めて、2人が彼女に振り向く。
 ソラがブルースカイ家だったことを知っていたのは、アンジュの他はタリアとマイだった。
「ソラ様、シンさんの具合は・・?」
「まだ意識は戻っていない・・傷は療養すれば1週間ほどで治るそうだけど・・」
 アンジュがシンのことを聞いて、ソラが深刻な面持を浮かべて答える。
「となると、アレを渡せるのは、お嬢様やハルさんよりも後になってしまいますね・・」
「アレ・・?」
 アンジュが言いかけた言葉に、ハルが疑問符を浮かべた。
「グラディス艦長、ソラ様とハルさんをお連れしてもよろしいでしょうか?」
 アンジュが真剣な面持ちでタリアに問いかける。
「ミネルバの整備とクルーの回復をしてから、私たちは地球に向かい、ルナマリアと合流します。今の私たちの有力な戦力は、インパルスだけとなってしまいました・・今のフリーダム相手では、わずかの希望もないかもしれませんが・・・」
 タリアがアーサーたちを見て答える。
「出発の予定は翌朝です。それまでに戻るのでしたら・・」
「ありがとうございます、艦長・・それと、もしシンさんが意識を取り戻したら、こちらに来てほしいと伝えてほしいのですが・・」
 タリアから許可をもらって感謝したアンジュが、続けてお願いをして、指定の場所の住所を示した地図を渡した。
「こちらに?・・そこに何が・・?」
「これから私とソラ様たちと行くところです。ブルースカイ家で密かに開発していた新型があります。それに関する情報の一部もお伝えしますので。」
 タリアが疑問を投げかけて、アンジュが説明した。
「この機体の情報・・・!」
 新型の機体の情報を確かめて、タリアが驚きを覚えた。
「詳しい話はソラ様たちやシンさんに直接お話します。必ずフリーダムから世界を守ると信じています。」
 アンジュが話を続けて、タリアたちに微笑んだ。
「では行きましょう、ソラ様、ハルさん。」
 アンジュが振り向いて、ソラとハルが頷いた。ミネルバを離れて、ソラたちはアンジュの運転する車に乗った。
「アンジュ、私はブルースカイの一員としてじゃなく、ソラという1人の人間として戦いたかったのに・・・!」
「そのことは申し訳ないと思っています・・・」
 ソラに不満をぶつけられて、アンジュが落ち込む。
「それで、新型は2機とも完成しているの?」
「はい。後は搭乗者によるテストとシステムチェックを行えば完全です。問題は、シンさんがまだ動けないことです・・」
 ソラとアンジュが真剣な面持ちを浮かべて問答する。
「それまでは私たちで何とかするしかないね・・」
 状況は悪いままだと思い、ソラが肩を落とす。
「ソラ、アンジュさん、いったい何が?・・僕には、何が何だか・・・」
 ハルがソラたちの会話に対して疑問符を浮かべた。
「詳しくは向こうに着いてから話すね。どこで誰が聞いているか分かんないから・・」
「それって・・僕たちを狙う誰かがいるってこと・・・!?」
「その可能性があるってだけ・・用心だよ、用心・・」
「そうか・・分かった。着いたら聞かせてね・・」
 ソラの答えを聞いて、ハルは頷いた。
(私は私の全てを賭けます。ブルースカイ家のために。そして、この世界のために・・)
 アンジュが運転を続けながら、心の中で決意を呟く。彼女も争いのない世界を見出そうとしている1人だった。

 ブルースカイ家。
 プラント有数の資産家で、プラントや世界において有力な議員の一家である。
 ソラはそのブルースカイ家の娘だった。
 アンジュはブルースカイ家親衛隊の隊長であり、ソラのお世話役も請け負っていた。そして彼女はブルースカイ家に引き取られた養子でもあった。

 セイ・ブルースカイとマリン・ブルースカイ。かつてのブルースカイ家の代表である夫婦であり、ソラの両親である。
 婚約を果たして以降、セイとマリンは子供に恵まれなかった。子供がいなければブルースカイ家は自分たちで途絶えてしまうと、2人は危惧していた。
 そこでセイたちは苦渋の決断として、養子を取ることにした。
 孤児院を訪れたセイとマリンは、そこの孤児の中から1人の少女を連れて帰ることにした。その少女がアンジュだった。
 アンジュは貧しさと隣り合わせの生活を送っていたことがあった。孤児院で暮らすことになってその危機はなくなったが、貧しさの恐怖は彼女の心に深く刻まれていた。
 そのため、アンジュにとって裕福な生活を送れることは、そこで厳しくされたとしても、これ以上の幸せはないものだった。
 ブルースカイ家に招かれたアンジュは、そこで家のしきたりや振る舞いを徹底的に叩き込まれた。その厳しい指導を彼女は真摯に受け止めていた。
 ブルースカイ家での生活は、アンジュにとって充実しているものだった。これまでの貧しい生活や、孤児院での日常に比べて明らかに自由であふれていた。
 この新しい生活を与えてくれたセイとマリンに、アンジュは深く感謝していた。
 ところがそのブルースカイ家に変化が起きた。
 子供に恵まれてこなかったセイとマリンに子供ができた。2人は青空の下、生まれてきた娘にソラと名付けた。
 ブルースカイ家の後継者は、純粋な血筋の中で生まれた子。その判断で、セイとマリンは自分たちの後継者を、アンジュではなくソラに決めた。
 ところがアンジュの居場所と思いをないがしろにすることも、セイたちにはできなかった。
「すまん、アンジュ・・お前に重荷を背負わせることになってしまって・・」
「いいえ。私をここにお招きいただいただけでも、深く感謝しています。」
 頭を下げるセイに、アンジュが弁解を入れる。
「ブルースカイ家の代表にはできなくなってしまったが、このまま我が家の一員として過ごしていってくれて構わない。お前には自力で生活ができる力もあるが・・」
「本当にありがとうございます。では、1つお願いしてもよろしいでしょうか・・?」
 セイに感謝して、アンジュが申し出をしてきた。
「私に、ソラお嬢様の指導を任せていただけませんでしょうか?セイ様とマリン様が私を指導してくださったように・・」
「そうか・・我々はお前にわがままを押し付けてしまっているからな。お前の頼み、聞き入れよう。ソラのこと、よろしく頼む。」
「ありがとうございます、セイ様・・お任せください。」
 セイが了承して、アンジュが感謝を見せた。
 それからアンジュはお世話役となった。かつてセイが厳しく指導してくれたように、彼女はソラを厳しく指導していった。
 アンジュの指導によって、ソラはブルースカイ家の代表を務めるに恥ずかしくない器量を得たのである。
 ソラは次第にプラント評議会の議員と面会する機会が増えていった。その頃からアンジュもブルースカイ家の親衛隊長と務めていて、ソラとともに行動することが多くなった。
 その最中、ソラはデュランダルとも面会した。当時のプラントのまとめていたデュランダルの語る思想に、ソラは関心を示し、感動を覚えた。
 さらにソラは、デュランダルの期待を受けて戦うシンの姿にも魅入られた。真っ直ぐに平和のために立ち向かう彼なら、戦争を終わらせられると彼女は思っていた。
 しかしギルバートがデスティニープランを導入、実行しようとしたことには、ソラは疑念を覚えた。
 いくら平和や争いのない世界の実現のためとはいえ、生き方を一方的に決められる制度に、彼女は納得できなかった。
 しかしギルバートがレクイエムを駆使して反対勢力を駆逐したのを目の当たりにして、ソラは表立って反対の意思を示すことができなかった。
 シンたちがキラたちを討って、オーブ政府は壊滅した。
 その後、シンが離反し、ギルバートはイザークに拘束された。そのため、デスティニープランの実行は見送られることになった。
 シンとルナマリアが抜けたことでグラディス隊の戦力が著しく減ったことを知ったソラは、ザフトに入隊。
 ほとんどの人にはブルースカイ家であることを隠して、任務に臨んでいた。
 ソラはレイの力や戦い方を学びながら、シンたちがミネルバに戻るのを願っていた。
 そしてアンジュも、陰ながらソラやプラントのために行動し、尽力していた。
 その1つとして、彼女は新型の機体の制作を指揮し、完成までこぎつけた。

 アンジュの運転する車は、街外れの施設の地下駐車場に入った。そこにはブルースカイ家が設けている秘密のルートの1つが隠されていた。
「そこまで厳重なんですね・・それだけ反対勢力に見つけられるのは危険だと・・」
 アンジュが強く警戒していることに、ハルが緊張を膨らませる。
「えぇ。私たちは秘密裏に行動することが多くなり、連合軍やオーブ軍、ザフトの反逆者からも狙われていました。戦争終結後も予断を許さない状況は続きました・・」
 アンジュが答えて、ブルースカイ家への監視が強いことを告げる。
「でも今日まで無事にここを守り、あなた方に新型を届けることができます。」
 アンジュが微笑んで、地下のルートを進んでいく。途中、ブルースカイ家だけが認証を受け付けるゲートを通り、ルートの出口にたどり着いた。
「着きました。この先のさらに地下に、目的のものがあります。」
 アンジュが声を掛けてソラ、ハルと共に車から降りた。3人はエレベーターで下に降り、最下層の格納庫に来た。
 アンジュが格納スペースの1つの扉を開けた。そこには1機の機体が置かれていた。
「こ、これは・・・!」
 ハルがその機体を目の当たりにして驚く。その機体はファルコンに酷似していた。
「ファルコン・・ファルコンだ・・・!」
「そうです。武装や機動力はもちろん、スピードも飛躍的に向上させている。“ファルコンX(エックス)”です。」
 動揺を見せているハルに、アンジュが説明をする。
「ハルさん、あなたと、ソラ様の機体です。」
「僕と・・ソラの機体・・・!?」
 アンジュが口にした言葉に、ハルが疑問符を浮かべる。
「ファルコンXは操縦するパイロットを切り替えられます。双方が承認することで操縦の権利を移すことができるのです。」
「そういうことですか・・でもそれで僕とソラの機体って、どういうことなんですか・・・?」
「開発の際、以前のファルコンだけでなく、あなたとソラ様の戦闘データも参考にさせていただきました。ハルさんは接近戦、ソラ様は射撃のレベルが高いのです。」
 さらに疑問を感じていくハルに、アンジュがさらに説明する。
「ファルコンXはスピード重視ですが、近距離戦も遠距離戦もこなせます。ハルさんとソラ様がうまく切り替えて使いこなせば、デスティニーやインパルスに負けず劣らずの戦いができます。」
「アンジュさん・・僕のために・・・」
 微笑みかけるアンジュに、ハルが戸惑いを感じていく。
「行ってください、ソラ様、ハルさん。このファルコンでミネルバやプラント、世界を守ってください。」
 アンジュがソラたちに自分の願いを託す。
「もちろんだよ、アンジュ・・それと、もう1機の新型は、シンさんに必ず届けて・・」
 答えたソラがアンジュに頼む。
「はい。シンさんは受け取り次第、あなた方の元へ向かうでしょう。」
「シンさんのこと、お願いするね・・」
 アンジュがシンが来ることを信じて、ソラが彼女に任せた。
 ソラとハルがファルコンのコックピットに乗り込んで、システムをチェックする。
「前のファルコンのシステムを受け継いで発展させている感じだ・・これならファルコンの感覚で操縦できる・・・!」
「問題は操縦権の切り替えのタイミングね。私たちの息が合わないと、操縦もうまくいかなくなるよ・・」
 ハルがファルコンの動かし方を確認して、ソラが注意点を口にする。
「僕たち、よく一緒にシミュレーションをしたり任務をしたりしたけど、このファルコンを動かせるまでに息を合わせることができるだろうか・・」
 性能の上がったファルコンをソラと一緒に動かせるかどうか、ハルは自信を持つことができないでいた。
「私よりファルコンをうまく動かせたんだから、このファルコンも動かせるよ。むしろ私がうまくやらなくちゃって思っているくらいなんだから・・」
 ソラがハルを励まして、自分が彼のために頑張らないといけないと考える。
「私たち2人でこのファルコンを動かしていこう。それで私たちも平和のために戦っていこう。」
「ソラ・・うん。やるよ、僕。僕だってやれるはずなんだ・・・!」
 ソラが思いを伝えて、ハルが微笑んで頷いた。
(僕たちがやらないと・・たとえ敵わない強敵でも、世界をムチャクチャにされるわけにいかない・・!)
(せめてシンさんのサポートをするくらいは・・・!)
 ハルとソラがそれぞれ心の中で平和を守る決意を強くしていく。
「ハッチ開け!発進準備!」
 アンジュの指示を受けて整備士たちがコンピューターを操作する。ファルコンの上のハッチが開かれる。
「発進準備完了!発進どうぞ!」
 アンジュがソラとハルに呼びかける。
「ソラ・アオイ・・」
「ハル・ソーマ・・」
「ファルコン、出ます!」
 ソラとハルが声をそろえて、ファルコンが飛び上がり、ブルースカイ家から飛び出していった。

「えっ!?シンが・・!?」
 地球の施設で待っていたルナマリアが、タリアからの連絡を聞いて驚きを覚える。
“えぇ・・シンが負傷し、デスティニーは大破。レイもデュランダル議長も・・・”
 通信の相手のタリアが説明して言葉を詰まらせる。その沈黙から、ルナマリアもレイたちが命を落としたことに気付く。
“シンは傷は深くないけど、まだ意識が戻らないわ。その間に襲撃が行われたら、食い止める術がないわ・・”
「確かに残された1番の戦力はインパルスになりますが、フリーダムにはとても歯が立ちません・・」
“それは私も承知しているわ。でもわずかでも戦力を集めておきたいと思うの・・”
「それで、私も・・・」
 タリアからの頼みを聞いて、ルナマリアが彼女の要望に納得する。
“翌朝にアーモリースリーを出発し、あなたとインパルスを回収します。インパルスでは大気圏を突破することができませんから・・”
「すみません、艦長・・私のためにわざわざ・・」
“謝るのは私の方よ。あなたたちにまた戦いの負担を掛けることになって・・”
「分かりました。道中、お気をつけて・・」
 タリアとの通信を終えてから、ルナマリアは壁にもたれかかった。
(レイが死ぬなんて・・・シンでも、また現れたフリーダムに負けた・・・)
 非情な現状を知って、ルナマリアは絶望を感じていく。
(私がやるしかないのは分かっている・・でも、今まで以上に強いフリーダムを相手にするなんて、冗談じゃないわよ・・・!)
 絶望のあまりに心の中で不満を呟くルナマリア。フリーダムにとても敵わないこと、シンの強さに自分が到達できないことを、彼女は理解していた。
(でも戦わないと、フリーダムにみんなムチャクチャにされてしまう・・メイリンも、ステラも・・・)
 ルナマリアも大切な人を守るために、フリーダムと戦う覚悟を決めた。
「ルナ・・・」
 そこへステラが来て、ルナマリアに声を掛けてきた。
「ステラ・・・」
「どうしたの、ルナ?・・シンは・・・?」
 動揺を覚えるルナマリアに、ステラが問いかける。
「シンは今出かけているの・・今日は戻れないけど、必ず戻ってくるわ・・」
「シン・・・もどってくる・・・」
 ルナマリアが答えて、ステラが安心する。彼女から顔を反らして、ルナマリアが表情を曇らせる。
(シンはステラを争いに巻き込まないようにした・・だから、今起きていることはステラには話せない・・近いうちに知ることになるけど・・・)
 新たなフリーダムによる襲撃とシンたちの状況を今はステラには伝えないことを、ルナマリアは心に決めていた。
「私も明日になったら出かけるから、ステラはここで待っていて。シンを迎えに行くことになるわ・・」
 ルナマリアがこれからのことをステラに言う。
「シンをむかえに・・だったらステラも・・・」
「私とシンは必ずここに帰る。だからステラはそのときに、私たちをここで迎えてほしいの・・そうすれば、私たちは幸せになれるから・・」
「ルナも・・シンも・・・うん・・ステラ、ここでまってる・・・」
「ありがとう、ステラ。ここのみんなと仲良くね。」
 言う通りにするステラに、ルナマリアが感謝した。
(絶対に守らなくちゃ・・シンも世界も、ステラも・・・)
 自分ではフリーダムに勝てないと自覚しながらも、ルナマリアもシンと同じように、大切なものを守ろうとしていた。

 ルナマリアへの連絡を終えたタリアは、ミネルバと各機体、クルーの現状を把握した。
 シンはまだ意識を取り戻していないが、生き残っているクルーは全員命に別状はなかった。
 期待はアンジュが言っていた新型を除けば、ザクやグフといった量産機しかなかった。
(現時点では戦力が少ないわ・・ソラたちが戻り、ルナマリアとインパルスが戻ってきても、あのフリーダムに対して劣勢を覆せない・・)
 フリーダムを止められないのは確実だと考え、タリアが焦りを噛みしめる。
(それでもやるしかないわ。今のフリーダムは無差別に攻撃と破壊を繰り返す暴徒と化している。止められなければ世界が終わる・・)
 ザフトの一員として、世界に生きる人間として戦うことを、タリアは自分に言い聞かせていた。
「艦長、本艦に向けて1機の戦闘機が近づいてきます。」
 指令室に戻ってきたタリアに、マイが報告をしてきた。
「ファルコンと似た機体です・・艦長、あれが・・・」
「アンジュさんが言っていた新型、ファルコンXね・・ハッチ解放。ファルコンを収容。」
 言いかけるマイに頷いて、タリアが指示を出す。ミネルバのハッチが開かれ、ファルコンが着艦した。
「これが、あの人が言っていた新型の1機・・・!」
 ヨウランが駆け寄ったファルコンから、ソラとハルが降りてきた。
「ただ今戻りました。これがアンジュさんが託してくれた機体です。」
 ハルがヨウランたちにファルコンのことを説明する。
「これとインパルスでフリーダムを食い止めるしかないんだね・・・!」
 ヴィーノが不安を感じて肩を落とす。
「出発までの間に、このファルコンの操縦シミュレーションをしよう。特に操縦権の切り替えの練習を・・」
「うん。明日の出発までにうまくやれるようにしないとね。」
 ハルが練習を提案して、ソラが賛成する。
「2人とも、オレも付き合うよ。機体の整備のためにチェックしときたいしさ。」
 ヴィーノがソラたちの練習に付き添うことを申し出て、ヨウランも賛同する。
「お願いします。もしも気になったことがありましたら、アドバイス言ってください。」
 ハルが答えて、ソラが頷いた。
「シンさんやルナマリアさんに任せてばかりにはできない・・私たちも戦わなくちゃ・・・!」
 自分もシンたちのように強くなりたい。強くなってフリーダムを止めて、争いのない世界の実現に貢献したい。
 ソラの力への渇望は、日に日に増していた。

 

 

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