GUNDAM WAR

-Confusion of SEED-

第2章

 

 

 表向きにはシンは行方が分からないと、タリアは他の部隊やプラント最高評議会に報告していた。しかしタリアたちはシンたちの居場所を知っていて、密かに連絡を取り合っていた。
 シン、ルナマリア、ステラはプラントが関わっている地球の施設に滞在していた。ステラの体調がよくなく、施設内の病棟で療養していた。
 エクステンデッドとして調整されたステラは、プラントの治療で心身への負担は解消された。しかし調整による負担は彼女の寿命を著しく縮めることになり、治療を終えても解消されたわけではなかった。
「これ以上は戦ってはいけない・・・!?」
 医師が口にした言葉に、ルナマリアが耳を疑う。
「はい。彼女の身体機能は徐々に低下しています。激しい運動をすれば大きな負担が掛かることになります。」
 医師が深刻な面持でステラの状態について説明する。
「ステラはもう戦う必要はありません・・戦いとは関係ないところで幸せに暮らしてほしいと思っています・・」
 シンがステラが戦いをする必要がないことを告げる。
「それを聞いて、医者として安心しています。私でも知らないことが多いが、それなりの対応もできると思います・・」
「お願いします・・ステラを助けてください・・・彼女には、少しでも長く生きていてほしいんです・・・」
 最善を尽くすと約束する医師に、シンが頭を下げる。
「分かりました。彼女はこちらで保護いたします。」
「ありがとうございます!・・よろしくお願いします・・・!」
 医師がステラの療養を引き受けて、シンが感謝した。
「私たちはできるだけここに留まりたいとは思っています・・でももしまた戦いが起こることになったら、私たちはここを離れることになります・・」
 ルナマリアもこれからのことを医師に伝える。
「はい。あなた方は表立って行動することができませんからね・・」
 シンたちの事情を知っていた医師が、この考えを理解していた。
 そのとき、シンたちのいる医務室にある通信機から声が発せられた。それは襲撃されたローグ隊の通信だった。
「ザフトの部隊が攻撃された・・・!?」
「敵は1機!?・・プラントに向かっている・・!?」
 ルナマリアとシンが通信を聞いて、緊迫を覚える。
「先生、ステラのことをお願いします・・・ルナ、オレはプラントに行く・・・!」
 シンが医師とルナマリアに言って、医務室から出る。
「シン、私も行くわ!プラントを守りに行くんでしょ!?だったら私も・・!」
「インパルスじゃ大気圏を突破できない・・デスティニーがあったから地球に降りてくることができた・・・!」
 一緒に行こうとするルナマリアを、シンが呼び止める。
「オレだけでプラントに行く・・危なくなったらすぐに引き上げるから・・・」
「シン・・・」
「ルナも、ステラのそばについていてくれ・・・!」
「分かった・・絶対に帰ってきて・・・!」
 ステラを託すシンを、ルナマリアは見送ることにした。
 シンはパイロットスーツを身に着けて、施設の地下に行って奥の部屋に入った。その部屋の中にデスティニーがいた。
(オレは戦う・・デスティニーという力で・・・!)
 シンは決意を固めて、デスティニーに乗り込んだ。
「シン・アスカ、デスティニー、いきます!」
 シンの駆るデスティニーが施設の地下から発進して上昇。地球を飛び出してプラントに向かった。

 ローグ隊を全滅させ、アーモリースリーへ突入して攻撃を仕掛けてきたアークフリーダム。無差別に攻撃していくフリーダムに、ファルコンに乗るハルが緊迫を募らせていく。
「そこのモビルスーツ、それは本当にフリーダムなのか!?パイロットは誰なんだ!?」
 ハルがフリーダムに向けて問いかける。しかしその問いへの返答はなく、フリーダムがビームライフルからビームを放つ。
 ハルが反応し、ファルコンがビームをかわした。
「ホントに速い・・ファルコンでも紙一重だ・・・!」
 フリーダムの攻撃の速さに、ハルが脅威を覚える。
「それでも僕が止める・・せめて、レイさんが来るまでの時間稼ぎぐらいはしなくちゃ・・・!」
 彼は覚悟を決めて、フリーダムとの戦いに集中する。
 フリーダムが2つのビームライフルを連射して、ファルコンが加速してビームをかいくぐる。しかしビームが速く正確で、ファルコンが命中させられる。
「ファルコンでもかわせない・・こうなったら・・!」
 危機感を覚えるハルが、ファルコンを変形させる。ファルコンは戦闘機型のMA(モビルアーマー)形態から人型のモビルスーツ形態となった。
「モビルアーマーのときよりもスピードは落ちるけど、他の性能が上がる・・!」
 ハルが言いかけて、ファルコンがビームライフルを手にした。ファルコンが放ったビームを、フリーダムは素早く回避する。
 ハルがフリーダムへの狙撃に集中する。しかしファルコンがフリーダムに銃口を移す前に、フリーダムがビームを放ってきた。
「うわっ!」
 ファルコンのビームライフルが撃たれて爆発し、ハルが衝撃でうめく。
「このままじゃやられる・・ミネルバ、艦長とレイさんは!?」
 ハルが危機感を覚えて、ミネルバに呼びかける。
「艦長たちと連絡が取れた!本艦は迎えに行く!それまで持たせるんだ!」
「はい!」
 アーサーが現状を伝えて、ハルが答えた。
「せめてフリーダムを、被害が出ない場所へ引き付けないと・・・!」
 彼がフリーダムを見据えて、ファルコンがビームサーベルを手にして移動する。
 フリーダムがファルコンを追ってスピードを上げる。フリーダムが両腰にあるレールガンを展開して発射した。ファルコンが上昇してビームを回避する。
 しかしフリーダムはその動きに合わせて、ファルコンに近づいてきた。フリーダムが持ち替えたビームサーベルを振り下ろし、ファルコンがとっさにビームサーベルで受け止めた。
 その直後、フリーダムはもう1本のビームサーベルを振りかざし、ビームサーベルを持つファルコンの右腕を切り裂いた。
「ぐっ!」
 ファルコンが損傷し、ハルがうめく。フリーダムがビームサーベルをファルコン目がけて突き出した。
「この!」
 ハルが反応し、ファルコンが胴体を後ろに反らした。フリーダムの速い突きが、ファルコンの胸部を削った。
「うわあっ!」
 ファルコンの損傷による爆発がコックピットに及び、ハルが激痛に襲われる。ファルコンは胴体から煙を吹いて、海に落下した。
 海中に姿を消したファルコンを追撃しようと、フリーダムがレールガンを展開した。
 そのとき、アーモリースリー襲撃の知らせを受けたモビルスーツ隊が駆け付けてきた。グフ3機が同時にビームガンを発射して、フリーダムが上昇して回避した。
 フリーダムがビームライフルを手にして、ほぼ全ての銃砲を展開して一斉にビームを放った。ビームの1つ1つが正確にグフたちを撃ち抜いた。
「その攻撃方法・・間違いなくフリーダムだ・・・!」
「しかも今までで1番威力があり、容赦なく我らを撃ってくるぞ・・・!」
 港で防衛線を張って待機していたザクのパイロットが、フリーダムの戦闘力に脅威を覚える。
「怯むな!我々が食い止めなければ、このコロニーは終わりだ!」
 他のパイロットが檄を飛ばして、フリーダムの迎撃に集中する。フリーダムがザクたちのほうに振り返る。
「散開しろ!狙い撃ちされるぞ!」
 パイロットが声を上げて、ザクたちが左右後方に別れる。フリーダムが再び銃砲を一斉発射した。
「うあぁっ!」
 ザクたちも正確に射撃されて、パイロットたちが絶叫を上げた。
「ここにいる・・デュランダル議長が・・・必ず討つ・・・」
 フリーダムに乗るパイロットが低い声で呟く。フリーダムがギルバートのいる収容所に向かって移動した。

 移動するミネルバがタリアとレイを回収した。
「艦長、フリーダムがまた・・!」
「分かっているわ・・まさかまた現れるなんて・・・!」
 アーサーが現状を伝えて、タリアが焦りを噛みしめる。
「ファルコンの反応が消えました・・!」
「そんな・・ハルが・・・!?」
 メイリンがハルのことを報告して、ソラが耳を疑う。
「艦長、レジェンドで出ます。自分が敵を倒します。」
 レイがフリーダム打倒のために出撃を志願する。
「暴挙を繰り返しているあのフリーダムは、これまで以上の戦闘力を備えているわ。十分に気を付けて・・・!」
 タリアがレイに向けて警告する。レイはメサイアでの戦いでキラに敗れている。
「あの時のように不覚は取りません。あれからもデスティニーやフリーダムを相手にしたシミュレーションを繰り返してきました。」
「でもかつてないことをは確実よ。わずかの隙も命取りと思いなさい。」
 レイが冷静に言って、タリアが檄を飛ばす。
「ソラ、あなたはハルの救助に向かって!」
 タリアが続けてソラに指示を出す。
「艦長、私も戦います!フリーダムを止めないと・・!」
「ハルはまだ生きている可能性があるわ。この状況下で彼を助けられる可能性が1番高いのは、操縦技術の高いあなたが助けに行くことよ。」
 フリーダムと戦おうとするソラに、タリアが激励を送る。
「フリーダムはオレに任せろ。命ある者を見捨てるようなことはするな。」
「レイさん・・・分かりました・・・」
 レイにも言われて、ソラは渋々従うことにした。2人はそれぞれ機体「レジェンド」とグフに乗り込んだ。
「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」
 レイの駆るレジェンドがミネルバから発進した。
「ソラ・アオイ、グフ、出ます!」
 ソラの乗るグフも続けて発進して、ファルコンの落ちた海に向かった。

 アーモリースリーの軍事施設や迎撃に出たザフトの機体や戦艦を破壊して、フリーダムはギルバートのいる収容所の前まで来た。
「あそこにデュランダルがいる・・彼のせいで、僕たちは・・・!」
 フリーダムのパイロットがギルバートに対する憎悪を口にする。
 フリーダムがレールガンを発射して、収容所にビームを当てた。収容所から爆発が起こり、火の手が上がる。
 ザク、グフが駆け付けてフリーダムに向けてビームを放つ。回避したフリーダムに向けて「ビームウィップ」を伸ばす。
 フリーダムがビームライフルの1つをビームサーベルに持ち替えて、ビームウィップを切り裂いた。直後にビームライフルを発射して、グフたちを撃ち抜いた。
 フリーダムは続けてビームライフルとレールガンを発射して、ザクたちと戦艦を破壊していく。
「ザフトもプラントも、全てを破壊する・・僕たちを崩壊させたもの、全て・・・」
 フリーダムのパイロットが呟き、憎悪を募らせる。
 ギルバートが兵士に連れられて、収容所から出てきた。パイロットがそれを見逃さず、フリーダムがギルバートに近づいてきた。
「フリーダムが来た・・!」
 兵士が驚きを見せながら、銃を構えてフリーダムに銃口を向ける。
「フリーダム・・乗っているのはキラ・ヤマトか。」
 ギルバートがフリーダムを見上げてそのパイロット、キラの存在に気付く。
「あなたたちが何もしなければ、僕たちは平和に暮らせていたんだ・・・」
「私たちが何もしなければ?それは違う。この前の戦争は、地球連合、正確にはロゴスが戦いを仕掛けなければ、起きはしなかった。」
 敵意を向けるキラに対し、ギルバートが悠然とした態度で言い返す。
「私は揺るぎない平和、争いのない世界の実現を目指してきた。最終的にザフトやシンに妨害されることになったが、君たちも我々の妨害を企んだことに変わりはない。そもそも君たちによって戦況が混乱したことは度々あった。君たちは責められる立場にあり、我々を責めるいわれはない。」
「ザフトが僕やラクスに手を出さなければ、僕たちは何もしなかった・・」
「それを私が命じたと?」
「止めなかった時点で、あなたは信用できない・・・」
「やはり君は傲慢だな。君の考えが世界の全てだと考えているようだ。」
「それはあなたのほうだ・・あなたたちのせいで、僕たちは・・・!」
 嘲笑するギルバートに、キラが憎悪を募らせる。
「あなたは討たれるべきだ・・僕の全てを奪った、あなたは・・・!」
 キラが目つきを鋭くして、フリーダムがギルバートを狙ってレールガンを発射しようとした。
 ビームが横から飛んできて、キラが反応し、フリーダムが回避した。レイの乗るレジェンドが駆け付けてきた。
「キラ・ヤマト・・まさか生きていたとは・・・」
 レイがフリーダムを見て目つきを鋭くする。
「この機体・・今度こそ完全に破壊する・・・」
 キラもレイとレジェンドに対して敵意を向ける。
「2度と現れないよう、オレがお前を確実に倒す・・・!」
「君も僕の全てを奪った1人・・許してはおけない・・・」
 レイとキラが互いに敵視し合い、レジェンドとフリーダムが上昇する。
(レイ、頼むぞ・・お前が討たなければ、キラ・ヤマトを止められる者は、ザフトにはいない・・)
 ギルバートはレイを信頼して、兵士と共にこの場を離れた。
 レジェンドがビームライフルを手にして発射する。フリーダムはビームを素早くかわし、ビームライフルで反撃する。
「艦長の言う通り、これまでのフリーダムを上回る動きだ・・シミュレーションを繰り返していても、わずかの油断もできない・・・!」
 フリーダムの力を把握して、レイが緊張を強くする。
 レジェンドが背部に搭載されている端末「ドラグーン」を装着したまま動かし、一斉にビームを放つ。フリーダムはこれもかわして、レジェンドに近づく。
 レジェンドとフリーダムがビームの撃ち合いを繰り広げながら、アーモリースリーと宇宙を隔たる障壁を破った。2機は吸い出されるように宇宙へ飛び出した。
 レジェンドがドラグーンを射出して、フリーダムを包囲させる。ドラグーンから放たれたビームを、キラが反応し、フリーダムがかいくぐる。
 フリーダムもドラグーンを射出して、レジェンドに向かわせる。ドラグーンからのビームは速く、レイは反応して回避に転じるのに必死だった。
(ドラグーンの攻撃も前よりも速く正確になっている・・レジェンドでも回避が間に合わない・・・!)
 レジェンドよりもフリーダムの方が性能が上であると痛感し、レイが危機感を覚える。
(だがオレが倒れるわけにはいかない・・ヤツを討たなければ、ギルもプラントも、世界も崩壊する・・・!)
 彼は同時に決して負けられないという意思を強くする。
 レジェンドがドラグーンを加速させ、フリーダムに向けて隙のない射撃を仕掛ける。しかしフリーダムはそのビームを全てかわしてみせた。
 レジェンドとフリーダムがドラグーンを操作してビームを放つ。フリーダムのビームがレジェンドのドラグーンを破壊していく。
 次の瞬間、レジェンドがフリーダムに近づき、ビームジャベリン「デファイアント」を手にして突き出した。キラはこの動きを読み、デファイアントを紙一重でかわした。
 フリーダムがその直後に腹部の複相ビーム砲「カリドゥス」をレールガンと同時に発射した。
「ぐあぁっ!」
 レジェンドがビームを直撃されて爆発を起こし、レイが衝撃に襲われる。レジェンドがアーモリースリーの壁の穴に入り、地上に落下した。
「機体が損傷した・・このままでは・・・!」
 レジェンドの動きが鈍り、レイが危機感を募らせる。
「次は確実にとどめを刺す・・2度と出てこないように・・・」
 キラが呟き、フリーダムが2つのビームライフルを連結させて、レジェンドへ銃口を向けた。
 そのとき、1つのビームが飛び込み、フリーダムが回避する。ミネルバが火砲「トリスタン」をフリーダム目がけて撃ったのである。
「ミネルバ・・・!」
「距離を取りけん制よ!同時にタンホイザー起動!」
 レイがうめく中、タリアがアーサーたちに指示を出す。
「了解!タンホイザー起動!発射準備!」
 メイリンが答えて、ミネルバがトリスタンと3連装砲「イゾルデ」を発射していく。フリーダムは難なくかわし、ミネルバに近づく。
「これではミネルバもやられる・・・!」
 レイがミネルバを援護しようとするが、レジェンドを思うように動かせない。
「その艦も落とす・・この艦がなければ・・・」
 キラがミネルバに対しても憎悪を強くしていた。
 そのとき、1つのビームがフリーダムに向かって飛んできた。フリーダムが後方に下がり、その目の前をビームが通り過ぎた。
 地球から駆け付けたデスティニーが、フリーダムの前に現れた。
「あ、あれは・・!」
「デスティニー・・シンなの!?」
 アーサーとタリアがデスティニーを見て声を荒げる。
「ミネルバ、あの機体の相手はオレがします!今のうちに体勢を整えてください!」
 シンがタリアたちに向けて呼びかけてきた。
「フリーダムに対しタンホイザーを発射します。本艦に近づけないように、注意を引き付けてください。」
「了解、グラディス艦長!」
 タリアが指示を出し、シンが答える。
「それと、あのフリーダムは以前よりも格段に性能が上よ。レジェンドが敵わない以上、デスティニーよりも上なのは確実と見ていいわ・・・!」
「分かっています・・それでもアイツを倒す・・そうしないとプラントが、世界が・・・!」
 タリアからの警告を、シンが真剣に聞く。彼も今のフリーダムの力を把握していた。
「レイは1度撤退しなさい。シンも決して死んではならないわ。」
「艦長・・もちろんです・・・!」
 タリアが続けて指示を出して、レイが答える。レジェンドが損傷した胴体を動かして、後退をしていく。
 シンが視線を移し、デスティニーがフリーダムの前に来る。
(また現れたフリーダム・・乗っているのはアイツなのか・・・!?)
 シンが倒したはずのキラのことを考えていく。
(いや、ありえない・・アイツはオレが貫いて押し込んで、さらにエターナルと一緒に爆発したはずだ・・それで生きていられるわけがない・・・!)
 キラの生存を信じられず、シンは激情を募らせる。キラのフリーダムはシンのデスティニーのビームソード「アロンダイト」に貫かれ、そこからエターナルまで押し込まれ、ラクスと共に果てたはずだった。
「誰が乗っていても、オレはフリーダムを倒す・・今度も!」
 込み上げてくる感情を振り切り、シンが目つきを鋭くする。
 デスティニーがビームライフルを手にして、フリーダムに向けて発射する。フリーダムが加速してビームをかわす。
「速い・・それに動きが正確だ・・・!」
 フリーダムの動きを見て、シンが毒づく。
「デスティニー・・シン・アスカ・・・僕の全てを奪った・・・」
「その声は、キラ!?・・乗ってるのはキラ・ヤマトなのか!?」
 キラが低い声で言って、シンが声を荒げる。
「生きてたのか、キラ・・・だけど何で・・あのとき、アンタはエターナルと一緒に・・・!?」
 シンがキラに向けて疑問を投げかける。
「あの爆発で生き残れるわけがない・・生き残れても、機体をここまで使いこなして動かせるわけがない・・・!」
「あのとき僕は死んだ・・死んだと思った・・でも僕は生きていた・・手術を繰り返して、体中に生命維持のための器具を施されて・・・」
 声を荒げるシンに、キラが低い口調のまま言いかける。
 キラはデスティニーに胴体を貫かれたフリーダムと、炎上するエターナルの爆発に巻き込まれた。宇宙空間でのこの爆発で生き残ることはまずできない。できても瀕死の重傷は免れない。
 キラは爆発から宇宙に投げ出されて、生死の境をさまよっていた。しかし彼はクライン派によって救われ、緊急手術を施された。
 体に生命維持のための器具を埋め込まれ、全身が手術跡など傷跡が残っていた。しかし以前から変わっていたのは体だけではなかった。
 アスランやカガリ、ラクス。大切な人を全て失った絶望と心の傷は、体の傷以上に深かった。
 かつてない絶望と悲劇、憎悪に見舞われて、キラの心は完全に凍てついていた。自分の全てを奪われた激情に突き動かされる彼は、勢力問わず武力を攻撃することを心に決めた。
「僕は全てを許さない・・大切なものを奪った、この世界を・・・」
 キラが低く言いかけて、フリーダムがデスティニーを狙って、ビームライフルを発射する。シンは反応し、デスティニーが素早く動いてかわす。
「生きて戻ってきたと思ったら、まだそんなふざけたことを・・世界をムチャクチャにして、みんなから何もかも奪ったのはアンタたちだろうが!」
 シンが怒りを覚えてキラに言い放つ。デスティニーもビームライフルを手にして発射するが、フリーダムも素早くかわす。
「自分たちのしてきたことを棚に上げて、やっと取り戻した平和をまた壊して!」
「僕はみんなを守りたかった・・それを、君たちが・・・!」
 シンの怒号にキラも鋭く言いかける。デスティニーとフリーダムがライフルによるビームの攻防を繰り広げる。
「自分たちだけが無事でいようとするヤツらが!」
 怒りを膨らませたシンの中で何かが弾けた。彼の感覚が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。
 デスティニーがビームライフルを連射する。フリーダムは加速してビームを回避する。
 フリーダムは2つのビームライフルを連射して、デスティニーの持つビームライフルを撃ち抜いた。
「くそっ!」
 シンが毒づき、デスティニーが両肩に装着されているビームブーメランを手にして投げつける。フリーダムはこれもビームライフルで撃って破壊した。
「だったらこれで・・!」
 シンが言いかけて、デスティニーが背部に搭載していたビームソード「アロンダイト」を手にした。
「いくらフリーダムでも、コイツを食らえば確実に叩き切ることができる!」
「君の力はもう、僕には通じない・・・」
 言い放つシンに、キラが言い返す。
 フリーダムが2本のビームサーベルを組み合わせてきた。するとビームの刃がデスティニーのアロンダイトと同じ大きさになった。
「何っ!?」
 思いもよらなかったことに驚愕するシン。デスティニーとフリーダムがビームソード、アロンダイトと「イペールラケルタ」を振りかざしてぶつけ合う。
「力でも僕は君を上回る・・もう負けたりしない・・・!」
 キラが鋭く言って、フリーダムがデスティニーを押し込む。
「デスティニーを上回るパワーだと!?」
 シンがフリーダムのパワーに脅威を覚える。イペールラケルタの光の刃が強まり、力でアロンダイトの刀身を折った。
 力負けしたことにシンが愕然となる。フリーダムがイペールラケルタを振り下ろしてきて、デスティニーが残像を伴った高速で回避する。
 デスティニーがビーム砲を展開してビームを放つ。フリーダムがビームをかわして、イペールラケルタでビーム砲の砲身を切り裂いた。
「くそっ!」
 フリーダムのこの攻撃の直後の隙を狙うシン。デスティニーが右手を突き出して、手のひらにある砲門「パルマフィオキーナ」を放とうとした。
 その直後、フリーダムが身を翻して、右足を振りかざしてきた。その足にはビームブレイドが発せられていた。
「これはジャスティスの!?・・このフリーダム、ジャスティスの武器も持ってるのか!?」
 パルマフィオキーナとぶつかるフリーダムのビームブレイドに、シンが驚愕する。ビームブレイドは本来はジャスティスの武装である。
 フリーダムのビームブレイドがパルマフィオキーナを押し込み、デスティニーの右手を破壊した。
 直後にフリーダムが持っていたイペールラケルタを振り下ろしてきた。シンがとっさに判断し、デスティニーが左手のパルマフィオキーナで止めようとした。
 フリーダムの一閃がデスティニーの左手も切り裂いた。
(やられる・・フリーダムを引き離さないと・・・!)
 シンが絶体絶命を痛感し、デスティニーがフリーダムに突っ込んだ。下手に回避するより、突撃して虚をつく方が生存できると、シンは判断した。
 フリーダムを一瞬遠ざけたデスティニーだが、損傷が激しく落下した。

 デスティニーがフリーダムに敗れたことに、タリアが緊迫を募らせ、アーサーたちも愕然となった。
「そんな・・シンが・・デスティニーが負けた・・・!?」
「あのフリーダムを止めることはできないの・・・!?」
 アーサーとマイがこの劣勢に目を疑っていた。
「しっかりしなさい!わずかの隙も見せられないのは、私たちも同じよ!」
 タリアが檄を飛ばして、アーサーが我に返る。
「艦長、タンホイザー、発射準備完了です!」
 メイリンが報告して、タリアがフリーダムに目を向ける。
(交戦していないフリーダムに撃っても、いくらタンホイザーでもよけられてしまう・・・!)
 周囲への対処がしやすい状態のフリーダムへの攻撃を当てることは不可能であると理解して、タリアが焦りを噛みしめる。デスティニー、レジェンド、ファルコンも損傷していて、フリーダムの注意を引き付けられる機体が他にない。
「せめて・・オレがまた・・・!」
 シンがミネルバに陽電子砲「タンホイザー」を撃たせようと、デスティニーを動かす。両腕を失ったデスティニーは、起き上がるのに手間取っていた。
「シン・・デスティニー・・君は確実に討つ・・僕の全てを奪った君は、必ず・・・!」
 キラがシンへの憎悪を口にし、フリーダムがイペールラケルタを構えてデスティニーに突っ込んできた。
「もう、フリーダムに負けないスピードを出せない・・・!」
 思うようにデスティニーを動かせず、シンが危機感を募らせる。フリーダムがイペールラケルタをデスティニー目がけて突き出した。
 そのとき、レジェンドがデスティニーの前に割って入り、イペールラケルタに胴体が貫かれた。
「レイ・・!?」
 レジェンドがフリーダムの攻撃を受けたことに、シンが目を疑う。
「シン・・お前を死なせるわけにいかない・・・たとえ、ギルの意思に背いても・・お前は、オレの仲間だったから・・・・!」
 レイが声を振り絞り、シンに言いかける。レジェンドの損傷がコックピットにも及び、レイも負傷していた。
「争いのない世界の実現・・ギル以外で果たせるのは、シン、お前だろう・・・」
「レイ・・・!」
「オレも最後まで生きたかった・・ギルのために、この世界のために・・・しかし、お前のために命を張ることも、オレは後悔していない・・・!」
「レイ、何をする気だ!?早く脱出しろ!」
 自分の気持ちを吐露するレイに、シンが声を張り上げる。
「すまない、シン・・お前の願い、果たすことができなかった・・・」
 レイがシンに謝って、レジェンドがフリーダムに組み付いた。
「ミネルバ、私に構わずフリーダムを!」
 レイがタリアたちに向かって、タンホイザー発射を呼びかけた。
「離れなさい、レイ!このままではあなたが・・!」
「もう自分は助かりません・・せめてこのフリーダムだけは、必ず討たなければ・・・!」
 タリアが呼び止めるが、レイは死ぬ覚悟でキラを倒させようとする。
「レイ・・・分かったわ・・でも、最後まで生きるのを諦めないで・・・!」
 タリアが小さく頷いて、メイリンに目を向けた。メイリンも困惑していたが、タリアの意思を受け止めて覚悟を決めた。
「タンホイザー発射用意・・目標、フリーダム!」
「はい・・タンホイザー、発射準備完了!」
 タリアの指示にメイリンが答える。2人ともレイ諸共砲撃することに苦悩を感じていた。
「君も討つ・・2度と僕の邪魔はさせない・・・」
 キラが呟き、フリーダムがイペールラケルタをレジェンドが引き抜こうとする。その瞬間、レジェンドが加速してフリーダムを押していく。
「ミネルバ、タンホイザー発射を!」
 レイが呼びかけて、タンホイザーの標準がフリーダムを捉えた。
「ってぇ!」
 タリアの号令と共に、ミネルバがタンホイザーを発射した。出力の高い光線がフリーダムに向かっていく。
 その瞬間、フリーダムがイペールラケルタを振り上げて、レジェンドを切り裂いたフリーダムはスピードを上げて上昇し、光線が外れた。
(ギル、ごめんなさい・・・僕は、止められなかった・・・)
 レイがギルバートへの謝意を抱いた瞬間、落下したレジェンドが爆発を起こした。
(ギル・・・シン・・・)
 ギルバートとシンのことを思うレイが、爆発の光の中に消えた。
「レイ!」
 シンの悲痛の叫びが響き渡った。かつての仲間を守るため、レイは散った。

 

 

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