ガルヴォルスtransmigration
第7話「復讐の呪い(前編)」
湖に突如現れた巨大ガルヴォルス。それに対しシュウは空中から、メイリは水中から攻撃にかかる。
シュウは炎の力を持った大剣を振り上げ、瞬時にシュウを叩き付けようとしたオクトパスガルヴォルスの足を数本なぎ払った。
それに、絶叫とは似つかぬ咆哮をあげるオクトパスガルヴォルス。
「なんだ・・・?まるで、理性を完全に拭い去られたようなガルヴォルスだ。」
全く、動物のような本能的な攻撃しかして来ない相手をシュウは不審に思う。
一方のメイリも氷塊の刃を多数放ちオクトパスガルヴォルスを攻撃する。
その時メイリは湖底に沈んだたくさんの人間達を発見する。
(あの人達・・・助けないと、石化が解けても窒息してしまうわ!)
彼女は空中のシュウにそれを伝えるために浮上した。
「シュウ!・・・聞いて!」
「メイリ、どうした!?」
シュウがメイリを拾いあげる、直後にオクトパスガルヴォルスが黒い霧を噴射するがシュウが熱風を作り出し、霧を簡単に払った。
「湖底に人達が沈んでいるの、助けないと!」
メイリのその言葉を聞き、シュウがメイリを抱えて旋回しながらしばらく考える。
「それなら、僕がもっと接近して・・・言うなれば、囮になってあのガルヴォルスの注意を引く。だから、君はその間にみんなを!」
「わかったわ・・・シュウ、気をつけてね。」
そう言うと再び水中に飛び込むメイリ、そしてシュウが勢い良くオクトパスガルヴォルスに接近すると鋭い爪で肥大した頭部を切り裂いた。
すると、青緑の血とは異なった液体が噴き出した。
しかも、それは付着した部分が酸で溶かされるかのような痛みが走った。
「ぐっ!?これは?」
幸い、灼熱の放熱で瞬時に蒸発させたため軽い傷で済んだ。
すると、その謎の液体を出すごとに、オクトパスガルヴォルスの体が小さくなっていった。
「これは、どういう事なんだ?」
シュウが滞空して、縮み続けるオクトパスガルヴォルスの体を見据る。
「シュウ、みんなはもう大丈・・・なっ、何これ!?」
浮かび上がったメイリが見たのは、自分に迫って来る青緑の液体だった。
「うぁあぁ!!何これ!? 痛いっっ!!」
メイリに青緑の液体が付着し、激痛となって彼女を襲う。
「しまった!遅かったか!!」
シュウがメイリの手を掴んで彼女を一旦水面下に沈めて青緑の液体を洗い流す。
メイリを安全な所に降ろす。すると、彼女の姿が元に戻る。
しかし、彼女は凄まじい苦痛のために気を失っていた。
(メイリ・・・でも、もう大丈夫だろう。)
メイリを安全な場所に寝かせて、シュウは再び湖に向かった。
「おかしい、さっきのガルヴォルスが・・・消えた?」
湖面には、オクトパスガルヴォルスの姿は無かった。
そして、シュウは代わりに白い何かを見つけた。
「あれは・・女の子?まさか、あの子が?」
シュウがその湖面近くに寄る、するとその白い服を着た少女は昏倒したように水面に浮かんでいた。
額に傷が付いている、やはりあのガルヴォルスに間違いなさそうだった。
シュウは彼女を抱えると、留実子の所に向かった。
「シュウ?その子は?」
「さっきのガルヴォルスだよ。でも、様子が変なんだ。 何て言うか、操られていた、みたいな。 そうだ!メイリは!?」
シュウが人の姿に戻って言った。
「メイリなら、さっき車の方に行ったよ。」
それを聞いてシュウも安心する。
その時、シュウは後方に気配を感じて振り向いた。
そこには喬子が右手に拳銃を携えて立っていた。
「あなた達が・・・いえ、予想はしてたわ。あの学校での出来事、あの白い髪の子のことも。」
すると、喬子が冷たい視線と共に、拳銃を少女を抱えるシュウに向ける。
「あんた!何を! 冗談はやめな!」
留実子が喬子に向かって叫んだ。
「冗談?いいえ、あなたやその子。白い髪の子も、見逃せば冗談では済まなくなる。」
「止めろ!僕やメイリ、この子にだってちゃんと心があるはずだ! それをこんな・・・!」
シュウが少女を留実子に預けてその前に立ちはだかる。
「あなたの言いたい事は分かったわ。でも、本当かしらね。」
喬子がそう言った瞬間、喬子が拳銃の引き金を引き銃声が響いた。
シュウは覚悟した、しかしいつまで経っても苦痛どころか何らかの感触さえない。
シュウが顔を上げると、喬子が硝煙が流れる拳銃を向けたまま笑みを浮かべていた。
「空・・砲?」
「そうよ、ちょっと試してみたのよ。あなたが危険じゃ無いかどうか。」
そう言うと喬子が拳銃をホルダーにしまう。
「あの子もその子も、あなたがそう言うのだったら大丈夫なんでしょうね。」
喬子のその言葉に安堵を覚えるシュウ。
「暇があったら訪ねて来てくれないかしら、協力して欲しいことがあるのよ。それから、助かったわ!」
そう言い残すと喬子は去って行った。
「ああいう人も、いるんですね。」
「最近の若い者が考える事はよく分からん。まあ、良い。 シュウ、行くよ。」
シュウは留実子の後から、少女を連れて行った。
「その子が?」
走っている車の後部座席メイリが未だに眠っている少女を見てシュウに尋ねた。
「そうだよ。あのガルヴォルスの正体さ。 でも、様子がおかしかったんだ。」
「それ、一つ心当たりがあるよ。」
その時、運転している留実子が口を挟んだ。
「おばさん、知ってるんですか?」
「ただ、それが正しいとなると・・いや、何でもない。」
シュウは気付いた。 留実子の何かと自信に溢れた様な顔がいつに無く真剣だった。
シュウ達が留実子の家に着くと、そこにはリョウが待ち兼ねた表情で立っていた。
「お、帰って来た。おばさん手伝いって、何かあったのか?」
その時、リョウは寝かされている少女を見る。
「んあ?なっこいつ、ミカじゃないか!?」
「リョウ、知ってるのかい?」
シュウが尋ねると、リョウが黙って頷く。
ミカを病室のベッドに運び込んだ後、留実子とメイリが介抱に当たった。
その外のリビングでシュウとリョウが話しをしていた。
「シュウ、知ってるかもしれんが、うちの実家はかなり大きな家だ。そこにはもちろんメイドもいてな、三年前くらいまでうちにいたメイドの連れ子がミカってわけさ。」
「なるほどね、そこで君が知り合ったわけだね。」
「そう言う事だ。俺とミカは、小さい時から歳も近い事もあってほんとうの兄妹のように育った。 だが、ある日。 そのメイドさんが再婚したらしくてな、それ以来音信不通だったって訳さ。」
「その後、何があったのかなって事だね。」
シュウが辛辣さを隠せないリョウに言うとリョウが黙って頷いた。
「おい、お前達。」
その時、戸が開いて中から白衣姿の留実子が出て来た。
「買い物に行っとくれ。今晩はカレーにでもするよ。 シュウ、材料はわかるだろう?」
「わかってるよおばさん。それじゃ、それを買って来ればいいんですね?」
「頼んだよ。」
そう言われると、シュウは足早に買い物に出かけた。
シュウは性格上、自分だけが何もやっていないという状況に安座出来なかったからだ。
シュウが昼過ぎの人気の無い町中を歩いていると、奇妙な感覚を覚えた。
(なんだ?前に感じた事があるような、この殺気は・・・?)
その時、シュウは近くに何らかの気配を感じて足を止める。
「何か用かな?誰か知らないけど、あまり感心しないな。」
「ふっ、やはり感づかれるか。まあ、それでも良い。」
シュウは、その闇に薄気味悪く響く声に聞き覚えがあった。
そして、その予想を肯定する様に一人の人影が曲がり角から姿を現した。
「君は・・・あれだけの爆発で・・・」
その人影は、間違いなく空偉卓也だった。
しかし、シュウにはそれが信じられなかった。
つい一昨日、死闘を繰り広げた結果、死んでもおかしくない程の傷を負ったはずの卓也がピンピンしていたからだ。
「再会は意外そうだな。まあいい、山都シュウ君。君には一つお礼を言っておかなくてはいけないな。」
「お礼?」
「そうだ。君のおかげで俺は任務を解かれた。」
(何を言っているんだ?喜ぶ事じゃない。)
シュウは、楽しそうに話す卓也を訝しげに見て警戒する。
「ところが、おかげで俺は転生したと言うべきか、とにかく清々しい気分だな。」
「どういう事なんだ?いまいち意味が・・?」
シュウが理解しかねていると、
「じゃあわかりやすく言うと、俺は自由を手に入れた。つまり生まれ変わったんだよ!」
「・・・それは、おめでとう。」
「どうも。」
一瞬の間が空きシュウがおもむろに口を開く。卓也もそれに答える。
「それで、何の用だい?わざわざ、そんな事を言いに来たのなら、僕は忙しいんだ。 」
「まぁ、待てよ。」
その時、踵を返し後ろを向いたはずのシュウの目に、反対側の曲がり角からも卓也が姿を現した。
「なっ!?」
後ろと前、両側に二人の卓也がそこにいた。
「自由にも色々ある。そうだろ?」
「俺が、いや俺達が手に入れた自由は何かわかるかな?シュウ君?」
「余り深く考える必要は無い。」
すると声がした右通路からも卓也が姿を現した。
それを見て未だに驚きを隠せないシュウ。
「君がいつも解いている学校の問題なんかより簡単だ。」
左からも声がし、同じ姿の卓也が姿を現す。
シュウはあっと言う間に、四方を卓也達に囲まれた。
「大ヒントは、ある物に尻尾を振ったんだ。」
すると、最初からいた卓也の後ろからも五人目の卓也が現れた。
「正解は、本能に尻尾を振って、殺しと破壊の自由を手に入れたんだ!」
その時、五人の卓也の顔に紋様が浮かび、彼らの姿が同様にレイヴンガルヴォルスに変貌した。
危険を感じたシュウの頬に異様な紋様が浮かぶと、彼の姿がフェニックスガルヴォルスに変化する。
そして、爪を振り上げ襲い来るレイヴンガルヴォルスをかわし、そのまま空に飛翔する。
「空に逃げるか、面白い!」
一斉に、追撃を仕掛ける五体。
複数の相手の攻撃をかわし、また左右からの挟撃を相殺するシュウ。
かなりの高高度に達した時には、シュウの体に攻撃がかすった痕がいくつも残っていた。
その時、シュウの下に回り込んだ一体が爪を振りかざして真下から突っ込んできた。
「これでも食らえ!」
しかし、その爪はシュウの体を切り裂く事なく、空を切っていた。
「なにっ!?」
その瞬間、レイヴンガルヴォルスの爪を素早いロールでかわしたシュウが、研ぎ澄まされた右の翼で彼を胴体を二つに分けるように切り裂いた。
鮮血が飛び散り、断末魔の絶叫を上げる事無く卓也の体が空中で崩壊を起こす。
その哀れな姿を見下ろすシュウ。
そして、それを見て思わず息を飲む残りの卓也。
「甘いね……一昨日の君、いや君達ならこれくらいかわせた筈だ。 さては……」
そう言うと、シュウは両手の鋭利な爪を伸ばす。
「……強さは五分の一になったのかい?」
「黙れ!!」
すると、それに激昂した4体がシュウに一斉に襲いかかる。
しかし、またしても手応えは無かった。
その代わり、フェニックスガルヴォルスであるシュウの両爪と両翼が4体を貫いていた。
「ば、ばか…な……。」
「嘘…だ…。」
そう口々に呻くと卓也達各々の体は崩壊した。
しかし、シュウの右手の爪に、未だに息のあるレイヴンガルヴォルスが貫かれたままであった。
「…君達は一体…?」
「さあ…な…俺も…分か…ら…ん。」
遅れる事数秒後、最後の一体の身体も崩壊し、流れ行く雲に溶け込むように消えて行った。
人気の無い地上に降り立ち、人の姿に戻ったシュウは、卓也が最期に残したもの悲しさを込めたような笑みが目に焼き付いていた。
警視庁科学捜査研究所。最先端の科学力を結集し、難事件の解決を補助する特務部署である。
その、地下研究所で一人の男、仙田 豪(せんだ ごう)がモニターを見ながら電話をかけていた。
「ええ、そうです。 ……反応が先程消えました。 上空8000メートル付近で立て続けに…………まぁ、即席ですから仕方ないでしょう。 それでは…。」
豪は、そう締めくくると電話の受話器を置く。
豪は、若干25才にして科学捜査研究所の特殊生物対策室の主任を務める実力者であった。
廊下で自分より年下の若手達とすれ違う。
「俺はさ、迷宮入りの事件を出さない、科学の力で解決してやるってのが夢なんだ。」
豪はその陽気な研究員の抱負をふと、小耳に挟む。
「夢か……。」
豪は歩きながら戸を開き、その先のドアをカードキーで開く。
「……私の夢は、ガルヴォルス殲滅かな。」
薄暗い部屋で、怪しげな笑みを浮かべながら呟く豪の目線の先に、培養液のような液体で満たされたカプセルの中に、全裸の卓也が浮かんでいた。