ガルヴォルスtransmigration

第8話「復讐の呪い(後編)」

 

 

「まったく、あれはなんだったんだ……まるで、夢を見ているような。 なんて説明したら良いん

だろうか。」

 先程の出来事に疑問と苛立ちを抱きながらシュウはいつの間にか留実子の家の前まで来ていた。

 「あっ!? シュウ!!」

 「うわっ!!」

 その時、玄関のドアが開いて中からメイリが顔を覗かせた。

 シュウは突然の事で驚き、買い物袋を落としてしまった。

 「ご、ごめんね!! 驚かせちゃった?」

 「ま、まあね。」

 その時、メイリがシュウの頬に刻まれた傷を発見した。

 「ど、どうしたの!? それ!!」

 「えっ!?」

 シュウが慌てて頬に手を当てると赤い血が手の平にこびりついた。

 そうか、傷が治らないまま人の姿に戻ったから、少し治癒が遅くなったのか。)

 「いや、これは……。」

 「隠しても無駄だよ!」

 その時、メイリの後ろから留実子が現れて言った。

 シュウはまた跳び上がるように驚いた。

 そして、観念したように溜め息を吐いた。

 

 「え!? また空偉の奴が!?」

 留実子がキッチンでカレーを作っている最中、リビングでリョウが叫ぶように言った。

 「しかも、たくさんの!? 信じられない。」

 「それは僕も同じだよ。 でも、実際に見た。そして、戦った。」

 シュウの言葉を裏付けるように彼の頬に絆創膏が貼ってあった。

 

 その時、メイリは前々から気になっていたある物がシュウの私服の襟口から覗いているのを目にし

た。

 「ねぇ、シュウ。 前から気になってたんだけど、シュウが首に付けているのって何?」

 メイリの疑問を聞いて、リョウもシュウの方を見る。

 「確かにな……アクセサリーにしては、地味と言うか変だ。」

 そう言われて、シュウが首元に付けている環状の金属らしき物を指先で握る。

 「地味で、悪かったね。 さて、明日は学校だし、そろそろ帰ろうかな。」

 半笑いのシュウは突然席を立つと黒いバッグを手に持った。

 「おや、カレーは食べて帰らないのかい?」

 留実子が帰り支度を始めたシュウを呼び止める。

 「明日にでもいただきに上がります。カレーは一日寝かせた方がおいしいですからね。それじゃ

みんな、また明日。」

 シュウはそう言うと、戸を開けて帰って行った。

 ……なあ。」

 リョウがおもむろに口を開く。

 「なに?」

 「地味ってそんなに悪い事言ったかな?」

 「何言ってるの、シュウはそんな事で怒らないわよ。忘れていた予習でもあったんじゃない?」

 メイリが一番考えられる事を言った。

 「なるほどね。 さて、ミカの奴起きたか?」

 「まだだよ。 大分弱りきっていたから、今日は起きないだろうね。」

 留実子がカレーを運んで来て、リョウに言った。

 

 シュウは、寮の自室に帰って、しばらく暗い部屋のぼんやりとしか見えない天井を見つめていた。

 おもむろに、手鏡を手に持って見ると、首元の太さ一センチ無い程の金属物が月光を反射して光沢

を放っていた。

 その時、シュウは幼少時の事を思い出した。

 

 座敷の台を挟んで幼い頃のシュウと祖父のゲンが座っていた。

 「良いか、シュウ。 お前の首に付いているのはただの飾りではない。『封鳳環』というものじゃ

。それは、決して外してはならんぞ。外せば……世に災いをもたらす。 もっとも、外れる事など無

いじゃろうが。」

 ゲンは、フォッフォッと笑いながら最後は締めくくった。

 大事な話さえも、このように終わらせて終うのが祖父の癖だった。

 

 災い決まり文句だよなぁ。だいたいこれ、外そうたって、外れないしね。」

 シュウは煩わしそうに、封鳳環を取ろうと握る手に力を込める。

 しかし、封鳳環は外れるどころか歪みさえもしない。

 「やっぱり、無理か。」

 『ふっ、当たり前だ。』

 その時、シュウの呟きに合わせたようにどこからともなく声が聞こえた。

 落ち着き払ったようなかつ威厳のあるような声だった。

 「誰だ!?」

 慌てて飛び起きるシュウ。

 しかし、自分の部屋のなかにはシュウ以外誰もいない。

 「疲れているのかな……最近、動きっ放しだったからな。」

 呼吸を落ち着かせて、シュウは再びベッドに横になる。

 

 「おはよー! シュウ。」

 メイリがいつもの明るい声で登校途中のシュウに話しかけた。

 「やあ、おはよう。」

 シュウも駆けて来るメイリに返した。

 「今日も私達の家に?」

 「そうだね、そう考えているよ。」

 「そうそれよりさ、今日は確か教育実習生がやって来る日だったね。」

 メイリにそう言われてシュウは日程を思い返す。

 「そういえば、そうだったかもしれない。」 シュウは曖昧な返事をした。

 どうも最近は事が目まぐるしく動き過ぎている。

 

 「では、教育実習生の皆さん。 一言挨拶を。」

 昼過ぎ、体育館の中では教育実習生を出迎える為の簡単な式典が開かれた。

 その中で、司会の先生がマイクで言うと教育実習生数人が壇上に上がる。

 そして、最後の一人にマイクが回って来た時に、男子生徒から少しばかり歓声があがった。

 最後の教育実習生の女性は長くしなやかな黒髪、スタイルや顔も抜群と言える程良かった。

 「皆さん、はじめまして。 雛端ミサコです。私は

 その時、シュウは不穏な気配を感じた。

 (この感じガルヴォルスか!? まさか、こんな白昼堂々と。)

 『おい、嫌な視線を感じる。狙われているぞ。』

 「分かっている。 どこだ?」

 『前だ。』

 「わかった。え?」

 シュウは思わず周辺を慌てて見回した。

 しかし、周りには生徒だけで、あのような声を出すような知り合いはいなかった。

 そして時間は過ぎ、実習生のミサコの話がいつの間にか終わっていたのにシュウは気付かなかった。

 (僕は今誰と話していたんだ? それに、この声はたしか昨日も聞いた。)

 その時だった。

 急に気配が薄れて行く。

 ……思い過ごしかな。 だったら良いんだけど。」

 気を抜くな、あの女はガルヴォルスだ。』

 シュウに間違いは無かった。

 謎の声の主は確かに存在する。

 誰だ、君は!?」

 シュウは小声で、しかし鋭く尋ねた。

 ……いずれ分かるさ。 彼女は、蘇った……ならばやがて、相見えるだろう。』

 そして、その謎の言葉を最後に声の主は応答をしなくなった。

 

 (不思議な事は、連続して起こるんだな。 しかし蘇った彼女? いずれ相見える? さっぱり分

からないな。それに、あの女がガル

 ………ュウ……シュウ!!」

 「えっ!?」

 シュウが慌てて声のした方向に振り向く。

 もう、また考え事してたの?」

 え?うん、まあそういうところ。」

 シュウが取り繕いながら言うと、リョウがニヤニヤしながら

 「シュウやっぱりお前も隅に置けないな。 分かってるんだよ、全部な。」

 シュウにただならぬ戦慄が走った。

 (まさか!? よりによって、ガルヴォルスでないリョウに!?)

 ……な、何を?」

 「お前……新しい女でも作っただろう?」

 一瞬の間

 「ええぇぇ!?」

 メイリの半ば絶叫に近い叫びがしたと思いきや

 「はあ。」

 シュウの安堵と呆れが詰まった溜め息が直後に出た。

 リョウ、君と一緒にしないでくれ。」

 「なぬっ!? コラァ、どういう事だ!?」

 「イテテテ!? やめろって、リョウ!!」

 リョウが冗談半分本気半分でシュウに首絞めを食らわせる。

 その時

 「ん? 何か、当たったぞ? ああ、あの地味なアクセサリーか?」

 「あ!」

 リョウの手が触れた物、それは間違いなく封鳳環だった。

 それ綺麗な色。 何で出来ているの?」

 「さあ。 大した物じゃないと思うけど。」

 三人が話をしながら留実子の家へ歩いていた時

 パーン! パーン!

 銃声らしき音が響いて彼らは思わず目を合せる。

 おばさん家の方からだ!!」

 リョウが叫ぶのと同時に、シュウとメイリは走り出した。

 

 留実子の家、その周辺はレイブンガルヴォルス十体程に囲まれていた。

 「このっ、ズル賢い烏供め!!」

 ベランダで留実子が猟銃を持ち出して応戦していた。

 実は留実子は昔、射撃は国体で一位に輝いた事がある程の腕前だった。

 留実子が放った一発が、レイブンガルヴォルス一体の胸に命中する。

 すると、そのレイブンガルヴォルスは死に絶え砂のように崩れ去った。

 「どうだい、私の特製弾は? 警察とかに正式採用されたのとは威力が違うわい!」

 留実子が言い放ったその時

 「人間風情が、調子に乗るな!!」

 レイブンガルヴォルスが、彼女目掛け突っ込んで来た。

 「くっ油断したわ。」

 留実子が右肩を抑える。

 その抑えた手からは血が滲み出ていた。

 いたぞ、マウスだ。」

 すると、レイブンガルヴォルスが留実子がいるのと同じ部屋で未だに眠っているミカを見てそう言

った。

 マウス?」

 留実子が疑問に思った言葉を呟いた。

 「お前は知らなくて良いさ。 さて、邪魔立てしないなら命は助けるが?」

 「ふん。 命の一つや二つが怖くて医者が務まるかい!」

 留実子がレイブンガルヴォルス数体に向けて言い放った。

 「そうかい。 それじゃぁ、死ね!」

 レイブンガルヴォルスが留実子に爪を振り上げる。

 その時、留実子は素早く猟銃を持ち直し引金を引いたが

 カチッ!

 しまった、弾切れ!! 私とした事が!)

 留実子に焦りの表情が浮かんだその時

 「やめてっ!!」

 「何!? うおあっ!?」

 前にいたレイブンガルヴォルスの横から何かが飛び出してそのまま地面に倒れ込んだ。

 「なんで、おばさんを狙うの!?」

 それは、ペンギンガルヴォルスに変身したメイリだった。

 「おばさん!! な、何なんだお前達!?」

 リョウが同じ容姿のレイブンガルヴォルスを見て言った。

 「リョウ、彼らだよ。 昨日、街角で僕を襲ったのは。」

 フェニックスガルヴォルスに変身したシュウがリョウを降ろして言った。

 「て言う事は、空偉の奴か。」

 リョウが歯がみするように言った。

 「とにかく、おばさん達を助けなきゃ!リョウ、君はおばさんの近くに!」

 「いや。 俺が行く。」

 「え!? だって君は!?」

 「シュウ前に話しただろう?  俺は小さい時にって。」

 「そう言えば、ガルヴォルスに転化したって?でも、君は変身や力の使い方は

 「大丈夫だ、任せろ!!」

 そう言うと、リョウが体に力を込めだす。

 (俺は恐れていた。 正体を知られる事や、あんな風に死ぬ事を。 でも、そんな俺にいつしか仲

間が出来た。今、俺には守りたい奴等がいる。逃げてばかりじゃ、後悔して一生損だ!!)

 リョウから放たれる力の波動を感じてフェニックスガルヴォルスであるシュウが思わず後退りをす

る。

 俺はもう、恐れない!!」

 その瞬間、リョウの顔面に紋様が浮かび彼の体が変化した。

 現れたのは、赤いたてがみに鋭い牙と爪を備えた異形の者。

 これが、俺の覚悟だ!!」

 すると、咆哮をあげる獅子を思わせる、ライオンガルヴォルスとなったリョウが凄まじいスピード

で走り出して行った。

 「なんだ、コイツはデーターに無かったぞ!?」

 レイブンガルヴォルスが驚きの声をあげる。

 「お前ら、あんまりしつこいと嫌われるぜ!!」

 彼ら目掛け、リョウが切り込んで行った。

 目にも止まらぬ速さで、あっと言う間に三人をその爪で葬り去った。

 特に、女にはな!!」

 キメ台詞とは言いがたいような言葉を言い放つリョウ。

 「お前、リョウなのかい?」

 それを見ていた留実子が驚きがまじっている声で尋ねた。

 「おばさん、もう大丈夫だぜ。 俺はもう迷わない!」

 そう言うと、次なる獲物目掛けライオンガルヴォルスに変身したリョウは再び飛び出して行った。

 

 

 次回予告

 

 迷いを捨て去り、ガルヴォルスへの変身を遂げたリョウ。

 そして、遂に動き出す敵。

 その時、蘇るのは

 

 「フフッ、意外にもろいのねお二人さん?」

 「まさかな。 さてお前、反逆の罪は重いぞ?」

 「私達が化け物呼ばわりされるなら、アイツはなんだって言うのさ!?」

 素晴らしい! 伝承は本当だった。 天を焦がす力を持った凶鳥だ!!」

 

 次回 第9話「いにしえの凶鳥」

 

 

 

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