ガルヴォルスtransmigration
第4話「Do or Die.」
数日後
市場襲撃の犯人の手掛かりを見つけられぬまま一向に捜査が進展しないことに、登は頭を抱えていた。
「うーむ、目撃証言から犯人は幼い少女というのが分かったが、小さな子に職務質問て言うのもなぁ…。」
捜査一課は、完全に捜査がストップしていた。
そんな中、喬子は偶然会ったメイリの事を思い出していた。
『あの髪が白い子、何かを知っているような気がする。』
「あの…主任。」
喬子は思うのとほぼ同時に登のデスクの前に立っていた。
「ん?どうした、田奈井君?」
登がパソコンから目を離して言う。
「少し、情報収集に出て来ます。」
「そうか、何か分かったらすぐにな。」
少しでも情報が欲しい今の状況を考えて、登はすぐにそれを承諾した。
「これを、万有引力と言い…。」
一方、シュウ達は高校の授業中だった。
まさにその時だった、またしてもシュウとメイリはガルヴォルスの気配を感じ取った。
『この感じは、市場の…。』
メイリは戸惑いの表情でシュウに顔を向けた。
「うわぁぁあ!!化け物だ!!」
町外れの中小工場で、作業服をきた若い男性達がサンデューガルヴォルスに襲われていた。
「みんな…私の栄養。」
サンデューガルヴォルスはたくさんある蔓を伸ばし次々に力を吸い取っては人々を砂のような亡骸に変えていった。
サンデューガルヴォルスが少女の姿に戻った時には、動く物は彼女と機械以外何もなかった。
授業後、二人は屋上でガルヴォルスの気配を探した。
しかし、既に人間の姿に戻ったらしく気配は絶たれていた。
「ダメだね、もう見つからない。」
シュウが意識の集中を解いて言った。
「でも…このままじゃまた…。」
メイリが焦りを浮かべた表情で言った。
「迂闊に動く事も出来ないよ。正体を見られることになるかもしれないからね。」
シュウが仕方なさそうに言う。
彼にもまだ有効な手立てが見つかっていなかった。
その頃、喬子はシュウ達の属する高校に来ていた。
『あの子の制服は間違いなくこの学校の物だった…。帰り際に訊いてみるとしようかしら…逃げられなければ良いけど。』
そう考えていた時、喬子の携帯が鳴る。
『あら?主任から…。』
喬子がそれを手に取ると通話のボタンを押す。
「はい、田奈井ですが。」
《田奈井君、事件だ!》
「えっ!?あ、あの、場所は?」
《西町三丁目の、加田岡工業の工場だ。我々も急行する。》
「分かりました。」
すると、喬子は車に乗り込むと高校の正門前から離れようとしたその時、喬子は少し離れた場所から小さな少女が近付いて来るのを発見する。
『あの子…もしかして!?』
喬子は、事前に市場を襲ったガルヴォルスについて聞き込みをしていたため、その少女がガルヴォルスでないか疑いを持っていた。
『でも…確証はないわね…。』
しかし、そうは思うものの『迷ったらやれ』、これが喬子の座右の銘でもあった。
「…一つ聞くけど、あなたは昨日、河西の市場に行ったかしら?」
車から降りた喬子が少女に単刀直入に質問をした。
「うん…おいしかった。」
少女は満面の笑みで喬子に言った。
『お、おいしかった?って、何の話をしてるのかしらね…。』
「お姉さんも、おいしそう…。」
その瞬間、満面の笑みの少女の頬に異様な紋様が浮かぶ。
喬子が、少女の言葉と変貌に驚愕するのはほぼ同時だった。
「くっ!」
喬子が忍ばせておいたピストルに手を伸ばすが、その前にサンデューガルヴォルスの蔓が彼女の体を締め上げた。
「あああぁっ!!」
ギリギリと締め付けられる苦痛で、喬子はピストルを落としてしまう。
「今はお腹いっぱいだから、後から食べてあげるね。」
すると、少女は他方の蔓から緑の透明な粘液を喬子に吹き掛けた。
「ああっ!!…えっ!?…何これ!?…体が…動か…ない…。」
そこまで言うのがやっとだった。
喬子は驚愕の表情のまま固まり、少女の保存食と化した。
「まだ、足りない…。」
そう呟くと、少女は次の目標を目の前の高校の中にいる生徒や先生達に定めた。
シュウは、少女と喬子のやり取りを少し前から気にしていた。
『あの二人…正門前で何を…?』
窓際に席があるシュウは目を横に向けてそれを見ていた。
『小さい子に、大人の女の人が何かを話して…えっ!?』
その時、少女の姿がサンデューガルヴォルスへと変化したのを見て、シュウが驚く。
「みんな…私の栄養さん。」
少女はこれまでに取り込み吸収した力を発揮し、蔓をたくさん生やすとそれを校舎に向ける。
「な、なんだありゃ!?」
それに気付いた生徒達が騒ぎ出す。
もはや授業どころでは無かった。
先生も、授業を中断して外にいる異様な訪問者を見ていた。
その時、蔓が一斉に校舎に向かって伸びて来た。
「いけない!!みんな、伏せて!!」
その瞬間、窓際の壁が吹き飛んだように崩壊し蔓が飛び込んで来た。
「シュウ!!…シュウ!!…起きて!!」
メイリの必死な呼び掛けに目を覚ますシュウ。
吹き飛ばされた衝撃で気を失っていたらしい。
「…メイリ…、僕は…うあっ!?」
シュウが体を動かそうとして激痛に襲われた。
崩壊した、建物のコンクリートなどの破片が当たったのか、シュウの左肩と右足は潰されたようになっていた。
「シュウ、動いちゃだめだよ!!破片は取ったけど…酷い怪我。」
メイリが泣きそうな表情で言う。
「メイリ…みんなは?」
すると、メイリが立って横にはけると半数くらいのクラスメートが恐怖や驚愕の表情のまま緑の琥珀と化していた。
その中には、逃げ遅れたリョウや章彦も入っていた。
「こんな事…くっ!?」
シュウが起き上がるが、歩く事さえ出来ない状態の彼には壁に寝かかるのが精一杯だった。
「メイリ…君がやるんだ。」
血が滴る左肩を押さえてシュウが静かに言う。
「今…みんなを助けられるのは、君しかいない…だから!!」
シュウの言葉に困惑するメイリ。
その時、二人を察知した蔓が教室内に侵入する。
「いけない!!」
メイリがシュウを庇うように覆う。
しかし、そのメイリの身体に蔓が巻き付く。
「あうぅっ!!」
締め付けられる痛みに顔を歪めるメイリ。
その時、シュウが動かせる右腕をかざすと、猛火を纏った羽根が蔓に刺さる。
シュウは完全に変身しなくても、一部の能力を使う事が出来る。
蔓はその部分が焼け落ちるとメイリを解放した。
解放されたメイリがシュウに近寄る。
「シュウ…。」
戸惑いを露にするメイリ。
「僕は大丈夫だから、メイリは、あのガルヴォルスを止めるんだ!!君が、もうやるしかない。」
シュウはメイリ以外、サンデューガルヴォルスを倒せるのはいないと思っていた。
シュウの必死の叫びにメイリはようやく腹を括った。
「分かったよ…私もみんなを助けたい。シュウは休んでいて…。」
そう言うとメイリは教室を走って出て行った。
『メイリ、頑張ってくれ。』
シュウは行く末をメイリに委ねた。
既にサンデューガルヴォルスの蔓が校舎の外壁を覆い尽くしていた。
外側から見る限り壁の至る所に亀裂などが入っていた。
既にサンデューガルヴォルスの本体は屋上に移動していた。
そこに気配を辿ってきたメイリが現れる。
「あなたが、みんなを…。」
するとメイリの声にサンデューガルヴォルスが振り向く。
「お姉さんは?」
「誰だって良いわ。いい?みんなを元に戻して!」
真剣な顔でサンデューガルヴォルスを見据えるメイリ。
「それは出来ないよ。だって、みんな私の栄養だもん。」
「もうやめて!これ以上みんなを襲うなら私は…あなたを倒す!!」
メイリの頬に異様な紋様が浮かび彼女はペンギンガルヴォルスに変身を遂げる。
「お姉さんも…ガルヴォルスだったんだ…。でも、私の邪魔をするなら栄養になってもらうよ。」
そう言うと少女はメイリにたくさんの蔓を伸ばし、放つ。
すると、それに対抗してメイリは氷の刃を出現させると蔓に向け放つ。
的確に命中すると、それが刺さった部分から徐々に凍り始める。
「いたいっ!!このっ!!」
少女が痛みに呻くも、すぐに新しい蔓を生やし回復してしまう。
数多の生命力を吸収した彼女の回復力は、既に並大抵の物ではなかった。
『あの程度じゃ駄目…やっぱり、本体を狙うしか…。でも、迷っちゃだめ…。』
少女を手にかけることに気が引ける思いだが、メイリはそれを振り払うように冷気を纏った槍を具現化する。
「お姉さん、痛かったから許さないよ…いますぐ栄養になってもらうから!!」
そう言うと、少女は尖った蔓を生やしそれをメイリに向ける。
それは突き刺した相手の体液を吸い取るという速攻性の吸収攻撃だった。
その時、メイリが槍を持つ手に力を込めると槍に冷気が収束する。
「これでおわりだよ!!」
サンデューガルヴォルスの少女がそう叫ぶと尖った蔓をメイリに放つ。
「ごめんね…。」
メイリがそう呟いた時、彼女は槍を少女に投げ付ける。
「そんなものっ!…えっ!?」
少女が尖った蔓でそれを叩き落とそうとした時、まだ槍に触れてもいない蔓が瞬時に凍ると槍に触れた瞬間砕け散った。
槍はそのまま驚愕の表情のサンデューガルヴォルスの少女の胸に突き刺さる。
「あ…ぁっ…。」
少女が少し呻くと、凍りは瞬く間に彼女を氷そのものに仕立てあげた。
すると、メイリが動かなくなった少女にゆっくり近付く。
メイリの目から涙がこぼれ落ちる。
「ごめんね…これが私があなたにしてあげられる事。最大限の冷気で何も分らない内に、痛くないように…。」
メイリが震える手で少女に刺さった槍を引き抜く。
「許してね…。」
メイリがそう言ったその瞬間、少女の体はガラスを落としたように音を立てて崩れた。
その時、緑の琥珀に閉じ込められていた生徒や先生達が解放される。
「はぁ…はぁ、ちょっと…疲れ…。」
その時、肩で息をしていたメイリが人の姿に戻ると後ろにふらつく。
しかし、地に倒れる前にメイリを、駆け付けたシュウが支える。
「…シュウ…大丈夫…なの?」
「もう大丈夫だよ。メイリの方こそ…。」
その言葉を聞いて安心したのか、メイリは極度の眠気に苛まれる。
「私…少し、力を使いすぎちゃったかな…眠いよ…。」
すると、メイリはシュウの腕の中で眠るように意識を失った。
「みんな助かった。君のおかげだよ、メイリ。おやすみ…。」
シュウがそう言うと、彼の頬に紋様が浮かびフェニックスガルヴォルスに変身する。
シュウは、深く眠るメイリを抱えると飛び上がり、オレンジの翼を広げ大空に飛び去った。
次回予告
「あの子は、死人同然だったからねぇ・・・。」
「あんたは死んじゃいけんさ。」
「早速、実験開始だな。」
「邪魔なんだけどね・・・。」
「それは、君の傲慢な思い過ごしだよ。」