ガルヴォルスtransmigration

第5話「揺らぎの第一波」

 

 

登達が、学校に駆け付けた時に最初に見た物は、荒れ果てた校舎と脱力し倒れている喬子だった。

「田奈井君!大丈夫か!?」

登は駆け寄ると喬子を起こす。

すると、気を失っているだけで外傷が無い事を確認した。

「・・・何とか、無事のようだな。念のため、彼女にも救急車の手配を。」

登が周りに指示を出す。

そして、パトカー内の無線を手に取る。

「現場の木崎だ。ガルヴォルスは見当たらないが・・・。」

《はい、少し前に二体が。その後、反応が立て続けに二体とも消えました。そして、三体目が現れて北北西に移動。その後、反応をロストしまいた。恐らく低空飛行したと思われます。また、三体目の反応は先週の公園襲撃時の二体目の反応と酷似しています。》

「そうか、分かった。ご苦労。」

そう言うと登は無線を置いた。

「中は安全だ!救助を急げ!」

登はそう言うと自ら先に学校内に入って行った。

 

一方、シュウは市街から少し離れたところにある小さな山の麓にある、洋風の家にいた。

「さっきは何があったのかと思ったわよ。」

初老の女性がそう言いながらコーヒーを持ってやって来る。

彼女は、前田 留実子(まえだるみこ)。シュウの祖父、ゲンの兄の娘、つまり姪である。

医者や生物学者である彼女はシュウやメイリがガルヴォルスである事は知っており、また駆け込み病院でもあった。

そして、何と言っても彼女はメイリの養母である。

「おばさん、すいません。いきなり・・・」

シュウが出されたコーヒーに砂糖を入れながら言った。

「学校が襲われたんですってね、大変だったわね。」

「でも、僕は何も出来ませんでした・・・。メイリのおかげです。」

「力を使いすぎたみたいね、回復するまで起きないでしょうね。」

「そういえばゆっくり休んでって言いました。その前に、僕も同じ事言われてたんですけど…。」

シュウが苦笑いを浮かべる。

「・・・あの子、変わったわね。あなたも分かるでしょう?」

「なんか・・・こう、表情が自然になったって言うか、初めて逢った時はまるで暗い人形みたいだった。」

「そうね…でも、それだけじゃない。」

留実子の言葉にシュウが顔をあげる。

「正義感と言うより、使命感。彼女にはそれが芽生えたのよ。今日の事を聞いて一層思ったわ。」

「使命感…?」

シュウがすぐに聞き返す。

「よくは分からないけど、誰かを守りたいとか助けたいてね…。知っているかしら…助けられた人間ていうのはね、今度は誰かを助けようとするの。代価を求めるためで無く、自分がそうしたいとおもってね…。」

「・・・。」

「死ぬ事を欲していたメイリを助けたのは、紛れもなくシュウ、あなた自身。」

「僕自身…。」

「だから、あなたは死んじゃいけないよ。絶対に・・・。」

 

『はぁ、言う事すごいなぁ…とても40代の女の人とは思えないなぁ…。』

シュウは留実子の言葉がまだ頭の中でこだましているような感覚を覚えながら、寮に戻っていった。

「ん?シュウか?良かった、無事だったんだな。」

寮に戻ると、寮監の先生に呼び止められる。

「はい、なんとか…。」

「それは良かった、他の奴等も死人はいなかったが、怪我人は少なからずいるらしい…。」

 

寮監の話では、学校はしばらく休みになるらしい。それを聞いたシュウはある事を考えていた。

「久しぶりに、彼に会ってみるか…。」

そう呟くと、机に伏せって眠り始めた。

『今日はなんか疲れたな…。』

シュウは安堵のため息まかをついた。

 

数日後、シュウはすっかり元気を取り戻したメイリとリョウとである病院を尋ねた。

メイリが病室の名前札にある名前を見つけると、三人はその中に入る。

「宏くん久しぶり!」

メイリが言う先に、メガネをかけた青髪の青年がベッドから起き上がっていた。

彼は、如月 宏成(きさらぎ ひろなり)。

シュウは小さい時から親しい、言わば幼馴染みなのだが宏成が生まれつき病弱なため入退院を繰り返し、そのためなかなか会う事が出来ずにいた。

「シュウ、それに氷室さんに那々瀧君、久しぶり。」

意外そうな顔で三人を迎える宏成。

「宏成、きみはまた僕と並んでいたよ。」

シュウがこの間のテストの結果を伝えた。

「またか・・・どうしても並んじゃうなぁ。」

宏成が苦笑いを浮かべる。

三人はしばらく、雑談を楽しんだ後そばにあったテレビをつけてみる。

『こちらは、事件のあった学校です。ブルーシートの部分が見えますでしょうか。あの部分が損壊が激しい場所です。警察は、未だに詳細を伏せており、被害者への取材も一切禁止という異例の措置をとっています。・・・・・以上、現場から中継でした。』

それを見た宏成が唖然となる。

「だ、大丈夫だったのかい!?ていうか、何があったんだ?」

「よ、よく分からないな。僕たちは逃げ切れたから良かったんだけどね。」

シュウが慌てて言い繕う。

「・・・また来るね、宏くん。じゃ・・・。」

メイリがそのまま後ろを向いて部屋を後にした。

「え、あ、うん。じゃあ。」

宏成は話の流れが分からず曖昧に返事をする。

 

「メイリ・・・大丈夫?」

シュウが病院の外に立ち尽くすメイリに声をかける。

「・・・うん、ちょっと、思い出しちゃって・・・。ははっ、それじゃ・・・。」

メイリは明らかな作り笑いでそのまま帰って行った。

「メイリのやつ、どうしたんだ?」

リョウが不思議そうに言う。

「今は・・・そっとしておこう。今はね。」

シュウがメイリの後ろ姿を見つめながらリョウに言った。

 人を襲っていたガルヴォルスと言えど元は人間。シュウには、そのガルヴォルスの少女を手にかけたメイリの苦しさは痛いほど伝わって来た。

 

そのころ、大俵化製コーポレーションのビル。 仁村が社長の博文に呼ばれていた。

「どうだね、進み具合は?」

「はい、遺伝子を解析するという方法で研究を進めましたところ、かなりの成果がありました。それともう一つ、人間の治療薬としての応用も利く事が分かりました。」

それを聞いた博文が薄笑いを浮かべる。

「・・・それは、確証があるのかね?」

「もちろんです、既に手配も始めております。」

「フッ、相変わらず準備は良いな。で、具体的には?」

「はい、一般的にガルヴォルスは人間とは比べようが無い治癒力を持っています。そこで、ガルヴォルスの実験体を入手し、研究を重ねて行くことが一番の近道かと考えます。」

「実験体ね・・・宛はあるのかね?」

「これをご覧ください。」

仁村は茶封筒に入っていた書類を博文に差し出す。

「7年前の、一家惨殺か・・・フフ、なるほど、孤児かつ転化の事実を知っている者が少ない。そういう事か。」

博文が哄笑しながら書類を捲る。そして、その中にはメイリの写真が綴じられていた。

「エージェントは送ったのか?」

「はい、それも手配済みです。」

「では、任せたぞ。」

博文からそう言われた仁村は、丁寧に頭を下げると社長室を後にした。

 

数日後、学校の授業は別の教室を使って行うという形で再開した。

メイリはあの後、留実子の助言を受けたらしい。そのおかげで、シュウはいつものメイリが戻って来たような気がした。

その時、担任の三野が教室に入って来る。

「えー、こんな状況だけど、転校生を紹介する。」

三野の突拍子もない言葉に教室中が騒然となる。

「どうぞ、入って来て!」

三野が声を掛けると黒い長髪の男子が入って来た。

それなりに顔立ちは良かったので女子達は半ば狂喜していた。

「空偉 卓也(そらいたくや)です。いきなりですが、よろしくお願いします。」

「では、空偉君は一番後ろの席に座ってくれ。」

三野がそう言うと卓也は素直に席に向かった。

 

昼休み、シュウとメイリが常に一緒にいる事に気付いた卓也は章彦に尋ねる。

「あの二人は、いつも一緒なのかい?」

「ああ、そうそう。二人は仲良しさんさ。」

章彦は少しふざけて言った。

「そうかい・・・。」

すると、卓也の目線がメイリからシュウに向けられる。 その目に、殺気をやどして・・・

 

シュウとメイリがいつもの帰り道を帰っている。ただ、それを尾行する一つの人影があった。それは紛れもなく卓也だった。

「それじゃあシュウ、また明日。」

町外れの交差点でメイリが別の道に入っていく。

それを見計らって卓也はシュウの後をつけ始める。

(仕方ない、アイツには消えてもらおう・・・)

卓也が構えると卓也の右手が鋭い爪を持った人とは思えない物に変化する。

そして、角を曲がったシュウに一気に距離を詰めて爪を振り上げる。

しかし、角を曲がったはずのシュウの姿は無く卓也の目の前にはただの人気のない路地が広がっていた。

(いない、消えた!?)

卓也が、右手を元に戻すと辺りを見回す。

「君は卓也君、だったかな。僕に何か用?」

その時、卓也は声がした方に振り返る。

すると、塀の上にシュウが立っていた。

「なっ・・・お前は・・・。」

卓也が思わず言葉を漏らし後退りする。そして、シュウが飛び下り、卓也の前に着地した。

「さっきから、何の用で付いて来てたんだい?あまり、良い趣味じゃないと思うけど。」

シュウが驚いた面持ちの卓也に言う。

「それに、君は人間じゃ無さそうだ。」

「くっ、やはり見られていたか・・・ならば、少し場所を変えるぞ。」

 卓也がバツが悪そうな表情で言った。

 

二人は人気のない河川敷に移動した。そして、お互いに距離を取る。

「最初に忠告をしておく。氷室メイリから離れろ、彼女は危険だ。そうすれば、命までは無くさないだろう。」

卓也が振り返って言った。

「彼女が、メイリがそう望むのだったらそうしよう。でも、それは君の考えだろう。」

シュウは依然として態度を崩さない。

「ならば、言い方を変えよう。彼女と俺はガルヴォルスという人間の進化、まさに人を超越する存在だ。だから、彼女の事を理解出来るのは俺だけだ!!」

卓也はシュウに言い放った。しかし、シュウはしばらく考えるとすぐに口を開く。

「・・・少なくとも、何も知らない君よりは僕が彼女の事を理解出来るはずだ。君の考え、それは君の傲慢な思い過ごしだよ。」

「なん・・・だと・・・!?」

卓也は唇を震わせるがすぐさま態度を取り直す。

「いいだろう・・・ならば死んで後悔しろ!!」

卓也が叫ぶと彼の頬に紋様が浮かび、彼の姿が黒く鋭い羽根と爪を持ったカラスを連想する姿に変化する。

しかし、未だに態度を崩さないシュウ。それを見て卓也が痺れを切らす。

「邪魔なんだけどね、だから死んでもらう!」

すると、黒い翼から二本の羽根を放つ。

しかし、それは御世辞にも速く無く、シュウはそれを後ろに跳んで避ける。

(スピードは対した事じゃないのにたった二本・・・?)

シュウが卓也の攻撃に困惑していると、卓也が空に飛翔する。

「かかったな!!」

彼がそう叫んだ瞬間、二つの黒い羽根は轟音と共に爆発した。

それを見下ろして卓也が哄笑する。

「並みの人間ならバラバラだな、物分かりが良ければ死なずに済んだものを・・・さて、後は彼女を捕獲して・・・。」

彼が言いかけたその瞬間、レーザーのような閃光が2発、土埃をあげる地上から放たれた。

(何っ!?)

卓也は回避しようとしたが光線の速度は余りにも速く、一つが彼の肩を霞めた。

「ぐっ!?これは・・・!!」

光線が霞めた肩の部分は焼けたように黒ずんでいた。

「君が、何を企んでいるのかは分からないけど・・・。」

その時、地上からシュウの声が聞こえ卓也が驚愕する。

「メイリやみんなを傷つけるなら、僕は君を倒す!!」

その瞬間、土埃の中からフェニックスガルヴォルスに変身したシュウが爪を振りかざして卓也に向かって飛んで来た。卓也はとっさに回避する。

「まさか!!・・・お前は!?」

卓也はシュウもガルヴォルスであったという事実に驚きを隠せなかった。

 

 次回予告

迫り来る陰謀の黒い翼、それを迎え撃つ不死鳥。

メイリの身を案じたシュウは留実子と相談する。

しかし、今度は別の魔の手が・・・

 

 「・・・一体どういう事なんだ・・・?」

 「これ以上、彼女を苦しませたくない。」

 「おのれ、このままで引き下がると思うなよ!」

 「人が・・・石に!?」

「私は、信じてるよ。」

「それは僕も同じだよ。」

 

次回

第六話 Head on.

 「シュウ、私決めたよ。」

 

 

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