ガルヴォルスtransmigration
第2話「人を救う怪物」
「メイリ!早く、僕は大丈夫だから!」
「…わかったわ!」
メイリはシュウの言葉を信じて女の子の手を引いて走り出す。
「おやおや、町中で鬼ごっこをするのかい。」男が不敵に笑いながら言う。
「僕はあなたに訊きたいことがある。なぜこんな酷い事を…。」シュウが男を見据えて言う。
「なぜ? ククク、決まっているだろう。俺は殺しが楽しくてしょうがない。愉快で愉快でたまらない!!」男が感情のまま言い放つ。
「それでは、まずはお前で楽しませて貰おう。」
痺れを切らしたようにアースワームガルヴォルスがシュウに飛び掛かる。
「そんな…勝手な理由で…あんたは、あなたは人を何だと思っているんだ!」
その時、怒りの叫びを上げたシュウの頬に異様な紋様が浮かぶ。
「なっ、まさか…お前!」その光景に男が驚愕し言葉を漏らす。
やがて、シュウの姿が変わり彼はフェニックスガルヴォルスに変身を遂げる。
「まさかお前もガルヴォルスだったとはな、だかいい、人間のひ弱な感触には飽き飽きしていたところだ!!」
すると男が触手を伸ばしそれをシュウの方向に向ける。
「お前はどんな表情と共に死んでくれるのか!」男が言い放つと触手をシュウ目掛け放つ。
それは、勢い良くシュウの姿を貫く。しかし、瞬時に男は異変に気付く。絶命するはずのシュウの姿が消えたのである。
(まさか、残像!!…奴はどこに!?)
男がシュウを見失った瞬間、触手がシュウの上空からの具現化したオレンジの大剣の一閃で切り裂かれる。
「ぐわああぁぁぁ!!」男に身体に激痛が走り叫び声を上げる。
すると男は敵わないというのを直感し地面に穴を掘って脱出しようとする。
しかし、その男の体をシュウの鉤爪のように変化した足が捕らえる。
「な、なっ!?」
穴から男を引きづり出したシュウは男を、穴が掘れないように敷地内のコンクリートの部分に叩き付けた。
それを見届けるとシュウが息を荒げる男の近くに降り立つ。
「ハァ、ハァ、ま、待ってくれ。もう人は襲わない。
「その言葉、本当か?」
「ほ、本当だ。誓う!」男がシュウに懇願する。
その時、男から切り離された触手の数本が蠢くと、槍のように鋭く尖った。
「ただし…お前が生きている限りな!!」
男はシュウの期待を裏切り離れた場所にある槍のように尖った触手を動かしシュウに放った。
しかし、それはシュウの背中に刺さる前に猛火に焼かれるように消し飛んだ。
「なっ、馬鹿な!!」
男は最後の切り札さえ失い、愕然とした。
「超高温の空間を作り出す事くらい造作もないよ。あんたのあれが飛び込んだのはまさにその中だったというわけさ。」
シュウが真剣なまなざしを男に向け、言った。
「僕は、もうあんたには憐れみも感じない。」
シュウが言ったその瞬間、シュウの片翼が鋭い刃状になり、それが男の胸部を貫いた。
「がはっ!!…ま、まさか、俺が…死ぬ…とは。」
男が目を見開き吐血しながら叫ぶと、シュウが翼を引き抜く。その瞬間、男が人の姿に戻ると白く固まりそして砂のように崩れ去った。
「これが心を失った人の進化の末路…。」
シュウがそう呟きながら、翼にこびり付いた赤い血を振り払う。彼の姿がフェニックスガルヴォルスから人の姿に戻った時、石化していた人々が解放される。
「お姉ちゃん?…どこ?」その時、低学年くらいの男の子が辺りを見回しながら不安そうな声で言う。
そして彼の目に飛び込んで来たのは、見慣れた姉の服とそれから飛散する灰色の砂のような変わり果てた姉の姿だった。
それは男が死んだからといって元に戻る訳ではなく、彼女が命を失ったということを意味していた。
その瞬間、泣き叫び始める男の子。彼はそれが姉だと信じれるはずが無かったが、目に映るそれは紛れもない真実だった。
シュウにはかける言葉が見つからなかった。
どうしようかと迷っていたその時、パトカーのサイレンが聞こえる。
無事に逃げきれた人々の誰かが呼んだのだろう。
シュウは仕方なくその場を後にするしか出来なかった。
「あっ!シュウ!」
メイリが歩いて来るシュウの姿を認識すると彼に駆け寄る。
「さっきの女の子は?」
シュウがメイリに、助けた女の子の事を尋ねた。
「家まで一緒に付いて行ってあげたから安心よ。」メイリが笑顔で答えた。
「それより、そっちは?」メイリが笑みを消して尋ねる。
「彼は止めたよ。大丈夫だけど、むしろ心が…」
すると、シュウは先程の出来事をメイリに話した。
それを聞いたメイリが沈痛な面持ちになる。
「酷い…そんな事が…。」
「その男の子になんて言ったらいいか、遅かったって謝るのか、慰めるのか…僕は分からなかった。」
シュウが頭を抱えて言った。
その頃、公園では。
「全く、こんなに殺しやがって。」中年の男性警官、木崎登(きざきのぼる)が言葉を漏らす。
「酷いですね、どうしてこんな…。」レディーススーツ姿の若い女警官、田奈井喬子(たないきょうこ)が辺りを見て言う。
その時、一人の警官らしき男が登に駆け寄る。「本部より目撃情報です。それによると、人々を襲っていたのは黒いボロボロの服を着ていた男とのことです。」
「なるほど、ではあれが犯人の成れの果てか。」登が傷の付いた地面の辺りに落ちている、アースワームガルヴォルスだった男の傷物の服と、飛散する砂のような物質を見つめる。
「ガルヴォルスの反応は2体でした。ですから…。」
「誰かは知らんが、犯人を止めてくれた、というわけだ。」
登が喬子の言葉を先読みした。
「そうですね、ガルヴォルスもまだ、捨てたものじゃないですね。」
喬子はそう言うと落ち行く夕日を見据えた。
「あれも、人なんだよね…。私達も…」
メイリが静かに呟いた。
「そうだよ、僕は彼を殺めた。人間の進化である彼を。」
シュウが夕日を見上げながら言った。
「それが…一番良かったんじゃないかな。あそこで彼を止めていなかったら、もっと…。」
メイリもシュウと同じく夕日を見上げる。
「少し、安心したよ。ありがとう、メイリ。」シュウが歩きながら言った。
「どういたしまして。」
メイリもシュウの後に続きながら言う。
二人の心はもう、落ち着きを取り戻していた。
次回予告
二人の願いは恒久なる平和。
だがそれも空しく、またしても不気味な影が忍び寄る。
「栄養とらなくちゃね。」
「会ってみたらどうかな?」
「AGPOが完成すれば我々のシェアはさらに広がる。」
「お姉ちゃんを殺した怪物は嫌いだよ。」
「でも、僕は…」