ガルヴォルスtransmigration
第1話「As human.」
広い都会と自然が入り交じった地域。ここに有名な進学校がある。
その高校で今、数日前に行われた試験の優秀成績者が貼り出されていた。
「相変わらず、如月と山都が並んでるな。」
「うわー、大分落ちてしまった…二者面なんて言われるか…。」
生徒達は喜びや悲壮感と様々な表情で眺めている。
それを、黒髪の青年も眺めるとため息をつく。
「ねぇ、シュウ!また載ってるじゃない!今度、数学を教えてよ!」
背中まである長い髪の少女がシュウに駆け寄りながら言う。
氷室メイリ。彼女の特徴はなんと言っても透き通るような白い髪だった。
「メイリ、いきなりそんな事言われても…。」
シュウが苦笑いを浮かべる。
「おうおう、今度は分かるまでみっちり教えてもらうぜ。」
すると、後ろから短い逆立った茶髪の青年、那々瀧リョウがシュウに言う。
「リョウ、君まで…。」
「嫌とは言わせないぜ、お前が書いてもらったラブレターならぬラブメールの代筆!しかし結果フラれちまったぞ!この責任、俺の成績向上という代価で取って貰うぞ!」
「そ、そんな勝手な!」
シュウがリョウの気迫に思わずたじろぐ。
「なんて言われてフラれたの?」
するとメイリが率直に尋ねる。
「これを見ろ!この瞬間、俺の心は…心は!」
リョウはポケットから携帯を取り出すと画面を見せる。シュウとメイリがその画面をみ見た瞬間、
「ブッ!」
二人は堪え切れず吹き出す。
「お、お前ら!人の不幸を笑うな!」
リョウが憤慨する。
「ハハハ…ごめんね、笑っちゃいけないんだろうけど…アハハハ。」
「ハハハ、確かにマズかったかもな。『顔と言葉が合ってない。気持ち悪い。』って正にその通りだ。」
シュウもメイリも腹を抱えて笑っていた。
「だから、笑うなー!」
リョウは半ば半泣きになりながら叫ぶ。
「なんだ、また君達か…。」
すると、気取ったような嫌味がましい声が聞こえた。三人が振り向くと髪をきれいに整えたいかにもお坊ちゃん風の青年、大俵章彦が近付いて来た。
「君達、勉強は一人でやるものだと思うけど。」
「あなたには関係ないでしょ。」
章彦の言葉にメイリが不満そうに言う。
「なに、僕はただ意見してあげただけさ。聞くも聞かないも君達次第。ところで、山都君。」
「何か?」
章彦が声をかけると、シュウが無表情で振り向く。
「良く言う言葉で、天才と凡人は紙一重と言うだろう。」
「それは分かっているよ。少し調子に乗っていたかもね。」
シュウが顔を章彦から背けて言った。
「でも、章彦君。」
「どうかしたのかい。天才君。」
章彦は相変わらず嫌味を吹掛けてくる。
「僕は天才じゃないけど、きみは天才と凡人は紙一重て言うくらいだから、次は一番取れるよね。」
その瞬間、章彦は墓穴を掘ったことに気付いた。
「じゃ、章彦君。」
シュウがそう言うと、三人は章彦のバツが悪そうな表情を尻目に教室に戻って行った。放課後、三人は教室で自習をしていたが学校の閉門の時刻が迫っていたので学校を出た。
「シュウ、ありがとな。お陰で5点は上がりそうだ。」
リョウがふざけたようにいう。
「たったの5点…?まだ分らないところが?」
シュウが呆れたように尋ねる。
「冗談だ、じゃあな。」
そう言うとリョウは、反対側の駅に向かって歩きだした。
一方、町の中にある公園では子供たちはもちろん、デート中のカップルの姿もあった。
すると、入口から半ば世捨て人のような格好の男がフラフラと公園内に入って来た。
「なんだアイツ、キモッ。」
若いカップルの女がその男を指差して言う。
すると、何人かの小学校低学年くらいの女の子達がその男に近付く。
「おじちゃん、大丈夫?服が破けてるよ。」
すると、男はその少女に不敵な笑みを浮かべる。
「ククク、では始めるか。」
そう言うと、いきなり男の姿が人でない怪物の姿に変化する。
ミミズのような触手が特徴のアースワームガルヴォルスに。
その瞬間、公園内に爆発的な悲鳴が上がる。
アースワームガルヴォルスは逃げ惑う人々や子供たちを次々に手にかけて行った。
触手を突き刺し体液を抜き取ったり、灰色の粘液を吹掛けてそれに当たった人々がその部分から石化し始めていた。
「何これ!い、石!?イヤッ、やめて!!」
若い女が泣き叫ぶがその願いもむなしく、しばらくしない内に完全に石と化した。
今や公園内は地獄さながらだった。
シュウとメイリも独特の違和感を覚えていた。
「この感じ…もしかして!!」
メイリがシュウの方を向きながら言った。
「…間違いない、こっちだ!」
シュウが走り出しメイリも後について行く。
二人がしばらく走ると、いつもなら人でいっぱいのはずの公園には誰もいなかった。
しかし、そこには恐怖の表情のまま固まった人々の変わり果てた姿と…
「これは…。」
シュウが砂のような物にまみれた大小様々な服を見つける。
「まさか、これって…!」
メイリが悲痛さに震えながら手に取る。
「間違いないよ、ガルヴォルスに殺されたんた。ここにいたみんなが…!?」
その時、シュウが何かを感じ取った。
「シュウ?」
「何かいる。そこの、植木の下に。」
すると、植木がガサガサと動いた。シュウとメイリが身構える。
すると、そこから這い出たのはあの少女だった。
「君は…大丈夫かい!」
シュウとメイリが少女のもとに駆け寄る。
「グスッ、お、お兄ちゃん達は?」
女の子が泣きながらいう。
「助けに来たよ、もう大丈夫。」
シュウが辺りを見回す
「それで、何があったの?」
メイリが優しく話しかける。
「おじちゃんが、ボロボロのおじちゃんがね、お化けになってみんなを砂にしたり…。」
「お化け…ガルヴォルスみたいね。」
メイリがシュウの方を向いて言う。
「お化けはヒドイな、鬼ごっこの鬼なのに。」
その時、あの男がシュウ達の前に現れる。
シュウは既に男の正体に気付いているらしく身構えていた。
「メイリ、その子を連れて安全な場所に!」
その瞬間、男の姿が変貌し再びアースワームガルヴォルスに変身した。
次回予告
シュウとメイリに襲い来る男、彼にとって人は既に玩具そのものだった。
「あなたは人を何だと思っているんだ!」
「あれも…人なのかな。私たちも…。」
二人の運命がいま飛翔する。