ガルヴォルスtransmigration
プロローグ「朱い刻の出会い」
「全てを失った。」
よく、マネートラブルで聞かれるこの言葉。でも、私は七年前のあの日、本当に全てを失った。
それから、ずっと一人暗い世界で生きてきた私。
誰も味方なんていない、私の世界から光が消えていたようだった。
3年前のあの日、私は夕暮れの森林の公園に一人佇んでいた。そこは、彷徨った挙句の私の漂着地、そして私の終焉の場所になるはずだった。住んでいた親戚の家を追い出され、身寄りの無い私は肉体より先に精神の限界に差し掛かっていた。追い出された理由は分かっていた、あの姿が …ガルヴォルスという存在さえなければ!!
私は一本の大きな木に向かって歩きながら残り少ないお金で買った少し太めのロープを取り出した。覚悟は出来ている。
私はそれを太い枝に結び付けると下の方に輪を作った。
涙は出ない、恐怖心よりもこの嫌な世界から旅立てるという解放感が勝っていた。
「お父さん、お母さん、みんな…。もうすぐ逢えるよね…。」
私は力なくうすら笑いを浮かべた。
その時、きれいなギター音が聞こえてきた。
私がその方を向くと、私と同じくらいの男の子が若さに合わないようなかなりゆっくりとしたテンポの曲を奏でていた。
私はしまったと思い恐る恐る声をかける。
「…あの…いつから?」
「君が来る少し前から。」
男の子は平然と答えた。曲調は変わらない。
「お願い、一人にさせて…。」
私がそう言うと、男の子は演奏の手を止める。
「一人なら死ねる…というわけかな?」
余りにも率直に言われて私は戸惑う。
「そ、それは…。」
「戸惑ったね。」
「えっ!?」
「良かった、この曲を君のレクイエムにせずに済みそうだ。」
すると私に彼が近付くと手を差しのべた。
困惑と、苛立ちで私は息が荒くなっていた。
「考え直した方が良いよ。その先には苦痛もなければ、安楽もない。」
その時、私の中で何かが弾けた。
「何よ…何も知らないくせに!!」
叫び声を上げた私の頬に異様な紋様が浮かび、姿が異形の化け物に変化する。冷気を纏い、爪と小さな翼を持つ、ペンギンガルヴォルスに。
しかし、彼は驚くどころか、平然と構えていた。
「…そういうことか。」
すると彼が後退すると彼の頬にも異様な紋様が浮かぶ。
「まさか、あなたも!?」
驚愕する私の目の前で彼の姿が大きな赤とオレンジの翼と、神々しい光を放つ彼の変身した姿だった。
「これで、気持ちが分らない訳はないさ。」
フェニックスガルヴォルスに変身した彼が言い放つ。
「いい加減にして!!」
逆上した私は、空気中の水分を凍らせ彼に向かって氷の刃を放つ。
しかし、彼はそれを避ける素振りを見せずに一本が彼の肩に突き刺さる。すると痛みで彼が顔をしかめる。
「あっ!!」
私は我に返った。なぜかその瞬間私は震えだし、姿が人間に戻る。
彼は私の放った刃を放熱で溶かすと傷口が瞬く間に治り、姿が人間に戻る。
「あの…私…。」
私は口を覆ったまま立ち尽くしていた。
「君はさっきまで自分を殺すことに迷いが無かった。でも、自分を殺すも他人を殺すも同じ。それに気付いて欲しい。」
その言葉を聞いた私は座り込むと枯れていると思っていた涙が溢れだした。
「もう自殺なんか僕がさせないし、君もしないよね。」
彼はそういいながら近付くと泣きじゃくる私の背にそっと手を当てた。
これが私、氷室メイリと山都シュウの出会いだった。