ガルヴォルスLord 第26話「Dreams」
アリサに励まされ、決意を奮い立たせたライとカナメ。マーブルにかけられた石化を打ち破り、彼女の支配から解放された。
「そんな・・私の力が、破られるなんて・・・!?」
マーブルは眼前の光景が信じられなかった。自分以外に石化を解くことができないからだ。
だがライとカナメは自力で石化を打ち破った。それはアリサに励まされた2人の強い心と決意によるものだった。支配から脱して自由をつかもうとする2人の心の強さが、マーブルの石化の支配を跳ね除けたのだ。
「オレはもう迷わない・・本当の幸せをつかむため、オレたちは立ち上がる・・・」
ライがマーブルに向けて低く告げる。だがマーブルの驚愕は治まらない。
「どうして・・どうしてあなたたちは、私が与える幸せから・・・!?」
たまらず声を荒げて、マーブルがライたちに歩み寄る。
「私はあなたたちにも最高の幸せを与えた!それなのに・・!」
「確かにあなたに支配されていれば、すごく気持ちがいい。それが永遠に続けば、最高の幸せを感じてしまうかもしれない・・だけど・・」
「この幸せには、自由がないんだ・・結局は体が石になってるから、全く自由がなくなってるんだよ・・!」
言いかけるマーブルに向けて、カナメとライが答える。
「石にされて喜んでるのは、お前の手の中にいるのと同じ、支配という檻の中にいるのと同じなんだ・・そんなの生きてることにならない・・」
「何を言ってるの!?・・こんな幸せ、私以外から手に入れられるの!?・・それに、あなたが私から離れたら、また苦しい思いをすることになるのよ・・・!」
ライとカナメに呼びかけるマーブルが、おもむろに笑みを見せる。
「私に身を委ねれば、苦痛も不幸も感じることはない。最高で永遠の心地よさを感じることができる・・・みんなもそれを喜んで、十分に浸っているわ・・・」
「そんな幸せ、ニセモノでしかないわ・・・!」
呼びかけるマーブルに、カナメが鋭く言い放つ。
「オレたちはオレたちの手で、自分が求める幸せをつかみ取る・・お前なんかにすがるつもりはない!」
続けて言い放つライの姿が変化していく。ウルフガルヴォルス、その雷獣態に。
「その幸せのために、オレはお前を倒す!」
いきり立ったライが、マーブルに向かって一気に飛びかかる。繰り出された拳が、彼女の腹部に叩き込まれる。
「姉さん!」
カイリが叫ぶ前で、マーブルが突き飛ばされて壁に叩きつけられる。強烈な一撃を受けて、彼女が吐血する。
「姉さん・・ぐっ!」
マーブルに加勢しようとするカイリだが、ライとの戦いで力を使い果たしてしまい、思うように動けなかった。
一気に追い込まれ、傷だらけになっていたマーブル。ライは間髪置かずに飛びかかり、マーブルに一蹴を繰り出す。
蹴り上げられたマーブルに、ライが飛び上がって追い討ちを仕掛ける。次々と拳が叩き込まれ、マーブルには息つく暇もなかった。
(この状態のライくんには全然敵わない・・それにしてもどういうことなの?その形態は長続きしないはずなのに・・・)
マーブルは胸中で驚愕していた。雷獣態となったライは、長時間その形態を維持し続け、体力の消耗の激しささえも見せない。
それはカナメのスワンガルヴォルスとしての力だった。彼女がライに力を与え、ライの力を持続させていた。
(もう1度オブジェにして・・・!)
思い立ったマーブルが指を鳴らし、石化の効果を持った雷を放つ。それに気付いたライが、全身から電撃を放出する。
放たれた電撃が、マーブルの石化の雷を弾き飛ばした。自分の最高の力を打ち破られ、マーブルが愕然となる。
「そんな・・・私の力が・・・」
戦意さえ揺さぶられたマーブルに、ライが一蹴を叩き込む。突き飛ばされたマーブルが再び壁に叩きつけられる。
もはや戦う力も支配する術も失ったマーブル。ライが彼女を見据え、力を集中した彼の拳に稲妻がほとばしる。
「今度こそ終わりだ・・この攻撃で、全て終わらせてやる!」
持てる力を右手に集中させたライが、マーブルに向けて攻撃を繰り出そうとする。痛烈な攻撃を受けすぎたマーブルには、立ち上がる力さえ残っていなかった。
「姉さん!」
カイリの叫びが飛び込む先で、マーブルに向けてライの拳が繰り出された。まばゆい光が部屋の中で弾け飛び、周囲を大きく揺るがした。
この一撃でマーブルに致命傷が与えられたはずだった。
だがライが突き出した拳が貫いていたのはマーブルではなく、カイリだった。
「なっ・・・!?」
「そんな・・・!?」
ライもカナメも見つめていたものに驚愕していた。マーブルを庇ったカイリが、ライの拳に体を貫かれていた。
「姉さん・・・よかった・・無事だったんだね・・・」
「カイリ・・・!?」
微笑みかけるカイリの血まみれの体を目の当たりにして、マーブルが愕然となる。ライは反射的に右手を下げ、カイリから引き抜く。
「カイリ!」
悲痛の叫びを上げたマーブルがカイリに駆け寄る。脱力していくカイリの体が、マーブルが差し出した腕に支えられる。
「カイリ、しっかりしなさい!私がすぐに治してあげるから!」
「姉さん・・いいよ・・姉さんが治しきる前に、僕の命が終わってしまうから・・・」
必死に治療を試みるマーブルに、カイリが優しく語りかける。しかしマーブルの悲痛さは治まらない。
「何を弱気なことを言うの!?私は、あなたがいないと何もできない!あなたがいたから、私は自分に正直でいられたのよ!」
「そんなことないよ・・姉さんはいつだって自分に正直・・僕がそばにいなかったときだって、自分の心のままに動いてきたじゃないか・・」
いても立ってもいられない心境に駆り立てられるマーブルに、カイリは優しく語りかける。
「大丈夫・・たとえどんなことがあったって、僕は姉さんからもう離れない・・この命がなくなったって、僕と姉さんはつながっているんだからね・・・」
「カイリ・・あなたは・・・あなたは・・・!」
姉を想うカイリの心境を悟って、マーブルが彼にさらに寄り添う。血みどろのカイリの血がマーブルの両手や上着にべっとりとつく。
完全に戦意をそがれたライが人間の姿に戻る。カナメが駆け込み、彼に寄り添う。
「恨み言を聞く気はないぞ。オレの怒りもカイリが傷ついたのも、全部お前が始まりなんだからな・・・!」
「うるさい!あなたに、私とカイリの絆がどれほどのものか分からないわ!」
落ち着いた様子で言い放つライに、マーブルが感情をあらわにして言い返す。
「お前だって、オレや姉さん、カナメ、レナとルナの絆と気持ちが分かってないだろ・・!」
「私たちと他を一緒にしないで!・・私と、カイリは・・!」
「それはこっちのセリフだ!オレとカナメの心と、お前の勝手な考えを一緒にされたくないぞ!」
叫ぶマーブルに、ライが怒鳴ってそれを一蹴する。憤りがぶつかる状況の中、ライは気持ちを落ち着けてマーブルに背を向ける。
「結局はオレたちもお前たちも同じなんだよ。自分たちのために動き、時に牙を向け合う。それでもオレはお前を敵として見てる。だから同情はしない。憎まれ口も哀れみの言葉も聞きたくない。」
「自分たちのために・・そうかもしれないわね・・私もカイリを想いながら、輝きを持ったあなたたちを求めた・・・」
低く告げるライに、マーブルは物悲しい笑みを浮かべて語りだす。彼女の視線が、微笑を崩さないでいるカイリに向けられる。
「でもやっぱり、自分の本当の気持ちにウソはつけないわね・・全てはカイリのため・・カイリが、私の幸せが自分の幸せになると考えてる・・それを知っていたから、私は自分の心のままに動けた・・・カイリ・・・」
マーブルはカイリを抱きしめ、そのぬくもりを確かめる。
「やっぱり、私はあなたが好き・・あなたと一緒だったら、どんなことになっても構わない・・・」
「姉さん・・・僕もだよ・・姉さん・・・」
互いに抱きしめ合い、涙するマーブルとカイリ。その体が石のように固まり、砂のように崩れ去った。カイリだけでなく、マーブルも。
マーブルはその気になれば生きることができた。だが彼女はカイリのため、死を受け入れたのだ。
「どこまでいっても、オレたちを弄びやがって・・・」
最後の最後まで自己満足さを見せ付けたマーブルに、ライは歯がゆさを浮かべていた。カナメはカイリの死に対して悲しみを覚え、ライにすがって涙をこぼしていた。
「どこまでもバカなんだから・・お前は・・・」
いたたまれない気持ちを覚えて、ライは右手を強く握り締めた。
マーブルが死を迎えたことで、彼女の支配を受けていた女性たちの石化が解かれた。レナとルナも体から砂がこぼれ落ちるように石化から解放された。
「あれ?あたし・・これってもしかして・・・」
「石から元に戻ったみたいだね・・・でも・・」
自分たちの無事を確認して安堵を浮かべるレナとルナ。だが全裸であることにも気付いて、2人は思わず赤面していた。
「やっぱり、私たち以外の誰かに見られるのは・・」
「気にしないで、ルナ。みんな私たちと同じなんだから・・」
何とか気持ちを落ち着かせようとするレナとルナ。そこへライとカナメが歩み寄ってきた。
「何やってるのよ、2人とも。あれだけマーブルに弄ばれてきたんだから、こんなことぐらいで恥ずかしがってる場合じゃないわ。」
カナメが呆れた面持ちでレナに言いかける。納得がいかなかったが、レナは返す言葉が見つからず押し黙ってしまう。
屈託のない会話をして安らぎを覚えるライたち。だがすぐに彼らの表情が曇る。
マーブルを庇い、彼女とともに命を閉じたカイリに、ライたちは悲しみと歯がゆさを感じずにはいられなかった。
「満足だったのかよ・・こんなんで・・・」
ライがカイリとマーブルの考えを責める。やるせない気持ちが、彼らの心を包み込んでいた。
「もう、みんなしてしんみりしちゃってるんだから。」
それを見かねたレナがため息をつくと、ルナを抱え込んだままライとカナメに飛びつく。
「ち、ちょっと、レナ!?」
驚きの声を上げるカナメ。4人はレナの勢いのまま、倒れこんで横たわる。
突然のことに呆然となるライたち。しかしすぐに笑みをこぼし、そして笑いを上げる。
「もう、相変わらず子供染みてるんだから、レナは。」
「気持ちが沈んだときは馬鹿馬鹿しいことでも何でもして、笑顔を取り戻したほうがいいのよ。少しは気分が落ち着いた?」
呆れるカナメにレナが笑顔で答える。その行為が腑に落ちないながらも、カナメは喜びを感じていた。
「本当に仕方のない人なんだから・・・でも、私も人のことが言えなくなってきたかな・・・」
苦笑いを浮かべて、カナメは自分の心境の変化を実感していた。
そのとき、ライは懐かしい感覚を覚えて顔を上げる。彼の視線の先には、微笑みかけてくるアリサの姿があった。
「姉さん・・・」
「えっ?・・あの人が、ライさんのお姉さん・・・?」
ライが口にした言葉を耳にして、ルナが当惑を見せる。アリサはライだけでなく、カナメ、レナ、ルナへと視線を移していく。
「みなさん、とても心が優しそうですね・・ライが仲良くなるわけで・・」
「ね、姉さん・・・」
アリサのかけた言葉にライが一瞬唖然となる。
「それに、みなさん素敵な体をしてますね・・」
「えっ・・・!?」
続けてかけたアリサの言葉に、カナメが唖然となる。するとアリサがライたちに向かって飛び込んできた。
意表を突かれたライたちがアリサに飛びかかられ、そのまま抱きつかれる。その抱擁にカナメ、レナ、ルナが動揺を浮かべる。
「思ったとおり、優しい心の持ち主みたいね、みんな・・」
安らぎの表情を浮かべているアリサに、カナメが動揺の色を浮かべる。
「これって、どういう・・・」
「姉さんはかわいいもの好きなんだ。すぐに飛びついちまうんだ・・」
ライが苦笑いを浮かべて事情を説明する。しばらく抱擁を堪能したところで、アリサがライたちから体を離す。
「今までライを助けてくれて、ありがとうございます・・あなたたちがいてくれたから、ライは強くなれたんです・・・」
アリサがカナメ、レナ、ルナに感謝の言葉をかける。するとレナが半ば呆れた素振りを見せて言葉を返す。
「私はルナのためにずっと戦ってきた。今までも、これからも・・でもいつの間にかルナのためじゃなく、カナメやライのためにも戦ってたみたいね・・2人とも、何だか放っておけなくて・・」
「どんな理由でも、ライを助けてくれたことに変わりない・・・本当にありがとうございます・・・」
あくまで笑顔を絶やさずに感謝の意を示すアリサ。その姉の優しさを久方に実感して、ライも微笑んだ。
心身ともに落ち着きを取り戻したライたちがゆっくりと立ち上がる。長かった宿命に終止符が打たれたと思えたときだった。
「どうして・・どうして私を元に戻しちゃったのよ!?」
そこへ1人の少女がライたちに声をかけてきた。マーブルに石化されていた少女たちの1人だった。
マーブルの死によって石化から解放された少女たち。しかし彼女たちにはマーブルの支配から解放された喜びや、裸にされていることへの動揺よりも、石化されていたことへの執着のほうが強かった。
「あのままにしていてくれれば、私はずっと気持ちよくいられたのに!」
「そうだよ!あのままだったら、イヤなことも感じることはなかった!ずっと幸せでいられた!」
「あなたたちが何もしなければ、ずっと安らげたのに!」
少女たちがライたちに向けて、感謝ではなく反感の言葉を言い放ってきた。
マーブルがかけた石化には、その人にこの上ない快楽を与える。その恍惚に心身ともに浸っていた少女たちは、その恍惚を強く求めるようになってしまい、それを失わせたライたちを責めていたのだ。
「また、イヤな生活に戻らなくちゃなんないなんて・・・」
「どうしてくれるの!?・・あたしの幸せは、あの人の腕の中しかないのに・・・!」
次々と飛び込んでくる少女たちの怒りの声。それらにライは憤りを募らせていた。
「そんなのは、ニセモノの幸せでしかないんだ・・・!」
歯がゆさを込めて言い放ったライの言葉に、少女たちが押し黙る。彼には、今の彼女たちの心境もマーブルに支配されてのものであると思えてならなかった。
「確かにアイツに石にされて、アイツに抱かれてれば、これ以上の気持ちよさは、これ以上の幸せはない。そんな気分がずっと続けば、最高の気分になっても不思議じゃないかもしれない・・だけどそこには、人としての自由がない!」
悲痛さを押し殺して、ライは少女たちに呼びかける。
「この人生、悲しいことや辛いこと、イヤなことをたくさん経験することになる。そんなのに嫌気がさして、アイツが与える力にすがり付いてしまうのも、ムリのない話かもしれない・・だけどそれは逃げだ!そんな逃げの一手に出たらいけないんだ!」
「その通りよ!私たちは、その偽りの幸せにすがったりしたらいけないのよ!」
ライに続いてカナメも少女たちに呼びかけてきた。
「私も辛いことをたくさん経験してきた。恨みさえ覚えるほどに・・でも、どんなに辛くても、私たちはそれに負けずに生きていかなくちゃいけない!強く生きていこうとする気持ちが、自分を強くしていくことになるのよ!」
「オレたちはアイツの力に甘えたりしない!どんな逆境だって跳ね返す!何かの支配からも、全力で脱出する!」
自分たちの揺るぎない気持ちを言い放つカナメとライ。その言葉に少女たちは困惑を浮かべるばかりで反論できず、言葉を詰まらせていた。
2人の心境を理解したレナ、ルナ、アリサが微笑みかける。自分たちの力で強く生きていこうとする気持ちが、この場に集まっていた。
こうして、全ての運命に終止符が打たれた。
マーブルに石化されていた少女たちは無事に警察に保護された。だが犯人であるマーブルは消滅しており、また少女たちがマーブルを擁護するような態度を見せているため、警察は事件における謎を募らせるばかりだった。
その後、ライたちはカナメの家に戻っていった。アリサも一緒だった。
ライが長い時間、取り戻そうと決起していた大切なものが、ようやく戻ってきた。だが失った代償もまた大きかった。
この戦いの中で命を落としたカイリ。姉であるマーブルを心の底から慕っていた彼の死に、ライたちは悲しみを隠せなかった。
その悲しみと歯がゆさを払拭しようと、ライとカナメ、レナとルナは夜の時間に身を委ねていた。
ルナとの抱擁に心地よさを感じていたレナ。一晩しか時間が過ぎていないが、2人は長い時間離れ離れになっていたように感じていた。
「何だか、本当に久しぶりな気がするね、お姉ちゃん・・・」
「ホントね・・ルナがいなくて私、自分でもどうかなっちゃいそうだった・・・」
微笑みかけるルナに、レナは率直に自分の気持ちを告げた。レナはルナの胸に顔をうずめて、その感触を確かめていた。
「不思議ね・・一緒にいて当たり前と思ってた人が、少しいなくなっただけで、こんなに辛くなるなんて・・・」
「私もお姉ちゃんのことが心配だったよ・・マーブルにおかしくされちゃってたけど、お姉ちゃんに会いたかったのも間違いなかった・・・」
「うん・・・ゴメンね、ルナ・・あなたのこと、守れなくて・・・」
「謝るのは私のほうだよ、お姉ちゃん・・私、何もできなくて・・・」
大切な人の実感を確かめて、互いの体を抱きしめるレナとルナ。互いのぬくもりを感じ取って、2人はこの上ない心地よさを覚えていた。
「ルナ・・もう絶対に、あなたを放さないから・・どんなことがあっても、あなたを守るから・・・」
「私もいつまでも守られてるばかりじゃないよ・・お姉ちゃんたちみたいな力はないけど、それでもお姉ちゃんを守りたいから・・・」
自分の決意を語り合うレナとルナ。この揺るぎない絆が、この姉妹を心身ともに強くしていた。
同じ頃、ライとカナメも夜の時間を過ごしていた。2人は平穏と支配からの脱却を感じていた。
「何もかも終わったのよね・・これで全て・・・」
「あぁ・・けど、失ったものも大きかった・・・」
囁きかけるカナメに、ライが深刻さを込めて答える。その言葉にカナメも沈痛さを浮かべる。
「カイリさんのことは、私も辛い・・・でもカイリさん、幸せだったのかもしれない・・・」
「カイリが・・・?」
「カイリさんも、姉であるマーブルを心の底から愛してた・・それは、あなたがアリサさんを想ってたこと、私があなたを想ってたことと、あまり変わりなかったんじゃないかな・・」
「何を言ってるんだよ・・オレたちをアイツと一緒にするなよ・・・」
「みんな、大切な何かを求めて生きてきた。私もあなたも、レナもルナちゃんもカイリさんも、マーブルも・・・」
憮然とした態度を見せるライだが、カナメは顔色を変えない。
「マーブルもカイリさんを恋しがり、私とライを強く求めてた・・・結局はみんな、大切なもののために戦ってきてたんだよ・・・」
「そんなものか・・そうなのかもしれないな・・・」
カナメの言葉を聞いて、ライが苦笑を浮かべる。
「それにしても・・私がこのままあなたを抱きしめてしまったら、アリサさんに悪いんじゃ・・・」
「姉さんは気にしないでと言ってくれてる・・オレたちが幸せでいてくれるなら、自分はそれでいいんだって・・」
カナメが心配の声をかけると、ライが安堵を浮かべて答える。
「・・アリサさんには、私も本当に感謝してる・・自慢のお姉さんね。」
「オレをおだてても何も出ないぞ。姉さんなら笑ってくれるだろうけど。」
互いに微笑みかけると、カナメとライは抱きしめあった。その抱擁のぬくもりを確かめ合って、2人は心地よさを感じていた。
「あたたかい・・ライに抱かれてると、イヤなものが全て洗い流されていくみたい・・・」
「それはオレも同じ気持ちだ、カナメ・・お前を抱きしめていると、心が落ち着いてくる・・・」
自分の率直な気持ちを口にするカナメとライ。2人は自分の気持ちに駆り立てられるように、互いの唇を重ねた。
感じている高揚感を強めていく2人。互いの体を求めて、その肌に触れていく。
ライの手がカナメの胸を撫でていく。その接触にカナメが高揚感を覚える。
「ライ・・あなたになら、支配されてもいい・・・」
「あぁ・・だけど、オレをものにできるのは、お前だけだからな・・・」
「うん・・・ありがとう、ライ・・・」
互いを自分のものとして、ライとカナメがさらなる抱擁に身を沈める。その恍惚で、カナメの秘所から愛液があふれだす。
それを気にすることなく、ライとカナメは抱擁を続ける。そのぬくもりと感覚を絶対に忘れたくない。そう思い、心の底にまでそれを刻みつけようと、2人はさらに触れ合った。
そんな2人に対して、廊下の壁にもたれかかっていたアリサが微笑みかけていた。2人の様子を眼にしてはいなかったが、どのような気持ちでいたかは予測がついていた。
(あなたたちの思うように生きて、ライ、カナメさん・・あなたたちの幸せが、私の1番の願いだから・・・)
ライとカナメの幸せを願って、アリサは安堵の笑みを浮かべていた。
それぞれの時間を過ごした夜が明けた。運命と戦いに終止符が打たれ、新しい生活が始まろうとしていた。
ライとの夜の時間を過ごしたカナメが眼を覚ます。彼女は上半身だけを起こして、意識をハッキリとさせる。
「何だか、ずい分長く眠っていた気分・・よほど疲れていたようね・・・」
カナメは呟きながら時計に眼を向ける。時刻は12時になろうとしていた。
「もうこんな時間・・・急いで店に行かないと・・店の立て直しに顔を出さないと、レナがうるさいからね・・・」
苦言をもらしつつ、ベットから起きて立ち上がるカナメ。そこで彼女は、この部屋に漂っている違和感に気付く。
「ライ・・・?」
カナメは部屋の中を見回す。しかしそこにライの姿はなかった。
カナメはたまらず部屋を飛び出し、家の中を探し回る。だが彼女はライを見つけることができなかった。
そしてカナメは別の違和感を覚えていた。
「・・アリサさんも、いない・・・」
ライだけでなくアリサの姿も見えないことに、カナメは困惑の色を隠せなくなっていた。
カナメが眼を覚ます少し前、ライは彼女の家を出ていた。自分がそばにいることが、彼女たちに不幸をもたらしてしまうと思ったのだ。
既にマーブルは死に、自分が考えている不幸が降りかかることはないと思いながらも、ライはその重圧を拭えずにいた。
(オレはやっぱり、アイツらのところにいないほうがいい・・オレがいなくても、アイツらは強く生きていける・・・)
カナメたちの強さを信じて、ライは1人、旅立つことを心に決めた。
「それであなたは満足なの、ライ?」
そのとき、ライは後ろから声をかけられ、眼を見開いた。彼が振り返ると、その先にはアリサの姿があった。
「何も言わずに私たちの前からいなくなるなんて、それはないんじゃないかな?」
「姉さん・・・」
微笑みかけてくるアリサに、ライが戸惑いを見せる。彼のことを思い、アリサは真剣な面持ちを浮かべる。
「みんなに迷惑をかけられない。だからあなたはみんなの前からいなくなろうとしたのね・・・」
「分かっていたのかい、姉さん・・・」
「私はこれでもあなたの姉さんよ。何も知らないわけじゃないわ。」
戸惑いを見せるライに、アリサが小さく頷く。
「ライ、あなたが本当にしたいことは何?」
「何って・・・」
「あなたはカナメちゃんたちと出会って、ずい分変わった。そしてあなたは、カナメちゃんに対して強く想いを抱いている。その気持ちのために本当はどうしたらいいのか、ライなら分かるはず・・・」
アリサにかけられる言葉に、ライは戸惑いを隠せなくなった。彼は自分の本当の気持ちを、改めて思い知らされていた。
「ライ!」
そのとき、ライを探して家を飛び出してきたカナメが声をかけてきた。眼を見開くライの前でカナメが立ち止まり、絶え絶えになっている呼吸を整える。
「カナメ・・・」
「ハァ・・ハァ・・ライ、探したよ・・いきなりいなくなってたから、驚いたよ・・・」
さらなる困惑を覚えるライに、カナメが微笑んで言いかける。
「カナメ、オレは・・・」
「ライ、私たちを不幸にさせたくないって気持ちは、私も十分分かる。でも、そんな理由で私たちの前からいなくなって、自分だけでイヤな気持ちを抱え込まないで・・・」
困惑するライに、カナメが切実に語りかける。
「言ったじゃない。私はあなたのもの、あなたは私のものだって・・あなたが私たちを不幸にさせるとしても、私にはその不幸も、あなたの気持ちも全部受け止める覚悟がある!」
「カナメ・・・」
「だからライ、ここにいて!みんなのことを心の底から大切にしているなら、これからもずっとここにいて!」
自分の気持ちを告げてくるカナメに、ライは動揺を隠せなかった。彼女の強さを見くびってしまったと彼は後悔を感じていた。
そこへレナとルナも駆けつけてきた。慌しく街中を駆け回っていたカナメを目撃して、2人で追いかけてきたのだ。
「一緒に帰りましょう、ライさん・・・」
ライとカナメの気持ちを知ったルナが、ライに呼びかけてきた。
「ライさんが一緒にいてくれて、みんなが楽しくなりました。お姉ちゃんもカナメさんも、あなたがいたから変われた。自分を貫けた・・・」
「まぁ、私は昔から今でも“ルナのため”なんだけどね。」
ルナの気持ちを聞いて、レナが気さくな笑みを浮かべてみせる。
「やっぱり、みんながいないと気分が乗らないみたいね。ライ、やっぱりあなたは私たちと一緒にいるほうがしっくり来るのよ。」
「ルナ・・レナ・・・」
ルナに続いて声をかけてきたレナにも、ライは戸惑いを見せていた。2人ともライがここにいることを心から望んでいた。
「私だけじゃない。レナもルナちゃんも、あなたと一緒にいることを願っている・・・一緒に帰ろう、ライ・・みんながいるこの場所が、私たちのいるべき場所なのよ・・・私たちの幸せなのよ・・・」
「それが・・オレたちの幸せ・・・」
眼から涙を浮かべるカナメの呼びかけに、ライはさらに戸惑う。心を揺さぶられる彼が、おもむろに自分の手のひらを見つめた。
アリサをマーブルに奪われ、怒りと悲しみにさいなまれていたところでの、カナメたちとの出会い。
反発、衝突、激突を繰り返し、ライとカナメは心と体を結び合っていった。その絆と想いは、もはや断ち切れるものではない。
数々の気持ちを思い返して、その大切さと喜びを実感していくライ。いつしかカナメがライに涙ながらに寄り添ってきていた。
「私は生きる・・ライと一緒に、ここで・・・」
「カナメ・・・オレもだ・・オレもお前と一緒に、ここで精一杯生きる・・・」
自分の気持ちを切実に告げるカナメを優しく抱きしめるライ。2人は周りを気にすることなく、互いへの想いを告白していた。
「やれやれ、眼の前で熱いのを見せ付けてくれちゃって・・」
その様子を見て、レナがからかいの言葉を呟いていた。
短いようで長い抱擁を続けるライとカナメ。
「ライ、カナメ、いい加減に帰るわよ。そろそろお店を見ておかないとねぇ。」
「これからもみんなで頑張っていきましょうね、ライさん、カナメさん。」
そんな2人に向けて、レナとルナが呼びかけてくる。その声にライとカナメが顔を向ける。
「行きましょうか、ライ、カナメちゃん・・新しい生活へ・・・」
アリサも笑顔で2人を迎えてくれていた。
自分の意思を貫きながらも、周りの親友や家族に手を差し伸べてきてくれる人たち。その思いに支えられていることを実感したライとカナメが、互いを見つめて頷きあった。
「行こうか、カナメ・・・」
「うん・・行きましょう、ライ・・みんな、待ってる・・・」
声を掛け合うライとカナメが、レナ、ルナ、アリサに向かって駆け出していった。幸せに満たされた新しい未来に向かって、2人は決意を新たにして歩き出していくのだった。
人には強さがある。
大切な誰かへの想いがある。
揺るぎない意思がある。
その強さは、「支配」さえも打ち破る・・・